第7章 災害、事故と警察活動

 平成8年は、トンネルにおける一枚岩崩落事故、土石流災害等様々な災害及び事故が発生した。警察では、これらの災害及び事故の発生に際して、直ちに体制を確立し、被災者の救助に当たるとともに、被害の未然防止と拡大防止に努めた。
 また、雑踏事故、水難、山岳遭難、レジャースポーツに伴う事故等に対しても、それぞれ関係機関、団体と連携して必要な諸対策を推進した。

1 突発重大事案等の発生

(1) 広域緊急援助隊の活動
 警察では、大規模事故、災害等緊急の対応を要するあらゆる事案に対して、被災者の救出救助活動等の迅速かつ効果的な対応を図るため、平成7年6月1日、全国の都道府県警察に広域緊急援助隊を設置した。8年中には、北海道古平町豊浜トンネル崩落事故(2月)、福岡空港ガルーダ・インドネシア航空機炎上事故(6月)、蒲原沢(がまはらさわ)土石流災害(12月)等に出動し、現地における警察部隊の中核として、情報収集、救出活動、避難誘導、交通規制等の活動を行った。同部隊は、平素から、各管区警察局において広域的な応援訓練を実施するなどして迅速な出動、救出救助等の災害警備活動の練度の向上を図っている。

(2) 自然災害の発生状況
 平成8年中に上陸した台風は6号(7月中旬)及び12号(8月中旬)の2個であり、被害の発生があったのは、これらに加え、5号、9号、17号及び21号であった。なかでも、9月13日にフィリピンの東海上で発生した台風17号は、同月22日、強い勢力を保ったまま銚子沖に接近し、千葉県、神奈川県等1都1府11県に、死者12人、負傷者60人、住家全・半壊30棟、床上・床下浸水9,285棟等の大きな被害をもたらした。
 また、8年中には、宮城県北部を震源とする地震(8月11日)、山梨県東部を震源とする地震(3月6日)等震度5以上を記録した地震が8回発生したほか、10月中旬から下旬にかけて伊豆半島東方沖で群発地震が発生したが、いずれも大きな被害はなかった。
 8年中の台風、地震、大雨等による被害は、死者19人、負傷者248人、住家全・半壊161棟、床上・床下浸水15,404棟等であった。
 また、降積雪による8年中の被害は、死者・行方不明者42人、負傷者211人、建物被害35棟であった。
 これら災害に対し、警察では、平素から災害危険箇所の点検、パトロール等の活動を行うとともに、約4万3,000人の警察官を動員して、被災者の救出救助、住民の避難誘導、行方不

表7-1 自然災害による被害状況(平成8年)

明者の捜索、交通規制等の災害警備活動を実施した。
 8年中の自然災害による被害状況は、表7-1のとおりである。
(3) 突発重大事案への対応
ア 北海道古平町豊浜トンネル崩落事故
 平成8年2月10日午前8時10分ころ、北海道古平郡古平町の国道229号豊浜トンネルにおいて、トンネル上部の巨大な一枚岩が崩落し、トンネルを突き破ったため、通行中の路線バス及び普通自動車が下敷きとなり、20人が死亡、1人が負傷する事故が発生した。
 北海道警察では、事故発生後直ちに、現地対策本部及び総合対策本部を設置して指揮体制を確立するとともに、広域緊急援助隊等延べ約3,800人の警察官を動員して被災者の救出救助、現場付近の交通規制等を実施した。
イ 福岡空港ガルーダ・インドネシア航空機炎上事故
 8年6月13日午後0時8分ころ、福岡空港においてガルーダ・インドネシア航空機が離陸に失敗し、滑走路を飛び出して空港外で炎上し、3人が死亡、170人が負傷する事故が発生した。
 福岡県警察では、事故発生後直ちに、事故対策本部を設置して指揮体制を確立するとともに、広域緊急援助隊等延べ約1,200人の警察官を動員して乗客の救助・捜索、空港周辺の交通規制等を実施した。

ウ 蒲原沢土石流災害
 8年12月6日午前10時30分ころ、長野・新潟県境を流れる姫川の支流、蒲原沢において大規模な土石流が発生し、現場の下流で土木作業を実施していた作業員が巻き込まれて14人が死亡、8人が負傷する事案が発生した。
 長野県警察及び新潟県警察では、事案発生後直ちに災害警備本部及び現地合同警備本部を設置するとともに、広域緊急援助隊等延べ約8,800人の警察官を動員して被災者の救出救助、行方不明者の捜索、現場付近の交通規制等を実施した。

2 各種事故と警察活動

(1) 水難
ア 水難の発生状況
 平成8年中の水難の発生件数は1,950件(前年比56件(3.0%)増)、死者、行方不明者数は1,213人(1人(0.1%)減)、警察官等に救助された者の数は1,039人である。最近5年間の水難発生状況は、表7-2のとおりである。また、水難による死者、行方不明者を年齢別にみると表7-3のとおりで、7年とほぼ同数であった。
 死者、行方不明者を発生場所別にみると図7-1のとおりで、海が最も多く、全体の48.5%を占めている。行為別にみると図7-2のとおりで、魚とり・魚釣り中、通行中、水泳中の順に多かった。

表7-2 水難発生状況(平成4~8年)

表7-3 水難による死者、行方不明者の年齢層別状況(平成7、8年)

図7-1 水難による死者、行方不明者の発生場所別構成比(平成8年)

