第6章 公安の維持

 平成6年は、5年に引き続き、内外ともに様々な動きがみられた年であった。
 国内では、関西国際空港開港、天皇皇后両陛下のアジア大会開会式御臨席及び御訪欧、金泳三大韓民国大統領来日等に伴う重要警備が相次いだ。極左暴力集団は、これらの行事を重点闘争課題として集会、デモ等を行ったほか、成田闘争等をめぐり、個人を対象としたテロ、ゲリラ事件を引き起こした。右翼は、反体制、反権力傾向を一段と強め、政党要人、報道機関等を対象に、けん銃等を用いたテロ、ゲリラ事件を引き起こした。日本共産党は、党大会において綱領の見直しを行ったが、基本路線に変更はなかった。また、在日本朝鮮人総聯合会(朝鮮総聯)は、金日成死去後も北朝鮮への従属一体性を堅持することを表明し、引き続き政財界への工作等を行った。
 国外では、核査察問題や金日成の死去に伴い北朝鮮の情勢が変動し、民族対立等を背景とした地域紛争が継続するなど複雑な国際情勢が続いた。国際テロは、一部で沈静化の兆しはみられるものの、イスラム原理主義過激派等の宗教、民族色の強い組織による事件が多発している。日本赤軍は、中東情勢の変化の中で国内志向の姿勢を強め、国内の大衆運動への影響力の拡大等を図っている。また、国内経済が低迷を続けたロシアは、経済的な援助を得るため、我が国の各界各層に対する諸工作を行ったほか、改革開放政策を加速させている中国も我が国への働き掛けを行った。

1 内外情勢に敏感に反応した右翼

(1) 政局の変化等と右翼
 右翼は、戦後の大きなスローガンであった「反共」中心の運動が、ソ連をはじめとする東欧社会主義国の相次ぐ崩壊によって閉塞状態となる中、年内2度にわたる首相の交代といった政局の大きな変化と長引く不況等の不安定な社会情勢を背景に、一段と反体制、反権力色を強めながら、時々のマスコミ等の話題に敏感に反応して活発な活動を展開した。
 政局をめぐって、右翼は、細川内閣に対しては首相の侵略戦争発言をとらえて、また、羽田内閣に対しては二重権力構造であるとして厳しく批判した。さらに、平成6年6月29日に発足した村山内閣に対しては、「社会主義者総理の誕生」、「政権欲しさの自社野合」等と批判するとともに、「戦争の反省と謝罪の国会決議」阻止運動を絡めて、街頭宣伝活動や抗議・要請活動を行った。
 外交問題に関しては、特に北朝鮮をめぐる動向に関心を高め、2月以降、「北朝鮮の核疑惑糾明」、「日本の国防強化」等を訴えて、外務省、北朝鮮、朝鮮総聯、北朝鮮関連企業及び北朝鮮と取引のある金融機関等を批判する街頭宣伝活動や抗議・要請行動を活発に行った。また、ロシアによる日本漁船への発砲事件等をめぐり「軟弱、弱腰外交」等と政府の外交姿勢を厳しく批判した。
 マスコミに対しては、「第四の権力」、「東京裁判史観に毒された偏向報道」等とする批判行動を執拗(よう)に展開した。
 こうした中、右翼は、「大手新聞社東京本社けん銃発砲人質立てこもり事件」(4月、警視庁)、「細川前首相直近におけるけん銃発砲事件」(5月、警視庁)等、政党要人、マスコミ、外国公館等を対象とする10件のテロ、ゲリラ事件を引き起こした。
(2) 暴力団、総会屋と連携する悪質右翼団体
 右翼の中には、政治結社の看板や名刺、あるいは街頭宣伝車による大音量の街頭宣伝等を手段として、企業等から利権、利益を得ているものがある。また、最近の暴力団は、バブル経済の崩壊に加え、暴力団対策法の施行を契機とした暴力団排除気運の盛り上がり、警察の厳しい取締り等によって、経済的、社会的に追い詰められている。このため、暴力団は、企業等から資金を獲得しようとする動きを一層強めており、右翼や総会屋に接近や介入をし、又は新たに右翼を標ぼうする組織を結成して、企業等に不法、不当な要求を行っている。
 警察では、こうした右翼による悪質な資金源獲得目的の犯罪の摘発強化を推進し、平成6年中214件を検挙した。
(3) 右翼対策の推進
ア 違法行為の防圧、検挙
 警察では、平成6年中、テロ、ゲリラ事件13件(19人)を含む282件(440人)の右翼事件を検挙した(表6-1参照)。

