暴力団対策は、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(以下「暴力団対策法」という。)の施行を契機とした国民の暴力団排除気運の高揚により、国民と暴力団の対決という段階を迎えている。他方、暴力団の資金獲得活動は、債権の回収過程や企業倒産に関与するなど、著しく巧妙化、多様化してきており、企業活動にとって大きな脅威となっている。また、暴力団が多数のけん銃を隠匿所持している実態や暴力団によるけん銃を使用した凶悪事件の発生が国民に深刻な不安感を与えている。
このような情勢の下、警察は、暴力団を解散、壊滅に追い込むため、総力を挙げて、暴力団犯罪の取締り、暴力団対策法の効果的な運用及び暴力団排除活動の推進を3本の柱とした暴力団総合対策を強力に推進している。
(1) 暴力団勢力の状況
暴力団勢力(注)は、平成7年末現在、約7万9,300人で、6年に比べ約1,700人(2.1%)減少し、うち構成員は約4万6,600人で、6年に比べ約1,400人(2.9%)減少した。また、山口組、稲川会及び住吉会の3団体の構成員は約3万1,000人で、前年に比べ約100人(0.3%)減少した。
(注) 暴力団勢力とは、暴力団の構成員及び準構成員(構成員ではないが、暴力団と関係をもちながら、その組織の威力を背景として暴力的不法行為等を行う者、又は暴力団に資金や武器を供給するなどして、その組織の維持、運営に協力し若しくは関与する者)をいう。
(2) 組織の解散、壊滅の状況
平成7年中に解散し又は壊滅した組織は234組織(構成員数約1,400人)で、このうち、山口組、稲川会及び住吉会の3団体の傘下組織の解散・壊滅数は128組織(構成員数約800人)であり、全体の54.7%(全構成員数の57.1%)を占めている。
暴力団組織の解散、壊滅数は、2年から増加傾向にあり、5年以降毎年200前後の組織を解散、壊滅に追い込んでいる。
(1) 暴力団の資金獲得活動に対する取締り
ア 債権回収等に係る暴力団犯罪の取締り
平成7年は、バブル崩壊後の経済情勢を背景とした、債権回収等に暴力団等が関与する犯罪が目立っており、競売等妨害事件、破産法違反事件等を検挙している。このような状況において、各都道府県警察においては、警察庁に設置された「金融・不良債権関連事犯対策室」(詳細については第3章2(4)ウを参照)の指導・調整の下に、この種の犯罪の取締りを強力に推進している。
〔事例1〕 極東会傘下組織幹部(55)らは、6年6月、地方裁判所支部に備え置かれた「競売物件説明備置ファイル」一綴りを持ち出し、隠匿し、同年7月ころまでの間、その閲覧、謄写を不能ならしめ、公務所の用に供する文書を毀(き)棄し、競売を妨害した。5月検挙(埼玉)
〔事例2〕 山口組傘下組織組員(45)らは、新居浜市内の競売物件の所有者と共謀し、7年1月ころから3月ころまでの間、同建物の内部の現状を変更するとともに、これを占拠使用して、競売を妨害した。3月検挙(愛媛)
〔事例3〕 山口組傘下組織組長(48)らは、住宅金融専門会社の申立てに基づき競売開始決定がなされた熊本市内の不動産について、競売の際に自己等に有利に買い受けようと企て、8年1月、裁判所執行官に対し、虚偽の事実を申し向けるとともに、内容虚偽の建物賃貸借契約書の写しを提出するなどして、競売を妨害した。8年5月検挙(熊本)
イ 企業活動を利用した犯罪の取締り
暴力団は、多額の資金の獲得を図り、企業活動を利用して様々な犯罪を敢行している。
7年中の暴力団フロント企業(注)に係る犯罪の検挙は205事件で、6年に比べ52事件(20.2%)減少し、これらの事件に関与した企業は225企業であった。このうち山口組系の暴力団フロント企業に係る犯罪の検挙は138事件、関与企業数は155企業で、それぞれ全体の7割弱を占めている。
