第5章 少年の非行防止と健全な育成

 我が国の次代を担う少年の非行を防止し、その健全な育成を図ることは、国民すべての願いである。
 刑法犯少年は戦後最高を記録した昭和58年以降減少傾向にあるものの、平成5年においては、刑法犯総検挙人員の半数近くを少年が占めているほか、凶悪、粗暴な非行事案の発生、大麻等の薬物の乱用事犯の増加傾向等、少年非行は依然として憂慮すべき状況にある。
 一方、近年、犯罪による少年の被害も年々増加している。特に、少女売春、シンナー密売等少年の健全な成長を著しく阻害する犯罪が後を絶たず、また、暴力団が悪質な事犯に関与し、少年に組織への加入を勧誘し、少年をその活動に使用するなど、少年の健全な成長に強い悪影響を及ぼしている状況もみられる。このほか、様々なメディアを通じて性や暴力に関する情報が氾(はん)濫し、性を売り物にした営業が次々と現れるなど、これらの社会環境が少年に与える影響も懸念されるところである。
 このような情勢に対処するため、警察では、少年を暴力団から守る活動、非行少年等の補導、少年の福祉を害する犯罪の取締り、少年相談、有害環境の浄化等を推進し、関係機関、団体、地域住民等との連携の下に、少年の非行を防止し、その健全な育成を図るための総合的な対策を推進している。

1 少年非行の現状

(1) 刑法犯少年の状況
ア 概況
 平成5年の刑法犯少年は13万3,132人(前年比750人(0.6%)減)で、刑法犯総検挙人員に占める割合は44.7%(2.3ポイント減)である。また、刑法犯少年の人口比(注)は12.2(0.4ポイント増)であり、成人の刑法犯検挙人員の人口比の約7倍である。主要刑法犯で補導した少年の人員、人口比の推移を現行少年法が施行された昭和24年以降についてみると、図5-1のとおりである。
(注) 人口比とは、同年齢層の人口1,000人当たりの人員をいう。

図5-1 主要刑法犯で補導した少年の人員、人口比の推移(昭和24~平成5年)

イ 多数を占める初発型非行
 平成5年の刑法犯少年の包括罪種別補導状況は図5-2のとおりで、窃盗犯が8万5,627人(全体の64.3%)で最も多く、次いで占有離脱物横領が2万7,181人(20.4%)となっている。また、単純な動機から安易に行われ、粗暴犯、薬物乱用等の本格的な非行の入口となることも多い初発型非行(万引き、自転車盗、オートバイ盗、占有離脱物横領の4種をいう。)で補導した少年は9万4,990人で、刑法犯少年総数に占める割合は71.4%(前年比1.4ポイント増)である。初発型非行で補導した少年の刑法犯少年総数に占める割合は、昭和63年以降70%以上で推移しているが、これは、自転車やオートバイの路上放置、店員の目が行き届かない大型販売店舗の増加等、初発型非行を誘発する環境が広範囲にわたっていることや少年自身の規範意識が低下していることなどによるものとみられる。
 なお、個々の罪種別の補導人員は、前年に比べ、窃盗、強盗、恐喝等が増加しているほか、傷害致死が2.4倍に急増し、過去最高となっていることが注目される。

図5-2 刑法犯少年の包括罪種別補導状況(平成5年)

ウ 14歳から16歳が非行の中心
 平成5年の刑法犯少年の年齢別補導状況は図5-3のとおりで、14歳から16歳までの低年齢層の少年が刑法犯少年総数の65.6%を占めている。

図5-3 刑法犯少年の年齢別補導状況(平成5年)

〔事例〕 中学3年生7人は、スリルと遊び感覚を求め、深夜に大学や事務所等計23箇所に忍び込み、現金や車、オートバイ等(約280万円相当)を盗んでいた。3月、2人逮捕、5人補導(京都)
 なお、5年の触法少年(刑法)は2万5,168人で、前年に比べ、窃盗犯(10.0%増)、粗暴犯(10.5%増)、凶悪犯(9.4%増)等が増加し、総数で1,883人(8.1%)増加した。
エ 凶悪、粗暴な非行が目立つ有職少年、無職少年
 5年の刑法犯少年の学職別補導状況は表5-1のとおりで、高校生が5万3,337人(40.1%)で最も多いが、人口構成比では2.9%にすぎない無職少年が、刑法犯少年総数の10.4%を占めている。また、凶悪犯、粗暴犯等の非行に占める有職少年、無職少年の割合が極めて高いことが注目される。
〔事例1〕 5月31日、有職少年(17)は、無免許で乗用車を運転中、男性(38)をはねたが、事故を隠すため被害者に灯油を掛け、ライターで火を着け殺害した。6月2日逮捕(沖縄)

