平成7年は、地下鉄サリン事件等のオウム真理教関連事件、警察庁長官狙(そ)撃事件、16年ぶりのハイジャック事件等の重大特異な事件が発生し、公安の維持の観点からみて特筆すべき年であった。また、11月には、大阪市において、APEC大阪会議が開催され、これに伴い、大規模な警備が実施された。
こうした情勢の中で、右翼は「戦後50年問題」を運動重点とし、政党等に対するゲリラ事件等を引き起こした。極左暴力集団は、大衆闘争を利用した党建設に重点的に取り組む一方で、秘密軍事部門の再編、精鋭化を図り、成田闘争等をめぐって、凶悪なテロ、ゲリラ事件を引き起こした。日本共産党は、参議院議員通常選挙等で議席を増やしたものの、党勢は依然低迷している。在日本朝鮮人総聯(れん)合会(朝鮮総聯)は、北朝鮮の指導の下、引き続き我が国の政財界に対する諸工作を行った。また、ロシア、中国は、科学技術情報等の獲得のため、我が国の各界各層に対する諸工作を行った。
国外に目を向けると、中東等の従来の紛争・地域における和平機運がこれまでになく高まったが、北朝鮮情勢は依然不透明に推移し、また、民族対立等を背景とした地域紛争が継続するなど複雑な国際情勢が続いた。国際テロについては、イスラム原理主義過激派によるものが世界各地で頻発すると共に、その手段が凶悪化、先鋭化する傾向がみられた。日本赤軍は、中東情勢の変化により、存在基盤を維持することが困難な状況に陥った。
なお、国際テロについては第1章参照。
平成7年11月16日から19日までの間、大阪市においてAPEC大阪会議が開催され、江沢民・中国国家主席、金泳三・韓国大統領をはじめとする18の国・地域の首脳等が出席した。
同会議をめぐり、極左暴力集団は、「日米帝のアジア侵略の場」ととらえ、「APEC粉砕・日米首脳会議粉砕」を主張し、大阪府を中心に6都道府県において延べ約3,300人を動員して集会、デモに取り組んだ。
右翼については、その多くが静観の姿勢をとったものの、新右翼等の一部が、「米国主導のAPEC粉砕」などと主張して、大阪市内等において集会、デモ等に取り組んだ。
また、国際テロ情勢もエジプトのイスラム原理主義過激派「イスラム集団」が、同派の精神的指導者オマル・アブデル・ラフマンがアメリカ合衆国で有罪判決を受けたことに対し報復テロを宣言するなど、APEC大阪会議の参加国であるアメリカ合衆国をめぐり同派に不穏な動向がみられた。
このような情勢の中、警察では、警備対策委員会等を設置して全国警察を挙げて諸対策を推進した。特に開催地を管轄する大阪府警察では、全国からの派遣部隊約1万2,000人を含む約2万5,000人の警察官を動員し、東京以外の場所での警護警備としては、過去最大の体制で本警備に臨んだ。
これらの警備諸対策を講じた結果、その期間中、テロ、ゲリラの発生もなく、会議は、19日の非公式首脳会議を最後に無事終了した。
平成7年3月30日午前8時30分ころ、國松孝次警察庁長官が、出勤のため東京都荒川区所在の自宅マンションを出たところを、同マンション付近で待ち伏せしていた男にけん銃で狙撃され、重傷を負うという事件が発生した。
本事件は、警察組織の最高責任者の殺害を狙った極めて重大な犯罪であり、現在、警視庁において、南千住警察署に公安部長を長とする特別捜査本部を設置して捜査を進めている(8年6月現在)。
平成7年6月21日午前11時45分ころ、東京国際空港(羽田空港)から函館空港へ向かって飛行中の全日空機857便(乗客350人、乗員15人)が、栃木県上空に差し掛かった際、ドライバーとサリンに見せかけた水入りビニール袋を持った男(53)にハイジャックされ、同機が函館空港に着陸させられるという事件が発生した。我が国の航空機に係るハイジャック事件としては、昭和54年11月23日の「日航機ハイジャック事件」以来、16年振りのものであった。北海道警察では、事件発生後直ちに本部長を長とする「事件対策警備本部」を設置するとともに、警察官約800人を動員して初動措置を講じた。
