第5章 安全かつ快適な交通の確保

 第2次交通戦争という呼称が定着して久しい。平成7年もまた、交通事故死者は1万人を超え、交通人身事故件数は史上最多を更新した。1日平均2,000件を上回る人身事故によって、2,500人を超える人が被害に遭い、うち約30人が亡くなっているという事態は、まさに「戦争」の様相を呈している。
 確かに、今日は、「くるま社会」といわれることからうかがえるように、モータリゼーションの進展が我々にもたらす恩恵は計り知れないものがある。しかしながら、「戦争」とまで呼ばれる「くるま社会」の現実は、その恩恵と引換えに支払う代償もまた大きなものであることを同時に物語っている。成熟した「くるま社会」にふさわしい人と車の関係について、今、国民一人一人が考え直すことを求められているといえるだろう。
 今後、社会における高齢化の進展が予想される中で、人と車の関係のあるべき姿を模索しつつ、交通警察は、交通安全施設等の道路交通環境の整備、交通安全教育や交通指導・取締り等をはじめとする様々な活動を推進していくこととしている。

1 交通情勢

(1) 道路交通の現況
ア 車両保有台数の伸び
 我が国の自動車保有台数は年々増加傾向にあり、平成7年末には約7,

図5-1 車種別車両保有台数の推移(昭和41~平成7年)

007万台となっている。車種別車両保有台数の推移は、図5-1のとおりである。
イ 運転免許保有者数の増加
 運転免許保有者は、交通事故死者数が過去最高であった昭和45年には約2,600万人であったが、59年に5,000万人を超え、平成7年末には68,563,830人となった。運転免許を取得することができる16歳以上の者のうち、男性では1.21人に1人、女性では1.95人に1人、全体では1.50人に1人が免許を保有していることになる。運転免許保有者数の推移は、図5-2のとおりである。
 高齢化社会の進展に伴い、運転免許保有者数に占める高齢者(65歳以上の者をいう。)の割合は年々高くなっており、昭和45年末には0.8%(約21万人)であったが、平成7年末には7.0%(約479万人)となっており、この傾向は、今後更に顕著になっていくものと考えられる。(男女別及び年齢別又は種類別運転免許保有者数については、資料編統計5-10、統計5-13参照)

図5-2 運転免許保有者数の推移(昭和51~平成7年)

(2) 7年の交通事故発生状況
ア 概況
 7年に発生した交通事故は、件数が76万1,789件(前年比3万2,332件(4.4%)増)、死者数(注)が1万679人(30人(0.3%)増)、負傷者数が92万2,677人(4万954人(4.6%)増)であった。死者数は昭和63年以降8年連続して1万人を超え、件数は過去最悪の記録を3年連続して更新した。また、負傷者数は46年以来24年ぶりに90万人台となった。
 過去20年間の交通事故件数等の推移は、図5-3のとおりである。
 なお、7年の交通事故発生から24時間経過後30日以内の交通事故死者数は1,991人(前年比128人(6.0%)減)で、24時間以内の死者数と合計すると1万2,670人(98人(0.8%)減)となり、その結果30日以内死者数は、24時間以内の死者数の1.19倍となった。(30日以内死者数の月別推移及び都道府県別一覧表は、資料編統計5-8、統計5-9参照)

図5-3 交通事故件数等の推移(昭和51~平成7年)

イ 交通死亡事故の発生状況
(ア) 状態別、年齢層別にみた交通事故死者数
 7年の状態別死者数は図5-4のとおりで、自動車乗車中の死者数が4,550人で最も多く、全死者数の42.6%を占めている。6年に比べ増加が顕著なのは、歩行中(101人(3.5%)増)と自動車乗車中(68人(1.5%)増)で、これに対し、自動二輪車乗車中の死者数は136人(11.4%)減少している。
 7年の年齢層別死者数は図5-5のとおりで、3年連続して高齢者、若年者の順に多く、死者数の構成率は、高齢者が人口構成率の2.1倍、若年者が1.6倍である。最近数年の傾向をみると、若年者の死者数が5年連続して減少しているのに対し、高齢者の死者数は昭和63年以降8年連続して増加している。平成7年の状態別死者数と年齢層別死者数を組み合わせて図解すると図5-6のとおりで、その主な特徴は、次のとおりである。

図5-4 状態別交通事故死者数(平成7年)

○ 自動車乗車中の死者数については、若年者が最も多い(29.7%)。増加が顕著なのは高齢者で、6年と比較して、78人(15.2

図5-5 年齢層別にみた交通事故死者数の構成率と人口構成率の比較(平成7年)

図5-6 状態別、年齢層別死者数(平成7年)

%)増加している。
○ 自動二輪車乗車中の死者数については、若年者が圧倒的に多い(59.8%)。
○ 原動機付自転車(以下「原付」という)乗車中の死者数については、高齢者、若年者の順に多く(両者で63.1%)、6年と比較して、高齢者は29人(8.7%)減少しているのに対し、若年者は16人(6.0%)増加している。
○ 自転車乗用中の死者数については、高齢者が圧倒的に多い(51.0%)。
○ 歩行中の死者数については、高齢者が圧倒的に多い(55.5%)。若年者の状態別死者数の推移は、図5-7のとおりである。
 なお、高齢者の状態別死者数の推移については、2(1)参照

図5-7 若年者の状態別死者数の推移(昭和54~平成7年)

(イ) シートベルト着用有無別の死者数
 自動車乗車中の死者数をシートベルト着用有無別にみると、非着用死者数が3,266人(前年比70人(2.1%)減)で、着用死者数の1,136人(75人(7.1%)増)を大きく上回っている。非着用死者数は昭和63年以降6年連続して増加していたが、平成6年以降は減少に転じている。また、シートベルト着用率調査によれば、低下傾向にあった着用率は、6年から上昇傾向を示している。シートベルトの着用有無別自動車乗車中の死者数の推移は図5-8、シートベルト着用率の推移は図5-9のとおりである。
(ウ) 昼夜別にみた死亡事故の発生状況
 7年の死亡事故件数を昼夜別にみると、昼間(日の出から日没まで)が4,563件(全体の44.6%)、夜間(日没から日の出まで)が5,664件(55.4%)で、夜間の死亡事故件数は昼間の約1.2倍である。しかし、6年に

図5-8 シートベルトの着用有無別自動車乗車中の死者数の推移(昭和61~平成7年)

図5-9 シートベルト着用率の推移(昭和61~平成7年)

比べ、昼間は90件(2.0%)増加しているのに対し、夜間は17件(0.3%)減少している(昼夜別の道路幅員別及び道路種類別の死亡事故件数については、資料編統計5-1、統計5-2参照)。
(エ) 曜日別にみた死亡事故の発生状況
 7年の死亡事故件数は1万227件で、1日当たり28.0件の死亡事故が発生している。これを曜日別にみると、平日(月曜から金曜まで)が1日当たり27.4件、週末(土、日曜)が29.6件で、週末が平日を1日当たり2.2件上回っており、週末に多発する傾向にある。

