第2節 国民の期待にこたえる刑事警察に向けて

 1 刑事警察に関する国民の意識
 警察は,逮捕,捜索,差押え等の強制処分を含む捜査権限を有し,第一次捜査機関として,日々発生するあらゆる犯罪を捜査する最も国民に身近な捜査機関である。それゆえに,警察の捜査に対する国民の期待は大きく,警察は,捜査力を不断に充実し,国民の期待にこたえる捜査を遂行していかなければならない。警察庁では,平成12年6月,捜査活動に対する国民の意識を把握し,今後の各種の施策の参考とするため,刑事警察に関する意識調査(注)を行った。
 (注) 意識調査は,全国の20歳以上の男女を層化二段無作為抽出法により2,000人抽出し,個別面接形式により実施した。回収数は1,418人(70.9%)であり,うち男性は656人(46.3%),女性は762人(53.7%)であった。年代別では,20歳代は151人(10.6%),30歳代は199人(14.0%),40歳代は248人(17.5%),50歳代は322人(22.7%),60歳以上は498人(35.1%)となっている。
○ 被害経験の有無
 家族を含めた過去1年間の犯罪被害の有無については,13.8%(注1)の人(195人)が犯罪被害があるとしており,過去の同種調査(注2)と比較して,その比率が増加している(図1-15)。13大都市(注3)の居住者の被害経験は20.5%(62人/回答者数302人)で,その他の市の居住者の11.6%(91人/回答者数787人)や郡部の居住者の12.8%(42人/回答者数329人)に比べ約2倍となっている。被害の内容は,自転車盗が最も多くなっている(図1-16)。
 (注1) 特に示していない限り,比率は回答者数(1,418人)に占める比率である。
 (注2) 過去,内閣総理大臣官房広報室が実施した同種の調査として,昭和44年の「警察の捜査活動等に関する世論調査」,47年,49年,54年,56年,59年,62年及び平成2年の「警察に関する世論調査」等があるが,ここでは,質問項目が類似している昭和44年,47年及び49年の調査と比較している。
 (注3) ここで,13大都市とは,札幌市,仙台市,千葉市,東京都区,横浜市,川崎市,名古屋市,京都市,大阪市,神戸市,広島市,北九州市及び福岡市をいう。
○ 被害の届出
 警察に被害を届け出た人は犯罪被害があると回答した人の54.4%(106人/回答者数195人)であり,過去の同種調査と大きな変化は見られない(表1-3)。一方,届け出なかった人(45.6%,89人/回答者数195人)が挙げる理由は表1-4のとおりである。「被害が小さいから」が最も多いが,過去の同種調査と比較して,「面倒だから」,「届け出ても被害金品は返らないと思ったから」が増加していることが特徴として挙げられる。
○ 警察の対応への満足度
 犯罪被害を警察に届け出た結果,「たいへん満足」あるいは「満足」と回答した人は,届け出た人のうち39.6%(42人/回答者数106人)であり,「不満」あるいは「たいへん不満」と回答した人は,55.7%(59人/回答者数106人)となっている。
 届け出た結果,満足だった点としては,「警察官がすぐに来て対応してくれた」,「警察官のことば遣いや配慮等が適切だった」が上位となっており,不満だった点としては,「結局,犯人を検挙することができなかった」,「結局,被害金品等をすべて取り戻すことができなかった」が挙げられている(図1-17)。
○ 犯罪被害に遭う可能性と犯罪が社会に与える不安感
 各犯罪について,自分自身(家族を含む。)が犯罪被害に遭う可能性,犯罪が社会に与える不安感の程度を,それぞれ5段階に分け質問し,犯罪被害に遭う可能性が高い,社会に与える不安感が大きいと回答したものの比率を計上すると,図1-18のとおりとなる。
 「突発的・衝動的な無差別犯罪」は,社会に与える不安感が最も大きいと感じられており,犯罪被害に遭う可能性も比較的高いと感じられている。これに対し,「自転車盗」や「自動車盗・オートバイ盗」は,犯罪被害に遭う可能性が高いと感じられているが,社会に与える不安感は比較的小さいと感じられている。「子供の誘拐」や「薬物犯罪」は,犯罪被害に遭う可能性は比較的低いと感じられているが,社会に与える不安感は大きいと感じられている。
○ 取り締まってほしい犯罪
 警察に特に力を入れて取り締まってほしい犯罪としては,「子供の誘拐」,「無差別犯罪」,「暴行傷害」,「薬物犯罪」,「強盗」等が上位にある(図1-19)。
  捜査活動に対する満足度
 「犯罪の捜査について,警察の活動をどう思いますか」との問に対する回答結果を,時系列でみると,図1-20のとおりとなっており,今回の調査では「全般的によくやっている」が低下し,「凶悪犯罪など重大な犯罪はよいが,身近な日常犯罪は不満だ」,「身近な日常犯罪はよいが,凶悪犯罪など重大な犯罪は不満だ」及び「全般的に不満だ」のいずれもが増加している。
○ 厳しい犯罪情勢に対する捜査の在り方
 今後の警察の捜査の在り方については,「犯罪捜査に関する制度(新しい捜査手法を可能にする法制度,捜査体制等)を見直し,犯罪捜査をより実施しやすい環境を整え,厳しい犯罪情勢に対応できるようにする」(37.7%),あるいは,「警察官を増員したり,警察装備を増強したりして,警察の捜査力を強化し,厳しい犯罪情勢に対応できるようにする」(32.4%)を挙げる人が多い(図1-21)。
 2 刑事警察の現況
 (1) 刑事警察の体制
 国の警察機関たる警察庁には,内部部局として刑事局が置かれ,刑事警察に関する諸制度の企画立案,犯罪鑑識,犯罪統計,犯罪捜査等に関する事務を所掌し,その所掌事務について各都道府県警察を指揮監督している。また,管区警察局には,公安部又は保安部の下に刑事課が置かれ,地方機関として警察庁の事務を分掌している。
 一方,都道府県警察は,当該都道府県の区域につき,犯罪捜査等の警察の責務を遂行している。都道府県警察本部には刑事部が置かれ,捜査第一課,捜査第二課,暴力団対策課,鑑識課,科学捜査研究所,機動捜査隊等が犯罪捜査に当たっている。また,都道府県警察には,各地域を管轄する警察署が置かれ,刑事課が犯罪捜査に当たっている。
 (2) 捜査官の姿
 警察庁では,現代の捜査官の意識を把握し,今後の刑事警察強化に役立てるため,平成12年5月,各都道府県警察の大規模な警察署を選定し,刑事課で勤務する警部補以下の警察官約2,300人を対象にアンケート調査を実施した。調査結果からは,犯人検挙や被害者から感謝されることに刑事の魅力,やりがいを感じ,今後とも捜査官として勤務を継続する意欲がある一方,捜査への協力が得られにくくなるなど捜査が困難化していると感じ,勤務状況や処遇の改善を望む捜査官の姿がうかがわれる。
 (注) アンケートは無記名,選択式により行った。調査対象者は2,306人で,その98.6%に当たる2,274人から回答を得た。回答者の性別は,男性が2,195人(96.5%),女性が74人(3.3%)であり,年代別では,20歳代が15.3%,30歳代が35.8%,40歳代が32.3%,50歳代が16.3%となっている。階級別では,巡査3.7%,巡査長30.5%,巡査部長35.4%,警部補30.3%となっており,刑事経験年数別では,3年未満が23.4%,3年以上10年未満が28.5%,10年以上20年未満が28.2%,20年以上30年未満が16.5%,30年以上が3.5%となっている。
 なお,回答項目によっては無回答のものもあり,総計は必ずしも100%とはならない。
○ 刑事任用時の希望
 刑事任用時,刑事警察官の任用を「強く希望していた」,「希望していた」者は計87.6%を占めている。
○ 刑事の魅力,やりがい
 刑事の魅力,やりがいを感じる時は,図1-22のとおりで,犯人を検挙し,被害者の期待にこたえることに刑事の魅力,やりがいを感じる捜査官が多い。
○ 捜査に当たり以前より難しくなっている点
 捜査に当たり,以前に比べてどのような点が難しくなっているかという点については,図1-23のとおりで,プライバシーの意識が高まり捜査への協力が得にくくなったと回答する者が78.5%と高い割合を占めている。
○ 刑事の仕事への不満と改善要望事項
 刑事の仕事への不満として最も多いものは,「権利意識の高まり,プライバシー尊重の風潮などで捜査が困難化している」であり,回答者のうち,60.7%がこれを挙げている。一方,今後改善を希望する点としては,「増員,配置替え,事務の効率化等により仕事量を軽減してほしい」が最も多く,55.8%を占めている。
○ 刑事勤務の継続の希望
 将来も刑事を続けることについては,「生涯続けたい」と回答した者が41.7%,「しばらく続けたい」と回答した者が31.9%で,計73.6%を占めている。一方,その勤務が過酷であることからか,「将来は離れたい」,「すぐに離れたい」と回答する者も,それぞれ13.6%,3.0%いる。
 コラム[2] ある刑事の一日
 A県警察B警察署は,地方中核都市の繁華街に位置する大規模な警察署である。この署の刑事課強行犯係に勤務する,ある刑事の一日(当直勤務)を追ってみることとした。
午前8時00分
 署へ出勤。強行犯係としての一日が始まる。強行犯係は,殺人,強盗等の凶悪犯等を担当する。朝礼が終わり,まずは,先週発生したコンビニ強盗の聞き込みだ。コンビニ強盗が多発している。深夜に従業員に刃物をちらつかせて,売上金や釣銭を奪っていく手口だ。現場までの足取り,現場からの足取りを求めて,店の全従業員,付近の住民らへの聞き込みを行う。
午後0時10分
 刑事課長から「隣接署でひったくり事件が連続発生。犯人は,茶髪の原付2人乗り。強行犯係からも出動してくれ」との指示。無線を携行して出動。茶髪,茶髪と繰り返しながら,原付を探す。ゲームセンター,喫茶店,駅等を探したが,容疑者発見できず。その時,「容疑者を確保,各捜査員は任務解除」との無線連絡。この手で犯人を捕まえたかったというのが本音であるが,無事犯人が逮捕されたので,まずは安心だ。その後,コンビニ強盗の聞き込み捜査に復帰する。(防犯ビデオに映った犯人の姿をもとに捜査を行ったところ,隣接市に居住する男の犯行であることが判明し,2週間後に検挙した。)
午後5時20分
 当直員の集合。当署では,当直は10日に一度回ってくる。当直長から,突発事案への対応等について指示が行われる。刑事課長からも,連続放火事件の検挙のため,今夜も張り込みが5組出ているので,連携を取って,検挙に万全を尽くすように,との指示がされた。一瞬で火を付け,立ち去る犯人を検挙することは容易ではないが,一刻も早い検挙が求められる。
午後6時40分
 この時間は,住宅での空き巣や,スナック等での盗難被害の届出が多い。今日も,管内の繁華街にあるスナックから被害の申告がされた。すぐに鑑識係員と共に現場へ。侵入方法は,特殊工具であるピッキング用具を使用して鍵をこじ開ける手口であり,鑑識活動を入念に行ったが指紋等の手掛かりを採取できなかった。プロの犯行と考えられる。(数か月後,国際捜査課と当署の合同捜査本部が,来日外国人ら5人による広域にわたる組織窃盗犯を検挙したが,本件も,彼らの犯行であることが判明した。)
午後8時30分
 この時間帯は,酒を飲んで喧嘩になったという届出や自転車盗の被害の届出が多い。今日も,早速,喧嘩の110番が入った。現場へ急行。居酒屋の前の道路で,野次馬が輪を作っている。殴り合いまでは行かず,口喧嘩で収まっているらしい。両者を引き離し,それぞれの言い分を聞く。言い分を聞くのも現場では大事なことである。結局は,睨んだ睨まないの口喧嘩だった。
午後11時10分
 管内の寿司屋から,「客が代金を支払ってくれない」と当直へ電話が入った。すぐに現場に急行し,関係者から事情を聞いた。客は,一銭も持っていない。確認すると,無銭飲食の前科11犯の常習者であった。無銭飲食で現行犯逮捕。逮捕に伴う所要の手続を進めた。
午前3時10分
 仮眠に入るも,地域課のデスクから,「事件です。貴金属店で警備装置が異常を感知」との電話。寝入りばなの事件は確かにつらい。しかし,初動捜査はスピードが勝負と自らを奮い立たせて,現場に向かう。臨場した交番勤務員と共に,まずは,外周を取り囲む。息を殺す。緊張の一瞬。裏手のガラスが小さく割れている。窃盗だ。店に入るが,もぬけの殻。店内は荒らされ,ケース内の貴金属がごっそりなくなっている。最近多発している来日外国人による組織窃盗か。指令室から,逃走後間もない貴金属店対象の出店荒し事件として,手配される。引き続き,現場の実況見分を続け,終了したころ,外は,もう明るくなっていた。
午前7時00分
 未明の盗難事件の関係書類をまとめる。今日のうちに,店長に被害状況の確認をしてもらい,被害届等の書類の作成をすることとした。実況見分調書も作成しなくてはならない。組織窃盗事件であるとすれば,同様の犯行が今後も引き続き敢行される可能性もあるため,警戒が必要である。
午前8時00分
 昨夜の当直結果を刑事課長に報告する。その後,昨夜逮捕した無銭飲食被疑者の取調べに入った。罪を認めるのは早かった。出生地,経歴等を順に取り調べ,調書を作成した。真面目に働くように諭したが,その気は全くない。さみしい思いをした。
午後3時00分
 無銭飲食被疑者の調書等の関係書類が完成し,送致の準備をした。犯行を自認するものの,反省の態度は全くみられない。明日の朝一番で検察庁に送致されることとなった。昨日からの長い勤務がようやく終わった。今回の勤務で起こったいろいろな出来事を振り返りつつ,頭の中で今後の捜査方針を思い浮かべながら,帰宅した。
 3 捜査を取り巻く環境の変化
 (1) 国民意識の変化
 ア 規範意識
 時代の変化とともに,国民の規範意識も変化している。警察庁で実施した「刑事警察に関する意識調査」(以下「意識調査」という。)(1参照)によると,「世の中全体の道徳意識・規範意識の低下が著しい」と回答した者が64.5%を占めている。また,「一部の人の道徳意識・規範意識の低下が著しい」と回答した者も含めると,94.1%の者が道徳意識・規範意識の低下を感じている。
 なお,具体的行為に対する意識について,「絶対にやってはならない」ものと「大目にみてもよい」ものとに分けた場合,「絶対にやってはならない」ものについての回答は,図1-24のとおりとなっている。
 イ 捜査に対する国民の協力意識
