第7章 交通安全と警察活動

 近年の我が国のモータリゼーションは著しく進展し、自動車交通が社会経済の発展に大きな役割を果たしている中で、交通事故はもとより、交通渋滞による都市機能の麻痺、大気汚染や騒音等の公害の発生等様々な問題が引き起こされている。特に都市部や住宅街にまん延する違法駐車車両は、交通渋滞を引き起こすだけでなく、交通事故の原因となるなど国民生活に深刻な影響を与えている。
 交通警察は、自動車交通の社会的効用を最大化し、かつ、その社会的費用を最小化するため、交通規制並びに交通管制センターその他の交通安全施設及び交通情報提供施設の整備による交通流、交通量の最適化、歩行者等の安全の確保、都市交通機能の確保と幹線道路における交通の円滑化、体系的な交通安全教育の推進による運転者、歩行者等の交通モラルの向上、総合的な交通事故分析体制の確立、交通指導取締りによる交通秩序の確立等を多面的に行うとともに、まちづくりや地域の開発事業に対する交通管理面からの助言等の先行的対策に積極的に取り組み、道路交通の安全と円滑の確保に努めている。

1 交通情勢

(1) 道路交通の現況
ア 車両保有台数の伸び
 我が国の自動車保有台数は年々増加傾向にあり、平成4年末には約6,471万台となっている。車種別車両保有台数の推移は、図7-1のとお

図7-1 車種別車両保有台数の推移(昭和41~平成4年)

りである。
イ 運転免許保有者数の増加
 運転免許保有者数は、交通事故死者数が過去最多であった昭和45年には約2,600万人であったが、59年に5,000万人を超え、平成4年末には6,417万2,276人となった。運転免許を取得することができる16歳以上の者のうち、男性では1.2人に1人、女性では2.1人に1人全体で1.6人に1人が免許を保有していることになる。運転免許保有者数の推移は図7-2のとおりで、昭和59年以降、毎年約3%の伸び率を示している。
 高齢化社会の進展に伴い、運転免許保有者に占める高齢者(65歳以上)の割合は年々高くなっており、45年末には0.8%(約21万人)であったものが、平成4年末には5.5%(約353万人)となっており、この傾向は、今後更に顕著になっていくものと考えられる。
 なお、男女別及び年齢別又は種類別運転免許保有者数については、資

図7-2 運転免許保有者数の推移(昭和50~平成4年)

料編統計7-8、7-11参照。
(2) 平成4年の交通事故発生状況
ア 概況
 平成4年に発生した交通事故は、件数が69万5,345件、死者数が1万1,451人、負傷者数が84万4,003人で、前年に比べ、発生件数は3万2,957件(5.0%)、死者数は346人(3.1%)、負傷者数は3万3,758人(4.2%)それぞれ増加し、特に死者数は元年から4年連続して1万1,000人を超えた。
 過去17年間の交通事故件数等の推移は、図7-3のとおりである。
イ 死亡事故の実態
(ア) 交通死亡事故の実態
 4年の交通死亡事故の主な特徴としては、
[1] 自動車乗車中の死者数が多く、全死者数の41.8%を占めたこと
[2] 自動車乗車中の死者のうち、シートベルトを着用していなかったものが76.9%を占めたこと

図7-3 交通事故件数等の推移(昭和51~平成4年)

[3] 16~24歳の若年者と65歳以上の高齢者の死者数が多く、両者合わせて全死者数の過半数(52.7%)を占めたこと
[4] 若年者の自動車乗車中と高齢者の歩行中の死者数が多く、また、高齢者の自転車乗用中の死者数が前年に比べ大幅に増加したこと
[5] 夜間、週末に死亡事故が多発したこと
などが挙げられる。
(イ) 状態別、年齢層別にみた交通事故死者数
 4年の状態別死者数は図7-4のとおりで、自動車乗車中の死者数が4,783人と最も多く、全死者数の41.8%を占めている。前年に比べ増加が顕著なのは、自転車乗用中132人(12.6%)、自動車乗車中108人(2.3%)で、これに対し歩行中の死者数が50人(1.6%)減少している。

図7-4 状態別交通事故死者数(平成4年)

 4年の年齢層別死者数をみると図7-5のとおりで、若年者、高齢者の順に多く、死者数の構成率は、それぞれ人口構成率の約2倍である。最近数年の傾向をみると、若年者の死者数が2年連続してわずかずつ減少しているのに対し、高齢者の死者数は、昭和63年以降5年連続して増加している。

図7-5 年齢層別にみた交通事故死亡者数の構成率と人口構成率の比較(平成4年)

 平成4年の状態別死者数と年齢層別死者数を組み合わせて図解すると図7-6のとおりで、その主な特徴は次のとおりである。

図7-6 状態別、年齢層別死者数(平成4年)

a 自動車乗車中の死者数については、若年者が最も多く、その34.2%を占めているが、前年に比べると13人(0.8%)減少している。前年に比べ増加が顕著なのは、25~29歳、60~64歳の年齢層で、それぞれ57人(13.7%)、57人(25.3%)増加している。
b 自動二輪車乗車中の死者数については、若年者が圧倒的に多く、その67.7%を占めているが、前年に比べると12人(1.3%)減少している。前年に比べ増加が顕著なのは高齢者で、38人(80.9%)増加している。
c 原付自転車乗車中の死者数については、若年者、高齢者の順に多く、両者でその62.9%を占めている。前年に比べ増加が顕著なのは65歳以上(39人、15.9%)と60~64歳(27人、43.5%)の高年齢層で、これに対し若年者は11人(3.2%)減少している。

図7-7 高齢者の状態別死者数の推移(昭和54~平成4年)

図7-8 若年者の状態別死者数の推移(昭和54~平成4年)

d 自転車乗用中の死者数については、高齢者が圧倒的に多く、その51.0%を占めており、前年に比べると117人(24.2%)増加している。
e 歩行中の死者数については、高齢者が圧倒的に多く、その50.0%を占めているが、前年に比べると74人(4.5%)減少している。
 高齢者及び若年者の状態別死者数の推移は、図7-7、図7-8のとおりである。
(ウ) シートベルト着用有無別の死者数
 自動車乗車中の死者数をシートベルト着用有無別にみると、非着用死者数が3,678人で、着用死者数の1,002人を大きく上回っている。前年に比べると着用死者数が29人(3.0%)、非着用死者数が101人(2.8%)増加している。
 昭和61年11月に、一般道路における自動車前席乗員のシートベルト着用が義務化されて以来、着用死者数は横ばいであるのに対し、非着用死者数は63年以降5年連続して増加している。
 また、シートベルト着用調査によれば、最近の着用率は徐々に低下している傾向にある。シートベルトの着用有無別自動車乗車中の死者数の推移は図7-9、シートベルト着用率の推移は図7-10のとおりである。
(エ) 昼夜別にみた死亡事故の実態
 平成4年の死亡事故件数を昼夜別にみると、昼間が4,659件(構成率42.8%)、夜間が6,232件(57.2%)で、夜間の死亡事故件数は昼間の約1.3倍である。しかし、前年に比べると昼間は208件(4.7%)、夜間は136件(2.2%)増加しており、昼間の方が増加が大きい。
 また、死亡事故件数の昼夜別の構成率をみると、昭和54年には昼間の事故が50.6%と過半数を占めていたが、翌年に逆転し、それ以降夜間事故が徐々に増加し、平成3年には夜間事故の構成率が57.8%と過去最高を記録した。