表6-1 右翼によるテロ、ゲリラ事件の検挙状況(平成2~6年)

 また、銃器使用テロ等の未然防止を図るため銃器摘発に努めた(第1章第2節参照)。
 警察は、今後とも右翼によるテロ等重大事件の未然防止を図るため各種対策を強化するとともに、悪質な資金活動や街頭宣伝活動をめぐる不法事案等に対しては、あらゆる法令を駆使して徹底的な取締りを推進することとしている。
イ 拡声機騒音対策
 右翼の街頭宣伝活動等に伴う拡声機騒音が社会問題となる中、地方公共団体において、拡声機騒音に対する取締法令の不備を補うため、暴騒音規制条例を制定する動きが全国的に広がっており、6年には6県で制定され、6年末現在、全国43都府県において制定されている。
 また、国会議事堂等周辺地域及び外国公館等周辺地域の静穏の保持に関する法律による静穏を保持すべき地域として、新たに3都府内延べ16箇所が指定された。
 6年中、全日本教職員組合第6回定期大会開催に伴う警備において右翼8人(6月、7月、高知)、日本共産党第20回大会開催に伴う警備において右翼2人(7月、静岡)、日本共産党人民大学夏期講座開催に伴

う警備において右翼1人(8月、新潟)、日本共産党大演説会開催に伴う警備において右翼1人(11月、神奈川)を暴騒音規制条例違反で検挙したほか、全国の条例制定都府県において、停止命令(中止命令)23件、勧告421件を行った。

2 極左暴力集団の情勢と極左対策

(1) 極左暴力集団の情勢
 極左暴力集団は、闘争資金とシンパ層の拡大による組織勢力の回復を図るため、「朝鮮侵略戦争阻止」、「村山自社連合政権打倒」等のスローガンを掲げ、反戦闘争を中心として金泳三韓国大統領来日、関西国際空港開港、広島アジア大会の開催、ルワンダPKOへの自衛隊の派遣等を闘争課題とする「大衆闘争」及び「党建設」に重点的に取り組んだ。また、「成田」、「北富士」、「狭山」等の闘争をめぐり、個人を対象とした8件のテロ、ゲリラ事件を引き起こした。

 中核派は、「8.1路線」(平成5年8月1日に開催した政治集会において打ち出した、武装闘争を堅持しつつ、「大衆闘争」と「党建設」に力を入れるという方針)を推進し、北朝鮮の核開発問題をめぐる情勢を大衆闘争を盛り上げ、勢力拡大を図る絶好の機会ととらえ、これを反戦闘争のメインとして6月と11月には東京都内において全国動員規模の集会(延べ約3,000人)を開催したほか、各種記念日闘争での反戦集会や自衛隊基地等への抗議行動、学習会等に取り組み、動員力の向上を図った。
 また、労働者層の獲得をねらって「全国労働組合交流センター」、「部落解放同盟全国連合会」、「婦人民主クラブ全国協議会」等の大衆組織の拡大にも取り組んだ。
 さらに、闘争資金捻(ねん)出のため、多額のカンパ要請を活動家やシンパ層に行ったほか、東京都豊島区内に所在する中央拠点である「前進社」の建物を売却し、江戸川区内に移転した。

 6年に引き起こされたテロ、ゲリラ事件は、個人宅あるいは集合住宅をねらい、犯行手口も夜間に住宅街で爆弾を爆発させるなど凶悪なものであった。中核派は、現職の運輸省航空局長、同航空局技術部長、山梨県林政課長のほか、昭和59年にもゲリラを行った元新東京国際空港公団理事等を攻撃対象とした。一方、革労協狭間派も、東京高等裁判所判事や新東京国際空港公団事業本部管理部次長を攻撃対象とした。