 捜査に対する国民の協力意識も変化している。意識調査では,犯人や事件について何か知っているときに,「自分から進んで連絡する方だ」と回答した者は全体の49.9%で,昭和44年に実施された同種調査(61.1%)と比べ,低下している。一方,意識調査で「警察から何か聞かれたら答える方だ」,「知っていてもなるべく言いたくない方だ」と回答した者(42.9%,608人)が挙げる理由は,「あとあとまで何度も聞かれてわずらわしいから」(40.6%,247人/回答者数608人),「自分の知っていることが事件と関係があるかどうかわからないから」(36.3%,221人/回答者数608人),「自分に関係のないことはかかわり合いになりたくないから」(32.1%,195人/回答者数608人)となっている。
 こうした捜査に対する国民の協力意識の変化や,都市化の進展,人の移動の活発化等の社会情勢の変化に伴う人と人とのつながりの希薄化は,付近住民や犯罪について何らかの事情を知っている者等から,犯人の検挙や犯罪の立証に結び付く情報を聞き出す聞き込み捜査を困難なものとしている。このことは,聞き込み捜査を端緒に,主たる被疑者を特定した余罪事件を除く刑法犯検挙件数が,平成2年には1万2,220件(余罪を除く刑法犯検挙件数の5.1%(解決事件を除く。))であったものが,11年には6,676件(2.4%)と減少していることにも表れている。
 (2) 物からの捜査の困難化
 大量生産・大量流通の著しい進展とともに,物は,市中にあふれるようになった。また,輸送手段の多様化,高速化等を背景に,物流が広域化している。さらに,経済のグローバル化に伴い,海外の物を容易に入手,消費することができるようになった。
 従来,犯罪現場やその付近に残された犯人の凶器,侵入用具,着衣等の遺留品の出所を確認して犯人を割り出す遺留品捜査や,被害品の移動経路を捜査することによって犯人を割り出す盗品等捜査といった物からの捜査が行われてきた。しかし,こうした大量生産・大量流通の進展は,物からの捜査を困難化させている。例えば,盗品等捜査を端緒に主たる被疑者を特定した余罪事件を除く窃盗犯検挙件数は減少しており,平成2年には2,644件(余罪を除く窃盗犯検挙件数の1.8%(解決事件を除く。))であったものが,11年には1,896件(1.2%)となっている。
 (3) 被害者と犯人の関係
 従来から,強制わいせつ,強盗,強姦,暴行,恐喝といった犯罪については,被害者と犯人との間に面識のないものが多いが,近年その傾向が強まっている。これら犯罪の検挙件数(解決事件を除く。)のうち,主たる被疑者と被害者の面識がないものの比率は,図1-25のとおりである。
 また,確たる動機もなく危害を加えたり,自己顕示欲や好奇心を満たすために何ら関係のない被害者に危害を加える事案も発生している。
 4 新たな情勢と課題への対応
 (1) 国民に不安を与える犯罪
 ア 重要凶悪事件
 殺人等の重要凶悪事件の発生は,国民に最も不安を与えるものである。近年の重要凶悪事件の特徴等は次のとおりである。
 (ア) 犯罪の広域化
 自動車の普及や高速道路を始めとした道路網の整備は,人の活動範囲を飛躍的に拡大させ,短時間のうちに都道府県の境界を越えて移動することを可能にし,また,いくつかの都府県の境界周辺の地域においては,市街地が当該境界を越えて連続的に形成され,社会的・経済的に一つのまとまりを持つ区域が生まれている。こうしたことから,例えば,凶悪犯の検挙件数をみると,犯行現場から犯人が自動車(オートバイを含む。)を利用して逃走したものの割合は,平成2年の29.7%から,11年には37.9%へと増加している。また,犯人が犯行後極めて短時間のうちに都道府県境を越えて逃走したり,潜伏したりする事件や,同一犯あるいは犯罪グループが複数の都道府県において連続的に犯罪を敢行したり,重要な捜査事項が他の都道府県に存在し,捜査が複数都道府県に及ぶ事件が多くみられるようになった。
 (イ) 情報通信技術の悪用
 情報通信技術の発達は,生活の利便性を向上させる一方,これを悪用した犯罪もみられるようになった。例えば,料金前払い,身元確認不要を特徴とする通話料前払い方式(プリペイド方式)携帯電話の匿名性に着目し,誘拐事件を始め,殺人等の犯罪の様々な局面で悪用されるケースが発生している。また,急速に普及するインターネットの匿名性,無こん跡性及び広域性を利用した凶悪犯罪もみられるようになった。
 [事例] 学習塾講師(27)は,10年12月,インターネットを利用して自殺願望を持つ女性にシアン化カリウムの薬物カプセルを販売し,同カプセルを嚥下せしめて薬物中毒により死亡するに至らしめ,同人の自殺をほう助した。11年2月,自殺ほう助罪で検挙した(警視庁)。
 (ウ) 悪質・巧妙化する手口
 a 保険金目的殺人事件
 多額の保険に加入した上で計画的に犯行を行う保険金目的殺人事件は,昭和42年以降平成11年までに178件を検挙している。近年では,交通事故死を偽装したり,犯行に薬物を用いるなど,犯行をより発覚しにくくするために巧妙な偽装工作を行う手口がみられ,夫や妻,実の息子等肉親をも対象とする悪質な事件も発生している。また,詐欺目的の発覚を避けるため,保険の加入に当たり,多数の保険会社と重複して保険契約を結ぶなどする事例もみられる。
 [事例] 10年10月,主婦(40)は,古美術商の男(52)と共謀の上,次男(17)を殺害して約3,500万円の保険金を詐取しようと企て,同人に睡眠導入剤を飲ませた上,海中に突き落として殺害した。さらに捜査した結果,両人は共謀の上,4年9月,夫を殺害して約9,900万円の保険金を詐取しようと企て,同人に睡眠導入剤を飲ませた上,事故に見せかけて海中に突き落とし殺害していたことが判明した。11年8月,殺人罪等で検挙した(長崎,佐賀)。
 b バラバラ殺人事件
 犯行の発覚を避ける目的や,被害者の身元を隠匿する目的で,死体を切断するバラバラ殺人事件は,昭和24年以降ほぼ毎年発生しており,平成11年末までに130件を認知し,うち105件を検挙している。11年には,死体を複数府県下に遺棄するなど,広域にわたる事案もみられた。
 [事例] 11年7月,大学生の男(22)は,名古屋市内において,交際中の女性の首を絞めるなどして殺害の上バラバラにし,胴体部を神奈川県内の山林内で焼き,頭部,両腕及び両足を愛知県内の海中等に遺棄した。9月,殺人罪等で検挙した(神奈川,愛知)。
 c 毒物等混入事件
 10年7月,和歌山市園部における毒物混入事件が発生し,その後,不特定多数を対象とした毒物等(注)混入事件が相次ぎ,社会不安を引き起こした。和歌山市園部における毒物混入事件以降,11年末までの毒物等混入事件は48件で,うち25件を検挙している。
 (注) ここでいう「毒物等」とは,毒物及び劇物取締法に規定する毒劇物,消防法に規定する危険物をいい,家庭用洗剤や粉石鹸等の類は含まれない。
 (エ) 特殊事件
 a 身の代金目的誘拐事件
 身の代金目的誘拐事件は,昭和21年以降,平成11年末までに226件発生し,うち218件を検挙している。昭和20年代の年間平均発生件数は0.6件であったが,以後増加し,50年代には7.1件,60年以降には6.4件となっている。その形態は,20~40年代は単独犯が未成年者を誘拐し,近親者に金銭を要求するという形態が多数を占めていたが,その後,複数犯による犯行や成人を誘拐する形態の犯行が増加しており,60年以降は半数以上がこの種の事案となっている。また,平成3年以降には,来日外国人が同国人を誘拐する事案も発生している。
 b 人質立てこもり事件
 人質立てこもり事件は,昭和40年以降,平成11年末までに444件発生し,うち442件を検挙している。11年中に発生した人質立てこもり事件は7件で,うち1件は国内線航空機におけるハイジャック事件であった。11年中の事件はいずれも単独犯による犯行で,すべて被疑者を検挙しているが,ハイジャック事件では,人質1人が殺害された。
 また,12年5月,福岡県下で走行中の高速バスが,刃物を所持した少年に乗っ取られ,死傷者5名を伴うバスジャック事件が発生した。
 イ 増加する路上犯罪
 (ア) 通り魔事件
 通り魔事件は,人の自由に通行できる場所において,確たる動機がなく通りすがりに不特定の者に対し,凶器を使用するなどして,殺傷等の危害を加えるものであり,連続犯行の危険性も強く,著しい社会不安を惹起する。昭和59年以降,平成11年末までに発生した通り魔殺人等事件(未遂を含む。)は100件で,うち96件を検挙している。11年の認知件数は6件と,前年に比べ,4件減少しているが,前年にはみられなかった2人以上の死者を伴う事件が,9月に東京都内池袋の路上(2人死亡,6人負傷),山口県内JR下関駅構内(5人死亡,10人負傷)で相次いで発生した(表1-5)。
 (イ) 路上強盗の増加
 11年中の路上強盗の認知件数は1,495件であり,元年に比べ,約4倍となっている。都道府県別では,東京,埼玉,大阪,神奈川,千葉等大都市圏での発生が多い。発生時間帯は,23~0時が最も多く,次いで0~1時,1~2時の順となっており,深夜時間帯の発生が多くなっている。被害者は,男性が76.2%を占めており,被害者の年齢構成は,20~24歳が最も多く,次いで13~19歳,25~29歳の順となっており,若い世代が被害対象となっている。
 一方,11年の検挙人員1,609人のうち,少年が1,111人で69.0%を占めている。
 (ウ) ひったくりの増加
 11年中のひったくりの認知件数は4万1,173件であり,元年に比べ,約4倍となっている。都道府県別では,大阪,東京,埼玉,千葉,神奈川等大都市圏での発生が多い。発生時間帯は,20~21時の発生が最も多く,夕方から夜間にかけての発生が多くなっている。被害者は,93.1%が女性で,被害者の年齢構成は,50歳代が最も多く,次いで40歳代,70歳以上の順となっており,比較的高い年齢層がねらわれている。ひったくりの際に,被害者が転倒し,死亡する事例も発生している。
 一方,11年の検挙人員3,304人のうち,少年が2,420人で73.2%を占めている。
 [事例] 11年12月,東京都大田区の路上において,徒歩で帰宅途中の主婦がひったくりの被害に遭った際,転倒し,その後病院に収容されたが,治療中に死亡した。12年7月末現在,捜査中である(警視庁)。
 ウ 窃盗の増加と深刻化する組織窃盗
 (ア) 窃盗の増加
 窃盗は,昭和40年代後半以降増加傾向にあり,平成11年には191万393件に達し,刑法犯認知件数の88.2%を占めており,国民にとって最も身近な犯罪である(第1節1(4)参照)。また,窃盗の中でも侵入盗には,広域にわたり反復継続して敢行される悪質なものが多く,11年では,侵入盗の検挙人員1万5,234人のうち,窃盗の前科のある者が4,239人(27.8%)を占め,その常習性がうかがわれる。
 (イ) 深刻化する組織窃盗
 近年,首領の下,多数の被疑者が下見,窃取,盗品の運搬,処分等の役割を分担して行う組織窃盗が深刻化している。例えば,検挙件数に占める共犯ありの割合は表1-6のとおりで,来日外国人や暴力団の共犯事件の割合の高さが目立っている。その手口は,犯行前に侵入対象を綿密に下見し,慎重に犯行計画を立てた上,出入口や壁,屋根等を破壊したり,特殊工具であるピッキング用具を使用して侵入し,短時間のうちに金品を大量に窃取するもので,大胆かつ手荒な犯行である。
 これら窃盗組織は,外国に本拠を有する国際犯罪組織や不法入国者等を構成員とすることが多く,その組織実態が必ずしも明らかではなく,また,各行為を相互に分担していることから,個々の事件で末端の実行行為者を検挙しても組織の実態や盗品の処分先等を解明することに困難を伴う。また,暴力団対策法の施行により資金源に窮した暴力団が,資金獲得のため,組織窃盗事件を多数敢行しており,外国人ブローカー等と通じて盗品を輸出したり,国内の闇ルートでさばいたりするなどの事案もある。
 [事例1] 中国人の男(40)らは,9年6月ころから,貴金属店や高級衣料品店等対象の出店荒し等の犯行を組織的に引き起こし,盗品を暴力団を介して国内の闇ルートで処分したり,中国本土に郵送していた。11年7月までに1都4管区7府県において89件,被害総額約7億円相当の犯行を確認し,15人を窃盗罪等で検挙した(埼玉)。
 [事例2] 暴力団組長の男(35)らは,パキスタン人の輸出業者と結託するなどして,上部組織への上納金,覚せい剤の購入資金調達のため,8年5月ころから,組織的に高級自動車を盗み,偽造ナンバーを取り付けたりするなどして売却したり,アラブ首長国連邦等の海外に輸出して不法な利益を得ていた。12年2月までに,2管区4県下において859件,被害総額約5億4,000万円相当の犯行を確認し,37人を窃盗罪等で検挙した(福岡,佐賀,熊本,長崎,群馬,鹿児島)。
 エ 警察の対応
 警察では,これらの国民に不安を与える犯罪への対応を最重要課題として取り組んでいる。
 (ア) 広域捜査力の強化
 戦後,警察は,社会情勢や犯罪情勢の変化と闘いつつ,それらに柔軟に対応し,新たな広域捜査制度,広域捜査手法を確立してきた。現在,警察では,合同・共同捜査を積極的に推進しているほか,広域捜査隊や広域機動捜査班の設置等を行っている(第1節2(5)イ(イ)参照)。
 今後も,引き続き,時代の変化,犯罪態様の変化に即して,広域捜査力の強化を図っていかなければならない。
 (イ) 捜査本部体制の強化
 捜査本部は,重要事件等の発生に際し,警察署の恒常的捜査体制とは別個に臨時組織を編成して,捜査を統一的かつ強力に推進するために設置される。
 捜査本部には,警察本部の捜査員や発生地を管轄する警察署の刑事課員はもとより,他部門の係員も加わり,捜査本部長の指揮の下,統一的な捜査活動が展開される。
 また,優秀な捜査員による捜査遂行力を確保するため,指定捜査員制度(一定の者をあらかじめ指定しておき,必要に応じて応援派遣する制度)や登録捜査員制度(警察職員のうちから捜査に要する特殊な技術・技能を備えた特定の者をあらかじめ登録しておき,必要に応じて応援派遣する制度)等を設けているほか,捜査用車両,無線機,ファックス等の通信用機材,パソコン等のOA機器等の整備を行うなどし,捜査本部体制の強化に努めている。
 (ウ) 初動捜査力の強化