犯人は、同機を離陸させて東京へ向かうことを要求し、約15時間にわたり人質の拘束を続けたため、北海道警察では派遣された警視庁の特殊部隊と連携の上、警察官を機内に突入させ、翌22日午前3時45分、犯人を逮捕するとともに、乗客乗員全員を無事救出した。
警察では、このようなハイジャック事件や昨今の銃器等使用の重要凶悪事件に対応するため、8年4月1日、警視庁、大阪府警察本部等全国7都道府県警察に有効な装備と高度な専門的能力を有する200名から成る特殊部隊(SAT~Special Assault Team)を設置した。
(1) 警衛、警護
ア 警衛
天皇皇后両陛下は、阪神・淡路大震災の被災地のお見舞(平成7年1月、兵庫県)をはじめ、戦後50年に当たっての戦没者の御慰霊(7月、長崎県・広島県、8月、沖縄県・東京都)、全国植樹祭(5月、広島県)、国民体育大会秋季大会(10月、福島県)及び全国豊かな海づくり大会(11月、宮崎県)への御臨席、雲仙岳噴火災害の復興状況の御視察(11月、長崎県)等のため行幸啓になった。
皇太子同妃両殿下は、国民体育大会冬季大会(2月、福島県)をはじめ、各種行事・式典へ御臨席等のため行啓になった。海外については、クウェイト国、アラブ首長国連邦及びジョルダン国(1月)を御訪問になった。
また、秩父宮妃殿下の薨(こう)去(8月)に伴い、天皇皇后両陛下が御弔問になったのをはじめ、各皇族方が御参列される中、諸儀式が執り行われた。
警察は、極左暴力集団等が依然として皇室闘争に取り組む中、皇室と国民との親和に配意した警衛警備を実施し、御身辺の安全確保と歓送迎者の事故防止等に努めた。
イ 警護
国内において銃器の拡散が進み、銃器を使用したテロの脅威が一層増大するなど厳しい情勢が続く中、7年には、既に述べたとおり、地下鉄サリン事件、警察庁長官狙撃事件、東京都庁内郵便物爆発事件等の凶悪なテロ事件が続発した。また、右翼は「戦後50年問題」をはじめ内外の諸問題に敏感に反応し、首相等の要人に対する活発な批判活動を展開した。
このような情勢の中、統一地方選挙(4月)、参議院議員通常選挙(7月)等に伴い、国内要人の全国的な往来が活発化したが、警察は、銃器、毒物、爆発物等によるテロに対する警護諸措置を徹底し、要人の身辺の安全確保に努めた。
また、阪神・淡路大震災の被災地視察のため、村山首相をはじめ延べ約100人の国内外の要人が兵庫県を訪れた。これに伴い、兵庫県警察では災害警備と並行して的確な警護を実施した。
このほか、ムバラク・エジプト大統領等の多くの外国要人が国賓等として来日したが、的確な警護諸措置を推進し、要人等の身辺の安全と関係諸行事の円滑な進行の確保という所期の目的を達成した。
(2) 高レベル放射性廃棄物輸送警備
フランスで再処理された高レベル放射性廃棄物は、海上輸送船で青森県むつ小川原港に輸送され、平成7年4月26日、六ケ所村の廃棄物管理施設に収容された。
高レベル放射性廃棄物の海上輸送をめぐっては、カリブ海沿岸の諸国やパナマ等で輸送反対のキャンペーンが行われたほか、輸送経路沿岸の約20箇国が輸送船の通過反対を表明し、さらに、国際的な自然・環境保護団体「グリーンピース」がその所有船で追跡・監視活動に取り組むなど、国際的な反核運動が盛り上がりを見せた。
一方、国内では、輸送船の入港当日、青森県むつ小川原港に核燃料サイクル施設に反対する市民グループ、極左暴力集団、一部の労働組合等の関係者延べ約1,000人が集まり、抗議集会に取り組むなど、関連施設、個人に対するテロ、ゲリラや輸送妨害行為等の不法事案の発生が懸念された。
