第4章 安全かつ快適な交通の確保

 自動車は,現代社会に欠かすことのできない移動・輸送手段であり,そのもたらす恩恵は計り知れない。しかしその一方,交通事故によって毎年多くの尊い人命が失われ,負傷者も増加の一途をたどり,また,交通事故に伴う経済的損失もばくだいなものとなっている。平成11年も,交通事故死者数は4年連続して減少したとはいえ,9,006人を数え,負傷者数は105万397人と過去最悪を記録した昨年を上回るなど,依然として厳しい情勢にある。
 警察は,交通の安全と円滑の確保のため,交通安全教育,免許行政,交通指導取締り,交通安全施設の整備等様々な施策を推進している。
 1 21世紀へ向けた交通警察
 (1) 高齢化社会への対応
 ア 高齢者に対する交通安全教育の充実
 (ア) 高齢歩行者に対する教育の充実
 警察では,平成10年9月に国家公安委員会が作成・公表した交通安全教育指針(以下「指針」という。)を基準として,交通事故現場において実際の事故事例に基づく教育を行ったり,夜間の反射材効果実験を盛り込んだ教育を行ったりしているほか,高齢者自身がヒヤリとした体験を基にした「ヒヤリ地図」の作成を推進したりするなど,参加・体験・実践型の交通安全教育を積極的に推進し,交通社会の一員としての責任を自覚させ,事故を誘発しないような行動をとらせるように努めている。また,高齢者自身が積極的に各種交通安全活動に参加できるよう老人クラブへの交通安全部会の設置や高齢者交通安全指導員(シルバー・リーダー)による自発的な活動を推進するよう働き掛けている。
 (イ) 高齢運転者に対する教育の充実
 運転免許証の有効期間が満了する日における年齢が75歳以上の者については,更新前に高齢者講習を受講することが義務付けられている。この高齢者講習は,危険予測や事故事例等に関する視聴覚教材等を用いた講義のほか,コース又は道路における自動車等の運転,動体視力検査器等を用いた検査を通じて,運転に必要な適性に関する調査を行い,受講者に自らの身体機能の変化を自覚してもらうとともに,その結果に基づいて助言・指導を行うことを内容としている。11年には,43万9,928人が受講した。
 また,65歳以上75歳未満の高齢運転者に対しては,更新時講習において高齢者学級を編成し,高齢運転者の運転特性,交通事故実態等について重点的に説明を行っているほか,運転適性検査器材を活用して運転適性診断を行い,その結果に基づいて安全運転指導を行っている。11年には,13万2,596人が受講した。
 このほか,各都道府県警察に運転適性相談窓口を設け,高齢者の運転適性等について相談に応じている。
 イ 高齢者等に優しい道路交通環境の整備
 高齢者等が安心して通行できる空間を作り出すため,高齢者が利用する施設の周辺等を中心として,最高速度規制,大型車通行禁止等の交通規制を組み合わせたシルバーゾーン等を設置するほか,高齢者の携帯する無線発信器を感知して歩行者用信号の青の時間を延長する高齢者等感応信号機,歩行者をセンサーにより感知して歩行者用信号の青の時間を調整する歩行者感応信号機及び信号の変化を音で認識できる音響信号機の整備を行うとともに,信号機の付加機能の一層の高度化に向けた研究開発を進めている。
 また,道路標識や道路標示を見やすく分かりやすいものにするため,道路標識の大型化,内照式道路標識や太陽電池を用いた自発光式道路標識の設置を進めるとともに,道路標示の視認性を向上させる高輝度化を推進している。
 さらに,高齢者,障害者等の安全な通行を支援するため,PICS(Pedestrian Information and Communication Systems:歩行者等支援情報通信システム)を推進している。
 なお,高齢者,身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律が,12年5月17日に公布された。この法律は,高齢者,身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の利便性及び安全性の向上の促進を図るため,市町村が定める基本構想に即して,都道府県公安委員会が鉄道駅等の旅客施設を中心とした福祉施設等を含む地区における信号機等の施設の整備を推進するなど,交通のバリアフリー化に資する事業を都道府県公安委員会,公共交通事業者,道路管理者等が一体となって推進することをその内容としており,今後,この法律により重点的な対策を推進することとしている。
 (2) 安全・快適で環境に優しい交通社会の実現
 ア UTMSの推進
 ITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)とは,最先端の情報通信技術等を用いて人と道路と車両とを一体のシステムとして構築することにより,ナビゲーションシステムの高度化,交通管理の最適化等を図り,安全性,輸送効率及び快適性の飛躍的向上を実現するとともに,渋滞の軽減等の交通の円滑化を通じ,環境保護に大きく寄与するものである。警察は,ITSの実現に向けて,光ビーコンを用いた個々の車両と交通管制システムとの双方向通信により,ドライバーに対してリアルタイムの交通情報を提供するとともに,交通の流れを積極的に管理し,「安全・快適にして環境にやさしい交通社会」の実現を目指すUTMSを推進している。
 このUTMSは,図4-1のとおり,高度交通管制システム(ITCS)を中心に,交通情報提供システム(AMIS),公共車両優先システム(PTPS),車両運行管理システム(MOCS),動的経路誘導システム(DRGS),交通公害低減システム(EPMS),安全運転支援システム(DSSS),緊急通報システム(HELP),高度画像情報システム(IIIS)の八つのサブシステムから構成されている。
 また,(社)新交通管理システム協会が,UTMSのサブシステム実用化のための実証実験等,技術的な研究開発等の推進を行っている。
 UTMSは,交通の安全と円滑はもとより,車両から排出される二酸化炭素の量の削減による地球温暖化の抑止,自動車排気ガスの削減による交通公害の防止,物流の効率化,大量公共輸送機関の利用促進,中心市街地の活性化等に大きな効果が期待されている。
 (ア) 高度交通管制システム(ITCS)の整備
 ITCS(Integrated Traffic Control Systems:高度交通管制システム)は,UTMSの中核となるものであり,同システムの整備として既存の交通管制センターの中央装置の更新を計画的に推進し,順次その高度化を図っている。交通管制センターは,都市及びその周辺の交通を安全で円滑なものとするため,信号機,可変標識,中央線変移装置等に対する集中制御,双方向通信機能を有する光ビーコン等を活用した交通情報の収集・提供等を行う施設であり,平成11年度は,5か所の交通管制センターの中央装置を高度化した。
 また,災害時の道路交通状況を即座に把握し,緊急通行車両等の通行及び円滑な避難誘導活動を確保するため,主要幹線道路等において,各種車両感知器,交通監視用カメラ,交通情報板等の整備を進めるなど,災害に強い交通管制システムの構築を推進している。
 (イ) VICSの推進
 VICS(Vehicle Information and Communication System:道路交通情報通信システム)とは,ち密な交通情報の収集と提供を同時に行う光ビーコンの双方向通信機能の活用等により,渋滞,事故,規制等の道路交通情報を車載のカーナビゲーション装置等に直接リアルタイムに提供し,ドライバーに適正なルート選択を促すものであり,AMISを実現するためのものとして位置付けられる。
 この事業主体は,(財)道路交通情報通信システムセンター(VICSセンター)であり,11年末現在,表4-1のとおり16都道府県の一般道路及び全国の高速道路において運用を行っており,12年度末までには全都道府県の一般道路において運用できるよう,逐次運用地域の拡大を図る予定である。
 (ウ) PTPSの整備