 犯罪の発生に際し,迅速・的確な初動捜査を行い,犯人を現場やその周辺で逮捕し,あるいは,現場にある証拠物や参考人の証言等を確保することが,犯罪の広域化・スピード化が進む中で,より重要となっている。例えば,11年中の余罪事件を除く凶悪犯の検挙件数4,994件(解決事件を除く。)のうち,検挙の主たる端緒が警察活動(緊急配備や検索等)中の職務質問によるものは1,222件(24.5%)で,最も大きな比率を占めている。また,凶悪犯の認知から検挙までの期間をみると,一日未満で検挙したものが全体の43.1%(余罪事件,解決事件を除く。)を占めている。迅速な初動捜査を推進するため,機動捜査隊の充実,機動力強化のための車両・通信資機材の整備,関係部門と連携した緊急配備等を行っている。
 (エ) 窃盗犯対策
 a 窃盗犯への対応
 刑法犯の大半(11年の刑法犯認知件数の88.2%)を占める窃盗の捜査は,警察捜査の基本である。警察では,聞き込み捜査や盗品捜査等により被疑者や不審者(車)の情報収集を行うとともに,各種捜査支援システムを活用して,窃盗犯対策を推進している。
 また,侵入盗を広域にわたって繰り返す悪質な窃盗常習犯に対応するため,組織捜査を強化し,共同・合同捜査を推進しているほか,捜査本部や捜査専従班を設け,捜査体制を確立している。
 コラム[3] すりとの戦い~ 小さな財布を守る生きがい
大阪府警察本部刑事部捜査第三課
 ある寒い朝,通勤ラッシュで混雑する駅のホーム。いつものように相棒と共に人込みに紛れ,すり犯を捕まえるため捜査していた。ラッシュも終わりに近づいた午前9時ころ,一見サラリーマン風の男が,電車の到着を待っている若い女性の左肩に掛けている手提げバッグ付近へ,厳しい「すり眼」を落としたのを見落とさなかった。「すり眼」とは,すりが,ねらった手提げバッグやポケットを一瞬,厳しく伏し目がちに見ることである。その時,私は電流が走ったように緊張したが,いつものように「落ち着け,冷静に」と心に言い聞かせながら,素知らぬ顔でその男を見た。男は,付近をキョロキョロ見回し,刑事らしい者につけられていないか厳しく点検をした後,もう一度「すり眼」を落とした。私は,すりに間違いないと判断し,相棒と尾行を開始した。
 しばらくして電車が到着し,女性が電車に乗り始めると,男は女性の左斜め後ろに近づきながら,自分の左手先を手提げバッグの中へ差し入れ,素早く財布を抜き取り,すぐに腹の付近へ隠し入れた。水を打ったように静かな車内に「ガチャ」という鈍い音を響かせ,私の相棒がすり犯に手錠をかけた。被害女性に「財布を盗られたよ」と私が声を掛けると,びっくりして手提げバッグの中を確かめ,大声で騒ぎ出した。このとき初めて車内の乗客が異常に気付き,どよめきが起きる。乗客の注目の中,「ここからあなたの財布が出てくるから見といてや」と言いながら,観念して頭を垂れているすり犯の腹のところから,今すり取った財布を,おもむろに取り出した。周りの乗客からは,感嘆の声が上がった。刑事冥利に尽きる喜びの一瞬である。
 電車が次の駅に停車すると,ホームへ降り,被害女性に状況を話す。落ち着きを取り戻した被害女性は,「刑事さん,捕まえてくれて本当にありがとう」と心から感謝してくれた。被害者の喜ぶ姿を見たとき,すり係の刑事としての最高の生きがいを感じる
 すり犯罪は,比較的混雑した場所で,気付かれないように他人に接近して,自らが鍛えた指先に神経を集中させ,指先の技術を駆使して素早く財布等を抜き取る特殊な犯罪で「技術犯」とも言われている。犯人を現行犯逮捕するには,この指先の技術を見抜くことが要求される。そのため,刑事たちは,先輩から伝授された捜査手法に加え,努力を積み重ねて,「すりとの戦い」に負けない自分流の技を磨き,一人でも多くのすり犯を捕まえるための技術向上に努めている。
 私は,仕事に誇りと生きがいを持ち,通算35年すり犯捜査に従事しているが,苦しいときには「好きで選んだ道や。「小さな財布」を守るのは俺達のほかに誰がいる」と自らを叱咤激励している。今日も街の人混みの中を「すり眼」を求めて歩く。
 b 組織窃盗対策
 深刻な状況にある組織窃盗事件に対処するため,警察では,9年以降,全国の警察本部に組織窃盗対策官,組織窃盗捜査班を設置して専従体制を整備するとともに,警察庁組織窃盗事件登録制度を設け,窃盗組織の実態解明を行い,組織中枢に至る検挙に努めている。また,窃盗犯部門と,暴力団犯罪捜査部門,外国人犯罪捜査担当部門等との連携を強めるとともに,入国管理局,海上保安庁,税関等の関係機関との連携等を図っている。警察庁登録組織窃盗事件として,9年以降,11年末までに585人を検挙しており,その被害総額は137億1,230万円に及んでいる。
 また,組織窃盗の被害対象となるおそれのある店舗管理者等に対しては,積極的に防犯指導等を行い,犯人の下見行為や不審情報の把握と警察への早期通報を依頼して,犯行の未然防止と早期解決を図っている。
 (オ) 特殊事件捜査力の強化
 誘拐事件や人質立てこもり事件の捜査に当たっては,特殊事件捜査に関する知識・経験を有する捜査員を中心とした効果的な捜査体制を確立する必要がある。このため,特殊事件捜査の中核となる広域機動捜査班の体制強化や特殊事件捜査員の登録制度を設けるなど,特殊事件捜査体制の強化を図るとともに,個別の事件を想定した訓練や,広域にわたる訓練を実戦に即して行うなど,捜査能力の維持向上に努めている。
 (カ) 科学捜査力の強化
 鑑定,検査体制を充実するため,10年までに,全都道府県警察において,科学捜査研究所を鑑識課の附置機関から警察本部刑事部に置かれる独立の組織とした。また,その施設の整備や高性能鑑定機材の導入を図るとともに,鑑定技術職員の育成に努めている。
 さらに,専門知識・技術が要求される薬毒物使用事件や業務上過失事件等に対処するため,高度な科学的知識を有する科学捜査官を中途採用し,証拠資料の解析や取調べ等の捜査に当たっている。
 コラム[4] 「科学捜査官」って何?
 指紋,足跡等の照合を始め,捜査で科学的判断を要しないものはない。しかし,オウム真理教関連事件捜査では,サリン,VX等の合成法の解明,第7サティアン化学プラントの検証や,取調べにおける科学的知識の必要等,新たな事案に数多く直面した。これらの教訓から科学的知識を持った特別捜査官の必要性が認識され,「科学捜査官」が誕生した。
 現在,警視庁ほか数県において,科学的知識を有し,かつ,証拠資料の解析や取調べ等の捜査能力を兼ね備えたプロの捜査官を育成すべく科学捜査官が配置されている。科学捜査官は,医学,薬学,薬毒物学,化学,電気通信,情報工学,機械工学等のそれぞれの分野における専門家であり,博士や修士の学位,薬剤師や第一種電気主任技術者等の各種資格取得者もいる。
 平成10年に発生した和歌山の毒物混入カレー事件では,現場検証に対する資料採取の指導・助言や鑑定・実験結果を含めた総合的検討を行ったほか,11年発生の長崎・佐賀保険金目的殺人事件捜査でも,被害者の体内から検出された薬物の特性や代謝等に関して,医学・薬学的見地からの指導・助言を行い,それぞれ事件の立証に大きく貢献した。
 (キ) 安全な空間の確保
 a 警戒・検挙活動の強化
 ひったくり等の路上犯罪の増加に対処するため,関係部門が連携し,総合的な検挙活動を行うとともに,広報・啓発活動,先制的な警ら・警戒活動等の街頭活動の強化を図っている。
 [事例] 大阪府警察では,11年の重点目標に「ひったくり事件総合対策の推進」を掲げ,捜査体制の整備,街頭活動の強化等,関係部門が密接に連携した活動を展開した。その結果,11年のひったくりの認知件数は8,984件と,前年に比べ,1,351件(13.1%)減少し,検挙人員は1,146人と,前年に比べ,252人(28.2%)増加した。
 b 安全・安心まちづくりの推進
 従来から,警察では,地域安全活動の推進,パトロールの強化等を進めてきたところであるが,これらの防犯対策のみならず,犯罪防止に配慮した環境設計活動「安全・安心まちづくりの推進」を行っている。「安全・安心まちづくりの推進」は,道路,公園等の公共施設や住居の構造,設備,配置等について,犯罪防止に配慮した環境設計を行うことにより,犯罪被害に遭いにくいまちづくりを行うもので,関係機関と共にその推進を図っている(第2章第1節4(1)ア参照)。
 (2) 組織的な犯罪
 ア 組織的犯罪対策三法の効果的かつ適正な運用
 (ア) 制定の背景
 近年,暴力団等による薬物,銃器等の取引やこれらの組織の不正な権益の獲得等を目的とした各種の犯罪のほか,地下鉄サリン事件を始めとするオウム真理教関連事件のような大規模な組織的形態による凶悪犯罪,法人組織を利用した詐欺商法といった経済犯罪等,組織的な犯罪が多数発生し,我が国の平穏な市民生活を脅かすとともに,健全な社会・経済の維持及び発展に悪影響を及ぼしかねない状況にある。また,組織的な犯罪の問題は,国際連合やサミット等でも,最も重要な課題の一つとして継続的に取り上げられており,国際的にも協調した対応が求められ,主要国においては,法制度の整備が進んでいる。
 このような内外の要請にこたえ,組織的な犯罪に対し厳正かつ適切に対処するため,平成11年8月,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(以下「組織的犯罪処罰法」という。),犯罪捜査のための通信傍受に関する法律(以下「通信傍受法」という。)及び刑事訴訟法の一部を改正する法律が成立した。
 (イ) 組織的犯罪対策三法の概要と期待される効果
 a 組織的犯罪処罰法
 組織的犯罪処罰法(注)は,組織的な犯罪の処罰の強化により,この種犯罪に対する厳正な処罰の実現を図るとともに,犯罪収益等の規制により組織的な犯罪に対し資金面からも効果的な対処を可能にしたものである。
 同法の要点は,第1に,組織的な犯罪に関する処罰を強化することであり,一定の類型に該当する組織的な殺人,詐欺等の刑が加重された。
 要点の第2は,マネー・ローンダリングの規制等で,国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律において薬物犯罪について設けられた措置とおおむね同様の措置が一定の犯罪の収益に拡大された。具体的には,犯罪収益等を用いて法人等の事業経営の支配を目的とする行為及びその隠匿等を処罰するほか,疑わしい取引の届出制度を拡充し,銀行その他の金融機関等に対し,業務において収受した財産が犯罪収益である疑いがある場合にその届出を義務付けるなどの措置が定められた。
 警察では,疑わしい取引の届出に係る情報の活用等によるマネー・ローンダリング行為の端緒把握と,犯罪に係る資金の流れや犯罪組織の実態把握を強化するなどし,組織的犯罪処罰法を効果的に運用していくこととしており,6月末までに,3事件について,同法の刑の加重規定を適用している。
 (注) 組織的犯罪処罰法は,12年2月1日に施行された。
 [事例] 酒梅組傘下組織組長(52)は,12年2月,大阪市内のビル内において,配下構成員らを指揮して組織的に,賭客十数人を集めてサイコロ及び張り札等を使用して「サイ本引」と称する賭博を行わせるなどしていた。3月,賭博場開張等図利罪,常習賭博罪で検挙し,全国で初めて組織的犯罪処罰法(第3条第1項)を適用した(大阪)。
 b 通信傍受法
 通信傍受法(注)は,通信傍受の対象犯罪を,組織的な殺人,薬物関連犯罪,銃器関連犯罪及び集団密航関連犯罪の4罪種に限定し,裁判官の発する令状によって通信傍受を行うための厳格な要件,手続等を規定したものである。
 通信傍受には,慎重で厳格な要件が課されているが,重大な犯罪でしかも連続的,継続的,組織的に行われる犯罪に効果的であると考えられる。特に,薬物犯罪については,アメリカにおいて通信傍受が行われたもののうち,約7割が薬物犯罪であり,我が国でも,検証許可状を得て通信傍受を行った事例はいずれも薬物犯罪であった。薬物犯罪は,末端乱用者へ密売するまで数段階を経て組織的,かつ密行的に敢行されるため,従来の捜査方法では,組織の末端の者を検挙することはできても,組織の中枢にある者を検挙することは困難であった。このような薬物犯罪に対し,組織の中枢にある者等の犯罪に関連する通信を傍受することにより,その犯行の状況等を明らかにすることが可能となり,有効な武器となることが期待される。
 警察では,通信傍受法を適正に運用していくため,傍受を行うに当たって守るべき方法,手続等の必要な事項を,国家公安委員会規則,通達等に詳細に規定するとともに,通信傍受法の内容や規則・通達で規定した事項を周知徹底することとしている。
 (注) 通信傍受法は,12年8月15日に施行された。
 c 刑事訴訟法の一部を改正する法律
 刑事訴訟法の一部を改正する法律(注)では,証人等の住居等に関する事項につき,尋問の制限や,検察官及び弁護人相互間における配慮要請に関する規定を設け,証人等への危害の未然防止や不安感の軽減が図られることとなった。
 (注) 刑事訴訟法の一部を改正する法律は,11年9月7日に施行された。
 イ 暴力団犯罪
 (ア) 近年の暴力団情勢
 暴力団員の検挙人員のうち,伝統的資金獲得犯罪によるものの占める割合は,減少傾向にあるものの,11年は42.0%と,依然として高い割合を示している。
 近年,特に大きな問題となっている企業対象暴力は,9年3月に大手食品会社に係る商法違反(株主の権利の行使に関する利益供与・受供与)事件の検挙を始め,相次いで同種事件が検挙されており,国民の間で暴力団,総会屋等と企業との関係遮断を望む声が一挙に高まった。警察では,各都道府県警察に「企業対象暴力特別対策本部」等を設置して取組みを強化しており,9年の商法改正により新設された利益供与要求罪で11年までに3件を検挙しており,依然として総会屋等が企業を資金源としようとしている動向がうかがえる。
 金融・不良債権関連事犯は,8年以降,その検挙件数の増加傾向が続いており,11年中の暴力団等に係る金融・不良債権関連事犯の検挙件数は102件に上った。その内訳は,競売入札妨害事件,強制執行妨害事件等,債権回収過程におけるものがその大部分を占めており,暴力団等が金融機関の債権回収に絡んで不正に資金獲得を図っている状況が顕著にうかがえる。また,その一方で,11年には,公的融資制度を悪用した詐欺等,融資過程におけるものも目立った。