図7-2 水難による死者、行方不明者の行為別構成比(平成8年)

イ 水難の防止活動
 警察では、水難の発生しやすい危険な場所について遊泳者等に広報し注意喚起するとともに、その場所の管理者等に対し施設の整備等を働き掛けている。特に人出の多い海水浴場では、臨時派出所の設置、海浜パトロール等を行うほか、船舶やヘリコプターによる監視等を通じて、海水浴客に対する広報、遭難者の早期発見、救出、救護に努めるとともに、関係機関、団体と協力して、救急法講習会や各種の救助訓練を実施している。
 また、福島、福井、滋賀、兵庫、和歌山、長崎、宮崎及び沖縄の各県においては、海水浴場開設業者等による遊泳区域の明示、水難救助員の配置等を定めた条例(いわゆる「水上安全条例」)を制定している。
(2) 山岳遭難
ア 山岳遭難の発生状況
 平成8年中の山岳遭難の発生件数は896件(前年比94件(11.7%)増)、遭難者は1,133人(111人(10.9%)増)である。最近5年間の山岳遭難の発生状況は、表7-4のとおりである。
 近年の登山者の年齢層等の多様化に伴い、遭難者も幼児から高齢者まで幅広い層に広がってきており、特に中高年層の遭難が多発している。遭難の形態は転・滑落、転倒等が多く、その原因は、体力・技術不足、装備の

表7-4 山岳遭難の発生状況(平成4~8年)

不備等登山の基本的な知識や心構えの欠如と考えられるものが多い。
イ 遭難者の捜索、救助活動
 警察では、遭難者の迅速な捜索、救助活動を行うため、山岳警備隊等を編成し、平素から各種訓練を行うとともに、救助用装備資機材の整備拡充を行うなど、救助体制の強化に努めている。
 8年中に遭難者の救助活動に出動した警察官は延べ約9,700人、ヘリコプター出動回数は延べ400回で、民間救助隊員等との協力によるものを含め、遭難者936人を救助したほか、183遺体を収容した。
ウ 山岳遭難の防止活動
 警察では、山岳遭難を防止するため、遭難の発生場所原因等を分析し、関係機関等との遭難対策検討会を開催するとともに、各種広報媒体を活用して登山の安全に関する国民の意識の向上に努めている。
 主要山岳(系)を管轄する都道府県警察においては、関係機関等と連携して登山道等の実地踏査、道標及び危険箇所の点検、整備を行うとともに、山岳情報を登山者に提供している。また、登山口等に臨時派出所を開設し、登山計画書の提出の奨励、装備の点検等を行っているほか、山岳パトロール等の活動を通じて登山の安全に関する指導を行っている。
(3) レジャースポーツに伴う事故
 近年、水上オートバイ、パラセーリング等のレジャースポーツに伴う事故が増加している。平成8年中のレジャースポーツに伴う事故の発生件数は439件(前年比102件(30.3%)増)、被災者数は715人(174人(32.2%)増)である(表7-5)。
 こうした事故の原因の主なものは、技術不足、不注意等であり、無謀操縦等を原因とするものも多いことから、警察では、事故防止を呼び掛けるパンフレットの配布等により安全広報に努めるとともに、レジャースポーツ現場におけるパトロール等を通じての指導取締り、関係機関、団体に対する事故防止指導等を推進している。

表7-5 レジャースポーツに伴う事故の発生状況(平成8年)

3 雑踏警備

(1) 一般雑踏警備活動
 平成8年中に警察官が出動して雑踏警備に当たった行事への人出は延べ約7億5,207万人に上り、警察では、延べ約53万人の警察官を動員して、雑踏事故の防止に努めた。正月三が日の初もうでの人出は約8,766万人(前年比約245万人(2.9%)増)である。また、正月三が日のスキー場等の行楽地の人出は約450万人であった。一方、ゴールデンウィーク(4月27日から5月6日まで)の人出は約6,675万人であった。最近5年間の雑踏警備実施状況は、表7-6のとおりである。

表7-6 雑踏警備実施状況(平成4~8年)

 8年中の雑踏事故は16件発生し、死者は4人、負傷者は63人に上った。このうち、山車(だし)、神興(みこし)等の運行に伴うものが12件、死者3人、負傷者17人で、また、花火大会における事故が2件、負傷者44人であった。
 警察では、行事の主催者、施設の管理者等に対して、事前連絡の徹底、自主警備体制の強化、危険予防の措置、施設の改善等を要請するとともに、混雑する場所等に警察官を配置し、雑踏事故の未然防止に努めている。
(2) 公営競技場の警備活動
 平成8年中の競輪場、競馬場等の公営競技場への総入場者数は、延べ約1億9,500万人であった。警察では、公営競技をめぐる紛争事案や雑踏事故防止のため、延べ約8万9,500人の警察官を動員して警備に当たった。最近5年間の公営競技場の警備実施状況は、表7-7のとおりである。

表7-7 公営競技場警情実施状況(平成4~8年)

 8年中の公営競技をめぐる紛争事案の発生件数は5件で、その内容はレース結果等についての抗議形態のものであった。警察では、関係機関、団体に、自主警備体制の確立、施設、設備の改善、酒類の販売の自粛等を要請し、円滑な競技の運営を働き掛けているほか、競技開催の都度、警察官の派遣等により雑踏事故及び紛争事案の未然防止に努めている。


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