第9章 警察活動の基盤と関連する諸活動

1 警察組織と警察職員

 我が国の警察組織は、警察法において、個人の権利と自由を保護し、公共の安全と秩序を維持するため定められており、都道府県の警察機関と国の警察機関から構成されている。まず、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、公共の安全と秩序の維持に当たることという警察の責務に任ずるため、都道府県を単位として、都道府県公安委員会とその管理の下に警察の事務の執行を担当する都道府県警察が置かれ、これら都道府県警察を国家的、全国的な立場から指導監督し、又は調整する国の警察機関として、国家公安委員会とその管理の下に警察庁が置かれている。
 警察庁及び都道府県警察に勤務する警察職員は、警察官、皇宮護衛官、事務職員、技術職員等で構成され、これらの職員が一体となって警察の職務を行っている。
 警察がその責務を全うしていくためには、現在警察で勤務している職員の高い士気を維持するとともに、今後の警察を担っていく人材を確保する必要がある。そのため、全国の警察を挙げて、職員の待遇改善、勤務環境の整備等に努めているところであり、現在の職員だけでなく、将来警察で勤務する者にとっても、更に魅力のある職場づくりを積極的に推進しているところである。
(1) 定員
 警察職員の定員は、平成7年4月1日現在、総数25万8,624人で、その内訳は、表9-1のとおりである。6年度は、地方警察職員たる警察官の増員は行われず、警察官1人当たりの負担人口は、全国平均で562人となり、5年度に比べて負担が増大した。

表9-1 警察職員の定員(平成7年)

(2) 教育訓練
 警察官には、逮捕、武器使用等の実力行使の権限が与えられており、また、自らの判断と責任で緊急に事案を処理しなければならない場合も多いことから、適正な職務執行のためには、常に良識と高度な実務能力が必要とされる。このため、警察では、警察学校において、新しく採用した警察官に対する採用時教養、各階級昇任者に対する昇任時教養、専門分野に応じた各種の専科教養等の集合研修を実施するとともに、職場指導、各種研修等の職場教養を日常的に実施するなど、あらゆる機会を通じて教育訓練を行い、各階級、各職種において求められる実務能力の向上に努めている。また、柔道、剣道、逮捕術、けん銃操法、体育等の術科訓練を通じて、体力、気力の充実及び職務執行に必要な技能の習得にも努めている。
 警察学校における教養の中で特に重要なものは、採用時教養である。そこでは、新たに採用した警察官に対して、警察官として必要な法律知識や技能を身に付けさせるとともに、部外講師による情操教育を実施するなど豊かな人間性をはぐくむための教育訓練を行っている。また、警察学校における教育効果を高めるためには、教室や生徒寮等の施設の充実をはじめとする教育環境の整備が不可欠である。そのため、学生が快適な居住環境の下で生き生きと学校生活を送れるように、学生のプライバシーに十分配慮した生徒寮の改善、ゆとりのあるカリキュラムや十分な自由時間の設定等の工夫を行っている。
 職場教養としては、警察官の能力開発の基本的な手法として日常的に職場指導を実施するとともに、人材の幅広い育成を図るため、各種研修や講演会の積極的な開催、各種資格取得奨励制度等の拡充に努めているほか、平成6年度から、卓越した専門的技能や知識を有する職員を「警察庁指定広域技能指導官」に指定し、警察職員に対する広域的かつ専門的な技術指導に当たらせている。
 さらに、語学力に優れ、かつ、実務能力の高い職員の育成を図るため、都道府県警察において、英語、アジア系言語等を主とする各種語学教養を推進するとともに、国際的視野を広めるため、全国の青年警察官や国際捜査に従事している警察官を外国の語学学校や警察機関等に派遣し、職務に必要な語学及び警察実務等を研修させている。
 また、警察官に求められる職業倫理の確立と使命感の醸成を図るため、その指針として設けた「警察職員の信条」を中心とする職業倫理教育に力を入れているほか、市民の立場から親切かつ適切に職務を行うため、民間企業への派遣研修、部外講師による接遇マナー講習会、応接指導者研修等を行い、市民応接に対する基本的心構えを学ぶとともに、応接態度や言葉遣い等の向上を図っている。
(3) 勤務
ア 警察職員の勤務
 警察では、その責務を絶えず遂行するため24時間警戒体制を確保している。そこで、地域警察官をはじめ、全警察官の4割以上は、交替制勤務で3日ないし4日に1度の夜間勤務を行っている。交替制勤務者以外でも、警察署に勤務する警察官の多くは1週間に1度程度の割合で夜間勤務に従事している。また、突発事件、事故の捜査等のため、勤務時間外に呼び出されることもある。
 このため、警察官をはじめとする警察職員の勤務条件、給与、諸手当等の待遇について、常に改善を検討しており、これまで、駐在所勤務員の複数化、交番等の勤務環境の改善、階級別定数の見直し、巡査長制度の見直し、完全週休二日制導入に伴う勤務制度の改善等を図ってきたが、今後とも職員の待遇の改善を積極的に推進することとしている。
 勤務時間については、警察庁及び都道府県警察において平成4年中に完全週休二日制が導入された。このため、警察では、その責務を全うしつつ、週40時間勤務制に対応できるように勤務制度や業務処理方法の改善、人員の効率的運用等を推進しているところである。さらに、夏季等における休暇の連続取得の普及や年次休暇の計画的取得の促進を図るなど、職員が休暇を取得しやすい環境づくりも積極的に推進しているところである。
イ 警察官の殉職、受傷
 警察官は、個人の生命、身体及び財産を保護し、公共の安全と秩序の維持に当たるため、自らの身の危険を顧みず職務を執行し、不幸にして職に殉じたり受傷したりする場合がある。6年においては、パトカーで交通違反車両を追跡していた警察官が緊急走行中に対向車両と衝突して死亡する事案や、暴走族の取締りに当たっていた警察官が暴走グループの1台に跳ね飛ばされ死亡する事案等が発生した。
 このように、職に殉じたり、受傷した警察官又はその家族に対しては、公務災害補償制度による公的補償のほか、警察関係厚生団体による子弟に対する奨学金等各種の保護の措置がとられている。
〔事例〕 4月25日午後10時35分ころ、石川県警のA巡査(35)は、パトカーでパトロール中に交通違反車両を発見し、これを緊急走行により追跡した際に対向車と衝突して殉職した。同人の遺族に対しては公務災害として法律に基づく給付金が支給されたほか、同人の果敢な職務執行をたたえるために救慰金が支払われた。
(4) 婦人警察職員
 平成7年4月1日現在、都道府県警察には、婦人警察官約6,500人、交通巡視員約1,300人、少年補導員約700人、一般職員約1万2,700人の女性が勤務しており、それぞれの分野で活躍している。
 6年度からは全国の警察に婦人警察官が配置されており、また、婦人警察職員の働く分野も次第に拡大されている。現在では、交通指導取締り、少年補導、女子の留置、保護、広報等だけでなく、犯罪捜査、鑑識活動、警衛、警護、警備、情報分析等の様々な分野に及んでいる。6年8月には、警視庁及び道府県警察本部を通じて初の女性課長が誕生する(滋賀)など、女性の上級幹部への登用も進められている。また、民間

