第9章 警察活動の基盤と関連する諸活動

1 警察組織と警察職員

 我が国の警察組織は、都道府県の警察機関と国の警察機関から構成されている。まず、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、公共の安全と秩序の維持に当たるという警察の責務に任ずるため、都道府県を単位として、都道府県公安委員会とその管理の下に都道府県警察が置かれ、これら都道府県警察を国家的、全国的な立場から指導監督し、又は調整する国の警察機関として、国家公安委員会とその管理の下に警察庁が置かれている。
 警察庁及び都道府県警察に勤務する警察職員は、警察官、皇宮護衛官、事務職員、技術職員等で構成され、これらの職員が一体となって警察職務の遂行に当たっている。
 警察がその責務を全うしていくためには、現在警察で勤務している職員の高い士気を維持するとともに、今後の警察を担っていく優秀な人材を確保する必要がある。そのため、全国の警察を挙げて、職員の待遇改善、勤務環境の整備等に努めているところであり、現在の職員だけでなく、将来警察で勤務する者にとっても、更に魅力のある職場づくりを積極的に推進しているところである。
(1) 定員
 平成8年度の警察職員の定員は、総数26万2,439人で、その内訳は、表9-1のとおりである。都道府県警察の地方警察職員たる警察官の定員については、7年度には、兵庫県南部地域を中心に未曾(ぞ)有ともいうべき被害をもたらした阪神・淡路大震災の発生に伴い、市民生活の安全と平穏を確保するため、兵庫県警察官について500人の増員が行われ、また、8年度には、地下鉄サリン事件や一般市民を被害者とする銃器使用凶悪事件の続発等、治安情勢の急激な変化に対処するため、全国の都道府県警察について3,500人の増員が行われた。
(注) 阪神・淡路大震災に伴う増員については、7年度は500人、8年度は、100人を減じた400人、9年度以降当分の間は、更に100人を減じた300人の増員措置を継続することとしている。

表9-1 警察職員の定員(平成8年)