 対立抗争事件は,4年の暴力団対策法の施行後は,以前と比べ,発生事件数及び発生回数ともに大幅に減少している。しかし,9年8月に発生した山口組対中野会の対立抗争に関連すると認められる銃器発砲の発生回数が11年までに12都府県で39回に上るなどしており,依然として暴力団による対立抗争は,市民生活に重大な脅威を与えている。また,11年6月に発生した山口組対國粹会の対立抗争事件では,暴力団対策法施行後初めて事務所使用制限命令が発出された。
 けん銃の押収状況は,警察による取締りの徹底や銃砲刀剣類所持等取締法(以下「銃刀法」という。)の一部改正等を受け,暴力団は,けん銃の保管を,小口に分散させたり,情を知らない第三者を利用したりするなど,その隠匿方法をより巧妙化させたこともあり,8年以降は減少傾向にある。
 このほか,近年,「蛇頭」と暴力団が連携した中国人の集団密航事件,中国人女性の不法入国を目的とする偽装結婚事件等が相次いで検挙されるなど,国際犯罪組織と暴力団が手を組んで不法入国に絡む犯罪を敢行している事案がみられるほか,暴力団が,来日外国人の組織窃盗事件に関与したり,中国人グループを使った強盗等の凶悪犯罪を引き起こしたりしている。
 なお,11年の暴力団犯罪については,第3章2を参照。
 (イ) 暴力団総合対策の推進
 a 暴力団犯罪の取締り
 警察では,暴力団組織の中枢にあってその運営を支配している首領,幹部を始めとする暴力団員を大量反復検挙するとともに,犯行の組織性,常習性,悪質性を解明するなどし,検挙した暴力団員に適正な科刑がなされるよう努めている。また,資金源を封圧するため,伝統的資金獲得犯罪に加え,民事介入暴力,企業対象暴力,金融・不良債権関連事犯等の新たな資金獲得犯罪の取締りを推進している。さらに,暴力団が保有する銃器の摘発を進めている。
 b 暴力団対策法の効果的な運用
 民事介入暴力,対立抗争等,暴力団の不当な行為によって市民生活の安全と平穏が脅かされている状況から国民の自由と権利の侵害を防止するため,暴力団対策法が4年3月1日に施行された。同法により,従来の刑罰法令による暴力団の取締りに加え,行政的手法を用いて暴力団員による不当な行為をより広範囲に規制することが可能となった。暴力団対策法の施行以降発出した中止命令,再発防止命令の総件数は,11年末現在,それぞれ1万597件,283件に上っているほか,11年6月には,五代目山口組と國粹会との対立抗争に伴い,暴力団対策法施行後初めて,暴力団事務所の使用を制限する命令を発出した。
 c 暴力団排除活動の推進
 暴力団を根絶するためには,強力な取締りとともに,暴力団の経済的基盤を切り崩し,暴力団を社会的に孤立させるための暴力団排除活動が重要である。なかでも,暴力団対策法の規定に基づき指定を受けた都道府県暴力追放運動推進センター(以下「都道府県センター」という。)は,暴力団排除活動の中核として,警察その他の関係機関・団体と連携し,相談事業等様々な活動を活発に展開している。都道府県センターにおける暴力団関係相談の受理件数は,暴力団対策法施行後,11年末までに,約8万6,000件に上っている。また,暴力団対策法に基づき,警察及び都道府県センターは,暴力団員による不当要求の被害を受けやすい金融・保険業,建設・不動産業,ぱちんこ営業等を中心に,各事業所の不当要求防止責任者に対する講習を実施している(第3章4(1)参照)。
 ウ 銃器犯罪
 (ア) 銃器犯罪の推移
 過去のけん銃の押収丁数の推移をみると,ほぼ10年毎に大きなピークがある。第1と第2のピークは,昭和51年(押収丁数1,564丁)と59年(1,807丁)で,それぞれ,暴力団の縄張をめぐる山口組と松田組とのいわゆる大阪戦争(50~53年),三代目山口組長の後継をめぐり分裂した山口組と一和会とのいわゆる山一抗争(60~62年)等の暴力団の対立抗争事件が激化した時期であり,これらに対する取締りの結果,押収丁数が増加した。第3のピークは,平成7年(1,880丁)であるが,4年以降政官界の要人や企業幹部等を対象としたけん銃発砲事件や狙撃事件が頻発するとともに,一般市民に対するけん銃使用殺人事件が相次いで発生したことから,情勢の深刻化を受けた数次にわたる銃刀法の改正や取締り体制の強化等により,押収丁数が増加した(図1-26)。
 (イ) 近年の銃器情勢
 けん銃の押収丁数は,7年以降減少しており,11年は1,001丁であった。しかし,銃器発砲件数は8年以降増加を続け,けん銃使用犯罪の発生件数も8年以降かつてない高水準で推移するなど,依然として社会に相当数の違法銃器が潜在していることが推測される。けん銃押収丁数の減少の背景には,暴力団等の犯罪組織によるけん銃等の組織的管理の強化とそれに伴う隠匿方法の巧妙化があるものと考えられる。
 (ウ) 銃器対策の推進
 暴力団等の犯罪組織による組織的なけん銃等の隠匿事犯や密輸・密売事犯の摘発に当たっては,これらの犯罪が巧妙かつ密行的に行われる組織犯罪であることを念頭に,より的確かつ効果的な情報の収集,分析及び活用を可能とする質の高い銃器捜査力の充実を図っていく必要がある。そのため,全国の都道府県警察において銃器捜査の専従体制を整備し,銃器事犯に関する情報収集の強化を図るとともに,都道府県警察間の共同・合同捜査を積極的に推進し,捜査情報の全国的な共有と,けん銃の密輸・密売等の広域的な組織犯罪の効果的な事件化に努めている。さらに,クリーン・コントロールド・デリバリー(注)等新しい捜査手法の積極的な活用に努めている。
 また,国内外の様々な関係当局と連携したより効果的な組織犯罪対策を推進するため,国内では税関,海上保安庁等の取締り関係機関との共同捜査や共同訓練を通じた連携の強化を進めるとともに,諸外国の取締り当局とも積極的な情報交換等の協力を推進している。
 さらに,国連で国際組織犯罪条約起草作業の一環として進められている銃器議定書の起草作業に積極的に参加している(第2章第3節1(4)参照)。
 (注) コントロールド・デリバリーとは,取締り機関が規制薬物等の禁制品を発見しても,その場で直ちに検挙することなく,十分な監視の下にその運搬を継続させ,関連被疑者に到達させてその者らを検挙する捜査手法をいう。
 なかでも,クリーン・コントロールド・デリバリーとは,銃器等の禁制品を発見した際に,別の物品と差し替えて行うものをいう。
 エ 薬物犯罪
 (ア) 薬物犯罪の推移
 我が国で初めて薬物乱用が社会問題化したのは,戦後から昭和30年代初頭にかけてであり,29年をピークとする「第一次覚せい剤乱用期」には,年間5万5,664人が覚せい剤事犯で検挙された。その後,59年の検挙人員2万4,022人をピークとする「第二次覚せい剤乱用期」を迎えた(図1-27)。覚せい剤の「仕入価格」と「末端価格」の利ざやが大きく,また,覚せい剤の依存性から安定した需要が得られることに,暴力団が資金源として着目し,国際的な薬物犯罪組織と結託して密輸入を行い,国内の密売網を支配したことがその背景にある(第2章第3節2参照)。
 (イ) 近年の薬物情勢
 平成に入り1万5,000人前後で推移してきた覚せい剤事犯の検挙人員は,7年ころから急激に増加に転じ,中・高校生を始めとする少年の覚せい剤乱用が顕著になるとともに,覚せい剤取締法違反で初めて検挙される者の割合が全検挙人員の半分を占めるに至るなど,覚せい剤乱用のすそ野が拡大している。9年には,検挙人員が1万9,722人に上り,「第三次覚せい剤乱用期」の到来という認識が定着するに至った。その背景には,暴力団に加え,新たにイラン人の密売組織が街頭で相手を選ばず無差別に密売を行うようになり,少年を始め誰でも覚せい剤を容易に入手することができるようになったことがある。また,国際的な薬物犯罪組織が関与する我が国への覚せい剤の大量流入も,その背景となっており,11年には,過去に経験のない2トンに迫る覚せい剤を押収するなど,「第三次覚せい剤乱用期」という深刻な事態が依然として継続している。
 (ウ) 薬物対策
 薬物の密輸・密売は,組織的な犯罪の典型である。海外の密造・密輸組織との交渉,密輸入,運搬,密売等を計画的に役割分担していること,組織内部の統制が徹底され,検挙しても組織の実態についての供述を得ることが困難であること,組織的な証拠隠滅を図ることなどにより,犯行の全容を解明するには大きな困難が伴う。
 加えて,最近では,船舶での密輸の際にGPS(人工衛星から発した電波を用いた電波航法システム)を使い,あるいは,契約者が特定できない通話料前払い方式(プリペイド方式)携帯電話を連絡の手段とするなど,新しい情報通信技術を悪用したり,薬物の運搬等に航空貨物,宅配便等の物流サービスを悪用するなど,手口の巧妙化が著しくなっており,捜査はますます困難化している。
 こうした状況を踏まえ,警察では,薬物の押収や薬物犯罪組織の末端構成員の検挙のみならず,組織の中枢に位置する者の検挙により薬物犯罪組織の壊滅と薬物犯罪の根絶を図るため,密輸・密売事犯に対するコントロールド・デリバリー等の各種捜査手法の積極的活用,薬物犯罪収益等のはく奪の強化,来日外国人密売組織に対する取締りの徹底等の諸対策を推進している。
 (3) 複雑化する経済活動に伴う犯罪
 ア 金融・不良債権関連事犯を始めとする企業犯罪
 (ア) 金融・不良債権関連事犯
 住宅金融専門会社(以下「住専」という。)の不良債権をめぐる問題に関し,平成7年12月,住専問題を処理するための公的資金導入が決定されたことを契機として,金融機関役職員による背任事件等の金融機関等をめぐる犯罪の徹底追及を望む国民の声が,かつてない高まりをみせた。これに対応するため,警察では,いわゆる貸し手,借り手の刑事責任の追求,債権回収妨害事件の検挙等を行っている。
 11年中の金融・不良債権関連事犯の検挙件数は,198件(102件(注))で,前年に比べ16件減少(17件増加)した。その内訳をみると,融資過程における詐欺,背任事件等の検挙が33件(18件),債権回収過程において民事執行を妨害するなどした競売入札妨害,公正証書原本不実記載事件等の検挙が103件(84件),その他の金融機関役職員による詐欺,背任事件等の検挙が62件となっているが(図1-28),都市銀行や長期信用銀行による商法違反(特別背任)事件,外資系金融機関による事件等,大規模化,複雑化及び国際化が顕著になっている。
 (注) ( )内は,暴力団等(暴力団,暴力団構成員,準構成員,総会屋等及び社会運動等標ぼうゴロをいう。)に係る金融・不良債権関連事犯の件数を示す。
 [事例1] 都市銀行元頭取(62)らは,共謀の上,6年4月ころから9年10月ころまでの間,リゾート開発会社等の利益を図る目的をもって,同社に返済能力がなく,貸し倒れになる危険性が極めて高いことを知りながら,十分な担保を確保することなく,合計約96億円の融資を行い,同行に対し,同額の損害を与えた。11年3月,商法違反(特別背任)で検挙した(北海道)。
 [事例2] 長期信用銀行頭取(63)らは,共謀の上,10年6月ころ,大蔵省関東財務局長に対し,同行の9年度の決算には約5,800億円の当期未処理損失があったのに,これを過少の約2,700億円に圧縮して計上した貸借対照表等を掲載するなど,重要な事項につき虚偽の記載のある有価証券報告書を提出した。
 さらに,同事業年度の決算を行うに当たり,配当可能利益は皆無であったにもかかわらず,10年6月ころ,約71億円の利益配当を行った。11年6月,証券取引法違反(有価証券報告書虚偽記載)及び商法違反(違法配当)で検挙した(警視庁)。
 [事例3] 外資系銀行と同行支店長(46)らは,金融監督庁が銀行法に基づき11年1月から実施した立入検査に際し,共謀の上,検査官に対し,あえて同支店の書類保管場所倉庫の記載を削除した支店内見取図を提出した上,同倉庫内保管書類について検査官に対して秘匿し,検査を忌避した。11月,銀行法違反(検査忌避)で検挙した(警視庁)。
 (イ) 企業犯罪
 企業は,現代社会における経済活動の主体であり,市場経済は企業の公平で公正な競争により健全な発展を遂げるべきものであるが,いわゆるバブル経済崩壊後は,財務面での体質悪化により経営破たんに至る企業が増加し,その破たんに至る過程又は破たん処理の過程において企業経営陣による経済取引の健全性・公正性を大きく害する商法違反,証券取引法違反,背任等の不正事犯が多数顕在化した。これらの企業を舞台にした犯罪は,多くの国民に多額の金銭的被害をもたらすだけでなく,経済・社会に与える影響も甚大であることから,積極的な摘発活動を推進している。
 [事例] 港湾運送会社代表取締役社長(56),常務取締役(58)らは,同代表取締役社長らが実質的に支配していた別会社の利益を図る目的で,8年11月ころから9年3月までの間に,当該別会社に返済能力がないことを知りながら,担保を徴求せずに貸し付けるなどして,同社に合計約37億6,000万円の損害を与えた。11年2月,商法違反(特別背任)で検挙した(神奈川)。
 イ 金融・不良債権関連事犯対策及び企業犯罪対策
 (ア) 捜査体制の整備
 8年,警察庁に,金融・不良債権関連事犯対策室を設置するとともに,都道府県警察において,所要の捜査員を確保するなど体制の整備が行われた。また,9年には,警察庁に金融・不良債権関連事犯担当の長官官房参事官が設置された。
 (イ) 財務捜査力の強化
 我が国の経済活動は,国際化の進展,いわゆるデリバティブに代表される金融商品の複雑化,電子商取引を始めとする商取引方法の発達,企業会計制度の改革等により,かつてないほど複雑・高度化している。一方,金融・不良債権関連事犯や企業犯罪を始めとする経済活動に伴う犯罪では,その背景,動機,実行行為等を明らかにするため,客観的な資料に基づいて計数的に企業の実態を把握すること(財務捜査)が必要不可欠である。
 a 財務解析センターの設置
 9年には金融機関等から押収した膨大な量の財務関係書類を迅速かつ精緻に分析するため,金融機関の本支店や,大口融資先等が集中する地域を管轄する警視庁と大阪府警察に,財務捜査のための総合施設としての財務解析センターが設置された。また,各都道府県警察に高度な機能を備えた財務解析機器が配備されている。
 b 財務捜査官の育成
 警察庁では,捜査員を対象に,簿記等の基礎知識に関する講義や実践的な演習を行うなど,財務捜査に必要な知識,効果的な財務捜査手法等のかん養に努めているほか,各都道府県警察においても,独自の簿記教養を実施するなど,財務捜査力の強化を図っている。