図7-9 シートベルトの着用有無別自動車乗車中の死者数の推移(昭和61~平成4年)

図7-10 シートベルト着用率の推移(昭和61~平成4年)

 なお、昼夜別及び道路幅員別又は道路種類別の死亡事故件数については、資料編統計7-1、7-2参照。
(オ) 曜日別にみた死亡事故の実態
 4年の死亡事故件数は1万891件で、1日当たり29.8件の死亡事故が発生していることになる。これを曜日別にみると、平日(月曜から金曜まで)が1日当たり28.3件、週末(土、日曜)が33.5件で、週末が平日を1日当たり5.2件上回っており、週末に多発する傾向にある。

2 総合的な駐車対策の現況

(1) 違法駐車の状況
 違法駐車は、幹線道路の交通渋滞を悪化させるばかりでなく、交通事故の原因にもなっており、また、住宅地においては生活環境を害し、緊急自動車の活動に支障を生じさせるなど国民生活全般に大きな影響を及ぼしている。
 警察においては、違法駐車に対する取締りを強化する一方、駐車対策のための各種システムの整備を行い、また、関係機関、団体や民間企業に対し、駐車場の整備や既存駐車場の有効利用及び違法駐車を生じさせないような業務改善を働き掛けている。さらに、駐車場附置義務条例等の制定に伴い、地方公共団体又は第三セクターによる公共駐車場や民間の大規模駐車場の整備が推進されている。
 この総合的な駐車対策の結果、三大都市圏(東京都、大阪府、名古屋市)での瞬間路上駐車台数は、表7-1のとおりで、3年に続き、4年は更に減少した。これに伴い、バスの旅行時間も短縮され、3年度は、バスの輸送人員が前年度に比べ増加するなどの効果がみられた。さらに、夜間における長時間駐車台数も、夜間路上駐車の多い全国11都市におけるサンプル調査によると、表7-2のとおりで、3年7月に施行された改正保管場所法(自動車の保管場所の確保等に関する法律)の施行前と

表7-1 三大都市圏での瞬間路上駐車台数の推移(昭和63~平成4年)

表7-2 全国11都市における夜間の路上駐車の状況(平成4年6月)

比べ、約5割の減少がみられた。
 しかし、いまだに相当数の違法駐車が存在する現状からみると、今後とも引き続き総合的な駐車対策を推進する必要がある。
(注) 5年4月の道路交通法の改正により、違法駐車行為を未然に防止す るための車輪止め装置の取付けに係る規定が整備された。
(2) 総合的な駐車対策の推進状況
ア 駐車対策のための各種システムの整備
(ア) 違法駐車抑止システムの整備
 違法駐車抑止システムは、交差点に設置したテレビカメラ及びスピーカーを用いて、違法駐車車両を監視し、必要に応じ音声で警告することにより、違法駐車の抑止を図るものであり、第5次交通安全施設等整備事業五箇年計画において整備が進められている。

(イ) 駐車誘導システムの整備
 駐車誘導システムは、駐車場を探したり、空き待ちをしている車両による交通渋滞の緩和や交通事故の防止を図るとともに、違法駐車を抑止するため、交通管制システムと連動して、駐車場の位置、満空状況、誘導経路、交通渋滞等に関する情報を運転者に提供し、空き駐車場への誘導を行うもので、平成4年11月末現在、福岡市、神戸市等31都市で35のシステムが運用されており、第5次交通安全施設等整備事業五箇年計画において整備が進められている。
(ウ) パーキング・メーター集中管理・誘導システムの整備
 パーキング・メーター集中管理・誘導システムは、パーキング・メーターの利用、作動状況を管理し、運転者に対し、パーキング・メーターの満空状況、誘導経路に関する情報を提供するシステムである。横浜市、熊本市において運用されており、パーキング・メーターの利用率の向上駐車スペースを探している車両のもたらす交通渋滞の緩和、交通事故の防止、違法駐車の抑止、パーキング・メーターの不正使用の防止等に役立っている。
イ 違法駐車の効果的な取締り
 駐停車違反の取締りは、幹線道路の交差点、横断歩道、バス停留所等における悪質かつ危険性、迷惑性の大きい違反に重点を置いて行っており、4年中の駐停車違反取締り件数は約310万件で、1日平均約8,500件であった。
 現場に運転者等がいない違法駐車車両については、当該車両を移動すべき旨を告知する違法駐車標章の取付けを行うとともに、当該車両を指定車両移動保管機関を運用して移動することにより、違法駐車の早期解消を推進している。
 また、3年1月に施行された改正道路交通法で設けられた放置駐車違反に係る使用者責任の追及に関する制度の運用についても、効果的に運用されている。
ウ 関係機関、団体との連携の強化
 警察では、都道府県道路使用適正化センター、報道機関等の協力を得て、違法駐車に起因する交通事故の実態、交通渋滞の状況等違法駐車の危険性、迷惑性についての情報の提供を積極的に行うなど、違法駐車抑止のための広報啓発活動を進めている。
 また、警察では、地方公共団体、道路管理者等と共に駐車対策協議会等を設立し、地域における駐車問題を協議、検討して、各種の駐車対策を推進するほか、このような協議会の場を利用するなどして、地方公共団体等に対し駐車場附置義務条例の早期制定、公共駐車場の整備等を強く働き掛けるとともに、地方公共団体に対し自主的な違法駐車対策の諸活動を要請している。4年末現在、19市3区が違法駐車防止条例を制定し、違法駐車防止活動を行っており、警察においてもその運用について必要な協力と支援を行っている。
 このほか、警察では、地域交通安全活動推進委員に、4年末現在、全国で約1万9,000人を委嘱し、同委員は、地域における交通関係ボランティアのリーダーとして、適正な駐車等について住民の理解を深めるための広報啓発活動を行っている。

