第1節 地域の安全を守る諸活動

1 地域の「生活安全センター」~交番、駐在所

 交番、駐在所(以下「交番等」という。)は、地域警察活動の拠点として各地に置かれており、その受持ち区域の安全の確保について第一次的な責任を負い、地域住民のための「生活安全センター」としての役割を担っている。
 交番は、事件、事故等が比較的多い都市部を中心に設置され、原則として1当務3人以上の交替制勤務の警察官によって運用するものとされており、駐在所は、町村部を中心に設置され、原則として勤務場所と同一の施設内に居住する1人の警察官によって運用するものとされている。その数はそれぞれ約6,500箇所、約8,300箇所である。
(1) 地域の「生活安全センター」としての諸活動
ア 身近な相談の機会~巡回連絡
 交番等の地域警察官は、受持ち区域の家庭、事業所等を訪問し、防犯、事故防止等についての指導連絡、住民の困りごと、要望等の聴取等に当たる巡回連絡を行っている。
イ パトロール等による事件、事故等への対応
 交番等の地域警察官は、受持ち区域をパトロールしながら、不審者に対する職務質問、危険箇所等の把握、犯罪多発地域の家庭等に対する防犯指導等に当たっている。



 また、警察本部や警察署に配置された約2,800台のパトカー及び交番等に配置された約3,500台の小型パトカーは、管内のパトロールを行うとともに、その機動力を生かして事件、事故等の発生に際しての初動措置に当たっている。
 平成8年中の重要犯罪検挙人員7,323人のうち2,747人(37.5%)が、地域警察官の検挙によるものであった(表3-1)。
ウ 遺失物の取扱い

表3-1 地域警察官の職務質問等による重要犯罪事件被疑者検挙人員(平成8年)

図3-1 遺失物、拾得物の取扱状況(平成4~8年)

 交番等の地域警察官は、拾得された遺失物を遺失者に速やかに返還するための遺失、拾得届の受理業務を行っている。
 8年中に警察が取り扱った遺失届は約286万件(現金約461億円、物品約619万点)であり、拾得届は約411万件(現金約154億円、物品約877万点)であった。拾得届のあった金品のうち、現金については72.2%、物品については31.0%が遺失者に返還されている。最近5年間の遺失物、拾得物の取扱状況は図3-1のとおりである。
エ 地域住民に身近な安全
 全国の交番等では、独自にミニ広報紙等を作成している。これらは、受持ち区域の事件、事故等の発生状況とその防止方策、住民の声等身近な話題を伝える「交番新聞」として地域住民に親しまれている。
 また、交番等では、地域住民に身近な犯罪等の発生状況等地域の安全確保にとって必要な情報を迅速、的確に地域住民に提供するため、地域住民との間にファックス・ネットワークを構築するとともに、「交番速報」、CATV等の各種広報媒体の効果的な活用を図っている。
(2) 「生活安全センター」としての機能の向上
ア 交番所長制度と交番等のブロック運用
 交番には、日勤制の勤務を行いながら、交番の業務の全体を把握し、統括する交番所長を置くものとされている。また、地域の特性に沿った弾力的な警察活動を推進し、地域における警戒活動を一層充実させるため、近接した交番等を組み合わせてブロック単位で運用し、急訴事件への対応や夜間の合同パトロール等に当たっている。
イ 交番相談員の活躍
 比較的来訪者の多い都市部の主要な交番には、交番相談員が配置され、困りごと相談等への対応、事件、事故の届出等の取次ぎ、被害者に対する助言指導等に当たっており、交番の

警察官がパトロール等の所外活動に従事している間においても、交番を訪れた住民に適切な行政サービスを提供するよう努めている。

ウ 地域に密着した「交番・駐在所連絡協議会」
 地域ぐるみで犯罪や事故、災害のない明るい街づくりを進めるため、交番、駐在所を単位として、各界、各層の住民により構成される「交番・駐在所連絡協議会」が、平成8年末現在、全国で1万2,249箇所設置されている。
エ 交番等の施設、設備の充実強化
 警察では、地域住民が警察への相談、防犯についての会合等を行うためのコミュニティ・ルームを交番等に設けるほか、受持ち区域の広い駐在所等に小型パトカーを配備するなど、交番等の施設、設備の充実強化に努めている。