 また,5年3月に長野県警察で財務解析能力を有する者を財務捜査官として登用したのを始めとして,6年2月には千葉県警察で公認会計士を採用するなど,各都道府県警察では,公認会計士等の資格を有する者を財務捜査官として積極的に中途採用している。12年1月現在,17都道府県警察において合計43人が財務捜査官として勤務しており,金融・不良債権関連事犯,企業犯罪等の捜査過程で,企業等から押収した証拠品の精査や財務解析等に多大な貢献をしている。
 警察では,金融・不良債権関連事犯や企業犯罪等に対する財務捜査の重要性にかんがみ,経済活動の複雑・高度化,金融・不良債権関連事犯や企業犯罪の大規模化に対応し得る財務捜査力を確立するため,今後も更に,教育訓練の充実強化,財務捜査官の専門知識・技能等の向上のための施策等を推進していくこととしている。
 [事例] 長期信用銀行代表取締役会長(68)らによる証券取引法違反(有価証券報告書虚偽記載)捜査では,同銀行と複数の関連会社相互の間の資金移動の状況や財務状況を解明する必要があったが,財務捜査官による的確な捜査によりそれらを迅速かつ詳細に分析することができ,事件の早期解明に至った。また,同事案では,専門捜査員制度(5(2)ウ参照)を活用し,大阪府警察他8府県警察から財務捜査官等の応援派遣を受けた(警視庁)。
 (4) 国境を越える犯罪
 ア 国境を越える犯罪の現状
 (ア) 来日外国人犯罪の増加と国際犯罪組織の我が国への進出
 近年,来日外国人(注1)犯罪が急増している。来日外国人犯罪の統計を取り始めた昭和55年の刑法犯検挙件数は867件,検挙人員は782人であったが,平成11年にはそれぞれ2万5,135件,5,963人と,昭和55年当時に比べ件数で29.0倍,人員で7.6倍となっている(図1-29)。
 その内容も,組織的な窃盗・強盗事件,国内外の密航請負組織が関係する集団密航事件,国境を越えて身の代金要求が行われる外国人同士の誘拐事件,青少年に対する薬物密売事件等,組織性が高く悪質なものが目立っている。また,我が国で違法に使用される銃器・薬物の大部分は海外から流入したものとみられるほか,犯罪や不法就労によって得た資金を不正に海外へ送金する手段として「地下銀行」が利用されている。
 特に,近年,国際犯罪組織(注2)の我が国への進出が顕著となっている。例えば,香港の国際犯罪組織「香港三合会」の構成員が日本国内で凶悪事件を引き起こしているほか,韓国人すりグループによる暴力的なすり事件も発生している。また,国内に根付いた不法滞在者等が犯罪グループを形成し,組織性の高い犯罪を敢行している(第7章1参照)。
 (注1) 来日外国人とは,我が国にいる外国人から定着居住者(永住者等),在日米軍関係者及び在留資格不明の者を除いた者をいう。
 (注2) 国際犯罪組織とは,その明確な定義はされていないが,本白書では,国際犯罪を行う多数人の集合体のことをいい,外国に本拠を置く犯罪組織や不法滞在外国人等によって構成された外国人犯罪グループ等がこれに当たる。
 (イ) 被疑者の国外逃亡事案
 犯罪を引き起こした後,国外へ逃亡する者の数は,11年末現在では460人と,警察庁が調査を始めた昭和52年以来最も多い(図1-30)。
 11年末現在の日本人を含む国外逃亡被疑者のうち,出国年月日が判明している142人について,その犯行から出国までの期間をみると,犯行当日に出国した者が3人,犯行翌日に出国した者が15人おり,犯行から10日以内の短期間のうちに47人の者が出国している。
 警察では,被疑者が国外に逃亡するおそれがある場合は,港や空港に手配するなどしてその出国前の検挙に努めており,出国した場合でも,関係国の捜査機関等の協力を得ながら,被疑者の所在を確認し,また,国際刑事警察機構(ICPO)に対し,国際手配書の発行を請求するなど,被疑者の発見及び検挙に努めている。
 日本人の逃亡被疑者が発見されたときは,逃亡先国において不法滞在等により身柄拘束され,強制退去処分に付された被疑者の身柄を公海上の航空機内において引き取るなど,逃亡犯罪人引渡しに関する条約又は相手国の国内法に基づく国外退去処分等により,その者の身柄の引取りを行っている。11年中には,14人の身柄を引き取っており,うち8人は,フィリピンへ逃亡していたものである。
 [事例1] タイへ逃亡した強盗殺人被疑者(32)について,同国に対して協力要請を行った結果,国外退去処分に付された同人を,公海上の航空機内において逮捕した(新潟)。
 [事例2] 偽造パスポートで韓国の愛人方に逃亡した強盗被疑者(39)について,同国に対して協力要請を行った結果,国外退去処分に付された同人を,公海上の航空機内において逮捕した(和歌山)。
 イ 国境を越える犯罪への対応
 (ア) 国際捜査力の強化
 a 国際捜査体制の整備
 警察では,凶悪化・組織化する来日外国人犯罪の捜査に総合的に取り組むとともに,捜査体制の充実強化を図っている。
 従来,警察庁刑事局では,ICPOとの連絡事務や国際捜査共助業務を刑事局調査統計官が,国際犯罪捜査の業務を主として刑事局捜査第一課が担当していたが,ICPOを中心とした国際捜査共助体制や国際犯罪の捜査体制の強化を図るため,昭和50年に国際刑事課が新設された。さらに,平成6年には,国際刑事課が所掌していた事務を含む国際協力業務,外国の警察行政機関等との連絡及び来日外国人問題への対応を統一的かつ効果的に推進する体制を整備することを目的として,同課を廃止し,長官官房に国際部を設置した。
 一方,都道府県警察の刑事部門においても,昭和63年に全国で初めて国際捜査課が警視庁に設置されて以降,大阪,愛知,千葉,神奈川及び埼玉の各府県警察に設置されている。このほか,茨城県警察に組織犯罪対策課,三重県警察に国際対策課が設置されるなど,専任捜査体制が拡充されている。
 b 国際捜査官の育成
 来日外国人犯罪等の捜査に従事する警察官には,外国語はもとより,出入国管理,国際捜査共助,刑事手続等に関する条約その他国内外の法制等,極めて幅広い分野に関する特別の知識が要求され,従来から部内又は部外委託により語学研修を行うとともに,国際捜査実務に関する研修を行ってきた。
 60年には,国際捜査官の体系的な養成を目的として警察大学校に国際捜査研修所が設立され,現在,国際捜査に関する実務研修,北京語,韓国語等アジア諸国の言語を中心とした語学教育,海外研修等を行っている。
 c 通訳体制の整備
 来日外国人被疑者の人権に十分に配慮した適正な捜査を推進するためには,被疑者等の供述を正確に把握することはもとより,我が国の刑事手続を理解させ,権利の告知を確実に行うことが不可欠である。都道府県警察においては,高い語学能力を備えた者を警察職員として採用し,取調べにおける通訳等に当たらせている。
 また,近年,アジア出身者を中心とする来日外国人犯罪が急増し,アジア系言語等の通訳人の需要が急増している。このため,警察部内でそのすべてに対応することが困難となっており,通訳の一部を部外の通訳人に依頼して対応している(第7章2(1)イ参照)。
 (イ) 外国捜査機関との協力
 国際犯罪の増加に伴って,外国捜査機関に対する各種照会や証拠資料の収集の依頼等を行うことが一層重要となり,従来に増してICPOルートや外交ルート等による外国捜査機関との情報交換を始めとした相互協力の必要性が高まっている。
 過去10年間に警察庁が行った国際犯罪に関する情報の発信・受信の総数は,表1-7のとおりである。また,国際捜査共助法に基づき外国からの要請に応じて捜査共助を実施した件数は,増加傾向にある。その大半はICPOルートによるものである(表1-8)。
 ウ 国際社会における国際犯罪対策への取組み
 国境を越えて引き起こされる国際犯罪は,我が国だけでなく諸外国においても治安上の重要課題となっている。国境を越えて引き起こされる国際犯罪に対抗するためには,国際的な捜査協力が不可欠であり,近年,サミット,国連を始めとした国際協議の場でも国際犯罪対策が重要なテーマとなっている。我が国警察も,国際社会における国際犯罪対策への取組みに積極的に参加し,その貢献に努めている。
 (ア) サミット等における各種取組み
 サミットでは,早くから薬物やハイジャック,国際テロ等の問題が取り上げられてきた。薬物問題は,1985年(昭和60年)に開催されたボン・サミットで初めて取り上げられ,その後,国連麻薬新条約の採択(1988年(63年))やFATFの創設に至っている。1994年(平成6年)に開催されたナポリ・サミットでは,国際犯罪問題がそれまでのテロや薬物等のような個別の問題としてではなく,包括した形で取り上げられた。また,翌1995年(7年)に開催されたハリファクス・サミットでは,「国際組織犯罪対策上級専門家会合(リヨン・グループ)」の設置が決定された。以後,毎年のサミットにおいて,国際犯罪対策が課題として取り上げられている。リヨン・グループは,今日における国際犯罪対策協議の中核として,「国際組織犯罪と闘うための40の勧告」を策定したほか,ハイテク犯罪,銃器,人の密輸,司法協力,法執行プロジェクト等のサブグループを設置するなど刑事法制から具体的捜査事案に至るまで幅広い取組みをみせている。
 なお,我が国は,2000年(平成12年)のリヨン・グループの議長国を務めており(議長は警察庁国際部長),同グループ内に設置された銃器サブグループでは,警察庁国際第二課長が議長を務めている。
 また,2000年(平成12年)7月に開催された九州・沖縄サミットにおいて,国際犯罪及び薬物問題が首脳会合の議題として取り上げられ,ハイテク犯罪,マネー・ローンダリング,薬物等の問題に対して,G8が協調して取るべき方策について合意がなされた(第7章2(2)ウ(ア)参照)。
 (イ) 国際組織犯罪条約(TOC条約)策定への取組み
 1998年(平成10年)5月に開催されたバーミンガム・サミットで,初めて「国際組織犯罪」が主要議題の一つとして取り上げられ,国際組織犯罪条約の2000年(12年)末までの採択が対策の一つとして示された。これを受け,1998年(10年)12月,国連総会決議で政府間特別委員会が設置され,本条約についての討議と人の密輸(女性・児童等の不正取引等),銃器の密造及び不正取引,不法移民(密入国の助長等)の三つの分野に関して本条約を補足するための国際文書(議定書)の討議が行われている。
 本条約案は,刑事実体法,手続法双方の広範な分野に及ぶもので,国際組織犯罪の一層効果的な防止が図られることが期待される。
 (ウ) 国際的なマネー・ローンダリング対策
 マネー・ローンダリングを防止するとともに,緊密な国際協力を行っていくためにFATF(Financial Action Task Force),エグモント・グループ,アジア・太平洋マネー・ローンダリング対策グループ(APG:Asia/Pacific Group on money laundering)等複数の国際的な会合が形成されている。なかでも,FATFは,1989年(平成元年)のアルシュ・サミットで設置が決定されたマネー・ローンダリング対策に関する国際協力を推進するための国際フォーラムであり,我が国を始めとしてOECD加盟国を中心とした29か国・地域と2国際機関が参加し,対策を協議している。
 現在,FATFは,マネー・ローンダリングに対する包括的な諸対策を示した「40の勧告」を世界規模に拡大し,マネー・ローンダリングの規制の「抜け穴」を塞ぐため,金融機関にに対する規制が不十分で国際的な司法・捜査協力に消極的であるなどの基準により,15の国・地域をマネー・ローンダリング対策の非協力国・地域と認定して改善措置を求めている(第7章2(2)ウ(ウ)参照)。
 (5) 高度情報化社会における犯罪
 ア ハイテク犯罪の現状
 (ア) 情報化社会の現状
 平成11年11月,政府は15年度までに電子政府の基盤を構築することを盛り込んだ「経済新生対策」を策定した。一方,国民生活にはインターネットが浸透し,経済活動における電子商取引の本格的な普及も見込まれている。このような情報化社会の進展に伴い,ハイテク犯罪(注)やサイバーテロの脅威がますます増加する傾向にある。
 米国では,軍やFBI等の通常よりも高いセキュリティ対策が求められるサーバに対する侵入事案も発生しており,サイバーテロの脅威が現実のものとなりつつある。
 我が国でも,12年1月,中央省庁等のホームページが改ざん・消去されるなどの事案が相次いで発生しており,ネットワーク社会のぜい弱性に改めて警鐘を鳴らすこととなった。
 (注) ハイテク犯罪とは,コンピュータ技術及び電気通信技術を悪用した犯罪を指す。
 (イ) ハイテク犯罪の特徴と主な事例
 ハイテク犯罪の主な特徴としては,匿名性,無こん跡性,不特定多数の者に被害が及ぶこと,さらには,暗号による証拠の隠ぺいが容易であること,国境を越えることが容易であることなどが挙げられる。
 11年中のハイテク犯罪の検挙件数は357件であり,このうちネットワーク利用犯罪が247件と,前年に比べ131件(112.9%)大幅に増加した(図1-31)。
 11年に検挙したハイテク犯罪をみると,ネットワーク利用犯罪が大幅に増加したのに加え,罪種も多様化しているほか,他人・架空名義でプロバイダ契約,銀行口座の開設等を行う「なりすまし」事案が多発していることがその特徴として挙げられる。
 [事例1] 広告代理店社長(41)ら10人は,10年10月ころから,インターネットでわいせつ図画を有料で見せようとするホームページ開設者ら6人に対し,米国のレンタルサーバ会社から借りたサーバの一部を転貸して,インターネット上にわいせつ図画の陳列場所を提供し,わいせつ図画を公然陳列した。11年4月までに,同社長らをわいせつ図画公然陳列罪で検挙した(大阪)。
 [事例2] 11年8月,無職の男(27)は,学校法人が使用している電子メールアドレスに,同校職員,生徒の生命・身体等に危害を加える旨を記載した電子メールを送信し,同校職員にこれを閲覧させ脅迫した。9月,脅迫罪で検挙した(警視庁)。
 [事例3] 高校の男子生徒(17)は,11年7月から9月の間,インターネットのホームページに,青酸カリやクロロホルムを販売する旨の虚偽の情報を掲載し,他人のID・パスワードを窃用した上で電子メールで購入希望者と連絡を取り合い,代金を架空名義の口座に振り込ませてだまし取った。10月,詐欺罪で検挙した(愛知)。
 イ ハイテク犯罪対策の推進
 (ア) 政府の取組み