検挙した205事件の適用罪種別内訳は、恐喝が34事件と最も多く、次いで詐欺28事件、労働者派遣事業法違反12事件となっている(表4-1)。また、事件に関与していた225企業の業種別内訳では、建設業が63企業と最も多く、次いで不動産業38企業、金融・保険業30企業の順となっている(表4-2)。
(注) 暴力団フロント企業とは、暴力団が設立し、現にその経営に関与している企業又は暴力団準構成員等暴力団と親交のある者が経営する企業で、暴力団に資金提供を行うなど、暴力団組織の維持、運営に積極的
表4-1 暴力団フロント企業に係る犯罪検挙件数の適用罪種別内訳(平成7年)
表4-2 検挙に係る暴力団フロント企業の業種別内訳(平成7年)
に協力し、若しくは関与するものをいう。
〔事例〕 二代目侠道会会長(61)らは、知事の許可を受けないで、6年11月ころ、前後16回にわたり、産業廃棄物の処分委託を受け、山林、ため池に投棄するなど、廃棄物処理業を営んだ。7年2月、廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反により検挙(広島)
ウ 伝統的な資金獲得犯罪に対する取締り
7年に検挙した暴力団勢力3万3,011人(構成員1万1,699人)のうち、伝統的な資金獲得犯罪である覚せい剤取締法違反、恐喝、賭(と)博及び公営競技関係4法違反(ノミ行為等)の4罪種に係る検挙人員は1万5,786人で、全体の約47.8%を占めており、そのうち、構成員の検挙人員は4,695人と、構成員の全検挙人員の約40.1%を占めている。
〔事例〕 会津小鉄傘下組織幹部(47)らは、5月、京都市内のマンションにおいて、プロ野球公式戦に関し、会津小鉄傘下組織組長ら約10人の賭客から申込みを受け、いわゆる野球賭博を開帳した。7月検挙(京都)
(2) 企業対象暴力に対する取締り
ア 企業の幹部等に対する襲撃事件の発生・検挙状況
企業やその幹部等に対するけん銃や刃物を使用した襲撃事件は平成4年以降6年までに主なものだけでも20件発生しているが、7年中は、製造業役員宅に対するけん銃発砲事件が1件発生したにとどまったほか、大手電鉄会社本社ビル等に対するけん銃発砲事件及び信用金庫本支店に対するけん銃発砲等事件の2事件を検挙した。
〔事例1〕 松葉会傘下組織幹部(48)らは、4年10月、都内の大手電鉄本社ビル2階に向けてけん銃を発砲し、窓ガラス等を損壊したほか、鎌倉市内の同社社長宅等に対してもけん銃を発砲した。2月検挙(警視庁)
〔事例2〕 極東会傘下組織組員(48)らは、知人が所有する土地・建物に対して石岡市内の信用金庫が行った仮差押登記を抹消させるため、同信用金庫幹部に対して「登記抹消に応じなければ、街宣車が出る」などと要求したが、拒絶されたことから、6年9月、同信用金庫本店及び支店に対してけん銃を発砲し、シャッター等を損壊した。6月検挙(茨城)
イ 総会屋等の取締り
7年中の総会屋等及び社会運動等標ぼうゴロの検挙件数、検挙人員は479件、719人で、6年に比べ検挙件数が118件(19.8%)、検挙人員が143人(16.6%)それぞれ減少している(表4-3)。
〔事例〕 総会屋(53)らは、6年10月から11月までの間、会社役員らに対し、「お宅の会社の株を質流れで持っている。俺たちは総会屋
表4-3 総会屋等及び社会運動等標ぼうゴロの罪種別検挙状況(平成6、7年)
だ。株を1株2,000円で引き取ってもらいたい」などと脅迫し、金員を喝取しようとした。6月検挙(警視庁)
(3) 暴力団に係る銃器犯罪の発生・取締り
ア 銃器発砲事件の発生状況
暴力団によるとみられる銃器発砲事件の発生回数は、平成3年以降5年まで180回前後で推移し、6年には増加に転じたが、7年は大幅に減少し、過去10年間で最も少なくなっている。
7年の銃器発砲事件の発生回数は128回であり、前年に比べ82回(39.0%)減少している。これらの銃器発砲に伴い、21人が死亡、21人が負傷した(図4-1)。
〔事例〕 山口組傘下組織組員(25)らは、8月、京都市内の交差点において、赤信号のため停車していた自動車に乗車中の建設会社社長をけん銃により殺害した。 10月検挙(京都、滋賀)