 過去10年間の極左暴力集団によるテロ、ゲリラ事件の発生状況は、図6-1のとおりである。平成5年よりテロ、ゲリラ事件が減少したのは、警察による検挙・摘発で組織的ダメージを受けたことに加え、中核派が勢力拡大に重点を置き、次の「蜂起戦」に備えて秘密軍事部門の温存を図ったこと、革労協狭間派が病身の最高幹部の防衛に大きな負担を強いられたことなどによるものとみられる。

図6-1 極左暴力集団によるテロ、ゲリラ事件の発生状況(昭和60~平成6年)

(2) 極左対策の推進
 警察は、極左暴力集団によるテロ、ゲリラを未然に防止し、秘密部隊員や秘密アジトを発見、摘発するために、全国的にアパート、マンション等に対するローラーを実施するとともに、潜在違法事案を掘り起こして事件化を図るなど、極左対策を強力に推進した。
 その結果、平成6年中、秘密部隊員16人を含む合計79人の極左活動家を検挙し、秘密アジト等6箇所を摘発した。
〔事例1〕 6月、大阪市内において、革労協狭間派最高幹部を逮捕(警視庁、大阪)
〔事例2〕 8月、横浜市内において、中核派の秘密アジト「山手アジト」を摘発し、中核派指名手配被疑者他1人を逮捕(警視庁、神奈川)
〔事例3〕 9月、群馬県内において、中核派「伊勢崎武器庫」を摘発し、迫撃弾の部品、黒色火薬等を押収するとともに、中核派幹部を全国に指名手配(警視庁、群馬)

〔事例4〕 10月、東京都内において、革労協狭間派の秘密アジト「小平アジト」を摘発し、偽造ナンバー及び変装用具等を押収するとともに秘密部隊員2人を逮捕(警視庁)

3 各種重要警備

(1) 関西国際空港開港警備
 関西国際空港は、平成6年9月4日開港した。同空港をめぐっては、極左暴力集団がこれを「24時間使用できる軍事空港」ととらえ、昭和46年ころから建設反対闘争に取り組み、これまで22件のテロ、ゲリラ事件を引き起こしてきたことから、開港の妨害をねらったテロ、ゲリラ事件の発生が懸念された。
 このため、警察庁及び大阪府警察を中心とする全国警察では、開港に向け、極左暴力集団等によるテロ、ゲリラの未然防止等の諸対策を長期にわたって推進した。その結果、極左等の反対派は、「関西新空港開港阻止」等を主張した現地集会、デモ、ハンスト等に取り組んだだけにとどまり、不法事案は完全に防圧された。
(2) 天皇皇后両陛下のアジア大会開会式御臨席及び御訪欧に伴う警備
 天皇皇后両陛下は、第12回広島アジア競技大会開会式御臨席のため、平成6年10月2日、広島県へ行幸啓になり、更に同日から10月14日にかけて、フランス、スペインの2箇国を公式訪問された。
 御訪問等をめぐり、極左暴力集団は、「天皇のアジア大会出席を許すな」、「天皇訪欧反対」等と主張し、集会、デモを行った。
(3) 金泳三大韓民国大統領来日警備
 金泳三大韓民国大統領夫妻は、平成6年3月24日、国賓として来日し、歓迎行事、首脳会議等に臨み、26日離日した。
 これに対し、極左暴力集団は、「金泳三大統領来日阻止」等を訴え、東京都内で集会、デモを行った。また、右翼は「竹島領有権問題の解決」等を訴える街頭宣伝活動を行った。
 警察では、警備対策委員会等を設置して諸対策を推進し、大統領夫妻一行の安全と関係諸行事の円滑な進行の確保に努めた。
(4) 自衛隊ルワンダ派遣反対闘争警備
 政府は、平成6年9月13日、国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律に基づき、ルワンダ難民救援のため自衛隊を派遣することを閣議決定し、10月25日までにザイール等のルワンダ周辺国に向け自衛隊の部隊等を出発させた。
 極左暴力集団は、4年の同法の制定やその後の同法に基づくカンボディアへの自衛隊派遣等をとらえ、これまで33件のテロ、ゲリラ事件を引き起こしていることから、テロ、ゲリラ事件の発生が懸念された。
 警察庁及び関係都道県警察では、派遣準備の段階から諸対策を推進し、テロ、ゲリラを未然防止した。