2 事件、事故等に即応する警察

(1) 市民に定着した110番
ア 110番の現状
 平成8年中に全国の警察で受理した110番の件数は約620万件で、7年に比べ約49万件増加した。これは、5.1秒に1回、国民20人に1人の割合で利用されたことになるが、このように利用が拡大したのは、主として携帯電話等の移動電話の普及に伴う電話の台数の増加や利便性の向上によるものと考えられる。110番の受理件数を内容別にみると、図3-2のとおりで、交通事故、交通違反の通報が約208万件(33.6%)と最も多く、刑法犯被害の届出は、約38万件(6.2%)となっている。過去10年間の110番の受理件数の推移は、表3-2のとおりである。
 警察では、毎年1月10日を「110番の日」と定め、市民に対して110番の適切かつ積極的な利用を呼び掛けるとともに、警察による緊急の対応を必要としない電話による相談等については、「#(シャープ)9110番」を利用するよう呼び掛けている。

図3-2 110番の内容別受理件数(平成8年)

表3-2 110番受理件数の推移(昭和62~平成8年)

イ 通信指令システムの概要
 110番通報を迅速かつ集中的に処理するため、都道府県警察ごとに通信司令室が設けられている。

 110番通報を受理した通信指令室では、直ちにパトカーや交番等の警察官を現場に急行させるとともに、必要に応じて緊急配備の発令、他の都道府県警察への通報等を行い、人命の救助、犯人の早期検挙等に努めている。
ウ 緊急配備
 重要事件の発生に際し、犯人の迅速な検挙と事後の捜査資料を得るため、交番等の地域警察官を中心として、必要な警戒員を臨時かつ集中的に検問、検索、張り込み等のために配置することを緊急配備と呼んでいる。8年中の緊急配備(広域緊急配備を含む。)の実施件数は5,925件で、検挙率は40.1%であった。
エ リスポンス・タイム
 8年中の110番集中地域(注)におけるリスポンス・タイム(110番通報によりパトカーが出動した場合における110番通報の受理から警察官の現場への到着までの所要時間をいう。)の平均は5分46秒であった。リスポンス・タイムが短いほど、現場近くで犯人を検挙する確率が高くなっている(表3-3)。

表3-3 110番集中地域におけるリスポンス・タイムと現場における検挙状況(平成8年)

 警察では、リスポンス・タイムの短縮のため、事案発生場所の早急な把握のための地図自動現示システム、パトカーの活動状況が容易に把握できるカーロケータ・システム等の導入等通信指令システムの機能の高度化に努めている。
(注) 110番集中地域とは、その地域からの110番通報を警察本部の通信指令室で直接受理するシステムが設けられている地域をいう。これ以外の地域では、110番通報は地元の警察署が受理している。
オ 外国語による110番通報
 外国語による110番通報に対応するため、警察では、通信指令室に外国語に通じた者を配置するほか、通訳センター(第8章2(1)ア(イ)参照)の係員やあらかじめ委託している民間の通訳者を含めた三者間通話を行うなどの手法も導入している。最近5年間の外国語による110番通報件数は表3-4のとおりである。

表3-4 外国語による110番通報件数(平成4~8年)

(2) 水上、鉄道等の安全のための諸活動
ア 水上警察活動
 警察では、主要な港湾、離島、河川、湖沼等を管轄する133警察署等に警察用船舶230隻を配備し、これらとパトカーや警察用航空機との連携を図ることにより、パトロール、各種犯罪の検挙、取締り等に当たるとともに、訪船等による安全指導を行っている。最近5年間の水上警察活動に伴う犯罪検挙、保護等の状況は、表3-5のとおりである。