 PTPS(Public Transportation Priority Systems:公共車両優先システム)は,バス優先の信号制御,バス優先レーンの設定等の交通規制やバスレーン上を違法走行する一般車両に対する警告等により,バスの優先通行を確保するとともに,乗客への所要時間表示等を行い,バスの定時性及び利便性の向上を図るシステムである。このシステムは,11年度末現在,北海道(札幌市),東京都(港区,世田谷区,目黒区,小金井市,小平市,東久留米市),静岡県(浜松市),神奈川県(川崎市,藤沢市),兵庫県(神戸市,尼崎市,伊丹市)において運用されている(図4-2)。
 (エ) EPMSの推進
 EPMS(Environmental Protection Management Systems:交通公害低減システム)は,大気汚染状況や気象状況を考慮した交通情報提供や信号制御を行うことにより,排気ガス,交通騒音等の道路交通に起因する公害を低減するとともに,自動車からの二酸化炭素の排出を抑制することにより,地球温暖化を防止し,もって環境保護を図るシステムである。EPMSについては,8年から9年にかけて実証実験を行った結果,車両速度と二酸化炭素等の濃度との間には一定の相関が認められ,交通管制システムの活用により自動車からの二酸化炭素等の排出量が減少することが示されたことから,11年度中に,神奈川県川崎市,静岡県静岡市,兵庫県神戸市において運用を開始している(図4-3)。
 (オ) HELPの推進
 HELP(Help system for Emergency Life saving and Public safety:緊急通報システム)は,衛星を利用した位置測定を行うGPS技術を活用することにより,自動車乗車中の事故発生時等に携帯電話等を通じてその発生場所等の情報を即時かつ正確に緊急通報し,救命率の向上等を図るシステムである。HELPについては,民間企業の出資により事業会社が設立され,12年9月に運用が開始される予定であるが,警察においても,通信指令システムの高度化等の措置を講じて,より実効性の高いシステムを構築するよう努めているところである。
 イ 地域に根ざしたITSの推進
 地域に根ざしたITSを推進するため,各都道府県警察が中心となり,地方公共団体の交通安全対策担当部署,バス業界代表,トラック業界代表等から成る推進連絡協議会を全国で設立している。協議会において,警察は,ITSについての構成員の理解の促進を図るとともに,その都道府県におけるUTMSを始めとするITSの活用方策について,構成員との間で意見交換を行っている。警察庁では,各都道府県警察のこうした取組みを積極的に支援している。
 (3) 国際化への対応
 ア ITSの国際化への対応
 ITSについては,日米欧を中心とした世界的規模の研究開発が進められており,我が国の警察は,その中で世界各国と協力しつつ,重要な役割を果たしている。
 (ア) ITSに関する国際協調の推進
 ITS世界会議は,ITSに関する世界規模での情報交換と協力体制の構築を目的として,平成6年以降毎年,欧州地域,アジア・太平洋地域及びアメリカ地域の3地域持ち回りで開催されており,我が国の警察は,これに積極的に参加している。11年11月には,第6回の会議が,世界58か国から産学官の関係者約4,700人の参加を得てカナダのトロントで開催され,我が国の警察からも多数参加し,論文の発表を行った。また,米国電気電子学会ITS国際会議(11年10月:東京),緊急車両支援情報通信システム国際会議(11年4月:ワシントン)並びにITS国際光通信ミーティング及びITS国際交通警察フォーラム(11年9月:ウィーン)に我が国の警察も参加し,交通管理技術に関する情報交換等を行い,ITSに関する国際協調の推進を図った。
 さらに,11年9月には,警察庁交通局と米国運輸省道路交通安全局との間で,交通安全,高度道路交通システム及び緊急時対応に関する協力取決めを締結し,ITSに関する国際的な協力関係を確立した。
 (イ) ITS関連技術の国際標準化への対応
 我が国の警察は,6年から,ISO(国際標準化機構)における光ビーコンを始めとするUTMS(Universal Traffic Management Systems:新交通管理システム)及び音響信号機の視覚障害者用付加装置等の国際標準の策定に向けた民間の取組みに協力している。また,発展途上国に対する交通管理技術の移転に取り組んでおり,11年には,インドネシアの交通管制システムの構築及びラオスの交通管理に関して協力を行った。
 なお,光ビーコンの国際的な標準化活動の一層の推進については,「雇用創出・産業競争力強化のための規制改革」(11年7月13日産業構造転換・雇用対策本部決定)において政府の方針として決定されている。
 イ 国際化に対応した運転免許行政
 国際化の進展に伴い,人的な交流が活発化し,外国において自動車等を運転する日本人や,我が国において自動車等を運転する外国人が増加しており,警察ではこれらに対応した施策を推進している。
 (ア) 国外運転免許証の交付等
 国外へ出国する者の増加に伴い,国外運転免許証の交付件数も増加傾向にあり,11年の交付件数は40万3,721件で,10年前と比べて約1.3倍となっている。警察では,国外運転免許証の申請・交付窓口の拡大,電子計算機処理による国外運転免許証の発行事務の迅速化等,国際化に対応した事務の合理化を促進している。
 (イ) 国内の外国人運転者施策
 我が国に滞在する外国人のうち,我が国の運転免許を有する者は,11年末には51万6,155人となっている。
 外国の行政庁の運転免許を有する者については,一定の条件の下に運転免許試験のうち技能試験及び学科試験を免除することができることとされている。11年中の当該免除に係る我が国の運転免許の件数は2万8,373件であり,また,外国の行政庁の数は147に上っている。
 一方,国際化の進展に伴い,真正でない外国の運転免許証を使用して運転免許試験の一部免除により我が国の運転免許を取得しようとする事案が発生していることから,警察では,慎重な審査を行うことにより不正取得事案の防止に努めている。また,偽造又は不正取得された国際運転免許証により自動車を運転する事案が発生していることから,その発見検挙に努めている。
 (ウ) 運転免許管理技術等の移転
 発展途上国から我が国の運転免許管理技術や運転者教育制度に対して高い関心が寄せられており,警察では,これらの技術や制度を積極的に紹介している。8年から運転免許管理技術等に関するセミナーを毎年開催しており,11年10月には,マレーシアの運転免許行政担当者4人を招いて,我が国の運転免許に関する法制度,運転免許証作成技術,運転者教育関連施設等を紹介した。また,ペルーに運転免許管理技術の専門家を派遣し,協力の実施に向けた調査を行った。
 (エ) ISOへの協力
 10年10月,ISOにおいて運転免許証の国際標準化が提案されたことを受け,11年7月・9月及び12年3月には,我が国の警察もISO国際会議にオブザーバーとして参加し,我が国の運転免許証に係る資料を提供するなど積極的に協力を行っている。
 2 平成11年中の交通情勢
 (1) 道路交通の現況
 ア 車両保有台数の伸び
 我が国の自動車保有台数は年々増加傾向にあり,平成11年末には約8,860万台となっている。車種別車両保有台数の推移は,図4-4のとおりである。
 イ 運転免許保有者数の増加
 運転免許保有者数は,交通事故死者数が過去最悪であった昭和45年には約2,600万人であったが,59年には5,000万人を超え,平成11年末には7,379万2,756人となった。運転免許を取得することができる16歳以上の者のうち,男性では1.18人に1人,女性では1.82人に1人,全体では1.44人に1人が運転免許を保有していることになる。運転免許保有者数の推移は,図4-5のとおりである。
 高齢化社会の進展に伴い,運転免許保有者数に占める高齢者(65歳以上の者をいう。)の割合は年々高くなっており,昭和45年末には0.8%(約21万人)であったが,平成11年末には9.2%(約678万人)となっており,この傾向は,今後更に顕著になっていくものと考えられる。
 (2) 平成11年の交通事故発生状況
 ア 概況
 平成11年に発生した交通事故は,件数が85万363件(前年比4万6,485件(5.8%)増),死者数が9,006人(205人(2.2%)減),負傷者数が105万397人(5万9,722人(6.0%)増)であった。死者数は4年連続して1万人を下回ったものの,発生件数は過去最悪の記録を7年連続して更新した。また,負傷者数も初めて100万人を突破した。