3 運転者政策

(1) 運転者教育の推進
ア 国民のニーズに応じた教習の推進
(ア) 自動車教習所に関する制度の整備
 我が国の運転者教育において、自動車教習所が非常に大きな位置を占めていることにかんがみ、平成4年5月に成立した改正道路交通法では、自動車教習所の法的位置付けを明確にし、自動車教習所に対して教習水準の維持向上に努めるべき責務を課すとともに、自動車教習所について届出制を設け、公安委員会に届出をした自動車教習所に対して所要の助言等を行うことにより、自動車教習所における運転者教育の水準の向上を図ることとした。
(イ) 指定自動車教習所における教習の充実
 指定自動車教習所は4年末現在、全国に1,535所あり、指定自動車教習所の卒業者で4年の運転免許試験の合格者は約253万人で、全体の95.5%を占めているという現状にあって、指定自動車教習所は、初心運転者教育の中心的役割を果たしている。都道府県公安委員会では、指定自動車教習所に対する指導監督を徹底し、教習体制等の充実強化に努めている。
(注) 5年4月の道路交通法の改正により、教習指導員制度の創設等指定自動車教習所の制度を整備することとした。
a オートマチック車の普及への対応
 3年11月から、運転することができる普通自動車をオートマチック車に限定した普通免許及び同免許を受けようとする者に対する指定自動車教習所における教習の制度が導入され、4年には35万2,431人が同免許を取得した。また、指定自動車教習所では、オートマチック普通自動車教習課程(学科教習30時限、技能教習24時限)を実施しており、4年には35万2,836人が同課程を卒業した。
 また、指定自動車教習所においては、一般の普通自動車教習課程でも、最近におけるオートマチック車の普及とこれを背景としたオートマチック車による技能教習の要望を踏まえ、オートマチック車による技能教習を4時限実施している。
b その他の教習の充実
 高速道路における運転に関する教習として、昭和53年から、一部の指定自動車教習所において、現行カリキュラムの学科教習2時限に加え、任意の教習として、学科教習、技能教習各1時限の高速教習を実施している。警察では、実施教習所数の拡大等に努めており、平成4年の受講者数は96万1,395人で、前年に比べ24万6,042人(34.4%)増加した。
 このほか、いわゆるペーパードライバーに運転練習の機会を提供するため、指定自動車教習所におけるペーパードライバーのための教習課程の設置を推進し、また、夜間における交通事故の多発にかんがみ、一部の指定自動車教習所においては、日没後の運転に関する技能教習を実施している。
(ウ) 指定外の自動車教習所における教習水準の向上
 都道府県公安委員会に届出を行っている自動車教習所のうち、公安委員会の指定を受けていないものは、4年末現在、全国に226所ある。都道府県公安委員会では、これらの自動車教習所に対して所要の助言等を行い、その教習水準の向上を図っている。
イ 各種講習の充実
(ア) 二輪車運転者に対する講習の充実
a 原付免許取得者に対する原付講習の義務付け
 従来、原付免許の新規取得者を対象に原付安全技能講習を行ってきたところであるが、4年5月の道路交通法改正により、原付免許を受けようとする者に対して原付講習の受講を義務付け、初心原付運転者による交通事故の防止を図ることとした。この制度は4年11月から実施され、4年末までに4万3,802人がこの講習を受講した。
(注) 5年4月の道路交通法の改正により、普通免許又は二輪免許を受けようとする者に対して、自動車又は自動二輪車の運転に関する講習の受講を義務付けることとした。
b 自動二輪車運転者に対する安全講習の充実
 18歳未満の二輪免許新規取得者を対象に、白バイ隊員等自動二輪車の運転に関して専門的な知識を有する者を講師として、二輪免許取得時講習を行い、4年には約28万人がこの講習を受講した。また、二輪免許保有者を対象に学科講習と技能講習から成る自動二輪車安全運転講習を行っており、4年には約2万4,000人が受講した。
(イ) 更新時講習の充実、改善
a 特別学級の編成と特別講習の推進
 更新時講習においては、若年者学級、二輪車学級、高齢者学級等の特別学級を編成して、運転者の態様に応じた講習を行い、4年には約53万人がこの特別学級による講習を受講した。また、職種、生活環境等が共通する運転者を集めてその態様に応じた講習(特別講習)を行い、その受講者については、更新時講習を受講したものとみなすこととしており、4年には約70万人がこの講習を受講した。
b 無事故無違反者等に対する簡素な講習の実施
 運転免許取得後無事故無違反の初回更新者、過去3年間無事故無違反の更新者及び前回の更新における簡素な講習の対象者であって、過去3年以内の違反行為が軽微なもの(注)1回以内である更新者については、ビデオ等の視聴覚教材の活用、資料の配布、パネル教材の展示等による簡素な更新時講習を実施しており、4年には約1,567万人がこの講習を受講した。
(注) 軽微な違反行為とは、違反行為に付する点数が3点以下である違反行為をいう。
(2) 各種の運転者政策
ア 危険運転者対策
(ア) 迅速、確実な行政処分の推進
 自動車等を運転することが危険であると判断される運転者を道路交通の場から早期に排除するため、違反、事故登録所要日数、処分所要日数の短縮等に努めている。最近5年間の運転免許の行政処分件数の推移は、表7-3のとおりである。
(イ) 停止処分者講習
 運転免許の効力の停止等の処分を受けた者に対しては、その者の申出により停止処分者講習を行っている。この講習については、暴走族、二輪車運転者等の受講者の態様に応じた特別学級を設けるなど、その効果的

表7-3 運転免許の行政処分件数の推移(昭和63~平成4年)

