第3章 暴力団総合対策の推進

 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(以下「暴力団対策法」という。)の施行を契機とした暴力団排除気運の高まりと取締りの一層の強化により,暴力団は,社会から孤立しつつある。しかしながら,企業対象暴力,金融・不良債権関連事犯を多数引き起こすなど,その資金獲得活動は,社会経済情勢の変化に対応して一層多様化・巧妙化しつつある。
 また,暴力団は,けん銃を使用した凶悪な犯罪や薬物犯罪を多数引き起こすなど,市民社会にとって大きな脅威となっており,対立抗争事件も依然として多数発生している。平成11年6月には山口組と國粹会の間で生じた対立抗争に対し,暴力団対策法施行後初めて事務所使用制限命令を発出した。
 このような情勢の下,警察は,暴力団を解散,壊滅に追い込むため,総力を挙げて,暴力団犯罪の取締りの徹底,暴力団対策法の効果的な運用及び暴力団排除活動の推進を三本の柱とした暴力団総合対策を強力に推進している。
 1 暴力団情勢
 (1) 暴力団構成員数等の推移
 暴力団構成員及び準構成員(注)は,平成11年末現在,約8万3,100人で,10年に比べ約1,800人(2.2%)増加し,うち構成員は約4万3,900人で,10年に比べ約400人(0.9%)増加した。また,山口組,稲川会及び住吉会の3団体の構成員は約3万300人で,10年に比べ約600人(2.0%)増加した。
 (注) 暴力団準構成員とは,構成員ではないが,暴力団と関係を持ちながら,その組織の威力を背景として暴力的不法行為等を行う者,又は暴力団に資金や武器を供給するなどして,その組織の維持,運営に協力し若しくは関与する者をいう。
 (2) 暴力団組織の解散,壊滅の状況
 平成11年中に解散し又は壊滅した暴力団組織は208組織(構成員数約1,380人)で,このうち,山口組,稲川会及び住吉会の3団体の傘下組織の解散・壊滅数は161組織(構成員数約1,090人)であり,全体の77.4%(全構成員数の79.0%)を占めている。
 2 暴力団犯罪の取締り
 (1) 全般的検挙状況
 平成11年中の暴力団構成員及び準構成員の検挙人員は3万2,511人で,10年に比べ474人(1.4%)減少している。このうち,構成員の検挙人員は1万584人であり,10年に比べ31人(0.3%)減少している(図3-1,図3-2)。
 11年中の山口組の構成員及び準構成員の検挙人員は1万6,515人,うち構成員の検挙人員は4,946人(直系組長4人を含む。)で,それぞれ総検挙人員のほぼ半数を占めており,事件の内容をみても,その悪質性は際立っている。
 [事例] 山口組傘下組織組員(51)らは,共謀の上,10年11月,栃木県那須郡所在の宅地造成地において,油圧ショベルで掘削した穴に調理師である兄弟2人を埋め,窒息死させた。11年1月,殺人罪及び同幇助罪等で検挙した(栃木)。
 11年中の暴力団構成員及び準構成員の検挙人員を刑法犯,特別法犯の別にみると,刑法犯は1万9,611人,特別法犯は1万2,900人であり,10年に比べ,刑法犯は596人(2.9%)減少し,特別法犯は122人(1.0%)増加している。また,罪種別では,覚せい剤取締法違反が7,933人(構成比24.4%)で最も多く,次いで傷害4,618人(14.2%),窃盗3,001人(9.2%),恐喝2,889人(8.9%)の順となっている。
 (2) 対立抗争及び銃器犯罪
 ア 対立抗争事件の発生状況
 平成11年中の暴力団の対立抗争の発生事件数は11件,発生回数は46回で,その9割以上にけん銃が使用されている。発生事件数は10年と同数であり,発生回数は10年に比べ2回減少している(図3-3)。
 [事例] 11年6月,國粹会傘下組織幹部射殺事件が発生し,これを契機に山口組対國粹会の対立抗争とみられる銃器発砲が,首都圏の1都5県で15回発生した。12月末までに銃砲刀剣類所持等取締法(以下「銃刀法」という。)違反,暴力行為等で被疑者12人を検挙,けん銃2丁を押収した(警視庁,茨城,栃木,埼玉,千葉,神奈川)。
 イ 銃器発砲事件の発生状況
 11年中の暴力団等によるとみられる銃器発砲事件の発生回数は133回であり,10年に比べ1回(0.7%)減少している。これらの銃器発砲事件に伴い22人が死亡,20人が負傷した(図3-3)。