 過去の交通事故件数等の推移は,図4-6のとおりである。
 なお,11年中の交通事故発生から30日以内の交通事故死者数は1万372人(前年比433人(4.0%)減)である。
 イ 交通死亡事故の発生状況
 (ア) 状態別,年齢層別にみた交通事故死者数
 11年中の状態別死者数は図4-7のとおりで,自動車乗車中の死者数が3,872人で最も多く,全死者数の43.0%を占めている。10年と比較すると,自動二輪車乗車中の死者数(143人(16.1%)減)の減少が顕著である。
 また,11年中の年齢層別にみた死者数の構成率と人口構成率を比較すると図4-8のとおりで,後期高齢者(75歳以上の者をいう。),前期高齢者(65歳以上74歳以下の者をいう。),若年者(16歳以上24歳以下の者をいう。)の順に死者数の構成率が人口構成率より高くなっており,それぞれ2.7倍,1.7倍,1.5倍である。
 なお,若年者の死者数が9年連続して減少し1,578人(構成率は17.5%),前期・後期を併せた高齢者の死者数は3,143人(34.9%)である。
 11年中の状態別死者数と年齢層別死者数を組み合わせて図解すると図4-9のとおりであり,その主な特徴は,次のとおりである。
○ 自動車乗車中の死者数については,若年者が最も多い(23.1%)。
○ 自動二輪車乗車中の死者数については,若年者が最も多い(47.8%)。
○ 自転車乗用中の死者数については,後期高齢者が最も多い(31.5%)。
○ 歩行中の死者数については,後期高齢者が最も多い(37.8%)。
 (イ) シートベルト着用有無別の死者数
 11年中の自動車乗車中の死者数をシートベルト着用有無別にみると,非着用死者数が2,406人(前年比182人(7.0%)減)で,着用死者数の1,321人(96人(7.8%)増)を大きく上回っている。
 なお,11年中の自動車乗車中のシートベルト着用有無別の致死率(注)は,シートベルトを着用していない場合が2.15%,シートベルトを着用している場合が0.25%となっている。
 (注) 死者数/(死者数+負傷者数)×100
 (ウ) 昼夜別にみた死亡事故の発生状況
 11年中の死亡事故件数を昼夜別にみると,昼間(日の出から日没まで)が3,933件(全体の45.3%),夜間(日没から日の出まで)が4,748件(54.7%)で,夜間の死亡事故件数は昼間の約1.2倍である。前年と比べると,昼間(3件(0.1%)減),夜間(113件(2.3%)減)とも減少している。
 ウ 近年死者数が減少している理由
 ここ数年,交通事故発生件数及び交通事故負傷者数が増加しているにもかかわらず,交通事故死者数が減少傾向にある原因としては,低速で走行する車両の事故が増加し,高速で走行する車両の事故が減少していること,シートベルト着用率が上昇し事故の被害が軽減されていること,死亡事故率が高い人対車両事故の発生件数が減少傾向にあることなどが考えられる。
 (ア) 車両の事故直前の速度の低下
 危険認知速度別交通死亡事故件数の推移は,図4-10,図4-11のとおりである。80キロメートル毎時を超える高速の事故での致死率は,80キロメートル毎時以下の事故の約14倍であるが,この高速の事故件数が大きく減少しているほか,高速で運転する者の割合が高い若年者の高速での事故件数も大きく減少していることから,自動車乗車中の死者数が減少しているものと考えられる。
 (イ) シートベルト着用率の向上
 シートベルト着用有無別致死率及び自動車乗車中の死傷者のシートベルト着用率の推移は,図4-12のとおりである。シートベルト着用者の致死率は,非着用者の約9分の1であり,シートベルトが事故の被害軽減に果たす役割は大きいと認められるが,この着用率が5年以降向上していることから,自動車乗車中の死者数が減少しているものと考えられる。
 (ウ) 人対車両事故の減少
 人対車両事故の発生件数及び歩行中の死者数の推移は,図4-13のとおりである。人対車両事故の致死率は,車両相互事故の約5倍であるが,この人対車両事故が8年以降減少傾向にあることから,歩行中の死者数が減少しているものと考えられる。
 コラム[1] 走行中の携帯電話の使用禁止
 平成11年中に発生した携帯電話に関係する人身事故の件数は2,583件で,道路交通法の一部改正(11年11月1日施行)により携帯電話等の走行中の使用が禁止されてから,携帯電話に関係する交通事故は減少しているものの,携帯電話の使用に起因する事故が依然として多数発生している。
 携帯電話に関係する事故の中では,使用形態別では受信操作時の事故(1,146件(44.4%)),事故類型別では車両相互の追突事故(1,886件(73.0%))が最も多くなっている。受信時の事故が多いのは,突然の着信音に応じて視線が前方から電話機に向けられたり,電話機を取ろうとしてハンドルから手が離れて運転操作が不安定になることなどが原因であると考えられる。また,通話中も,片手運転となるため運転操作が不安定になるとともに,通話に注意を奪われがちであるため,大変危険である。
 警察では,自動車の走行中は携帯電話等を使用しないこと,特に,自動車を運転するときは,事前に電源を切っておくことなどについて広報啓発活動を推進しているところである。
 3 交通安全教育及び交通安全活動の推進
 (1) 交通安全教育指針に基づく交通安全教育
 国家公安委員会は,市町村,民間団体等が,効果的かつ適切に交通安全教育を行うことができるようにするとともに,都道府県公安委員会が行う交通安全教育の基準とするため,指針を作成・公表している。指針には,交通安全教育を行う者の基本的な心構えや年齢,通行の態様や心身の発達段階に応じた交通安全教育の内容及び方法が明示されており,警察では,段階的かつ体系的な交通安全教育の実施に向け,指針の活用を推進している。
 なお,交通安全教育の推進に際しては,運転者はもとより,歩行者等に対しても交通社会の一員としての責任を持って行動し,交通事故を誘発することないよう交通ルールとマナーを遵守させる点についても留意している。
 ア 警察の交通安全教育
 警察では,関係機関・団体と協力しつつ,指針を基準として,幼児から高齢者に至るまでの各年齢層を対象に,交通社会の一員としての責任を自覚させるような交通安全教育を段階的かつ体系的に実施している。
 幼児に対しては,道路の歩き方,横断の仕方等について,幼稚園,保育所等を単位として交通安全教育を行うとともに,交通ルールや交通マナーを遊びながら学ぶことができる幼児交通安全クラブの結成及びその活動の活発化を図っている。
 小中学生に対しては,自転車の安全な乗り方教室を開催しているほか,交通安全推進のための少年達のリーダーとなる交通少年団の結成及びその活動の活発化を図っている。
 高校生に対しては,安全で正しい自転車の利用,原付,普通自動二輪車等の特性に応じた安全運転の方法等についての交通安全教育を推進している。特に,普通自動二輪車等の安全運転に関する指導については,教育委員会及び学校と連携し,法令講習及び実技指導員(白バイ隊員等)の派遣による実技講習を推進している。
 高齢者に対する交通安全教育については,1(1)ア参照。
 イ 事業所等における交通安全教育活動
 一定台数以上の自動車を使用する事業所等においては,安全運転管理者及び副安全運転管理者を選任することとされており,平成11年度末現在,約35万事業所において安全運転管理者約35万人,副安全運転管理者約5万人が選任されている。
 警察では,これらの安全運転管理者等に対し,安全運転管理に必要な知識等に関する講習を実施しており,11年度中の実施回数は3,651回,受講者数は延べ約40万人であった。
 また,安全運転管理者は,指針に従った交通安全教育の実施がその業務として義務付けられていることから,警察としてもこの交通安全教育が適切に実施されるよう,必要な指導を行っている。
 なお,都道府県ごとに安全運転管理者等を会員とする安全運転管理者協(議)会が結成され,交通安全運動,シートベルト着用推進運動,無事故無違反コンクール等を積極的に推進しているほか,安全運転管理に関する各種講習会の開催,教育資料の作成・配布等を通じ,職域における交通安全思想の普及に努めている。
