第1節 地域の安全を守る諸活動

1 地域の「生活安全センター」交番、駐在所

(1) 地域住民に身近な交番、駐在所
 交番、駐在所(以下「交番等」という。)は、地域警察活動の拠点として各地に所在し、地域住民のための「生活安全センター」としての役割を担っている。
 交番は平成7年4月現在、事件、事故等が比較的多い都市部を中心に全国に約6,500箇所設置されている。原則として1当務3人以上の交替制勤務の警察官によって運用するものとされており、一定の地域を受持ち区域(所管区)とし、その地域の安全について第一次的な責任を負っている。
 また、駐在所は7年4月現在、主として町村部を中心に全国で約8,400箇所設置されており、警察官が、勤務場所と同一の施設内に居住しながら、地域の治安の第一次的な責任者として常時警戒に当たり、事件、事故、住民の要望等に対応している。
(2) 地域の「生活安全センター」としての諸活動
ア 身近な相談の機会、巡回連絡
 交番等の地域警察官は、受持ち区域の家庭、事業所等を訪問し、防犯や事故防止等についての指導連絡、住民の困りごと、要望等の聴取に当たる巡回連絡を行っている。
 巡回連絡の際には、災害や事故の発生時における緊急連絡や事故防止の指導連絡等に役立てるため、非常の場合の連絡先等の巡回連絡カードへの記入をお願いしているほか、地域住民から困りごと、要望等を直接聴取している。阪神・淡路大震災においては、この巡回連絡カードが、行方不明者等の救助活動や所在確認に役立った。

イ パトロール等による身近な犯罪、事故への対応
 交番等の地域警察官は、無線機を携帯して常に警察署等と連絡を取りながら、不審者に対する職務質問を行い、危険箇所等を見回り、戸締まりの不十分な家庭や無施錠の車両等に対して防犯上の注意を促すなど、きめの細かなパトロールを行っている。
 また、全国の警察本部や警察署に配置された約2,700台のパトカー及び交番等に配置された約3,100台のミニパトカーは、管内のパトロールや警戒活動を行うとともに、事件、事故の発生時には初動措置を迅速に行うなど、「動く交番」として活躍している。
 こうした活動の結果、平成7年中の重要犯罪検挙人員6,969人のうち2,619人(37.6%)が、地域警察官の検挙によるものであった(表2-1)。
ウ 遺失物の取扱いと被害品の回復
 交番等の地域警察官は、遺失物を早期に発見し、これを速やかに返還するための遺失、拾得届の受理業務を行っている。
 7年中に警察が取り扱った遺失届は約280万件(現金約470億円、物品

表2-1 地域警察官の職務質問等による重要犯罪事件被疑者検挙人員(平成7年)

約634万点)であり、拾得届は約385万件(現金約154億円、物品約807万点)であった。拾得届のあった金品のうち、現金については72.4%、物品については31.6%がそれぞれ遺失者に返還されている。最近5年間における遺失物、拾得物の取扱い状況は図2-1のとおりである。

図2-1 遺失物、拾得物の取扱状況(平成3~7年)

エ 地域に身近な安全情報を提供する活動
 全国の96.6%に当たる約1万4,700箇所の交番等では、それぞれ独自にミニ広報紙を作成している。これらの広報紙は、所管区内の事件、事故等の発生状況とその防止方策、住民の声等身近な話題を伝える「交番新聞」として広く地域住民に親しまれている。
 また、交番等では、地域住民の利便等に直接かかわる地域安全情報を迅速、的確に提供するため、地域住民との間にファックス・ネットワークを構築するとともに、事件、事故の発生状況を迅速に掲示、回覧する「交番速報」、CATV等の各種広報媒体の効果的な活用を図っている。

〔事例〕 青森県青森警察署では、管内において作業小屋荒し事件が連続的に発生したため、パトロール活動を強化するとともに、事件の発生状況、被疑者の特徴等を記載した交番速報を作成し、住民に注意を呼び掛けた。その後、交番速報を見ていた住民の協力により、被疑者を検挙した。
(3) 「生活安全センター」としての交番等の機能の向上
ア 交番所長制度と交番等のブロック運用
 交番には、日勤制の勤務を行い、交番等の業務全体を把握し、統括する交番所長を置くものとされている。また、地域警察の行うべき業務が質量の両面で著しく増大し、困難化する中で、地域の特性に沿った弾力的な警察活動を推進し、地域における警戒体制を一層充実させるため、近接した交番等を組み合わせてブロック単位で運用する制度を導入し、急訴事件への対応や夜間の合同パトロール等に当たっている。
イ 交番相談員の活躍
 地域住民の多様な要望にこたえるため、警察では、比較的来訪者の多い都市部の主要な交番に交番相談員を配置し、困りごと相談等の各種相