2 高齢者に優しい交通社会の構築

(1) 高齢者の交通事故発生状況
 平成7年中の高齢者の死者数は3,240人(前年比142人(4.6%)増)、負傷者数は7万7,073人(6,050人(8.5%)増)であり、死者数は昭和63年以降8年連続して増加し、3年連続して若年者の死者数(2,416人)

図5-10 高齢者の状態別死者数の推移(昭和54~平成7年)

を上回って死者数の最も多い年齢層となっている。
 7年中の高齢者の交通死亡事故の主な特徴は、次のとおりである。
○ 高齢者の死者数については、歩行中の死者数が圧倒的に多く(51.2%)、次いで自動車乗車中(18.3%)、自転車乗用中(17.7%)の順となっている。最近数年の傾向は図5-10のとおりで、自動車乗車中の死者数の増加が著しい。
○ 高齢者の状態別死者数のうち、6年に比べ増加が顕著なのは、歩行中(103人(6.6%)増)と自動車乗車中(78人(15.2%)増)で、これに対し、原付乗車中の死者数は29人(8.7%)減少している。
○ 若年者が第1当事者(注)となった死亡事故件数が減少傾向を示しているのに対し、高齢者が第1当事者となった死亡事故件数は、昭和54年以降連続して増加している。年齢層別死亡事故件数(第1当事者)の推移は、図5-11のとおりである。

図5-11 年齢層別死亡事故件数(第1当事者)の推移(昭和54~平成7年)

(注) 第1当事者とは、当該交通事故に関係した者のうち、過失が最も重い者をいい、過失が同程度の場合は、被害が最も軽い者をいう。
(2) 高齢者交通安全教育
ア 講習会等による交通安全教育の推進
 市町村や地域の老人クラブ等との連携により、高齢者自身の交通事故防止意識の定着、高揚を図るため、全国の老人クラブ、老人ホーム等に交通安全部会等の設置を促すとともに、指導力のある高齢者を交通指導員に委嘱するなど、高齢者自身による交通安全活動を促進している。平成7年9月末現在、全国の老人クラブ等の組織のうち、交通部会を置くものが約4万3,000、高齢者交通指導員を置くものが約5万6,000あり、約12万人の交通指導員が組織内の高齢者に対する交通安全教育を行っている。7年中に警察が主催し、あるいは警察官等を講師として派遣して実施した講習会等は8万3,000回で、約307万人の高齢者が参加した。
イ 参加・体験・実践型交通安全教育の推進
 講義型交通安全教育に加えて、交通事故現場における実地教育、夜間における反射材効果実験等、高齢者が自ら体験し考える参加・体験・実践型交通安全教育を推進している。
ウ シルバー・リーダーの養成
 高齢者家庭を訪問しての個別指導や自主的な交通安全教室開催計画の立案等を高齢者自身が率先して展開することにより、高齢者の立場に立った交通安全教育の実施や交通安全に対する高齢者の認識の向上が図られるようにするため、関係機関・団体との連携の下に、交通安全活動の中核となる高齢者をシルバー・リーダーとして養成するよう努めている。
(3) 高齢運転者対策
ア 運転適性診断機器を利用した安全運転指導
 高齢者が自らの身体機能や運転技能を認識し、安全な運転が行えるよう、実際の走行に加えて模擬運転装置による技能診断及び科学的検査機器を活用した運転適性診断を行うとともに、必要に応じて個別指導を行っている。さらに、1台で7種類の運転適性診断ができるCRT型運転適性診断機器を導入し、高齢運転者の安全運転指導に活用している。
イ 更新時講習等における高齢者学級の編成
 更新時講習において高齢者学級を編成し、高齢運転者の運転特性、交通事故の特徴等に対応した講習を行っている。
 更新時講習における高齢者学級は、昭和58年から全国で編成されはじめ、平成7年中には、実施回数1万1,621回、受講者数は8万9,322人となっている。
ウ 参加・体験・実践型運転者講習の実施
 従来の講義型運転者講習に加えて、危険回避等についての実車訓練、コンピューターグラフィックス技術を用いた運転シミュレーターによる危険予測訓練等を取り入れた参加・体験・実践型運転者講習を実施している。

〔事例〕 宮崎県警察では、7年9、10月、運転シミュレーターを搭載した安全教育車を活用した参加・体験・実践型運転者講習「95’ねんりんドライビングスクール」を県下の指定自動車教習所に委託して、8回の講習を実施し、187人の高齢運転者が受講した。
(4) 高齢者にやさしい道路交通環境の整備
 高齢者の交通事故死者の半数以上が歩行中の事故によるものであることから、高齢者が利用する施設の周辺等の地域を対象に、生活道路の安全対策として、シルバーゾーン、福祉ゾーン等の設置を推進しているほか、歩行者用信号の青の時間を調節する弱者感応信号機、歩行者感応信号機、視力が低下した高齢者が信号の変化を音で認識できる音響信号機の整備を行っている。
 また、第6次交通安全施設等整備事業五箇年計画において、生活道路における通過交通の削減と走行速度の抑制を図ることにより生活の安全を確保することを目的としたコミュニティ・ゾーンの形成を推進しており、高齢歩行者に配慮した道路交通環境を整備している。
 一方、高齢運転者については、他の年齢層に比べて一時不停止や運転操作ミスを原因とする事故が多くなっていることから、高齢運転者がゆとりをもって運転できるように、右折矢印信号機の整備や、信号交差点における進行・停止の判断負担を軽減する信号制御、交差点での停止回数を減少させる系統制御等の充実を図っている。
 また、対向車接近情報等の高齢運転者を支援する各種交通情報の提供を行っているほか、道路標識や道路標示についても、見やすく分かりやすいものにするため、道路標識の大型化、内部に照明設備を備えた内照式道路標識や太陽電池を用いた自発光式道路標識の設置を進めるとともに、道路標示の反射輝度及び視認性を向上させる高輝度化を推進しており、高齢運転者を支援する道路交通環境の整備に努めている。
(5) 「高齢者にやさしい交通社会をめざす懇談会」の開催
 高齢者のための交通安全対策の重要性は、我が国の高齢化社会の進展に伴って、今後ますます高まるものと考えられる。警察庁では、平成7年10月から学識経験者等を構成員とする「高齢者にやさしい交通社会をめざす懇談会」を開催した。
 同懇談会では、8年4月、高齢者の「安全で自由なモビリティーの確保」に向け、体系的、効果的な交通安全教育システムの整備、個々の高齢運転者の運転適性等に応じたきめ細かい措置を講じるための運転免許制度の見直し、高齢者にやさしい道路交通環境の整備等について提言を行った。