図4-1 銃器発砲事件、対立抗争事件の発生状況(昭和61~平成7年)
図4-2 暴力団勢力からのけん銃押収丁数の推移(昭和61~平成7年)
イ 対立抗争事件の発生状況
7年中の暴力団対立抗争は、事件数は4件、発生回数は28回で、そのすべてに銃器が使用されている。前年に比べ事件数は7件、発生回数は16回減少しており、いずれも過去10年間で最も少なくなっている。
〔事例〕 6月、京都府と滋賀県において、山口組と会津小鉄との間で、10数回に上るけん銃発砲を伴う対立抗争事件が発生した。7月末日までに双方の被疑者4人を検挙(京都、滋賀)
ウ けん銃の押収状況
暴力団勢力からのけん銃押収丁数は、3年以降増加傾向にあり、7年は1,396丁で、前年に比べ154丁(12.4%)増加している(図4-2)。
〔事例1〕 2月、住吉会傘下組織幹部(36)らは、自動車内及び情婦宅において、けん銃6丁、けん銃実包191個(うち適合実包169個)等を隠匿所持していた。同月検挙、押収(千葉)
〔事例2〕 11月、山口組傘下組織幹部(37)は、清水市内の自宅等において、けん銃6丁及び適合実包316個を隠匿所持していた。同月検挙、押収(静岡)
(4) 暴力団員の大量反復検挙
警察は、暴力団組織の中枢にあって、その運営を支配している首領、幹部をはじめとする暴力団員の大量反復検挙を徹底するとともに、犯行の組織性を解明し、その常習性、悪質性を立証することなどにより、検挙した暴力団員について適正な科刑がなされ、社会から長期にわたって隔離されるように努めている。
図4-3 暴力団勢力の検挙人員(昭和61~平成7年)
図4-4 暴力団構成員の検挙人員(昭和61~平成7年)
ア 暴力団員の検挙状況
平成7年の暴力団勢力の検挙人員は3万3,011人であり、前年に比べ425人(1.3%)減少している。このうち、構成員の検挙人員は1万1,699人であり、前年に比べ1,223人(9.5%)減少している(図4-3、図4-4)。
山口組については、会社社長強盗致傷事件、警察官に対するけん銃発砲殺人事件等の検挙にみられるように、その悪質性は際立っている。7年中の山口組の勢力の検挙人員は1万4,274人で、うち構成員の検挙人員は5,120人(直系組長11人を含む。)であり、それぞれ総検挙人員の4割を超えている。
〔事例1〕 山口組傘下組織組長(41)らは、6年12月、都内において、会社社長を拉(ら)致して車内に監禁した上、けん銃やナイフを突きつけて、「この野郎、殺すぞ。3億円出せ」などと言って脅迫し、指定した銀行口座に6,600万円を振り込ませた後、同人が所持していた現金100万円を強取した上、ナイフで顔面を切りつけ、傷害を負わせた。3月検挙(和歌山、警視庁)
〔事例2〕 山口組傘下組織組員(32)は、8月、京都市内の路上において、同市内で発生したけん銃発砲殺人未遂事件を受け、会津小鉄傘下組織事務所の警戒勤務に従事していた警察官を同組組員と誤信し、けん銃を数発発砲して殺害した。8月検挙(京都)
イ 暴力団犯罪の傾向
暴力団勢力の検挙人員を刑法犯、特別法犯別にみると、6年に比べ、刑法犯で1,050人(5.3%)の減少、特別法犯で625人(4.6%)の増加となっている。また、罪種別では、覚せい剤取締法違反が7,375人(構成比22.3%)で最も多く、次いで傷害4,606人(同14.0%)、恐喝2,766人(同8.4%)、賭博2,681人(同8.1%)の順となっている。
なお、暴力団構成員の検挙人員では、刑法犯で1,086人(12.9%)、特別法犯で137人(3.0%)それぞれ減少している。
(1) 指定状況
ア 再度の指定の状況
平成4年3月1日に暴力団対策法が施行されて以来、25団体を指定暴力団として指定したが、これらのうち、7年は、五代目山口組(兵庫)、稲川会(東京)及び住吉会(東京)(いずれも6月16日。ただし、効力
表4-4 指定暴力団の指定の状況(平成8年3月4日現在)