 [事例] 山口組傘下組織幹部(40)らは,共謀の上,山口組若頭が射殺されたことの報復として,中野会傘下組織組長らを殺害しようと企て,11年5月,京都市山科区内の市営住宅のエレベーターホールにおいて,同会傘下組織組長他1人に対し,殺意をもって,けん銃十数発を発射して同人らに命中させ,それぞれ傷害を与えた。7月,殺人未遂罪で検挙した(京都)。
 ウ けん銃の押収状況
 警察による取締りの徹底や7年の銃刀法の一部改正等を受け,暴力団は,けん銃の保管について,小口に分散させたり,情を知らない第三者を利用したりするなど,その隠匿方法をより巧妙化させている。11年中の暴力団構成員及び準構成員からのけん銃押収丁数は580丁と,10年に比べ4丁(0.7%)増加した(図3-4)。
 [事例1] 住吉会傘下組織幹部(53)らは,共謀の上,法定の除外事由がないのに,東京都豊島区内の女性宅に,けん銃4丁及びけん銃実包46個を隠匿所持していた。11年4月,銃刀法違反で検挙した(警視庁,宮城)。
 [事例2] 会津小鉄会傘下組織組員(49)は,法定の除外事由がないのに,滋賀県草津市内において普通乗用自動車内に,けん銃3丁及びけん銃実包183個を隠匿所持していた。11年6月,銃刀法違反で検挙した(滋賀)。
 (3) 総会屋等による企業対象暴力
 平成11年中の総会屋等及び社会運動等標ぼうゴロの検挙件数,検挙人員は531件,831人で,10年に比べ,検挙件数は67件(14.4%),検挙人員は164人(24.6%)それぞれ増加している(表3-1)。このうち,総会屋の検挙件数,検挙人員は,それぞれ8件,9人である。
 [事例1] 山口組傘下組織幹部(38)及び社会運動標ぼうゴロ会長(46)らは,共謀の上,工事施工業者から金員を脅し取ろうと企て,和歌山県日高郡内の土木工事業者が施工中の町発注工事に関し,同業者に対して,工事の施工方法に因縁を付けるとともに,発注元の町役場の幹部らに対して,工事中止の要求を執拗に行って工事を停止させ,さらに,執拗な抗議活動を展開して,11年3月,畏怖困惑した同業者から現金1,000万円を脅し取るなどした。9月,恐喝罪等で検挙した(和歌山)。
 [事例2] 総会屋(57)は,大手鉄鋼会社の株式を所有している者であるが,9年3月,同社幹部から,6月開催予定の株主総会に関し,他の総会屋らの出席・発言を差し控えさせ,議事の運営に協力させることの謝礼として現金2,000万円を,さらに,12月,同幹部から,翌年度以降の株主総会において,その株主権を行使せず,円滑な議事の運営に協力することなどに対する謝礼として現金1,000万円を,会社の計算において供与されるものと知りながら,大阪市内の飲食店でそれぞれ受領した。11年11月,商法違反(利益供与・受供与)で検挙した(大阪)。
 (4) 金融・不良債権関連事犯
 平成11年中の暴力団等に係る金融・不良債権関連事犯の検挙件数は102件で,10年に比べ17件増加しており,金融・不良債権関連事犯の捜査を強化した8年以降,増加傾向が続いている。このうち,競売入札妨害事件,強制執行妨害事件等の債権回収過程におけるものがその大部分を占めており,暴力団等が金融機関の債権回収に絡んで不正に資金獲得を図っている状況が顕著にうかがえる。また,その一方で,公的融資制度に絡む詐欺,出資法違反事件等の融資過程におけるものも目立ってきている(第1章第2節4(3)ア(ア)参照)。
 警察では,かねてより,信用保証協会,預金保険機構,整理回収機構(11年4月,住宅金融債権管理機構及び整理回収銀行の合併により発足),裁判所等の関係機関等と連携し,また,債権管理回収業に関する特別措置法(4(4)参照)の施行に伴い,同法の規定に基づき必要な援助を行うなど,債権回収会社との連携を進め,金融・不良債権関連事犯の検挙及び債権回収過程からの暴力団等の排除を推進している。
 [事例1] 商事会社役員(58)は,住吉会傘下組織組長らと共謀し,競売開始決定がなされた東京都江東区内の雑居ビル内の各室を低廉な価格で買い受けるべく競売から入札希望者を排除しようと企て,共謀の上,現況調査に訪れた執行官から各室の占有権原につき回答を求められたのを受け,10年3月,同執行官あてに内容虚偽の賃貸借契約書のコピー等を郵送し,各室に係る現況調査報告書に同賃貸借契約書等を添付させ,偽計を用いて公の入札の公正を害すべき行為をした。11年11月,競売入札妨害罪で検挙した(警視庁)。