談への対応、事件、事故の取次ぎや被害者に対する助言指導等に当たらせており、交番の警察官がパトロール等の所外活動に従事している間においても、交番等に来所した住民に適切な行政サービスを提供するよう努めている。交番相談員は、経験豊富で警察業務に精通している警察官OB等であり、全国統一の標章(注)を身につけて勤務している。
(注) 地域住民が手をつなぎ、桜の花を形づくる姿を表現したもので、花の図柄の下に「交番相談員」と明記されている。
ウ 地域に密着した「交番・駐在所連絡協議会」
 地域ぐるみで犯罪や事故、災害のない明るい街づくりを進めるために、 交番、駐在所を単位として、各界、各層の住民により構成された「交番・駐在所連絡協議会」において、地域の問題や警察に対する要望等を聴き、住民と相互に検討、協議することにより、地域に密着した警察活動ができるように努めている。平成7年末現在、協議会は全国で1万342箇所設置されている。

エ 交番等の施設、設備の充実強化
 警察では、地域住民が気軽に立ち寄り、警察への相談や防犯についての会合等を行うためのコミュニティ・ルームを交番等に設置することを推進している。
 また、管轄面積の広い駐在所等に機動力を付与するためのミニパトカーの配備等を推進するなど、交番等の施設、設備の充実強化に努めている。
(4) 国際的に注目を集める交番等
 交番等を中心とした地域警察活動は、我が国の良好な治安を支える大きな要素として広く海外からも関心が寄せられており、なかには交番の制度を新たに導入した国もある。このため、警察庁では、諸外国からの視察団等を受け入れ、我が国の地域警察の制度、活動状況等を紹介し、地域警察関係者の国際的な交流に努めている。平成7年には、14箇国からの視察団を受け入れた。
 また、警察庁では、アジア、アフリカの国々において地域警察等の活動に携わる警察幹部を対象とした「アジア・アフリカ地区地域警察セミナー」を開催している。このセミナーでは、我が国の交番等の制度や最新の科学技術を活用した通信指令システム等を体系的に紹介し、我が国の地域警察活動の中で培われた情報、ノウハウを参加各国に提供すると

ともに、参加各国の警察事情について相互に認識を深め、各国の地域警察関係者の交流を広げている。7年には、ASEAN諸国、アフリカ地域をはじめとする10箇国が参加した。

2 ボランティアとともにある地域安全活動

(1) 犯罪等のない地域社会を目指して
ア 地域住民に身近な犯罪の防止活動
(ア) 自動車盗、オートバイ盗及び自転車盗の防止対策
 自動車盗、オートバイ盗及び自転車盗の認知件数は、平成7年においては全刑法犯の認知件数の37.3%を占めており、地域住民が最も被害に遭いやすく不安に感じている身近な犯罪の一つである。これらは、初発型非行として少年によって単純な動機で安易に行われることも多い。
 警察では、自動車盗の防止対策として、自動車のユーザーに対しては「キー抜取り、ドアロック」の励行等についての広報啓発活動を行うとともに、関係業界等に対しては盗難防止のための機器の開発及び改良を要請している。また、駐車場の管理者等に対しては不審者等発見時における警察への迅速な通報等の呼び掛けを実施している。
 一方、オートバイ盗及び自転車盗の防止対策としては、(社)日本防犯設備協会と協力してハンドルロックの強化等の検討を行うとともに、強固なワイヤー錠等の開発及び普及を促している。さらに、防犯カメラ等の防犯設備が完備された駐輪場の整備拡大について関係機関への要請を行う等の諸対策を推進している。
 6年6月、自転車の安全利用の促進及び自転車駐車場の整備に関する法律が改正され、自転車防犯登録が義務化された。これらの諸施策が推進される中、自転車盗認知件数は、4年度をピークとして減少傾向をたどっている。
(イ) ひったくり、痴漢等の防止対策
 近年、ひったくり等の道路上における犯罪が増加傾向にあることから、警察では、その防止対策として、ひったくり防止ネット、携帯用防犯ブザー等の防犯器具の普及や携行要領の指導に努めるとともに、自治体への防犯灯の設置要請等を行っている。
 また、痴漢等の性犯罪についても、依然として後を絶たないことから、 その防止対策として、夜道、公園等の危険箇所の重点的なパトロール、防犯懇談会等における児童、保護者、教育関係者等に対する防犯指導等を行うほか、女子寮等の管理者に対する防犯設備の整備と管理体制の強化を要請している。また、婦人警察官を中心とした痴漢防止に関する検討会を開催し、(財)全国防犯協会連合会の協力を得て作成した「痴漢防止ビデオ」を関係各方面に推奨している。
(ウ) 幼児等を対象とする誘拐事件の防止対策
 幼児等を対象とする誘拐事件及び下校途中の児童等に声を掛ける事案が、依然として後を絶たない状況にあることから、警察では、その防止

