第8章 公安の維持

 平成5年は、4年に引き続き、内外ともに様々な動きがみられた年であった。
 国内では、沖縄における全国植樹祭、皇太子殿下の御婚儀、東京サミット開催等に伴う重要警備が相次いだ。極左暴力集団は、これらの行事を最大の闘争課題として掲げ、個人テロを主流としたテロ、ゲリラ事件を引き起こした。右翼は、反体制、反権力傾向を一段と強め、テロ、ゲリラ事件を引き起こしたほか、活発な運動を展開した。また、日本共産党は、厳しい情勢下の総選挙でほぼ現状を維持し、細川内閣に対する批判を強めて、勢力の伸長を図った。
 国外では、冷戦の終結に伴い、新たな国際秩序構築に向けて様々な動きがあったが、旧ユーゴスラヴィア地域、ソマリア等における地域紛争が継続するなど、多くの課題が残された。国際テロは、宗教、民族色をより強め、イスラム原理主義過激派や分離主義過激派によるテロが多発する一方、日本赤軍は、中東情勢の変化の中で「国内、アジア志向」の姿勢を維持した。国内経済が危機的状況にあるロシアや改革開放政策を加速させている中国は、経済支援を得るため我が国の各界各層に対する諸工作を活発に行ったほか、北朝鮮は、核兵器開発疑惑問題やNPT(核兵器の不拡散に関する条約)脱退問題をめぐり、国際的孤立を深めた。
 なお、不法滞在者問題については、第2章参照。

1 相次ぐ重要警備

(1) 返還プルトニウム輸送警備
 平成5年1月5日、プルトニウム輸送船「あかつき丸」は、フランスからの返還プルトニウム約1,720キログラム(二酸化プルトニウム)を積載して茨城県の東海港に入港した。
 返還プルトニウムは、1月5日及び6日の両日、同港から専用道路を経て動力炉・核燃料開発事業団東海事業所まで輸送された。
 これに対し、極左暴力集団、反核市民グループ及び一部右翼団体は、「プルトニウム輸送反対」、「入港阻止」等を主張し、1月4日から6日までの間、現地等において、集会、デモ、海上デモ等に取り組んだ。
 警察では、海上輸送の事前段階から、テロ、ゲリラの未然防止等のための諸対策を推進し、違法行為の未然防圧を図るとともに円滑な輸送業務の確保に努めた。
(2) 自衛隊海外派遣反対闘争警備
 平成5年中、国際平和協力業務を実施する第2次カンボディア派遣施設大隊、モザンビーク派遣輸送調整中隊等がそれぞれ派遣された。
 これに対し、極左暴力集団は、「派遣阻止」を主張し、北海道等において自衛隊施設等に対するゲリラ事件を引き起こしたほか、全国各地で集会、デモに取り組んだ。特に、第2次カンボディア派遣施設大隊の派遣前は、北海道千歳基地周辺において、活発に集会、デモを行った。この間、同基地周辺で4月7日に行われた集会、デモにおいて、道路交通法違反で極左暴力集団活動家12人を検挙した。
(3) 第44回全国植樹祭(沖縄県)に伴う警備
 天皇皇后両陛下は、第44回全国植樹祭御臨席のため、平成5年4月23日から26日までの間、沖縄県へ行幸啓になった。
 即位後初めての沖縄御訪問をめぐり、極左暴力集団は、これを皇室闘争の最大課題として位置付け、全国各地で集会、デモ等の反対行動に取り組んだ。また、右翼は、東京都、沖縄県において両陛下の奉送迎を行ったほか、東京都、茨城県において奉祝街頭宣伝活動等を行った。
 警察では、警備対策委員会等を設置して諸対策を推進し、天皇皇后両陛下の御身辺の安全と関係諸行事の円滑な進行の確保に努めた。
(4) 皇太子殿下の御婚儀に伴う警備
 平成5年6月9日、皇太子殿下の「結婚の儀」並びにこれに伴う「朝見の儀」、「祝賀」及び「パレード」等一連の儀式が執り行われた。さらに、皇太子同妃両殿下は、6月25日から27日までの間、神宮及び神武天皇山陵御参拝のため三重県及び奈良県へ、6月29日には昭和天皇山陵御参拝のため東京都八王子市へ、それぞれ行啓になった。
 これに対し、極左暴力集団は、全国各地で集会、デモ等の反対行動に取り組んだ。また、右翼は、24都道府県において奉祝活動を行った。
(5) 東京サミットに伴う警備
 東京サミットは、平成5年7月7日から9日までの間、迎賓館において開催され、日本が議長国となり、仏、米、独、英、伊、加及びECの首脳が参加したほか、7月9日にはエリツィン・ロシア大統領を招待して、いわゆるG7+1会合が行われた。
 これに対し、極左暴力集団は、全国各地で集会、デモ等の反対行動に取り組んだ。また、右翼は、7月6日から10日までの間、「北方領土返還、エリツィン来日反対」、「サミット開催反対、クリントン糾弾」等それぞれの立場から、抗議・要請活動に取り組んだ。この間、建造物侵入罪で右翼1人を検挙した。
 警察では、警備対策委員会等を設置して諸対策を推進し、各国首脳及び一行の安全と関係諸行事の円滑な進行の確保に努めた。
(6) エリツィン・ロシア大統領来日警備
 エリツィン・ロシア大統領夫妻は、平成5年10月11日、国賓として来日し、歓迎行事、首脳会議等に臨み、13日離日した。
 これに対し、右翼は、「エリツィン大統領来日反対」等を訴える街頭宣伝活動を行ったほか、ロシア大使館等に対する抗議・要請活動に取り組んだ。また、極左暴力集団は、東京都内で、集会、デモを行った。この間、道路交通法違反等で右翼19人を検挙した。

