第10章 警察活動のささえ

1 警察職員

 我が国の警察組織は、都道府県を単位としており、都道府県公安委員会の管理の下に警察職務を直接遂行する都道府県警察が置かれ、これら都道府県警察を国家的、全国的な立場から指導監督し、又は調整する国の警察機関として、国家公安委員会の管理の下に警察庁が置かれている。警察庁及び都道府県警察に勤務する警察職員は、警察官、皇宮護衛官、事務職員、技術職員等で構成され、これらの職員が一体となって警察職務の遂行に当たっている。
 警察が治安維持の責務を全うしていくためには、現在警察で勤務している職員のおう盛な士気を維持するとともに、今後の警察を担っていく人材を確保していく必要がある。そのため、全国の警察を挙げて、職員の待遇改善、勤務環境の整備等に努めているところであり、現在の職員のみならず、将来警察で勤務する者にとっても、更に魅力のある職場づくりを積極的に推進しているところである。
(1) 定員
 警察職員の定員は、平成5年4月1日現在、総数25万9,205人で、その

表10-1 警察職員の定員(平成5年)

内訳は、表10-1のとおりである。4年度は、地方警察職員たる警察官の増員は行われず、警察官一人当たりの負担人口は、全国平均で559人となり、前年度に比べて負担が増大した。
(2) 教育訓練
 警察官には、逮捕、武器使用等の実力行使の権限が与えられており、また、自らの判断と責任で緊急に事案を処理しなければならない場合も多いことから、職務執行を適正に行うためには、高度な実務能力と円満な良識とを兼ね備えていなければならない。このため、警察では、日常的に職場教養を実施するとともに、警察学校において、新しく採用した警察官に対する採用時教養、各階級昇任者に対する昇任時教養、専門分野に応じた各種の専科教養等の集合研修を実施するなど、あらゆる機会を通じてきめ細かな教養を行い、各階級、各職種において求められる実務能力のかん養に努めるとともに、柔道、剣道、逮捕術、けん銃操法、体育等の術科訓練を通じて、体力、気力の充実及び職務執行に必要な技能の習得に努めている。
 警察学校における教養の中で特に重要なものは、採用時教養である。そこでは、新たに採用した警察官に対して、警察官として必要な法律知識や技能を身に付けさせるとともに、部外講師を招へいして情操教育を実施するなど豊かな人間性をはぐくむための教育訓練を行っている。また、警察学校における教育効果を高めるためには、教室や生徒寮等の施設充実をはじめとする教育環境の整備が不可欠である。そのため、学生が快適な居住環境の下で生き生きと学校生活を送れるように、学生のプライバシーを十分配慮した生徒寮の改善、ゆとりのあるカリキュラムや十分な自由時間の設定等の工夫を行っている。
 このほか、警察では、人材の育成を図るため、海外研修制度、各種資格取得奨励制度等の拡充に努めている。特に海外研修制度については、犯罪の国際化に的確に対応するため、語学能力と実務能力を兼ね備えた国際捜査官の養成を目的として、警察大学校の附置機関である国際捜査研修所において、語学研修を主とした海外研修を行っている。また、都道府県警察においても、海外研修制度を積極的に取り入れている。
 また、警察官に求められる職業倫理の確立と使命感の醸成を図るため、その指針として設けた「警察職員の信条」を中心とする職業倫理教育に力を入れているほか、市民の立場に立って親切かつ適切に職務を行うため、応接態度と言葉遣いの改善を目的に、民間企業への派遣研修、部外講師による接遇マナー講習会、応接指導者研修等を行っている。
(3) 勤務
ア 警察職員の勤務
 警察では、昼夜を分かたぬ治安維持の責務を果たすため、24時間警戒体制を確保している。そこで、地域警察官をはじめ全警察官の4割以上は、交替制勤務で3日ないし4日に1度の夜間勤務を行っている。交替制勤務者以外でも、警察署に勤務する警察官の多くは、6日に1度程度の割合で夜間勤務に従事している。また、突発事件、事故の捜査等のため、勤務時間外に呼び出されることもある。
 このため、警察官をはじめとする警察職員の勤務条件、給与、諸手当等の待遇について、常に改善を検討しており、これまで、駐在所勤務員の複数化、交番等の勤務環境の改善、階級別定数の見直し、完全週休二日制導入に伴う勤務制度の改善等を図ってきたが、今後とも職員の待遇の改善を積極的に推進することとしている。
 勤務時間については、警察庁にあっては平成4年5月1日から、都道府県警察にあっては4年中に条例改正が行われた後、それぞれ完全週休二日制が導入された。このため、警察では、治安維持の責務を全うしつつ、週40時間勤務制に対応できるよう、勤務制度や業務処理方法の改善、人員の効率的運用等を推進しているところである。
 さらに、夏季等における休暇の連続取得の普及や年次休暇の計画的取得の促進を図るなど、職員が休暇を取得しやすい環境づくりも積極的に推進しているところである。
〔事例〕 全国の都道府県警察では、いわゆるリフレッシュ休暇制度を導入し、各種表彰を受賞した職員等が一定期間の連続休暇(年次有給休暇)を容易に取得できるようにしており、さらに、互助会等からは旅行補助等の金銭上の援助、助成等が行われている。
イ 警察官の殉職、受傷
 警察官は、国民の生命、身体等を保護し、公共の安全と秩序を維持するために自らの身の危険を顧みず職務遂行に当たり、その結果、職に殉じたり受傷したりする場合がある。4年においては、交番において勤務中の警察官が刃物で刺され死亡する事案、連続強盗致傷事件で指名手配中の凶悪犯人を逮捕しようとした警察官がけん銃で撃たれ死亡する事案等が発生した。このように、職に殉じたり受傷した警察官又はその家族に対しては、公務災害補償制度による補償のほか、子弟に対する奨学金等各種の手厚い保護の措置がとられている。
〔事例〕 2月14日の深夜、警視庁のA警部補(42)は、交番において一人で勤務していたところ、地理案内を装った犯人に、いきなり刃物で襲われ殉職した。同人の遺族に対しては、特殊公務災害として法律に基づく給付金が支給されたほか、同人の果敢な職務執行をたたえるために、国や都から賞じゅつ金が支払われた。
(4) 婦人警察職員
 平成5年4月1日現在、都道府県警察には、婦人警察官約5,400人、婦人交通巡視員約2,000人、婦人補導員約950人、一般職員約1万3,300人の