企業と契約した「ベビーシッター制度」が導入される(警視庁、京都)など、女性が働きやすい職場環境の整備も積極的に進められており、今後は、警察庁を含めた各警察組織において、更に多くの婦人警察職員が幅広い職域で活躍することが期待されている。
(5) 採用への総合的な取組み
 平成6年度に都道府県警察の警察官採用試験を受験した者は約9万7,000人、合格した者は約3,700人(うち大学卒業者は約2,000人)であり、競争率は26.2倍であった。
 警察官としてふさわしい能力と適性を有する人材を確保することは、警察力の基盤強化を図る上で極めて重要な意義を有しており、このため警察ではこれまでも人材の確保に努めてきた。しかし、今後、警察官の採用必要数が増加していくことが見込まれる反面、若年人口は減少していくことなどから、警察官の採用をめぐる情勢についても、厳しさを増すことが予想される。このような情勢を踏まえ、今後とも人材の確保を図るため、勤務環境を改善するとともに、快適な独身寮の整備、拡充等をはじめとする各種施設の整備を図るなど、魅力ある職場づくりのための施策を積極的に推進している。
 また、悪質、巧妙化する知能犯や急増する来日外国人犯罪に対処するため、財務等に関する専門的知識、実務能力を有する者や外国語による折衝能力を有する者等の警察官としての中途採用を推進しており、6年度までに13都道府県で合計17人の財務捜査官、15人の国際捜査官等、3人のコンピューター犯罪捜査官を採用し、効果的に運用している。
〔事例1〕 6年11月、財務捜査官(公認会計士)の会計帳簿等の解析により、農協を舞台とした背任事件を検挙(千葉)
〔事例2〕 6年12月、財務捜査官(公認会計士)の給与源泉徴収票の解析により、貴金属販売会社の脱税事実を国税局に通報(大阪)
(6) 適切な業務運営
 警察運営を国民の期待と信頼にこたえるものとしていくため、すべての警察職員が職責を自覚し、そのもてる能力を十二分に発揮して、職務に精励することが大切である。このため、警察庁及び都道府県警察は、「業務適正化委員会」を設置し、警察各部門における業務運営や服務に関する問題点を抽出して、現場活動の充実、強化等の具体的かつ効果的な業務改善方策等を講じることとしている。