 (2) 交通安全意識を高めるための交通安全活動
 ア 民間団体,市町村等による交通安全活動の促進
 交通安全教育,交通安全に関する広報啓発活動等の活動は,安全で快適な交通社会を実現する上で大きな役割を果たすものであり,警察の活動のみならず,民間団体,市町村等の活動が効果的に行われるようにすることが重要である。このため,警察は,民間団体や市町村等が実施している無事故無違反コンクールやチャイルドシートのレンタル・リサイクル事業に必要な協力を行うなどして,官民が一体となった交通安全対策の充実を図るよう努めている。
 イ 全国交通安全運動
 交通安全に関する知識の普及と交通安全意識の高揚を図るとともに,交通ルールの遵守と交通マナーの実践が図られるようにすることを目的として,毎年春と秋に全国交通安全運動を実施している。期間中は,国,地方公共団体及び交通安全協会等の民間団体が一致協力して,幅広い国民運動を展開しており,各地域の実態に即して,ヒヤリ地図の作成活動等を始めとした地域住民参加型の諸活動を活発に行うことによって交通安全意識の高揚を図るよう努めている。
 コラム[2] チャイルドシートの普及促進
 幼児の自動車乗車中の交通事故死傷者数の急増を背景として,平成11年5月に道路交通法の一部が改正され,12年4月1日から6歳未満の幼児を乗車させる場合にチャイルドシートの使用が義務化された。
 警察では,関係機関・団体とも連携しながら,産婦人科,幼稚園,保育所等においてチャイルドシートに関する講習会を開催したり,レンタル・リサイクルの充実のための支援等を行ったりするなど,チャイルドシートの普及促進に積極的に取り組んでいる。
 ウ 地域ボランティア等の自主的な交通安全活動の促進
 交通安全活動に従事しているボランティアとして,全国で約2万人(平成12年4月1日現在)の地域交通安全活動推進委員のほか,交通安全指導員等が地域における交通安全教育,広報啓発活動,街頭における交通安全指導等の活動を行っている。
 警察は,これらの活動に対して,関係機関・団体と連携して,地域交通安全活動推進委員等の民間の指導者を対象とする研修会の開催,交通事故実態に関する情報の提供等,地域の実態に即した交通安全活動が効果的に行われるよう必要な支援を行っている。
 (3) 交通安全を目的とする諸団体の活動
 ア 都道府県交通安全活動推進センター及び全国交通安全活動推進センター
 都道府県交通安全活動推進センター(以下「都道府県センター」という。)は,警察と連携し,交通の安全に関する事項,車両の駐車や道路の使用に関する事項についての広報啓発活動,被害者対策の一環としての交通事故相談等の業務を積極的に推進するほか,民間の交通安全活動の中心的な役割を担う団体として,他の民間団体の活動を支援している。
 また,全国交通安全活動推進センターは,都道府県センターの業務に関する研修等を行い,都道府県センターの業務の充実を図るほか,交通安全に関する広報啓発活動等を積極的に推進している。
 なお,都道府県センターには,各都道府県の交通安全協会(連合会)が,全国交通安全活動推進センターには,(財)全日本交通安全協会が,それぞれ指定されている。
 イ 自動車安全運転センター
 自動車安全運転センターは,自動車安全運転センター法に基づき,道路の交通に起因する障害の防止及び運転免許を受けた者等の利便の増進に資することを目的として,運転免許を受けた者の自動車の運転に関する経歴に係る資料及び交通事故に関する資料の提供,自動車の運転に関する研修の実施,自動車の安全運転に必要な調査研究等を行っている。
 また,同センターが設置している安全運転中央研修所においては,安全運転の実践的かつ専門的な技能及び知識についての体験的研修を行い,地域における交通安全教育の担い手の育成に当たるなど体系的な交通安全教育の推進を図っている。
 ウ 交通事故調査分析センター
 交通事故調査分析センター(以下「分析センター」という。)は,道路交通法の規定に基づき,交通事故の防止と交通事故による被害の軽減を図ることにより,安全で快適な交通社会の実現に寄与するため,交通事故に関する各種の分析・調査研究を行っている。
 分析センターでは,交通事故,運転者,車両,道路等に関する各種データを統合した交通事故統合データベースを作成し,多角的なマクロ統計分析を実施するとともに,実際の交通事故現場に臨場し,交通事故を総合的かつ科学的に調査する事故例調査(ミクロ調査)を実施しており,平成11年中には,412件の事故例を収集し,これまでに2,062件の交通事故例のデータが蓄積された。今後とも,交通事故原因を究明し,官民それぞれが実施する交通安全対策をより一層効果的なものにするため,マクロ,ミクロ両面からの総合的な交通事故分析・調査研究が更に進められることが期待される。
 なお,分析センターには,(財)交通事故総合分析センターが指定されている。
 4 きめ細かな運転者施策の推進
 (1) 運転者の資質の向上
 ア 運転免許を取得しようとする者に対する施策の充実
 (ア) 自動車教習所における教習
 a 指定自動車教習所における教習の充実
 指定自動車教習所は,平成11年末現在,全国で1,512か所ある。また,指定自動車教習所の卒業者で11年中に運転免許試験に合格した者は199万4,239人で,合格者全体の93.5%を占めており,指定自動車教習所は,初心運転者教育の中心的役割を果たしている。都道府県公安委員会では,教習指導員の資質向上を図るなどして,指定自動車教習所における教習の充実に努めている。
 b 指定自動車教習所以外の自動車教習所における教習水準の向上
 都道府県公安委員会に届出をした自動車教習所のうち,同公安委員会の指定を受けていないものは,11年末現在,全国で252か所ある。同公安委員会では,これらの自動車教習所に対し,教習の適正な水準を確保するため必要な指導及び助言を行っている。
 (イ) 運転免許試験
 運転免許を受けようとする者は,都道府県公安委員会の行う運転免許試験を受けなければならないこととされ,運転免許試験は免許の種類ごとに,自動車等の運転に必要な適性,技能及び知識について行うこととされている。
 運転免許試験のうち,学科試験は,国家公安委員会が作成する教則の範囲内で,自動車等の運転に必要な知識について行うこととされているが,より実践的なものとするため,イラストを使用して現実の交通場面での認知力・判断力を問う問題を10年12月から導入している。
 (ウ) 取得時講習
 普通免許,大型二輪免許又は普通二輪免許を受けようとする者は,それぞれ普通車講習,大型二輪車講習又は普通二輪車講習のほか,応急救護処置講習を受けなければならないこととされている。また,原付免許を受けようとする者は,原付講習を受けなければならないこととされている。普通車講習,大型二輪車講習及び普通二輪車講習は,それぞれの自動車の運転に係る危険の予測等安全な運転に必要な技能及び知識について,原付講習は,原付の操作方法,走行方法,安全運転に必要な知識等について行われている。
 イ 運転免許取得後の教育の充実
 (ア) 更新時講習
 運転免許証の更新を受けようとする者は,更新時講習を受けなければならないこととされている。この更新時講習は,更新の機会をとらえて定期的に教育を行うことにより,安全な運転に必要な知識を補い,運転者の安全意識を高めることを目的としており,受講対象者の区分に応じ,一般運転者講習と優良運転者等講習とに分かれている。一般運転者講習では,教本やビデオ等の視聴覚教材等を使用して交通事故の実態,運転者の心構え,安全運転の知識等について説明を行うほか,運転適性検査器材等を用いて運転適性についての診断と指導を行っている。また,高齢者学級,若年者学級,二輪車学級等の特別学級を編成することにより,受講者の態様に応じた内容の講習となるよう努めている。11年には,431万8,029人が一般運転者講習を受講し,このうち32万9,412人がこの特別学級による講習を受講した。優良運転者等講習においても,ビデオ,パネル等の視聴覚教材を効果的に活用するなどにより,受講者が安全運転の知識等を修得できるように工夫している。11年には,1,361万4,925人が受講した。
 また,一定の基準に適合する講習(特定任意講習)を受講した者は,更新時講習を受講する必要がないとされている。特定任意講習では,地域,職種等が共通する運転者を集めて,その態様に応じた講習を行っている。11年には,3万4,051人が受講した。