表5-1 刑法犯少年の包括罪種別、学職別状況(平成5年)

〔事例2〕 10月20日、無職少年(17)は、駅の通路で通行中の会社員(28)と肩が触れたことから口論となり、立ち去った会社員の後を追い、約1キロメートル離れた路上で言い掛かりをつけ、所携の果物ナイフで会社員の頸(けい)部を刺して殺害した。同日逮捕(埼玉)
(2) 少年の薬物乱用
 平成5年にシンナー等の乱用で補導した犯罪少年は9,396人で、前年に比べ5,299人(36.1%)減少したものの、依然として少年による薬物乱用ではシンナー等の乱用が大きな比重を占めている。また、覚せい剤事犯で補導した犯罪少年は980人で、前年に比べ21人(2.1%)減少したが、大麻事犯で補導した犯罪少年は247人で、前年に比べ36人(17.1%)増加し、大麻事犯の統計を始めた昭和31年以降最高となった。
〔事例1〕 4月30日、無職少年(16)は、グループのたまり場の駐車場でシンナーを吸っていたところを付近の住民(59)に注意されたことに立腹し、暴力団員(23)とともに頭部等を殴って死亡させた。5月1日、2人逮捕(兵庫)
〔事例2〕 高校3年生25人(男子17人、女子8人)は、5月以降約15回にわたり、東京都内の公園でイラン人から大麻を買った上、夏休み中にキャンプ場や別荘で大麻パーティーを開いたほか、自宅等で大麻を吸引していた。9月、5人逮捕、20人補導(神奈川)
 これらの学職別状況は表5-2のとおりで、シンナー等の乱用、大麻事犯では、有職少年が全体の39.7%、45.3%を占めて最も多く、覚せい剤事犯では、無職少年が全体の55.5%を占めて最も多くなっている。また、覚せい剤事犯については、女子が50.4%を占めており、特に学生、生徒で女子の割合が高くなっている。

表5-2 シンナー等の乱用及び覚せい剤、大麻事犯で補導した犯罪少年の学職別状況(平成5年)

(3) その他の少年非行の形態
ア 暴走族少年
 犯罪少年として補導した暴走族少年の数は、昭和61年以降増加を続けていたが、平成5年は3,854人で、前年に比べ577人(13.0%)減少した。その罪種別補導状況は表5-3のとおりで、窃盗、傷害が高い比率を占めている。

表5-3 暴走族少年の補導状況(平成4、5年)

 また、暴力団が暴走族の結成や対立抗争に関与する例もみられ、暴走族少年が暴力団の影響を強く受けていることがうかがわれる。
〔事例〕 暴走族少年8人は、元暴力団員等成人5人と共謀して、いやがらせを続ける暴力団幹部(35)と暴力団員(25)を公園に連れ出し、けん銃で射殺した上、死体を遺棄した。9月、全員逮捕(群馬)
イ 校内暴力
 5年に警察が処理した校内暴力事件の状況は表5-4のとおりで、処理件数は470件(前年比97件(17.1%)減)である。そのうち、教師に対する暴力事件は269件(前年比40件(12.9%)減)である。校内暴力事件については、教育委員会、学校等と連携して対処しているが、総数、教師に対する暴力事件とも、警察が処理した件数は減少傾向にある。

表5-4 警察が処理した校内暴力事件の状況(平成5年)

ウ いじめに起因する事件
 5年にいじめ(注)に起因する事件で補導した少年の状況は表5-5のとおりで、補導人員は234人(前年比88人(27.3%)減)である。このうち、いじめにより補導した少年は223人(95.3%)、いじめに対する仕返しにより補導した少年は11人(4.7%)である。学職別では、中学生が180人(76.9%)で補導人員の大半を占めている。

表5-5 いじめに起因する事件で補導した少年の状況(平成4、5年)