2 予算

 警察予算は、国の予算に計上される警察庁予算と各都道府県の予算に計上される都道府県警察予算とで構成される。警察庁予算には、警察庁、管区警察局等国の機関に必要な経費だけでなく、都道府県警察が使用する警察用車両やヘリコプターの購入費、警察学校等の増改築費、特定の重要犯罪の捜査費等の都道府県警察に要する経費や都道府県警察への補助金が含まれている。
 平成6年度の国の予算編成においては、厳しい財政状況の下においても現在の治安水準を維持するため、広域捜査力の強化、暴力団対策の強化、警察事象の国際化対策の強化、生活安全対策の強化等について重点的に予算措置している。6年度の警察庁当初予算は、総額2,265億2,000万円で、5年度に比べ49億1,000万円(2.1%)の減少であり、国の一般会計予算総額の0.3%を占めている。
 なお、6年度の国の予算においては、阪神・淡路大震災に対処するため補正予算が組まれ、警察庁予算においても、全国からの災害警備出動に係る経費や警察施設・装備資機材・通信機器等の復旧経費として、65億5,100万円の予算措置がなされた。補正後の警察庁予算の内容は、 図9-1のとおりである。
 6年度の都道府県警察予算は、各都道府県において、それぞれの財政事情、犯罪情勢等を勘案しながら作成されているが、その総額は3兆2,121億8,900万円で、5年度に比べ631億5,800万円(2.0%)増加し、都道府県予算総額の6.3%を占めている。その内容は、図9-2のとおりである。

図9-1 警察庁予算(平成6年度第二次補正後)

図9-2 都道府県警察予算(平成6年度最終補正後)

 警察庁予算と都道府県警察予算の合計額(重複する補助金額を控除した額)の国民1人当たりの金額は約2万7,000円となる。

3 装備

(1) 車両、船舶、航空機
ア 車両
 警察用車両には、捜査用車、鑑識車等の刑事警察活動用車両、交通パトカー、白バイ、交通事故処理車等の交通警察活動用車両、警らパトカー、移動交番車等の地域警察活動用車両等があり、現有警察用車両の用途別構成は、図9-3のとおりである。
 平成6年度は、暴力団対策や重要事件捜査等のための刑事警察活動用車両、高速道路用の交通指導取締り用車両、銃器・薬物事犯対策用車両、駐在所用のミニパトカー等の増強整備を図るとともに、既に配備されている警察用車両についても、耐用年数を経過して特に減耗度の著しい車両を重点に更新整備を図った。今後も、警察事象の広域化、悪質化に的確に対応して、国民の負託にこたえていくためには、警察機動力のかなめである警察用車両の整備、充実を一層推進していく必要がある。

図9-3 警察用車両の用途別構成(平成6年度)



イ 船舶
 警察用船舶は、全長3メートル級から23メートル級のものが合計229隻あり、港湾、離島、湖沼等に配備され、多様化する水上レジャーの安全指導、水難救助、覚せい剤等の密輸事犯の取締り等の水上警察活動に活用されている。今後の警察用船舶の整備に当たっては、水上警察事象の広域化、高速化に対応するため、より大型化、高速化、高性能化を図っていく必要がある。

 なお、水上警察活動については、第2章第1節4(2)ア参照。
ウ 航空機
 警察用航空機は、空からのパトロール、犯人の捜索や追跡等の捜査活動、交通指導取締り、救難救助等警察活動全般にわたる幅広い分野で活動している。6年度は、大阪府警察の中型ヘリコプター1機及び京都府警察の小型ヘリコプター1機の老朽化による減耗更新を実施した。現在、警察用ヘリコプターの配備数は、47都道府県警察に合計64機となっている。今後とも、高速性、広視界性に優れた警察用航空機の各都道府県警察における複数配備を推進していく必要がある。