 [事例2] 山口組傘下組織関連企業社長(48)は,中小企業金融安定化特別保証制度の事業資金融資名下に金員をだまし取ろうと企て,10年11月,金融機関の支店において,同制度による特別保証の被保証資格を有する法人であると装った内容虚偽の信用保証委託申込書を提出して融資を申し込み,県信用保証協会において,保証する旨を決定させ,12月,同支店に開設された同社名義の口座に事業資金の融資名下に2,000万円を振込入金させた。11年12月,詐欺罪で検挙した(埼玉)。
 (5) 資金獲得犯罪の検挙状況
 ア 伝統的資金獲得犯罪の検挙状況
 古くからある暴力団の資金獲得犯罪には,覚せい剤取締法違反,恐喝,賭博及び公営競技関係4法違反(ノミ行為等)(以下「伝統的資金獲得犯罪」という。)が挙げられる。平成11年中の伝統的資金獲得犯罪に係る暴力団構成員及び準構成員の検挙人員は1万3,653人で,暴力団構成員及び準構成員の全検挙人員の42.0%を占めており,そのうち構成員の検挙人員は3,986人と,構成員の全検挙人員の37.7%を占めている。
 [事例] 山口組傘下組織組長(53)らは,10年9月,大相撲秋場所において,賭客に勝ち力士を予想させた上,1口1,000円で金銭を賭けさせて,賭金の3割を自らの所得とし,残りを的中者に配当する方法により,いわゆる相撲トトカルチョをさせ,賭博場を開張して利益を図った。11年5月,賭博場開張等図利罪で検挙した(愛知)。
 イ 企業活動を利用した資金獲得犯罪
 暴力団の資金獲得活動は時代に応じて変化しており,伝統的資金獲得犯罪のほかに,暴力団が自ら設立し,又は関与する企業等を通じて,資金獲得を図るといった企業活動を利用した資金獲得犯罪がみられる。
 [事例] 山口組傘下組織幹部(51)と不動産業等を営む同組関連企業代表取締役は,不動産取引をめぐる紛争に介入して金員を脅し取ろうと企て,一方当事者の依頼を受けたように装い,他方当事者に対し,「銭出せよ。分かってるやろ。あんた言うこと聞かないと嫌な思いをするよ」等と脅迫し,9年9月から10月の間に現金500万円及び小切手1通(額面500万円)を脅し取った。11年6月,恐喝罪で検挙した(警視庁)。
 (6) 国際犯罪組織の関与がうかがわれる犯罪
 平成11年中は,暴力団員が中国人の集団密航者の受入れを行った事件,外国人女性の不法入国又は長期滞在を目的とする偽装結婚に関与した事件,不法入国者等を海外に渡航させるため日本人名義で旅券の発行を受けた旅券法違反事件等が検挙されるなど,来日外国人が関与し,又は「蛇頭」等の国際犯罪組織の関与がうかがわれる犯罪がみられた(第7章1(3)参照)。
 [事例1] 山口組傘下組織幹部(34)らは,共謀の上,長崎県福江市沖合の公海上において,中国人密航者60人を日本漁船に移乗させ,佐賀県唐津市の本邦領海内に入らせた。11年5月,出入国管理及び難民認定法違反で検挙した(佐賀)。
 [事例2] 山口組傘下組織幹部(31)らは,共謀の上,中国人女性に長期在留資格を得させる目的で,日本人男性の戸籍簿に同女と婚姻した旨の虚偽の記載をさせることを企て,静岡県土肥町の役場に内容虚偽の婚姻届を提出し,これを千葉県富里町の役場に送付させ,情を知らない同役場職員をして,権利義務に関する公正証書の原本たる戸籍簿にその旨の不実の記載をさせ,これを真正な戸籍簿として備え付けさせるなどした。11年6月,公正証書原本不実記載罪等で検挙した(静岡)。
 3 暴力団対策法の施行状況
 (1) 指定状況
 ア 指定状況
 平成12年2月10日現在,25団体が指定暴力団として指定されているが,これらのうち,11年は,二代目侠道会(広島)及び三代目太州会(福岡)(いずれも3月1日。ただし,効力発生は3月4日)を始め,6団体が三度目の指定を受けた。
 なお,11年7月に山口組から絶縁処分を受けた中野会(大阪)が,12年2月に二代目福博会が,それぞれ初回の指定を受けた(表3-2)。
 イ 指定をめぐる争訟の状況
 指定暴力団の指定をめぐっては,四代目会津小鉄(9年2月に名称が五代目会津小鉄に変更されている。)の元代表者から,初回の指定及び二度目の指定によって名誉と信用を損害されたなどとして,国等を相手方に損害賠償請求訴訟が提起されていたが,初回の指定については11年8月27日,二度目の指定については7月9日,京都地裁はそれぞれ請求棄却の判決を言い渡した。