対策としては、教育機関、PTA、家庭等に対し、防犯研修会等を通じて防犯指導を推進するとともに、防犯キャラバン車等を利用して、幼稚園児や児童向けの劇や紙芝居を取り入れた広報活動を行っている。
イ 金融機関等の防犯対策
(ア) 金融機関を対象とする強盗に係る防犯対策
 7年における金融機関対象強盗事件の認知件数は124件で、前年に比 べ29件減少したが、依然として高水準で推移している。この種の事件は、社会的な反響が大きく、模倣され続発するおそれもあることから、警察では、金融機関との連絡会議や防犯訓練等を実施しているほか、防犯設備、管理体制の充実を促進するため「金融機関の防犯基準」を作成し、(財)日本防災通信協会等と協力して、同基準に基づいた防犯指導を行っている。
(イ) 深夜スーパーマーケット等を対象とする強盗に係る防犯対策
 7年における深夜スーパーマーケット対象強盗事件の認知件数は、115件で前年に比べ78件減少したが、4年連続して100件を超えている。地域的には、大都市圏を中心に発生しているものの、地方への波及もみられる。警察では、県単位、警察署単位の職域防犯組織の結成を促進し、業界全体の防犯意識を高めるとともに、各店舗の構造、営業時間、勤務体制、防犯設備等を点検するなどの防犯指導を行っている。また、店員等に対しても、事件発生時における的確な対応要領について、強盗模擬訓練を実施するなどして、指導を行っている。
ウ 安全な街づくりのための環境設計による防犯対策
 防犯対策の一つとして、犯罪が発生しやすい建物、道路、公園、街区構成等のデザイン、構造等を犯罪が行われにくいものに設計、改変するという手法がある。警察では、犯罪のない安全な街づくりを目指して、(財)都市防犯研究センター等の研究機関と協力してこうした環境設計に関する調査研究を進めており、地域開発等に関し防犯的な視点からの提言を行っている。
(2) 地域住民による地域安全活動
ア 防犯協会等民間防犯組織の活動
 地域安全活動は、生活に危険を及ぼす犯罪、事故及び災害による被害の未然防止、拡大防止、回復等を行い、安全で住みよい地域社会を実現するための総合的な活動であり、地域住民、警察、自治体がそれぞれの立場で相互に連携しながら推進していくものである。
 防犯協会は、地域住民による地域安全活動の中心的な担い手として、市民生活の安全に関する情報(地域安全情報)を「地域安全ニュース」等として提供するとともに、地域の実情に応じた諸活動を行っている。
 防犯連絡所は、地域住民による地域安全活動の拠点として、平成7年末現在、全国で47万5,725箇所(約93世帯に1箇所)設置され、防犯座談会の開催、地域住民の要望の取りまとめ、防犯協会が作成した資料の配付等の活動を行っている。
イ 防犯協会を中心とした地域住民等による多様な活動
 近年、防犯協会を中心として、地域住民や企業等のボランティアにより、それぞれの地域特性をいかした自主的な地域安全活動が展開されており、警察では、ボランティア活動に対する昨今の気運の高まりを踏まえて、ボランティアがより活発かつ広範に活動できる環境づくりを推進している。
ウ 職域防犯団体の活動
 犯罪の被害を受けやすい業種、犯罪に利用されやすい業種等を中心として、組織的な防犯対策を講ずるための職域防犯団体が結成されている。7年末におけるこれら職域防犯団体の結成状況は、表2-2のとおりで

