第8章 災害、事故と警察活動

 平成9年は、台風、大雨、放射性物質漏出事故の発生等様々な災害及び事故が発生した。警察では、これらの災害及び事故の発生に際して、直ちに体制を確立し、被災者の救助に当たるとともに、被害の未然防止と拡大防止に努めた。
 また、雑踏事故、水難、山岳遭難、レジャースポーツに伴う事故等に対しても、それぞれ関係機関・団体と連携して必要な諸対策を推進した。

1 突発重大事案への対応

(1) 災害警備対策の推進
 警察では、災害から国民を守るため各種の災害対策を推進している。
 平成9年6月、中央防災会議において防災基本計画が修正された。また、10年4月、大規模な災害等の緊急事態に対し、内閣官房における危機管理機能を強化するため、「内閣危機管理監」が設置された。
 これを踏まえ、警察では、災害、事故に対して迅速かつ的確な対応ができるよう、9年11月に国家公安委員会・警察庁防災業務計画を修正したほか、関係機関との緊密な連携を推進している。
ア 広域緊急援助隊の活動
 警察では、大規模な自然災害、事故災害等緊急の対応を要する事案に対して、被災者の救出救助活動等の迅速かつ効果的な対応を図るため、全国の都道府県警察に広域緊急援助隊を設置している。
 9年中には、鹿児島県出水市土石流災害(7月)、北海道第二白糸トンネル崩落事故(8月)等に出動し、現地における警察部隊の中核として、情報収集、救出救助、避難誘導、交通規制等の活動を行った。
 同部隊は、平素から救出救助活動等の災害警備活動の練度の向上を図っているほか、広域的な派遣訓練等を実施するなど、迅速な出動に備えている。
イ 住民参加による災害警備訓練
 警察では、災害警備活動に対する国民の理解を得て、災害発生時に効果的な災害警備活動が推進できるよう、大地震や風水害等の自然災害や地下街、石油コンビナート、原子力施設等における災害を想定した訓練を地域住民参加の下、関係機関・団体と協力して実施している。
 なかでも、9月1日の「防災の日」を中心とした防災週間においては、全国の都道府県警察から警察職員約14万2,000人、ヘリコプター約90機、車両約5,500台、船舶約30隻を動員し、自治体が主催する総合防災訓練等に参加し、避難誘導、救出救助、交通規制等人命の保護に重点を置いた訓練を実施した。

(2) 自然災害の発生状況と警察活動
 平成9年中における台風、大雨、強風、地震等自然災害による被害の発生状況は、表8-1のとおりである。

表8-1 自然災害による被害状況(平成9年)

 これらの災害に対し、警察では、平素から災害危険箇所の点検、パトロール等の活動を行うとともに、現場に広域緊急援助隊、ヘリコプター等を派遣して情報収集、救出救助、住民の避難誘導、交通規制等の災害警備活動を実施した。
ア 地震災害
 9年中には、3月に伊豆半島東方沖で群発地震活動が始まり、有感地震448回(3月3日から3月26日までの間)を記録したほか、鹿児島県薩摩地方を震源とする地震(3月26日、 4月3日、4月5日、5月13日)、山口県北部を震源とする地震(6月25日)等、震度5弱以上の地震が10回発生した。
 これら地震による被害は、負傷者88人、住家全・半壊14棟、道路損壊42箇所、山崖崩れ174箇所等であった。
イ 風水害
(ア) 大雨被害
 7月6日から13日にかけて梅雨前線が日本付近に停滞し、活発な活動状態が続いて、九州地方を中心に大雨が断続的に降り続いたため、鹿児島県出水市では土石流が発生(7月10日)し、死者21人、負傷者14人、住家全・半壊19棟等の被害が発生するなど、各地で被害が発生した。

 9年中の大雨による被害は、死者30人、行方不明者1人、負傷者43人、住家全・半壊80棟、床上・床下浸水2万9,306棟、道路損壊236箇所、山崖崩れ1,441箇所等であった。
(イ) 台風被害
 台風19号は、大型で強い勢力のまま9月16日に鹿児島県枕崎付近に上陸し、九州地方を縦断して瀬戸内海に抜けたが、岡山県倉敷市付近に再上陸し、翌17日に日本海若狭湾に抜けた。この台風による被害は1道20県に及び、死者9人、負傷者23人、住家全・半壊48棟等に上った。
 このほか、台風7号、8号、9号が島部以外の我が国本土に上陸しており、これら台風による被害は、死者16人、負傷者128人、住家全・半壊76棟、床上・床下浸水1万4,045棟、道路損壊407箇所、山崖崩れ645箇所等であった。

ウ その他の被害
 降積雪による9年中の被害は、死者・行方不明者18人、負傷者59人、建物被害4棟であった。
(3) 動燃・東海事業所における放射性物質漏出事故の発生と警察措置
 3月11日午前10時6分ころ、茨城県那珂郡東海村に所在する動力炉・核燃料開発事業団東海事業所内の再処理施設アスファルト固化処理施設において火災が発生し、その10時間後の午後8時4分ころ同施設において爆発が発生した。その爆発によって建物の窓、扉等が破損し、同施設外に微量の放射性物質が放出された。
 茨城県警察では、直ちに機動隊、特別機動警ら隊等を現場に派遣し、情報の収集等に当たった。
 警察庁及び関東管区警察局では、情報の収集、関係機関との連絡調整に当たるとともに、警視庁に対し機動隊の待機を指示したほか、宮城、福島両県警察に対し原子力災害用装備資機材の準備を指示するなど不測の事態に備えた(第3章第4節2(4)ア事例参照)。