発生日は同月23日)を皮切りに、15の団体を再度指定した(表4-4)。
なお、指定暴力団石川一家(佐賀)が指定暴力団五代目山口組の傘下組織になり、10月16日に指定を取り消したので、指定暴力団は、7年末現在、24団体である。
イ 指定をめぐる争訟の状況
指定暴力団の指定をめぐっては、暴力団対策法施行後、五代目山口組、四代目会津小鉄、二代目工藤連合草野一家及び沖縄旭琉会から、その取消しを求める行政事件訴訟がそれぞれ提起されていたが、二代目工藤連合草野一家、沖縄旭琉会、四代目会津小鉄を原告とする各訴訟について、いずれも原告の請求を棄却する判決が下され、二代目工藤連合草野一家及び沖縄旭琉会については控訴しなかったため判決が確定した。これらの判決では、暴力団対策法の合憲性が確認されたほか、指定手続の適法性、各団体の指定要件該当性が認められた。また、五代目山口組については、同組が訴えを取り下げたことにより、2月16日、訴訟が終結した。
なお、四代目会津小鉄は、10月9日に控訴しており、また、再度の指定に対しても11月30日にその取消しを求める訴訟を提起している。
(2) 中止命令等の発出状況
平成7年は、1,321件の中止命令を発出しており(表4-5)、暴力団対策法の施行以降発出した中止命令の総件数は3,229件に上っている。
7年の中止命令を形態別にみると、資金獲得活動である暴力的要求行為(9条)に対するものが814件(61.6%)、加入強要及び脱退妨害(16条)に対するものが437件(33.1%)である。また、暴力的要求行為のうち、伝統的な資金獲得活動であるみかじめ料、用心棒料等要求行為に対するものは376件(28.5%)となっている。
団体別にみると、五代目山口組に対するものが536件(40.6%)、次いで稲川会237件(17.9%)、住吉会189件(14.3%)の順であり、これ
表4-5 暴力団対策法に基づく中止命令及び再発防止命令件数(平成5~7年)
ら3団体に対する中止命令件数が、全体の72.8%を占めている。
なお、7年中は、33件の再発防止命令を発出している。
〔事例1〕 極東桜井總家連合会傘下組織組員(45)は、集団暴行を受け傷害を負わされた少女の母親から依頼を受け、報酬を得る約束をして、少女の損害賠償についての示談交渉に不当に介入し、治療費を要求した。9月中止命令(静岡)
〔事例2〕 山口組傘下組織組員(52)は、小切手及び約束手形の入った鞄(かばん)を拾って警察に届けた男性に対し、拾得者への報労金の支払を拒否し、支払債務の免除を不当に要求した。10月中止命令(大阪)
中止命令等を発出した際に、暴力的要求行為の相手方から被害回復交渉のための援助を受けたいという申出を受けた場合には、暴力団対策法の規定に基づき、都道府県公安委員会が、助言、交渉場所の提供、違反行為者への連絡等の援助活動を行っており、暴力的要求行為の相手方の被害の回復が図られている。7年中の援助の措置の件数は、102件に上っている。
(3) 暴力団員の離脱促進、社会復帰対策の状況
警察及び都道府県暴力追放運動推進センター(以下「都道府県センター」という。)が相談活動等を通じて離脱意思を有することを認知し、又は離脱することを説得し、かつ、その者に対する援護の措置等を行うことにより暴力団から離脱させた暴力団員は、平成7年中は約550人であり、暴力団対策法の施行後約2,700人に上っている。また、関係行政機関や民間団体と連携を図り全国に設立された社会復帰対策協議会を通じて就業に成功した元暴力団員は約350人である。さらに、社会復帰対策を効果的に推進するため、暴力団から離脱し、就業した者について、社会復帰アドバイザーが、本人、その家族、雇用事業者等を訪問するなど、アフターケアの充実にも努めているところである。
〔事例〕 暴力団からの離脱を希望する者が組長に脱退を申し入れたところ、他の組員から妨害されたため、当該妨害を行った組員に対して中止命令を発出するとともに、組長に対して警告を行った結果、組からの離脱に成功し、社会復帰対策協議会を通じて就業して社会復帰を果たした(広島)。