4 成田空港問題

 成田空港問題の話合い解決を目的とした「成田空港問題円卓会議」は、平成5年9月20日に開催されて以来11回にわたり空港と地域の共生等について議論を重ね、6年10月11日の第12回の会議において、「平行滑走路の整備が必要であるという運輸省の方針は理解できること」、「横風用滑走路については、平行滑走路完成の時点で改めて提案すること」、「第三者機関を設置すること」等を内容とした隅谷調査団の「所見」を運輸省、空港公団、千葉県、反対同盟熱田グループ等が受け入れて終了した。これにより、「成田空港地域共生委員会」が設置・開催され、成田空港問題は、用地取得交渉等を視野に置いた新たな段階へ動き出した。
 これに対し、反対同盟北原グループ及び中核派等の極左暴力集団は、円卓会議を公開シンポジウム同様「反対同盟の切り崩しと小川グループの抱き込みを目的とした反対闘争つぶしの会議」ととらえ、その粉砕を主張し、円卓会議開催日に合わせ、会場周辺で集会、デモ及び情報宣伝活動を行い、3月、5月、10月には全国規模の闘争に取り組んだ。
 これら闘争過程で、中核派は、「運輸省航空局長宅爆発事件」等4件を、革労協狭間派も「新東京国際空港公団事業本部管理部次長宅放火未遂事件」を引き起こした。

5 国際テロ

(1) 国際テロ情勢
 平成6年の国際テロ情勢は、国際テロリスト・カルロスの逮捕(8月)、PIRA(暫定アイルランド共和軍)による停戦宣言(8月)等、国際環境の変化に伴い、世界的にテロ活動が沈静化する兆しがみられる。
 カルロスの逮捕は、これまで「反帝国主義」、「アラブの大義」を旗印に旧東側や中東諸国の保護を受けてきた国際テロ組織が、東西の冷戦構造の終結、中東和平の進展等により、逃げ場を失い、追い詰められつつあることを如実に示している。しかし、その一方で、イスラム原理主義勢力が急激に伸長し、同過激派によるテロが先鋭化・拡散化しており、国際テロの原因が、従来の中東問題等政治的な要素からイスラム原理主義過激派にみられる宗教的な要素に移行しつつある。

表6-2 イスラム原理主義過激派の犯行とみられる主なテロ事件(平成6年)

 中東においては、和平交渉が進展する中で、ハマス等のイスラム原理主義過激派が、中東和平の妨害をねらってイスラエル国内及びパレスチナ自治区を含むイスラエル占領地内でテロを活発化させている。
 欧州における国際テロ活動は、低い水準で推移しているものの、上記イスラム原理主義過激派によるテロ及びETA(バスク祖国と自由)等の分離主義過激派によるテロが発生している。
 アジアにおいては、フィリピンで、一部イスラム原理主義過激派等によるテロの発生があるものの、主要な反政府過激勢力であるNPA(新人民軍)及びMNLF(モロ民族解放戦線)等は、政府との和平交渉に臨んでおり、テロ活動を中止している。スリ・ランカでは、政府が分離主義過激派のLTTE(タミール・イーラム解放の虎(とら))との対話再開に乗り出し、和平への動きがある一方で、10月、LTTEによると見られる爆弾テロ事件(大統領候補等約60人が死亡)等、依然としてテロ事件の発生がみられる。
(2) 日本赤軍
 日本赤軍は、イスラエルがPLOやジョルダンとの関係を次々に正常化させ、シリアも対イスラエル交渉に積極的に取り組む姿勢を示したことなどから、レバノンにおけるその存在基盤が不安定な状況になりつつあるものとみられる。その一方、「5.30声明」等においては、国連等国際機関の民主化及び我が国の安保理常任理事国入りに反対する闘いの重要性を訴えたほか、我が国国内における改憲阻止闘争の強化等を繰り返し呼び掛けている。
 警察は、各国治安機関と連携して日本赤軍対策を推進し、偽造有印私文書行使容疑事件で日本赤軍メンバー大道寺あや子の逮捕状の発付(平成6年6月、警視庁)を、また、同容疑で松田久の逮捕状の発付(7月、警視庁)を得て、それぞれICPOを通じて国際手配した。
(3) 「よど号」犯人グループ
 「よど号」犯人グループは、一連の核査察問題に対して「日本政府が対米従属化、侵略化の道を突き進み、アメリカの完全な手先=侵略国家となっている」などと批判を繰り返した。
 また、故金日成主席の死去に際しては、声明文を発して哀悼の意を表した上で、今後は、金正日書記を支持しながら「日本の民主・自主・平和と日朝人民の親善のために闘っていく」と強調した。
 なお、懸案となっている子女帰国問題に進展はみられなかった。