(2)教育訓練
 警察官には、逮捕、武器使用等の実力行使の権限が与えられており、また、自らの判断と責任で緊急に事案を処理しなければならない場合も多いことから、適正な職務執行のためには、常に良識と高度な実務能力が必要とされる。このため、警察では、警察学校と職場において、あらゆる機会を通じて現場に即した教育訓練を行い、プロフェッショナルとしての実務能力と資質の向上に努めている。また、柔道、剣道、逮捕術、けん銃操法等の術科訓練においては、最近の犯罪情勢にかんがみ、凶悪犯罪、特に銃器使用犯罪に的確に対処するための訓練にも力を入れている。
 警察学校においては、新たに採用した警察官に対して、警察官として必要な基礎的知識や技能を習得させる採用時教養、各階級昇任者に対して、幹部として必要な知識と技能を習得させる昇任時教養、特定の分野に関 して高度の専門的な知識と技能を習得させる各種の専科教養等の集合教養を実施している。また、警察学校における教育効果を高めるため、学生のプライバシーに十分配慮した生徒寮の改善、ゆとりのあるカリキュラムや十分な自由時間の設定等の教育環境の整備を行っている。
 また、職場においては、警察官の能力開発の基本的な手法として、上司等による個人指導(OJT)の日常的な実施をはじめ、多角的な教養を積極的に行うとともに、各種資格取得奨励制度等の拡充に努めている。なお、平成6年度からは、極めて卓越した専門的技能や知識を有する職員を「警察庁指定広域技能指導官」に指定するなどして、職員に対する専門的な技術指導に当たらせている。
 さらに、国際化に的確に対応するため、語学教養を積極的に推進するとともに、職員を外国の語学学校や警察機関等に派遣し、語学力に優れ、かつ、実務能力の高い職員の育成を図っている。
 また、警察官に求められる職業倫理の確立と使命感の醸成を図るため、その指針として設けた「警察職員の信条」を中心とする職業倫理教育に力を入れているほか、市民の立場から親切かつ適切に職務を行うため、民間企業への派遣研修、部外講師による接遇マナー講習会、応接指導者研修等を行っている。
(3) 勤務
ア 警察職員の勤務
 警察では、その責務を果たすため、24時間警戒体制を確保している。そこで、地域警察官をはじめ、全警察官のおおむね4割は、交替制勤務で3日ないし4日に1度の夜間勤務を行っている。交替制勤務者以外でも、警察署に勤務する警察官の多くは、1週間に1度程度の割合で夜間勤務に従事している。また、突発事件、事故の捜査等のため、勤務時間外に呼び出されることもある。
 このような警察職員の勤務の特殊性にかんがみ、これまで、駐在所勤務員の複数化、交番等の勤務環境の改善、階級別定数の見直し、巡査長制度の見直し、完全週休二日制導入に伴う勤務制度の改善等を図ってきたが、今後とも職員の待遇の改善を積極的に推進することとしている。
 勤務時間については、警察庁及び都道府県警察のいずれにおいても平成4年中に完全週休二日制が導入されている。さらに、夏季等における休暇の連続取得の普及や年次休暇の計画的取得の促進を図るなど、職員が休暇を取得しやすい環境づくりも積極的に推進しているところである。
イ 警察官の殉職、受傷
 警察官は、個人の生命身体及び財産を保護し、公共の安全と秩序を維持するため、自らの身の危険を顧みず職務を遂行し、その結果、不幸にして職に殉じたり受傷したりする場合がある。7年においては、パトカーで窃盗犯人を検索中の警察官2人が逃走犯人の車両に激突され殉職する事案や、高速道路上においてスピード違反車両を路肩に停車させ交通違反を告知中の警察官が前方不注視のトラックに衝突され殉職する事案等が発生した。
 このように、職に殉じたり受傷した警察官又はその家族に対しては、公務災害補償制度による公的補償のほか、警察関係厚生団体による子弟に対する奨学金等、各種の手厚い保護の措置がとられている。
〔事例〕 8月13日午後3時ころ、A巡査(28歳)は、同僚5人とともに国道上で交通一斉取締り中、交通違反車両を停止させようと合図をしたが、これを無視して暴走してきた違反車両に跳ね飛ばされ殉職した。同人の遺族に対しては公務災害として法律に基づく給付金が支給されたほか、同人の果敢な職務執行をたたえるために賞じゅつ金等が支払われた(北海道)。
(4) 女性警察職員
 平成8年4月1日現在、都道府県警察には、婦人警察官約7,100人のほか、交通巡視員、少年補導職員等の一般職員約1万2,700人の女性が勤務しており、それぞれの分野で活躍している。
 現在、婦人警察官は全国の警察に配置されている。また、女性警察職員の働く分野も次第に拡大され、交通指導取締り、少年補導、女子の留置、保護、広報等だけでなく、犯罪捜査、鑑識活動、警衛、警護、警備、レスキュー、情報分析等の様々な分野に及んでいる。さらに、警察本部の課長をはじめ女性の上級幹部への登用も進められている。
 なお、民間企業と契約した「ベビーシッター制度」等、女性が働きやすい職場環境の整備も積極的に進められており、今後は、警察庁を含めた各警察組織において、更に多くの女性警察職員が幅広い職域で活躍することが期待されている。

(5) 採用への総合的な取組み
 平成7年度に都道府県警察の警察官採用試験を受験した者は約10万6,000人、合格した者は約5,100人(うち大学卒業者は約3,000人)であり、競争率は20.8倍であった。
 警察官としてふさわしい能力と適性を有する人材を確保することは、警察力の基盤強化を図る上で極めて重要な意義を有しており、このため警察ではこれまでも人材の確保に努めてきた。しかし、今後、警察官の採用必要数が増加していくことが見込まれる反面、若年人口は減少していくことなどから、警察官の採用をめぐる情勢についても、厳しさを増すことが予想される。このような情勢を踏まえ、今後とも優秀な人材の確保を図るため、勤務環境を改善するとともに、快適な独身寮の整備、拡充等をはじめとする各種施設の整備を図るなど、魅力ある職場づくりのための施策を積極的に推進している。
 また、悪質、巧妙化する知能犯や化学物質を悪用した犯罪、急増する来日外国人犯罪等に対処するため、財務、化学物質等に関する専門的知識、能力を有する者や外国語による取調べ、折衝能力を有する者等の警察官としての中途採用を推進しており、8年4月1日現在、18都道府県警察で合計19人の財務捜査官、27人の国際捜査官等、9人のコンピュータ犯罪捜査官、6人の科学捜査官等を採用し、効果的に運用している。
〔事例1〕 7年1月、財務捜査官(公認会計士)の会計帳簿等の解析及びコンピュータ犯罪捜査官の被害パターン分析等により、会社ぐるみの広域多額詐欺事件を検挙(警視庁)
〔事例2〕 7年9月、財務捜査官(公認会計士)の会計帳簿等の解析により、建設会社を舞台とした特別背任事件を検挙(京都)
(6) 適切な業務運営
 警察運営を国民の期待と信頼にこたえるものとしていくため、すべての警察職員が職責を自覚し、そのもてる能力を十二分に発揮して、職務に精励することが大切である。このため、警察庁及び都道府県警察は、「業務適正化委員会」を設置し、警察各部門における業務運営や服務に関する問題点を抽出して、現場活動の充実、強化等の具体的かつ効果的な業務改善方策等を講じることとしている。