な実施に努めており、平成4年には、この講習を受けることができる者の88.2%に当たる約145万人が受講した。
(ウ) 取消処分者講習
 運転免許の取消し等の処分を受けた者が免許を再取得しようとする場合は、取消処分者講習の受講が受験資格とされている。この講習では、受験する免許の種類に応じて四輪運転者用講習、二輪運転者用講習が設けられ、個別的、具体的な指導が行われている。4年には4万6,999人がこの講習を受講した。
イ 初心運転者対策
 初心運転者期間制度は、初心運転者が慎重な運転をするよう誘導するとともに、危険性の認められる者に対する適切な教育を実施し、以後の事故防止を図ろうとするものである。初心運転者期間内に一定の違反行為を行った者は、初心運転者講習を受けることができ、この講習を受講しなかった者等は再試験を受けなければならないこととされている。
 初心運転者講習は、小人数のグループ編成による個別型、参加型のものであり、その内容は危険予知、回避訓練を取り入れるなど実践的なものとなっており、4年には20万3,245人がこの講習を受講した。また、3年9月から実施された再試験では、運転免許試験と同等の基準で合格判定が行われ、4年には1万5,838人が受験し、不合格となった1万1,689人が免許を取り消された。
ウ 高齢運転者対策
 警察では、高齢運転者の希望に応じて、実際の走行や模擬運転装置による技能診断及び科学的検査機器を活用した運転適性診断を行っており、必要に応じて個別指導を行っている。さらに、昭和63年から、1台で7種類の運転適性診断ができるCRT型運転適性診断機器を導入し、高齢運転者の安全運転指導に活用している。
エ 救急教育の充実
 運転者に対し、交通事故現場での応急手当の教育を行うべきであるとの世論の高まりに対応して、学科教習や更新時講習等の教材である「交通の教則普及版」の応急手当に関する記述を充実し、各種運転者教育の際に活用している。また、(財)全日本交通安全協会と協力して、「運転者に対する救急教育の在り方に関する調査研究委員会」を設け、専門家による研究を行った。平成4年7月の報告書では、初心運転者教育の機会に救急蘇(そ)生法教育を実施すべきであるとする提言がなされている。
(注) 5年4月の道路交通法の改正により、普通免許又は二輪免許を受けようとする者に対し、応急救護処置に関する講習の受講を義務付けることとした。
オ 優良運転者の優遇と賞揚
 長期間、無事故無違反の運転者に対し、行政処分等について優遇措置等をとっているほか、各種の賞揚制度を設けている。また、自動車安全運転センターでは、無事故無違反証明書を発行するほか、無事故無違反の期間が1年以上の運転者に対してSD(Safe Driver)カードを交付しており、4年の無事故無違反証明書等の発行件数は約403万件、SDカードの交付件数は約320万件であった。
(注) 5年4月の道路交通法の改正により、優良運転者に係る免許証の有効期間について、一定の高齢者に係るものを除き、現行の3年から5年に延長することとした。
カ 地域的な課題への取組み
 北海道警察等においては、運転免許取得時講習、更新時講習等の機会を利用して雪路用タイヤを装着した車両の運転方法、雪道等における運転マナー等の講習を実施している。また、アイスバーンを想定した運転コース(スキッドコース)、わだち等のある運転コースでの走行訓練等を盛り込んだ「夏期冬道安全運転講習」等を実施するなどして、雪道等における運転の技能の普及を図っている。

(3) 国際化への対応
ア 日本人の海外渡航の増加
 国外運転免許証の交付件数は、ここ数年大幅に増加しており、平成4年の交付件数は34万2,786件で、前年に比べ9,950件(3.0%)増加した。警察では、電算化による国外運転免許証の発行事務の迅速化等、国際化に対応した事務の簡素合理化を推進している。
イ 国内の外国人運転者の増加
 外国の運転免許を有する者については、一定の条件の下に運転免許試験のうち技能試験及び学科試験を免除している。4年の取得件数は4万4,611件で、前年に比べ2,867件(6.0%)減少した。また、運転免許証を発行した外国行政庁の数は124に上っている。
(注) 5年4月の道路交通法の改正により、外国の運転免許の取扱いを改善することとした。

4 体系的な交通安全教育の推進

(1) きめ細かな交通安全教育の推進等
ア 段階に応じた交通安全教育
 警察では、学区、団地等の地域ごとに、交通事故の被害者となりやすい幼児、子供、高齢者等に重点を置いて、交通安全教室、交通安全講習会等を開催している。
 幼児、子供に対しては、年齢に応じた安全教育を推進しているほか、幼児交通安全クラブ、交通少年団等地域組織の育成に努めている。平成4年9月末現在、全国で約1万5,000の幼児交通安全クラブが組織され、幼児約127万人、保護者約115万人が加入し、また、約4,000の交通少年団が組織され、小学生約64万人、中学生約10万人が加入している。
 高校生に対しては、自転車の安全な利用、二輪車、自動車の特性、交通事故防止についての安全教育を推進している。特に二輪車の安全に関する指導については、学校当局と連携して法令講習や実技指導員(白バイ隊員等)の派遣による安全運転実技指導を推進している。
 高齢者に対しては、高齢者の相互啓発により交通安全意識を高揚させるため、全国の老人クラブ、老人ホーム等に交通安全部会等の設置を促すとともに、高齢者を交通安全指導員に委嘱するなど、高齢者の自主的な交通安全活動を促進している。
イ 地域交通安全活動のささえ
 地域における交通安全活動を推進するため、交通指導員等の民間ボランティアや交通安全協会等の民間団体が活動している。交通安全協会は、警察署単位の地区交通安全協会を中心に、警察と連携して、全国交通安全運動やシートベルト着用推進運動をはじめ、自転車、二輪車教室等各種講習会の開催、交通安全広報の実施、教育資料の作成、配布、優良運転者、交通安全功労者の表彰等幅広い活動を展開している。また、二輪車安全普及協会は二輪運転者の安全教育を、指定自動車教習所協会は初心運転者教育を、交通安全母の会は母親を中心として家庭や地域における安全教育を行うなど、それぞれの立場から交通安全活動を推進している。
 警察では、関係機関、団体と協力して、交通安全指導者を対象とする研修会の開催、交通事故実態に関する資料の配布等、地域における交通安全活動が効果的に行われるよう必要な協力を行っている。
ウ 全国交通安全運動
 4年の全国交通安全運動は、4月6日から15日までの間及び9月21日から30日までの間、子供と高齢者の交通事故防止、シートベルトの着用の徹底、違法駐車の締め出しを重点として展開され、警察は、この運動の中心となって交通安全教育、街頭指導等の交通安全対策を実施した。
エ 自転車安全整備制度
 自転車安全整備制度は、整備不良の自転車を一掃するとともに、自転車の正しい乗り方を普及させるためのもので、毎年1回、自転車安全整備技能検定が実施されている。4年末現在、自転車安全整備士は5万1,668人、自転車安全整備店は2万4,587店である。なお、点検整備を受けた自転車にはTS(Traffic Safety)マークをはり付けることとされており、また、TSマークのはり付けられた自転車には、自転車事故の被害者の救済に資するため、傷害保険、損害賠償保険が付されている。
(2) 事業所等における交通安全活動の推進
 一定台数以上の自動車を使用する事業所等で選任されている安全運転管理者及び副安全運転管理者は、安全な運転の確保に留意した運行計画の作成、シートベルトの正しい着用の方法の指導等事業活動に伴う交通安全対策を推進しており、平成4年3月末現在、約32万箇所の事業所において、安全運転管理者約33万人、副安全運転管理者約4万4,000人が選任されている。警察では、これら安全運転管理者等に対して、安全運転管理に必要な知識等について講習を実施しており、4年度の実施回数は、約1万5,000回、受講者数は、延べ約90万人であった。
 また、都道府県ごとに安全運転管理者等を会員とする安全運転管理者協議会が結成されており、交通安全活動、正しい方法によるシートベルト着用推進運動、無事故無違反コンクール等を積極的に推進しているほか、安全運転管理に関する各種講習会の開催、教育資料の作成等を通じ、職域における交通安全思想の普及に努めている。さらに、安全運転管理者等と事業主が一体となって安全運転管理、交通安全活動を推進するために、事業主会の組織化を推進し、4年末現在、1道6県で道県組織が、3県で地区組織が結成され、活発な活動が行われている。このほか、各都道府県ごとに、自動車販売業界による交通安全対策推進協議会が結成されており、ディーラー店頭における交通安全教室の実施等自動車販売業界の特色をいかした各種の交通安全活動が展開されている。
(3) 自動車安全運転センター安全運転中央研修所の活用
 自動車安全運転センターでは、平成3年5月茨城県勝田市に開所した「安全運転中央研修所」において、実際の道路交通現場に対応した安全運転の実践的かつ専門的な知識、技能についての体験的な研修を実施し、安全運転教育について専門的知識を有する交通安全指導者や高度の運転技能と知識を有する職業運転者、安全運転についての実践的な能力を身に付けた青少年運転者の育成を図っている。4年には、延べ3万9,849人日の研修を実施した。