女性が勤務しており、それぞれの分野で活躍している。
 4年度においては、婦人警察官を採用する都道府県警察の数が、前年度の32から43に増加した。また、婦人警察職員の働く分野も次第に拡大され、現在では、交通指導取締り、少年補導、女子の留置、保護、広報等のみならず、犯罪捜査、鑑識活動、警衛、警護、警備、情報分析等の様々な分野に及んでいる。今後は、警察庁を含めた各警察組織において、更に多くの婦人警察職員が幅広い職域で活躍することが期待されている。
(5) 採用への総合的な取組み
 平成4年度に都道府県警察の警察官採用試験を受験した者は約4万7,200人、合格した者は約6,100人(うち大学卒業者は約2,800人)であり、競争率は7.7倍であった。
 警察官としてふさわしい能力と適性を有する人材を確保することは、警察力の基盤強化を図る上で極めて重要な意義を有しており、このため、警察ではこれまでも人材の確保に努めてきた。しかし、今後、警察官の採用必要数が増加していくことが見込まれる反面、若年人口は減少していくことなどから、警察官の採用をめぐる情勢についても、厳しさを増すことが予想される。このような情勢を踏まえ、今後とも人材の確保を図るため、勤務環境を改善するとともに、快適な独身寮の整備、拡充等をはじめとする各種施設の整備を図るなど、魅力ある職場づくりのための施策を積極的に推進している。
(6) 国民の立場に立った警察運営
 警察運営が国民の期待と信頼にこたえたものとなるようにするには、すべての警察職員が職責を自覚し、その持てる能力を十二分に発揮して、職務に精励することが大切である。そこで、警察庁及び各都道府県警察に設置している「業務適正化委員会」において、職務執行をめぐる過去の教訓等を踏まえながら、警察各部門における業務運営や服務に関する問題点を抽出して、現場活動等の充実、強化等の具体的かつ効果的な業務改善方策を講じることとしている。

2 協力援助者等に対する救済
(1) 警察官の職務に協力援助した者等に対する救済
 一般の市民が社会公共のため現行犯人の逮捕、人命救助等警察官の職務に協力援助して、負傷し、疾病にかかり、障害を負い、又は死亡した場合は、本人やその家族の生活の安定を図るため、その程度に応じて国又は都道府県が救済を行っている。
 平成4年に、警察官の職務に協力援助して死亡し、又は受傷した市民は、死者12人、受傷者27人で、前年に比べ、死者は2人減少し、受傷者は13人増加した。
〔事例〕 会社員(32)は、乗用車で走行中、少年からの通報により小学生が川でおぼれているのを発見し、着衣のまま飛び込んで救助したが、力尽きて死亡した。これに対しては、葬祭給付及び遺族給付が支給された(兵庫)。
(2) 犯罪被害者等に対する救済
 犯罪被害給付制度は、通り魔殺人や爆弾事件等故意の犯罪行為により不慮の死を遂げた被害者の遺族又は身体に重大な障害を負った被害者に対して、社会の連帯共助の精神に基づき、国が遺族給付金又は障害給付金(以下「給付金」という。)を支給し、その精神的、経済的打撃の緩和を図ろうとして創設されたものであり、昭和56年1月1日から実施されている。
 被害者又は遺族からの給付金の申請に対する各都道府県公安委員会の裁定等の状況をみると、制度創設以来12年間に2,736人に対して総額約60億4,500万円の給付金が支給されている。