6 基本路線を堅持した日本共産党

(1) ソ連崩壊後初めての党大会
 日本共産党は、平成6年7月19日から23日までの5日間、ソ連崩壊後初めての大会を開催し、大幅な綱領改定を行ったが、改定はソ連崩壊を受けた世界情勢部分の書き換えが中心であり、「綱領の基本路線の正確さは、現実と歴史が実証した」として、基本的な路線を堅持した。
 また、改定綱領では、従来社会主義国としていた旧ソ連等について「社会主義をめざす道にふみだした国ぐに」、「社会主義社会には到達しえないまま、その解体を迎えた」と記述し、社会主義社会は、レーニン時代の一部の例外を除きいまだ地球上に存在しないとする新たな解釈を打ち出した。しかし、社会主義についての具体的な展望は示さなかった。ソ連崩壊後の新たな国際連帯活動の方向としては、核、平和の問題での国際連帯に関する記述を追加した。
 宮本議長は、大会直前に入院し大会を欠席したが、不破委員長、志位書記局長等と共に再任され、「宮本体制」を維持した。また、改定規約に「誹誘(ひぼう)、中傷に類するものは党内討議に無縁」、「公開の討論は、中央委員会の承認のもとにおこなう」などの規定を追加し、民主集中制を強化した。
 党勢については、党員数「約36万人」、機関紙部数「250万をこえる」と発表したが、これは、2年の前回大会に比べて、党員数が約11万人、機関紙部数が39万部程度、それぞれ大幅に減少している。
(2) 幅広い層への働き掛け
 共産党は、平成60年2月に全国組織部長会議を32年ぶりに開催して、党建設のかなめとなる組織部の体制、活動の強化を指示し、大会で改定した規約で、支部会議の週1回定期開催を明文化するなど、党の組織、活動の立て直しを図った。
 また、安保・自衛隊、原発等の問題をとらえ、村山内閣や社会党を厳しく批判するとともに、不況・雇用、消費税等の問題をとらえ、保守層を含めた幅広い層にも働き掛けを行う方針を提起するなど、勢力の拡大に取り組んだ。
(3) 広範な勢力との共闘を目指す全労連
 共産党の指導、援助により結成された全労連(全国労働組合総連合)は、「200万全労連、600地域組織の確立」を目標に、2年目を迎えた「組織拡大強化3カ年計画」の実現に全力を挙げた。しかし、公称勢力は、結成時の140万人と変化はなく、地域組織も400台半ばにとどまるなど、依然低迷を続けている。また、小選挙区制、年金、国鉄等の課題を柱に、全労協等反連合勢力に対し、共闘の働き掛けを強化したが、ほとんど進展をみなかった。
 一方、雇用不安の高まりや不安定な政治情勢の下で展開された平成6年春闘では、「大企業のため込みを還元させ、大幅賃上げ、時短で国民の購買力を向上し、不況の打開と雇用確保を求める」として、ストを含む5次の全国統一行動等に取り組んだが、結果的に、6年も連合(日本労働組合総連合会)主導の春闘に影響を与えることはできなかった。
 こうしたことから、7月の定期大会では、共産党の大会決定を受け、運動方針の基本に、共闘の対象を反連合勢力から国民諸階層にまで拡大した「国民的共同」の強化方針を提起した。