2 予算

 警察予算は、国の予算に計上される警察庁予算と各都道府県の予算に計上される都道府県警察予算とで構成される。警察庁予算には、警察庁、管区警察局等国の機関に必要な経費だけでなく、都道府県警察が使用する警察用車両やヘリコプターの購入費、警察学校等の増改築費、特定の重要犯罪の捜査費等の都道府県警察に要する経費や、都道府県警察への補助金が含まれている。
 平成7年度の国の予算編成においては、厳しい財政状況の下においても、APEC大阪会議の警備経費をはじめ、現在の治安水準を維持するための生活安全対策の強化、交通安全対策の強化、広域捜査力の強化、国際化対策の強化、重大テロ・ゲリラ対策の強化、暴力団対策の強化、警察基盤の充実強化等について重点的に予算措置している。
 7年度の警察庁当初予算は、総額2,460億8,700万円で、前年度に比べ、195億6,700万円(8.6%)の増加であり、国の一般会計予算総額の0.4%を占めている。
 なお、7年度の国の予算においては、3次にわたる補正予算が組まれたが、警察庁においては、現下の厳しい治安情勢に対応するための緊急犯罪対策、銃器犯罪対策、防災対策、阪神・淡路大震災関係等の経費として、合計1,185億6,800万円に上る予算を措置した。最終補正後の警察庁予算の内容は、図9-1のとおりである。
 7年度の都道府県警察予算の総額は、3兆2,962億3,100万円で、前年度に比べ、840億4,200万円(2.6%)増加し、都道府県予算総額の6.1% を占めている。その内容は、図9-2のとおりである。
 警察庁予算と都道府県警察予算の合計額(重複する補助金額を控除した額)を国の人口で割ると、国民一人当たりの警察予算額は約2万9,000円となる。

図9-1 警察庁予算(平成7年度最終補正後)

図9-2 都道府県警察予算(平成7年度最終補正後)

3 装備

(1) 車両、船舶、航空機
ア 車両
 警察用車両には、捜査用車、鑑識車等の刑事警察活動用車両、交通パトカー、白バイ等の交通警察活動用車両、警らパトカー、移動交番車等の地域警察活動用車両等があり、現有警察用車両の用途別構成は、図9-3のとおりである。
 平成7年度は、APEC会議関連の警備対策用車両のほか、暴力団対

図9-3 警察用車両の用途別構成(平成7年度)



策用車両、銃器・薬物事犯対策用車両、交通安全対策用車両、交番・駐在所の小型警らパトカー等を増強整備した。また、阪神・淡路大震災関連として災害復旧及び災害対策用車両、地下鉄サリン事件関連として特殊事件対策用車両の増強整備に努めた。
 今後も、警察事象の広域化、複雑化に的確に対応して、国民の負託にこたえていくため、警察機動力のかなめである警察用車両の整備、充実を一層図っていく必要がある。
イ 船舶
 警察用船舶は、全長3メートル級から23メートル級のものが合計230隻あり、港湾、離島、湖沼等に配備され、多様化する水上レジャーの安全指導、水難救助、けん銃、覚せい剤等の密輸事犯の取締り等の水上警察活動に活用されている。
 今後の警察用船舶の整備に当たっては、水上警察事象の広域化、高速化に対応するため、より大型化、高速化、高性能化を図っていく必要がある。
 なお、水上警察活動については、第2章第1節4(2)ア参照。

ウ 航空機
 警察用航空機は、空からのパトロール、犯人の捜索や追跡等の捜査活動、交通指導取締り、救難救助等警察活動全般にわたる幅広い分野で活動している。
 7年度は、中型ヘリコプター2機及び小型ヘリコプター5機の更新整備を実施するとともに、災害対策用として中型ヘリコプター6機の増強整備を行った。現在、警察用ヘリコプターの配備数は、47都道府県警察に合計70機となっている。
 なお、警察用航空機の活動については、第2章第1節4(2)ウ参照。

(2)警察装備資機材の開発改善・整備
 警察では、警察活動の基盤となる装備資機材に、最先端科学技術を導入することによって、警察業務の効率化と高度化に努めている。
 平成7年度においては、第一線警察からのニーズが強い銃器対策用資機材等の開発改善及び整備に努めた。