2 皇室闘争、反戦闘争にテロ、ゲリラを集中させた極左暴力集団

(1) 「沖縄植樹祭」、「皇太子結婚式」、「東京サミット」を最大の課題として闘争を展開
 極左暴力集団は、「沖縄植樹祭」、「皇太子結婚式」、「東京サミッ

ト」を最大の課題として各種闘争に取り組み、29件のテロ、ゲリラ事件を引き起こした。
 極左暴力集団は、沖縄植樹祭と天皇皇后両陛下の沖縄御訪問を「天皇制の下への沖縄人民の屈服を強いるもの」等ととらえ、「天皇訪沖阻止-沖縄植樹祭粉砕」を主張し、「93年前半の最大のたたかい」として、平成5年4月22日から26日までの間、全国28箇所で集会、デモ等を行い、延べ約3,500人を動員した。この過程で、「京浜急行空港線電車内発火事件」(革労協狭間派)、「三千院等4社寺同時放火事件」(中核派)等7件のテロ、ゲリラ事件を引き起こしたが、沖縄県内での事件の発生はなかった。
 また、皇太子殿下の御婚儀を「次期天皇への継承儀式」ととらえ、「結婚式粉砕」を主張し、6月6日から9日までの間、全国19箇所で集会、デモ等を行い、延べ約2,000人を動員した。特に革労協狭間派は、「宮内庁管理部長宅放火事件」等4件のテロ、ゲリラ事件を引き起こした。
 さらに、東京サミットを「アジア侵略サミット」ととらえ、「粉砕」

を主張し、7月4日から8日までの間、東京等8箇所で集会、デモを行い、延べ約1,700人を動員するとともに、「米軍横田基地に向けた迫撃弾事件」(革労協狭間派)、「米軍座間基地に向けた迫撃弾事件」(中核派)等3件のテロ、ゲリラ事件を引き起こした。このほか、カンボディア、モザンビークへの自衛隊派遣に反対して集会、デモを行い、この過程で、「防衛庁事務次官宅爆発事件」(中核派)、「陸上自衛隊北部方面総監部に向けた金属弾発射事件」(革労協狭間派)等6件のテロ、ゲリラ事件を引き起こした。
 8月以降は、「細川連立内閣打倒」、「小選挙区制粉砕」に重点を置き、大衆闘争に取り組んだ。特に中核派は、8月1日に開催した「政治集会」において、「武装闘争」を堅持しつつも「大衆闘争」と「党建設」