 なお、警察用航空機の活動については、第2章第1節4(2)ウ参照。
(2) 警察装備資機材の開発改善・整備
 警察では、警察活動の基盤となる装備資機材に、最先端科学技術を導入することによって、警察業務の効率化と高度化に努めている。
 平成6年度においては、第一線警察からのニーズが強い銃器対策用資機材、受傷事故防止用資機材、爆発物処理対策用資機材等の開発改善及び整備に努めた。

4 警察活動と情報通信

 警察では、警察活動の円滑な遂行を図るため、各種の情報通信システムの整備を推進している。
(1) 第一線警察活動のささえ
ア 通信システムの高機能化
 警察では、通信指令業務の迅速化、効率化を図るため110通報により認知した犯罪等に関する情報をコンピュータにより伝達、処理する新しい通信指令システムの整備を推進している。
 また、現場への急行指示をより効果的に行うため、自動的にパトカーの現在位置とその活動状況を通信指令室に表示するカーロケータ・システムの導入も図っている。
イ 第一線からの照会への即応
 警察庁では、警察活動を迅速、効率的に行えるよう、都道府県警察から手配された「人(家出人等)」、「車(盗難車両等)」、「物(盗難品等)」に関するデータを大型コンピュータで管理し、全国の第一線警察官からの照会に対して、即時に手配の有無を回答するシステムを運用している。また、パトカーからの照会やパトカーへの緊急配備の指令の迅速化、確実化を図るための「パトカー照会指令システム」も活用している。このシステムにより、パトカーに搭載された端末装置から、警察庁のコンピュータに盗難車両等の照会を直接行うことができるほか、通信指令室からの指令をパトカーの端末装置のディスプレイに表示することもできる。
 さらに、自動車を利用した犯罪に対応し、手配車両を早期に発見するため「自動車ナンバー自動読取システム」や携帯型コンピュータを使用した「車両検索システム」の整備を行い、大きな成果を挙げている。
ウ 第一線警察情報総合活用システム
 警察では、警察活動を効率的に行うため、平成5年10月から、警察電話回線を利用して都道府県警察等のパソコン間で情報交換を行う「第一線警察情報総合活用システム(FIND(Front-Line Information Developing)システム)」の運用を開始した。
(2) 広域化する警察活動への対応
ア WIDE通信システムの整備
 警察では、災害発生時の通信手段の確保への対策とともに、近年の犯罪がますます広域化、スピード化の傾向を強めていることから、複数の都道府県にまたがる広域犯罪に柔軟に対応できるよう、一斉通信機能及び個別通信機能を有し、傍受、妨害に強いデジタル通信方式の「WIDE(Wireless Integrated Digital Equipment)通信システム」を開発、導入している(図9-4参照)。

図9-4 WIDE通信システムのしくみ

 WIDE通信システムは、自営の無線通信回線でネットワークが構成されているため、電気通信事業者の電話網において著しい輻輳(ふくそう)を生じるなど通話が困難になる場合でも、混乱することがなく、必要な通信を確保することができる。万一通話が輻輳した場合でも、緊急通信手段として利用できるように、空いている通信回線がない場合、使用中の回線を切断して、緊急の通信を優先して行うことができる優先接続機能を有している。
 また、関係する都道府県警察の捜査用車等の間に都道府県境を越えた専用の通信系を構成することができる一斉通信機能、捜査用車等から、他の捜査用車、警察電話、一般の加入電話等と通話できる個別通信機能、一般の自動車電話にはない受話器を上げるだけでダイヤルすることなく特定の車載端末等に接続できるホットライン機能等を備えている。
イ 衛星通信の活用
 警察では、地震災害、航空機墜落事件等の発生に伴う警察活動において、時々刻々変化する現場の状況を正確に把握して、現場の警察官への的確な指示、関係機関との円滑な連絡、調整等を行うため、衛星通信を活用している。
 平成6年度末現在、衛星通信地球局の設備を警察庁及び沖縄県警察本部に各1式、近畿管区警察局及び静岡県警察本部に各2式(うち各1式は衛星通信車)整備しており、映像伝送のほか、音声、データ等の情報の伝送にも活用している。