4 警察活動と情報通信

 警察活動を行う上で、情報通信の確保は必要不可欠なものである。このため、警察では、災害等の緊急時にも対応することができるよう、独自の情報通信システムを整備運営するとともに、その一層の高度化に努めている。
(1) 情報通信システムにおける安全対策
ア 警察独自の通信回線
 阪神・淡路大震災においては、30万を超える加入電話に障害が生じたほか、兵庫県庁に整備された防災行政無線が一時使用不能になるなど一般の情報通信システムが大きな被害を受けたが、警察では、電気通信事業者が設置する通信回線とは別に独自の通信回線を設置し、自ら保守、改修等を行う体制を確立しており、警察活動に必要な通信を確保することができた。
(ア) 無線多重回線
 警察が独自に整備、運営している無線多重回線は、警察庁と各管区警察局等を結ぶ管区間系無線多重回線及び管区警察局とその管轄区域内の各府県警察本部等を結ぶ管区内系無線多重回線等から構成されている(図9-4)。この無線多重回線については、伝送路の2ルート化を行うとともに、回線の監視、自動切替えを行うことができる基幹通信網管理システムを導入することにより、災害時でも通信が途絶しないようにしている。

図9-4 無線多重回線の構成

(イ) 衛星通信回線
 警察では、大規模な事故や災害に際して、現場の状況を判断して、的確な指示を行うためヘリコプターテレビシステム等で撮影した映像等の伝送に衛星通信を活用している。衛星通信は、広域性、同報性という特性があるほか、地形や立地条件に左右されずに回線を設定することができる。警察では、平成7年度末までに、全国の警察本部等に固定設備を、各管区警察局には、衛