図8-1 極左暴力集団によるテロ、ゲリラ事件の発生状況(昭和59~平成5年)

に「党の一切をかける」という「8.1路線」を打ち出し、機関紙(誌)を改訂するなど、労働者層への浸透をねらった組織の拡大に取り組み始めた。
 過去10年間の極左暴力集団によるテロ、ゲリラ事件の発生状況は、図8-1のとおりである。
(2) 「公開シンポジウム」と「円卓会議」が焦点となった成田闘争
 平成5年5月24日、第15回「成田空港問題シンポジウム」において、隅谷調査団が、「運輸省、空港公団が土地収用採決申請を取り下げること」、「二期工事B、C滑走路の建設計画を白紙の状態に戻すこと」、「今後の成田空港問題の解決にあたっての新しい場を設けること」を求めた「所見」を発表、これを運輸省、空港公団、千葉県、反対同盟熱田グループが受け入れて、1年半に及んだシンポジウムは終了し、9月20日には、新しい協議の場となる第1回「成田空港問題円卓会議」が開催された。
 「シンポ粉砕」に取り組んできた反対同盟北原グループ及び中核派等の極左暴力集団は、この円卓会議についても、「二期工事のための条件交渉会議」等ととらえて、「粉砕」を主張し、開催日に合わせて集会、デモ等を行うとともに、その過程で「元新東京国際空港公団副総裁宅放火事件」(中核派)等3件の事件を引き起こした。
(3) 依然攻撃の主流を占めた個人テロ
 平成5年中、中核派は20件、革労協狭間派は9件のテロ、ゲリラ事件を引き起こしたが、これら29件のうち13件が個人宅等を攻撃したものであり、依然として個人テロが攻撃の主流を占めた。
 中核派は、防衛庁、宮内庁等の現職幹部のほか、10数年前に役職にあった者の居宅までも攻撃対象とした。また、「防衛庁事務次官宅爆発事件」等においては、4年に開発した時限式塩化ビニール管爆弾を引き続き使用した。一方、革労協狭間派も、「元国連大使宅放火未遂事件」等個人宅をねらった事件を3件引き起こした。
(4) 極左対策の推進
 警察は、全国的にアパートローラー等を実施し、秘密アジトや指名手配被疑者の摘発、検挙に努めるとともに、潜在違法事案の捜査を強化するなど、極左対策を強力に推進した結果、平成5年中、秘密部隊員29人をはじめ合計129人の極左暴力集団活動家を検挙し、秘密アジト9箇所を摘発した。

〔事例1〕 3月、中核派最高幹部が使用していた秘密アジトを摘発(大阪)
〔事例2〕 3月、静岡県内において、昭和61年5月4日発生の「迎賓館に向けた爆発物発射事件」で警察庁指定特別手配されていた中核派秘密部隊幹部を逮捕(警視庁)
〔事例3〕 5月、運輸省幹部宅に対するゲリラのための調査目的で隣家に侵入した中核派秘密部隊員2人を住居侵入で現行犯逮捕(警視庁)
〔事例4〕 6月、群馬県内の中核派秘密アジトを摘発し、同派秘密部隊幹部を有印私文書偽造・同行使で逮捕(警視庁、群馬)
〔事例5〕 12月、「三千院放火事件」(4月25日発生)等ゲリラ事件を引き起こした中核派幹部を逮捕(京都)