(3) 犯罪捜査の効率化
ア 指紋の照合
 警察庁では、昭和57年10月から「指紋自動識別システム」を導入して指紋の登録を開始し、58年から被疑者の遺留指紋を登録された指紋と照合する業務を、59年10月から被疑者の余罪及び身元の確認を行う業務を開始し、被疑者の割り出しを行うなど犯罪捜査の効率化を図っている。
イ 画像情報検索システム
 警察では、都道府県警察で保管している被疑者写真、犯罪手口原紙等の画像情報を警察庁の光ディスクに登録し、各都道府県警察からオンラインで検索できる「画像情報検索システム」を整備している。このシステムは、犯人の顔つき等の目撃情報と合致した被疑者写真を回答するなどの機能を有しており、犯罪捜査の効率化に貢献している。
ウ 捜査情報交換システムと多角照合システム
 「捜査情報交換システム」は、複数の都道府県にわたり、かつ、同一犯人によると考えられる犯罪について、各都道府県警察が保有する情報を警察庁の大型コンピュータを介して交換するシステムである。
 「多角照合システム」は、捜査情報交換システム等によって集められた情報の関連性を分析することにより、被疑者の絞り込みを支援するシステムである。
エ コンピュータのネットワーク化
 警察庁では、犯罪捜査の効率化を図るため警視庁及び道府県警察本部に設置したコンピュータと警察庁の大型コンピュータを結ぶことにより広範囲なネットワークを構築している。
 都道府県警察では、警察本部のコンピュータ、警察署の端末装置等から成るシステムを構築している。さらに、交番等に端末装置を整備するとともに、警察署の端末装置をコンピュータに置き換えて、システムの機能強化を図っている。
(4) 窓口業務の効率化
ア 運転免許業務
 平成6年末現在、運転免許保有者数は6,700万人を超えている。警察では、迅速な免許証交付、免許証の二重取得の防止等を図るため、運転免許保有者に関するデータを警察庁のコンピュータで管理している。また、交通違反に関するデータも管理しており、免許の取消し、停止等の行政処分の業務の効率化を図っている。
イ 警察署の窓口業務
 市民サ-ビス向上のため、警察署における窓口業務である遺失拾得物受理業務、自転車防犯登録業務等を迅速、的確に処理できるようコンピュータを活用している。
(5) 基盤となる警察通信施設
ア 無線多重回線
 警察自営の無線多重回線は、警察庁と各管区警察局等を結ぶ管区間系無線多重回線及び管区警察局とその管轄区域内の各府県警察本部等を結ぶ管区内系無線多重回線等から構成されている。警察では、災害等による通信の途絶を防止し、通信回線の安全性を向上させるため、無線多重回線の2ルート化を推進している。また、通信回線の品質及び信頼性を向上させ、各種情報通信システムの構築に柔軟に対応できるように、無線多重回線のデジタル化(PCM化)を推進している。
 管区間系無線多重回線は2ルート化を完了したほか、札幌から福岡に至る第1ルートのデジタル化を終え、現在、第2ルートのデジタル化を推進している。管区内系無線多重回線は、現在、2ルート化及びデジタル化を推進しており、警視庁及び道府県警察本部と警察署を結ぶ回線についても、一部デジタル化を進めている。
イ 警察電話
 警察電話は、警察が独自に整備、運用しているもので、伝送路、交換機、電話機等から構成されており、警察本部、警察署はもとより交番、駐在所においても利用されている。警察では、無線多重回線のデジタル化と併せて、データ、画像情報の伝送にも効率的に対応できるデジタル電子交換機の整備を推進し、警察電話の機能強化を行っている。
ウ 警察移動無線
 警察移動無線には、パトカー、白バイ、船舶、ヘリコプター、警察署等の警察官が相互に通信するための車載無線、パトロール中の警察官が相互に又は警察署と通信するための署活系無線、捜査、警備等において、捜査員、機動隊員等が相互に通信するための携帯無線等がある。
 警察では、これら警察無線について、音声だけではなく、データ等の多様な情報の伝達にも効率的に対応でき、傍受、妨害にも強いデジタル通信方式を開発、導入している。現在までに、車載無線、携帯無線のデジタル化はほぼ完了し、引き続き、署活系無線等のデジタル化を推進している。また、署活系無線機及び携帯無線機の小型軽量化を推進している。
エ ファクシミリ
 警察では、警察庁、管区警察局、警視庁及び道府県警察本部等の間に、文書、図面等を個別又は一斉に伝送する文書用ファクシミリ及び指紋、足跡等の写真を伝送する写真用ファクシミリを整備し、警察本部と警察署等の間に文書用ファクシミリを整備している。また、暴力団対策及び薬物事犯対策の一環として、担当部門が個別に情報交換を行えるように、警察本部、警察署、交番等に、警察電話回線等を利用したファクシミリの整備を推進している。
(6) 機動警察通信隊の活動
 機動警察通信隊は、既設の警察通信施設では十分に対応できない場合、状況に応じて、迅速に通信を確保することを目的とした組織である。警察通信職員によって編成されており、警察事案現場における通信活動の中核となっている。
 具体的には、臨時に使用する通信機器の設置、通信運用の指導・調整等の活動を行っている。

