第7章 災害、事故と警察活動

 平成6年は、台風による災害のほか、北海道東方沖地震、三陸はるか沖地震等が相次いで発生した。また、名古屋空港において多数の死傷者を出す中華航空機事故が発生した。
 警察では、これらの災害・事故の発生に際しては、直ちに体制を確立するとともに各種の装備資機材を活用して、被害の未然防止と拡大防止に努め、被災者の救助に当たった。また、雑踏事故、水難、山岳遭難、レジャースポーツに伴う事故等に対しても、それぞれ関係機関、団体と連絡して事故防止の諸対策を推進した。

1 自然災害、大規模航空機事故の発生

(1) 自然災害
 平成6年における主な自然災害は、強風による災害(4月)、台風による災害(9月)、北海道東方沖地震災害(10月)、三陸はるか沖地震災害(12月)、雲仙岳噴火による災害(1~12月)等であった。
 10月4日午後10時23分ころ、北海道東方沖を震源とするマグニチュード8.1の大きな地震が発生し、震源に近い釧路市や厚岸町では震度6(烈震)を記録した。この地震による死者・行方不明者はなかったものの、負傷者436人、家屋損壊(全・半壊)26棟等の被害を発生させた(7年1月13日現在、警察庁調べ)。
 また、12月28日午後9時19分ころ、三陸はるか沖を震源とするマグニチュード7.5の大きな地震が発生し、震源に近い青森県八戸市では震度6 を記録した。この地震に伴う主な被害は、死者3人、負傷者387人、家屋損壊(全・半壊)70棟に上った(7年1月13日現在、警察庁調べ)。

 6年の台風の上陸は、7号(7月下旬)、11号(8月上旬)、26号(9月下旬)の3個で、中でも、台風第26号は、上陸時の中心気圧が950ヘクトパスカル、最大風速が毎秒40メートルと強い勢力で、近畿、中部地方を中心に広い範囲にわたって被害を発生させた。

表7-1 自然災害による被害状況(平成6年)

 6年における自然災害による被害状況は、表7-1のとおりである。
 これらの災害に対し、警察では、早期に災害警備本部等を設置して体制を確立し、各種の災害装備資機材を活用して被災者の救助、住民の避難誘導、行方不明者の捜索、交通規制等の活動を行った。
(2) 名古屋空港における中華航空機事故の発生
 平成6年4月26日午後8時16分ころ、名古屋空港において中華航空所属エアバスA300旅客機が着陸に失敗して墜落炎上する事故が発生した。この事故による被害は、死者264人、負傷者7人で単独機の事故としては、昭和60年8月の群馬県における日航ジャンボ機墜落事故に次ぐ大惨事となった。
 この事故の発生に際し警察では、直ちに多数の警察官を招集して事故対策本部を設置して初動体制を確立し、救助活動をはじめとする所要の警察活動を行った。

2 各種事故と警察活動

(1) 水難
ア 水難の発生状況
 平成6年の水難の発生件数は2,164件(前年比37件(1.7%)増)、死者、行方不明者数は1,360人(96人(7.6%)増)、警察官等に救助された者の数は1,121人である。最近5年間の水難発生状況は、表7-2のとおりである。また、水難による死者、行方不明者を年齢別にみると表7-3のとおりで、5年に比べ、幼児を除き死者、行方不明者が増加している。

表7-2 水難発生状況(平成2~6年)

表7-3 水難による死者、行方不明者の年齢層別状況(平成5、6年)

図7-1 水難による死者、行方不明者の発生場所別構成比(平成6年)

図7-2 水難による死者、行方不明者の行為別構成比(平成6年)

 死者、行方不明者を発生場所別にみると図7-1のとおりで、海が最も多く、全体の約5割を占めている。行為別にみると図7-2のとおりで、魚とり・魚釣り中、水泳中、通行中の順に多かった。
イ 水難の活動
 警察では、水難を防止し、国民が安心して水に親しめるようにするため、水難の発生しやすい危険な場所の実態を調査し、その所有者、管理者や関係機関、団体に対し、危険区域を指摘するとともに、危険な施設の補修等を働き掛けている。特に人出の多い海水浴場では、臨時交番を設置して海浜パトロールを強化しているほか、警察用船舶やヘリコプターによる監視を強化し、海水浴客に対する広報、遭難者の早期発見、救出、救護に努めるとともに、関係機関、団体と協力して、救急法講習会や各種の救助訓練を実施している。
 また、6年に水上安全条例を施行した和歌山、沖縄をはじめ、滋賀、福島、長崎、宮崎、福井の各県では、海水浴場開設業者等に対し、遊泳 区域の明示、監視人又は水難救助員の配置等水難防止に関する指導を行っており、沖縄県では6年12月、水上安全条例の実効を期するために、水上安全対策を事業とする財団法人「沖縄マリンレジャーセイフティービューロー」を全国に先駆けて設立し、沖縄県の海域及び内水域におけるスポーツ、レクリエーション等(以下「海域レジャー」という)に伴う事故を防止するため、海域レジャー環境の整備、海域レジャー提供業者に対する安全対策の指導及び県民に対する安全意識の啓蒙等の活動を実践し、水上安全活動の推進を図っている。
(2) 山岳遭難
ア 山岳遭難の発生状況
 平成6年の山岳遭難の発生件数は774件(前年比105件(15.7%)増)、遭難者数は962人(148人(18.2%)増)である。最近5年間の山岳遭難の発生状況は、表7-4のとおりである。
 近年は、登山の大衆化に伴い、中高年者をはじめ女性や家族連れ等の登山者が増え、本格的な登山、軽装のハイキング、自然観賞等登山の目的が多様化している。これに伴い、遭難者の年齢も幼児から高齢者まで広がってきており、特に40歳以上の中高年者の遭難が増えている。また、