表2-2 職域防犯団体の結成状況(平成7年12月)

ある。
〔事例〕 ファミリーレストランにおけるけん銃使用強盗致死事件の直後に、「ファミリーレストラン、ファーストフーズ防犯協力店」を組織化し、再発防止策として、防犯設備の充実強化を実施するともに、防犯対策マニュアルの作成等による自主防犯体制の徹底を図っている(千葉)。
エ 全国地域安全運動の展開
 (財)全国防犯協会連合会及び各都道府県防犯協会を中心として、毎年、全国防犯運動が実施されてきたところであるが、7年においては、ボランティア活動に対する意識の高まり等を踏まえ、また、運動の対象を犯罪だけにとどまらず、事故及び災害にまで拡大するべく、全国防犯運動を更に発展させて全国地域安全運動と名称を改め、10月11日から20日までの10日間、地域安全に関する意識啓発を目的として実施された。
(3) 地域住民の活動に対する警察の支援活動
 警察では、地域住民に身近な犯罪や事故について、現場臨場等により把握した発生状況や被害実態の分析結果等を地域安全情報として、地域住民や防犯協会等に積極的に提供している。
 また、地域住民による地域安全活動を活性化させるとともに、警察活動との有機的な連携を図るため、地域住民のパトロール活動への同行等の協同活動を積極的に推進することはもとより、地域住民が行う地域安全活動の内容、方法について防犯等の専門的立場から助言を行う「防犯活動アドバイザー」を平成8年5月現在、全国25都府県の警察本部、警察署に計117人配置している。

3 思いやりのある優しい地域社会を目指して

(1) 家出人、行方不明者等の発見・保護活動
 警察では、酔っ払い、迷子等応急、の救護を要する者についての保護活動を行っている。
 平成7年中の保護取扱人員は、18万692人であり、そのうち交番等の地域警察官による保護は13万8,781人で、保護総取扱人員の76.8%を占めている。最近5年間の保護取扱状況は、表2-3のとおりである。
 また、7年中の家出人捜索願の受理件数は8万30件(前年比2,257件(2.7%)減)である。最近5年間の家出人捜索願の受理件数の推移は、表2-4のとおりとなっている。このうち、犯罪に巻き込まれたおそれや、自殺するおそれがある家出人については、これを特異家出人として取り扱うなど特に迅速な発見、保護に努めている。7年の件数は、全捜索願受理件数の18.6%を占めている。

表2-3 保護取扱状況(平成3~7年)

表2-4 家出人捜索願の受理件数の推移(平成3~7年)

 7年の家出人の発見数(捜索願の届出がない家出人を発見した場合を含む。)は7万5,408人(前年比1,621人(2.1%)減)である。家出人の発見の端緒別状況は、表2-5のとおりで、自ら帰宅した家出人を除くと、地域警察官の職務質問等により発見されるものが12.1%で最も多い。

表2-5 家出人の発見の端緒別状況(平成7年)