 (2) 中止命令の発出状況等
 平成11年中は,2,275件の中止命令及び25件の再発防止命令を発出しており(表3-3),暴力団対策法の施行以降発出した中止命令,再発防止命令の総件数は,11年末現在,それぞれ,1万597件,283件に上っている。また,1件の少年脱退措置命令の発出があった。
 11年中の中止命令を形態別にみると,資金獲得活動である暴力的要求行為(9条)に対するものが1,357件(59.6%),加入強要及び脱退妨害(16条)に対するものが542件(23.8%)となっている。また,暴力的要求行為のうち,伝統的な資金獲得活動であるみかじめ料,用心棒料等要求行為に対するものは484件(21.3%)となっている。
 団体別にみると,山口組に対するものが965件(42.4%),次いで稲川会に対するものが364件(16.0%),住吉会に対するものが298件(13.1%)の順であり,これら3団体に対する中止命令件数が,全体の71.5%を占めている。
 また,7件の命令違反事件を検挙している。
 [事例1] 双愛会傘下組織幹部(59)は,交友者2人に対し,飲食店を営む者に対し同会の威力を示してその営業所における日常業務に用いる香水等を購入することを要求することを要求し,更に反復して,人に対し同様の要求をするおそれが認められたため,11年12月,再発防止命令を発出した。
 なお,当該要求を受けた交友者に対しては,同月,暴力団対策法施行後初めて,このような同会の威力を示した要求行為をしてはならない旨の指示を行った(千葉)。
 [事例2] 山口組傘下組織幹部(49)は,警視庁八王子警察署長から,東京都八王子市内の広告宣伝業者に対しみかじめ料を要求することを禁ずる旨の中止命令を受け,さらに,東京都公安委員会から,同様の要求をすることなどを禁止する旨の再発防止命令を受けていたが,10年12月,同広告宣伝業者に対してみかじめ料を要求し,同中止命令及び再発防止命令に違反した。11年2月,暴力団対策法違反で検挙した(警視庁)。
 (3) 事務所使用制限命令の発出
 平成11年6月,東京都新宿区内の駐車場において國粹会傘下組織幹部(50)が射殺される事件が発生し,その後,山口組対國粹会の対立抗争とみられる銃器発砲が首都圏の1都5県で15回発生した。このため,警視庁,埼玉県警察及び神奈川県警察は,國粹会総本部事務所,山口組傘下組織組事務所等5か所の関係事務所に対し,暴力団対策法施行後初めて,同法第35条第1項に基づき,事務所の使用を制限する仮の命令を発出した。また,当該仮の命令に係る意見聴取が行われた結果,それぞれの公安委員会において当該仮の命令が不当でないと認められたことから,同法第15条第1項に基づき,当該仮の命令を発出した5か所の関係事務所に対し,事務所の使用を制限する本命令が発出された。
 (4) 暴力団員の離脱促進,社会復帰対策の状況
 警察及び都道府県暴力追放運動推進センター(以下「都道府県センター」という。)が援助の措置等を行うことにより暴力団から離脱させた暴力団員は,平成11年中は約520人であり,暴力団対策法の施行後約4,770人に上っている。また,関係機関・団体と連携を図り全国に設立された社会復帰対策協議会を通じて就業に成功した元暴力団員は,同法施行後11年末までに約590人である。さらに,社会復帰対策を効果的に推進するため,暴力団から離脱し,就業した者について,社会復帰アドバイザーが,本人,その家族,雇用事業者等を訪問するなど,アフターケアの充実にも努めているところである。
 [事例] 山口組傘下組織組員(29)から,同傘下組織からの離脱と社会復帰について決意した旨警察署に相談がなされたことから,同傘下組織組長等に対し離脱を承認するよう働き掛けるなど離脱支援を行った。その結果,同組員は同傘下組織からの離脱に成功し,11年9月,社会復帰対策協議会の支援の下,協賛企業である解体会社に就業し,社会復帰を果たした(熊本)。
 4 暴力団排除活動の現状
 (1) 都道府県センターを中心とした暴力団排除活動