表7-4 山岳遭難の発生状況(平成2~6年)

遭難の形態も登山道での滑落、転倒、発病のほか、道迷いによるものなどが多く、その原因は、体力、技術不足、装備の不備及び気象判断の誤り等登山の基本的な知識や心構えを欠いたことによるものが多い。
イ 遭難者の捜索、救助活動
 警察では、遭難者の迅速な捜索、救助活動を行うため、全国の警察に山岳警備隊等を編成し、平素から実践的な救助訓練を行い、救助技術の向上を図るとともに、救助用装備資機材の整備拡充を行うなど、救助体制の強化に努めている。
 6年の遭難者の救助活動に出動した警察官は延べ約8,900人、警察用ヘリコプタ-出動回数は延べ341回で、民間救助隊員等との協力による活動を含め、遭難者756人を救助したほか、186遺体を収容した。
ウ 山岳遭難の防止活動
 警察では、山岳遭難を防止するため、遭難の発生場所、原因等遭難の発生実態を的確に把握、分析し、関係機関等との遭難対策検討会を開催するとともに、各種広報媒体を活用して国民の安全登山の意識向上に努

めている。
 主要山岳(系)を管轄する警察においては、関係機関等と協力して登山道等の実地踏査、道標及び危険箇所の点検、整備を行うとともに山岳情報を収集して、広く登山者に提供している。また、登山口等に臨時交番や登山指導センターを開設して、登山計画書の提出の奨励、装備等の点検、指導を行っているほか、山岳パトロール等の活動を通じて安全登山への指導を積極的に行うなど、遭難の防止対策を強力に推進している。
(3) レジャースポーツに伴う事故
 近年、余暇の増加とレジャー用具の多様化、大衆化により、水上オートバイ、パラセーリング等の新しいレジャースポーツが登場し、これに伴う事故が多発している。平成6年のレジャースポーツに伴う事故の発生件数は297件(前年比21件(6.6%)減)、被災者数は494人(93人(15.8%)減)である(表7-5)。

表7-5 レジャースポーツに伴う事故の発生状況(平成6年)

 こうした事故の原因の主なものは、技術の未熟、不注意等であり、また、無免許や無資格運転、無謀行為等を原因とするものも多いことから、警察では、事故防止を呼び掛けるパンフレットの配布等の安全広報に努めるとともに、レジャースポーツ現場におけるパトロール等を通じての指導取締り、関係機関、団体に対する事故防止指導等を推進し、レジャースポーツ事故の防止に努めている。
(4) 降積雪による災害
 平成6年の降積雪に伴う災害被害は、死者33人(前年比17人増)、負傷者138人(83人増)、建物被害11棟(5棟増)である。
 これらの災害に際し、関係都道府県警察では、警察官が出動して被災者の救出、救護活動や雪崩等の発生のおそれのある危険箇所の点検、パトロール、交通の安全の確保等を行うとともに、独居高齢者家庭等に対する除排雪の支援活動、通学路における児童、生徒の安全指導等雪害事故の防止のための幅広い施策を推進した。

3 雑踏警備活動

(1) 一般雑踏警備活動
 平成6年に警察官が出動して雑踏警備に当たった行楽地への催物への人出は、延べ約7億8,380万人に上り、警察では、延べ約6万人の警察官を動員して、雑踏事故の防止に努めた。正月三が日の初詣の人出は、約8,544万人(前年比約54万人(0.6%)増)である。また、正月三が日のスキー場等行楽地の人出は約414万人であった。一方、ゴールデンウィークの人出は約5,299万人で、全国的に天候が不順であったことに加え、近年の不況を反映して近郊型、節約型のレジャー傾向となったことなどにより、前年に比べ約45万人(0.8%)減少した。最近5年間の雑踏警備実施 状況は、表7-6のとおりである。

表7-6 雑踏警備実施状況(平成2~6年)

 6年の雑踏事故は11件発生し、死者は3人、負傷者は110人に上った。このうち、山車(だし)、神興(みこし)等の運行に伴うものが3件、死者1人、負傷者3人、大祭に伴うものが1件、死者1人で、また、花火大会等イベント会場における事故が4件、負傷者35人であった。
 これら雑踏事故の多くは、行事の主催者等による自主警備の不徹底や安全に関する配慮の欠如が大きな原因となっており、このため、警察では、行事の主催者、施設の管理者等に対して、事前連絡の徹底、自主警備体制の強化、危険予防の措置、施設の改善等を要請するとともに、混雑する場所等に警察官を配置して、雑踏事故の未然防止に努めている。
(2) 公営競技場の警備活動
 平成6年における競輪場、競馬場等の公営競技場への総入場者数は、延べ約2億2,400万人であった。警察では、公営競技をめぐる紛争事案や雑踏事故防止のため、延べ約10万2,600人の警察官を動員して警備に当たった。最近5年間の公営競技場の警備実施状況は、表7-7のとおりである。

表7-7 公営競技場警備実施状況(平成2~6年)

 6年の公営競技をめぐる紛争事案は1件であり、その内容はレ-スの中止をめぐる争議形態のものであった。警察では、これらの紛争事案の防止のため、競技の適正な運営を関係機関、団体に働き掛けるとともに、自主警備体制の確立、施設、設備の改善、酒類販売の自粛等を要請しているほか、競技開催の都度、警察官を派遣して紛争事案の未然防止に努めている。


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