7 社会経済情勢を反映した大衆運動

 平成6年の大衆運動は、「消費税増税反対」、「コメ輸入自由化反対」、「自衛隊の海外派兵反対」、「反核・反原発」等の主張に基づいて取り組まれた。
 これらの大衆運動には、全国で1万1,174回延べ約263万人が動員されたが、5年の全国1万4,033回延べ約305万2,000人と比べると、回数及び動員数ともに下回った。また、運動形態の面においては、従来型の集会・デモによるものが依然として主流を占めているものの、いわゆる草の根運動が重視されているほか、告訴・告発、地方議会における決議の働き掛け、行政機関に対する抗議・申入れ・要請行動等多様な手段が用いられている。

8 国際情勢の新たな展開の中の対日諸工作

(1) 北朝鮮及び朝鮮総聯による対日諸工作
 北朝鮮は、平成6年10月21日の「米朝枠組み合意」を契機として、日本の資本及び技術等導入を目的とした対日接近の方途を模索しているものとみられ、今後とも我が国の政財官界関係者に対する諸工作を強めていくものと考えられる。また、北朝鮮工作員は、様々な手段により我が国に密入国し、我が国を足場としたスパイ活動を引き続き活発に展開している。
 一方、朝鮮総聯は7月8日の金日成主席死去に伴い、中央及び各地方本部で弔問を受け付けたほか、7月17日には全国一斉の追悼集会を開催した。その際、朝鮮総聯は政界をはじめ各界に弔問を要請し、国会議員、報道機関関係者等約300人がこれに応じた。また、7月20日の平壌での中央追悼大会において、朝鮮総聯幹部は、「総聯を、敬愛する最高司令官金正日将軍に対して忠実な革命組織としてしっかり整える」と演説して、朝鮮総聯が北朝鮮への従属一体性を堅持していることを改めて強調した。
(2) ロシアによる対日諸工作
 日露間の交流が様々なレべルにおいて拡大する中、ロシアは、我が国経済界のロシアに対する関心をとらえ、経済情報を活発に収集するとともに、我が国企業の対露進出、投資促進等のための働き掛けを積極的に行った。また、我が国マスコミに対しても、取材上の種々の便宜を提供し、支持を訴えるなどの諸工作を展開した。他方、2月の米国におけるエームズ事件(注)摘発等により、現在もロシア機関員による西側諸国の政治、経済、軍事、高度科学技術情報収集に向けたスパイ活動が、依然として継続されていることがうかがわれた。ロシアは、今後とも我が国を含む西側諸国に対する諸工作やスパイ活動を継続していくものとみられる。
(注) 2月21日、米連邦搜査局(FBI)が、ソ連及びロシアに対して米国政府の機密情報を流し続けていた米中央情報局(CIA)職員オルドリッチ・エームズを逮捕した事件。
〔事例1〕 昭和60年、我が国でのスパイ工作で摘発され、警視庁の出頭要請に応じないまま出国したプレオブラジェンスキー元在日ソ連国家保安委員会(KGB)機関員は、平成6年6月発刊した「日本を愛したスパイ」と題する本に、我が国でのKGB工作の一端を述べ、現在は、KGBの工作がロシア対外情報庁(SVR)に引き継がれていることを明らかにしている。
〔事例2〕 カルーギン元KGB将校は、10月、我が国報道機関とのインタビューで、冷戦後のロシア諜報機関の対日諸工作が、科学技術情報収集のほか、北方領土早期返還論勢力を抑え込むことにあると述べ、領土問題に絡む諸工作が継続されていることを明らかにしている。
(3) 中国の我が国への働き掛け
 改革開放政策の下、社会主義市場経済の定着と進展を目指す中国は、自国の経済建設のためには、安定した国際環境の確保が不可欠であると認識し、我が国の政治情勢に強い関心を示す一方、我が国から多額の経済援助を得ることが重要と認識し、第4次対中円借款実現に向け、活発な動きをみせた。他方、平成6年3月、中国向けココム違反事件が検挙(注)され、依然として日本の高度先端科学技術導入に向けた活動が、活発に展開されていることが明らかになった。中国は、今後とも、ハイテク兵器の装備、開発に必要な高度科学技術等を導入するため、活発な働き掛けを行うことが予想される。
(注) 警視庁は6年3月、ハイテク兵器に転用可能で、ココムで共産圏への輸出が規制されている電子機器(イメージ増強管)を中国へ不正輸出した商社幹部2人を外為法違反(無許可輸出)、関税法違反容疑で逮捕。同人らを4月、東京簡易裁判所に略式起訴し、同日、罰金刑が確定した。
(4) ココム解体後の輸出規制
 戦略物資輸出規制をめぐって、平成6年3月末、45年間続いたココムが解体された。ポスト・ココムについては、地域紛争等の新たな懸念に対応した輸出管理等が関係各国間で検討されている。我が国においては、当面の暫定規制として、従来の特定地域を地域紛争懸念国である北朝鮮、イラン、イラク、リビアの4箇国とすること、旧ココム品目から新たに機微な品目を抽出し規制することなどを内容とした外国為替管理令及び輸出貿易管理令の一部改正が行われた。今後、輸出規制の実効を期すために、大量破壊兵器関連資機材、通常兵器等の戦略物資不正輸出事件取締りを一層強化していくことが必要である。