 なお,11年の道路交通法の一部改正により,運転免許証の有効期間の更新を受けなかった者で,その者の免許の効力が失われた日から起算して6月を経過しないもの(特定失効者)については,更新時講習,高齢者講習又は特定任意講習を受講することが運転免許試験の一部免除の要件とされた(11年11月施行)。
 (イ) 自動車教習所における交通安全教育
 自動車教習所は,地域住民のニーズに応じ,地域住民に対する交通安全教育を行っており,地域における交通安全教育機関としての役割を果たしている。具体的には,運転免許を受けている者を対象として,運転の経験や年齢等の区分に応じたいわゆるペーパードライバー教育,高齢運転者教育等の交通安全教育を行っている。11年の道路交通法の一部改正により,こうしたもののうち,一定の基準に適合するものについては,その水準の向上と免許取得者に対する普及を図るため,都道府県公安委員会の認定を受けることができることとされた(12年4月施行)。また,11年春及び秋の全国交通安全運動の期間中には,多数の指定自動車教習所において「1日開放」を実施し,運転実技講習や各種のイベントを行い,参加者に対して交通安全意識の高揚を促した。
 ウ 身体に障害を有する運転免許取得希望者に対する利便性の向上
 警察では,身体に障害を有する運転免許取得希望者に対する利便性の向上を図るため,運転免許試験場において身体障害者用の技能試験車両の整備に努めているほか,受験者である身体障害者が持ち込んだ車両による技能試験を実施している。また,運転適性相談窓口を設け,身体障害者の運転適性等について知識の豊かな職員を配置し,相談に応じているほか,運転免許試験場施設の整備・改善,字幕入り講習用ビデオの作成・活用等,身体障害者のニーズに応じた施策の推進に努めている。
 このほか,指定自動車教習所に対しても,身体障害者用教習車両の整備や,身体障害者が持ち込んだ車両による教習の実施等に努めるよう指導している。
 (2) 危険運転者の排除と改善
 ア 運転者の危険性に応じた行政処分の推進
 警察では,道路交通法違反を繰り返し犯したり,交通事故を起こしたりする運転者を,道路交通の場から早期に排除するため,行政処分の迅速・確実な実施に努めている。最近5年間の運転免許の行政処分件数の推移は,表4-2のとおりである。
 イ 危険運転者の改善のための教育
 (ア) 初心運転者講習
 普通免許等取得後1年未満の初心運転者で道路交通法等に違反する行為をし,一定の基準に該当する者に対しては,初心運転者講習の受講の機会を与えることにより,技能及び知識の定着を図ることとしている。この講習は,路上訓練や運転シミュレーターを活用した危険の予測や回避の訓練を取り入れるなどにより行っている。平成11年には,15万1,889人が受講した。
 なお,初心運転者講習を受講しなかった者等に対して行う再試験では,運転免許試験と同等の基準で合格判定が行われ,11年は,1万627人が受験し,不合格となった8,599人が運転免許を取り消された。
 (イ) 取消処分者講習
 取消処分者講習は,運転免許の取消し等の処分を受けた者を対象に,その者に自らの運転適性を自覚させ,それに応じた運転の方法を指導することにより,その運転態度の改善を図ろうとするものである。運転免許の取消し等の処分を受けた者が新たに運転免許試験を受けようとする場合には,この講習を終了していることが受験資格となっている。この講習においては,自動車等の運転や運転シミュレーターの操作等をさせることにより運転適性に関する調査を実施し,これに基づく個別的かつ具体的な指導が行われている。11年には,3万3,026人がこの講習を受講した。
 (ウ) 停止処分者講習
 停止処分者講習は,運転免許の効力の停止,保留等の処分を受けた者を対象に,その者の申出に基づいて行われるもので,受講者は,効力の停止等の期間が短縮される。この講習においては,自動車等の運転や運転シミュレーターの操作等をさせることにより運転適性に関する調査を行い,それに基づく指導を行っている。11年には,100万3,018人が受講した。
 (エ) 違反者講習
 違反者講習は,違反行為に付する点数が3点以下である違反行為をし,一定の基準に該当する者に対し,受講が義務付けられているものであり,この講習を終了した者については,運転免許の効力の停止等の行政処分を行わないこととされている。この講習においては,講習を受けようとする者からの申出により,運転者の資質の向上に資する社会参加活動の体験を含む課程,又は自動車等の運転や運転シミュレーターの操作等を通じた個別的な運転適性についての診断と指導を含む課程を選択することができる。11年には,22万7,760人が受講した。
 (3) 運転免許証の高機能化の検討
 運転免許証の偽変造防止,業務の合理化・効率化等を図る観点から,高度なセキュリティ機能を有する電子技術を応用した運転免許証のICカード化について検討を進めている。
 5 交通秩序の確立
 (1) 効果的な交通指導取締りの推進
 ア 悪質・危険性,迷惑性の高い違反に対する取締りの強化
 道路における交通の安全と円滑を確保するためには,無免許運転,飲酒運転,著しい速度超過,信号無視,歩行者妨害等交通事故に直結する悪質・危険性の高い違反及び迷惑性が高く,住民からの取締り要望の多い違反の検挙に努め,交通事故を抑止する必要がある。このため,交通事故発生状況等地域の交通実態を調査・分析するなどして,効果的な指導取締りに努めている。
 最近5年間の主な道路交通法違反の取締り状況は,表4-3のとおりである。
 イ 背後責任追及の徹底
 企業の事業活動に関して行われた放置駐車,過積載運転,過労運転,最高速度等の違反やこれらに起因する事故事件については,運転者の取締りにとどまらず,これらの行為を下命・容認した自動車の使用者等についてもその背後責任の追及に努めている。なかでも,過積載については,使用者に対する指示及び自動車の使用制限命令並びに荷主等に対する再発防止命令を,最高速度違反については,使用者に対する指示及び自動車の使用制限命令を積極的に行っている。使用者等の背後責任追及状況は,表4-4のとおりである。
 (2) 迅速・適正な交通事故事件捜査活動の推進
 ア 交通事故事件の発生検挙状況
 平成11年中,交通事故に係る業務上(重)過失致死傷事件の検挙件数は73万8,425件(前年比8万1,704件(12.4%)増),検挙人員は76万4,752人(8万2,211人(12.1%)増)であった。
 また,物件事故の発生は約311万件であった。
 イ 適正な交通事故事件捜査の推進
 交通事故事件捜査に対する事故原因の徹底究明を求める声の高まりを踏まえ,都道府県警察本部の交通捜査担当課に事故捜査指導官を配置するなどして,死亡・重傷事故,重大特異事故等の事故を重点とした適正な捜査の推進に努めた。特に,一方の当事者が死亡,重体等のため事情聴取ができなかったり,当事者の言い分が食い違ったりする場合や歩行者,自転車といったいわゆる交通弱者が当事者となった場合には,各当事者の責任の軽重を公平に見極める必要があるため,事故現場,関係車両等の実況見分,鑑定等の捜査を徹底するとともに,目撃者確保のための捜査を組織的,集中的に行い,事故原因の徹底究明に努めた。
 ウ 交通事故事件捜査業務の合理化・効率化
 交通事故の発生件数が依然として増加傾向にある中で,交通事故当事者の負担軽減や迅速な事故処理による円滑な交通流の早期回復等の要請にこたえるため,デジタル画像測量システム等の機器の活用,一定の要件を満たす軽微な物件事故について現場見分を省略する現場見分省略制度の積極的な運用等に努めている。
 エ ひき逃げ事件に対する捜査の強化
 ひき逃げ事件については,迅速かつ適正な初動捜査を徹底するとともに,現場こん跡画像検索システム等の鑑識資機材の整備充実に努め,被疑者の検挙に努めている。
 最近5年間の死亡ひき逃げ事件の発生・検挙状況は,表4-5のとおりである。
 オ 交通特殊事件に対する捜査の強化
 保険金詐欺事件を始めとした交通特殊事件の最近の傾向として,犯罪の組織化,広域化,手口の巧妙化が挙げられる。
 最近5年間の偽装交通事故による自動車保険金詐欺事件等交通特殊事件の検挙状況は,表4-6のとおりである。