警察庁及び青森県警察をはじめとする関係警察では、テロ、ゲリラや輸送妨害行為等を未然に防止するための諸対策を推進し、輸送の安全と円滑の確保という所期の目的を達成した。
(1) 右翼の情勢
平成7年は、戦後50年の節目の年であり、政府、民間を問わず様々な立場からこれを記念する行事が行われた。
右翼の多くは、7年の運動重点を「戦後50年問題」とし、東京裁判史観(注)の払拭(ふっしょく)を目的として、全国的規模で街頭宣伝活動等を展開した。特に、「戦後50年国会決議問題」に対しては、絶対阻止の立場から、2月3日、都内で右翼等約2,100人が参加して国会決議阻止集会・デモを行うなど、過去最大規模の人員、街頭宣伝車を動員して、全国的な反対運動に取り組んだ。この決議は、6月9日には、「歴史を教訓に平和への決意を新たにする決議」として衆議院本会議で採択されたが、右翼は、その後も、採択無効を主張し、政府与党を批判する街頭宣伝活動等を展開した。この間、「社会党本部前火炎びん投てき及び国会裏車両放火事件」(3月、警視庁)、「自民党岐阜県支部連合会事務所に対する発炎筒投てき事件」(6月、岐阜)等14件の事件を引き起こした。
外交問題では、中国、フランスが実施した核実験に対し、6月以降、全国的な抗議活動を展開した。また、沖縄県における米兵による女子児童を被害者とする暴行等事件(以下「米兵による女児暴行事件」という。)に端を発した「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」(以下「日米地位協定」という。)の見直し問題、米軍沖縄基地整理・統合問題に対しては、「安保条約を廃棄し、米軍は日本から撤退せよ」、「憲法を改正し自衛隊を国軍とせよ」などとして、アメリカ合衆国及び政府に対する批判を展開した。また、北朝鮮については、米支援や国交正常化交渉問題等をとらえ、「核疑惑の中での米支援等は、テロ国家に味方する」などとして、政府の外交姿勢を厳しく批判した。
マスコミに対しては、「戦後50年問題」と絡めて、「東京裁判史観に基づく偏向報道で、半世紀にわたって日本を誤らせてきた」などとして、街頭宣伝活動や抗議・要請行動等を展開した。
(注) 極東国際軍事裁判、いわゆる東京裁判の判決に基づいた「日本が1941年12月7日に開始した攻撃は、侵略戦争であった。」などとする歴史観
(2) 右翼対策の推進
ア 違法行為の防圧、検挙
警察は、右翼によるテロ等重大事件を未然防止するとともに、悪質な資金獲得活動に厳正に対処するため、不法行為の徹底した取締りに努めた。この結果、7年中、テロ、ゲリラ事件6件(8人)を含む計201件(315人)の右翼事件を検挙した(表6-1)。
表6-1 右翼テロ、ゲリラ事件の検挙状況(平成3~7年)
また、銃器使用テロ等の未然防止を図るため銃器の取締りを推進した結果、7年中、右翼及びその周辺者から銃器113丁を押収した(図6-1)。
さらに、土地開発やバブル経済の崩壊に伴う企業倒産等に絡んで、暴
図6-1 右翼及びその周辺者からのけん銃押収状況(平成3~7年)
力団と連携するなどして資金を獲得しようとする動きを一層強めており、7年中、こうした右翼による悪質な資金獲得目的の犯罪(注)213件(342人)を検挙した。
警察は、今後とも右翼によるテロ等重大事件の未然防止を図るため各種対策を強化するとともに、悪質な資金獲得活動に対しては、あらゆる法令を駆使して徹底的な取締りを推進することとしている。
(注) 資金獲得目的の犯罪には、右翼運動に伴って発生した事件(右翼事件)のほかに、右翼構成員による遊興費等の獲得を目的とした恐喝、詐欺等の財産事件が含まれる。
イ 右翼の拡声機騒音対策