 a サミット等における取組み
 情報通信技術の進展は,各国の社会・経済に大きな利便を与える一方,サイバーテロ,ハッカー行為等の形でハイテク犯罪の脅威を世界的にも深刻化させている。G8諸国では,この問題に重点を置き対策の検討を進めており,我が国としてもハイテク犯罪に適切に対処すべくサミットや閣僚会合の場等における国際的取組みに積極的に貢献している。
 1997年(平成9年)12月,米国で,国際組織犯罪関連では初めてのG8司法・内務閣僚級会合が開催された。同会合では,特にハイテク犯罪対策が議論され,「ハイテク犯罪と闘うための原則と行動計画」が策定された。
 1998年(平成10年)のバーミンガム・サミットでは,各国首脳間でハイテク犯罪対策が論議され,引き続き,1999年(11年)10月には,モスクワで国際組織犯罪対策G8閣僚級会合が開催され,我が国からは国家公安委員会委員長,法務大臣が出席した。同会合では,ハイテク犯罪が主要議題の一つとして議論され,ハイテク犯罪に対する更なる取組みの推進とともに,「蔵置されたコンピュータ・データに対する国境を越えるアクセスに関する原則」が合意された。
 b 高度情報通信社会推進本部
 10年11月に高度情報通信社会推進本部(注)が決定した「高度情報通信社会推進に向けた基本方針」では,「ハイテク犯罪対策・セキュリティ対策・プライバシー対策」が重要な施策と位置付けられた。
 また,同基本方針に基づき,11年4月には,関係省庁が一体となって推進すべき情報通信関連施策を取りまとめた「アクション・プラン」が同本部で決定され,「サイバーポリスの充実強化」,「不正アクセス対策法制の整備」,「なりすまし犯罪対策等の暗号技術の不正利用対策」等が盛り込まれた。
 (注) 我が国の高度情報通信社会の構築に向けた施策を総合的に推進するとともに,情報通信の高度化に関する国際的な取組みに積極的に協力するため,内閣に設置されたもの。12年7月,情報通信技術(IT)戦略本部に発展的に改組された。
 c 情報セキュリティ対策推進会議
 11年9月,政府は,ハッカー対策等の基盤整備,サイバーテロ対策,法整備の検討等の情報セキュリティ政策について,政府として総合的な対策の推進を図るため,「情報セキュリティ関係省庁局長等会議」を設置した。
 同会議は,12年1月,「ハッカー対策等の基盤整備に係る行動計画」を策定しており,12月を目途に「サイバーテロ対策に係る特別行動計画」を策定する予定である。
 なお,「ハッカー対策等の基盤整備に係る行動計画」を策定した直後に,中央省庁等のホームページが相次いで改ざんされる事案が発生したことを受け,12年2月,高度情報通信社会推進本部に情報セキュリティ関係省庁局長等会議が発展的に改組され,「情報セキュリティ対策推進会議」が設置された。
 (イ) 警察の取組み
 警察庁では,バーミンガム・サミットの「コミュニケ」を受け,また急増するハイテク犯罪に的確に対処するため,10年6月に「ハイテク犯罪対策重点推進プログラム」を策定,公表した。本プログラムでは,サイバーポリスの創設,不正アクセス対策法制の整備,産業界との連携強化,国際捜査協力のためのルールづくりの四つを重点施策と位置付けている。
 また,政府の「ハッカー対策等の基盤整備に係る行動計画」の策定を受け,警察における情報セキュリティ政策を体系的かつ総合的に推進するために,12年2月,「警察庁情報セキュリティ政策大系」を策定し,政府の行動計画に沿って,ハイテク犯罪対策,電子政府実現に向けたサイバーテロ対策及び産業界との連携強化を軸とした総合的な施策を推進することとしている。特に,サイバーテロ対策について,安全で信頼される電子政府の実現のため,監視・緊急対処体制の整備,高度な技術力を備えた人材の育成等の諸施策を推進することとしている。
 a サイバーポリスの創設
 (a) ナショナルセンターの設置
 ハイテク犯罪の特性を踏まえ,サイバーテロ等の新たな脅威から社会を防衛していくためには,情報通信に関する高度かつ最先端の技術力を確保する必要がある。11年4月には,警察法の一部を改正する法律が施行され,電磁的記録の解析その他情報通信の技術を利用する犯罪の取締りのための情報通信の技術に関する事務を警察庁情報通信局に追加することとされた。また,同月,ハイテク犯罪対策に関し都道府県警察を技術的にリードするナショナルセンターとして,警察庁情報通信局に技術対策課を新設し,さらに,その技術的中核として,同課に警察庁技術センターを開設した。
 (b) 都道府県警察の体制整備
 都道府県警察では,企業等においてシステム・エンジニアとしての勤務経験を有する者等をハイテク犯罪捜査官として中途採用するほか,ハイテク犯罪対策プロジェクトを設置するなど,捜査体制の整備を進めている。
 b 不正アクセス行為の禁止等に関する法律
 警察庁は,通産省及び郵政省と共に,不正アクセス行為や不正アクセス行為を助長する行為の禁止・処罰,都道府県公安委員会による援助等を規定する法案を第145回国会に提出した。11年8月,不正アクセス行為の禁止等に関する法律が成立し,12年2月13日に施行された(ただし,援助に関する規定については12年7月1日に施行された)。
 c 国際的な連携強化
 国際ハイテク犯罪対策を扱っているG8リヨン・グループのハイテク犯罪サブグループでは,9年のG8司法・内務閣僚級会合で策定された「ハイテク犯罪と闘うための原則と行動計画」等に基づき,国際捜査協力や各国国内の体制整備に関する議論がなされている。
 警察庁では,11年5月に設置した情報化政策室に,6月,作業部会として国際ハイテク犯罪ワーキング・グループを置き,ハイテク犯罪の特殊性に対応すべく,24時間コンタクト・ポイントを活用した迅速な国際捜査共助の実現や国際的なハイテク犯罪捜査における手続上の問題点について総合的な検討を行っているほか,先進諸国の関係機関との協調関係構築に向けて,専門家の育成を目的とした相互交流等を行っている。
 d 産業界との連携
 匿名性,無こん跡性,地理的・時間的無制約性といったネットワークの特性は,ハイテク犯罪の予防や捜査を困難なものとしており,今後予想されるハイテク犯罪やサイバーテロの脅威の増加に対処するためには,電気通信事業者等産業界との緊密な連携を確保していくことが重要である。
 産業界との連携は,国際的にもハイテク犯罪対策における主要なテーマの一つとされている。2000年(平成12年)5月にはパリにおいて「G8ハイテク犯罪対策政府・産業界合同会合」が開催され,G8各国の政府・産業界の代表者がハイテク犯罪対策に関する産業界と政府の協力関係構築の第一歩として率直な意見交換を行い,今後の継続的な協力関係を構築することで認識が一致した。
 さらに,九州・沖縄サミットにおいて,ハイテク犯罪に対する国際的に協調した対応の必要性が首脳レベルで合意されたほか,産業界との対話の促進について具体的な方向が示された。
 e 暗号技術の不正利用対策
 暗号技術は,情報の保護や本人確認をネットワークにおいて確保する重要なセキュリティ技術であるが,犯罪に係る情報の隠ぺいや,認証システムを悪用した「なりすまし」詐欺等に不正に利用されることによって,その技術が犯罪を助長することも予想される。このような認識の下,警察庁は,高度情報通信社会推進本部決定の「高度情報通信社会推進に向けた基本方針」に基づき,電子認証制度のセキュリティ確保について検討を進めてきたところである。12年5月に公布され,13年4月に施行される予定の電子署名及び認証業務に関する法律においては,電子認証業務に係る犯罪防止のために,国家公安委員会が主務大臣に必要な措置を要請することができるとする規定が盛り込まれた。今後,この規定の的確な運用を含め,電子商取引の安全性確保に努め,犯罪防止対策を推進することとしている。
 ウ カード犯罪
 (ア) カード犯罪の推移
 昭和44年の現金自動支払機(CD機)の導入以降,キャッシュカードの発行枚数が飛躍的に増大し,50年代に入ると,人と接触することなく迅速・確実に現金を引き出せるというCD機の特性を悪用して,窃盗等により不法に取得した他人のキャッシュカードを使って現金を引き出す事案が増加するようになった。また,クレジットカードの普及も進み,カード利用者が支払能力がないのにクレジットカードを利用したり,窃盗等により不法に取得したクレジットカードを利用して加盟店から商品等をだまし取る詐欺事件が増加した。さらに,現金自動支払機を利用できる消費者金融カードを悪用した事案も発生するようになった。その利便性から急速に普及した各種カードは,犯罪に利用されることも多くなり,カード犯罪(クレジットカード,キャッシュカード及び消費者金融カードを悪用した犯罪をいう。)の認知件数は,50年代に急激に増加し,60年には1万6,000件を超え,ピークを迎えた。その後も,認知件数,検挙件数及び検挙人員ともに,高水準で推移している。
 平成11年中のカード犯罪の認知件数は5,991件,検挙件数は5,032件,検挙人員は1,213人で,その態様は,国際犯罪組織や暴力団が関与する事案が目立っている。また,近年,クレジットカードの磁気データをカード所有者本人に気付かれぬよう窃取し(スキミングと呼ばれる。),偽造カードを作成し,悪用する事案が発生している(図1-32)。
 [事例1] マレーシア人の男(39)は,11年6月,日本への入国の際,偽造クレジットカード450枚を関税法上の許可なく輸入しようとした。その後の捜査により,マレーシア人犯罪組織が,東京都内にクレジットカード偽造工場を設けていることが判明し,捜索を行った結果,偽造クレジットカード,データ未入力のプラスチックカード,偽造機器等を押収した。輸入を図った男を,同月,関税法違反で検挙し,偽造工場にいた別のマレーシア人の男(33)をクレジットカード偽造の有印私文書偽造罪で,また,この偽造クレジットカードを使用した関連被疑者4人を11月までに詐欺罪等で検挙した(千葉)。
 [事例2] 「香港三合会」関係者の男(34)は,マレーシア人の男(31)と共謀の上,11年3月,東京都内のマンションの一室において,パソコン,カードリーダー等を使用して,不正に入手したアメリカ人のクレジットカードの会員番号,有効期限等を,プラスチックカードの磁気ストライプ部分に入力するなどして,電磁的記録を不正に作出した。12月,私電磁的記録不正作出罪で検挙した(警視庁)。
 (イ) カード犯罪対策
 カード犯罪の中でも,クレジットカード犯罪は,カードの磁気データやカード原板が国境を越えて移動し,高度な技術を持つ国際犯罪組織によって偽造が行われるようになるなど,これまでにない新たな形態がみられる。このため,警察においても,国際的な協力が必要との観点から,様々な取組みを行っている。
 国際刑事警察機構(ICPO)は,1994年(平成6年),「第1回支払カード詐欺会議」を開催し,支払カード詐欺に取り組むための決議を行った。また,G8においても1998年(10年)1月,リヨン・グループの分科会の一つである法執行プロジェクト・サブグループで「国際支払カード犯罪に関するプロジェクト」を発足させ,2000年(12年)5月までに,同プロジェクトにおいて,G8当局間の協力強化と対策の在り方が取りまとめられた。
 一方,国内でも,カード犯罪対策が重要な課題の一つであるとの認識から,関係省庁・関係機関との連携が進められており,警察庁,法務省,通産省等の関係行政機関が,クレジットカードを始めとするペイメントカード(支払カード)犯罪対策関係省庁連絡協議会を平成11年12月に設置し,法整備を含めた必要な対策について意見交換等を行っている。
 また,警察とカード発行会社の間では,クレジットカード犯罪対策連絡協議会が,5年以降12都道府県に設置されるなど,クレジットカード犯罪防止対策のための連携を強化している。
 (6) 深刻化する少年非行
 ア 少年非行情勢
 戦後の少年非行の推移を主要刑法犯の検挙人員,人口比(注)でみると,図1-33のとおりで,昭和26年をピークとする第1の波,39年をピークとする第2の波,58年をピークとする第3の波,そして,平成8年から始まる第4の波がある。現在の第4の波の特徴としては,「おやじ狩り」等と称する路上強盗やひったくりの急増にみられる少年非行の凶悪・粗暴化の進行,覚せい剤等の薬物汚染や女子少年の性の逸脱行為の拡大といった問題の深刻化,凶悪犯の集団化の進行のほか,経済的には一見何の問題もないと思われる「普通の家の子」による「いきなり」型の非行が目立つなどの質的変化がみられる。その背景としては,少年自身の規範意識の希薄化,家庭や地域社会の少年問題への無関心,少年を取り巻く環境の急速な悪化等の要因が複雑に絡み合っていることが挙げられる。
 (注) 人口比とは,同年齢層の人口1,000人当たりの検挙人員をいう。
 イ 少年が被害者となる犯罪
 過去10年間の少年が被害者となった刑法犯の認知件数は,図1-34のとおりである。
 少年が被害者となった刑法犯の認知件数の総数は,4年以降減少傾向にあるが,凶悪・粗暴な犯罪の被害件数は増加している。
 また,性犯罪(強姦及び強制わいせつ)被害は,3年以降増加傾向にあり,過去10年間では1.8倍となっている。これを学職別でみると,過去10年間では小学生が1.7倍,中学生が1.8倍,高校生が2.2倍となっており,高校生の性犯罪被害の増加が顕著である。
 さらに,近年,保護者が子供に対し暴行を加えるなどの児童虐待が大きな社会問題になっているが,児童虐待に関し警察に寄せられる相談件数も増加傾向にある(第2章第2節2(4)参照)。
 ウ 少年非行への対応
 犯罪を犯した少年に対しては,少年の更生に資するためにも厳正な捜査を行い,動機や背景も含めて確実に非行事実を解明するとともに,少年自身に自らの犯した犯罪の社会的意味や被害者の痛みを理解させていくことが重要である。
 警察では,少年事件について,少年の特性に十分配意しつつ,保護者等と連絡を取りながら,非行の原因,背景,少年の性格,交友関係,保護者の監護能力等を慎重に検討し,再非行防止のための処遇に関する意見を付して,関係機関に送致,通告するなどの措置をとっている。
 一方,最近の少年事件をみると,凶悪犯の集団化の進行にみられるように共犯事件が増加しているほか,計画的に犯行が行われたり,証拠隠滅を図るケースが目立っている。警察では,少年警察に携わる警察官の捜査技能の向上を図るとともに,複雑・困難な少年事件における事実の解明や警察署で取り扱う少年事件捜査の支援等に当たる少年事件特別捜査隊の設置等少年事件捜査力の強化に努めている。