〔事例〕 中学3年生2人は、かねてからいじめの対象にしていた同級生を呼び出し、プロレスや柔道と称して技を掛け、さらに、頭部、腹部を殴打するなどして死亡させた。4月逮捕(大阪)
 また、いじめにより少年を補導した84事件について、いじめた原因、動機をみると、被害者が「力が弱い・無抵抗」だからとするものが41件(48.8%)で最も多く、次いで「いい子ぶる・なまいき」だからとするものが20件(23.8%)となっている。
(注) 「いじめ」とは、単独又は複数の特定人に対し、身体に対する物理的攻撃又は言動による脅し、いやがらせ、無視等の心理的圧迫を反復継続して加えることにより、苦痛を与えること(ただし、番長グループや暴走族同士による対立抗争事案を除く。)をいう。
エ 家庭内暴力
 5年に少年相談等を通じて警察が把握した家庭内暴力の対象別状況は表5-6のとおりで、総数は715人(前年比42人(5.5%)減)である。対象別では、母親に対するものが440人(61.5%)で最も多い。また、原因、動機では、「しつけ等親の態度に反発して」が最も多く、「物品の購入要求が受け入れられず」、「非行をとがめられて」の順となっている。

表5-6 家庭内暴力の対象別状況(平成5年)

(4) 問題行動
ア 不良行為少年
 平成5年に補導した不良行為少年は64万3,706人である。その態様別状況は図5-4のとおりで、依然として喫煙や盛り場等における深夜はいかいが多数を占めている。

図5-4 不良行為少年の態様別状況(平成5年)

イ 家出
 5年に警察が発見し、保護した家出少年は2万8,302人(前年比4,083人(126%)減)である。その学職別状況は表5-7のとおりで、中学生が37.5%で最も多い。男女別では、女子が52.6%で過半数を占めており、最近数年間このような傾向が続いている。

表5-7 家出少年の学職別状況(平成5年)

ウ 自殺
 5年に警察が把握した少年の自殺者は447人(前年比77人(14.7%)減)である。その学職別状況は表5-8のとおりで、男女とも高校生の自殺が最も多い。自殺の動機についてみると、学校問題が113人(25.3%)で最も多く、次いで病苦等、家庭問題、異性問題の順となっている。

表5-8 自殺した少年の学職別状況(平成5年)

2 少年の被害の実態

(1) 犯罪による少年の被害
ア 刑法犯による被害
 平成5年における少年が被害者となった刑法犯の発生件数は表5-9のとおりで、36万6,392件に及んでおり、包括罪種別では、窃盗犯が約34万件(92.6%)で最も多く、次いで粗暴犯となっている。
 少年を被害者とする刑法犯の過去10年間の発生件数の推移は図5-5のとおりで、5年の件数は昭和59年に比べ81.7%増加している。罪種別では、窃盗が総件数とほぼ並行して増加しているほか、器物損壊等が増加している。これは、自転車、オートバイ等の安易な路上放置が増加したことが影響しているものとみられる。
 このほか、59年に比べ、強盗(28.2%増)、略取誘拐(161%増)、強制わいせつ(37.9%増)、逮捕監禁(4.2%増)等の罪種による被害が増加していることが注目され、少年の心理に及ぼす影響が懸念される。

表5-9 少年が被害者となる刑法犯発生件数(平成5年)

図5-5 少年被害の刑法犯発生状況の推移(昭和59~平成5年)

イ 福祉犯による被害
 平成5年に少年の福祉を害する犯罪(以下「福祉犯」という。)の被害者となった少年(以下「福祉犯被害少年」という。)の総数は1万4,912人であり、うち女子が9,274人(62.2%)を占めている。その法令別の状況は表5-10のとおりで、男子では毒物及び劇物取締法、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営適正化法)に係る被害が多く、女子では青少年保護育成条例に係る被害が多く、次いで毒物及び劇物取締法、風営適正化法の順となっている。

表5-10 福祉犯被害少年の法令別状況(平成5年)

 また、福祉犯被害少年の学職別状況は表5-11のとおりで、無職少年が4,595人(30.8%)で最も多く、次いで高校生が4,474(30.0%)となっている。女子についてみると、無職少年が3,300人(35.6%)で最も多く、次いで高校生が2,584人(27.9%)となっている。また、福祉犯被害少年のうち、家出少年は1,234人で、全体の8.3%を占めている。