右翼の街頭宣伝活動等に伴う拡声機騒音が社会問題となる中、地方公共団体において、地域の静穏の保持等の目的で、暴騒音規制条例を制定する動きが全国的に広がっており、平成7年末現在全国で44都府県において制定されている。
また、国会議事堂等周辺地域及び外国公館等周辺地域の静穏の保持に関する法律(以下「静穏保持法」という。)による静穏を保持すべき地域として、新たに3都府県延べ40箇所が指定された。
7年中、「戦後50年国会決議」に反対する車両デモに伴う警備において右翼1人(6月、東京)を静穏保持法違反で検挙したほか、全日本教職員組合第8回定期大会開催に伴う警備において右翼1人(8月、京都)を、日本共産党人民大学夏期講座開催に伴う警備において右翼3人(8月、高知)を暴騒音規制条例違反で検挙した。また、各条例では、警察官等が暴騒音を発する行為を停止(中止)させるための命令又は勧告を行うことができることとされており、7年中は、命令107件、勧告189件を行った。
(1) 極左暴力集団の情勢
極左暴力集団は、その時々の社会問題や政治課題を取り上げ、労働者結集による組織拡大、党建設に重点的に取り組んだ。
特に、平成7年1月17日に発生した阪神・淡路大震災を勢力拡大の絶好の機会ととらえ、被災者支援を名目とした組織拡大に継続的に取り組んだ。また、7年前半は、従軍慰安婦に係る民間基金問題、「戦後50年国会決議問題」、天皇皇后両陛下の御慰霊のための行幸啓等を「戦後50年問題」として取り上げ、後半は、中国、フランスの核実験再開、日米地位協定の見直し問題、APEC大阪会議等、反戦・反核のテーマを中心に闘争の盛り上げを図り、各地で集会、デモ等やこれに向けた組織作りを行った。
なかでも、中核派は、5年8月に打ちだした「8・1路線」(武装闘争を堅持しつつ、大衆闘争、党建設に力を入れるという方針)を推進し、労働者層の獲得を狙(ねら)い、全国労働組合交流センター、部落解放同盟全国連合会、婦人民主クラブ全国協議会等の大衆組織の拡大に取り組み、7年11月5日には全国動員規模で「労働者集会」を開催した(約1,900人)。また、4月23日に施行された統一地方選挙にも強力に取り組み、東京都杉並区議会議員選挙で2人、神奈川県相模原市議会議員選挙で1人等、支援する地方議会議員候補6人を当選させた。
革マル派は、中国、フランスの核実験再開にいち早く反応し、大衆闘争の盛り上げと自派勢力の拡大を狙って、タヒチへ全学連(全日本学生自治会総連合)の活動家を派遣するなど、積極的に反対行動に取り組んだ。
極左暴力集団は、こうした組織拡大を図る一方で、依然、テロ、ゲリラによる闘争方針を堅持し、来るべき「蜂(ほう)起戦」に備え、秘密軍事部門の再編、精鋭化を図るとともに、新型武器を使用した凶悪なゲリラを敢行した。
7年は、計9件のテロ、ゲリラ事件(中核派5件、革労協3件、不明1件)が発生したが、その内容は、一歩間違えば死者を出し、不特定多数の一般人を巻き込む可能性のある極めて悪質なものであった。
革労協は、3月3日の白昼、運輸省新東京国際空港課長宅前路上に駐車した軽自動車から金属弾を発射し、同人宅の壁はもとより、隣家の壁をも貫通させるという事件を引き起こしたほか、5月13日には、新東京国際空港第二旅客ターミナルビル内男子トイレで、多数のパチンコ玉を発射して天井を蜂(はち)の巣状にした上、時限式発火装置で放火するという事件を引き起こしている。
中核派も、「成田」闘争等に関連して、爆弾、時限式発火装置を使用した5件のテロ、ゲリラ事件を引き起こしたほか、11月28日には「JR東日本労組情宣部長襲撃事件」を引き起こした。
過去10年間の極左暴力集団によるテロ、ゲリラ事件の発生状況は、図6-2のとおりである。
(2) 極左対策の推進
警察は、極左関係指名
図6-2 極左暴力集団によるテロ、ゲリラ事件の発生状況(昭和61~平成7年)
