第2節 国民の信頼の回復に向けた取組み

 1 警察の対応
 警察は,不祥事案の続発を重く受け止め,それぞれの不祥事案の原因を究明し,再発防止のため,以下のとおり各種の取組みに全力を挙げている。
 (1) 職務倫理の保持
 ア 警察職員の職務倫理及び服務に関する規則の制定
 平成12年1月,国家公安委員会は,警察職員の職務倫理及び服務に関する規則を制定した。この中で,職務倫理の基本及び服務の根本基準を定めたほか,職務の公正保持等の規範を示した。
 イ 警察教養規則の全部改正
 12年1月,国家公安委員会は,警察教養規則を全部改正し,職務倫理に関する教育の徹底及び幹部の業務管理能力の向上を図ることとした。
 ウ 教育の充実強化
 警察庁においては,職務倫理に関する実践的な教育の充実,昇任時の教育期間の延長,討議方式の教育の充実等教育制度について各般の見直しを行っている。また,警察庁に採用された者のうち,初めて県警察本部長の職に就く予定である年次の者を対象にした組織管理者研修を12年1月から実施している。
 (2) 監察の強化
 ア 警察法の一部を改正する法律案の国会提出
 平成12年2月,国家公安委員会及び都道府県公安委員会の警察庁又は都道府県警察に対する監察の指示,警察職員が法令に違反した場合等の警視総監及び道府県警察本部長の都道府県公安委員会に対する報告義務等,公安委員会の管理機能の強化を柱とする警察法の一部を改正する法律案を第147回国会に提出した。なお,同法案は,審議未了となった。
 イ 監察に関する規則の制定
 12年1月,警察の能率的な運営及びその規律の保持に資するため,国家公安委員会は,監察に関する規則を制定した。この中で,警察庁長官は国家公安委員会に対し,警視総監及び道府県警察本部長は都道府県公安委員会に対し,それぞれ監察実施計画及び監察の実施状況を報告することとされた。
 ウ 監察体制の充実強化
 11年11月以降,都道府県警察において,首席監察官の設置や監察業務に従事する者の増配置を進めるほか,捜査経験者を監察部門に配置するなど,監察体制の充実強化を図っている。
 エ 特別監察の実施
 警察庁及び管区警察局においては,不祥事案対策の取組み状況を具体的に把握し,より一層の効果的な推進を図ることを目的として,11年12月から12年4月までの間,各都道府県警察に対して特別監察を実施した。都道府県警察においても,警視庁及び道府県警察本部が,警察署等に対して,同様の特別監察を実施した。
 (3) 業務管理の強化
 ア 捜査管理状況の緊急点検
 証拠物件の管理,捜査関係事項照会書の管理・運用等が的確に実施されているかどうかについて,警察署長等による緊急点検を実施した。
 イ 巡回業務指導要綱の制定
 平成12年4月,警察庁において「巡回業務指導要綱」を制定し,警察庁の職員が毎年度各都道府県警察に赴き,適正捜査について業務指導する制度を創設した。
 ウ 留置業務に関する巡回指導等の強化
 留置場における不適正事案の発生を防止するため,12年3月以降,警察庁及び管区警察局が毎年実施している留置業務に関する巡回指導を強化するとともに,警察署幹部による巡視を徹底し,適正な留置業務の確保を図っている。
 エ 適正な抹消登録業務の徹底
 12年8月,交通違反等の抹消登録結果の事後チェック・システムを導入し,適正な抹消登録業務の徹底を図っている。
 (4) 国民の立場に立った警察活動の推進
 ア 困りごと相談業務の強化
 平成12年3月以降,各警察署への困りごと相談を担当する専任の相談員の配置を進めるとともに,警察署長の指揮を徹底するほか,関係機関等と連携しつつ,相談事案ごとに,検挙,相手方に対する指導警告,警戒・保護活動,防犯指導等,相談者の立場に立った適切な対応を図っている。
 イ 告訴・告発の受理・処理の適正化
 告訴・告発の相談時における不適切な取扱い,受理後の捜査の停滞等が生じないよう,警察本部における指導体制の強化を進めるとともに,警察署幹部による告訴・告発の取扱いに関する指揮を徹底することとしている。
 2 警察刷新会議の発足と提言
 不祥事案の続発を契機として,警察に対する信頼が大きく損なわれ,現行警察制度全般にわたる問題が提起されることとなった状況にかんがみ,平成12年3月,国家公安委員会は,警察の刷新改革の方策について各界の有識者からの意見を聴取する場として,警察組織刷新会議(仮称)の開催を求めることを決定した。
 (1) 警察刷新会議における議論の状況
 国家公安委員会からの依頼を受けて,平成12年3月,第1回会議が開催された。同会議においては,組織の問題に限らず幅広く議論する観点から会議の名称を「警察刷新会議」とするとともに,広範な国民の声を反映しつつ議論を行い,国民の納得の得られる提言をまとめることとされた。そのために,警察刷新会議としてインターネットのホームページを開設し,議事要旨等会議の状況を紹介するとともに,電子メール等により国民の意見・要望を受け付けること,さらに国民の意見を直接聴取するために公聴会を開催することとされた。
 警察刷新会議は,3月以降,11回にわたる会議を開くとともに,大阪市及び新潟市において公聴会を催し,警察の情報公開,苦情処理,監察,公安委員会,人事・教育,新たな警察事象への対応等について,その現状と在り方を議論の上,7月,警察刷新に関する緊急提言を取りまとめて国家公安委員会に提出した。