3 内外情勢の変化に敏感に反応した右翼

(1) 内外情勢の変化に敏感に反応して多様な取組みを展開
 平成5年中は、国家的な重要行事が連続して行われたほか、細川内閣誕生という大きな政治的変動があり、右翼は、これらを背景とした内外情勢の変化に敏感に反応して多様な活動を展開した。
 特に、エリツィン・ロシア大統領に対しては、7月、G7+1会合出席のため来日した際には、全国から約170団体、約2,200人を動員して、東京都内で「北方領土返還」を訴える集会、デモを行い、さらに、10月、国賓として再来日した際には、延べ約230団体、約1,400人、街頭宣伝車約350台を動員して、「ロシア国内での武力による議会制圧問題」も含め、激しい批判活動を展開した。
 また、連立政権をめぐり、細川首相の「侵略戦争発言」、新生党幹部、公明党と創価学会の関係、社会党の政治姿勢等に対する批判活動を行ったほか、いわゆるゼネコン汚職、皇室報道等を批判する街頭宣伝や抗議、要請行動に取り組んだ。
 こうした中、「日本刀所持外務省人質立てこもり企図事件」(10月、警視庁)、「大手建設会社本社に対する脇差所持侵入事件」(12月、警視庁)等7件のテロ、ゲリラ事件を引き起こした。
(2) 国民に嫌悪感を与えた右翼の不健全な資金活動
 右翼の中には、企業等に対し、政治結社であることを示したり、街頭宣伝をするとほのめかしたりして、賛助金等を要求するなど、悪質な手口で利益を得ているものがある。平成5年中、警察では、これら悪質な資金獲得目的の犯罪を110件検挙した。右翼のこうした悪質、不健全な資金活動は、国民に強い嫌悪感を与え、全国の地方公共団体等に賛助金等の拠出を抑制する動きが広まった。また、右翼の資金獲得の手段にもなっている大音量の街頭宣伝について、被害者の申立てにより、これを制限する仮処分命令が相次いで出された。
(3) 右翼対策の推進
ア 違法行為の防圧、検挙
 平成5年中、テロ、ゲリラ事件7件(8人)を含む計220件(280人)の右翼事件を検挙した(表8-1)。

表8-1 右翼によるテロ、ゲリラ事件の検挙状況(平成元~5年)

 また、銃器テロ等の未然防止を図るため銃器摘発に努め、右翼からけん銃24丁を押収した。警察は、今後とも右翼によるテロ等重大事件の未然防止を図るため、視察活動を強化するとともに、悪質な資金活動や街頭宣伝活動をめぐる不法事案等に対しては、あらゆる法令を駆使して徹底的な取締りを推進することとしている。

イ 右翼の拡声機騒音対策
 右翼の街頭宣伝活動等に伴う拡声機騒音が社会問題となる中、地方公共団体において、拡声機騒音に対する取締法令の不備を補うため、暴騒音規制条例を制定する動きが全国的に広がっており、5年には2府13県で新たに制定され、5年末現在、37都府県が制定している。警察では、これらの条例に基づき、停止(中止)命令を131件、勧告を214件発するなどの措置をとるとともに、全日本教職員組合第5回定期大会の開催に際し、右翼1人を検挙する(8月、愛知)などの取締りを行った。
 また、5年には、国会議事堂等周辺地域及び外国公館等周辺地域の静穏の保持に関する法律に基づき、静穏を保持すべき地域として4都道府県の延べ38箇所が指定され、警察では、先進7箇国外相・蔵相会議に際し、右翼1人を検挙する(4月、警視庁)など、所要の取締りを行った。

4 多様化する国際テロ

(1) 宗教、民族色を強めた国際テロ
 平成5年の国際テロ情勢は、イスラエルとPLOの相互承認及び暫定自治に関する原則宣言署名等による中東和平交渉進展の気運の中で、パレスチナ過激派による国際的なテロは減少したものの、イスラム原理主義過激派によるテロが頻発し、また、PIRA(暫定アイルランド共和軍)等の分離主義過激派によるテロも依然として活発であるなど、宗教、民族色が一層強くなってきている。
 イスラム原理主義過激派の犯行とみられるテロ事件は、従来の政府要人、公共施設に加え、外国人を標的とするものが目立った(表8-2)。

表8-2 イスラム原理主義過激派の犯行とみられる主なテロ事件(平成5年)