星通信車を整備している。
イ 情報管理システムにおける安全対策
 警察では、警察行政に関する多種多様な情報をコンピュータで管理している。災害発生時等においても、これらの情報を有効に活用することが必要であるため、警察庁では、コンピュータが設置される情報処理センター等の耐震性の向上、非常用電源の確保、重要データのバックアップ体制の整備等を行い、災害にも強い情報管理システムの構築を推進している。
(2) 情報通信システムの充実、強化
ア 警察電話
 警察電話は、警察庁をはじめとして警察本部、警察署、交番、駐在所等の間で独自のネットワークを構成する警察専用の電話である。警察自営の無線多重回線のデジタル化と併せて、データ、画像情報の伝送にも効率的に対応できるデジタル電子交換機の整備を推進し、警察電話の機能強化を図っている。
イ ファクシミリ
 警察では、警察庁、管区警察局、警察本部等に、文書、図面等を個別又は一斉に伝送する文書用ファクシミリ及び指紋、足こん跡等の写真を伝送する写真用ファクシミリを整備し、警察本部と警察署等の間の伝送のために文書用ファクシミリを整備している。
ウ 警察移動無線
 警察移動無線には、パトカー、白バイ、船舶、ヘリコプター、警察署等の警察官が相互に通信するための車載無線、パトロール中の警察官が相互に又は警察署と通信するための署活系無線、捜査、警備等において、捜査員、機動隊員等が相互に通信するための携帯無線等がある。
 これら警察移動無線については、音声だけでなくデータ等の多様な情報の伝達にも効率的に対応でき、妨害、傍受にも強いデジタル通信方式を開発、導入している。現在までに、車載無線通信系、携帯無線通信系のデジタル化はほぼ完了し、引き続き署活系のデジタル化を推進している。
エ WIDE通信システム
 災害発生時に通信手段を確保することができるようにするとともに、複数の都道府県にまたがる広域犯罪にも柔軟に対応することができるよう、一斉通信機能及び個別通信機能を有し、傍受、妨害に強いデジタル通信方式のWIDE(Wireless Integrated Digital Equipment)通信システムを開発、導入している。このシステムは、使用中の回線を切断して緊急の通信を優先する優先接続機能や、都道府県境を越えて専用の通信系を構成することができる機能を有している。
 平成7年からは、携帯型端末の導入も開始した。
オ 警察統合情報通信ネットワークシステム
 警察統合情報通信ネットワークシステムは、警察庁及び各都道府県警察のそれぞれが構築しているLAN(ローカルエリアネットワーク)を接続し、広範なネットワークシステムを構成するものであり、平成7年度から整備を開始した。最近の技術動向を踏まえ、このシステムでは、クライアント・サーバー・システムを採用している。
力 指令通信システム
 警察では、社会変化に対応した通信指令業務を実現するため、コンピュータを導入し、高機能化された新しい指令通信システムの導入を推進している。また、自動的にパトカーの位置とその活動状況を表示するカーロケータ・システム等の導入を進めている。
キ 自動車ナンバー自動読取システム
 警察では、自動車ナンバー自動読取システムの開発、導入により、手配車両の早期発見等、犯罪捜査の効率化を図っている。
(3) 警察行政の情報化、情報の共有化による業務の効率化
 平成7年に情報システムの整備、情報化に対応した制度、慣行の改善等を内容とする「警察情報化推進計画」(同年度を初年度とする五箇年計画)を策定し、各種情報管理システムの整備等を実施することにより、警察行政の情報化及びその情報の共有化を進め、業務の効率化、合理化及び市民サービスの向上に努めている。
ア 運転者管理業務の効率化