(2) 高齢者を支援する活動
 警察では、犯罪や事故からの高齢者の保護及び地域安全活動への取組みを通じた高齢者の社会参加を2本柱とする「長寿社会総合対策要綱」により、長寿社会対策を推進している。
ア 高齢者に対する保護活動
 警察では、巡回連絡等を通じて高齢者宅を訪問し、その実態を把握するとともに、防犯懇談会等を積極的に推進している。また、はいかい高齢者の増加が問題となっていることから、自治体等と連携した「はいかい老人SOSネットワーク」を構築するなど、その早期発見、保護のための取組みを推進している。
〔事例〕 北海道釧路警察署においては、障害・虚弱高齢者がはいかい行動によって一時的に行方不明となった場合、釧路警察署を中心に、関係機関のほか、町内会、消防団、消防署、タクシー会社、地元FM放送局等が協力して早期に発見し、保護した高齢者を適切にアフターケアをする「はいかい老人SOSネットワーク」を構築しており、これによって、発足(平成6年4月)から7年末までに69名の高齢者を保護している。
イ 高齢者の社会参加活動
 警察では、高齢者が安心して生きがいをもって生活できるように、地域安全活動への取組みを通じた高齢者の社会参加を支援し、地域の連帯感や相互扶助機能の強化を図っている。
〔事例〕 長寿社会対策推進委員会会員(高齢者のボランティア)が、JR駅前の無料貸出自転車コーナーの清掃や自転車整備等の活動を実施している(東京)。
ウ 長寿社会対策パイロット地区活動
 警察では、長寿社会対策の効果的な推進を図るため、昭和62年度から、高齢化が進んでいる90地区の地域を「長寿社会対策パイロット地区」に指定している。これらの地区においては、関係機関、団体等と連携して、高齢者を対象とした防犯座談会や防犯教室を開催し、犯罪や事故の防止について啓発を行うとともに、希望者を募り、地域安全活動への参加を促進している。
(3) 障害者を支援する活動
 障害者は、犯罪の被害や事故に遭う危険性が高く、不安感も強い。警察では、聴覚障害者の利便と気持ちに配意した警察活動を図ることを目的として、手話ができる警察官等を配置した「手話交番」を16都府県63交番等で開設している。手話ができる警察官等は、(財)全日本ろうあ連盟の作成した「手話バッジ」を制服に着けて勤務している。
 また、電話機による意思の伝達が困難な障害者のため、平成7年末現在、45都道府県において、緊急通報をファクシミリにより受け付ける「FAX110番」を設置し、その周知に努めている。
 さらに、警察では、防犯協会、障害者団体等の協力を得て懇談会を開催するなどして、障害者からの要望を把握するとともに、生活の安全に関する情報の提供に努めている。視覚障害者に対しては、防犯協会、障害者団体等との連携により発行される、点字や録音テープによる「地域安全ニュース」等によ情報提供を行っている。
 また、防犯協会、障害者団体等や自治体、企業等との連携により、障害者の生活の安全を確保するための様々な地域安全活動が行われている。
〔事例〕 視覚障害者が安全に歩行できるように、市、JR、



バス会社、高校生等の協力を得て、駅周辺の放置自転車を撤去し、バス利用者に点字ブロック上に並ばないよう呼び掛けるなどの「点字ブロッククリアー運動」を実施した(栃木)。
(4) 来日外国人を支援する活動
 外国人は、生活習慣等の違いから、地域住民とのコミュニケーションが希薄になりやすく、地域の安全に関する情報を得にくい立場に置かれている。
 警察では、来日外国人が犯罪や事故の被害に遭うことを防止するため、来日外国人向けの防犯教室の開催、外国語で書かれた防犯パンフレットの配布等により、生活の安全に関する指導を行っているほか、来日外国人のための相談窓口を設け、生活上の不安の解消に努めている。
 また、各地で、来日外国人を雇用したり、研修生として受け入れている企業等が結成している連絡協議会と連携するなどして、外国人従業員、研修生に対して、犯罪、事故の被害に遭わないための防犯指導を実施している。
〔事例〕 英語、韓国語、中国語の「外国人防犯ハンドブック」を配布したほか、「外国人防犯指導員連絡協議会」において、防犯指導員、警察幹部が、外国人パネラーとの意見交換を行った(愛媛)。
(5) 住民の立場に立った相談業務の推進
 警察では、困りごと相談、少年相談、消費者被害相談覚せい剤相談、民事介入暴力相談、交通相談等の各種相談業務を推進し、住民の様々な相談に対して必要な助言等を行うとともに、警察だけでは対応できないものについては、他の機関を紹介するなどの措置を講じている。
ア 警察総合相談
 相談者の利便を図るため、平成2年から相談窓口を一本化した警察総合相談室を警察本部に設置している。また、電話による相談についても、 全国統一番号の相談専用電話「#(シャープ)9110番」を設置し、警察総合相談室につながるようにしている。
イ 困りごと相談
 平成7年における困りごと相談の受理件数は21万1,217件で、6年に比べ4,881件(2.3%)減少した。7年に受理した困りごと相談の内容は表2-6のとおりで、6年における困りごと相談の処理状況は、表2-7のとおりである。

表2-6 困りごと相談の内容(平成7年)

表2-7 困りごと相談の処理状況(平成7年)

4 事件、事故に即応する警察

(1) 市民に定着した110番
ア 110番の現状
 平成7年に全国の警察で受理した110番の件数は約570万件で、6年に比べ約45万件(8.6%)増加した。これは、5.5秒に1回、国民22人に1人の割合で利用されたことになる。 110番の受理件数を内容別にみると、図2-2のとおりで、交通事故、交通違反の通報が約198万件(34.7%)と最も多く、刑法犯被害の届出は、約36万件(6.4%)となっている。