 ヨーロッパにおいては、分離や独立を求めるPIRA、PKK(クルド労働者党)等によるテロ事件が依然として多発した(表8-3)。
 アジアにおいては、LTTE(タミル・イーラム解放の虎)の犯行と

表8-3 ヨーロッパにおける分離主義組織による主なテロ事件(平成5年)

みられるプレマダーサ大統領暗殺事件(5月、スリランカ)のほか、ボンベイ市内連続爆弾事件(3月、インド)、カルカッタ市内誤爆事件(3月、インド)が発生した。また、サンボアンガ空港爆弾事件(2月、フィリピン)、仏教寺院手榴弾テロ事件(8月、タイ)等、イスラム反政府勢力の犯行とみられる爆弾テロが発生した。
 南米ペルーでは、MRTA(ツパク・アマル革命運動)、SL(センデロ・ルミノソ)等の左翼ゲリラ組織が、当局による幹部の相次ぐ逮捕により勢力を衰えさせており、散発的な爆弾事件等の発生はあるものの、同国のテロ情勢は鎮静化の方向にある。
(2) 岐路に立たされた日本赤軍
 日本赤軍は、中東情勢の変化に伴うシリア及びレバノンの政策転換により岐路に立たされ、活動の中心としてきたべカー高原の拠点を撤去したとみられるが、引き続きレバノン国内を中心に活動しているとみられる。また、機関紙等において、イスラエルとPLOの暫定自治合意等を批判的に論評し、従来から連帯関係にあるPFLP等の和平反対組織の路線に理解を示して反イスラエル闘争の継続を訴えるとともに、我が国国内における改憲阻止闘争等を繰り返し呼び掛け、引き続き国内、アジアを志向した闘争方針を有していることをうかがわせた。
 警察は、各国治安機関と連携して日本赤軍対策を推進し、クアラルンプール事件に関し、和光晴生の逮捕状の発付を得た(6月、警視庁)。
 なお、一連のハイジャック事件(ドバイ事件、ダッカ事件)で起訴されていたAに対し、無期懲役の判決が言い渡された(12月、東京地方裁判所)。
(3) 「よど号」犯人の「妻」たちの国際手配
 「よど号」犯人グループの妻と伝えられている北朝鮮在住の日本人女性のうち5人は、外務大臣から旅券返納命令を受けながら、これに従わず所在不明となっていた者であることが判明した。警察では、平成5年6月末までに、この5人について、旅券法違反の逮捕状の発付を得、さらに、ICPOを通じて国際手配を行った(警視庁)。これに対し、犯人グループは、当面、妻子の帰国実現に向け、国内支援者を通じて関係機関への働き掛けを強化するものとみられる。
 なお、「よど号」ハイジャック事件で起訴されていたBの上告が棄却され、懲役5年の刑が確定した(11月)。

5 連立政権下で勢力の伸長を図る日本共産党

(1) ソ連資金問題等の中、総選挙でほぼ現状を維持
 平成5年4月以降、新聞等において、ソ連共産党の秘密文書に基づき、ソ連共産党が日本共産党に対して、昭和37年から38年の間に参議院選挙、党本部建設等の資金として約9,000万円(当時)を援助したものを含め、30年から38年の間に少なくとも2億円(当時)を援助していたなどと指摘された。
 共産党は、「かりにそういう『資金』の流れがあったとしても、それは、党として要請したり受け取ったりしたものではまったくない」と主張し、平成5年7月の総選挙では、厳しい情勢下にもかかわらず、前回に比べ、得票数、得票率、議席数とも徴減させるにとどまり、ほぼ現状を維持した(表8-4)。

表8-4 総選挙における日本共産党の議席及び得票状況(平成5年7月)