3 交通安全意識の高揚

(1) 段階に応じた交通安全教育の推進
 警察では、関係機関、団体と協力して、幼児から高齢者まで、道路交通への参加の態様、心身の発達段階に応じた交通安全教育を体系的かつ継続的に実施している。
 幼児に対しては、道路の歩き方や横断の仕方等について、地域や幼稚園、保育所等を単位として体系的な交通安全教育を行うとともに、遊びながら交通ルールや交通マナーを学ぶことができる幼児交通安全クラブの結成とその活動の活発化を図っている。幼児交通安全クラブは、平成7年9月末現在、全国で約1万3,000が組織され、幼児約115万人、保護者約103万人が加入している。
 小中学生に対しては、学校、市区町村等と協力して、自転車の安全な乗り方教室を開催しているほか、交通少年団の結成とその活動の活発化を図っている。交通少年団は、交通安全推進のための少年リーダーとして、同級生や下級生の模範となり、また、一般運転者や家族に対する交通安全アピールを行うなど、その活動範囲は多岐にわたっている。交通少年団は、7年9月末現在、全国で約3,500が組織され、小学生約54万人、中学生約9万5,000人が加入している。
 高校生に対しては、安全で正しい自転車の利用や原付、自動二輪車等の特性に応じた安全運転の方法等についての交通安全教育を推進している。特に、二輪車の安全運転に関する指導については、教育委員会や学校と連携し、法令講習や実技指導員(白バイ隊員等)の派遣による実技講習を推進している。7年中に警察が主催等をした二輪車教室等の講習会は約7,100回で、約264万人の高校生が参加した。
 なお、高齢者に対する交通安全教育については、2(2)参照。
(2) 様々な交通安全活動の推進
ア 全国交通安全運動
 国民一人一人に交通安全思想を普及徹底させるとともに、正しい交通マナーの実践を習慣付けることを目的に、毎年春と秋に全国交通安全運動を実施している。7年は、5月11日(木)から20日(土)まで及び9月21日(木)から30日(土)までのそれぞれ10日間、高齢者の交通事故防止、シートベルト着用の徹底等を重点に、31機関・団体の主催の下、127団体の協賛を得て、幅広い国民運動が展開された。
イ 地域に根ざした交通安全活動
 地域ぐるみの交通安全活動を推進するため、交通安全協会や地域交通安全活動推進委員等の民間団体、ボランティアが活動している。
 交通安全協会には、(財)全日本交通安全協会、都道府県交通安全協会のほか、警察署単位に設置されている地区交通安全協会があり、警察や地域と連携して、全国交通安全運動やシートベルト着用推進運動等の啓発活動をはじめ、夜間における交通事故防止を図るための反射材用品普及促進活動、交通安全教育、交通安全功労者等の表彰等を積極的に行っている。
 地域交通安全活動推進委員の制度は、地域交通安全活動のリーダーとして活躍するボランティアに法律上の資格を付与し、その活動の促進を図るために設けられたものである。7年6月末現在、全国で約1万9,000人が都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)の委嘱を受けて、違法駐車防止のための広報啓発活動等に取り組んでいる。
 また、警察では、関係機関、団体と連携して、地域交通安全活動推進委員等の民間の指導者を対象とする研修会の開催、交通事故実態に関する資料の配付等、地域交通安全活動が効果的に行われるよう必要な協力を行っている。
〔事例〕 熊本県松橋警察署管内の6年中の交通事故死者数は15人に上り、県内の他の警察署の管内と比較して最も多かったことから、地区交通安全協会では、関係町村の補助金を得て交通安全教育員を採用し、警察等と連携しながら計画的な交通安全教育を実施した。その結果、7年の交通事故による死者数は8人となった。
ウ 自転車安全整備制度
 整備不良の自転車を一掃するとともに、自転車の正しい乗り方を普及させることを目的として、毎年1回、自転車安全整備技能検定が実施されている。7年末現在、この検定に合格した自転車安全整備士は53,563人、自転車安全整備士を置いている自転車安全整備店は22,616店である。
 なお、自転車安全整備士による点検整備を受けた自転車には、TS(Traffic Safety)マークをはることとされており、また、TSマークのはられた自転車には、自転車事故の被害者の救済に資するため、傷害保険、損害賠償保険が付されている。
エ 事業所等における交通安全活動
 一定台数以上の自動車を使用する事業所等においては安全運転管理者及び副安全運転管理者を選任することとされており、7年度末現在、約35万事業所において安全運転管理者約35万人、副安全運転管理者約5万人が選任されている。
 警察では、これらの安全運転管理者等に対し、安全運転管理に必要な知識等に関する講習を実施しており、6年度中の実施回数は、約3,462回、受講者数は延べ約38万人であった。
 また、都道府県ごとに安全運転管理者等を会員とする安全運転管理者協(議)会が結成され、交通安全運動、シートベルト着用推進運動、無事故無違反コンクール等を積極的に推進しているほか、安全運転管理に関する各種講習会の開催、教育資料の作成・配布等を通じ、職域における交通安全思想の普及に努めている。
(3) 交通安全関連産業の健全育成
 飲酒、過労等の理由により一時的に運転を中止した顧客の求めに応じて、その顧客の運転していた自動車を運転する役務を提供する運転代行事業や、会社等の事業に使用される車両に係る安全運転管理業務、整備管理業務等を業として行う自家用自動車管理事業は、その事業の適切な運営を通じて、交通事故の防止に資するものであることから、警察としては、関係行政機関や事業者団体とも連携して事業の健全育成を図ることとしている。
(4) 自動車安全運転センター中央研修所の活用
 自動車安全運転センターでは、安全運転中央研修所(茨城県ひたちなか市)において、専門的かつ体験的な研修を実施し、安全運転教育について専門的知識を有する指導者や高度の運転技能と知識を有する職業運転者、安全運転についての実践的な能力を身につけた青少年運転者の育成を図っている。7年には、延べ5万3,832人の研修を実施した。

(5) (財)交通事故総合分析センターの活動状況
 (財)交通事故総合分析センターでは、警察庁の保有する交通事故統計データ及び運転者管理データ、運輸省の保有する自動車登録データ並びに建設省の保有する道路交通センサスデータの提供を受け、統合データベースを構築し、これらを活用した分析を進めている。また、茨城県つくば市及び土浦市周辺において、実際の交通事故を人、車両、道路、救急医療等の観点から総合的かつ科学的に調査する事故例調査(ミクロ調査)を実施しており、平成7年中には286件の交通事故について事故例調査を行った。これらの調査研究の成果については、官民の様々な交通安全対策への活用が期待されている。また、機関誌「イタルダ・インフォメーション」の発行により、交通事故に関する知識の普及や交通安全意識の啓発に努めている。

