第7章 災害、事故と警察活動

 平成7年は、関東大震災(大正12年9月1日)以来最大の死傷者数等を出した阪神・淡路大震災のほか、台風、前線の停滞等による豪雨、降積雪による自然災害が発生した。警察では、これらの自然災害の発生に際して、直ちに体制を確立し、各種の装備資機材を活用して、被害の未然防止と拡大防止に努め、被災者の救助に当たった。
 また、雑踏事故、水難、山岳遭難、レジャースポーツに伴う事故等に対しても、それぞれ関係機関、団体と連携して必要な諸対策を推進した。

1 自然災害と警察活動

(1) 阪神・淡路大震災の発生と対応
 平成7年1月17日午前5時46分ころ、淡路島を震源とする大規模な都市直下型地震が発生し、兵庫県神戸市、芦屋市、西宮市及び淡路島北淡町においては震度7の激震、洲本市では震度6の烈震を記録した。
 この地震による被害は、兵庫県、大阪府を中心に14府県に及び、死者・行方不明者6,310人(7年12月27日現在の災害関連死者789人を含む。)、負傷者約4万3,000人を出す激甚災害となった。この地震の発生に際して、警察庁、近畿管区警察局及び兵庫県警察、大阪府警察等被災地を管轄する14府県警察本部では、それぞれ災害警備本部等を設置し、その対応に当たった。特に、兵庫県警察では、全国警察から機動隊等の応援を得て、
○ 被災者の救出救助、地域住民の避難誘導、行方不明者の捜索
○ 緊急交通路、復旧物資輸送路の確保等の交通対策
○ 被災地域集団パトロール隊、避難所緊急パトロール隊による警戒警ら、巡回連絡等の被災地における犯罪防止のための諸対策
○ 婦人警察官により編成した「のじぎくパトロール隊」による避難所等に対する立ち寄り、連絡
等の災害警備活動に当たった。
 警察では、阪神・淡路大震災における諸活動を通じて得た教訓をいかし、災害時の被害情報の収集・伝達体制の整備、広域的な即応能力や高度の救出救助能力等を有する広域緊急援助隊の設置等を行った。さらに、

防災基本計画の修正等を踏まえ、国家公安委員会・警察庁防災業務計画の大幅な修正を行い、
○ 情報収集・伝達体制の整備
○ 広域緊急援助隊の整備充実
○ 緊急交通路の確保
○ 被災者等への情報伝達活動
等の事項を追加整備した。

(2) その他の自然災害
 梅雨前線の活発化と停滞により、平成7年7月11日から22日にかけて信越・北陸地方を中心に降り続いた大雨は、記録的な雨量となり、富山・新潟・長野県では、河川の氾(はん)濫やがけ崩れ等が多発し、孤立する集落が相次いだ。関係県警察では、早期に体制を確立し、延べ約7,000人の警察官を動員し、163人の住民を救助した。
 7年の台風については、上陸は14号(9月下旬)の1個、本土への接近は3号(7月下旬)、7号(8月下旬)、12号(9月中旬)の3個と数的には平年を下回ったが、超大型で戦後最大規模といわれた台風第12号は、関東地方に最接近した時の中心気圧が40ヘクトパスカル、中心付近の最大風速が毎秒45メートルに達し、関東地方を中心に広い範囲にわたって被害を発生させた。
 これら台風、大雨等の風水害による7年中の被害は、死者・行方不明者18人、負傷者95人、住家全・半壊約320棟等であった。
 また、降積雪による7年中の被害は、死者・行方不明者24人、負傷者147人、建物被害9棟であった。
 これらの災害に対し、関係都道府県警察では、危険箇所の点検・パトロール等を行うとともに、気象情報に基づき早期に警戒体制を確立し、各種の装備資機材を活用して被災者の救出救助、住民の避難誘導、行方不明者の捜索、交通規制等の災害警備活動を実施した。7年における自然災害による被害状況は、表7-1のとおりである。

表7-1 自然災害による被害状況(平成7年)

2 各種事故と警察活動

(1) 水難
ア 水難の発生状況
 平成7年の水難の発生件数は1,894件(前年比270件(12.5%)減)、死者、行方不明者数は、1,214人(146人(10.7%)減)、警察官等に救

表7-2 水難発生状況(平成3~7年)

表7-3 水難による死者、行方不明者の年齢層別状況(平成6、7年)

助された者の数は900人である。最近5年間の水難発生状況は、表7-2のとおりである。また、水難による死者、行方不明者を年齢別にみると表7-3のとおりで、6年に比べ、全体的に減少している。
 死者、行方不明者を発生場所別にみると図7-1のとおりで、海が最も多く、全体の44.9%を占めている。行為別に見ると図7-2のとおりで、魚とり・魚釣り中、水泳中、通行中の順に多かった。
イ 水難の防止活動
 警察では、水難を防止し、国民が安心して水に親しめるようにするため、水難の発生しやすい危険な場所の実態を調査し、その所有者、管理者や関係機関、団体に対し、危険区域を指摘するとともに、危険な施設の補修等を働き掛けている。特に人出の多い海水浴場では、臨時交番を設置するなどして海浜パトロールを強化しているほか、警察用船舶やヘリコプターによる監視を強化し、海水浴客に対する広報、遭難者の早期発見、救出、救護に努めるとともに、関係機関、団体と協力して、救急法講習会や各種の救助訓練を実施している。

図7-1 水難による死者、行方不明者の発生場所別構成比(平成7年)

図7-2 水難による死者、行方不明者の行為別構成比(平成7年)