3 予算

 警察予算は、国の予算に計上される警察庁予算と各都道府県の予算に計上される都道府県警察予算とで構成される。警察庁予算には、警察庁、管区警察局等国の機関に必要な経費だけでなく、都道府県警察が使用する警察用車両やヘリコプターの購入費、警察学校等の増改築費、特定の重要犯罪の捜査費等の都道府県警察に要する経費や都道府県警察への補助金が含まれている。
 平成4年度の国の予算編成においては、財政改革の推進と内需を中心とした景気の持続的拡大の維持という二つの要請にこたえるべく、「平成3年度当初予算における経常部門経費の予算額から10パーセントを削減した金額と投資部門経費の予算額相当額との合計額」という概算要求基準が設定された。警察庁としては、このような厳しい財政状況の下においても現在の治安水準を維持するため、暴力団対策の強化、捜査力の充実強化、麻薬・覚せい剤等薬物対策の強化等について、重点的に予算措置している。
 4年度の警察庁当初予算は、総額2,134億6,400万円で、前年度に比べ102億3,200万円(5.0%)増加し、国の一般会計予算総額の0.3%を占めている。また、補正後予算の内容は、図10-1のとおりである。
 4年度の都道府県警察予算は、各都道府県において、それぞれの財政事情、犯罪情勢等を勘案しながら作成されているが、その総額は2兆9,924億5,400万円で、前年度に比べ1,874億4,700万円(6.7%)増加し、都道府県予算総額の6.3%を占めている。その内容は、図10-2のとおりである。
 警察庁予算と都道府県警察予算の合計額(重複する補助金額を控除し

図10-1 警察庁予算(平成4年度補正後)

図10-2 都道府県警察予算(平成4年度最終補正後)

た額)を国の人口で割ると、国民一人当たり約2万5,000円となる。

 4 装備

(1) 車両
 警察用車両には、捜査用車、鑑識車等の刑事警察活動用車両、交通パトカー、白バイ、交通事故処理車等の交通警察活動用車両、警らパトカー、移動交番車等の地域警察活動用車両等があり、現有警察用車両の用途別構成は、図10-3のとおりである。

図10-3 警察用車両の用途別構成(平成4年度)



 平成4年度は、暴力団対策や重要事件捜査等のための刑事警察活動用車両、高速道路用の交通指導取締り用車両、薬物乱用取締り用車両、駐在所用のミニパトカ-、重大テロ、ゲリラ対策用の車両等の増強整備を図るとともに、既に配備されている警察用車両についても、耐用年数を経過して特に減耗度の著しい車両を重点に更新整備を図った。
 今後も、警察事象の広域化、悪質化に的確に対応して、国民の負託にこたえていくためには、警察機動力のかなめである警察用車両の整備充実を一層推進していく必要がある。
(2) 船舶
 警察用船舶は、全長5メートル級から20メートル級のものが合計203隻あり、港湾、離島、湖沼等に配備され、多様化する水上レジャーの指導取締り、水難救助、覚せい剤等の密輸事犯の取締り等の水上警察活動に活用されている。
 今後の警察用船舶の整備に当たっては、水上警察事象の広域化、高速化に対応するため、より大型化、高速化、高性能化を図っていく必要がある。
 なお、水上警察活動については、第4章3(2)参照。

(3) 航空機
 警察用航空機は、空からのパトロール、犯人の捜索や追跡等の捜査活

動、交通指導取締り、救難救助等警察活動全般にわたる幅広い分野で活動している。
 平成4年度は、警視庁に空中警備用として中型ヘリコプター2機を新規に配備したほか、警視庁の中型、小型ヘリコプター各1機の老朽化による減耗更新を実施した。この結果、ヘリコプターの配備数は、47都道府県警察に合計64機となった。
 今後とも、高速性、広視界性に優れた警察用航空機の各都道府県警察における複数配備を推進していく必要がある。
 なお、警察用航空機の活動については、第4章3(4)参照。
(4) 装備資機材の開発
 警察では、警察活動の基盤となる装備資機材に、最先端科学技術を導入することによって、警察業務の効率化と高度化に努めている。
 平成4年度においては、第一線警察からのニーズが強い受傷事故防止用資機材、テロ、ゲリラ対策用資機材、個人装備品等の開発改善に努めた。