4 交通秩序の確立

(1) 効果的な交通指導取締りの推進
ア 効果的な取締りの推進
 道路における交通の安全と円滑を確保するため、交通関係法令違反の効果的な取締りに努めている。
 道路交通法違反の取締りについては、交通事故発生状況等地域の交通実態を調査・分析し、かつ、市民の要望、意見等を踏まえ、無免許運転、飲酒運転、著しい速度超過、信号無視、過積載運転等交通事故に直結する悪質・危険性の高い違反や幹線道路の交差点等における駐停車違反、暴走族による騒音運転等迷惑性の大きい違反に重点を置いて実施している。最近5年間の主な道路交通法違反の取締り状況は表5-1のとおりである(交通違反取締り件数の推移及び違反別交通違反取締り状況については、資料編統計5-15、統計5-16参照)。
イ 背後責任追及の徹底
 企業の事業活動に関して行われた放置駐車、過積載運転、過労運転等の違反やこれらに起因する事故事件等については、運転者の取締りを行うだけでなく、これらの行為を下命・容認した自動車の使用者等についてもその背後責任の追及の徹底を図ることとしている。使用者等の背後責任追及状況は、表5-2のとおりである。中でも過積載につき、使用者に対する指示・自動車の使用制限命令、荷主等に対する再発防止命令等の処分を積極的に行うこととしている。
(2) 交通捜査活動の推進
ア 交通事故事件
 平成7年の交通事故に係る業務上(重)過失致死傷事件の検挙件数は65万3,039件(前年比10,777件(1.7%)増)、検挙人員は67万6,927人(10,734人(1.6%)増)である。
 これは、過去20年間で最も交通事故発生件数の少なかった昭和52年に

表5-1 主な道路交通法違反の取締り状況(平成3~7年)

比べて、検挙件数は50.0%、検挙人員は47.4%、それぞれ増加している。
イ 人身事故の取扱い
 事故当事者等の負担の軽減を図るため、交通事故簡易見分システム等の科学的機器の開発、運用や比較的軽微な人身事故に関する捜査書類について簡易な様式を定めた「簡約特例書式」の適用によって、交通事故捜査業務の簡素合理化を推進している。

表5-2 使用者等の背後責任の追及状況(平成6、7年)

ウ 物件事故の取扱い
 7年の物件事故の発生は約301万件(前年比約13万件増)である。事故当事者等の負担の軽減を図るため、物件事故のうち一定の要件を充足する軽微なものについては、事故当事者の希望を尊重しながら、現場見分を省略できる制度を運用している。
エ ひき逃げ事件
 最近5年間の死亡ひき逃げ事件の発生、検挙状況は、表5-3のとおりである。

オ 交通特殊事件

表5-3 死亡ひき逃げ事件の発生、検挙状況(平成3~7年)

表5-4 交通特殊事件の検挙状況(平成6、7年)

 偽装交通事故による自動車保険金詐欺事件等交通特殊事件の検挙状況は、表5-4のとおりである。
(3) 暴走族対策の推進
ア 最近5年間の暴走族の動向
 集団で爆音をたてながら暴走する従来型の暴走族は減少したが、いわゆるローリング族やゼロヨン族等の速度や運転技術を競うという形態の暴走族が増加している。平成7年末現在の暴走族のい集走行状況は、表5-5のとおりである。

表5-5 従来型暴走族のい集走行状況(平成3~7年)

 さらに、暴走族は、一般市民に危害を加えたり、グループ間の対立抗争事件や取締りに当たる警察官の襲撃事件を引き起こすなど悪質・粗暴化しており、また、一部には暴力団と深くかかわりを持つ悪質なグループも確認されるなど非行集団的性格を強めている。
イ 暴走族を許さない社会環境づくり
 警察では、交通、少年、刑事等各部門の連携により、暴走族に関する情報を収集してその実態を把握するとともに、暴走族少年に対する個別的な指導、補導を強化して、グループの解体や暴走族からの離脱を図るなど、暴走行為をさせないための対策を推進している。
 また、関係機関、団体等で構成される暴走族対策会議が中心となって、地域ぐるみで「暴走を『しない』、『させない』、『見に行かない』」運動等を展開し、ボランティアを中心とした暴走族の更生活動、暴走族へのガソリンの販売自粛及びファミリーレストラン等の深夜営業の自粛の要請等を行っている。
 暴走族による車両の不法改造については、毎年6月に「暴走族取締り強化期間」を実施するなどして取締りを強化し、押収措置により暴走族と車両の分離を図るとともに、車両の運転者のみならず、改造等を行った業者に対しても徹底した責任追及を行っている。
 なお、7年の暴走族に対する共同危険行為等による行政処分は、取消処分1,289件、停止処分1,089件であった。
(4) 高速道路における交通警察活動
ア 高速道路交通警察隊の活動
 高速道路交通警察隊は、高速道路における交通指導取締り、交通事故事件の処理、交通規制等を行うほか、犯罪の発生を未然に防止し、警察事象が発生した場合には、これを第一次的に処理するなど、多様な活動を行っている。
イ 高速道路の交通実態
(ア) 高速道路の供用状況
 平成7年末現在、高速道路の全供用距離は61路線、6,878.9キロメートル(高速自動車国道5,907.8キロメートル、指定自動車専用道路971.1キロメートル)である。7年には、九州縦貫自動車道の人吉インター~えびのインター間が供用開始され、昭和38年に名神高速道路の一部が開通して以来32年を経て、青森県から鹿児島県・宮崎県まで約2,150キロメートルが一本の道路で結ばれた(図5-12)。
 今後、第二東名・名神高速道路のような高規格の道路や長大海底トンネルを有する東京湾横断道路等、その安全を確保するため、交通安全施設の整備、交通規制等に特段の配慮が必要となる道路が増加する。

図5-12 高速道路の延伸状況

(イ) 高速道路における交通事故発生状況
 高速道路における交通事故の発生状況は、図5-13のとおり増加傾向にあり、死者数は7年連続して400人を超えている。
 高速道路においては、高速走行のため、わずかな運転上のミスが事故に結び付きやすく、しかも死傷者が多数に及ぶ重大事故が多い。平成7年の高速道路の死亡事故率(発生件数に占める死亡事故件数の割合)は、その他の道路の2.5倍となっている。
 また、高速道路においては貨物自動車の混入率が高いこともあり、貨物自動車による重大事故が多くみられ、7年の高速道路の死亡事故のうち50.4%が貨物自動車によるものであった。
〔事例〕 平成7年8月、東名高速道路において、過積載の普通貨物自動車が走行中バランスを失い、大型観光バス(子供38名を含む43名乗車)に追突した。これにより、普通貨物自動車は横転し、大型バスは道路側壁に衝突した後更に斜走して、反対側の側壁に衝突し、屋根がはぎ取られた。この事故により3人が死亡、40人が負傷した

図5-13 高速道路における交通事故の発生状況(昭和62~平成7年)

(神奈川)。
ウ 高速道路における交通の安全と円滑の確保
(ア) 先行対策の推進
 高速道路の供用開始前から、道路管理者に対して、道路線形の改良、交通安全施設の整備等必要な申入れを行うとともに、最高速度規制等の交通規制の内容を決定するに当たっても、既に供用されている高速道路の交通規制との整合性や一般道路との関連性、道路構造、気象条件等を総合的に勘案してその適正を確保することとしている。

表5-6 高速道路における交通違反取締り状況(平成6、7年)