図2-2 110番の内容別受理件数(平成7年)

表2-8 110番受理件数の推移(昭和61~平成7年)

 なお、過去10年間の110番の受理件数の推移は、表2-8のとおりである。
 警察では、毎年1月10日を「110番の日」と定め、市民に対して110番の一層適切かつ積極的な利用を呼び掛けている。
イ 通信指令システムの概要
 110番通報その他事件、事故等の発生時における緊急通報を迅速かつ集中的に処理するため、警察では、都道府県警察ごとに通信指令室を設けている。通信指令室は110番通報をはじめとする各種情報を集中的に処理している。
 通信指令室では110番通報を受理すると、直ちにパトカーや交番等の警察官を現場に急行させるとともに、必要に応じて緊急配備の発令、他

の都道府県警察本部への通報等を行い、警察官を迅速かつ組織的に動員することにより、人命の救助、犯人の早期検挙等に努めている。
ウ 緊急配備
 重要事件の発生に際し、犯人の迅速な検挙と事後の捜査資料を得るため、交番等の地域警察官を中心として、必要な警戒員を臨時かつ集中的に検問、検索、張り込み等に配置することを緊急配備と呼んでいる。7年における緊急配備(広域緊急配備を含む。)の実施件数は、6,155件で、検挙率は42%であった。
エ リスポンス・タイム
 7年の110番集中地域(注)におけるリスポンス・タイム(通信指令室が110番通報を受理してから警察官が現場に到着するまでの所要時間をいう。)の平均は5分45秒であった。リスポンス・タイムが短ければ短いほど、現場近くで犯人を検挙する確率が高くなっている(表2-9)。

表2-9 110番集中地域におけるリスポンス・タイムと現場における検挙状況(平成7年)

(注) 110番集中地域とは、110番通報すると自動的に警察本部の通信指令室につながるようなシステムが設けられている地域をいい、それ以外の地域では110番通報すると所轄の警察署につながるようになっている。
 交通事情の悪化、建物や住宅構造の複雑化等様々な要因により、リスポンス・タイムの短縮は年々困難となっている。こうしたことから、警察では110番通報の集中処理及び警察官やパトカー等に対する一元的指令を行う通信指令室に、最新の科学技術を活用した設備を導入することによって、リスポンス・タイムの短縮に努めている。
 都道府県警察では、通信指令室に地図自動現示システム等を導入し、事案発生場所を早急に把握するとともに、コンピュータの導入による各種情報の処理、伝達の迅速化、タクシー会社、警備会社等への円滑、迅速な連絡体制の整備等、高度な機能をもつ通信指令システムの構築に努めている。また、パトカーの活動状況が容易に把握できるカーロケータ.システム等警察の各活動単位を組織的に管理し、有効に活用できるシステムの導入を図っている。
オ 外国人からの110番通報
 国際化の進展に伴い、外国人からの110番通報も増加している。警察では、通信指令室に外国語に通じた者を配置するなどの措置を講じているほか、そのほかにも、通報を通訳センター(第8章2(2)ア(イ)参照)の係員やあらかじめ委託している民間の通訳者にも転送し、三者間通話で会話をするなどの手法も導入している。最近5年間における外国人からの110番通報件数は表2-10のとおりである。

表2-10 外国人からの110番通報件数(平成3~7年)

(2) 水上、鉄道等の安全のための諸活動
ア 水上警察活動
 近年、レジャー人口の増加とレジャースポーツの多様化が水上(海上及び内水面をいう。)にも広がり、水上オートバイ、モーターボート、スクーバダイビング等の事故が多発している。また、海上からの覚せい剤、大麻等の薬物やけん銃の密輸、密入国事犯等海上犯罪も多発しており、水際対策を強化する必要がある。警察では、水上警察隊、水上警察署、臨港警察署をはじめ、主要な港湾、離島、河川、湖沼等を管轄する133警察署等に警察用船舶230隻を配備し、パトカーや警察用航空機と連携して、パトロール等の警戒、警備活動や各種事件、事故の検挙、取締り等に当たるとともに、訪船等による安全指導を行っている。最近5年間の水上警察活動に伴う犯罪検挙、保護等の推移は、表2-11のとおりである。
 また、海上における広域事案に的確に対応し、水際対策を強化するた