(2) 細川内閣批判の取組みを重視
 共産党は、平成5年9月の第10回中央委員会総会において、細川内閣の政治改革方針を厳しく批判して「小選挙区制阻止闘争」を最重点に取り組むことを決定し、第128回国会では、政治改革関連法案に反対する立場から細川内閣を批判した。また、共産党系の労働組合、大衆団体等を動員し、全国各地で小選挙区制反対をテーマとする演説会、集会、街頭宣伝、署名活動等に取り組み、「闘争」の盛り上がりを図った。このほか、共産党は、ソ連の崩壊により冷戦が終わったとする「冷戦終結論」は誤りであり、これが党内に悪影響を及ぼしているとして、10月に全国都道府県思想建設部長会議を2年ぶりに開催するなど、党内の思想引締めを図った。
(3) 反連合勢力との共闘を目指す全労連
 日本共産党の指導、援助により平成元年に結成された全労連(全国労働組合総連合)は、「200万全労連600地域組織の確立」を当面の最重点課題に据え、平成4年の定期大会で提起した「組織拡大強化3ヵ年計画」の実行に着手した。しかし、公称勢力は140万人のまま伸長はなく、地域組織も400台半ばにとどまっている。また、景気の低迷、東京佐川急便事件等をとらえ、5年春闘を「社会的な力関係を変えるチャンス」と位置付け、ストを含む4次の全国統一行動を配置して取り組んだが、連合(日本労働組合総連合会)主導の春闘に影響を与えることはできなかった。
 このため、8月の定期大会では、「『連合』路線にくみしない単産・地方組織に対する共同強化の働き掛け」方針を提起し、小選挙区制、年金、国鉄等の課題を柱に、全労協(全国労働組合連絡協議会)をはじめとする反連合勢力を対象に共闘の働き掛けを行った。

6 「小選挙区制反対」等を中心に取り組まれた大衆運動

 平成5年の大衆運動は、「小選挙区制反対」、「コメ輸入自由化阻止」、「反核・反原発」、「反戦平和」等を主張して取り組まれた。
 このうち、政治改革関連法案の国会上程等の動きに呼応する「小選挙区制反対」の主張については、5月以降、各種の集会、デモが展開され、全国で4,321回延べ約42万9,000人が動員された。また、大衆運動全体としては、全国で1万4,033回延べ約305万2,000人の動員となり、前年に比べ、動員数は下回ったものの、回数はほぼ同じであった。
 運動形態の面においては、多数の動員を図るという旧来の形態に加え、全国各地の地域、職場、学園等で、多彩な大衆行動を展開するといった、いわゆる草の根運動に重点が向けられてきている。また、告訴、告発等の法的手段を駆使したり、地方議会での決議を働き掛けるなど、多様な形態が用いられるようになっている。