表3-5 水上警察活動に伴う犯罪検挙、保護等の状況(平成4~8年)

イ 鉄道警察隊
 鉄道警察隊は、主要な鉄道施設内の犯罪発生状況の分析結果に基づき、新幹線や在来線の特別急行列車、寝台列車等への重点的な警乗、駅構内でのパトロール、立番等を行い、すり、置き引き等の犯罪の予防及び検挙、少年補導、迷子、家出人等の保護等に当たるとともに、乗客に対する犯罪や事故の防止に必要な指導を行っている。
 また、鉄道事業者との連絡協議会の設置、列車事故を想定した鉄道事業者との共同訓練の実施等により、鉄道施設内の治安維持に努めている。

ウ 警察用航空機の活動
 平成8年末現在、警察用航空機は、全国に計70機(すべてヘリコプターである。)配備され、その機動性、高速性、広視界性という利点を活用し、交通情報の収集、災害危険箇所の調査、環境事犯の監視等を行っている。また、事件、事故や災害の発生に際しては、通信指令室、パトカー、警察用船舶との連携を図り、情報収集、犯人の捜索・追跡、被災者等の救難救助等の活動を行っている。
 8年中の警察用航空機の出動回数は2万1,086回である。また、山岳遭難、水難等の救助活動については、1,209回出動し、144人を救助している。

3 地域住民の保護・支援活動等

(1) 家出人、行方不明者等の発見・保護活動
 警察では、酔っ払い、迷子等応急の救護を要する者の保護活動を行っている。最近5年間の保護取扱状況は、表3-6のとおりである。
 また、犯罪に巻き込まれ、又は自殺するおそれがあるなどの家出人については、特異家出人として特にその迅速な発見、保護に努めている。平成8年中の家出人の発見数(捜索願の届出がない家出人の発見数を含む。)は7万7,127人であり、発見の端緒別状況は、表3-7

表3-6 保護取扱状況(平成4~8年)

表3-7 家出人の発見の端緒別状況(平成8年)

表3-8 家出人捜索願の受理件数の推移(平成4~8年)

のとおりである。家出人捜索願の受理件数は、8年中は8万5,157件であり、最近5年間の推移は、表3-8のとおりである。
(2) 高齢者を支援する活動
 警察では、犯罪や事故からの高齢者の保護及び地域安全活動への取組みを通じた高齢者の社会参加を2本柱とする「長寿社会総合対策要綱」により、高齢者に対する支援活動を推進している。
ア 高齢者に対する保護活動
 警察では、巡回連絡等を通じて高齢者に対し防犯についての指導等を行っている。また、はいかい高齢者の増加が問題となっていることから、自治体等と連携して「はいかい老人SOSネットワーク」を構築するなど、これらの者の早期発見、保護のための取組みを推進している。
〔事例〕 悪質商法被害防止、事件・事故に遭った時の対処方法、交通事故防止等について、高齢者に対する安全講座を定期的に開設し、安全知識の普及に努めた(岡山)。
イ 高齢者の社会参加活動
 警察では、高齢者が安心して生きがいを持って生活できるように、地域安全活動への取組みを通じた高齢者の社会参加を支援して、地域の連帯感や相互扶助機能の強化を図っている。
(3) 障害者を支援する活動
 警察では、聴覚障害者の利便と気持ちに配意した警察活動を図るため、手話ができる警察官等を配置した「手話交番」を17都府県57交番等で開設している。手話ができる警察官等は、(財)全日本ろうあ連盟の作成した「手話バッジ」を着用している。
 また、電話機による意思の伝達が困難な障害者のため、緊急通報をファクシミリにより受け付ける「FAX110番」を全国に設置している。