 また,少年が凶悪犯,粗暴犯,強制わいせつ等の被害を受けた場合,心身に極めて大きな打撃を受け,その後の非行や問題行動の原因となるケースもあることから,早期発見に努めるとともに,少年サポートセンター等を中心として継続的なカウンセリング等の諸施策を推進している(第2章第2節3(1)参照)。
 (7) 女性に対する暴力
 女性に対する暴力は,女性の基本的人権の享受を妨げ,自由を制約し,被害を受けた女性や社会に対して深刻な影響を及ぼしている。このため,警察では,性犯罪対策を推進しているほか,女性を犯罪等の被害から守るための各種施策を推進している。
 ア 強姦,強制わいせつ
 (ア) 強姦,強制わいせつの現状
 平成11年の強姦,強制わいせつの認知件数をみると,元年と比べ,強姦で19.3%,強制わいせつで93.8%増加している。
 特に近年,10歳代の女性が被害者となった強姦,強制わいせつ事件の認知件数が増加している。強姦をみると,3年には13~19歳の者が被害者の強姦事件の認知件数は635件であったが,11年には808件となっており,強姦事件の全認知件数の43.5%を占めている。また,強制わいせつも同様の傾向がみられ,3年には,13~19歳の女性が被害者の強制わいせつ事件の認知件数は966件であったが,11年には2,054件となっており,女性が被害者となった強制わいせつ事件の認知件数の39.5%を占めている(図1-35)。
 なお,女性が被害者となった強姦,強制わいせつ事件の認知件数に占める未成年者が被害者となったものの割合は,11年でそれぞれ47.0%,64.9%となっている。
 発生場所別にみると,11年の強姦の認知件数1,857件のうち,住宅で発生したものが770件で41.5%を占め,次いで道路上が252件(13.6%),モーテル・ラブホテル等が124件(6.7%)となっている。強制わいせつでは,認知件数5,346件のうち,道路上のものが1,954件(36.6%),次いで住宅が1,390件(26.0%),列車内(新幹線内は除く。)が478件(8.9%)となっている。
 被疑者と被害者の関係をみると,検挙された強姦事件の約4分の1が面識のある者による犯行であり,11年に検挙された強姦事件では,24.1%となっている。一方,強制わいせつの検挙事件では,約1割が面識のある者による犯行であり,11年に検挙された強制わいせつ事件では,10.7%となっている。
 (イ) 性犯罪対策のための各種取組み
 警察では,組織を挙げた性犯罪被害者対策に取り組んでおり,性犯罪被害者の立場に立った適切な対応により,被害者の精神的負担の軽減を図るとともに,従来以上に性犯罪捜査を推進するため,各都道府県警察本部に「性犯罪捜査指導官」及び「性犯罪捜査指導係」を設置しているほか,性犯罪が発生した場合に捜査に当たる性犯罪捜査員として女性警察官を指定している。
 捜査に当たっては,証拠採取の際の被害者の負担を軽減するために,証拠採取に必要な用具や被害者の衣類を預かる際の着替え等をまとめた「性犯罪捜査証拠採取セット」の整備,事件発生時における迅速かつ適切な診断・治療と証拠採取のための産婦人科医等との連携の強化等各種施策を推進している。
 また,性犯罪の被害の届出や相談を行いやすいよう,「性犯罪被害110番」や相談室の設置,「女性相談交番」の指定,鉄道警察隊への「女性被害相談所」の設置等を行い,女性警察官等が相談に当たっている。11年中に「性犯罪被害110番」に寄せられた相談は,延べ1万5,771件であり,これらを端緒に強姦事件等212件を検挙している。
 イ 夫から妻への暴力
 (ア) 夫から妻への暴力の現状
 近年,「ドメスティック・バイオレンス」に対する社会的な関心が高まっている。このうち,夫から妻(内縁関係にある者を含む。)への暴力(殺人,傷害及び暴行)の検挙件数の推移は,図1-36のとおりである。昭和54年以降,その検挙件数は減少傾向にあったが,近年,増加傾向にあり,平成11年は516件(前年比81件(18.6%)増)となっている。
 (イ) 夫から妻への暴力に対する取組み
 夫から妻への暴力は,家庭内の事案であることをもって犯罪とならないものではなく,刑事事件に該当する場合は,夫婦間という関係に配慮しつつ,事件化を含めて厳正かつ適切な対応に努めている。また,各都道府県警察の相談窓口の利便性を向上させたり,事情聴取に当たっては,被害者を夫から引き離して別室で行うなどし,被害者が相談・申告しやすい環境の整備を図っている。
 ウ つきまとい事案
 つきまとい行為は,被害者の意思に反して反復継続して行われることから,被害者に不安を抱かせ,又は困惑させるなど,深刻な影響を与えるものである。個々の行為は刑罰法令に抵触しないものもあるが,放置した場合には殺人事件等の重要犯罪に発展する可能性もある。
 執拗なつきまとい行為及び頻繁な無言電話等の嫌がらせ,差出人不明の郵便物の送達等の「つきまとい行為等の絡む事件」の検挙件数は,11年には190件で,主な罪種を挙げると,殺人,傷害,暴行,脅迫,住居侵入,強要,軽犯罪法違反,迷惑防止条例違反となっている。
 警察では,刑罰法令に抵触する行為があれば,被害者の意思を踏まえ,検挙措置を講じ,刑罰法令に抵触しない場合であっても,事案のエスカレートを防ぐため,事案に応じて,防犯指導,パトロールの強化,弁護士の紹介等の方法により自衛・対応策を教示するとともに,必要があると認められる場合には,相手方に指導警告するなどして,被害者への支援を行うよう努めている。
 なお,12年5月には,ストーカー行為等の規制等に関する法律が成立した(第2章第1節3(2)イ参照)。
 5 国民の期待にこたえる刑事警察に向けて
 (1) 国民の身近な犯罪への的確な対応
 序章でもみたとおり,埼玉県桶川市における女子大生殺人事件は,警察の捜査の在り方について極めて深刻な反省をもたらすものであった。
 捜査は,事案の真相を明らかにして事件を解決するとの強固な信念を持って迅速・的確に行わなければならない。また,その際,基本的人権を尊重し,かつ,公正・誠実に捜査権限を行使しなければならない。こうした捜査の基本は,警察官が捜査を行うに当たって守るべき心構え,捜査の方法,手続その他捜査に関し必要な事項を定める犯罪捜査規範に規定されており,これを確実に実践することが求められている。
 刑事警察は,直接被害者と接し,その捜査を行う最も被害者に身近な立場にあり,その期待にこたえるため,被害者からの相談,被害届,告訴・告発といった被害者からの声に真摯に耳を傾け,国民の身近な犯罪に的確に対応していかなくてはならない。
 (2) 捜査力の充実強化
 戦後の刑事警察の歩みは,第一次捜査機関としての責務を全うすべく,捜査力の充実強化に努めてきた歴史であった。厳しさを増す犯罪情勢の中,新たな課題と情勢の変化に対応するため,捜査力を不断に充実強化していかなければならない。
 ア 捜査官の育成と処遇の改善
 (ア) 捜査官の育成
 「捜査は人なり」とも言われ,優れた人材を登用し,捜査官の育成を図ることが,捜査力の充実強化を図る上で不可欠となっている。
 なお,警察においては,近い将来,数年間にわたり1万人前後の大量退職者が出ると予想されており,また一方で,就職適齢人口は,大幅に減少(現在より約25~30%減少)すると予測されている。刑事警察においても,高い捜査能力を持つベテラン捜査官が大量に退職していく一方,今後の厳しい採用情勢が予測される中で,次代を担う捜査官の育成が喫緊の課題となっている。
 a 教育訓練
 警察官は,常に捜査関係法令の研究及び捜査に関する知識・技能の修得に努め,捜査手法の工夫改善に意を用いなければならない。新たに採用した警察官に対しては,警察学校において,刑法,刑事訴訟法等の法学や基本的な捜査実務に関する教育訓練を実施しているほか,捜査実務についての実践的な教育を行うため,警察署刑事課で捜査実習を行っている。
 また,各階級昇任者に対しては,警察大学校や管区警察学校において,各階級に応じ必要な知識と技能を修得させるための教育訓練を実施している。巡査部長昇任時には捜査手続,捜査書類の作成等の捜査実務面に重点を置いた教育訓練を実施するとともに,警部補昇任時には刑事の専門実務コース,警部昇任時には刑事専攻課程を設け,それぞれ刑事専門の教育訓練を実施している。
 さらに,警察大学校に附置された特別捜査幹部研修所では,上級捜査幹部の適格性を有する捜査実務経験のある警部以上の者に対して,捜査幹部として必要な法的知識,捜査の指揮及び管理に関する研修を行い,捜査指揮能力の向上を図っている。
 警察では,今後とも優れた捜査官を育成するため,教育訓練内容や施設等を充実することとしている。
 b 刑事の任用
 警察庁では,刑事の適正な選考と資質の向上を図るため,捜査に専従する巡査及び巡査部長の階級にある警察官の選考,教育訓練,任用等について「刑事選考要綱準則」を定めている。各都道府県警察では,同準則に基づき,刑事適任者の選考を行うとともに,新たに刑事部門に任用されることが予定されている者に対し,刑事任用時の教育訓練を実施し,犯罪捜査に関する基礎的知識及び技能の修得を図っている。
 c 実務を通じての研修
 捜査に必要な各種技能を確実に修得するためには,警察学校において知識,理論及び技能についての教育を図る一方で,実務を通じてその技能を実践的に体得させることが有効である。このため,平素の実務を通じて,日常的,計画的な指導を行うとともに,各種の捜査技能について,個別の研修を行っている。また,現実に発生した重要事件で,その教訓や捜査手法等を共有できる研修を実施し(刑事実戦塾),同種の捜査を担当する捜査員がその経験を今後の捜査に活用することとしている。
 (イ) 処遇の改善
 刑事警察においては,日夜発生する犯罪に対処するため,24時間警戒態勢を確保しているが,一たび事件が発生すると,捜査を遂行するために勤務時間外に長時間にわたり困難な業務に当たることが多い。特に,重要事件等の発生を認知した際に,捜査を統一的かつ強力に推進する必要があると認められるときに設置される重要事件等捜査本部では,捜査の初期段階や身柄を確保した段階で,捜査力を大量・集中的に投入し,情報・資料を収集分析しつつ,捜査を展開する必要があるため,夜間・休日を問わず,捜査活動を余儀なくされることが多い。また,捜査の過程において著しく危険,不快,不健康又は困難を伴う特殊業務を遂行しなければならないことがある。
 このような勤務の特殊性にかんがみ,勤務時間の弾力化や健康管理対策の強化等の施策を推進するとともに,超過勤務手当の予算措置の充実や鑑識作業手当,死体の収容又は検視等の業務に伴う死体取扱い手当,銃器を所持している犯人等の逮捕の業務に伴う銃器犯罪捜査従事手当等の特殊勤務手当の改善を図っている。警察では,今後とも刑事警察官の処遇改善を積極的に推進していくこととしている。
 イ 捜査基盤の整備
 (ア) 捜査員の効率的運用
 各都道府県警察では,警察組織が全体として最大限効率的に機能するよう,人員の弾力的・有機的な運用を行っている。例えば,各警察署の捜査員をあらかじめ指定しておき,捜査本部設置事件等が発生したときには指定捜査員として応援派遣する指定捜査員制度等を導入しているほか,夜間・休日における捜査力を確保するため,機動捜査隊の積極的な活用を図っている。
 (イ) 捜査体制の充実
 犯罪情勢の変化に伴い,捜査体制も常に強化が図られてきた。例えば,平成4年の暴力団対策法の施行後,多くの都道府県警察で暴力団対策課が新設され,また,昨今の来日外国人犯罪の深刻化に対処するため,国際捜査課が逐次設けられている。警察では,今後とも各種事案に的確に対応できる体制の整備を図っていくこととしている。
 (ウ) 装備資機材の整備
 効率的な捜査を推進するために各種装備資機材が不可欠となっている。今後,科学技術,情報通信技術の進歩に伴い,捜査のための装備資機材もより高度化を図っていく必要がある。
 また,犯罪の広域化・スピード化に対応し,犯人の捜索や追跡等に活用するため,警察用車両等の機動力の整備に努めている。近年では,機動性,高速性及び広視界性を有するヘリコプターの特性を活用し,上空から,密入国者の捜索や逃走する盗難車両の追跡を行い,地上の捜査員と連携してこれを逮捕するなど,被疑者や逃走車両の捜索,追跡等にヘリコプターを活用している事例もある。
 (エ) 捜査支援システムの活用と開発
 捜査は,すべての情報資料を総合して判断するとともに,広く知識・技能を活用し,かつ,組織の総合力を挙げて推進しなければならない。捜査支援システムは,こうした捜査情報の効率的な管理及び利用のため極めて有効な手段となっており,その充実を図るため,今後,各種の研究・開発を行うこととしている。
 ウ 専門捜査力の強化
 ハイテク犯罪を始めとする新たな形態の犯罪の出現や社会の複雑化・高度化を背景に,捜査に当たり,特定の分野に関する高度な専門的知識や技能が必要となっている。特殊事件捜査,ハイテク犯罪捜査,財務捜査等の特に専門的知識や技能を必要とする分野について,各捜査に従事する捜査員に対し,警察大学校や警察学校で,その捜査要領や技能について教育訓練を行っている。
 また,財務捜査,科学捜査,国際犯罪捜査,ハイテク犯罪捜査の分野において,公認会計士や語学能力に卓越した者等専門知識等を有する者の中途採用を推進している。
 このほか,一の都道府県警察では捜査に必要な知識を有する捜査員を確保することが困難な場合は,他の都道府県警察からの応援派遣が有効であることから,都道府県公安委員会が相互に協定を結び,一定の事案の捜査に必要な知識,技能及び経験を有する捜査員を専門捜査員として派遣できる制度(専門捜査員制度)を確立し,その円滑な実施を推進している。
 さらに,警察庁では,極めて卓越した専門技能又は知識を有する警察職員を広域技能指導官として指定し,警察全体の財産として都道府県の枠を越え,捜査員に対する必要な助言や支援及び教育を行わせることにより,その能力の広域活用を図っている。
 警察では,今後とも,専門捜査力を強化するため,教育訓練の充実強化,中途採用の推進,専門捜査員制度の活用等を図ることとしている。
 コラム[5] 指名手配被疑者の逃げ得は許さない!