(イ) 効果的な交通指導取締り
 交通違反取締りについては、速度違反、車間距離不保持等の悪質・危険性、迷惑性の高い違反に重点を置いて実施している。
 7年の高速道路における交通違反取締り状況は、表5-6のとおりである。
(5) 災害時に対応するための交通警察
ア 災害時に対応するための交通規制
 災害時の災害応急対策に従事する緊急通行車両や緊急輸送車両の円滑な通行を確保するため、主要幹線道路を中心に緊急交通路を指定している。また、緊急通行車両等の通行及び円滑な避難誘導活動を確保するため、主要幹線道路における交通規制、倒壊物・放置車両等の排除のための体制整備及び各種資機材の確保を推進している。
イ 災害に強い交通管理システムの構築
 災害時の道路状況及び交通状況を即座に把握するため、緊急交通路となる主要幹線道路において、各種車両感知器、交通監視カメラ等の交通安全施設の整備を推進している。また、災害発生時において送電不能による信号機の機能停止に備え、主要交差点における自動起動型信号機電源付加装置の整備に努めている。
ウ 広域緊急援助隊(交通部隊)の設置
 平成7年6月、都道府県警察相互の広域的かつ迅速な援助により災害警察活動を効果的に行うため、広域緊急援助隊が設置され、その交通部隊において、パトカー、白バイ等により緊急交通路を確保するとともに緊急輸送車両の先導等を行うための体制の整備が図られた。また、災害対策基本法の一部を改正する法律が同年9月1日に施行され、災害時における緊急通行車両等の通行を確保するための放置車両その他の物件に対する強制措置に関する規定が整備された。
(6) APEC大阪会議における交通対策
 平成7年11月16日から19日までの間、大阪市においてアジア太平洋経済協力閣僚会議及び同非公式首脳会議(以下「APEC大阪会議」という。)が開催されたことに伴い、交通規制や大阪都心部への乗り入れ自粛について理解と協力を得るため、各種媒体を活用して広報を実施したほか、関係機関・団体等への協力要請等を行った。また、会議開催中は、主要幹線道路において、所要の交通規制、う回誘導、信号調整等を行うとともに、交通規制の実施状況や渋滞状況を報道機関、道路交通情報センターに提供した。これらの交通総量抑制対策の推進により、各国首脳の通行の安全と諸行事の円滑な進行が図られるとともに、交通渋滞による一般交通への影響が最小限に抑えられた。

5 良好な道路交通環境の実現

(1) 交通安全施設等整備事業五箇年計画
 交通安全施設等を整備拡充し、道路交通の安全と円滑を確保するため、交通安全施設等整備事業に関する緊急措置法に基づき、交通安全施設等整備事業五箇年計画が策定されている。平成3年度を初年度とする第5次交通安全施設等整備事業五箇年計画は7年度で終了したが、その内容及び実施状況は、表5-7のとおりである。また、引き続き8年度を初年度とする第6次交通安全施設等整備事業五箇年計画を策定することとしており、道路交通のインテリジェント化、生活の場における安全の確保、交通需要マネジメント、災害時に対応した交通管理を重点事項とし交通安全施設等の整備を推進することとしている。

表5-7 第5次交通安全施設等整備事業実施状況

(2) 安全な道路交通環境の整備

図5-14 高速走行抑止システム

ア 高速走行抑止システムの整備
 高速走行抑止システムは、高速走行車両を検出し、これに対し警告板で警告を与え、減速、安全運転を促すことにより、高速走行による事故防止を図るものである。平成7年度には21基が設置され、第6次五箇年計画においても引き続き整備を進めることとしている(図5-14)。
イ 交通事故多発箇所に対する施策
 警察では、交通事故多発箇所を重点に、信号機等の交通安全施設等の整備を進めている。
 右折時における衝突事故の多発している交差点では右折矢印の付加を行うなど信号機の表示の多様化を進め、交通の円滑化を図る必要性が特に高い主要幹線道路等では信号機の系統化を行うなどして交通流、交通量を整序している。
 出会い頭事故、歩行者横断中の事故等が多発している箇所では、その事故類型に応じて、速度規制、一時停止規制、横断歩道の設置等必要な規制を実施するとともに、関係機関に対し、交差点形状や段差舗装の改良、夜間照明設備の整備等を働き掛けている。また、交通事故が発生しやすいカーブ等では、追越しのための右側部分はみ出し通行禁止の規制、夜間や雨天時においても反射輝度及び視認性の優れた高輝度道路標示の設置等を行っている。
ウ 安全な生活環境を確保するための対策
 子供や高齢者等の交通弱者を保護し、安全な生活環境を確保するため、住宅地域、学校や高齢者が利用する施設の周辺地域等のうちから一定の区域を指定して歩行者専用、車両通行止め、大型車通行止め、一方通行

図5-15 コミュニティゾーン

等の交通規制を総合的に組み合わせることにより、スクールゾーン規制等の生活ゾーン規制を実施している。
 このほか、高齢者等が無線発信機等により歩行者用信号の青の時間を長めに調整することができる弱者感応信号機、歩行者をセンサーにより感知し歩行者用信号の青の時間を調整する歩行者感応信号機、歩行者用の青信号をメロディ等により知らせる音響信号機の整備を図るなど、信号機の高度化を推進している。
 また、第6次交通安全施設等整備事業五箇年計画においても、住宅地域等を対象に区域を定めて行う交通規制とハンプや狭さく部分を設けるなどの道路改良とを組み合わせて良好なコミュニティ・ゾーンの形成を図り、歩行者が安心して通行することができる生活環境を整備していくこととしている(図5-15)。
(3) 交通円滑化対策の推進
ア 交通管制センター等の整備
 交通管制センターは、都市及びその周辺の交通を安全で円滑なものとするため、コンピュータによって信号機、可変標識、中央線変移装置の制御を行うとともに交通情報を運転者に提供する交通管理の中枢を成す施設である。平成7年度には、昭和54年度以前に設置された51都市の交通管制センターのうち4都市の交通管制センターの中央装置を高性能化するとともに、1都市に交通管制サブセンターを新設した。
 また、交通量の変化に応じて青信号の時間を自動的に変える感応化、同一路線上の複数の信号機を相互に連動させて制御する系統化、交通管制センターのコンピュータによって信号機を広域的に制御する地域制御化等を図ったほか、夜間等に交通量が減少する地域においては、閑散時半感応化、閑散時押ボタン化等による合理的な信号制御の実現に努めた。
イ 交通ボトルネック解消対策
 交差点、橋、踏切、トンネル等は、交通容量が他の区間に比べ比較的小さいため、交通渋滞が発生しやすい。このような交通ボトルネックを解消するため、適切な信号機の制御、右折矢印信号制御、踏切信号機の設置等の対策を進めるとともに、道路環境の改善を道路管理者等に働き掛けている。
ウ 行楽期等における交通円滑化対策
 行楽期等における大規模な交通渋滞については、その発生を予測し、事前広報を行うとともに、臨時交通規制、交通情報の提供、警察官等による交通整理、道路における工事・作業の抑制等の対策を実施し、その予防、解消に努めている。
エ 道路使用の適正化
 工事、路上競技等のための道路使用は、交通渋滞等の要因となっていることも少なくない。
 警察では、工事方法の改善、競技コースの変更等について事前の指導を行い、許可に当たっても必要な条件を付するなどして、交通渋滞等の防止に努めている。また、膨大な数に上る道路使用の状況を適正に管理するため、コンピュータを活用したシステムの整備を進めている。
 また、道路交通法に基づき都道府県ごとに指定される都道府県道路使用適正化センターは、道路の使用等に関する事項について、相談事務や広報啓発活動を行うとともに、警察署長の委託を受けて道路使用許可条件の履行状況、原状回復状況等の調査を行っている。
オ 先行的交通対策
 大量交通社会においては、都市構造、道路網、駐車場、大量輸送機関、物流システム等が交通流、交通量に大きな影響を与えることから、警察では、都市計画地方審議会等に参画して、都市計画事業、土地区画整理事業等各種の開発事業、道路や駐車場の整備、大規模施設の建設等について、交通管理面からの必要な指導、提言を行うことなどにより、交通管理上望ましい都市交通が形成されるよう働き掛けている。
カ 交通情報の提供
 交通状況の変化に応じ交通流・量の配分、誘導を適切に行うため、交通情報を収集、分析して運転者に提供することは、交通規制の実施、信号機の制御と並ぶ交通管理の重要な手法である。
 警察は、交通管理者としての立場から、車両感知器、交通監視用カメラ等により収集した情報を基に、交通管制センターを通じて、主要な地点に設置されている路側通信設備、フリーパターン式交通情報板等の交通情報提供施設や電話照会に対する回答、テレビ、ラジオ放送といった様々な手段を利用して、交通渋滞情報から駐車場への誘導に関する情報に至るまで、幅広く交通情報の提供を行っている。7年度に(財)日本道路交通情報センターが行った情報の提供は、テレビ放送によるものが6,255回、ラジオ放送によるものが31万434回であり、電話照会に対するものは約1,088万件であった。
 さらに、よりきめ細かな交通情報を広域的に提供するため、複数の交通管制センターのネットワーク化、車両感知器、路側通信設備、旅行時間計測提供システム等の交通情報収集・提供施設の整備充実、交通情報の編集、提供の自動化を促進している。
(4) 道路交通のインテリジェント化の推進
ア ITSの推進
 ITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)とは、最先端の情報通信技術を用いて、交通管理の最適化、ナビゲーションシステムの高度化等を図り、安全性、輸送効率性、快適性の飛躍的向上を実現するとともに、環境保全に大きく寄与するものである。
 ITSについては、国際的な取組みが行われており、平成6年11月に