 さらに、警察では、防犯協会、自治体、企業等と連携して障害者の安全な生活確保のために、点字による地域安全情報の提供や手話ボランティアの協力による防犯診断等、様々な地域安全活動を行っている。
〔事例〕 警察署の指定手話通訳員等を介して「性犯罪の発生状況と防犯の心得」について、女性の聴覚障害者に講演するとともに、男女双方の警察官による護身術の実技指導等の各種防犯指導を実施した(京都)。
(4) 来日外国人を支援する活動
 警察では、来日外国人が犯罪や事故の被害に遭わないように、来日外国人のための相談窓口の設置、防犯教室の開催、外国語で書かれた防犯パンフレットの配付等により、生活の安全に関する指導を推進している。
 また、各地で、来日外国人を雇用したり、研修生として受け入れている企業等が結成している連絡協議会と連携し、外国人従業員、研修生に対して、犯罪、事故等の被害に遭わないための防犯指導を実施しているほか、地域安全ボランティアとしての社会参加活動を促している。
(5) 住民の立場に立った相談業務の推進
 警察では、困りごと相談等の各種相談業務を推進し、住民の様々な相談に対して、必要な助言等を行っている。
 平成8年中における困りごと相談の受理件数は208,717件で、前年に比べて2,500件(1.2%)減少した。8年に受理した困りごと相談の内容は表3-9のとおりで、8年中における困りごと相談の処理状況は、表3-10のとおりである。

表3-9 困りごと相談の内容(平成8年)

表3-10 困りごと相談の処理状況(平成8年)

4 ボランティアとともにある地域安全活動

(1) 犯罪等のない地域社会を目指して
ア 地域住民に身近な犯罪の防止活動
(ア) 自動車盗、オートバイ盗及び自転車盗の防止対策
 警察では、自動車盗の防止対策として、「キー抜取り、ドアロック」励行等の広報啓発活動を行うとともに、関係業界等に対し盗難防止のための機器の開発及び改良を要請したり、駐車場の管理者等に対し不審者等の発見時における警察への迅速な通報等を呼び掛けたりしている。
 また、オートバイ盗及び自転者盗の防止対策としては、施錠の励行等の防犯指導を行っているほか、(社)日本防犯設備協会と協力してハンドルロックの強化等の検討を行うとともに、関係機関に対し防犯カメラ等の防犯設備が完備された駐輪場の整備拡大を要請するなどしている。さらに、自転車防犯登録モデル校の指定等により防犯登録の完全実施に向けた取組みを強化するなどの諸対策を推進している。
(イ) ひったくり、痴漢等の防止対策
 警察では、ひったくり防止対策として、携帯用防犯ブザー等防犯器具の普及等に努めるとともに、犯罪現場等の実態を分析して、自治体へ防犯灯の設置を要請するなどの諸対策を推進している。
 また、痴漢等性犯罪への防犯対策としては、夜道、公園等の危険箇所の重点的なパトロール、防犯懇談会等における児童、保護者、教育関係者等に対する防犯指導等を行っている。さらに、痴漢撃退の実技講習会の開催や(財)全国防犯協会連合会の協力を得て作成した「痴漢防止ビデオ」を関係各方面に推奨するなどの広報啓発活動を行っている。
(ウ) 幼児等を対象とする誘拐事件の防止対策
 幼児等を対象とする誘拐事件及び下校途中の児童等に声を掛ける事案の防止対策として、警察では、児童等の誘拐防止教育を行う安全指導班等を組織化し、教育機関、PTA、家庭等に対して、防犯研修会等を通じて防犯指導を推進している。さらに、児童等の通学路及びその周辺の理髪店、コンビニエンスストア等を「こども110番の家」として委嘱し、声掛け等の事案が発生した場合の児童の緊急避難場所とするなど、地域住民の協力を得た地域安全活動を実施している。

イ 金融機関等の防犯対策
 警察では、金融機関との連絡会議や防犯訓練を実施しているほか、防犯設備、管理体制を充実させるため、「金融機関の防犯基準」を作成し、(財)日本防災通信協会等と協力して、同基準に基づいた防犯指導を行っている。また、深夜スーパーマーケット等の職域についても、県単位や警察署単位の職域防犯組織の結成を促進して、業界全体の自主防犯体制の整備促進と防犯設備等の点検、改善等の防犯指導を実施している。