手配被疑者の発見、検挙や潜在的な違法事案の掘り起こし等事件捜査の徹底を図るとともに、これまで全国的に進めてきたアパート、マンション等に対するローラーに継続して取り組み、徹底した秘密活動を展開する極左暴力集団の摘発のための諸対策を強力に推進した。また、極左対策に関する国民の理解と協力を得るため、各種広報媒体を活用した広報活動を積極的に推進した。
その結果、平成7年中は、秘密部隊員18人を含む合計76人の極左活動家を検挙し、秘密アジト10箇所を摘発した。
〔事例1〕 3月6日、東京都内において、革労協狭間派秘密部隊員1人を検挙するとともに、埼玉県内の同派秘密アジト「上尾アジト」を摘発(埼玉)
〔事例2〕 3月29日、埼玉県内において、中核派の秘密アジト「与野アジト」、「越谷アジト」の2箇所を摘発し、同派秘密部隊員2人を検挙(警視庁)
〔事例3〕 6月29日、佐賀県内において、中核派の秘密アジト「唐津アジト」を摘発し、中核派指名手配被疑者1人を含む2人を検挙(佐賀)
〔事例4〕 10月11日、東京都内において、革労協狭間派の秘密アジト「世田谷宮坂アジト」を摘発し、同派秘密部隊員1人を検挙(神奈川)
〔事例5〕 10月31日、大阪府内において、中核派最高幹部等が潜伏していた秘密アジト「高槻富田町第1アジト」、「高槻富田町第2アジト」の2箇所を摘発(大阪)
成田空港問題の話合い解決を目的とした成田空港問題円卓会議は、平成6年10月11日の第12回会議において、隅谷調査団が「平行滑走路の整備の必要性は理解できる」ことなどの所見を発表し、これを、運輸省、新東京国際空港公団(以下「公団」という。)、千葉県、反対同盟熱田グループ等が受け入れて終了した。その後、反対同盟北原グループにおける幹部等の離脱や除名、運輸大臣の謝罪書簡をめぐる反対同盟小川グループの分裂、反対同盟の共有地の一部の公団への移転登記、騒音区域内住民と公団との移転補償契約の締結、空港拡張に向けた8年振りの用地買収費の8年度予算への計上、さらには、8年に入り元小川グループの代表と公団との間で空港用地の売却合意がなされるなど、成田空港問題は、新たな展開を見せはじめている。
反対同盟北原グループ及び中核派等の極左暴力集団は、これら一連の動きに危機感を持ち、「空港絶対反対・一切の話合い拒否」の方針を堅持するとともに、「買収工作にかかわる一切が革命的鉄槌の対象である」などと反発を強めている。7年10月8日には全国総決起集会(約1,100人、千葉)を開催し、「二期を粉砕し完全廃港まで戦う」と強調したほか、3月26日(約680人、千葉)、5月28日(約570人、東京)等にも闘争に取り組んだ。
これら闘争の過程で、中核派は、新東京国際空港公団運用副本部長宅爆発事件(3月14日)、元地域振興連絡協議会会長宅放火事件(10月24日)等4件の、革労協狭間派も、運輸省新東京国際空港課長宅に向けた金属弾発射事件(3月3日)等2件のテロ、ゲリラ事件を引き起こした。
元地域振興連絡協議会会長宅放火事件をめぐっては、成田空港問題の話合い解決路線に貢献した民間人が被害者となったこともあり、地元団体が「地域民主主義の冒涜(とく)に対する抗議文」を、さらに、千葉県議会や空港周辺の市町村の議会が「過激派の排除に関する決議」を採択するなど、極左暴力排除に向けた新たな動きを見せている。
(1) ロシアによる対日諸工作
ロシアでは、エリツィン大統領の下で、旧ソ連に置かれていた国家保安委員会(KGB)の系統に属する機関を再編、強化する動向がみられた。平成7年4月には、連邦保安機関に関する連邦法の施行により、防諜(ちょう)機関である連邦防諜庁(FSK)が、改組、格上げされ連邦保安庁(FSB)となり、対外スパイ活動の権限等が付与された。また、各国におけるロシア情報機関員の追放(イギリス(1月)、スウェーデン(4月)、スイス(12月))が判明するなど、ロシアのスパイ活動が継続されていることがうかがえた。こうした動きは、12月の下院議員選挙で共産党が伸長したことに現れているような国内における民族主義的・愛国主義的傾向の強まりを背景として、今後ますます強まるとみられる。