 7年末現在、日本での運転免許保有者数は、約6,900万人を数える。警察では、免許証の迅速な交付、免許証の二重取得の防止等を図るため、運転免許保有者に関するデータを警察庁の大型コンピュータで管理するとともに、交通違反に関するデータを管理することにより、免許の取消し、停止等の行政処分の業務の効率化を図っている。
イ 窓口業務の効率化
 市民サービスの向上のため、警察署における窓口業務である遺失拾得物受理業務、自転車防犯登録業務等にコンピュータを活用して、業務の迅速化、効率化を図っている。
ウ 犯罪捜査のための照会業務の効率化
 警察庁では、都道府県警察から手配された「人(家出人等)」、「車(盗難車両等)」、「物(盗難品等)」に関するデータを大型コンピュータで管理し、第一線の警察官からの照会に対して回答する業務を24時間体制で運用している。これらの照会は、パトカーに搭載してある照会指令システムの端末装置等により、速やかに行うことが可能である。
 また、都道府県警察で保管している被疑者写真や犯罪手口原紙等の画像情報を警察庁の光ディスクに登録し、各都道府県警察からオンラインで検索できる画像情報検索システムや、被疑者指紋を自動登録し、被疑者の遺留指紋と登録された指紋との照合等を行うことができる指紋自動識別システムを整備し、被疑者の割り出し等犯罪捜査の効率化を図っている。
エ コンピュータのネットワーク化
 警察庁では、各都道府県警察の警察本部等のコンピュータと警察庁の大型コンピュータを接続して広範囲なコンピュータネットワークを構築するとともに、各都道府県警察においても、警察本部の電子計算機と警察署、交番に設置する端末装置からなるネットワークを構築し、業務の迅速化、効率化を図っている。
(4) 情報の管理に関する技術的研究
 警察では、警察活動の効率化を推進すべく、各種の情報処理システムの開発を推進している。平成7年度は、携帯情報端末と警察無線通信網のオンライン接続、掌紋自動識別システム、警察情報管理システムのダウンサイジング等に関する調査、研究を実施した。
(5) 機動警察通信隊の活動
 機動警察通信隊は、大規模な事故や災害の発生時等において、既存の警察通信施設では十分な通信を確保できない場合に、臨時に警察通信施設を設置するなどして、警察活動に必要な通信手段を迅速に確保することを任務としている。機動警察通信隊は、全国の各都道府県ごとに設置されており、相互の連携について各種協定を結ぶことにより広域活動の体制を確立している。
〔事例〕 平成7年6月21日に発生した全日空機ハイジャック事件において、北海道警察通信部函館方面通信部機動警察通信隊は、現地対策本部や方面本部対策室に臨時の警察電話、ファクシミリ、無線基地局の設置等を行った。また、事件が夜間に及んだため、暗視カメラによる航空機の映像等を、現地対策本部や方面本部対策室へ伝送した。

5 留置業務の管理運営

 平成7年末現在、全国の留置場数は、1,273場で、年間延べ約260万人(1日当たりの平均被留置者数約7,000人)の被逮捕者、被勾留者等が留置されている。
 警察では、捜査を担当しない総(警)務部門が留置業務を担当し、捜査と留置の分離の徹底を図っている。
 留置場施設については、被留置者の人権に配意しつつ、その改善、整備に努めている。例えば、被留置者の防御権の尊重という観点から、接見室の拡張を進めている。また、被留置者のプライバシーを保護し、その居住環境の改善を図るため、留置室を横一列の「くし型」に配置し、その前面にはしゃへい板を設置することとしているほか、留置室内トイレの構造の改善、感染症対策資機材の設置、留置場内の冷暖房化、ラジオ、日刊新聞紙の備付け等の施設改善や、食事内容の改善を進めている。さらに、急増する外国人被留置者の処遇の適正を図るため、洋式便器やシャワー装置を設置したり、被留置者の母国語の音声と文字によって留置場における処遇等を教示できる機器の整備に努めている。