表5-11 福祉犯被害少年の学職別状況(平成5年)

(2) 少年をねらう暴力団
 暴力団は、その資金源の一つとして福祉犯を敢行する一方、組織勢力の維持拡大のため少年に対し組織への加入を勧誘するなど、少年の健全な成長を著しく阻害している。
 平成5年に暴力団が関与する福祉犯の被害者となった少年は2,811人で、福祉犯被害少年総数の18.9%を占め、暴力団が少年に対する薬物の密売や少女売春等悪質性の高い事案に関与している実態がみられる。
 また、5年中に都道府県警察の活動を通じて把握された少年の暴力団員の総数は全国で1,074人であり、このほか、1,776人の少年が暴力団の影響を強く受け加入を勧誘されており、267の暴走族等の集団が暴力団の影響下にあるとみられている。警察庁が都道府県警察の協力を得て、5年3月から6月の間に暴力団組織から離脱し、又は暴力団員との交際を絶った少年1,336人を対象に実施した調査によると、暴力団への加入又は暴力団員との交際(以下「暴力団加入等」という。)の開始年齢は17歳(全体の29.6%)が最も多く、次いで16歳(同26.9%)となっている。
 暴力団加入等のきっかけについては、「先輩、友人に誘われて」が最も多く、全体の67.3%を占めており、その動機は「格好が良いから」(全体の40.8%)、「暴力団であれば大きい顔ができるから」(同35.3%)という回答が多い。しかし、暴力団加入等の後の感想は表5-12のとおりで、肯定的評価よりも否定的な内容の回答の方が著しく多くなっている。

表5-12 暴力団加入(交際)の感想(複数回答)

 暴力団加入等の期間中にしていたことは、「電話当番、事務所当番等組の雑用」が最も多く、少年組員の67.4%、その他の少年の18.8%が行っている。このほか、少年組員の14.5%、その他の少年の9.3%が「暴力的犯罪行為」を、少年組員の11.3%、その他の少年の19.2%が「薬物の乱用、密売等」を行っており、暴力団が犯罪行為に少年を関与させている実態がみられる。
(3) 少年の性にかかわる有害環境
 従来、デートクラブ、テレホンクラブ等の営業に関連して、女子少年が淫(いん)行、売春等の福祉犯の被害に遭っている実態がみられたが、最近はこれに加え、ツーショットダイヤル営業(注1)、ブルセラショップ(注2)等の新たな営業形態が全国的に広がっている。これらの営業は、利用方法が簡便であったり、利用の際の心理的負担が少ないなどの点で、少年が利用しやすくなっているが、結果的に女子少年が重大な福祉犯の被害に遭うことも多く、また、女子少年が安易に金銭を得る手段としてこれらの営業を利用することにより、少年の性に関する価値観に与える影響も懸念される。
(注1) 「ツーショットダイヤル営業」とは、不特定の男女に通話させる営業をいい、具体的には、男性が街頭に設置された自動販売機からプリペイドカードを購入し、又は一定金額を銀行に振り込み、業者から通知された暗証番号を用いて電話を掛けると、業者が設置したツーショット交換器と呼ばれる電話交換設備を通して、フリーダイヤルで掛けてきた女性と会話することができるものである。
(注2) 「ブルセラショップ」とは、女子高校生等から使用済みの下着、制服等を購入し、これを販売する営業をいう。
 平成5年に性の逸脱行為で補導した女子少年(注)は3,946人であるが、その動機についてみると、興味(好奇心)によるものが40.8%を占めて最も多く、次いで遊ぶ金欲しさによるものが20.7%を占めており、女子少年自身の好奇心を刺激するとともに、安易に金銭を得させるような有害環境の存在が女子少年の性の逸脱を誘発し、助長しているものと考えられる。
(注) 「性の逸脱行為で補導した女子少年」とは、売春防止法違反事件の売春をしていた女子少年、児童福祉法違反(淫(いん)行させる行為)事件、青少年保護育成条例違反(みだらな性行為)事件及び刑法上の淫(いん)行勧誘事件の被害女子少年、ぐ犯少年のうち不純な性行為を行っていた女子少年並びに不良行為少年のうち不純な性行為を反復していた女子少年をいう。