5 警察活動とコンピュータの活用

(1) 犯罪捜査におけるコンピュータの活用
ア 第一線からの照会
 警察庁では、都道府県警察から手配された「人」(家出人等)、「車」(盗難車両等)、「物」(各種盗難品等)に関するデータを大型コンピュータで管理しており、全国の第一線警察官からの照会に対して即時に該当の有無を回答することにより、警察活動を支援している。
 また、自動車を利用した犯罪に対応し、手配車両を早期に発見するため、「自動車ナンバー自動読取システム」や携帯型コンピュータによる「車 両検索システム」の整備を行い、盗難車両等の発見に大きな成果を挙げている。
イ 捜査情報のコンピュータ処理
(ア) 捜査情報交換システムと多角照合システム
 「捜査情報交換システム」は、各都道府県警察において収集した犯罪等に関する情報のうち、複数の都道府県にまたがり、かつ同一犯人の犯行と考えられる事犯に関する情報を、警察庁に設置されている大型コンピュータを利用して都道府県警察等の間で相互に交換するシステムである。「多角照合システム」は、「捜査情報交換システム」により交換した情報等について大型コンピュータを用いて関連性を調べ、被疑者の絞り込みを行うシステムである。これらのシステムは、広域事件等の捜査に威力を発揮している。
(イ) 捜査資料の解析
 捜査活動で押収した膨大な書類、帳簿等を手作業で分析処理するには大変な人手と時間が掛かるため、これをコンピュータで集計、分析することにより捜査の迅速化、合理化を図っている。
 また、最近は、企業の会計事務等がコンピュータ処理されていることが多いため、押収した磁気テープ、フロッピー・ディスク等の解読、分析等にコンピュータを用いている。
〔事例〕 サラ金110番の相談を基に捜査した結果、高金利の事実を突き止め、貸金業者の事務所等を捜索し、契約書等の証拠品を押収した。コンピュータを用いた証拠品のデータ処理を行うことにより、設定金利が法定金利をはるかに上回ることを確認し、代表取締役(50)をはじめ関係者12人を検挙(福島)
ウ 指紋の照合
 警察庁では、昭和57年10月から「指紋自動識別システム」を導入して指紋の登録を開始し、58年10月から遺留指紋照会を、59年10月からは被疑者の身元や余罪を確認する業務を開始し、被疑者の割り出し、身元確認等に大きな役割を果たしている。
(2) 運転免許業務におけるコンピュータの活用
 全国の運転免許保有者数は、平成4年末現在6,410万人を超えている。これらの運転免許に関するデータは、警察庁の大型コンピュータで全国的な管理を行っており、都道府県警察の運転免許試験場等に設置した端末装置からの照会に対して即時に回答することにより、次のような業務を処理している。
ア 免許証の交付事務処理
 運転免許試験に合格した人や免許証の更新を申請した人に対して、必要なチェックを行い、迅速な免許証の交付に努めている。また、都道府県公安委員会ごとに発行される免許証を警察庁で一元管理することにより、免許証の二重取得等の不正を防止している。
イ 行政処分と危険運転者の排除
 危険運転者を排除するために行われる免許の取消し、停止等の行政処分を迅速、的確に行うため、警察庁では、交通違反等に係るデータの集中管理、行政処分の該当者への通報を行っている。
(3) 行政サービスの向上と警察業務のOA化
ア 市民応接関連システムの導入
 各都道府県の警察署において、遺失拾得届管理業務、自転車防犯登録業務をコンピュータで迅速、的確に処理するシステムを導入し、窓口業務の合理化と市民サービスの向上を図っている。
イ ネットワーク化の推進
 各都道府県警察において、市民サービス、事務能率の向上を目指し、警察署にパソコンを設置し、警察本部の大型コンピュータとデータ通信回線で接続することにより、警察署の端末から県下全域にわたる情報を検索することのできる県内情報ネットワークの構築を進めている。
(4) 情報処理に関する技術的研究
 警察庁では、最近の犯罪の広域化、スピード化、巧妙化等に対応して、警察活動の近代化、科学化を推進すべく、AI(人工知能)技術、パターン認識技術、画像処理技術等、最先端のコンピュータ技術を応用した各種の情報処理システムの開発を推進している。平成4年度は、「現場遺留指紋画像処理システム」、「コンピュータウイルス対策」に関する調査研究を実施した。5年度からは、「掌紋自動識別システム」、「警察情報管理システムのダウンサイジング化」に関する調査研究を実施している。