 コラム[3] 科学的な事故事件捜査の推進
 警察では,近年の自動車性能等の高度化による事故事件捜査の複雑化,国民の事故捜査への関心の高まり等を踏まえ,従来から進めていた科学的事故事件捜査をより一層推進している。
 その一つとして,警察庁では専門的事故捜査員の育成を目的として,衝突実験に基づく事故解析演習,制動とブレーキこんに関する実験に基づく分析演習等について科学的かつ実践的な教養を行う自動車工学専科を実施しており,平成12年6月には,その名称を「交通事故鑑定専科」と改称するとともに,内容の充実,受講人員の拡大を図ることとしている。
 また,科学的手法による事故原因の解明を図るため,交通事故発生時の衝突形態,車両の動き等を迅速に三次元によりシミュレーションすることのできる交通事故解析装置を各都道府県警察本部の科学捜査研究所に配備した。
 さらに,ひき逃げ事件において,現場に遺留されたレンズ片やタイヤこんから容疑車両を特定するための「現場こん跡画像検索システム」の全国整備と活用,交通事故の現場処理を迅速に行うための「デジタル画像測量システム」の整備拡充を推進している。
 (3) 総合的な暴走族対策の推進
 ア 暴走族の実態と動向
 平成11年末現在,警察が把握している全国の暴走族の総数は,約2万8,700人である。この内訳は,爆音暴走等を集団で行う共同危険型の暴走族約2万3,700人(1,132グループ),山岳道路等でコーナリング等の運転技術を競う「ローリング族」,400メートルの直線区間の走行速度を競う「ゼロヨン族」等の違法競走型の暴走族が約4,900人(42グループ)となっている。
 なお,共同危険型暴走族の年齢構成は,少年が全体の77.5%(約1万8,400人)を占めている。
 最近の暴走族の傾向としては,大集団での暴走は減少し,グループの小規模化が一層進んでいる一方,縄張や組織を維持するため,大きなグループの傘下に入ったり,連合組織を形成して,複数グループによる合同暴走をしたりするなどの傾向がみられるほか,活動範囲が複数の都府県にまたがるなどの広域化の傾向が顕著になっている。
 暴走族の引き起こす犯罪は,道路交通関係法令違反のほか,強盗,強姦,薬物乱用等様々な罪種にわたっており,特に11年中には,暴走族同士のナイフ,鉄パイプ等を利用した対立抗争や脱会者等に対する暴行から8件の殺人事件や傷害致死事件が発生するなど,凶悪化・粗暴化の傾向が深まっている。
 [事例] 11年9月,2グループの暴走族の構成員計9人(いずれも15歳以上17歳以下の少年)は,仲間に無断で別の暴走族に加入して活動していた構成員(15)に対し,「ケジメをつける」等と因縁を付け,殴る蹴るなどの集団リンチを加え,急性硬膜下血腫により死亡させた。同月,9人全員を傷害致死罪で検挙した(愛知)。
 また,暴力団とのかかわりが深く,その予備軍的な存在となっているグループも多数確認されている。
 最近5年間の暴走族の勢力と動向は,表4-7のとおりである。
 イ 取締り状況
 警察では,交通,少年,刑事等各部門の連携により,暴走族に関する情報を幅広く収集してその実態を把握し,個別的な指導や補導を強化したほか,共同危険行為等禁止違反等の道路交通法違反や番号表示義務違反等の道路運送車両法違反の取締りを強化し,グループの解体や構成員の離脱を図っている。
 また,毎年6月に暴走族取締り強化期間を設け,不法改造車両の押収等を通じて,暴走族と車両の分離を図るとともに,車両を運転した者だけでなく,改造等を行った業者に対しても徹底した背後責任の追及を行っている。
 11年中の検挙人員は10万4,286人であり,また,運転免許の行政処分件数は,取消処分が1,914件,停止処分が722件であった。
 ウ 暴走族を許さない社会環境づくり
 警察では,関係機関・団体等で構成される暴走族対策協議会等と協力し,「暴走を『しない』,『させない』,『見に行かない』」運動を展開したほか,地方公共団体の「暴走族根絶条例」等の制定に協力するなど暴走族を許さない世論の醸成,暴走をさせない環境づくりに努めた。例えば,暴走族のい集場所として利用されやすい公共施設等の管理者に対して夜間における閉鎖措置や看板設置等のい集しにくい措置を,ガソリン販売業者に対して暴走族へのガソリン販売の自粛を,部品販売業者に対して変形ハンドル等暴走行為を助長する部品の販売自粛を,タクシー運転者等に対して暴走行為目撃時の通報を,それぞれ要請するなど,地域と一体となった各種対策を展開している。
 また,暴走行為が行われやすい道路について,効果的な交通規制や集中的な取締りを実施するとともに,道路管理者等と協力して暴走行為がしにくい道路環境づくりを推進している。
 エ 少年が暴走族に加入することを阻止するための対策等
 警察では,関係機関・団体等と連携し,中学校,高校において暴走族加入阻止教室を開催して,暴走族の悪質性,危険性等についての理解を深めさせることにより,少年が暴走族に加入することを阻止するための対策を行っている。
 また,暴走行為等で検挙した少年や暴走族構成員として把握されている少年に対しては,家庭,学校,保護司等と連携して,暴走族から離脱させる措置を推進しているほか,交通ルールを遵守し,交通マナーを実践する意識の醸成,自動車等の正しい利用方法に関する個別指導等再犯の防止に努めている。
 (4) 高速道路における交通警察活動
 ア 高速道路ネットワークの現状
 平成11年末現在,高速道路の全供用距離は93路線,7,984.8キロメートル(高速自動車国道6,559.4キロメートル,指定自動車専用道路1,425.4キロメートル)である。5月1日には,多々羅大橋等の供用開始とともに,本州・四国連絡橋の第3ルートである西瀬戸自動車道が開通した。
 現在,従来の高速道路に比べてかなり高規格となる第二東名・名神高速道路等の建設が進められている。他方,列島横断道路として整備される路線は,中央帯により往復の方向別に分離されていない部分が極めて多くなり,また,山間部を通過することから雪氷対策が必要となるなど,交通管理の難しい路線も増加する傾向にある。
 イ 高速道路における交通事故の現状
 高速道路における交通事故は,増加傾向にあるものの,死者数は4年連続して減少している。
 高速道路においては,高速走行のため,わずかな運転上のミスが重大事故に結び付きやすく,しかも死傷者が多数に及ぶ場合が多い。11年中の高速道路の死亡事故率(発生件数に占める死亡事故件数の割合)は,その他の道路の2.3倍となっている。
 また,高速道路を走行する車両には貨物自動車が多いこともあり,貨物自動車による重大事故が多く発生している。11年中の高速道路における死亡事故のうち,45.6%が貨物自動車によるものであった。
 ウ 高速道路における交通の安全と円滑の確保
 (ア) 大型貨物自動車等に対する事故防止対策
 大型貨物自動車等について,最も左側の車線を通行すべき車両通行帯として指定する交通規制(第一通行帯通行区分規制)を東名高速道路等8路線の区間において実施しているところであるが,同規制の一層の定着化を図るなどして,事故の防止に努めている。
 また,危険物運搬車両の運行の適正化を図るため,指導取締りを強化するとともに,関係省庁との緊密な連携の下,各都道府県で危険物運搬車両事故防止対策協議会を設立し,各種の事故防止対策を講じている。
 (イ) 先行対策の積極的展開
 高速道路の計画段階から道路管理者と,道路線形の改良,ランプウェイの取付け位置等について必要な協議を行うとともに,最高速度規制等の交通規制の決定に当たっては,道路構造,気象条件等を総合的に勘案し,その適正を期している。また,交通安全施設の整備についても,道路管理者との間において,環境観測施設,融雪・凍結防止施設,排水性舗装等の整備や中央分離帯施設の改良に関して事前に協議し,また,交通規制の内容を運転者がより認識しやすいようにオーバーヘッド型の標識の採用等の対策を進めている。
 さらに,既に供用されている区間における事故多発地点においては,事故の実態に照らし,規制の見直し,交通安全施設の改良整備等の事故防止対策を積極的に推進している。
 (ウ) 従来に比べ高規格の高速道路に対応した規制,取締り手法等の調査研究