3 少年の非行防止、健全育成対策の推進

(1) 少年を暴力団から守る活動
 警察では、少年に対する暴力団の影響を排除して少年の健全育成を図るとともに、暴力団への人的供給とその資金源を遮断するため、少年の暴力団離脱及び加入防止対策と暴力団関与の悪質福祉犯の取締りを重点に「少年を暴力団から守る活動」を推進している。
 平成5年は「少年組員ゼロ作戦」を実施するなどして、少年組員及び暴力団の影響下にあるとみられる少年とその保護者等に対する説得、指定暴力団による少年の加入勧誘に対する中止命令の発出等、少年の暴力団離脱及び加入防止対策を強力に推進した。
 この結果、5年には、少年組員781人を暴力団組織から離脱させ、少年1,659人の暴力団への加入を防止したほか、上納金を納めるなど暴力団の影響下にあった227の非行集団を解体補導した。これらの少年は、暴力団対策法の施行による暴力団排除機運の高まりを背景に、将来に不安を抱いていたところ、警察官の働き掛けを契機として暴力団との関係を絶つことを決意したものとみられる。
〔事例1〕 4月、暴力団組長による少年組員(16)に対する児童福祉法違反事件の検挙を契機として、少年組員に対し粘り強く説得を行い、少年組員から暴力団を離脱する旨の誓約書を徴するとともに、暴力団組長から、少年の離脱を承認し、これを妨害しない旨の誓約書を徴した(警視庁)。
〔事例2〕 4月、少年(19)の母親からの相談を契機として、指定暴力団の幹部が少年に対して暴力団への加入を勧誘している事実を把握し、加入勧誘の中止を命令して少年の加入防止を図った(神奈川)。
〔事例3〕 5月、少年組員による暴走族構成員(中学生)に対する暴行傷害事件の検挙を契機として、少年組員(17)を暴力団から離脱させるとともに、暴力団に上納金を納めるなど暴力団の支配下にあった暴走族を解体補導した(愛知)。
 また、暴力団が関与する悪質事犯に重点を置いた福祉犯の取締りを推進し、5年中に1,190人の暴力団員を福祉犯で検挙した。これは、福祉犯総検挙人員の12.8%に当たるが、特に覚せい剤取締法、児童福祉法等の違反については、検挙人員に占める暴力団員の割合が高くなっている。
〔事例〕 住吉会系暴力団組長(46)等は、家出中の女子高校生等2人を芸妓(ぎ)置屋に住み込み芸妓(ぎ)として一人当たり200万円で売り渡し、旅館等に派遣して働かせていた。9月、児童福祉法違反等により暴力団組長、幹部等暴力団員7人を含む9人逮捕、10人検挙(岡山)
(2) 少年の福祉を害する犯罪の取締り
 警察では、少年の心身に有害な影響を与え、また、少年の非行を助長する原因ともなる福祉犯の取締りを推進するとともに、その被害を受けている少年の発見、保護に努めている。平成5年の福祉犯の検挙人員は9,292人(前年比645人減)である。その法令別検挙状況は図5-6のとおりで、毒物及び劇物取締法違反が最も多く、次いで青少年保護育成条例違反となっている。福祉犯検挙人員のここ数年の推移をみると、覚せい剤取締法、大麻取締法等による検挙人員が増加傾向にあり、少年の薬物乱用のまん延が懸念される。また、享楽的な社会風潮を反映して、デートクラブ、テレホンクラブ、ブルセラショップ等の営業が増加するとともに、これらを犯行の場とする福祉犯も目立っている。
〔事例〕 デートクラブ経営者(38)等4人は、5年4月に営業を始め、女子高校生等をデート嬢として待機させ、男性客の指名に応じてデートさせたほか、客の求めに応じて売春させていた。9月、経営者等

図5-6 福祉犯の法令別検挙状況(平成5年)