6 通信

 警察では、あらゆる警察活動の円滑な遂行を図るため、各種情報の伝達が迅速、的確に行われるように各種情報通信システムの開発、導入を推進している。
(1) 全国の警察活動をささえる通信基盤
 警察は、警察自営の無線多重回線や第一種電気通信事業者から借り上げた専用回線等から構成される警察専用の伝送路を有しており、これらを使用して、警察電話、ファクシミリ、データ通信等全国の警察活動を支援する各種情報通信システムを構築している。
ア 無線多重回線
 警察自営の無線多重回線は、警察庁と各管区警察局等との間を結ぶ管区間系無線多重回線と、管区警察局と管区内の各府県警察本部等との間を結ぶ管区内系無線多重回線等から構成され、管区間系無線多重回線については、災害等による通信途絶を防止するため2ルート化を図っている。なお、各種情報通信システムの構築に柔軟に対応できるよう、昭和57年度から、無線多重回線のデジタル化(PCM方式)を推進しており、既に札幌から福岡に至る第1ルート管区間系無線多重回線のデジタル化は完了し、現在、第2ルート管区間系無線多重回線と管区内系無線多重回線等のデジタル化を推進している。
イ 警察電話
 警察電話は、警察が独自に運用しているもので、交換機、交換機相互を結ぶ伝送路、電話機等から構成されており、警察本部、警察署はもとより交番、駐在所でも利用されている。警察では、無線多重回線のデジタル化と併せて、高度情報通信システム(警察版ISDN)を構築するために、データや画像情報の伝送にも効率的に対応できるデジタル電子交換機の整備を推進し、警察電話の機能強化を行っている。
ウ ファクシミリ
 警察庁、各管区警察局、各都道府県警察本部等の間に、文書、図面等を伝送する文書用ファクシミリと指紋、足痕(こん)跡等の写真を伝送する写真用ファクシミリを整備し、各都道府県警察本部、各警察署等の間に、文書、図面等を個別又は一斉に伝送する文書用ファクシミリを整備しているほか、暴力団対策及び薬物事犯対策の強化等のために、担当部署内で警察電話等を利用して個別に運用するファクシミリの整備を推進している。
エ データ通信
 警察庁に設置されているコンピュータと、各都道府県警察本部等に設置されている各種データ通信端末装置がデータ通信回線で結ばれ、盗難車両等の照会、犯罪、交通事故統計等の伝送が行われている。
(2) 第一線警察活動をささえる通信基盤
 警察では、初動警察活動等を迅速、確実に行うため、第一線警察活動を支援する通信指令システムや警察移動無線等を充実、強化するとともに、新しい情報通信システムの開発、導入を推進している。
ア 通信指令システムの高機能化
 警察では、通信指令室の業務の迅速化、効率化を図るために、110番通報の受理により認知された犯罪等に関する情報の伝達、処理をコンピュータにより行う新しい通信指令システムの整備を推進している。
 また、より効果的な現場への急行指示を行うため、自動的にパトカーの現在位置やその活動状況を通信指令室に表示するカーロケータ・システムの導入を図っているほか、より高度な緊急配備を行うため、現場周辺の道路状況等から犯人の逃走範囲をAI(人工知能)技術を利用して予測する「緊急配備指揮支援システム」の開発を行っている。
 なお、110番については、第4章3(1)参照。
イ 警察移動無線
 警察移動無線には、パトカー、白バイ、船舶、ヘリコプター、警察署等の警察官が相互に通信するための車載無線、パトロール中の警察官と警察署の警察官及びパトロール中の警察官同士が相互に通信するために警察署ごとに運用されている署活系無線、臨時的かつ局地的な警備、捜査等の警察活動において機動隊員等により使用されている携帯無線等がある。
 警察では、これら警察移動無線に、音声だけではなく、データ等の多様な情報の伝達にも効率的に対応でき、傍受、妨害にも強い高度な通信方式であるデジタル通信方式を開発、導入している。車載無線のデジタル化は既に完了しており、引き続き、署活系無線、携帯無線等のデジタル化を推進している。さらに、警察移動無線について、無線周波数の有効活用を図るための狭帯域化、無線機の小型、軽量化のための研究、開発も進めている。
ウ 映像通信と衛星通信
 警察では、火山噴火災害、航空機墜落事故等の発生に伴う警察活動において、時々刻々変化する現場の状況を正確に把握して、現場の警察官への的確な指示や関係機関との円滑な連絡、調整等を行うため、ヘリコプター・テレビ、携帯テレビ、有線テレビ、映像伝送装置等を保有しており、雲仙岳噴火に伴う災害警備においても、現場から長崎県警察本部への映像の伝送にこれらの機器を活用している。
 さらに、警察では、映像の遠距離伝送のために、赤道上約3万6,000キロメートルの静止軌道上にある通信衛星を中継局として利用している。昭和55年の利用実験を経て、58年に警察庁と静岡県警察本部間で映像の伝送等での利用を開始した。平成4年末現在、衛星通信用地球局を警察庁及び沖縄県警察本部に各1台、近畿管区警察局及び静岡県警察本部に各2台(うち各1台は車両に搭載した可搬型設備)整備しており、映像の伝送のほか、音声やデータ等の情報の伝送にも活用している。
エ ワイドシステム
 警察では、近年の犯罪がますます広域化、スピード化の傾向を強めていることから、複数の都道府県にまたがる広域事件に柔軟に対応できるよう、一斉通信機能と個別通信機能等を併せ持ち、傍受、妨害に強いデジタル通信方式の「ワイド(WIDE:Wireless Integrated Digital Equipment)システム」を開発、導入している。
 一斉通信機能は、広域事件の捜査において、関係する都道府県警察の捜査用車等の間に都道府県境を越える専用の通信系を構成するもので、個別通信機能は、捜査用車に搭載された車載端末から、全国の車載端末、警察電話や一般の加入電話等へ通信する機能である。このほか、一般の自動車電話にはないホットライン機能(受話器を上げるだけでダイヤルすることなく特定の車載端末等に接続できる機能)や優先接続機能(空いている通信回線がない場合に、使用中の回線を切断して、緊急の通信を行うことができる機能)等も備えている。警察では、広域事件の捜査はもとより警察活動全般を支援するように、早期にワイドシステムの全国整備を図ることとしている。
オ パトカー照会指令システム
 警察では、パトカーからの照会やパトカーへの緊急、配備等の指令の迅速化、確実化を図るため、パトカー照会指令システムの導入を推進している。このシステムにより、パトカーに搭載された端末装置から、警察庁のコンピュータに盗難車両照会等を直接行うことができるほか、通信指令室からの指令内容を端末装置のディスプレイに表示することもできる。
カ 画像情報検索システム
 警察では、各都道府県警察で保管している被疑者写真や犯罪手口原紙等の画像情報を警察庁の光ディスクに登録し、各都道府県警察からオンラインで検索できる画像情報検索システムの整備を推進している。このシステムは、犯人の顔つき等の目撃情報と合致した被疑者写真を回答するなどの機能を有しており、捜査の科学化に大きく貢献している。
(3) 機動通信隊の活動
 災害警備をはじめ警衛、警護、捜査等の警察活動では、現場の警察官から警察本部等への報告や連絡、警察本部等から現場の警察官等への指揮、命令等が円滑に行うことができるように通信の確保を図ることが必要不可欠なことから、現場に利用できる通信機器がない場合や既存の通信機器だけでは不十分な場合には、臨時の通信機器を設置することが必要となる。このため、警察では、機動通信隊を編成して臨時の通信機器の設置、維持、通信運用の指導、調整等の活動を行っている。
〔事例〕 平成4年1月、ブッシュ米国大統領が来日し、東京都、神奈川県、京都府、大阪府、兵庫県及び奈良県を訪問した。このため、関係都府県警察の警備活動と併せて、通信部機動通信隊も、警備本部、警察署等への臨時の警察電話及びファクシミリの設置、車載無線の臨時中継所の設置、他の道県警察からの支援による携帯無線機等の増強等を行った。また、大統領の宿泊先、訪問先である迎賓館、京都御所等の状況を警備本部で正確に把握するため、臨時の有線テレビ等の映像通信機器の設置等の活動も行った。