 従来の高速道路に比べ,設計速度の高い高規格の高速道路における規制の在り方について,人間工学的観点を含めた調査研究を行うとともに,当該道路においてはこれまでの装備では取締りが危険かつ困難となることが予測されるため,受傷事故防止の観点を踏まえながら,高速走行に対応できる取締り手法や機器の研究を進めている。
 6 快適な交通の実現
 (1) 交通安全施設等の整備
 ア 交通安全施設等の整備
 (ア) 交通安全施設等整備事業七箇年計画
 平成8年度を初年度とする交通安全施設等整備事業七箇年計画の内容及び11年度の実施状況は,表4-8のとおりで,新交通管理システム(UTMS)の整備,生活の場における安全確保,交通需要マネジメント及び災害時に対応した交通管理の4点を重点事項として交通安全施設等の整備を推進することとしている。
 (イ) 交通安全施設等の高度化
 速度超過に起因する交通事故が多発している区間において,高速走行中の車両に対し警告を与えることにより事故防止を図る高速走行抑止システム,見通しの悪いカーブ等において,対向車の接近を警告することにより衝突事故の防止を図る対向車接近表示システム等の整備を推進している。
 イ 地域の特性に応じた道路交通環境の整備
 (ア) 地域の特性に応じた交通規制の点検・見直し
 警察では,地域における交通の実態に応じ,幹線道路等を重点として,最高速度規制等の交通規制の点検・見直しを進めている。
 (イ) コミュニティ・ゾーンの整備
 住居系地区等を対象に,都道府県公安委員会によるゾーン規制等の交通規制と道路管理者によるハンプや狭さく等が整備されたコミュニティ道路等の面的整備を適切に組み合わせたコミュニティ・ゾーンの形成を推進している。
 (ウ) 交通事故多発地点対策
 身近な生活の場に潜む交通事故の多発地点を抽出し,未然に防止する活動を行うため,(財)交通事故総合分析センターの統合データを基に抽出された3,196か所の交通事故多発地点について,道路管理者と連携して合同現場点検及び事故原因の詳細な分析を実施するとともに,交通安全施設等の重点的整備を行うなど,総合的かつ計画的な対策を行っている。
 (エ) 交通安全総点検
 高齢者,身体障害者を始め,だれもが安心して利用できる道路交通環境を創造するため,道路管理者と連携し,地域住民の参加により,生活道路における危険箇所の抽出等を行う交通安全総点検を実施し,それに基づき,地域の実情に応じた交通安全施設等の整備を推進している。
 (オ) 交通ボトルネック解消対策
 交差点,踏切,トンネル等は,交通容量が他の区間に比べて小さいなどの理由により,交通渋滞が発生しやすい。このような交通ボトルネックを解消するため,適切な信号機の制御,右折矢印信号制御,踏切信号機の設置等の対策を進めるとともに,道路管理者等に対し道路環境の改善を行うよう働き掛けている。
 (カ) 道路交通環境安全推進会議
 警察庁は,警察と道路管理者との連携の一層の強化を図るため,11年9月に建設省と共同で「道路交通環境安全推進会議」を設置し,安全な道路交通環境を整備していく上での政策評価や住民参加の在り方等について検討を行っている。
 (2) 交通流の変化に対応した事前対策
 ア 先行的交通対策
 現在の交通社会においては,都市構造や物流システムの変化等が交通流・量に大きな影響を与えることから,警察では,都市計画地方審議会等に参画して,都市計画事業,各種の開発事業,駐車場の整備,大規模施設の建設等について,交通管理面からの必要な指導・提言を行うことなどにより,交通管理上望ましい都市交通が形成されるよう働き掛けている。
 イ 中心市街地活性化施策への対応
 平成10年7月に施行された中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する法律に基づき,各市町村において各種の中心市街地活性化施策が行われているが,警察では,交通安全施設等の整備等によりこの施策を積極的に支援しているほか,この施策について交通管理面からの必要な指導・提言を行うことなどにより,交通管理上望ましい施策が行われるよう働き掛けている。
 ウ 道路使用の適正化
 道路工事,路上競技,祭礼等の通行目的以外の目的による道路使用は,年々増加傾向にあるが,これらの道路使用が交通渋滞等の要因となっていることも少なくなく,道路使用の適正化を推進していく必要がある。警察では,工事方法等の改善,競技コースの変更等について指導を行うとともに,許可に当たり必要な条件を付すなどして,交通渋滞の防止を始め交通の安全と円滑の確保に努めている。
 エ 行楽期等における交通円滑化対策
 行楽期等には,大規模な交通渋滞が発生することから,その発生を予測し,事前広報を行うとともに,臨時交通規制,交通情報の提供,警察官等による交通整理,道路における工事・作業の抑制等の対策を実施している。
 (3) 交通の円滑化対策の推進
 ア 快適な運転を実現するための交通情報の収集・提供
 交通の安全と円滑を確保するためには,交通規制等の手法に加え,運転者に対する適切な交通情報の提供により,自律的な交通流の分散を図ることが効果的である。
 警察は,交通管理者としての立場から,各種の交通情報収集装置を整備し,交通量,車両速度,旅行時間等の情報を収集している。その情報は,交通管制センターにおいて統合,処理され,信号制御方式の決定に用いられるほか,交通情報板,路側通信設備,光ビーコン等の交通情報提供施設,テレビ・ラジオ放送及び電話照会に対する回答等の様々な手段を利用して幅広く提供されている。
 イ TDMの推進
 近年,特に都市部においては,交通需要の増加に対応した交通容量の拡大を図ることが困難であることから,交通渋滞,交通公害対策として,交通需要そのものを軽減し,又は平準化するTDM(Transportation Demand Management:交通需要マネジメント)の手法が注目されており,警察としても,関係機関と連携しながら積極的に推進することとしている。
 さらに,TDMの手法とバイパス・環状道路の整備や信号制御の高度化等の交通容量拡大策,交通結節点の整備等のマルチモーダル施策を組み合わせた都市圏交通円滑化総合対策を関係機関と共に推進し,交通の円滑化等を図ることとしている。平成11年には,全国で初めて松江都市圏(島根県)及び熊本都市圏(熊本県)を交通円滑化総合対策実施都市圏として指定した。
 (ア) 交通需要軽減対策
 a 大量公共輸送機関への転換対策
 マイカー利用者の利用交通手段を路線バス等の大量公共輸送機関に転換させ,都市部等における交通需要を軽減するため,バス専用・優先レーンの設定,バスの走行実態に応じた信号制御を行うためのバス感知器及びバス感応式信号機の整備,PTPS(公共車両優先システム)の導入等のバス優先対策を推進している。
 また,バス,鉄道事業者等に,パーク・アンド・ライド(注)の導入を促すとともに,バス運行時間の見直し,低床式バスの導入等利用者の利便性の向上を図るための対策を働き掛けている。
 (注) マイカーで最寄りの駅又はバス停まで行き,そこで駐車し,鉄道又はバスにより,都心の目的地に向かう交通形態をいう。
 b 自動車利用の効率化
 自動車利用の効率化を図るため,大量公共輸送機関への転換対策と併せて,バス事業者等によるMOCS(車両運行管理システム)の導入,工業団地等における共同企業バスの運行,事業所単位等の相乗り組織等の結成を働き掛けている。
 また,自動車が物流を担う中心手段となっている一方で,交通渋滞等による輸送効率の低下,駐車場所の不足等の問題が生じていることから,警察では,荷主,運送事業者等に対して共同集配システムの構築等の働き掛けを行っている。
 (イ) 交通需要平準化対策
 交通渋滞情報,旅行時間情報等の交通情報を迅速かつ的確に提供することにより,交通流・量の誘導及び分散を促している。また,通勤や業務に伴う交通需要を平準化するため,関係機関・団体等に対して,時差出勤やフレックスタイム制の導入を働き掛けている。
 (4) 総合的な駐車対策の推進
 ア 違法駐車の現状
 違法駐車は,幹線道路における交通渋滞を悪化させる要因となるだけでなく,歩行者等の安全な通行の障害となるほか,緊急自動車の活動に支障を及ぼすなど住民の生活環境を害し,国民生活全般に大きな影響を及ぼしている。また,違法駐車は,交通事故の原因ともなっており,平成11年中の駐車車両への衝突事故の発生件数は2,705件で,127人が死亡している。さらに,110番通報された苦情・要望のうち,駐車問題に関するものが23.9%を占めており,駐車問題に関する国民の関心は相当に高いことがうかがわれる。