表2-11 水上警察活動に伴う犯罪検挙、保護等の推移(平成3~7年)

め、平成7年9月には、富山湾から新潟県上越市沖にかけての海域において、山形、新潟、富山、石川県警察が、12月には、大阪湾から紀伊水

道にかけての海域において、大阪府、兵庫、和歌山県警察が、それぞれ警察用航空機との連携による警察用船舶の広域訓練を実施するなど、警察用船舶の広域運用の円滑化に努めている。
イ 鉄道警察隊
 鉄道警察隊は、列車内においては、主要な鉄道路線の犯罪発生状況の分析結果に基づき、新幹線や在来線の特急、寝台列車等を重点的に警乗し、盗難、迷惑行為等の予防及び検挙、少年補導、要保護者の保護のほか、乗客に対して犯罪や事故の防止に必要な指導を行っている。また、駅構内においては、パトロール、立番等を通じて、すり、置き引き等の犯罪の予防及び検挙、少年補導、迷子、家出人等の保護等を行っている。
 さらに、踏切事故等の鉄道事故を未然に防止するため、学童通行の多い踏切における交通安全指導や悪質危険な踏切通行車両の取締りを実施しているほか、沿線住民に対する事故防止の指導及び広報、幼稚園児、小学生等を対象とした交通安全教室の開催等を行っている。
 鉄道施設内の治安を維持していくためには、鉄道事業者との連携、協力が不可欠であることから、鉄道警察隊では、鉄道事業者との連絡協議会を設置し、定期的に会議を開催するなどして、事件、事故発生時における通報の迅速化や必要な措置等について連絡を密にするとともに、列車事故を想定した共同訓練を行うなど、鉄道事業者と一体となって諸対策を講じている。

ウ 警察用航空機の活動
 7年末現在、警察用航空機は、各都道府県警察に計70機配備され、機動性、高速性、広視界性という利点を活用し、空からのパトロールを通じた交通情報の収集、災害危険箇所の調査、環境事犯の監視等を行っている。また、事件、事故や災害が発生した場合は、速やかに現場に出動し、通信指令室、パトカー、警察用船舶との連携を図り、事件、事故の状況把握、犯人の捜索、追跡、被災者等の救難救助等、事件、事故に即応した活動を行っている。
 7年中における警察用航空機の出動回数は、2万760回である。また、山岳遭難や水難等の救助活動では、945回出動し、231人を救助している。
〔事例〕 高速隊のパトカーが盗難届の出されている車両を発見、追跡したところ、猛スピードで逃走したため、ヘリコプターにより上空からの追跡及びパトカーの誘導を実施し、運転していた暴力団員(29)を検挙した(茨城県)。

5 犯罪の防止と安全産業等

ア 古物営業及び質屋営業の健全化のための施策
(ア) 古物営業、質屋営業の健全育成
 古物営業法の規定により都道府県公安委員会から許可を受けている古物商及び古物市場主(以下「古物商等」という。)の数の推移は、表2-12のとおりである。また、質屋営業法の規定により都道府県公安委員会から許可を受けている質屋の数の推移は、表2-13のとおりである。
 警察では、全国古物商組合防犯協力会連合会、全国質屋組合防犯協力

表2-12 許可を受けている古物商及び古物市場主の数の推移(平成3~7年)

表2-13 許可を受けている質屋の数の推移(平成3~7年)

会連合会、(財)全国防犯協会連合会等と緊密な連携を保ちつつ、古物営業法及び質屋営業法の施行や関係中小企業団体の指導、監督等を通じて、古物営業及び質屋営業の健全育成に努めている。
(イ) 古物営業法の改正
 近年、自動車や自動二輪車等の乗り物等が被害品となる財産犯罪が少なからず発生しており、盗難金券類を含む盗品等の中古品市場における処分事案も跡を絶たないなど、古物営業の健全な発展を阻害する事案が数多く見られるところであるが、古物営業法は、昭和24年に制定されて以来大きな改正が行われておらず、近年の犯罪情勢や新しい取引実態に必ずしも的確に対応できていない面があった。そこで、
○ 大幅な規制の見直し・合理化
○ 許可の欠格事由や管理者に関する規定等の整備
○ いわゆる金券ショップの規制対象への追加
等をその内容とする古物営業法の一部を改正する法律が平成7年4月19日に公布され、同年10月18日に施行された。
 今回の改正においては、古物営業に対する規制が大幅に緩和されたことから、古物商等の自主的努力による古物営業の適正化が期待されるところである。そこで、不正品の取引の防止等を図るための古物商等の自主的努力を奨励し、健全な古物取引市場の発展を図ることを目的として、民間団体が行う古物営業適正化事業を国家公安委員会が認定することなどをその内容とする古物営業適正化事業認定規定が制定され、これに基づき、(財)全国防犯協会連合会から申請のあった古物営業適正化事業について認定が行われた。そのうち「優良古物商等顕彰事業」について