(1) 暴力追放運動推進センターを中心とした暴力団排除活動
都道府県センターは、暴力団排除活動の中核として、暴力団員による不当な行為に関する相談事業をはじめ、少年を暴力団から守る活動、民間の暴力団排除活動に対する援助、暴力団員による不当な行為の被害者に対する見舞金の支給、民事訴訟の支援等の事業を行い、警察その他の関係機関、団体との連携の下に暴力団排除活動を活発に展開している。
平成7年中に警察及び都道府県センターに寄せられた相談を相談種別にみると、表4-6のとおりである。
相談の種類をみると、「暴力団対策法第9条各号に関する相談」が9,344件(29.9%)と最も多く、なかでも「因縁をつけての金品等要求行為」、「不当債務免除要求行為」、「不当贈与要求行為」等、市民生活に不当に介入する形態での資金獲得活動に関する相談が前年に引き続き多くなっている。「離脱・加入強要に関する相談」は1,992件(6.4%)に上っている。
また、暴力団対策法に基づき、警察及び都道府県センタ-は、暴力団員による不当要求の被害を受けやすい金融・保険業、建設・不動産業、ぱちんこ営業等を中心に、各事業所の不当要求防止責任者に対する講習(以下「責任者講習」という。)を実施しており、6年4月から7年3
表4-6 相談種別暴力団関係相談件数(平成7年)
月までに約5万3,000人が受講した。この責任者講習においては、教本、視聴覚教材等が用いられているほか、暴力団員への応対方法について模擬訓練形式の実習も行われている。
(2) 暴力団等の公共事業からの排除
国や地方公共団体等の発注する公共事業の請負業者から暴力団、暴力団利用者等の不良業者が排除されるなど、公共団体における暴力団排除活動が積極的に推進されている。
警察としても、暴力団の資金源を遮断するため、暴力団犯罪の検挙にとどまらず、捜査の結果判明した事実を基に、税務当局に対する課税通報をはじめ、関係機関と連携して、暴力団、暴力団利用者を公共事業から排除するなど積極的な暴力団排除活動を推進している。
〔事例〕 山口組直系組長を雇用している旨の虚偽の申請を行い、社会保険事務所から健康保険被保険者証の交付を受けていた事実により詐欺事件で検挙された建設業者について、関係機関に排除要請を行ったところ、11月、同業者は公共工事から排除された(大阪)。
(3) 暴力団員を相手取った民事訴訟の動向
全国各地で、暴力団事務所の明渡しや使用差止めの請求訴訟、暴力団員の違法、不当な行為による被害に係る損害賠償請求訴訟等、暴力団員を相手方とした民事訴訟が提起されている。これは、国民が民事訴訟という法的手段により、暴力団の被害から自らの権利や生活を守り、あるいは被害の回復を図ろうとする活動として注目される。警察は、関係者に対する危害防止の観点から保護対策を徹底するとともに、都道府県センターにおいても、訴訟費用の貸付け等の支援を積極的に行っている。
平成7年中は、対立抗争の巻き添えとなり射殺された被害者の遺族が、実行行為者のみならず、その者の所属する暴力団の組長に対し、民法715条による使用者責任があるとして損害賠償を請求する訴訟が提起された(大阪、7月)ほか、4年に提起された同種の訴訟が和解により終結(兵庫、5月)するなど、暴力団組長の責任を追及する民事訴訟に新たな展開がみられた。
〔事例1〕 昭和60年に対立抗争の巻き添えで射殺された被害者の遺族が、実行犯の所属する暴力団の組長を相手取り、民法719条(共同不法行為責任)に基づき提起した損害賠償請求訴訟において、7年5月、組長の謝罪と損害金4,000万円の支払を内容とする和解が成立した(兵庫)。
〔事例2〕 賃貸住宅を暴力団事務所として使用していた組長に対して、明渡しを請求するため、賃貸人(所有者)は、7年9月に仮処分の申立てを行い、占有移転及び占有名義変更の禁止、物件の執行官への引渡しを命ずる仮処分決定を得、さらに、12月、原告側全面勝訴の本案判決を得た結果、暴力団事務所は撤去された(大阪)。