7 留置業務の管理運営

 平成4年末現在、全国の留置場数は1,265場で、年間延べ約210万人(1日平均約5,700人)の被逮捕者、被勾留者等が留置されている。
 警察では、留置業務については、捜査を担当しない総(警)務部門において担当することとし、捜査と留置の分離の徹底を図っているところである。
 また、留置場施設については、被留置者の人権に配意しつつ、その改善、整備に努めている。例えば、被留置者の防御権の尊重という観点から、接見室の拡張を進めている。また、被留置者のプライバシーを保護するとともに、その居住環境の改善を図るため、留置室を横一列の「くし型」に配置し、その前面にはしゃへい板を設置することとしたほか、留置室内トイレの構造の改善、シャワー装置の設置、感染症対策資機材の設置、留置場内の冷暖房化、ラジオ、日刊新聞紙の設置等の施設改善を進めているところである。
 警察庁では、以上のような留置業務の運用面、施設面での適正さを確保しつつ、被留置者の処遇の全国的斉一を図るため、全国の留置場について計画的に巡回視察を実施している。
 ところで、警察の留置場については、被留置者の処遇の内容、設置の根拠等が法律上必ずしも明確ではないことから、留置場に関する現行の法体系を整備するよう各方面から指摘されてきたところである。そこで、監獄法の改正が行われるのを機会に、法制審議会の答申の趣旨に沿って、被留置者の処遇の内容を定め、警察の留置場に留置される被勾留者等と拘置所に収容される者との処遇の平等を保障するとともに、捜査と留置の分離を法律上の制度として明確にするため、刑事施設法案と一体のものとして留置施設法案を策定した。この法律案は、3年4月第120回国会に上程された。