5 交通事故分析の高度化

(1) 交通事故分析の高度化への取組み
 現下の厳しい交通情勢の下で、真に効果的な交通安全対策を導き出すためには、総合的な交通事故調査分析体制の確立、交通事故関係統計の高度化等による的確な分析を行うことが不可欠である。
 警察では、従来から交通事故について科学的、実証的に検討を加え、その実態や原因を把握して、効果的な交通事故防止対策に資するため、個々の交通事故について交通事故統計原票を作成し、これらの資料に基づき、日常業務の中でも統計的分析、事例的分析等の交通事故分析を行っている。
 また、交通事故分析の高度化を推進するために、平成3年度からの3箇年計画で、交通事故分析の高度化及びソフト開発に関する調査研究を実施しており、4年度は交通事故統合データベースの在り方についての具体的検討及びその構築を行った。今後は、これまでの検討結果を踏まえて、交通事故データを真に効果的な交通安全対策の立案、実施に結び付けるため、交通警察活動支援ソフトウェアの開発の検討を進めることとしている。
(2) 交通事故実例調査の実施
 自動車安全運転センターでは、関係機関、団体の協力を得て、平成2年度から4年度までの3年間で、約900件の交通事故を対象として、運転者、車両、道路、交通安全施設、救急、医療の総合的な観点から交通事故実態の事例調査を実施し、重大事故の防止と被害軽減に焦点を当てた分析を行った。また、都道府県警察においても、関係部局と協力しつつ、交通事故の実態調査を実施している。
(3)(財)交通事故総合分析センターの設立
 マクロ及びミクロの両面にわたる総合的な分析体制を整備確立し、官民それぞれの立場から行う交通安全対策に資することを目的として、平成4年3月、警察庁、運輸省及び建設省共管の(財)交通事故総合分析センターが設立された。
 同センターは、4年の改正道路交通法で設けられた交通事故調査分析センターの指定等に関する制度の規定に基づき、4年6月、交通事故調査分析センターとして国家公安委員会から指定され、警察庁の保有する交通事故統計データ及び運転者管理データ、運輸省の保有する自動車登録データ等の交通事故に関係するデータを統合したデータベースの構築を進めるとともに、一定の地域における交通事故の詳細な事例分析の準備を進めている。

6 良好な交通環境の実現

(1) 交通安全施設等整備事業五箇年計画
 交通安全施設等整備事業に関する緊急措置法に基づき、交通安全施設等を整備拡充し、道路交通の安全と円滑を確保するため、交通安全施設等整備事業五箇年計画が策定されている。平成3年度を初年度とする第5次交通安全施設等整備事業五箇年計画の内容及び4年度の実施状況は、表7-4のとおりである。
(2) 交通事故防止、生活環境保全のための対策
ア 交通事故多発箇所に対する施策
 警察では、交通事故多発箇所を重点に、信号機等の交通安全施設等の整備を進めている。
 右折時における衝突事故の多発している交差点では、右折矢の付加を

表7-4 第5次交通安全施設等整備事業実施状況

行うなど信号機の多現示化を進め、交通の円滑化を図る必要性が特に高い主要幹線道路等では、信号機の系統化を行うなどして、交通流、交通量を整序しており、このほか、弱者感応化を図るなど信号機の高度化に配慮している(図7-11)。
 出会い頭事故、歩行者横断中の事故等が多発している箇所では、その事故類型に応じて、速度規制、一時停止規制、横断歩道の設置等必要な規制を実施するとともに、関係機関に対し、交差点形状の改良、段差舗装、夜間照明の整備等を働き掛けているほか、交通事故が発生しやすいカーブ等では、いわゆる減速マークの路面表示、追越しのための右側部分はみ出し通行禁止規制、自動車のヘッドライトの光をよく反射する素材を用いた道路標示等を行っている。
イ 高速走行抑止システムの整備
 高速走行抑止システムは、高速走行車両を検出し、これに対し警告板

図7-11 弱者感応信号機

で警告を与え、減速、安全運転を促すことにより、高速走行による事故防止を図るもので、第5次交通安全施設等整備事業五箇年計画において整備が進められており、現在、北海道、愛知県等で運用されている(図7-12)。
ウ 生活ゾーン規制の実施
 子供や高齢者等の交通弱者を保護し、良好な生活環境を保全するため、住宅地域、学校や高齢者が利用する施設の周辺等の地域を対象に区域を設定し、その区域ごとに歩行者専用、車両通行止め、大型車通行止め、一方通行等の交通規制を総合的に組み合わせて、スクールゾーン規制、シルバーゾーン規制等の生活ゾーン規制を実施している。また、自転車

図7-12 高速走行抑止システム

 交通の多い路線については、自転車利用者の通行の安全を図るために必要な交通規制を進めている。
エ 交通公害の防止のための施策
 大型車の夜間走行等による幹線道路沿いの騒音及び振動、自動車から排出される窒素酸化物による大気汚染等の交通公害の防止を図るため、大型車を中央寄りに走行させるための通行区分の指定、発進、停止回数を減少させるための広域的な信号制御等を実施している。
オ 標識令の改正
 きめ細かく交通規制を実施するため、道路標識等の設置数が増大し、また、補助標識の内容も複雑となり、その結果、個々の道路標識の視認性、判読性の低下を招くことがある。平成4年7月、有識者、ドライバー等の意見を踏まえ、道路標識等の簡素合理化を図るため、道路標識、区画線及び道路標示に関する命令(標識令)の一部改正を行った(図7-13)。