 4人を児童福祉法違反(淫(いん)行させる行為等)で逮捕。会社員(46)等6人を青少年保護育成条例違反で逮捕。女子高校生56人を含む63人を補導(神奈川)
(3) 少年の薬物乱用防止対策の推進
 近年、少年による大麻等の乱用事犯、覚せい剤や大麻等の少年に対する密売事犯が増加しており、少年による薬物の乱用がシンナー等を経て、これらの本格的な薬物に移行していることも懸念される。警察では、少年の薬物乱用防止のための総合的な対策を講じており、特にシンナー等については、少年が暴力団関係者等から購入するほか、スーパーマーケット、日曜大工店等での購入、建設作業現場、塗装会社等からの窃取により容易に入手できる状況にあるため、暴力団等による密売事犯の検挙に努めるほか、シンナー等の販売店、取扱業者に対し、その取扱いに関する自主規制を要請している。また、薬物乱用少年の早期発見に努め、保護者等と連絡を取りながら、再乱用防止の観点から少年に対する適切な指導、助言を行っている。
(4) 少年を取り巻く社会環境の整備
ア 少年を取り巻く有害環境の浄化
 警察では、少年の健全な育成に有害な影響を与えるおそれのある社会環境がますます拡大していることから、地域住民や関係団体、関係機関と連携して、少年を取り巻くこれらの有害環境の浄化に努めている。
 近年は、様々なメディアを通じて性や暴力に関する情報が氾濫し、とりわけ、露骨な性描写を盛り込んだ少年少女向けの漫画やパソコン用ゲームソフトが一般の書店等身近な所で販売されている実態にかんがみ、警察では、関係機関に対し積極的な働き掛けを行っており、5年には、青少年保護育成条例に基づき、全国で延べ3,900冊の少年少女向け漫画が有害図書として指定された。
 また、営業店舗の増加が著しく、少年非行の温床となることが懸念されているカラオケボックスについては、業界に対する指導、要請を強めており、これを受けて、カラオケボックス営業者の全国組織である日本カラオケスタジオ協会では、少年の非行防止と善良な風俗環境の保持に配意した自主規制基準を定め、5年には、各都道府県の防犯協会連合会、少年補導員協議会の協力を得て、カラオケボックス営業の管理者を対象とする講習会を全国で実施した。
 さらに、ツーショットダイヤル営業やブルセラショップ等、新たな形態の有害環境については、これらの営業の背後で敢行されている福祉犯の検挙だけでなく、あらゆる法令の適用を検討して、違法行為に対する積極的な取締りに努めている。
〔事例1〕 3月、ツーショットダイヤル営業で知り合った女子中学生(13)や無職少女(17)に対する青少年保護育成条例違反(みだらな性行 為)で公務員等6人を検挙したことを契機として、営業者を電気通信事業法違反(郵政大臣への届出義務違反)で逮捕(長崎)
〔事例2〕 8月、使用済みの下着を売りにきた女子高校生等を出演させて裏ビデオを制作販売していたブルセラショップの店長を、児童福祉法違反(有害業務の募集)及び猥褻(わいせつ)図画販売目的所持で逮捕し、会社及び経営者を古物営業法違反(無許可営業)で検挙(警視庁)

イ 初発型非行防止のための環境整備
 近年、万引きや自転車盗等の少年非行が増加している背景には、これらの初発型非行を誘発する社会環境の存在があるとみられることから、警察では、関係業界等に対し、少年非行が行われやすい環境を改善するよう協力を求めている。特に万引きの防止については、デパート、書店等関係業界との連絡協議会を各地域に設けており、商品の陳列方法の改善や保安体制の強化等自主的な対策の徹底を要請している。また、自転車盗、オートバイ盗等の防止の観点から、自転車販売業者に対しては防犯登録や効果的な施錠の勧奨を、また、自治体、駅等に対しては駅周辺の自転車置場、駐輪場等の整備とその適切な管理等を要請している。
(5) 非行少年等の補導活動
 警察では、少年係の警察官、婦人補導員等を中心に、少年補導員等地域のボランティアと協力して、盛り場、公園等非行の行われやすい場所での街頭補導を日常的に実施し、非行少年等の早期発見、補導に努めている。非行少年を発見したときは、少年の特性に十分配慮しつつ、保護者等と連絡を取りながら、非行の原因、背景、少年の性格、交友関係、保護者の監護能力等を検討し、再非行防止のための処遇に関する意見を付して関係機関に送致、通告するなどの措置をとっている。また、不良行為少年については、再非行防止の観点から、警察官等がその場で注意や助言を与えたり、必要な場合には保護者等に対して指導や助言を行っている。


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