〔事例〕 平成6年4月26日に発生した名古屋空港中華航空機墜落事故に際して、愛知県通信部機動警察通信隊は、空港警察署の警備本部や遺体安置所等に臨時の警察電話、ファクシミリ、無線の基地局の設置等を行った。また、映像伝送装置で事故状況及び救助活動状況の映像を警察本部へ伝送するとともに、近畿管区警察局通信部から衛星通信車を愛知県警察本部へ急行させ、警察庁へも映像を伝送した。
(7) 情報処理に関する技術的研究
 警察では、警察活動の効率化を推進すべく、各種の情報処理システムの開発を推進している。平成6年度は、掌紋自動識別システム、コンピュータウイルス対策、警察情報管理システムのダウンサイジング化等に関する調査、研究を実施した。

5 留置業務の管理運営

 平成6年末現在、全国の留置場数は1,270場で、年間延べ約250万人(1日平均約6,800人)の被逮捕者、被勾留者等が留置されている。
 警察では、留置業務については、捜査を担当しない総(警)務部門において担当し、捜査と留置の分離の徹底を図っている。
 留置場施設については、被留置者の人権に配意しつつ、その改善、整備に努めている。例えば、被留置者の防御権の尊重という観点から、接見室の拡張を進めている。また、被留置者のプライバシーを保護し、その居住環境の改善を図るため、留置室を横一列の「くし型」に配置し、その前面にはしゃへい板を設置することとしているほか、留置室内トイレの構造の改善、感染症対策資機材の設置、留置場内の冷暖房化、ラジオ、日刊新聞紙の設置等の施設改善を進めている。さらに、急増する外国人被留置者の処遇の適正を図るため、洋式便器やシャワー装置を設置したり、被留置者の母国語の音声と文字によって留置場における処遇等を示すことができる機器の整備に努めているところである。



 警察庁では、以上のような、留置業務の運用面、施設面での適正さを確保しつつ、被留置者の処遇の全国的斉一を図るため、全国の留置場について計画的に巡回視察を実施している。
 ところで、警察の留置場については、被留置者の処遇の内容、設置の根拠等が法律上は必ずしも明確でないことから、留置場に関する現行の法体系を整備するよう各方面から指摘されてきたところである。そこで、監獄法の改正が行われるのを機会に、法制審議会の答申の趣旨に沿って、被留置者の処遇の内容を定め、警察の留置場に留置される被勾留者等と拘置所に収容される者との処遇の平等を保障するとともに、捜査と留置の分離を法律上の制度として明確にするため、刑事施設法案と一体のものとして留置施設法案を策定した。この法律案は3年4月、第120回国会に上程されたが、5年6月、衆議院の解散に伴い、審査未了となった。

6 警察官の職務に協力援助した者等に対する救済

 市民が社会公共のため現行犯人の逮捕、人命救助等警察官の職務に協力援助して、負傷し、疾病にかかり、障害を負い、又は死亡した場合は、本人やその家族の生活の安定を図るため、その程度に応じて国又は都道府県が救済を行っている。
 平成6年に、警察官の職務に協力援助して死亡し、又は受傷した市民は、死者6人、受傷者31人で、5年に比べ、死者は3人減少し、受傷者は13人増加した。
〔事例〕 子供5人で河原で水遊びをしていた際、そのうちの8歳の子供が、深みに足を取られておぼれ、それを見た協力援助者(10)は、直ちに川に飛び込み救助すべく手を差し伸べて救助を図ったが、力尽きて、水中に沈み、溺(でき)死した。これに対しては、葬祭給付及び遺族給付が支給された(鹿児島)。

7 犯罪被害者等に対する救援

(1) 犯罪被害者等に対する救済
 犯罪被害者等給付金制度は、通り魔殺人や爆弾事件等故意の犯罪行為により不慮の死を遂げた被害者の遺族又は身体に重大な障害を負った被害者に対して、社会の連帯共助の精神に基づき、国が遺族給付金又は障害給付金(以下「給付金」という。)を支給し、その精神的、経済的打撃の緩和を図ろうとして創設されたものであり、昭和56年1月1日から実施されている。
 被害者又は遺族からの給付金の申請に対する都道府県公安委員会の裁定等の状況をみると、制度創設以来14年間に3,140人に対して総額約70億4,200万円の給付金が支給されている。
(2) 各種被害者対策の推進
 警察では、犯罪被害者等のための施策として、悪質商法の被害者に対する相談、暴力的要求行為の相手方に対する援助等を実施しているが、さらに、被害者の視点に立った総合的な施策を推進するため、平成6年10月、警察庁に被害者の問題に関する検討委員会を設置した。また、7年1月からは、警視庁の各警察署において、殺人事件の遺族及び強姦(かん)事件の被害者に対し、(財)犯罪被害者救援基金の援助を受けて東京医科歯科大学の犯罪被害者相談室が作成したパンフレットを配布している。