図7-13 新しい道路標識

(3) 交通の円滑化対策の推進
ア 交通管制センター等の整備
 交通管制センターは、都市及びその周辺の交通を安全で円滑なものとするため、コンピュータにより信号機、可変標識、中央線変移装置の制御を行うとともに、交通情報を運転者に提供する交通管理の中枢を成す施設である。平成4年度には、昭和53年度以前に設置された46都市の交通管制センターのうち3都市の交通管制センターのコンピュータ等の中央装置を高性能化し、2都市に交通管制サブセンターを新設した。
 また、既設の信号機について、交通量の変化に応じて青信号の時間を自動的に変える地点感応化、同一路線上の複数の信号機を相互に連動させて制御する系統化、交通管制センターのコンピュータによって信号機を広域的に制御する地域制御化等を図るなど機能を高度化したほか、夜間等に交通量が減少する地域においては、閑散時半感応化、閑散時押ボタン化等による合理的な信号制御の実現に努めた。
イ 合理的な交通規制の推進
 人口4万人以上の都市を重点に、各種の交通規制を有機的に組み合わせて都市全体の交通を管理する都市総合交通規制を実施している。
 バス優先対策としては、大量公共輸送機関である路線バスの走行の定時性を確保し、マイカー利用者の路線バス利用への転換を図ることにより、都市における自動車交通総量を抑制し、交通の過密を緩和するために、バス優先・専用レーンの設定、バス感知式信号機の増設等を進めている。
 駐車対策としては、現実の駐車需要に応じ、週末等における駐車禁止規制の解除、時間制限駐車区間規制の積極的推進等きめ細かな対策を講じている。
 速度規制については、幹線道路においては、道路交通環境の実態に見合ったものとなるように努め、追越しのための右側部分はみ出し通行禁止規制が長距離にわたって連続する区間においては、道路管理者の協力を得て避譲帯の設置を促進することなどにより、交通の円滑化に努めている。
ウ 交通ボトルネック解消対策
 交通容量が他の区間に比べ比較的小さい交差点、橋梁(りょう)、踏切、トンネル等は、交通の円滑な流れを阻害する交通渋滞が頻繁に発生し、交通ボトルネックとなりやすい。このため、適切な信号機の制御、右折レーンの設置、踏切信号機の設置等の対策を進めるとともに、道路環境の改善を道路管理者等に働き掛けている。
エ 行楽期等における交通の円滑化対策
 行楽期等における大規模な交通渋滞については、その発生の予測を行い、事前広報を行うとともに、臨時交通規制、交通情報の提供、警察官等による交通整理、道路における工事、作業の抑制等の対策を実施し、その予防、解消に努めている。
オ 道路使用の適正化
 道路における工事、路上競技等の道路使用行為は、交通渋滞等の交通機能の障害の要因となっていることも少なくない。
 警察では、工事方法の改善や工事の集中化、競技コースの変更等について事前の指導を行い、許可に当たっても必要な条件を付するなどして、交通渋滞等の交通障害の防止に努めている。また、膨大な数に上る道路使用の状況を適正に管理するため、コンピュータを活用したシステムの開発を進めている。
 また、道路交通法に基づき都道府県ごとに指定される都道府県道路使用適正化センターは、道路の使用等に関する事項について、照会、相談に応じ、あるいは広報啓発活動を行うとともに、警察署長の委託を受けて、道路使用許可条件の履行状況、原状回復状況等の調査を行っている。
カ 先行的交通対策
 大量交通社会においては、都市構造、道路網、駐車場、大量輸送機関、物流システム等が交通流、交通量に大きな影響を与えることから、都市計画事業、土地区画整理事業等各種の開発事業、道路や駐車場の整備、大規模施設の建設等について、都市計画地方審議会等に参画して、交通管理面からの必要な指導、提言を行うことなどにより、交通管理上望ましい都市交通が形成されるよう働き掛けている。
キ 法定速度の改正
 一般道路の法定速度区間における交通流を整序化するため、従来高速車(普通自動車、大型乗用自動車等)は60キロメートル毎時、中速車(大型貨物自動車、250cc以下の自動二輪車等)は50キロメートル毎時とされていた一般道路における自動車の法定速度(沖縄県は一律50キロメートル毎時)の区分を撤廃する道路交通法施行令等の一部改正を行い、平成4年11月からすべての自動車の法定速度を60キロメートル毎時とした。
(4) 交通情報の収集、提供
ア 交通情報の提供
 交通状況の変化に応じ交通流・量の配分、誘導を適切に行うため、交通情報を収集、分析して運転者に提供することは、交通規制の実施、信号機の制御と並ぶ交通管理の重要な手法である。
 警察は、交通管理者としての立場から、車両感知器、テレビカメラ等により収集した情報を基に、交通管制センターを通じて、主要な地点に設置されている路側通信設備、フリーパターン式交通情報板等の交通情報提供施設や電話照会に対する回答、テレビ、ラジオ放送といった様々な手段を利用して、交通渋滞情報から駐車場への誘導に関する情報に至るまで、幅広く交通情報の提供を行っている。また、平成4年度に(財)日本道路交通情報センターが行った情報の提供は、テレビ放送によるものが約4,800回、ラジオ放送によるものが約29万6,000回であり、電話照会に対するものは約804万件であった。
イ 交通情報提供施設の整備充実
 警察では、よりきめ細かな交通情報を広域的に提供するために、複数の交通管制センターのネットワーク化、車両感、知器、路側通信設備、旅行時間提供システム等の交通情報収集・提供施設の整備充実、交通情報の編集、提供の自動化を促進し、運転者のニーズに応じた情報提供に努めており、FM多重放送等を利用した新たな情報提供手法の実用化を図っている。
(ア) 旅行時間提供システムの整備の推進
 旅行時間提供システムは、R型車両感知器から収集した交通量、占有率、速度のデータを利用するなどして、ある地点から目的地までの旅行時間を予測して提供するもので、現在、大阪府、石川県等で行われてお

図7-14 旅行時間提供システム

り、今後も本システムの整備を進めていくこととしている(図7-14)。
(イ) 新たな情報提供手法の実用化の推進
 警察庁は、関係省庁とともに、3年10月に発足したVICS(Vehicle Information and Communication System、道路交通情報通信システム)推進協議会において、システムについての総合的な検討を行っている。
(5) 新しい交通管理システム
 コンピュータを利用した交通管制システムは、本格的に整備され始めてから20年以上が経過しているが、そのアルゴリズムは基本的には変更されておらず、コンピュータ制御技術等の飛躍的な進歩を十分反映できていない状況にある。そこで、警察庁において、信号制御の最適化及び交通情報収集・提供システムの高度化を実現する「新しい交通管理システム(Universal Traffic Management System、UTMS)」の構想を推進している。
 諸外国においては、モータリゼーションの急速な進展に伴い、近年、交通環境が極めて悪化していることから、交通管理に対する新しい取組みが始められている状況にあり、コンピュータにより集中制御される信号機を最も多く保有する我が国の取組みは、国際的にも注目されている。