2 各種事故と警察活動

(1) 水難
ア 水難の発生状況
 平成9年中の水難の発生件数は2,017件(前年比67件(3.4%)増)、死者、行方不明者数は1,243人(30人(2.5%)増)、警察官等に救助された者の数は1,048人であった。最近5年間の水難発生状況は表8-2のとおりである。また、水難による死者、行方不明者数を年齢

表8-2 水難発生状況(平成5~9年)

表8-3 水難による死者、行方不明者の年齢層別状況(平成8、9年)

別にみると表8-3のとおりである。
 死者・行方不明者数を発生場所別にみると図8-1のとおりで、海における発生が最も多く、全体の49.3%を占めている。行為別にみると図8-2のとおりで、魚とり・釣り中、通行中、水泳中の順に多かった。

図8-1 水難による死者、行方不明者の発生場所別構成比(平成9年)

図8-2 水難による死者、行方不明者の行為別構成比(平成9年)

イ 水難の防止活動
 警察では、水難の発生しやすい危険な場所について遊泳者等に広報し注意喚起するとともに、その場所の管理者等に対し施設の整備等を働き掛けている。特に人出の多い海水浴場では、臨時派出所の設置、海浜パトロール等を行うほか、船舶やヘリコプターによる監視等を通じて、海水浴客に対する広報、遭難者の早期発見、救出、救護に努めるとともに、関係機関・団体と協力して、救急法講習会や各種の救助訓練を実施している。
 また、兵庫、滋賀、沖縄、和歌山等の県においては、海水浴場開設業者等による遊泳区域の明示、水難救助員の配置等を定めた、いわゆる水上安全条例が制定されている。
(2) 山岳遭難
ア 山岳遭難の発生状況
 平成9年中の山岳遭難の発生件数は815件(前年比81件(9.0%)減)、遭難者数は961人(172人(15.2%)減)であった。最近5年間の山岳遭難の発生状況は、表8-4のとおりである。
 近年の登山者の年齢層等の多様化に伴い、遭難者も幼児から高齢者まで幅広い層に広がっており、特に中高年層の遭難が多発している。遭難の形態は転・滑落、転倒等が多く、その原因は、体力・技術不足、装備の不備等登山の基本的な知識や心構えの欠如と考えられるものが多い。
イ 遭難者の捜索、救助活動
 警察では、遭難者の迅速な捜索、救助活動を行うため、山岳警備隊等を編成し、平素から各種訓練を行うとともに、救助用装備資機材の整備拡充を行うなど、救助体制の強化に努めている。
 9年中に遭難者の救助活動に出動した警察官は延べ約8,300人、ヘリコプター出動回数は延べ348回で、民間救助隊員等の協力によるものを含め、遭難者764人を救助したほか、182遺体を収容した。

ウ 山岳遭難の防止活動
 警察では、山岳遭難を防止するため、遭難の発生場所、原因等を分析し、関係機関等との遭難対策検討会を開催するとともに、各種広報媒体を活用して登山の安全に関する国民の意

表8-4 山岳遭難の発生状況(平成5~9年)

識の向上に努めている。
 主要山岳(系)を管轄する都道府県警察においては、関係機関等と連携して登山道等の実地踏査、道標及び危険箇所の点検等を行うとともに、山岳情報を登山者に提供している。また、登山口等に臨時派出所を開設し、登山計画書の提出の奨励、装備の点検等を行っているほか、山岳パトロール等の活動を通じて登山の安全に関する指導を行っている。
(3) レジャースポーツに伴う事故
 近年、水上オートバイ、サーフィン等のレジャースポーツに伴う事故が多発している。平成9年中のレジャースポーツに伴う事故の発生件数は426件(前年比13件(3.0%)減)であった(表8-5)。
 こうした事故の原因の主なものは、技術不足、不注意等であり、無謀操縦等を原因とするものも多いことから、警察では、事故防止を呼び掛けるパンフレットの配布等により安全広報に努めるとともに、レジャースポーツ現場におけるパトロール等を通じての指導取締り、

表8-5 レジャースポーツに伴う事故の発生状況(平成9年)

関係機関・団体に対する事故防止指導等を推進している。

3 雑踏警備

(1) 一般雑踏警備活動
 平成9年中、警察では延べ約53万6,000人の警察官を動員して、雑踏事故の防止に努めた。最近5年間の雑踏警備実施状況は、表8-6のとおりである。

表8-6 雑踏警備実施状況(平成5~9年)

 9年中は10件の雑踏事故が発生し、死者は3人、負傷者は87人に上った。このうち、山車(だし)、神興(みこし)等の運行に伴うものが6件、死者3人、負傷者36人で、また、花火大会における事故が3件、負傷者19人であった。
 警察では、行事の主催者、施設の管理者等に対して、事前連絡の徹底、自主警備体制の強化、危険予防の措置、施設の改善等を要請するとともに、混雑する場所等に警察官を配置し、雑踏事故の未然防止に努めている。
(2) 公営競技場の警備活動
 平成9年中の競輪場、競馬場等の公営競技場への総入場者数は、延べ約2億1,000万人であった。警察では、公営競技をめぐる紛争事案や雑踏事故防止のため、延べ約9万5,000人の警察官を動員して警備に当たった。最近5年間の公営競技場の警備実施状況は、表8-7のとおりである。

表8-7 公営競技場警備実施状況(平成5~9年)

 9年中の公営競技をめぐる紛争事案の発生件数は6件で、その内容はすべてレース結果等についての抗議形態のものであった。警察では、関係機関・団体に、自主警備体制の確立、施設、設備の改善、酒類の販売等の自粛を要請しているほか、競技開催の都度、警察官の派遣等により雑踏事故及び紛争事案の未然防止に努めている。


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