は、(財)全国防犯協会連合会が、営業所等における業務を適正に実施し、他の古物商等の模範となる古物商等を顕彰し、その旨を表す標章を交付することとされている。
イ 警備業の安全への貢献
(ア) 警備業の現況
 警備業の業務は、一般家庭を含めた様々な施設における施設警備、工事現場等における交通誘導警備、イベント会場等での雑踏警備、現金等の輸送警備、ボディーガード等幅広い分野に及んでいる。特に最近は、ホーム・セキュリティ・システム等、一般家庭や事務所等にセンサーを設置して、犯罪や事故の発生を警戒し、防止する機械警備業が順調な発展を遂げており、地域住民の多様な需要にこたえている。

 また、阪神・淡路大震災において、警備員による交通誘導、警戒活動等が交通渋滞の緩和、犯罪の防止等に有効に機能したことから、警察、自治体、警備業協会において、災害時のための協定づくりを進めている。
 最近5年間の警備業者数、警備員数、機械警備業務対象施設数の推移は表2-14のとおりで、いずれも増加傾向にある。
(イ) 警備業の犯罪検挙への協力
 7年の警備業者又は警備員の届出による刑法犯認知件数は、全刑法犯認知件数の0.6%に当たる9,840件であり、また、7年の民間協力等による主たる被疑者特定の端緒別刑法犯検挙状況は表2-15のとおりで、「警

表2-14 警備業者数、警備員数、機械警備業務対象施設数の推移(平成3~7年)

表2-15 民間協力等による主たる被疑者特定の端緒別刑法犯検挙状況(平成7年)

備業者又は警備員の協力」によるものが、「第三者の協力」によるものを上回っている。
(ウ) 警備業者等に対する指導、監督
 警察では、警備業が民間における防犯システムの一環として重要な役割を果たしていることから、警備業務の実施の適正を確保するため、警備業者に対する指導、監督を行うとともに、警備業協会等を通じた指導を行うことにより、警備業の健全育成を図っている。
(エ) 警備員等に対する検定の実施
 警備員等に対する検定制度は、警備業法に基づき、都道府県公安委員会が試験を行い、合格した者が一定水準以上の知識及び能力を有することを公的に認めるものである。7年末までに検定に合格した者の数は34,012人で、検定に合格した者は、その旨を証する標章(QGマー ク)を用いることができることとされている(図2-3)。

図2-3 QGマーク

ウ 優良な防犯機器の普及、推奨
 侵入盗等に対する自主防犯体制の整備、充実のためには、防犯警報機やホーム・セキュリティ・システム等の防犯機器の普及が重要である。
 警察では、防犯カメラ等の防犯機器の研究、開発を関係業界等に働き掛けるとともに、それらを広く紹介することにより、その性能の向上と普及に努めているほか、(社)日本防犯設備協会等と連携して、その性能に関する自主基準づくりを促進している。さらに、防犯機器の設計、施工及び保守管理を行う者の資質を向上させ、これらの業務の実施の適正化を図るため、(社)日本防犯設備協会が行う防犯設備士制度を3年に認定し、7年末までに2,896人が資格認証試験に合格している。
 また、(財)全国防犯協会連合会では、優良な防犯機器の普及を図るため、優良住宅用開き扉錠の型式認定制度を実施し、優良な住宅用開き扉錠を広く一般に推奨している。
エ 調査業の健全育成
 探偵社、興信所等の調査業については、違法な方法による調査を常習とする業者、暴力団が経営に関与している業者、料金トラブルを多発させる業者等の悪質な業者による不適正な営業活動が跡を絶たない。警察では、悪質な調査業者の取締りに努めるとともに、業者団体に対して営業活動の健全化に向けた自主的な活動を推進するように働き掛けることなどによって、調査業の健全な発展に取り組んでいる。


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