8 警察活動の科学化のための研究

(1) 科学警察研究所における活動
 科学警察研究所では、犯罪事件の科学捜査、少年非行の防止、犯罪の予防、交通事故の防止等に関する研究、実験とその研究成果を応用した鑑定、検査を行っているほか、鑑定技術についての研修を実施している。
ア 平成4年度における主な研究
 平成4年度の研究は、前年度からの継続研究38件、新規研究36件の合計74件であるが、その主なものを挙げれば、次のとおりである。
〔研究例1〕 PCR法による繰り返し配列多型(VNTR)のDNA型分析の実用化に関する研究
 4年度から、MCT118型及びHLADQα型の2種類のDNA型分析による鑑定技法を各都道府県警察に順次導入していくこととなり、DNA型分析による個人識別精度の向上及び証拠としての信頼性を高めることが課題となっている。個人識別精度の向上に関しては、現在実用化されているDNA型分析に加え、陳旧資料や微量資料からのDNA型鑑定を可能とするために、3、4塩基の繰り返しから成る短鎖DNA部位を用いたDNA型鑑定法の実用化を目指している。証拠としての信頼性に関しては、日本人におけるDNA型の遺伝子頻度のデータベースを作成しているところである。
〔研究例2〕 覚せい剤密売ルート解明のための薬物照合システムの開発に関する研究
 覚せい剤等の薬物乱用の広がりは、依然として大きな問題となっているが、乱用薬物を取り締まる上では、その流通経路に関する情報を得ることが重要課題の一つである。そこで、押収された覚せい剤中に微量に残存する反応原料、反応中間体、副生成物等の不純物に着目し、これらを詳細に分析、比較して、異なる場所で押収された薬物の類似性を評価するための研究開発を進めてきた。さらに、これらの分析結果を基に、新たに押収された覚せい剤と以前に押収された覚せい剤との関連性を、コンピュータを用いて検索、照合するシステムの開発に取り組んでいる。
〔研究例3〕 発射弾丸自動識別システム実用化の研究
 銃器を使用する犯罪の発生は依然として多く、これに伴う銃器の異同識別の鑑定業務は年々増加している。この鑑定業務を効率化し、併せて判断結果の信頼性を一層高めるため、画像処理技術を応用した銃器弾丸自動識別システムの開発を進め、試作システムを完成させた。現在、大量処理が可能な自動識別システムに発展させ、実用化するための研究に取り組んでいる。
〔研究例4〕 警察と地域住民との良好な関係の形成要因に関する研究
 警察と地域住民との良好な関係を促進し、又は阻害している要因を明らかにするため、20歳以上の成人を対象として全国規模の調査を行い、対象者の居住地の都市規模別に比較、検討した。その結果、都市規模の大きい地域に居住している者には、近隣騒音、放置自転車等生活上の問題を感じている者が多いが、そうした問題を警察に通報したり、相談したりすることには消極的な態度をもっている者が少なくないことが明らかとなった。一方、都市規模の小さい地域に居住している者には、警察官が地域の会合、行事に参加するなどの地域に溶け込んだ活動を要望している者が多いが、現状に対する不満は少なく、警察官が住民の期待にこたえていることがうかがわれた。このことから、都市規模の大きい地域では、住民が警察に生活上の問題を持ち込みやすい方策を講じることが、また、都市規模の小さい地域では、警察が地域に溶け込んだ活動を一層推進することが、警察と地域住民との良好な関係を形成する上で重要であると考えられた。
〔研究例5〕 後部座席シートベルトの効果に関する研究
 死亡事故の抑制のために効果的な被害軽減対策の具体的手法を明らかにすることを目的として、後部座席シートベルトの着用効果についての事例調査及び実車衝突実験を行った。
 事例調査によって、後部乗員の死亡原因は局部的傷害によるものが多いこと、後部乗員のシートベルトの着用効果が期待できる衝突形態はセンターライン・オーバーの正面衝突であることなどが明らかになった。また、実車衝突実験によって、後部乗員がシートベルトを着用した場合、後部乗員自身の安全、前席シートバックへの衝突による前席乗員の二次的被害の軽減等に顕著な効果が期待し得ることが明らかになった。
〔研究例6〕 夜間事故の発生要因に関する研究