8 警察活動の科学化のための研究

(1) 科学警察研究所における活動
 科学警察研究所では、科学捜査、少年の非行防止、犯罪の予防、交通事故の防止等に関する研究、実験とその研究成果を応用した鑑定、検査を行っているほか、鑑定技術についての研修を実施している。
ア 平成6年度における主な研究
 6年度の研究は5年度からの継続研究41件、新規研究48件の合計89件であるが、その主なものを挙げると、次のとおりである。
〔研究例1〕 DNA型分析による個人識別法に関する研究


住民と警察を結ぶ「音のかけ橋」警察音楽隊
 警察音楽隊は、皇宮警察と各都道府県警察に48隊が置かれており、隊員は約1,800人で、そのほとんどが隊に婦人警察官や交通巡視員等の女性隊員により編成されたカラーガード隊がある。
 隊員の多くは、警察業務に従事する傍ら、勤務の合間等を利用して訓練を重ね、警察が主催する交通安全運動や防犯運動等の行事に出演しているほか、小、中学校で開催される音楽教室での演奏、福祉施設での慰問演奏、昼休みを利用しての地域住民とのふれあいコンサート等の演奏活動を行い、音楽を通じて住民と警察を結ぶ「音のかけ橋」としての役割を果たしている。


 犯罪事件に関連した個人識別鑑定において、DNA型鑑定が定着するに従い、裁判においてDNA型鑑定の技術面への疑問が提起される場合がある。そこで、MCT118型の電気泳動、型判定等鑑定手法の正確性及び再現性を総合的に検討し、科学的なデータに基づいた理論的説明により、DNA型鑑定の社会的認容性を高めるための研究を行っている。また、DNAが分解され、MCT118型及びHLADQα型の型検出が困難になったような証拠資料からもDNA型を検出できるように、3、4塩基数の繰り返し単位から成り、かつ、繰り返し配列に個人差を示す短鎖DNA型の証拠資料鑑定への応用を目指した研究を行っている。
〔研究例2〕 有毒ガスや揮発性毒物の系統的分析法及び中毒評価に関する研究
 有毒ガスやシンナー、有機溶剤、各種スプレー等による変死事案(火災、工場災害によるものを含む。)中毒事案について、死因又は中毒の原因物質となる有毒ガスや揮発性毒物を迅速に特定することを目的とし、血液等の生体試料からの各種有毒物質の分析法を体系化する研究開発を進めている。また、この研究成果を基に、特定された毒物の定量値及びヘモグロビン等の血液成分の量の変化を把握し、死因や中毒の程度の評価方法を確立し、毒物事案における鑑識捜査のための資料の保存法、検査法及び評価法システムを実用化するための研究に取り組んでいる。
〔研究例3〕 微細証拠物件の体系的鑑定法の確立に関する研究
 微細な証拠物件から体系的にできる限り多くの情報を取り出し、これらのデータを比較・評価することにより高度な鑑定を可能とするための研究を行っている。本研究により新しく開発された技術としては、わずか一本の単繊維による吸光スペクトルの測定及び染料の分析、タイヤ痕(こん)の擦過状付着物からのタイヤ成分の分析、ガラスの精密屈折率の測定、ガラスや弾丸等金属片中の極微量成分の分析、微量土砂中の鉱物の同定等がある。今後、更に微小な領域での構造解析、元素分析等の先端的技術開発を行い、鑑定の高度化を図っていく。
〔研究例4〕 発射弾丸自動検索装置の開発
 事件現場で発見された弾丸が犯罪に使われたと思われる容疑銃器で発射されたものかどうかという鑑定をできる限り早く行うために発射弾丸自動検索システムの開発研究を行っている。その方法の一つとして、弾丸の上に残された発射痕をコンピュータに画像データとして取り込み、そのデータを処理してその資料弾丸の特徴とし、それと同時に事件の内容や弾丸の口径データを同一ファイルに入れ、関連していると思われる銃器や弾丸資料との検索照合できるようなシステムの検討を行っている。
〔研究例5〕 高齢歩行者の交通事故防止に関する研究
 高齢歩行者の事故防止対策に役立てるため、高齢歩行者事故の統計分析及び事例研究を行い、代表的な事故発生パターンや発生要因を明らかにするとともに、高齢者の行動特性や安全意識を探るため、交通指導員等に対して意識調査を行った。