 警察庁では、以上のような、留置業務の運用面、施設面での適正を確保しつつ、被留置者の処遇の全国的斉一を図るため、全国の留置場について計画的に巡回視察を実施している。
 ところで、警察の留置場については、被留置者の処遇の内容、設置の根拠等が法律上は必ずしも明確でない。そこで、監獄法の改正が行われるのを機会に、法制審議会の答申の趣旨に沿って、被留置者の処遇の内容を定め、警察の留置場に留置される被勾留者等と拘置所に収容される者との処遇の平等を保障するとともに、捜査と留置の分離を法律上の制度として明確にするため、刑事施設法案と一体のものとして留置施設法案を策定した。この法律案は3年4月、第120回国会に上程されたが、5年6月、衆議院の解散に伴い、審査未了となった。

6 警察官の職務に協力援助した者等に対する救済

 市民が社会公共のため現行犯人の逮捕、人命救助等警察官の職務に協力援助して、負傷し、疾病にかかり、障害を負い、又は死亡した場合は、本人やその家族の生活の安定を図るため、その程度に応じて国又は都道府県が救済を行っている。
 平成7年に、警察官の職務に協力援助して死亡し、又は受傷した市民は、死者9人、受傷者19人で、6年に比べ、死者は3人増加し、受傷者は12人減少した。
〔事例〕 上流の川岸で水遊びをしていた小学生(8)が誤って川に転落したところ、釣りをしていた協力援助者(52)がそれを目撃し、降雨で激流となっていた川に飛び込み、溺(おぼ)れている子供を浅瀬への流れに乗せた。子供は救助されたが、本人は力尽き、溺(でき)死した。この事案については、葬祭給付及び遺族給付が支給された(北海道)。

7 被害者対策

(1) 犯罪被害給付制度
 犯罪被害給付制度は、通り魔殺人や爆弾事件等故意の犯罪行為により不慮の死を遂げた被害者の遺族又は身体に重大な障害を負った被害者に対して、社会の連帯共助の精神に基づき、国が遺族給付金又は障害給付金を支給し、その精神的、経済的打撃の緩和を図ろうとして創設されたものであり、昭和56年1月1日から実施されている。
 制度創設以来15年間に3,330人に対して総額約75億8,800万円の給付金が支給されている。

(2)各種被害者対策の推進
 近年、サリンを使用した多数殺人事件、銃器使用による一般市民被害の殺人事件等、凶悪犯罪の被害者やその遺族が置かれる不当な状態に対し、社会的関心が高まっている。特に、殺人の被害者の遺族、強姦(かん)等の身体犯の被害者の負う精神的被害については、こうした事件を通じ、その深刻な窮状が広く認識されるところとなった。
 また、我が国の関係学界においても、被害者をめぐる様々な調査・研究活動が行われ、被害者の社会的な救済の必要性について、機会あるごとに積極的な提言が行われた。
 こうした昨今の被害者に対する国民の関心の高まりの中で、被害者が社会的に十分な救済を受けていない実態が注目を集め、同時に、警察に期待される役割も一層重要度を増すこととなったことから、警察では、各種被害者対策を、被害者の視点に立ちつつ、総合的かつ積極的に推進していくこととしている。
 警察庁では、平成8年1月に(財)犯罪被害救援基金の「警察の『被害者対策』に関する研究会」(座長:宮澤浩一・慶応大学教授、日本被害者学会会長)が作成した報告書を基準に、当面次のような施策を推進していくこととしている。
[1] 被害者向けパンフレットの作成配布
 警察において、被害者が必要とする情報をまとめたパンフレットを作成し、身体犯被害者に交付する。
[2] 被害者連絡担当係の設置
 警察署に被害者連絡担当係を設置し、身体犯被害者について、担当捜査員による捜査状況等の適切な連絡と被害者からの照会に対する確実な対応を行う。
[3] 性犯罪捜査における婦人警察官の役割の拡大等
 捜査能力を有する婦人警察官の育成、運用により、性犯罪の女性被害者に対する事情聴取に婦人警察官を当てる機会を拡大していくとともに、女性警察職員による被害相談体制の整備を進める。また、各都道府県警察の警察本部の捜査部門に「性犯罪捜査指導官」を設置する。
[4] 被害少年への支援体制の確立
 少年警察部門において、被害少年のカウンセリングの推進等、被害少年の保護への取組みを積極的に進める。
[5] 被害者カウンセリング体制等の整備
 被害者のカウンセリングを行う民間団体と十分な連携を図りつつ、その相談窓口の紹介等を通じて、被害者の精神的被害の軽減に努める。
〔事例〕 7年1月から、警視庁では、管内の警察署において、殺人事件の被害者の遺族及び強姦事件の被害者に対し、東京医科歯科大学犯罪被害者相談室作成のパンフレットを配布している。同室は、4年3月、(財)犯罪被害救援基金の援助を受けて開設され、以来犯罪被害者に対するカウンセリング活動を通じ、犯罪被害者の精神面への支援・救援活動の在り方を研究している。同室が7年12月末までに犯罪被害者から受けた相談は255件に上り、犯罪により精神的打撃を受けた被害者・遺族の心の支えとなっている。
 このほか、常盤大学内の水戸被害者援助センター(茨城)、大阪YWCA内の大阪被害者相談室(大阪)においても、犯罪被害者を対象とした相談活動を行っており、茨城県警察、大阪府警察では、管内の警察署においてそれぞれのパンフレットを配布している。
[6] 捜査員の被害者対応マニュアルの作成
 犯罪捜査を進めるに当たっての被害者への負担をできる限り軽減するため、被害者への対応の在り方の基本とすべき事項を捜査員の規範として整備するとともに、捜査員用のマニュアルを作成する。
[7] 被害者対策推進体制の整備
 8年5月、被害者対策の企画、調査、総合調整と民間の被害者支援団体等との連絡に当たる「犯罪被害者対策室」を警察庁に設置した。