 夜間事故が都市部において多発傾向にあることから、夜間に特有な事故形態である駐車中の車両に対する自動二輪車、原動機付自転車の追突事故及び歩行者の横断中の事故に関して調査、実験を行い、道路環境及び前照灯の明るさと事故発生との関連性を分析した。その結果、道路環境の明るさにむらのある場所で、この種の事故が発生しやすいことなどが判明した。
 また、4年に開催された国際会議においては、白骨死体の死後経過年数に関する研究、コンピュータ画像処理技術を応用した新しい復顔法の開発(2月、第44回米国法科学会、アメリカ)、乗用車乗員の衝突時の傷害の発生メカニズム(6月、第12回交通事故及び交通医学国際会議、フィンランド)、マスメディアで描かれた逸脱行動に対する非行少年の反応の仕方ほか(7月、第25回国際心理学会議、ベルギー)、火薬類及び爆発残さの分析法について(9月、第4回火薬類の分析及び探知に関する国際会議、イスラエル)等の発表を行った。
 国内の学会では、ラットにおけるコカイン代謝物の尿中排泄(せつ)期間についてほか(3月、日本薬学会第112年会)、画像処理技術を応用した頭蓋(がい)からの顔貌(ぼう)復元に関する研究、混合体液斑(はん)からのDNA精製とPCR法を用いたMCT118型分析ほか(4月、第76次日本法医学会総会)、サーマルカメラによる電源延長コードの温度測定(5月、日本火災学会研究発表会)、クロロプレン絶縁コードの発熱による火災危険性ほか(6月、安全工学シンポジウム)、警察が行う少年相談の相談過程について(9月、日本犯罪心理学会第30回大会)等の発表を行った。
イ 鑑定、検査
 科学警察研究所では、都道府県警察をはじめ検察庁、裁判所等から嘱託を受けて、高度の技術を要する鑑定、検査を行っており、4年における処理件数は、法医関係が111件、化学関係が81件、文書、偽造通貨が495件、銃器関係が1,003件、工学関係が59件の計1,749件であった。
ウ 研修、研究発表会
 科学警察研究所では、附属の法科学研修所において、都道府県警察の鑑定技術職員を対象とした研修を実施している。法科学研修所の研修課程は養成科、現任科、専攻科及び研究科に分かれ、4年度には、研修生約250人に対して、法医、化学、工学、文書、ポリグラフ、指紋、写真、足痕(こん)跡に関する教育訓練を行った。そのほか、科学警察研究所では、鑑定技術職員延べ約450人の参加の下に、法医、化学、文書火災、爆発の各部門について鑑識科学研究発表会を開催し、研究成果の発表及び質疑応答を通じて指導、助言を行い、鑑識、鑑定技術等の向上に努めた。
(2) 警察通信研究センターにおける研究
 警察通信研究センターでは、情報通信システムの開発に関する研究及び情報通信の要素技術である画像処理技術や音声処理技術等に関する研究を行っている。平成4年は、電子情報通信学会において、周波数制御機能を有する陸上移動通信用多値QAM方式及びDSPを用いた電話増幅器についての研究の成果を発表した。
〔研究例1〕 狭帯域デジタル移動無線機に関する研究
 増大する警察移動無線の需要に対応するためには、周波数資源を効率的に使用する通信方式を実用化する必要があることから、既存の車載無線の1/4の周波数帯域で通信できる無線機を開発し、その評価実験を行っている。
〔研究例2〕 デジタル携帯無線機の小型化に関する研究
 パトロール、捜査等で使用されているデジタル携帯無線機の小型、軽量化を図るため、回路の1チップ化、部品の小型、低電圧化、電池の大容量化等の研究及び送信出力低減のための回線試験を行っている。
〔研究例3〕 警察通信ネットワークの最適化に関する研究
 トラフィックの変動、ネットワークの障害等に対応した最適な通信ネットワーク構築の方法論の研究及びこのようなネットワークの設計を支援するツールの開発を行っている。
〔研究例4〕 遠話対策用電話増幅器に関する研究
 高損失のために聞こえにくくなっている110番等の回線の通話品質を改善するため、デジタル音声処理技術により側音の消去及び送話ほう絡線信号強調を行うDSPを用いた2線式回線用電話増幅器の開発を行っている。


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