 なお,特別区(東京都23区)及び大阪市における瞬間路上駐車台数は,表4-9のとおりである。
 イ 違法駐車の効果的な取締り
 (ア) 駐車取締りの現状
 駐車違反の取締りは,幹線道路の交差点,横断歩道,バス停留所等における悪質・危険性,迷惑性の高い違反に重点を置いて行っている。11年中の駐車違反取締り件数は215万1,006件であり,49万4,846台をレッカー移動した。
 また,違法駐車が常態的に行われている道路の区間について,都道府県公安委員会が「車輪止め装置取付け区間」を指定し,当該区間の違法駐車車両に対して車輪止め装置の取付け措置を講じており,11年中には,1万9,611件の措置を行った。
 (イ) 背後責任の追及
 自動車の使用者,安全運転管理者等が運転者に対し放置行為を下命・容認している場合については,その背後責任の追及を徹底している。11年中の放置行為の下命・容認の検挙件数は,53件であった。
 また,都道府県公安委員会は,放置行為を防止するために必要な運行の管理を行っていると認められない使用者に対しては,必要な指示及び自動車の使用制限命令を行い,駐車に係る車両の運行管理の適正化に努めている。11年中の指示件数は2万133件(2万140台),自動車の使用制限命令件数は143件(147台)であった。
 ウ 駐車対策のための各種システムの整備
 警察では,交差点に設置されたテレビカメラ及びスピーカーを用いて,違法駐車車両を監視し,必要に応じ音声で警告することにより違法駐車の抑止を図る違法駐車抑止システムの整備を計画的に進めており,11年度末現在106都市で運用されている。
 また,駐車場を探したり,その空き待ちをしたりしている車両による交通渋滞の緩和や交通事故の防止を図るとともに,違法駐車の抑止を図るため,交通管制システムと連動して,駐車場の位置,満空状況,駐車場までの経路,交通渋滞の状況等に関する情報を運転者に提供し,空き駐車場へ誘導する駐車誘導システムの整備を計画的に進めており,11年度中には,堺市で新たに運用が開始され,同年度末現在64都市で運用されている。
 エ 関係機関・団体との連携による総合的な駐車対策の推進
 警察では,都道府県交通安全活動推進センター,地域交通安全活動推進委員等の協力を得て,違法駐車に起因する交通事故の実態,交通渋滞の状況等違法駐車の危険性・迷惑性についての情報の提供を積極的に行うほか,トラック協会,安全運転管理者協(議)会等を通じて,各企業に対し従業員による車両の自宅持ち帰りの自粛を推進するキャンペーン等を行うなど,違法駐車抑止のための広報啓発活動を進めている。
 また,地方公共団体,道路管理者等と共に駐車対策協議会を設立し,地域における駐車問題を協議・検討し,各種の駐車対策を推進しているほか,市町村等に対し違法駐車の防止に関する必要な施策の策定及び実施を,市民に対し違法駐車防止の努力及び市町村等が行う駐車対策への協力をそれぞれ義務付ける条例(違法駐車防止条例),一定の建築物を新設しようとする者等に対して駐車施設の設置を義務付ける条例の制定等に協力している。11年末現在違法駐車防止条例を制定しているのは,183市9区141町14村であり,警察もその運用に必要な協力と支援を行っている。
 オ 保管場所の確保対策
 道路が自動車の保管場所として使用されることを防止するため,警察では,自動車の保管場所の確保等に関する法律に基づき,保管場所証明書の交付,軽自動車の保管場所に係る届出の受理等を行うとともに,道路を自動車の保管場所として使用するいわゆる青空駐車や,自動車の使用の本拠の位置,保管場所の位置等を偽り,保管場所証明を受けるいわゆる車庫とばしの取締りを行っており,11年中の青空駐車及び車庫とばしの検挙件数は,それぞれ4万1,387件,142件となっている。
 [事例] 運送会社社長(50)は,大手自動車ディーラー工場長(50)らと共謀し,自動車から排出される窒素酸化物の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法に規定する特定の地域内(埼玉県幸手市)に使用の本拠の位置がある,窒素酸化物の排出基準に適合しない事業用自動車24台について,同法の適用を逃れるため,当該自動車の使用の本拠の位置が特定の地域以外の地域(栃木県)にあると偽り,登録を受け,運行の用に供していた。8月,電磁的公正証書原本不実記録・同供用罪で検挙した(埼玉)。
 なお,軽自動車の保管場所に係る届出義務等の適用地域については,11年1月から,人口20万人以上の市及び人口20万人未満の市であって県庁所在地であるものが追加されており,今後,更にその地域を拡大することとしている。
 (5) 環境問題への対応
 ア 交通公害等の現状
 近年,道路交通騒音による沿道住民等の日常生活への影響や自動車から排出される窒素酸化物等による人の心肺機能への影響,さらには,二酸化炭素による地球の温暖化等が懸念されている。
 自動車騒音については,道路の種別ごとの環境基準の達成状況は,表4-10のとおりであり,全国の測定地点4,688地点のうち,4時間帯のいずれかにおいて環境基準が達成されなかった地点は,4,069地点(86.8%)に及んでおり,依然として厳しい状況にある。
 自動車の走行に伴い発生する排気ガスには,窒素酸化物,粒子状物質(PM)等の大気汚染物質が含まれている。これらが一因である二酸化窒素や浮遊粒子状物質(SPM)についての大気汚染の状況は,都市部を中心に依然として深刻な状況にあり,その環境基準の達成状況は,表4-11のとおりである。
 環境庁の推計によると,二酸化炭素については,平成9年度において,自動車の利用等の運輸部門が,我が国の二酸化炭素排出量の20.9%を占めている。
 イ 道路交通騒音対策
 道路交通騒音を減少させるため,警察では,交通管制システムの高度化による交通流の分散,交通状況に即応した信号機の制御,自動車の走行速度を落とし,エンジン音等を低く抑えるための最高速度規制や相対的にエンジン音等の大きい大型車を沿道から遠ざけるための中央寄り車線規制等の交通規制,著しい騒音を生じさせている速度超過車両や消音器等の不法改造車両等の取締りの徹底等の対策を推進している。
 ウ 大気汚染・地球温暖化対策
 窒素酸化物等の大気汚染物質及び地球温暖化の一因となっている二酸化炭素の排出量は,自動車の発進・停止回数の増加や渋滞時の低速走行に伴って増加するとされている。このため,警察では,交通管制システムの整備,各種の交通規制,総合的な駐車対策等の道路交通の円滑化対策を推進するとともに,バス専用・優先レーンの設定等による大量公共輸送機関優先対策を実施し,マイカーから大量公共輸送機関への転換を促進することなどにより,交通総量の抑制を図っている。
 また,自動車の駐停車の際にエンジンを停止させるいわゆるアイドリング・ストップについては,客待ちや貨物の積卸し等のため継続的に停止させるときに実施するよう,広報啓発に努めている。
 コラム4 「環境にやさしい交通管理」モデル事業の実施
 「環境にやさしい交通管理」モデル事業は,交通の円滑化及び交通総量の抑制による環境の改善を図るため,UTMSを活用した交通管理と関係機関等と連携して行うTDMとを組み合わせて行う事業であり,地球温暖化対策の効果的な推進を図るため実施するモデル事業の一つとして地球温暖化対策推進大綱(10年6月19日地球温暖化対策推進本部決定)に盛り込まれたものである。警察では,本事業を以下の5都市において実施することとしている。
(事業の概要)
  交通公害の深刻な地域における総合的対策の推進事業(川崎市)
  中心市街地における交通総量抑制対策の推進事業(静岡県浜松市)
  通勤バス路線におけるPTPSとガイドウェイバスシステムの一体的推進事業(名古屋市)
  観光地におけるPTPSと駐車対策の一体的推進事業(京都市)
  ベッドタウンにおけるPTPSとパーク・アンド・ライドの一体的推進事業(兵庫県川西市)


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