7 交通秩序の確立

(1) 効果的な交通指導取締りの推進
ア 効果的な取締りの推進
 交通秩序を確立し、交通の安全を確保するため、道路交通法、道路運送車両法等の交通関係法令違反について取締りを行っている。  道路交通法違反の取締りについては、無免許運転、飲酒運転、著しい速度超過、信号無視等悪質、危険な違反や幹線道路の交差点等における駐停車違反、暴走族の騒音運転等迷惑性の高い違反に重点を置いて実施している。最近5年間の主な道路交通法違反の取締り状況は、表7-5のとおりである。

表7-5 主な道路交通法違反の取締り状況(昭和63~平成4年)

 なお、交通違反取締り件数の推移及び違反別交通違反取締り状況については、資料編統計7-13、統計7-14参照。
イ 街頭指導活動の強化
 警察官による街頭交通監視活動、白バイ、パトカー等による交通機動パトロール活動を強化し、交通事故の多発する路線、場所を重点に、危険性、迷惑性の高い違反の未然防止を図っている。また、歩行者、特に高齢者、子供、身体障害者や自転車利用者に対し、安全な通行を促すための街頭指導を行っている。
ウ 企業ぐるみの違反に対する厳正な措置
 事業活動に関してなされた放置駐車、過積載、過労運転、無免許、無資格運転やこれらに起因する事故事件等のいわゆる企業ぐるみの違反に

表7-6 使用者等の背後責任の追及状況(平成3、4年)

ついては、運転者の責任追及はもとより、使用者、荷主等の運行管理、業務管理に係る背後責任の追及を徹底するとともに、自動車の使用制限処分を迅速かつ厳正に行っている。使用者等の背後責任追及状況は、表7-6のとおりである。
 このうち放置駐車違反に係る使用者責任の追及については、平成4年中に、放置行為の下命、容認の禁止規定を適用して235件を検挙したほか、都道府県公安委員会による指示を1万5,909件、1万6,378台について、放置行為の下命、容認等に係る自動車の使用制限処分を221件、249台(うち指示に係るもの103件、104台)について行った。
 また、関係機関による行政措置や関係業界、団体による指導措置等が適切に講じられるよう、取締り結果等を積極的に通報している。
(注) 5年4月の道路交通法の改正により、過積載対策強化のための制度  の整備を行い、過積載車両の運転に係る罰則を強化するとともに、運送事業者、荷主、荷受人等の背後責任を追及するための自動車の使用制限処分等の規定を設けた。
エ 運転代行事業の健全化
 運転代行事業(飲酒、疲労その他の理由により一時的に運転をしないこととした者の依頼に応じ、その者の運転していた自動車を運転する役務を提供する事業をいう。)については、飲酒運転、過労運転等の防止に資する反面、違法駐車を繰り返したり、暴力団が経営に関与している悪質な業者も存在しているため、警察では、必要な指導取締りを行うなど事業の健全化に努めている。
(2) 交通捜査活動の推進
ア 交通事故事件
 平成4年の交通事故に係る業務上(重)過失致死傷事件の検挙件数は61万3,138件、検挙人員は63万8,045人で、前年に比べ、件数は3万6,614件 (6.4%)、人員は3万5,180人(5.8%)それぞれ増加した。
イ 物件事故の取扱い
 4年の物件事故の発生は273万5,783件で、前年に比べ5万2,561件(2.0%)増加した。なお、物件事故のうち一定の要件を充足する軽微なものについては、事故当事者の希望を尊重しながら、現場見分を省略できることとした。この結果、事故当事者から、「短時間で処理がなされた」、「管轄が違っても処理してもらえた」など好評であった。
ウ ひき逃げ事件
 最近5年間の死亡ひき逃げ事件の発生、検挙状況は、表7-7のとおりである。

表7-7 死亡ひき逃げ事件の発生、検挙状況(昭和63~平成4年)

 逃走の動機としては、依然として無免許運転、飲酒運転等の悪質な交通違反の発覚を恐れたものが多く、全体の約5割を占めている。また、犯行後、車の修復をしたり、アリバイ工作を行うなどの証拠隠滅を図った悪質、巧妙な事犯が目立っている。
〔事例〕 9月、兵庫県内の県道脇農業用水路から白骨死体が発見され、当初殺人事件として捜査していたが、現場から微量のプラスチック片が発見されたことからひき逃げ事件と断定、プラスチック片を基に2箇月に及ぶ粘り強い捜査をした結果、犯行車両を完全修理していた大学生(21)を検挙し、発生から約7箇月ぶりに事件を全面解決(兵庫)
エ 交通特殊事件
 偽装交通事故による自動車保険金詐欺事件等いわゆる交通特殊事件の検挙状況は、表7-8のとおりである。

表7-8 交通特殊事件の検挙状況(平成3、4年)

オ 車庫とばし事件の検挙
 4年の自動車保管場所証明手続の過程における不正(車庫とばし)事件の検挙状況は558件、253人、29法人、また、青空駐車等の保管場所法違反の取締り件数は7万2,034件となっている。
 警察では、車庫とばし事件の捜査、青空駐車を助長している自動車販売業者等に対する責任追及を強化するとともに、再発防止のための措置について関係機関、団体に対し要望した。
〔事例〕 暴力団幹部らが経営する中古自動車販売会社、自動車修理業者等が、他人名義や会社名義にするなどの手口で不正に登録を受けた上、車庫を持たない顧客に自動車を販売していた車庫とばし事件を摘発、暴力団幹部、経営者、セールスマン、顧客等36人及び1法人、4業者を公正証書原本不実記載、偽造公文書行使、有印私文書偽造、同行使、保管場所法違反等で検挙(奈良)
(3) 高速道路における交通警察活動
ア 高速道路交通警察隊の活動
 高速道路交通警察隊は、高速道路における交通指導取締り、交通事故事件の処理、交通実態に即した交通規制等を行うほか、犯罪の発生を未然に防止し、警察事象が発生した場合には、これを第一次的に処理するための活動を行っている。
イ 高速道路の交通実態
(ア) 高速道路の供用状況
 平成4年末現在、高速道路の全供用距離は、59路線、6,142.0キロメートル(高速自動車国道5,248.4キロメートル、指定自動車専用道路893.6キロメートル)となった。4年には、高速自動車国道として四国横断自動車道、東北横断自動車道、東北縦貫自動車道等233.7キロメートルが新たに供用開始された。
(イ) 高速道路における交通事故発生状況
 4年の高速道路における交通事故の発生状況は、表7-9のとおりである。
 高速道路は自動車専用の道路であり、原則として交通流が上下線に分