第1回ITS世界会議が、パリで開催されたのに引き続き、第2回会議が7年11月に横浜で開催され、世界37箇国から約3,400人の参加を得た。
イ UTMSの推進
 警察庁では、ITSの実現に向けて、信号制御の最適化及び交通情報収集・提供システムの高度化を実現するUTMS(Universal Traffic Management Systems:新交通管理システム)の構想を推進している。
 このシステムは、赤外線方式による個々の車両と交通管制システムとの間の双方向通信により、ドライバーに対するリアルタイムで詳細な交通情報・誘導情報を提供し、交通流の積極的な管理を行うことを目標とするものであり、高度交通管制システム(ITCS)を中心に、交通情報提供システム(AMIS)、公共車両優先システム(PTPS)、交通公害低減システム(EPMS)、動的経路誘導システム(DRGS)、車両運行管理システム(MOCS)の5つのサブシステムから成っている。
 交通流の分散、平準化を図り、交通の安全と円滑、環境の保護を実現

図5-16 新交通管理システム(UTMS)

するために、8年度から始まる第6次交通安全施設等整備事業五箇年計画において、積極的に導入を進めていく予定である(図5-16)。
 また、8年4月には、社団法人新交通管理システム協会が設立され、新交通管理システムに係る技術的な研究開発等の推進に努めていくこととしている。
ウ VICSの推進
 VICS(Vehicle Information and Communication System:道路交通情報通信システム)とは、路上に設置された光ビーコンや電波ビーコン、あるいはFM多重放送(通常のFM放送にデジタルデータを重ねて放送するもの)のメディアを利用して、道路交通情報を車載のカーナビゲーション装置等に直接リアルタイムに提供し、ドライバーに適正な

図5-17 VICSの情報の流れとシステム構成イメージ

ルート選択を促すものである。
 7年7月に、事業主体となる(財)道路交通情報通信システムセンター(VICSセンター)が警察庁、郵政省、建設省の3省庁の共管の下に設立され、8年4月に首都圏等において運用を開始し、逐次提供地域の拡大を図る予定である(図5-17)。
(5) 駐車対策の推進
ア 違法駐車の現状
 違法駐車は、幹線道路の交通渋滞を悪化させるばかりでなく、交通事

表5-8 三大都市圏での瞬間路上駐車台数の推移(平成2~7年)

故の原因にもなっているほか、住宅地の生活環境を害したり、緊急自動車の活動に支障を生じさせるなど、市民の生活全般に大きな影響を及ぼ

表5-9 全国11都市における夜間の路上駐車の状況(平成2年3月、6年6月、7年6月)

している。
 警察においては、違法駐車に対する取締りを強化する一方、駐車対策のための各種システムの整備を行い、また、関係機関、団体や民間企業に対し、駐車場の整備や既存駐車場の有効利用、違法駐車を生じさせないような業務改善を働き掛けている。
 このような総合的な駐車対策の結果、三大都市圏(東京都の特別区、大阪市、名古屋市(旧市内の12区に限る。))での瞬間路上駐車台数は表5-8のとおりおおむね減少傾向で推移している。
 また、夜間における長時間駐車台数は、夜間路上駐車の多い全国11都市におけるサンプル調査によると表5-9のとおりで、平成2年に改正された自動車の保管場所の確保等に関する法律の施行(3年7月1日)前と比べ、約6割の減少がみられた。しかし、いまだ相当数の違法駐車が存在する現状からみると、今後とも引き続き総合的な駐車対策を推進する必要がある。
イ 総合的な駐車対策の推進状況
(ア) 駐車対策のための各種システムの整備
a 違法駐車抑止システムの整備
 違法駐車抑止システムは、交差点に設置されたテレビカメラ及びスピーカーを用いて、違法駐車車両を監視し、必要に応じ音声で警告することにより、違法駐車の抑止を図るもので、交通安全施設等整備事業五箇年計画に基づきその整備が進められている。7年中には、岡山市、桐生市等で新たに運用が開始され、同年末現在、83都市で運用されている。
b 駐車誘導システムの整備
 駐車誘導システムは、駐車場を探したり、その空き待ちをしている車両による交通渋滞の緩和や交通事故の防止を図るとともに、違法駐車を抑止するため、交通管制システムと連動して、駐車場の位置、満空状況、駐車場までの経路、交通渋滞の状況等に関する情報を運転者に提供し、空き駐車場への誘導を行うもので、交通安全施設等整備事業五箇年計画に基づきその整備が進められているところである。7年中には、和歌山市、福島市等で新たに運用が開始され、同年末現在、52都市で運用されている。