9 厳しい情勢の中での警衛、警護

(1) 皇室闘争が続く中での警衛
 天皇皇后両陛下は、全国植樹祭(平成6年5月、兵庫)、国民体育大会秋季大会(10月、愛知)及び全国豊かな海づくり大会(11月、山口)へ御臨席になったほか、これら行事の開催県内各地やその他の府県へ行幸啓になった。海外は、5年の御訪欧に引き続いて、アメリカ合衆国(6月)、フランス及びスペイン(10月)を御訪問になった。
 皇太子同妃両殿下は、全国みどりの愛護のつどい(4月、奈良)をはじめ、各種行事へ御臨席等のため行啓になった。海外は、サウディ・アラビア、オマーン、カタル及びバハレーン(11月)を御訪問になった。
 これに対し、極左暴力集団は、依然として皇室闘争を継続させており、御臨席される行事等をとらえて、行事会場周辺での集会、デモ、情報宣伝活動等の反対活動を行った。
 このような情勢の中、警察は、効率的、重点的な部隊運用と市民の立場に立った交通規制等により、皇室と国民との親和に配意した警衛を実施し、御身辺の安全確保と歓送迎者の事故防止に努めた。
(2) 要人の往来活発化の中での警護
 変化する情勢の中で、右翼による要人に対する銃器テロの発生が懸念される厳しい警護情勢が続く中、細川首相の石川県知事選応援遊説(平成6年3月)、羽田首相の連立与党街頭キャンペーンに伴う遊説(5月、神奈川、6月、福島)、村山首相の参議院愛知再選挙応援のための遊説(9月、愛知)及び国政に関する公聴会出席(秋田、9月)をはじめとして閣僚、政党要人等の活発な全国的な動きがみられた。
 一方、来日外国要人については、国賓金泳三大韓民国大統領(3月)、公賓ラビン・イスラエル国首相(12月)等、厳重な警戒を要するハイレべルの要人を含む多数の来日があり、また、平成6年9月の関西国際空港の開港により、関西を中心とした外国要人の日程も増加することとなった。
 警察は、これら活発に往来した国内外要人の警護に当たっては、銃器等によるテロを想定した警護措置を講じるとともに、直近警護体制を強化するなど的確な警護を実施し、その身辺の安全を確保した。
(3) 警察法の一部改正
 個人の身辺保護活動の広域化に適切に対応するため、平成6年の警察法の一部改正において、都道府県警察は、管轄区域の居住者、滞在者等の生命、身体及び財産の保護に必要な限度で、管轄区域外において権限を及ぼすことができることとされた(警察法第61条)。これにより、都道府県警察は、警衛、警護等を行うに際し、それぞれの管轄区域外においても、一貫して自らの事務として身辺保護活動に当たることが可能になった。また、同改正において、複数の都道府県警察が共同して事案を処理する場合の指揮の一元化に関する規定も整備され(警察法第61条の2)、突発事案の発生に伴う混乱を回避するなど、それぞれの都道府県警察の指揮下にある警察官の活動の一体性を確保する必要がある場合に、関係都道府県警察の一の警察官に一定の指揮を行わせることができるようになった。


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