我が国においても、このような情勢を反映して、ロシア情報機関の活発な活動が展開された。特に、我が国の先端科学技術情報、経済情報の収集、我が国を足場とした諸外国の情報収集等のため、各界各層への接近がみられた。
〔事例〕 11月、我が国の漁業関係者とロシア当局間におけるロシア200海里水域操業契約に基づく入漁料の支払いに関し、大蔵大臣の許可を受けることなく、ロシア当局のために、当該漁業関係者が対ロ貿易関係者に振込送金による支払いをし、当該対ロ貿易関係者が、その入金により支払いを受領したことから、これらの者をそれぞれ外国為替及び外国貿易管理法違反で検挙した。
この事件の捜査の過程で、対ロ貿易関係者は、ロシア側から、日本政府の北方四島に対する考え方についての情報収集の指示を受け、回答する(いわゆるレポ行為)など様々な工作活動が行われていたことが明らかとなった(北海道)。
(2) 中国による対日諸工作
中国は、自国の経済建設のためには、我が国からの経済支援及び技術移転が不可欠との認識に立ち、我が国の政局の行方に強い関心を示す傍ら、「戦後50年国会決議問題」、閣僚による侵略戦争否定発言、対中無償資金協力の原則的凍結等をとらえた執拗(よう)な対日批判を行った。さらに、中国は、李登輝・台湾「総統」のAPEC大阪会議出席等に対し、「一つの中国」の原則の遵守を繰り返し主張し、我が国を強く牽(けん)制した。
他方、中国は、「軍の近代化」を目的に国際世論を無視した形で核実験を強行したほか、台湾近海でのミサイル発射訓練を行うなど軍事力を誇示し、また、南沙諸島等の実効支配に向けた動きを活発化させるなど、周辺国に懸念を惹起させる動きが目立った。これらは、「軍の近代化」に関する中国の強い国家意志を裏付けるものであり、中国の軍事力は経済成長につれ、より一層強化されるものとみられる。
中国は、今後とも、自国に有利な政治環境作りを志向し、軍事転用可能な高度科学技術の導入に向け、我が国各界関係者に対する多面的かつ活発な働き掛けを行うことが予想される。
(3) 北朝鮮及び朝鮮総聯による対日諸工作
北朝鮮は、国内のひっ迫した経済事情と極めて深刻な食糧事情を背景に、我が国との関係改善による資本、技術の導入等を目指して、我が国の政財界関係者に対する働き掛けを一層強めている。
また、朝鮮総聯は、北朝鮮への従属一体性を一段と強めており、北朝鮮の指導の下に、日朝関係改善の環境作り等を企図して各界関係者に対する働き掛けを行っている。
さらに、平成7年中も、在日朝鮮人が関与する北朝鮮スパイ事件が韓国において数件検挙されるなど、我が国を足場とした北朝鮮工作員によるスパイ活動は、依然として活発に行われていることが明らかとなっている。
(4) 経済情報収集活動
近年、東西冷戦構造の崩壊により戦略上の明確な標的を失った各国の情報機関は、これまでの情報活動の方針を見直し、軍事情報重視の情報活動から経済情報、先端技術情報等の収集に力点を置いた情報活動への移行を図っているものとみられている。また、その結果として、各国の情報活動の対象国も、安全保障上の敵対国から通商上の競争国や技術先進国等へシフトしつつある。
我が国の有する経済関連情報に対しても、ロシア、中国、北朝鮮のみならず、旧西側諸国を含む多くの国々の情報機関が強い関心を有しているとみられ、違法な手段を用いた情報収集活動が展開されるおそれもある。したがって、我が国の警察としても、今後、このような各国の情報機関の動向に注目していく必要がある。
(5) 大量破壊兵器等戦略物資の輸出規制の動向