7 依然として活発な対日諸工作

 冷戦構造の崩壊後、新しい世界秩序の確立が期待されたが、地域紛争、宗教対立等が表面化するなど国際情勢は不透明である。こうした中、新憲法が制定され新議会が発足したものの、経済面での混乱が続き、民族主義、極右主義が台頭するなど政権基盤がなお不安定であるロシア、社会主義市場経済の定着を図るため改革開放政策を一層進める一方で、政治思想引締めを強化する中国、NPT脱退等で国際的孤立を深める北朝鮮等、我が国を取り巻く国際情勢は一層複雑になってきている。
 このような情勢を反映して、我が国において、我が国又は第三国に対して行われるスパイ活動や有害活動等は、依然として活発であり、近年は、我が国の国際的地位の向上を背景として、各界各層に対する謀略性の強い工作、高度科学技術情報の収集等を中心として行われている。スパイ活動等は、国家機関が介在して組織的かつ計画的に行われるため潜在性が強く、その実態の把握が困難であるが、我が国には、このようなスパイ活動等を直接取り締まる一般法規がなく、各種の刑罰法令による取締りに限られている。警察としては、市民生活の平穏を確保するため、現行法令を最大限に活用してスパイ活動等の取締りに努めている。
(1) 国内経済立て直しのため我が国への働き掛けを続けたロシア
 ロシアは、政治・経済両面にわたる改革努力を進め、G7としても、これに対し支援を行ってきた。平成5年4月、東京において、G7は、閣僚合同会合を開催し、434億ドルの支援パッケージを取りまとめ、東京サミットに際して、エリツィン大統領を招きG7+1会合を開催した。また、エリツィン大統領は、10月には初めて我が国を公式訪問した。
 日露関係改善に向けた動きが両国において活発化する一方で、ロシアは、今後とも、高度科学技術の入手等経済面での協力獲得を主たる目的として、我が国の各界各層に対する諸工作を強めることが予想される。
(2) 経済改革加速のため我が国との関係の緊密化を図った中国
 経済改革加速を進める中国は、我が国との関係の緊密化を図っており、日中両国の政府高官の往来も頻繁に行われた。他方、中国は、「四つの現代化」(農業、工業、国防、科学技術の現代化)を進めており、特に、国防予算は、高い伸び率を示している。さらに、ハイテク兵器が威力を発揮した3年の湾岸戦争以降、軍備の現代化に取り組んでいる。中国は、今後ともハイテク兵器の装備、開発に必要な高度先端技術等を導入するため、我が国の関連企業等に対する活発な働き掛けを行うことも予想される。
(3) NPT脱退等で危機感を強めた朝鮮総聯
 在日本朝鮮人総聯合会(朝鮮総聯)は、平成5年3月13日、北朝鮮のNPT脱退宣言に危機感を強め、これを全面的に支持する中央常任委員会声明を発表した。5月には、中央委員会第16期第2次会議を開催し、北朝鮮が、最高人民会議第9期第5次会議で採択した「祖国統一のための全民族大団結10大綱領」を支持する署名運動を行うことを提起、NPT脱退問題等で動揺する組織内の引締めと対外的な政治宣伝活動を展開した。また、11月には、中央委員会第16期第3次拡大会議を開催し、盟員の組織離れを防止するため、各種権利擁護運動に関する取組みを強化することとした。
(4) 更に強化された不拡散型輸出規制
 平成5年には、大量破壊兵器(核、生物及び化学兵器をいう。)及びミサイルの拡散、通常兵器の移転防止を目的とする不拡散型輸出規制が、国際的に更に強化され、我が国でも、輸出貿易管理令の一部改正により、生物兵器関連機材が新たに規制の対象に加えられた。また、現在、ココムに代わる新たな国際的枠組みが模索されており、これらの輸出規制の実効を期するためには、警察においても、地域紛争当事国等に対する大量破壊兵器関連資機材の不正輸出事案やこれらの関連技術をねらったスパイ活動等の取締りを強化していく必要がある。

8 緊迫した情勢の中での警衛、警護

(1) 天皇及び皇族の御身辺の安全を確保した警衛
 天皇皇后両陛下は、全国植樹祭(4月、沖縄)、国民体育大会秋季大会(10月、徳島、香川、皇后陛下はお取り止め)、全国豊かな海づくり大会(11月、愛媛)、地方事情御視察(5月、埼玉、11月、高知)及び被災地お見舞い(7月、北海道)等で行幸啓になった。海外へは、ベルギー(8月、国王葬儀御参列)並びにイタリア、ベルギー及びドイツの3国(9月)を御訪問になった。
 皇太子殿下は、国民体育大会冬季大会(2月、鳥取)、全国みどりの愛護のつどい(4月、福岡)で行啓、6月に御婚儀(東京、三重、奈良)が執り行われ、その後、皇太子同妃両殿下で献血運動推進全国大会(7月、岩手)等で行啓になった。
 警察は、極左暴力集団等の「皇室闘争」が激しく取り組まれる中、皇室と国民との親和に配意した警衛を実施して、御身辺の安全の確保と歓送迎者の雑踏事故の防止を図った。
(2) 変化する情勢の中での警護
 首相をはじめ閣僚等の国内要人は、第40回衆議院議員総選挙(7月)の応援、北海道(7月、奥尻島)及び鹿児島(8月)の被災地視察等のため、国内各地を訪問した。
 一方、東京サミット(7月)に出席するため、クリントン米国大統領等主要国首脳が来日したほか、エリツィン・ロシア大統領(10月)など、多くの外国要人が来日した。警察は、こうした内外要人の警護に当たり、銃器テロに対する警護措置等を講じ、その身辺の安全を確保した。


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