第1章 ハイテク犯罪の現状と警察の取組み

 1998年(平成10年)5月15日から17日までの間、英国のバーミンガムで第24回主要国首脳会議(以下「バーミンガム・サミット」という。)が開催された。バーミンガム・サミットでは、「国際犯罪」が主要議題の一つに取り上げられ、中でも「ハイテク犯罪」に各国首脳の高い関心が集まった。ハイテク犯罪に関する各国首脳の討議結果は、8箇国の共同による「コミュニケ」の中で、次のとおり取りまとめられている。
 「我々は、我々の閣僚により合意されたハイテク犯罪に関する10の原則及び10の行動計画(注)を迅速に実施することに意見の一致をみた。我々は、適切なプライバシーの保護を維持しつつ、証拠として電子データを取得し、提示し、保存するための法的な枠組みについて、及びこれらの犯罪の証拠を国際的なパートナーと共有することについて合意するため、産業界との緊密な協力を呼びかける。これは、インターネット及び他の新たな技術の悪用を含む広範な種類の犯罪と闘うことに資する。」
 このように、ハイテク犯罪が国際的に重大な関心を集めるに至ったのは、政治、行政、経済、社会の重要な機能がコンピュュータ・ネットワークへの依存度を強める中、これが犯罪の対象となった場合に甚大な被害が生ずるおそれがあり、しかも、そのような犯罪にインターネットが利用された場合には世界各国が迅速に捜査に協力する必要があるなどの事情によるものである。既に、米国等では、政府機関のコンピュータ・システム等が犯罪の攻撃に遭う事例が頻発しているほか、インターネットを利用した国際犯罪の発生も報告されている。
 我が国においても、官民を挙げての情報化への取組みにより、間もなく高度情報通信社会を迎えようとしているが、一方において、ハイテク犯罪の多発という情報化の負の側面が顕在化しつつある。高度情報通信社会においては、だれもが容易にコンピュータ・ネットワークに参加することができることから、コンピュータ・ネットワークとのかかわりの中で犯罪が引き起こされ、だれもがハイテク犯罪の被害者になるおそれがあるということとなる。
 このように、情報化の進展に伴い、ハイテク犯罪対策の推進が我が国の内外で急務となっている。情報通信をめぐる技術革新は「アナログ」から「デジタル」へと目覚ましい進展を遂げているが、この高度情報通信社会の特徴としては、コンピュータに精通するには極めて高度の専門的な知識、技能等が必要となること、コンピュータ・ネットワーク上では、電子データのやり取りだけを通して相手方を認識しなければならないこと、電子データは、必ずしも保存されているとは限らず、しかも改ざん、消去が容易であることなどが指摘される。このため、ハイテク犯罪を防止し、その捜査を的確に遂行するためには、このようなコンピュータ・ネットワークの特徴に対応した抜本的な対策が必要である。
 警察では、このような情勢を踏まえ、高度の技術力を備え、かつ、外国警察機関等からの捜査協力要請に24時間対応することができる「サイバーポリス」(電脳警察)とも呼ぶべき体制を確立するための取組みを進めるとともに、グローバル・スタンダードを満たすための法制の整備等に関係省庁と一体となって取り組むこととしている。
(注) 1997年(平成9年)12月、G8司法・内務閣僚級会合において「コミュニケ」の別添として発表された「ハイテク犯罪と闘うための原則と行動計画」を指す(第2節1(1)ウ参照)。
 なお、G8(Group of 8)とは、我が国のほか、米国、英国、ドイツ、フランス、、イタリア、カナダ及びロシアを指す。


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