8 警察活動の科学化のための研究

(1) 科学警察研究所における活動
 科学警察研究所では、科学捜査、少年の非行防止、犯罪の予防、交通事故の防止等に関する研究、実験とその研究成果を応用した鑑定、検査を行っているほか、鑑定技術についての研修を実施している。
ア 平成7年度における主な研究
 7年度の研究は6年度からの継続研究50件、新規研究35件の合計85件であるが、その主なものを挙げると、次のとおりである。
〔研究例1〕 DNA型分析による個人識別法に関する研究
 各種証拠資料に対応した識別精度の高いDNA型鑑定システムを構築するため、現在DNAの型検出が行われているMCT118型及びHLADQα型に加えて、新たに短鎖DNA型(TH01型)とPM検査についても法科学的評価の下、証拠物件からの型検出法を確立し、8年度から順次全国導入を開始する準備を実施している。
 さらに、古くなり、あるいは、腐敗した血痕、体液斑痕、ヒト組織片等の証拠資料からの検出が有効とみられる、TH01型以外の短鎖DNA型の鑑定への応用についても、継続して研究を行っている。
〔研究例2〕 法科学試料からの神経ガスの高感度検出法に関する研究
 化学的に不安定なサリン等の神経ガスの鑑定検査については、試料の採取、抽出、濃縮、精製、分析及び毒物の判定までを短時間に行わなければならないため、その体系化が必要となっている。7年は、血液、尿、水、土砂、付着物等の証拠資料からのサリン関連化合物の抽出法、ガスクロマトグラフィー/質量分析を中心とした微量分析及び確認同定法を確立し、これらの手法を用いて地下鉄サリン事件等における神経ガスの鑑定を行っている。
〔研究例3〕 弾丸の識別システムの研究
 最近における銃器使用犯罪の増加にかんがみ、発射弾丸から使用銃器を特定するために、弾丸の自動検索システムの研究・開発を行っている。さらに、そのシステムを補完するため、打ち殻薬きょうのカラー画像を用いる高速検索システムの研究・開発を行っている。
〔研究例4〕 地震の発生時における建造物等に対する荷重の変動を推定する方法に関する研究
 阪神・淡路大震災のような大規模な地震が起きた場合、多くの建築物や土木構造物には急激な荷重が加わり倒壊等の大きな被害をもたらすが、その際、建築物等にどのような荷重が加わったかを推定することは、原因の究明や耐震構造の研究に必要である。そこで、各種金属を用いて、地震が起きた場合に建造物等に加わる荷重変動がその破面にどのような影響を及ぼしているかを走査型電子顕微鏡を用いて詳細に研究を行っている。
〔研究例5〕 阪神・淡路大震災における被災者の行動と警察の災害対策
 警察における今後の震災対策のための基礎資料を得ることを目的に、兵庫県警察本部の協力を得て、被災者2,452名を対象に調査・分析を行った。その結果の概要は、次のとおりである。
○ 木造集合住宅の被害が最も大きかったが、コンクリート造りの建物が必ずしも安全であるとはいえなかったこと、家屋が倒壊した場合、脱出できなかった人が6割を占めたこと、火気使用者中の5人に1人は自ら消火できなかったことから、建物の耐震性能の向上、ガス器具等の自動消火装置、地域の救助協力体制等の整備が必要である。
○ 震災直後は余震情報や食料供給等の生命の安全と最低限の生活の確保を保証する情報が特に必要とされたが、高齢者の中には積極的に情報を入手できない者もいるので、情報の伝達には極めて細かい配慮が必要である。
○ 交通規制の遵守を確保するため、交通規制の状況についての積極的な広報が必要である。
○ 人命救助、避難誘導、交通規制等に警察への期待がかけられているが、被災の中心地域では震災後の地域安全への関心も高く、その点についての配慮が必要である。
〔研究例6〕 効果的な運転教習方法に関する研究
 自動二輪車に係る運転免許制度の改正に伴い、8年秋より、大型自動二輪車(総排気量が400ccを超える自動二輪車)の運転免許を取得するための教習が指定自動車教習所において新たに実施されることから、新制度の施行に先立ち、10都道府県の11の教習所において、大型自動二輪車による教習を試験的に実施し、そこで得られた資料をもとに、運転に必要な知識、技能の習得に要する時間、技能の習得状況を教習生の性別、年齢別及び運転免許の有無別に調査するなどして、教習カリキュラムの教習効果や実施上の問題点を評価した。
イ 鑑定・検査
 科学警察研究所においては、都道府県警察をはじめとして、裁判所、検察庁、公正取引委員会、各省庁等から嘱託を受けて、高度な鑑定・検査を行っており、7年中の処理件数は2,086件で、前年比よりも116件増加した。内訳は、工学関係65件、法医関係69件、化学関係147件、文書、偽造通貨関係542件、銃器関係1,262件であり、化学関係が飛躍的に増加した。
 主な鑑定事例としては、地下鉄サリン事件等のオウム真理教関連事件、埼玉県における愛犬家等殺人・死体遺棄事件等がある。
ウ 研修・研究発表会
 科学警察研究所では、附属法科学研修所において、都道府県警察の鑑定技術職員を対象とする研修を実施している。その研修課程は、養成科、現任科、専攻科及び研究科に分かれており、研修生236人に対して、法医、化学、工学、文書、ポリグラフ、指紋、写真、足こん跡に関する研修・実習を行った。また、専攻科においては、個人識別に有効なDNA型鑑定技術に関する研修を6年度に引き続き行うとともに、7年度から在外研修制度を新設し、研修員4名を海外に派遣した。また、交通管理技術に携わる全国警察職員約140人の参加の下に、第3回交通管理技術発表会を開催した。さらに、全国の鑑識科学に関係する警察職員、大学等の研究員が日本鑑識科学技術学会を設立し、第1回の学術集会には約600人が参加して、熱のこもった発表と質疑を行った。また、これと併行して、欧米の11箇国から19人の研究員が参集して、全国のDNA型鑑定に関する研究員とともにDNA国際ワークショップを開催した。
(2) 警察通信研究センターにおける研究
 警察通信研究センターでは、移動体通信技術、通信システムのセキュリティ技術、警察通信網構築技術等についての研究を行うとともに、これらを応用した警察通信機器の開発を行っている。
 平成7年は、電子情報通信学会において、狭帯域デジタル移動通信におけるG3FAX伝送用試作アダプタの野外実験について発表を行った。
〔研究例1〕 移動体通信の高度化に関する研究
 移動体通信において高速通信を行うために、現用と同じ周波数帯域でほぼ4倍の高速通信が可能となる高能率変調方式の無線機を試作し、野外実験を行っている。
〔研究例2〕 通信システムのセキュリティの確保に関する研究
 通信システムのセキュリティの確保に必要な暗号技術についての研究及び暗号装置の開発を行っている。
〔研究例3〕 警察通信網の高度化に関する研究
 各都道府県警察等の保有する情報の共有化及び電子メールによる文書伝送を行う警察通信網をマルチメディアに対応させるために必要な研究を行っている。
〔研究例4〕 画像通信に関する研究
 明暗の差が大きい場所においても適正な露光が得られるようなシャッター速度可変式カメラを試作した。

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