国際的な安全保障に関する輸出規制は、通常兵器及びこれらの開発等に用いられる関連汎(はん)用品に係るココム終了後の暫定規制と、核兵器、生物兵器、化学兵器等の大量破壊兵器の拡散防止を目的とした不拡散型輸出規制に大別される。
旧共産圏諸国に対する戦略物資統制のためのココムが平成6年3月にその幕を閉じたが、7年12月、「ワッセナー・アレンジメント」の設立が合意され、今後、地域紛争を防止するため、通常兵器等の過度の移転と蓄積の防止を目的とした不拡散型輸出規制が導入される見通しとなった。
なお、大量破壊兵器の開発等にも利用が可能である技術的な水準の低い汎用品等を規制する新たな補完的輸出規制を行うため、外国為替管理令及び輸出貿易管理令の一部改正が行われ、8年10月1日から施行されることとなった。
今後、こうした輸出規制の実効性を確保し、国際社会の平和と安全に寄与するため、戦略物資の不正輸出事件やこれらの関連技術の不正入手を企図するスパイ事件の取締りを強化していく必要がある。
(1) 日本赤軍の動向
日本赤軍は、平成7年9月にイスラエルとPLO(パレスチナ解放機構)との間でパレスチナ暫定自治拡大合意が署名され、シリアもイスラエルとの和平達成に積極的姿勢を示していることなどから、レバノンにおける存在基盤の維持がますます困難な状況となっているものとみられる。また、毎年、昭和47年5月の「ロッド空港事件」を記念した「5.30声明」を発表しているが、昨年は、PLOを名指しで批判するとともに、南米・アジア重視の姿勢を明示するなど、パレスチナ解放闘争から一定の距離を置きながら、中東以外の地域に強い関心を有していることをうかがわせている。
〔事例1〕 警察は、各国治安機関と連携して、ルーマニア国内においてペルー人になりすまして潜伏中の日本赤軍メンバー・浴田由紀子(昭和49年から50年にかけて発生した連続企業爆破事件の被疑者として逮捕され、未決拘留中のところ、52年9月「ダッカ事件」発生によって超法規的措置で釈放)を発見、平成7年3月24日に逮捕した(警視庁)。
〔事例2〕 警察は、各国治安機関と連携して、ペルー国内において潜伏中の日本赤軍のメンバー・A(昭和49年9月に発生した「ハーグ事件」の被疑者として国際手配中)を発見、平成8年6月8日に逮捕した(警視庁)。
これらの事件により、日本赤軍のメンバーが偽造旅券を取得し、各地を活発に移動しながら東欧及び南米に活動の拠点を築いていた実態が明らかになった。
(2) 「よど号」犯人グループの動向
「よど号」犯人グループは、声明等の中で北朝鮮の意向をくんだ対日批判活動を行っており、平成7年3月下旬、声明文を発して日本国政府がアメリカ合衆国に従属しているとの批判を行う一方、「私たちが、今日のこの日まで祖国のために尽くす一念で来れたのは、敬愛するキム・イルソン同志とキム・ジョンイル同志の厚い配慮があったからです。」などと主張した。
「よど号」犯人グループの子女の帰国の問題については、7年9月中旬、訪朝した関係者が北朝鮮から小西隆裕の長女、次女の出生証明書等を受領し、9月21日、練馬区役所に出生届等を提出した。
なお、「よど号」犯人グループは、声明(12月1日付)を発して、11月30日に「よど号」乗っ取り事件のリーダーであるBが平壌において死亡した旨を伝えた。
また、8年3月25日、カンボディアにおいて、「よど号」犯人グル-プの1人である田中義三が発見された。同人は、タイに身柄移送された後の26日、タイ当局により偽造通貨所持等の容疑で逮捕された。
現在、我が国は、タイ当局に対して同人の身柄の早期引渡しを求めている。
(1) 党活動の動向
日本共産党は、平成7年4月の統一地方選挙では、前回を19上回る議席を獲得し、地方議会議員総数を3,959人とした。その後の地方議会議員選挙にも力を入れ、12月末には、地方議会議員総数を過去最高(3,962人)を上回る3,982人とした。