c パーキング・メーター集中管理・誘導システムの整備
 パーキング・メーター集中管理・誘導システムは、パーキング・メーターの利用、作動状況を管理し、運転者に対しパーキング・メーターの満空状況、誘導経路に関する情報を提供するシステムである。7年末現在、横浜市及び熊本市において運用されており、パーキング・メーターの利用率の向上、駐車スペースを探している車両による交通渋滞の緩和及び交通事故の抑止、違法駐車の抑止、パーキング・メーターの不正使用の防止等に役立っている。
(イ) 違法駐車の効果的な取締り
 駐停車違反の取締りは、幹線道路の交差点、横断歩道、バス停留所等における悪質・危険性、迷惑性の大きい違反に重点を置いて行っており、7年中の取締り件数は約253万件で、1日平均約7,000件であった。
 また、7年中の放置駐車違反車両の使用者に対する指示件数は約1万9,000件であった。
 さらに、違法駐車車両に対する車輪止め措置については、7年末現在、約240キロメートルが車輪止め装置取付け区間として指定され、同区間における約2万5,000台の違法駐車車両に対してその措置がとられた。
 なお、7年5月に行った調査によると、車輪止め装置取付け区間においては、指定前と比べて、瞬間路上駐車台数が57.9%減少した。
(ウ) 関係機関、団体との連携の強化
 警察では、都道府県道路使用適正化センター、報道機関等の協力を得て、違法駐車に起因する交通事故の実態、交通渋滞の状況等違法駐車の危険性、迷惑性について情報の提供を積極的に行うなど、違法駐車抑止のための広報啓発活動を進めている。
 また、地方公共団体、道路管理者等とともに駐車対策協議会を設立し、地域における駐車問題を協議、検討して、各種の駐車対策を推進するほか、地方公共団体等に対し駐車場附置義務条例の早期制定、公共駐車場の整備等を強く働き掛けている。7年末現在、145市7区134町13村が違法駐車防止条例を制定し、警察においてもその運用について必要な協力と支援を行っている。
(エ) 軽自動車に係る保管場所の届出義務の適用地域拡大
 軽自動車の保管場所の確保対策として、7年に自動車の保管場所の確保に関する法律等が改正され(8年1月1日施行)、軽自動車に係る保管場所の届出義務等の適用地域がおおむね人口30万人以上の市及び人口30万人未満の市のうち東京圏及び大阪圏と一体に扱うべき市に拡大された。
 以後、段階的に、適用地域を拡大することとしている。
(6) 交通需要マネジメント
 近年、特に都市部においては、交通需要の増加に対応して交通容量の拡大を図ることが困難であることから、交通渋滞・交通公害対策として、交通需要そのものを軽減し又は平準化する交通需要マネジメント(TDM:Transportation Demand Management)の手法が注目されており、警察でも同様の手法を用いた諸対策を関係機関と連携して推進している。
ア 交通需要軽減対策
(ア) 公共交通機関優先対策
 マイカー利用者の公共交通機関への転換対策を推進するため、バス専用・優先レーンの設定、バス優先信号制御等により、公共交通機関の優先通行を確保し、定時性を向上させて、バス利用の促進を図るとともに、バス・ロケーション・システムの導入、バス運行時間の見直し、低床式バスの導入等、利用者の利便性の向上を図るための対策をバス事業者に働き掛けている。
 また、自治体、バス・鉄道事業者等にパーク・アンド・ライドシステムの導入を促すとともに、駅等の関係施設へのアクセス向上に資する交通規制の実施により、バス・鉄道等の利用促進を図っている。
(イ) 物流対策
 自動車が物流を担う中心手段となっている一方で、交通混雑等による輸送効率の低下や駐車場所の不足等の問題が生じている。警察では、こうした物流システムの効率化対策として、必要な交通規制、パーキングメーターの設置等を行うとともに、荷主、運送事業者等に対しても共同集配システムの構築等の働き掛けを行っている。
〔事例〕 日本有数の問屋街である日本橋問屋街は、狭あいな地域に約350の店舗が密集しており、集配の貨物自動車と買物客等の乗用車が混在する上、路外駐車施設、荷さばき施設の絶対的不足等のため違法駐車車両があふれ、交通渋滞ばかりでなく、交通事故の原因にもなっていた。このような状況を改善するため、デュアルユースシステム(二元的利用:貨物自動車による駐車時間帯と買物客等乗用車の駐車時間帯を区分した駐車規制)を基本とする駐車対策を実施し、駐車秩序の確立による地域の交通の安全と円滑の確保に効果を上げた。

イ 交通需要平準化対策
 交通渋滞情報、旅行時間情報等の交通情報を迅速的確に提供することにより、交通流・量の誘導・分散を促している。また、通勤や業務に伴う交通需要を平準化するため、関係機関、団体等に対し、時差出勤又はフレックスタイム制の導入を働き掛けている。
(7) 道路交通公害対策
 道路交通に起因する環境問題として、自動車の走行に伴う騒音、振動及び排気ガスによる大気汚染の問題が注目されている。
 道路の種類別の騒音の環境基準の達成状況をみると、4時間帯のすべてにおいて環境基準が達成されなかった測定地点の割合は、都市内高速道路、一般国道、主要地方道の順に高く、依然として厳しい状況にある

表5-10 道路の種類別の騒音の環境基準の達成状況(平成6年)

表5-11 二酸化窒素の環境基準の適合状況(日平均値の98%値)(平成元~6年度)

表5-10)。
 また、平成7年7月の「国道43号・阪神高速道路騒音排気ガス規制等請求事件」に係る最高裁判決において、国及び阪神高速道路公団の損害賠償責任が認められた。この判決を受けて、警察庁、環境庁、通商産業省、運輸省及び建設省の関係5省庁は、7年12月に、「道路交通騒音の深刻な地域における対策の実施方針について」をとりまとめた。
 警察としては、これまでも、交通管制システム等の整備、最高速度規制、大型車の中央より車線規制等の道路交通騒音対策を推進してきたところであるが、8年4月から東京都内の環状7号線、同8号線等全国の4路線を選定し、道路交通騒音低減のためのパイロット路線対策を実施しているほか、今後とも道路管理者等の関係機関等と連携して、地域の実態に応じた自動車交通騒音対策の推進に努めることとしている。
 また、大都市とその周辺地域における大気中の二酸化窒素(NO2)の環境基準の達成状況は、表5-11のとおりで、厳しい状況にある。これらの地域においては、窒素酸化物(NOx)の総排出量に占める自動車からの排出量の割合が高くなっており、窒素酸化物の削減対策が求められている。