(2) 地域住民による地域安全活動
ア 防犯協会を中心とした地域住民等による地域安全活動
 地域安全活動は、生活に危険を及ぼす犯罪、事故、災害による被害の未然防止、拡大防止及び回復等を行い、安全で住みよい地域社会を実現するための総合的な活動である。「地域安全ニュース」の発行等地域安全情報の提供、暗がり、空き家等犯罪発生の危険度の高い箇所に対するパトロール等の活動を、防犯協会を主体として、地域住民、警察、自治体がそれぞれの立場で相互に連携しながら推進している。
イ 職域防犯団体の活動
 犯罪の被害を受けやすい業種、犯罪に利用されやすい業種等を中心として、組織的な防犯対策を講ずるための職域防犯団体が結成されており、企業による地域安全を目的としたボランティア活動が活発化している。

〔事例〕 タクシー運転手による「街の安全パトロール隊」が発足し、携帯電話、救急用具等をタクシーに積載して交通事故、犯罪等の110番通報や、救急用具の提供等を行っている(岡山)。
ウ 全国地域安全運動の展開
 (財)全国防犯協会連合会及び各都道府県防犯協会を中心として、平成8年10月11日から20日までの10日間「全国地域安全運動」が展開された。この運動を通じて、「地域安全パトロール隊」の結成等各地域の実情に応じた様々な地域安全活動が実施された。
(3) 地域住民の活動を支援する警察
 警察では、地域住民に身近な犯罪、事故等に関する情報や、犯罪類型別の防犯ノウハウ等地域の安全確保に必要な情報を提供するとともに、ボランティアによる地域安全活動の推進方法や防犯診断等について専門的知識・経験に基づく助言を行っている。
 また、地域住民による地域安全活動を活性化させ、警察活動との有機的な連携を図るため、地域安全活動の内容、方法について防犯等の専門的立場から助言を行う「防犯活動アドバイザー」を平成9年3月末現在、全国27都道府県の警察本部、警察署に計117人配置している。

5 セキュリティシステムの確立

(1) 社会環境の変化に対応したセキュリティシステムの確立
 情報通信技術の急速な発達に伴う社会環境の急激な変化に起因して、情報通信ネットワークに係る新しい形態の犯罪や不正行為が発生するなど様々な問題が顕在化しつつあるが、このような状況下において市民生活の安全と平穏を確保していくためには、経済社会システムにおける犯罪抑止力の形成を図ること、すなわち、セキュリティシステムを確立していくことが必要となる。
 そして、このようなセキュリティシステムの確立を図るためには、警察において、匿名性の高い情報通信ネットワークにおけるなりすまし犯罪を防止するための本人認証システム(通信当事者が他人になりすました者ではないことを認証(確認)するシステム)の在り方等の制度的課題の検討や消費者被害の防止を図るための広報啓発活動を行うことが必要である。さらに、情報通信ネットワークに係る防犯技術の開発及び提供を行う防犯設備業、画像・伝送システム等多様な防犯技術を活用した機械警備業等の民間事業主体の行うセキュリティサービスが、社会環境の変化に対応して、必要とされる水準を満たしつつ、必要とされる領域に適切に普及していくことが重要である。警察においては、情報セキュリティ施策策定のための調査研究等に取り組むほか(第4章第2節2(4)参照)、関係業界、関係団体等との連携を図ることなどにより、セキュリティシステムの形成に努めている。
 また、警察庁では、平成9年4月、生活安全局生活安全企画課にセキュリティシステム対策室を設置し、セキュリティシステムの形成を進める体制の整備を図った。
(2) セキュリティビジネスの育成
ア 時代の変化に対応した良質なセキュリティサービスの提供
(ア) 活躍する警備業
 警備業の業務は、空港、原子力発電所から一般家庭に至るまでの様々な施設における施設警備、工事現場等における交通誘導警備、各種イベント会場等における雑踏警備、現金輸送警備、ボディーガード等の幅広い分野に及んでいる。また、近年では、国民の安全に対する認識及びニーズの高まり、マルチメディア等の情報通信技術の高度化、社会の高齢化に伴う老人家庭の増加等の社会環境の変化を背景として、特にホーム・セキュリティ・システム等に係る機械警備業が発展するなど、警備業務が民間におけるセキュリティサービスとして定着してきている。平成8年末現在の警備業者数は8,669、警備員数は377,140人であり、いずれも増加傾向にある。
 阪神・淡路大震災において、警備員による交通誘導、避難所の警戒活動等が交通渋滞の緩和、犯罪の防止等に有効に機能したことから、札幌市のほか25都府県で、自治体又は都道府県警察の長と都道府県警備業協会会長の間で災害時における支援協定が締結されており(9年5月末現在)、今後も全国に広まる見通しである。また、全国各地で都道府県警備業協会が自治体主催の防災訓練に参加するなど、警備業の防災分野での活躍が目立っている。
 警備業務は、人の生命、身体、財産等を守る業務であることから、警察では、その業務が適正に行われるように指導、監督を行っているところであるが、更に優良な警備員の育成を図るため、警備員教育を行う者の資質の向上、警備員の検定の受検を促進すること等を内容