 平成6年に開催された国際会議では、個人識別のための音声の経年変化の研究(7月、79回国際鑑識学会、米国)、殺人事件の類型の時系列的分析、少年による殺人事件の被害者の特徴(8月、第8回国際被害者学シンポジウム、オーストラリア)、微量爆薬の付着量について(9月、第2回微量爆薬検出ワークショップ、英国)、変性した法科学資料からのTH01型判定と日本人における遺伝子頻度(10月、第5回個人識別のための国際シンポジウム、米国)、土壌資料鑑定のための色の検査法及び鉱物検査法(11月、第11回オーストラリア・ニュージーランド法科学会、ニュージーランド)、コンピュータを利用した日本語ワードプロセッサ機種識別システム(11月、オセアニア・アジア地域文書鑑識会議、ニュージーランド)、ビデオ画像改善処理システム(11月、電子映像と法科学会議、英国)等についての発表を行った。
 また、国内学会では、束ねたコードの危険性(3月、電気学会全国大会)、法科学資料からのShort Tandem Repeat部位の多型検出(5月、第78次日本法医学会)、含リンアミノ酸系農薬鑑定法の現状とその問題点(6月、日本法中毒学会第13年会)、銃の発射痕の変化量の測定(7月、第62回日本統計学会)、構造鋼材の塑性ひずみと金属組織の伸びの変形(7月、24回安全工学シンポジウム)、音質の主観評価に基づく音声分類の試み(11月、日本音響学会秋期発表会)、地域警察活動が住民に与える影響(11月、日本犯罪心理学会第32回大会)等についての発表を行った。
イ 鑑定・検査
 科学警察研究所においては、都道府県警察をはじめ、裁判所、検察庁、海上保安庁等から嘱託を受けて、高度な鑑定・検査を行っており、6年中の処理件数は1,971件であった。内訳は、法医関係68件、化学関係75件、文書、偽造通貨503件、銃器関係1,279件、工学関係46件であった。主な鑑定事例としては、「松本市内における中毒事案」、「住友銀行名古屋支店長被害のけん銃使用殺人事件」、「横浜港京浜運河母子殺人死体遺棄事件」、「沖縄県沖大東島上空におけるフィリピン航空機内爆発事件」等のほか、重要、凶悪事件の鑑定・検査を実施した。
ウ 研修、研究発表会
 科学警察研究所では、附属法科学研修所において、都道府県警察の鑑定技術職員を対象とした研修を実施している。その研修課程は、養成科、現任科、専攻科及び研究科に分かれており、研修生246人に対して、法医、化学、工学、文書、ポリグラフ、指紋、写真、足痕(こん)跡に関する教育実習を行った。また、専攻科においては個人識別に有効なDNA型鑑定技術に関する研修を5年度に引き続き行った。そのほか、鑑定技術職員延べ約450人の参加の下に、法医、化学、文書、火災、爆発の各部門について鑑識科学研究発表会を開催した。また、交通管理技術に携わる全国の職員約140人の参加の下に、交通管理技術研究発表会を開催した。
(2) 警察通信研究センターにおける研究
 警察通信研究センターでは、移動体通信技術、通信暗号化技術、通信網構築技術等の研究を行うとともに、これらを応用した新しい警察通信機器の開発を行っている。
 平成6年は、電子情報通信学会において、「デジタル移動無線におけるマルチパス遅延波の解析」、「16kbps用静止画無線伝送方式の検討」について発表を行うとともに、第28回カーナハン会議(アメリカ)においても「画像処理による侵入者検知システムの開発」について発表を行った。
〔研究例1〕 警察通信網の高度化に関する研究
 各都道府県警察等の保有する情報の共有化及び電子メールによる各都道府県警察の扱う文書の伝送、蓄積、利用の効率化を目的とする新しい通信網の構築に必要な諸技術の研究を行っている。
〔研究例2〕 画像伝送装置に関する研究
 災害現場、警備実施現場等の状況を正確にかつ迅速に把握するため、警察移動無線を用いてカラー画像を数十秒で伝送できる画像伝送装置を試作した。


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