6 運転者政策

(1) 運転者教育の推進
ア 自動車教習所における教習の充実
(ア) 指定自動車教習所における教習の充実
 指定自動車教習所は、平成7年末現在、全国で1,533所ある。また、指定自動車教習所の卒業者で7年中の運転免許試験に合格した者は、約211万人で、合格者全体の94.9%を占めており、指定自動車教習所は、初心運転者教育の中心的役割を果たしている。公安委員会では、指定自動車教習所に対する指導監督を徹底し、教習体制等の充実強化に努めている。
 また、国民の免許取得機会の拡大と安全運転教育の充実を図るため、総排気量400ccを超える自動二輪車について、指定自動車教習所における教習制度及び技能検定制度を導入することとした。7年4月には、この制度の導入のため道路交通法の一部が改正された(8年9月1日から施行することとされている。)。
(イ) 国民のニーズに応じた教習の推進
 指定自動車教習所では、国民のニーズに応じ、ペーパードライバー、高齢運転者等の免許保有者に対する再教育をはじめ、地域住民に対する交通安全教育を行っており、地域における交通安全教育機関としての役割を果たしている。
(ウ) 指定外の自動車教習所における教習水準の向上
 公安委員会に届出を行っている自動車教習所のうち、公安委員会の指定を受けていないものは、7年末現在、全国で269所ある。公安委員会では、これらの自動車教習所に対して、教習の適正な水準を確保するため必要な指導及び助言を行っている。
イ 各種講習の充実
(ア) 取得時講習の義務付け
 4年から、原付免許を受けようとする者は原付講習を、6年から、普通免許を受けようとする者は普通車講習及び応急救護措置講習を、二輪免許を受けようとする者は二輪車講習及び応急救護措置講習をそれぞれ受けなければならないこととされている。7年には、44万4,254人が原付講習を、3万3,866人が普通車講習を、4,358人が二輪車講習を、3万3,367人が応急救護措置講習を受講した。
(イ) 更新時講習の充実
a 更新時講習の受講の義務付け
 6年から、免許証の更新時に更新時講習の受講が義務付けられるとともに、これが優良運転者等講習と一般運転者講習に区分された。  優良運転者等講習では、ビデオ等の視聴覚教材の活用、資料の配付、パネル教材の展示等による簡素な講習を実施している。7年には、約1,680万人が受講した。
 一般運転者講習では、若年者学級、二輪車学級、高齢者学級等の特別学級を編成して、運転者の態様に応じた講習を実施している。7年には、約39万人がこの特別学級による講習を受講した。
b 特定任意講習の推進
 一定の基準に適合する講習(特定任意講習)を受講した人は更新時講習を受講する必要がないこととされている。特定任意講習では、職種、生活環境等が共通する運転者を集めて、その態様に応じた講習を行っている。7年には、約5万8,992人が受講した。
(2) 各種の運転者政策
ア 優良運転者の優遇と賞揚
 平成6年から、免許保有者を優良な運転を行う方向に誘導し、交通事故防止を図るため、継続して免許を有する期間が5年以上であり、かつ、5年間無違反である優良運転者については、免許証の有効期間を5回目の誕生日(年齢によっては3回目又は4回目の誕生日)が経過するまでの期間とした。7年には、1,168万8,527人が優良運転者に該当し、これは全更新者の53.7%に相当した。
 なお、優良運転者に係る免許証については、「優良」と記載し、免許証の有効期間欄の色を他の運転者に係る免許証の有効期間欄の色と異なるものとしている。
 また、長期間無事故無違反の運転者に対しては、行政処分等について優遇措置をとっているほか、各種の賞揚制度を設けている。自動車安全運転センターでは、無事故無違反証明書を発行しているほか、無事故無違反の期間が1年以上の運転者に対してSD(Safe Driver)カードを交付しており、7年の無事故無違反証明書等の発行件数は約453万件、SDカードの交付件数は約367万件であった。
イ 危険運転者対策
(ア) 迅速、確実な行政処分の推進
 自動車等を運転することが危険であると判断される運転者を道路交通の場から早期に排除するため、違反・事故登録所要日数、処分所要日数の短縮等に努めている。最近5年間の運転免許の行政処分件数の推移は、表5-12のとおりである。

表5-12 運転免許の行政処分件数の推移(平成3~7年)

(イ) 停止処分者講習
 運転免許の効力の停止等の処分を受けた者に対しては、その者の申出により停止処分者講習を行っている。7年には、この講習を受けることができる者の87.4%に当たる約120万人が受講した。
(ウ) 取消処分者講習
 運転免許の取消し等の処分を受けた者が免許を再取得しようとする場合は、取消処分者講習の受講が受験資格とされている。この講習では、受験する免許の種類に応じて四輪運転者用講習、二輪運転者用講習が設けられ、個別的、具体的な指導が行われている。7年には、3万8,632人がこの講習を受講した。
ウ 初心運転者対策
 初心運転者が慎重な運転をするよう誘導するとともに、危険性の認められる者に対する適切な教育を実施し、以後の事故防止を図るため、免許取得後一定の期間内に一定の違反行為を行った者は、初心運転者講習を受けることができ、この講習を受講しなかった者等は再試験を受けなければならないこととされている。7年には、15万1,356人がこの講習を受講した。
 再試験では、運転免許試験と同等の基準で合格判定が行われ、7年には、1万904人が受験し、不合格となった8,210人が免許を取り消された。
エ 二輪車運転者対策
 各都道府県の二輪車安全運転推進委員会は、二輪車安全普及協会の協力を得て、7年10月から原付及び総排気量125cc以下の自動二輪車(以下「原付等」という。)を運転することができる免許を受けている者に対して、原付等の安全運転に関する知識及び技能を指導する原付等安全講習を実施している。警察では、講師として警察官等を派遣するなど積極的な指導及び協力を行った。本講習は、日常生活において原付等を利用している者を受講対象としている。
 また、二輪免許保有者を対象に学科講習と技能講習から成る自動二輪車安全運転講習を行っており、7年には1万8,540人が受講した。
オ 地域的な課題への取組み
 北海道警察等においては、運転免許取得時講習、更新時講習等の機会を利用して雪路用タイヤを装着した車両の運転方法、雪道等における運転マナー等の講習を実施している。また、アイスバーンを想定した運転コース(スキッドコース)、わだち等のある運転コースでの走行訓練等を盛り込んだ「夏期冬道安全運転講習」等を実施するなどして、雪道等における安全運転技能の普及を図っている。
(3) 国際化への対応
ア 国外運転免許証の交付
 平成7年の国外運転免許証の交付件数は、38万2,878件である。警察では、電子計算機処理による国外運転免許証の発行事務の迅速化等、国際化に対応した事務の簡素合理化を推進している。
イ 国内の外国人運転者対策
 外国の運転免許を有する者については、一定の条件の下に運転免許試験のうち技能試験及び学科試験を免除している。7年の取得件数は2万6,326件である。また、運転免許証を発行した外国行政庁の数は121に上っている。
 また、外国人に対する運転免許証の交付時等における講習用視聴覚教材として5箇国語による運転者教育用ビデオを制作し、適切な外国人運転者教育に努めている。
 なお、6年5月からは、一定の要件を満たす外国の運転免許証を所持する者は、我が国に上陸した日から起算して1年間、その運転免許証に係る自動車等を運転することができることとされている。
(4) 運転免許証の高機能化の推進
 警察庁では、運転免許を有する者の便宜と運転免許行政の適正かつ効率的な運営に資するために、高度なセキュリティ機能を有する電子技術を応用した運転免許証の高機能化について調査研究を行っている(詳しくは第1章第5節2(4)イ参照)。


目次