~ 大阪府警察刑事部捜査共助課「見当り捜査」
 見当り捜査は,大阪府警察が独自に編み出した捜査手法である。指名手配被疑者の写真を多数記憶した上,捜査員が,繁華街,駅等で,指名手配被疑者を発見・逮捕するという捜査員の目と勘に頼る極めてシンプルな捜査手法である。努力と能力次第で,少数の捜査員が数多くの指名手配被疑者を逮捕できるという利点がある。
 見当り捜査は,昭和50年ころから捜査員の間で話題に上っていた。53年に,警察本部の捜査員が,沖縄県警察から死体遺棄事件の被疑者として全国に指名手配されていた者の写真を記憶して追跡捜査に当たっていたところ,路上で見当り逮捕したことがきっかけで,専従捜査員を配置するようになった。その後,試行錯誤を経て,警察庁指定広域技能指導官に指定された阪谷警部補らによって,現在の見当り捜査手法が確立された。
 見当り捜査の具体的な手順は次のとおりである。まず,全国の指名手配被疑者の中から大阪に立ち回る可能性のある被疑者を選定する。そして,その被疑者の正面・側面の写真を入手,写真は携行に便利な大きさに切断した後,身体特徴や手配罪名,氏名等を裏面に記載する。次は記憶作業である。ルーペで拡大して,正面写真を記憶する。捜査員が1人で記憶する被疑者写真の数は300から500枚くらいになる。写真の記憶作業は集中力と繰り返し熟視して努力する以外にない。捜査員は,記憶した写真を輪ゴム等で束ねたり,小さいノートにはり付けて着衣のポケットに収納して携行し,街頭活動を通じて指名手配被疑者を見当りし,逮捕する。
 見当り捜査による年間の指名手配被疑者の検挙人員は約100人で,大阪府警察の指名手配被疑者年間総検挙人員の約1割に当たる。
 エ 科学捜査力の強化
 科学技術の急速な発展,情報化社会の著しい進展等は,社会・経済事象に大きな変革をもたらすとともに,犯罪の質・量の両面に影響を与えている。このような情勢の変化に的確に対処し,科学的・合理的な捜査を推進していくためには,鑑識装備資機材の充実,鑑識技術への最先端の科学技術の導入等を図ることにより,科学捜査力を一段と強化する必要がある。
 (ア) 鑑識活動の強化
 重要事件や特殊事故・事件に迅速に対処するため,各都道府県警察本部に機動鑑識隊(班)を設置して,機動力を備えた鑑識専務員を集中運用し,常時臨場可能な体制を確立している。
 また,犯罪現場に臨場し,科学的検査や専門的指導を行うことによって現場資料から判明した捜査情報を迅速に捜査に反映させるとともに,採証活動の適正化・高度化を図るため,科学捜査研究所に勤務する鑑定技術職員によって編成された現場科学検査班の設置や運用に努めている。
 (イ) 科学技術の発達に応じた鑑識資機材の開発・整備
 進歩する科学技術を積極的に取り入れ,企業等からの協力も得ながら鑑識資機材の開発・整備に取り組んでおり,実用化できるものは全国に普及させ,鑑識活動に活用している。また,鑑識資料の検索・採取に活用するための資機材の開発整備にも取り組んでいる。
 (ウ) 鑑定の高度化
 警察では,的確な鑑定を行うため,鑑定の高度化に努めており,例えば,DNA型鑑定を導入し,その個人識別能力を活用して,被害者の特定や,現場に残された血液,精液等による犯人の特定を行うなどしている。DNA型鑑定は,ヒトの身体組織の細胞内に存在するDNAの塩基配列の多型性に着目し,これを分析することによって個人識別を行う鑑定方法である。平成元年に科学警察研究所が,4年度から順次各都道府県警察の科学捜査研究所が導入を進め,現在,4種類の検査法を実施している。型分類が豊富で個人識別能力に優れるDNA型鑑定は,ABO式血液型鑑定と併せて実施することにより,同一の型が現れる割合は最も出現頻度が高いものでもおよそ日本人数万人に1人となる。
 このほか,鑑定技術職員に対する法医学,化学,工学,指紋,足こん跡,写真等各専門分野の教育訓練を行い,鑑定技術の向上に努めている。
 警察では,今後とも,鑑定対象物の多様化に合わせ,人的・物的両面から絶えず鑑定の高度化を図ることとしている。
 [事例] 10年11月,会社員の男(73)は,自宅において,離婚調停中であった妻に対して,丸太を用いてその頭部を数回殴打するなどして殺害した上,死体を河原に遺棄した。死体の運搬に使用した車両に残された被害者の血液のDNA型鑑定を実施し,事件の解決に寄与した(青森)。
 (エ) 科学捜査のための各種研究
 多様化する犯罪に対処するために,警察では,法医学,血清学,工学,化学等の分野において,新しい鑑定法や検査法の研究開発を行っている。また,鑑識科学分野における先端技術の応用を目的として,日本鑑識科学技術学会等各種学会への参加も行っている(第8章第2節8(3)参照)。
 [研究例] プロファイリングの研究
 プロファイリングとは,犯人像推定を意味し,諸外国では,米国のFBIや英国のリバプール大学のデビット・カンター教授によるものが有名である。警察には,犯罪手口資料を管理し,犯人を浮上させる手段として活用する犯罪手口制度があるが,それに加えて,英米の研究成果も参考にし,プロファイリングの研究を進めている。
 (3) 被害者対策の推進
 刑事警察は,被害の届出,被疑者の検挙等の面で被害者と密接な関係を有しており,従来から,被害者の心情に配慮した各種活動を行ってきた。また,被害者の怒りや悲しみを理解し,転じて捜査のエネルギーとしている捜査官も決して少なくない。しかし,被害者の置かれている現状が深刻であるにもかかわらず,被害者を支援する制度は必ずしも十分ではなかった。
 このため,警察庁においては,平成8年2月に「被害者対策要綱」を策定し,被害者対策に組織的に取り組んでいる(第8章第3節参照)。また,11年6月には,犯罪捜査において被害者対策の一層の推進を図るため,犯罪捜査規範を一部改正し,被害者等に対する配慮,被害者等に対する通知及び被害者等の保護等に関する規定が整備された。
 ア 被害者に対する配慮
 被害者は,犯罪により精神的打撃を受けているため,捜査活動により傷つきやすい状況にある。したがって,捜査を行う警察官には,被害者の心情を理解し,その人格を尊重するとともに,不安又はとまどいを覚えさせないような措置を講ずるなどの配慮を払うことが必要とされる。このため,警察では,
  被害者用の事情聴取室を設置すること
  事件現場における事情聴取は必要最小限とすること
  性犯罪の被害者を実況見分に立ち会わせる場合,被害者を人目に触れさせないための配慮をすることや,ダミー人形を利用して実況見分を行うこと
  性犯罪の被害者に対する捜査員を被害者が望む性別の者とすることなどの措置をとっている。
 イ 被害者に対する情報提供
 被害者の多くは,刑事手続や捜査状況,被疑者の処分状況等について重大な関心を有している。警察では,こうした要望にこたえ,被害者の救済や不安の解消に資すると認められる各種情報の提供を推進している。8年には,殺人や重大な傷害といった身体犯等の被害者を対象として,
  捜査の進行状況
  被疑者を検挙した場合にはその旨と被疑者の氏名・年齢,送致状況
等に関する事項を連絡する被害者連絡制度を導入した。これら以外の事件の被害者についても,各都道府県の実状に応じて被害者連絡の対象としている。
 また,被害者は刑事手続や法的救済制度になじみが薄いことから,必要な情報を取りまとめたパンフレット「被害者の手引」を作成し,配布している。
 ウ 被害者の安全の確保
 犯罪の被害者が加害者により再び危害を加えられる事態を防止することは,被害者の基本的な要望であるとともに,被害申告を容易にするなど捜査上も不可欠であり,警察では,従来から暴力団犯罪の被害者等の保護に努めてきた。
 9年には,被害者が刑務所から出所した加害者に殺害されるという再被害事件が発生したことなどを踏まえ,全国警察において再被害の防止のための取組みの強化を図った。具体的には,殺人未遂,性犯罪等の凶悪犯罪や粗暴犯が発生した場合で,被害者が過去に加害者から何らかの犯罪被害を受けたり,将来的に被害者に対する再犯のおそれがあるときには,状況に応じて被害者への連絡や必要な警戒措置を講じている。
 (4) 国民の協力確保のための取組み
 犯人検挙・事件解決のためには,犯罪捜査に対する国民の理解と協力が不可欠である。しかし,犯罪捜査に対する国民の意識は変化し,国民の理解と協力を得ることが困難となりつつある(3(1)イ参照)。警察では,各種広報媒体を積極的に活用し,事件発生時の速やかな通報,聞き込み捜査に対する協力,事件に関する情報の提供等を広く国民に呼び掛けているほか,必要に応じ,公開捜査(注)を行っている。また,ホームページを設け,事件に関する情報提供を電子メールにより受け付けるなどしている。警察では,今後とも,犯罪捜査に対する国民の理解と協力を得るための取組みを強化していくこととしている。
 (注) 公開捜査とは,被疑者の発見,検挙や,犯罪の再発防止を目的に,その氏名等を広く一般に公表し,積極的に国民の協力を求めるものであり,凶悪犯罪等の被疑者について,その追跡捜査の状況,再犯の可能性,捜査上の支障等を検討して実施される。
 コラム[6] 懸賞広告
 従来,我が国では,懸賞広告はほとんど実施されていなかったが,昭和57年8月,愛媛県松山市で発生したスナックホステス強盗殺人事件について,平成8年8月,愛媛県警察協会が犯人の検挙に結び付く情報提供を行った者に対して懸賞金を支払うという懸賞広告を実施し,大きな反響を呼び,時効直前の被疑者検挙のきっかけとなった。現在,警察自体が懸賞広告を実施している例はないが,民間団体である愛媛県警察協会が懸賞広告を実施して以来,民間団体から警察の捜査に対する協力の申出がなされ,警察との連携・協力の下に懸賞広告を実施している例がある。
 例えば,警視庁退職者で組織する「オウム真理教特別手配被疑者検挙のための懸賞広告実行委員会」は,11年10月20日から,オウム真理教特別手配被疑者の所在に関する情報の通報を促進するため,その所在に関する情報を警察に通報することによって検挙に最も寄与した者に,特別手配被疑者1人につき200万円を支払う旨の懸賞広告を実施している。


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