 都道府県センターは,暴力団排除活動の中核として,相談事業を始め,少年を暴力団から守る活動,民間の暴力団排除活動に対する援助,暴力団事務所撤去活動の支援,被害者に対する見舞金の支給,民事訴訟の支援等の事業を行い,警察その他の関係機関・団体との連携の下に暴力団排除活動を活発に展開している。
 平成11年中に警察及び都道府県センターに寄せられた相談を相談種別にみると,表3―4のとおりである。
 また,暴力団対策法に基づき,警察及び都道府県センターは,暴力団員による不当要求の被害を受けやすい金融・保険業,建設・不動産業,ぱちんこ営業等を中心に,各事業所の不当要求防止責任者に対する講習(以下「責任者講習」という。)を実施しており,11年4月以降12年3月までに約5万4,000人が受講した。この責任者講習においては,教本,視聴覚教材等が用いられているほか,暴力団員への応対方法について模擬訓練形式の実習も行われている(第1章第2節4(2)イ(イ)参照)。
 (2) 企業等の暴力団,総会屋等との関係遮断に対する支援等
 警察においては,都道府県警察に設置された「企業対象暴力特別対策本部」等を中心として,企業からの暴力団,総会屋等に係る各種相談に適切に対応するため相談体制の充実を図るとともに,企業,業界団体に対する自主警戒に係る指導や情勢に応じた的確な保護対策を講じているほか,被害防止要領等に関する講演等を積極的に行うなど,企業等の暴力団,総会屋等との関係遮断に対する各種の支援,指導等を行っている。また,都道府県センターの相談事業においても,暴力追放相談委員が,専門知識を生かし相談に応じているところである。
 (3) 暴力団等の公共事業からの排除
 国や地方公共団体等の発注する公共事業の請負業者から暴力団,暴力団利用者等の不良業者が排除されるなど,公共事業における暴力団排除活動が積極的に推進されている。
 警察としても,暴力団の資金源を遮断するため,暴力団犯罪の検挙にとどまらず,捜査の結果判明した事実を基に,税務当局に対する課税通報を行っているほか,関係機関と連携して,暴力団,暴力団利用者等の不良業者を公共事業から排除するなど,積極的な暴力団排除活動を推進している。
 [事例] 山口組傘下組織組長(43)を,銃刀法違反及び覚せい剤取締法違反により検挙し,取り調べた結果,同組長はその妻が代表取締役をしている建設会社を実質的に経営していることが判明したため,その旨を関係地方公共団体に通報したところ,同社は,11年9月,1年間の指名停止処分を受けた(長崎)。
 (4) 債権管理回収業に関する特別措置法の施行状況
 金融機関等が有する不良債権処理の促進等を図るため,債権管理回収業に関する特別措置法(いわゆるサービサー法)が,平成10年10月に制定され,11年2月に施行された。12年7月末現在,36社が債権管理回収業の許可を受けている。
 また,この法律は,暴力団員等がその事業活動を支配することなどを許可の欠格要件としており,警察庁長官が,法務大臣に対し,当該欠格要件の有無について意見を述べている。
 (5) 暴力団員を相手取った民事訴訟の支援の動向
 全国各地で,暴力団事務所の明渡しや使用差止めの請求訴訟,暴力団員の違法行為による被害に係る損害賠償請求訴訟等,暴力団員を相手方とした民事訴訟が提起されている。なかでも,暴力団犯罪等の被害者が,当該犯罪等の実行行為者のみならず,その所属する暴力団の組長等の使用者責任や共同不法行為責任を追及する損害賠償請求訴訟については,被害回復はもとより,暴力団組織に打撃を与えるという面からも注目される。警察は,危害防止の観点から関係者に対する保護対策を徹底するとともに,都道府県センターにおいても,訴訟費用の貸付等の支援を積極的に行っている。
 [事例1] 山口組傘下組織の事務所として使用されていた建物について,その所有者が,警察や(財)富山県暴力追放運動推進センター等の支援を受け,建物の明渡請求訴訟を提起したところ,係争中に和解が成立し,11年2月,同事務所の撤去に成功した(富山)。
 [事例2] 警察,(財)暴力団根絶福島県民会議等の支援の下,住吉会傘下組織事務所の付近住民が,福島地方裁判所に対し同事務所の使用差止めを求めて,民事保全法に基づき仮処分命令の申立てを行っていたところ,11年7月,同事務所の建物について,暴力団事務所としての使用を禁止する旨の仮処分命令が発せられた(福島)。


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