 (2) 警察刷新に関する緊急提言の概要
 警察刷新に関する緊急提言では,警察の持つ問題点として,閉鎖性の危惧,国民の批判や意見を受けにくい体質及び時代の変化への対応能力の不足が指摘され,これらの問題を改めるために,概略以下のような改革案が提示された。
 ア 情報公開の積極的な推進
 警察は情報を秘匿しようとする体質を改め,情報公開に真剣に取り組むべきであり,警察庁に対し,情報公開法に基づく開示請求に対して行う開示の基準等細目事項を定め,情報の公開を進めていくよう要望するとされた。また,警察庁は,情報公開条例上の実施機関となっていない都道府県警察に対しては,実施機関となる方向で検討を進めるよう指導すべきであるなどとされた。
 イ 苦情申出制度の創設
 警察職員の職務執行についての苦情を誠実に受け付けることを制度化することとし,警察・公安委員会に対する文書による苦情申出については,公安委員会に集約するシステムを確立し,その処理結果を文書で通知(回答)する制度を創設すべきであるとされた。
 なお,文書によらない苦情申出についても,警察本部長に集約の上適正に処理し,公安委員会に報告すべきであるとされた。
 ウ 警察における監察の強化
 警察内部の自浄能力を高めるため,都道府県警察の監察担当官の増強はもとより,警察庁や管区警察局において監察体制の増強,管区警察局「監察部(仮称)」の設置等を図った上で,都道府県警察に対して監察を頻繁に実施するなど,国の関与を強めるべきであるとされた。
 エ 公安委員会の活性化
 公安委員会の警察に対する「管理」概念を明確化し,公安委員会の活性化につなげるべきであるとされた。その上で,公安委員会が第三者機関的な監察点検機能を果たすことが重要であるとの観点から,公安委員会に具体的・個別的な監察指示権を付与するとともに,公安委員のうち1名を監察管理委員(仮称)に指名したり,警察職員を監察調査官(仮称)に任命の上補助させることにより,公安委員会が監察に関して行った個別的・具体的な指示の処理状況を確認できるようにすべきであるとされた。また,公安委員会の審議機能の充実のため,公安委員をより幅広い分野から選任するとともに,警察庁及び警察本部内に公安委員会事務担当室(課)を設置してスタッフを増強するなど真に効果的な補佐体制を確立すべきであるとされた。
 オ 住民からの相談への的確な対応
 (ア) 困りごと相談(仮称)の充実強化
 相談を機敏に把握し,これに誠実に対応するためには,空き交番をできるだけ解消するとともに,相談業務を担当する警察職員の増配置や元警察職員等を非常勤の困りごと相談員(仮称)に任命することなどにより相談体制を強化すべきであるとされた。また,警察本部長や警察署長が相談の内容を的確に把握し,組織的な対応を図るとともに,相談業務や被害者保護などの業務についても,適切に評価すべきであるとされた。
 (イ) 「民事不介入」についての誤った認識の払拭と部内教育の充実
 警察は,放置すれば刑事事件に発展するおそれがある相談に対して必要な措置を講ずるのは当然であり,このことを組織内に徹底すべきであるとされた。また,相談に当たる警察職員の力量を向上させるため,部内教育を充実させる必要があるとされた。
 カ 警察職員の責任の自覚
 警察活動における「匿名性」をできるだけ排除し,職責への個々人の自覚を促すため,窓口を担当する職員等は名札を着け,日常的に住民と接する制服警察官は,職務執行に当たって著しい支障がある場合を除き,識別章を着けるべきであるなどとされた。
 キ 警察署評議会(仮称)の設置
 住民の意見を警察行政に反映させるため,おおむね警察署ごとに,保護司会,弁護士会,自治体,学校,町内会,NPO,女性団体,被害者団体等の関係者等の地域における有識者から成る警察署評議会(仮称)を設置すべきであるとされた。
 ク 時代の変化に対応する警察活動基盤の整備
 (ア) 人事・教育制度の改革
 いわゆるキャリア警察官については,最も求められるものは使命感の自覚であるとした上で,被疑者の取調べ等の捜査実務や交番での勤務経験等の充実を図るとともに,警察本部長への一律登用の排除等の選別を適切に行うべきであるとされた。
 都道府県警察採用の警察官については,現場の中核である警部補の適切な教育,配置,運用を進めるとともに,各級警察幹部の昇任時教育期間を延長することなどが重要であるとされた。
 (イ) 組織の不断の見直し,徹底的な合理化と警察体制の強化
 職員の資質の向上,業務処理方法の見直し,装備資器材の近代化に加え,現場でない管理部門から第一線への人員の配置転換等を更に進めるなど,組織の不断の見直しと徹底的な合理化を推進すべきであるとされた。他方,国民のための警察活動を強化すべく,当面,警察官1人当たりの負担人口が500人となる程度まで地方警察官の増員を行う必要があるとされた。さらに,サイバーテロや国際組織犯罪対策等に的確に対応するための取組みを強化するべきであるとされた。
 今後警察は,警察刷新会議の提言を踏まえて諸改革を推進し,国民の信頼の回復に全力を挙げて取り組んでいくこととしている。


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