とする警備業法施行規則の一部改正(9年4月1日施行)等を行ったところである。
(イ) 優良な防犯機器の普及、推奨
 侵入盗等に対する自主防犯体制の整備、充実のためには、防犯警報機やホーム・セキュリティ・システム等の防犯機器の普及が重要である。警察では、防犯カメラ等の防犯機器の研究、開発を関係業界等に働き掛けるとともに、それらを広く紹介することにより、その性能の向上と普及に努めているほか、(社)日本防犯設備協会等と連携して、その性能に関する自主基準づくりを促進している。また、(社)日本防犯設備協会では、防犯機器の設計、施工及び保守管理を行う者の資質を向上させ、これらの業務の実施の適正化を図るため、防犯設備士制度を実施しており、8年末までに3,677人が資格認定試験に合格している。
 さらに、(財)全国防犯協会連合会では、優良な防犯機器の普及を図るため、優良住宅用開きとびら錠の型式認定制度を実施し、優良な住宅用開きとびら錠を広く一般に推奨している。
イ 流通を通じたセキュリティの確保
 古物営業法及び質屋営業法は、古物商、質屋等に取引の相手方の身分確認や取引の記録等を義務付けて、盗品等の追跡可能性を担保し、その処分を困難にすることによって盗品等の市場への流入を抑止し、窃盗その他の犯罪の防止を図ることを目的としている。両法は、経済社会における犯罪を抑止するセキュリティシステムの一翼を担うものとなっており、警察においては、犯罪情勢や取引実態に配意しつつ、古物営業法等を適正に施行するとともに、古物営業管理システム(電算化)の整備等、より効果的なセキュリティシステムの確立のための施策の策定及び実施に努めている。
 また、流通を通じたセキュリティシステムの形成に当たっては、警察による古物営業法等の施行のみならず、質屋及び古物商等が、事業者間で盗難等に関する情報を交換するなど自主的努力により果たす役割が重要なものとなるため、警察では、全国古物商組合防犯協力会連合会、全国質屋組合防犯協力会連合会、(財)全国防犯協会連合会等との緊密な連携の下、質屋及び古物商等の健全育成を図り、流通を通じた犯罪を抑止する適切なセキュリティシステムの確立に努めている。
ウ その他
 探偵社、興信所等の調査業は、経済的リスクの分析等のセキュリティサービスを提供するものであるが、詐欺事案等、悪質な業者による不適正な営業活動が後を絶たないことから、警察では、悪質な調査業者の取締り等を行うことによって、調査業の健全な発展に取り組んでいる。


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