 また、7年6月から「水難事故等の防止に関する条例」を施行した兵庫県をはじめ、福島、福井、滋賀、和歌山、長崎、宮崎、沖縄の各県においては、海水浴場開設業者等に対し、遊泳区域の明示、水難救助員の配置等を定めた条例(いわゆる「水上安全条例」)を制定して、水難事故の防止に努めている。
(2) 山岳遭難
ア 山岳遭難の発生状況
 平成7年の山岳遭難の発生件数は802件(前年比28件(3.6%)増)、遭難者数は1,022人(60人(6.2%)増)である。最近5年間の山岳遭難の発生状況は、表7-4のとおりである。
 近年は、登山の大衆化に伴い、中高年をはじめ女性や家族連れ等の登山者が増え、本格的な登山、軽装のハイキング、自然観賞等登山の目的が多様化している。これに伴い、遭難者の年齢も幼児から高齢者まで広がってきており、特に中高年層の遭難が多発している。また、遭難の形態も登山道での転・滑落、転倒、発病のほか、道迷いによるものなどが

表7-4 山岳遭難の発生状況(平成3~7年)

多く、その原因は、体力、技術不足、装備の不備及び気象判断の誤り等登山の基本的な知識や心構えを欠いたことによるものが多い。
イ 遭難者の捜索、救助活動
 遭難者の迅速な捜索、救助活動を行うため、全国の警察に山岳警備隊等を編成し、平素から実践的な救助訓練を行い、救助技術の向上を図るとともに、救助用装備資機材の整備拡充を行うなど、救助体制の強化に努めている。
 7年の遭難者の救助活動に出動した警察官は延べ約9,200人、警察用

ヘリコプター出動回数は延べ340回で、民間救助隊員等との協力による活動を含め、遭難者824人を救助したほか、182遺体を収容した。
ウ 山岳遭難の防止活動
 警察では、山岳遭難を防止するため、遭難の発生場所、原因等遭難の発生実態を的確に把握、分析し、関係機関等との遭難対策検討会を開催するとともに、各種広報媒体を活用して登山の安全に関する国民の意識の向上に努めている。
 主要山岳(系)を管轄する都道府県警察においては、関係機関等と連携して登山道等の実地踏査、道標及び危険箇所の点検、整備を行うとともに山岳情報を収集して、広く登山者に提供している。また、登山口等に臨時交番を開設して、登山計画書の提出の奨励、装備等の点検、指導を行っているほか、山岳パトロール等の活動を通じて登山の安全に関する指導を積極的に行うなど、遭難の防止対策を強力に推進している。
(3) レジャースポーツに伴う事故
 近年、余暇の増加としジャー用具の多様化、大衆化により、水上オートバイ、パラセーリング等の新しいレジャースポーツが登場し、これに伴う事故が増加している。平成7年のレジャースポーツに伴う事故の発生件数は337件(前年比40件(13.5%)増)、被災者数は541人(前年比47人(9.5%)増)である(表7-5)。
 こうした事故の原因の主なものは、技術の未熟、不注意等であり、また、無免許や無資格操縦、無謀行為等を原因とするものも多いことから、警察では、事故防止を呼び掛けるパンフレットの配布等の安全広報に努めるとともに、レジャースポーツ現場におけるパトロール等を通じての指導取締り、関係機関、団体に対する事故防止指導等を推進し、レジャースポーツ事故の防止に努めている。

表7-5 レジャースポーツに伴う事故の発生状況(平成7年)

3 雑踏警備

(1) 一般雑踏警備活動
 平成7年に警察官が出動して雑踏警備に当たった行事への人出は、延べ約7億6,960万人に上り、警察では、延べ約55万人の警察官を動員して、雑踏事故の防止に努めた。正月三が日の初もうでの人出は、約8,521万人(前年比約23万人(0.3%)減)である。また、正月三が日のスキー場等の行楽地の人出は、約428万人であった。一方、ゴールデンウィーク(4月29日から5月7日まで)の人出は約6,221万人であった。最近

表7-6 雑踏警備実施状況(平成3~7年)

5年間の雑踏警備実施状況は、表7-6のとおりである。
 7年の雑踏事故は6件発生し、死者は3人、負傷者は22人に上った。このうち、山車、神輿(みこし)等の運行に伴うものが4件、死者3人、負傷者5人で、また、花火大会における事故が2件、負傷者17人であった。
 これらの雑踏事故の多くは、行事の主催者等による自主警備の不徹底や安全に関する配慮の欠如が大きな原因となっており、このため、警察では、行事の主催者、施設の管理者等に対して、事前連絡の徹底、自主警備体制の強化、危険予防の措置、施設の改善等を要請するとともに、混雑する場所等に警察官を配置して、雑踏事故の未然防止に努めている。
(2) 公営競技場の警備活動
 平成7年における競輪場、競馬場等の公営競技場への総入場者数は、延べ約1億9,550万人であった。警察では、公営競技をめぐる紛争事案や雑踏事故防止のため、延べ約9万6,800人の警察官を動員して警備に当たった。最近5年間の公営競技場の警備実施状況は、表7-7のとおりである。

表7-7 公営競技場警備実施状況(平成3~7年)

 7年の公営競技場における雑踏事故は2件発生し、負傷者は14人であった。また、競技をめぐる紛争事案は3件で、その内容はレースの中止をめぐる抗議形態のものであった。警察では、これらの雑踏事故及び紛争事案の防止のため、関係機関・団体に、自主警備体制の確立、施設、設備の改善、酒類販売の自粛等を要請するとともに、円滑な競技の運営を働き掛けているほか、競技開催の都度、警察官を派遣して雑踏事故及び紛争事案の未然防止に努めている。


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