表7-9 高速道路における交通事故の発生状況(平成4年)

離されていることから、高速自動車国道の自動車走行台キロ当たりの事故率は、その他の道路に比べ低い。その反面、高速道路においては、高速走行のため、わずかな運転上のミスが事故に結び付きやすく、しかも関係車両や死傷者が多数に及ぶ重大事故が多い。4年の高速自動車国道の死亡事故率(発生件数に占める死亡事故件数の割合)は、その他の道路の約3.6倍となっており、中でも北海道縦貫自動車道における死者2人、関係車両186台に及ぶ事故等、雪、路面凍結等の厳しい走行条件下の大規模な多重事故が発生した。
ウ 高速道路における安全で円滑な交通流の確保
(ア) 先行対策の推進
 供用予定の高速道路については、交通の安全と円滑を確保するため、道路管理者に対して、道路線形の改良、交通安全施設の整備等必要な申入れを行うとともに、既に供用されている高速道路の交通規制との整合性や一般道路との関連性、道路構造、気象条件等を総合的に判断し、最高速度規制等所要の交通規制を実施している。
(イ) 交通実態に即した交通規制等の実施
 既に供用されている高速道路については、交通事故の発生状況、実勢速度、交通安全施設の整備状況等を勘案して、交通実態に即した交通規制となるよう必要な見直しを実施するとともに、道路管理者との共同現地点検を実施して、交通危険箇所に対する安全対策を推進している。
 また、地震、積雪、凍結、霧、降雨、強風等の交通事故につながるおそれの大きい自然現象の発生時や交通渋滞、交通事故等の交通障害発生時には、その状況に応じた臨時交通規制を実施し、交通事故や二次障害の発生防止に努めている。
(ウ) 高速道路上における交通情報の収集と提供
 高速道路は閉鎖性が高く一般道路との代替が困難であるため、小さな交通障害が他の交通障害を引き起こし、全体として大きな交通障害に発展することが多く、交通規制の適切な実施と交通障害情報、う回路情報等の交通情報の積極的な提供が特に重要である。そこで、パトロール活動を強化して、高速道路及び周辺道路の交通情報を幅広く収集し、周辺道路との調整を図りつつ、必要な交通規制を行うとともに、テレビ、ラジオ等による広報、白バイ、パトカーによる現場広報、情報板の活用等による交通情報の提供を行っている。
(エ) 交通渋滞の早期解消対策の推進
 交通渋滞については、その緩和、解消対策を積極的に進めている。特に大規模な交通渋滞が予想される行楽期等においては、関係機関と連携して、事前広報、交通渋滞情報の収集、提供、う回路マップの配布等により、その緩和と早期解消に努めている。また、道路工事に伴う交通渋滞については、工事方法、施工時期、期間等について関係機関との調整を行い、集中工事や夜間工事の採用等によりその緩和に努めている。
(オ) 効果的な交通指導取締り
 4年の高速道路における交通違反取締り状況は、表7-10のとおりである。

表7-10 高速道路における交通違反取締り状況(平成3、4年)

エ 高速道路交通安全団体の指導育成
 高速道路における自主的な交通安全活動を推進するため、高速道路を日常的に利用する運送業者等を中心とした高速道路交通安全協議会等の団体の組織化を促進しており、4年末現在、41都道府県において41団体が活動している。

8 暴走族対策の推進

(1) 暴走族の動向
 平成4年に暴走族として把握されている者の総数は3万5,143人である。そのい集走行状況は表7-11のとおりであり、近年、その動きが活発化してきている。

表7-11 暴走族のい集走行状況(昭和63~平成4年)

 共同危険行為等禁止規定による取締りの強化により多くのグループが解体されたこと、最近の若者はグループの統制を嫌うことなどからグループに加入しない暴走族が年々増加している。したがって、近年では、大集団による暴走は少なくなっているものの、車両のナンバーを取り外し、消音器を不法に改造した車両により大きな排気騒音を発しながら、住宅街等をゲリラ的に走行する爆音暴走が多くなっている。このため、暴走族に関する110番通報が増加傾向にあり、平成4年は12万7,829件に達した。また、暴走族は、グループ間での対立抗争事件を引き起こしているほか、一般車両、パトカーの襲撃事件等を敢行するなど、非行集団的性格を強めている。
(2) 暴走族対策の推進
ア 実態把握と個別指導、補導の強化
 警察では、交通をはじめ少年、刑事等各部門が連携して、暴走族に関する情報の収集に努め、その実態を把握し、個別的な指導、補導を強化し、グループの解体、暴走族からの離脱を図るなど、暴走行為をさせないための対策を推進している。
イ 取締りの徹底
 爆音暴走に対する取締り要望の110番が増加したことから、平成4年5月に道路交通法の一部が改正され、消音器を取り外し又は切断するなどした自動車等の運転禁止規定、及び番号標(ナンバー)の表示義務違反行為を運転免許に関する行政処分事由とする規定が8月1日から施行された。警察では、この改正道路交通法を活用した取締りを推進した結果、4年8月から12月までの爆音暴走に対する取締り要望の110番が、前年同期に比べ大幅に減少した。
 4年の暴走族の取締り件数は11万854件で、前年に比べ6,315件(5.4%)減少したが、消音器に係る違反の検挙は1万348件(25.4%)、番号表示義務違反は3,367件(35.4%)それぞれ増加した。最近5年間の暴走族事犯の法令別検挙状況は、表7-12のとおりである。
 暴走族が使用する不法改造車両については、6月に「暴走族及び整備

表7-12 暴走族事犯の法令別検挙状況(昭和63~平成4年)

不良車両等取締り強化月間」を実施するなどして取締りを強化し、押収措置により暴走族と車両の分離を図るとともに、車両の運転者のみならず、改造等を行った業者等に対しても徹底した責任追及を行った。
 なお、4年の暴走族に対する共同危険行為等による行政処分は、取消処分1,957件、停止処分1,991件であった。
ウ 暴走族を許さない社会環境づくり
 関係機関・団体等で構成される暴走族対策会議か中心となって、暴走を『しない』、『させない』、『見に行かない』運動等地域ぐるみの暴走族追放運動を促進した。また、暴走行為の頻発する地域、路線については、交通規制のほか、道路管理者等の協力を得て、暴走族がい集、暴走できない環境づくりを推進した。


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