7月の参議院議員通常選挙では、前回を2上回る8議席(比例代表5、選挙区3)を獲得し、改選前に比べ3議席増やした。
しかし、機関紙部数は、6年7月の20回党大会時に比べ合計10万部以上の減少となり、7年12月末現在で240万部を下回っている。党員数については、9月の全国県委員長会議で「大会水準に比べて数百人上まわる水準」と発表し、20回党大会で発表した「約36万」とほぼ同じであることを明らかにした。 また、9月には、初めての全国組織部長・青年学生部長会議を開催し、青年・学生分野での党員拡大、民主青年同盟への指導、援助に真剣に取り組むよう指示した。
さらに、統一地方選挙では、現職13人を含む50人余が、日本共産党を離れ、無所属で立候補したが、日本共産党は、6月の第3回中央委員会総会でこうした「変節」は「党への裏切り」であるとし、「党から脱落したものとのたたかい」を重視するよう指示した。
このように党勢が低迷する中で、大震災、消費税、円高・不況、いじめ等の問題をとらえた無党派層対策を活発に行った。また、9月以降各都道府県で経営支部の交流会議を開催するなど、大企業を中心とした経営支部の組織、活動の強化を図った。
(2) 全労連の動向
日本共産党の指導、援助により結成された全労連(全国労働組合総連合)は、「200万全労連、600地域組織の確立」を目標に、最終年となった「組織拡大強化3ヵ年計画」の実現に全力を挙げた。しかし、公称勢力は、結成時の140万人から144万人に増加したにとどまり、地域組織も400台後半で停滞するなど、目標の達成には至らなかった。また、大企業等のリストラ問題や日本社会党(当時)の政治方針の転換等を組織拡大の好機ととらえ、連合傘下労組を始めとする諸勢力に対する共闘の働き掛けを強化したが、大きな進展はみられなかった。
一方、流動的な政局と厳しい雇用情勢の下で展開された平成7年春闘では、“賃金・雇用・制度政策闘争”を最重点課題に掲げ、ストを含む5次の全国統一行動を展開したが、阪神・淡路大震災を背景に広がった春闘自粛ムードの中で、結果的には低調な取組みに終わった。
こうしたことから、7月の定期大会では、日本共産党の「国民的共同構想」を具体化した「総対話運動」を柱とする新運動方針を決定し、労働戦線の拡大をねらい、あらゆる労働者・労働組合に対する働き掛けを強化していくこととした。
(1) 核実験をめぐる動向
「反核、平和」を掲げる各大衆団体は、中国・フランスの核実験に一様に反対し、平成7年中、全国で1,417回延べ約18万9,000人が中国・フランス大使館への抗議、集会・デモの実施、フランス製品不買運動の呼び掛け等多様な反対行動に取り組んだ。9月には、タヒチでの現地集会と連携して国内各地で大規模な集会・デモを行うなど、特に活発な運動が展開された。
(2) 反基地運動をめぐる動向
平成7年9月に沖縄で米兵による女児暴行事件が発生したことを契機に、在日米軍基地をめぐり反基地運動が盛り上がり、全国で1,267回約26万人が動員された。
特に沖縄県では、10月21日、日米地位協定の見直し、在日米軍基地の整理・縮小等を求めて、約5万8,000人が集まり、大規模な抗議行動が行われた。
(3) 高レベル放射性廃棄物輸送等をめぐる動向
平成7年の反原発運動は、高レベル放射性廃棄物の輸送や原子力発電所等の建設に対する反対運動等を中心に、全国で394回延べ約2万4,000人が動員された。
特に7年4月の青森県六ヶ所村への高レベル放射性廃棄物の搬入、12月の高速増殖原型炉もんじゅのナトリウム漏えい事故については、これをめぐり執拗な抗議行動が展開されるとともに、全国の反原発運動に大きな影響を与えることとなった。