第6章 生活の安全の確保と環境の浄化

 市民生活の安全を確保するためには、犯罪の取締りとともに、事件、事故の発生する要因を社会から除去し、良好な社会生活環境の形成を図る必要がある。このため、警察では、次のような活動を推進している。
 けん銃については、暴力団員のけん銃所持の常態化と、暴力団員以外の者へのけん銃の拡散に対処するため、取締りの強化、広報啓発活動の推進、けん銃情報管理システムの導入等の総合的な対策を進めている。
 薬物乱用については、コカイン等の乱用が増加し、青少年にも乱用が広がるなど拡大、多様化の傾向を強めており、また、暴力団の介入に加え、南米のコカイン・カルテルが進出してきていることから、供給ルートの遮断と乱用の根絶を柱とした総合的な対策を進めている。
 風俗環境については、風俗営業の健全化のための施策を積極的に進めるとともに、悪質な事犯に重点を置いた取締りによる浄化に努めている。
 火薬類等の危険物については、保管方法、運搬方法等についての指導取締りを通じて事故発生の防止に努めている。
 悪質商法は、手口の巧妙化が目立ち、また、「ゆとり志向」に付け込んだ新たな商法が問題化していることから、積極的な取締りを行う一方、広報啓発活動を展開し、被害の未然防止、拡大防止に努めている。
 また、防犯システムの一環としての役割を担う警備業、質屋営業等の健全育成に努めており、調査業についても営業活動の健全化に向けて働き掛けている。

1 けん銃事犯の取締りと銃砲の適正管理

(1) けん銃事犯の状況
ア けん銃使用犯罪の状況
 最近5年間における銃砲使用犯罪の検挙件数の推移は表6-1のとおりであり、銃砲使用犯罪の大半にけん銃が使用されている。

表6-1 銃砲使用犯罪の検挙件数の推移(昭和63~平成4年)

 特に平成4年は、暴力団員以外の者によるけん銃使用凶悪事件が目立っており、暴力団員からそれ以外の者へとけん銃が拡散し、善良な一般市民がけん銃使用犯罪の被害者となる危険性が増大していることがうかがわれる。
〔事例1〕 7月8日、強盗等で指名手配中の男(23)は、逮捕に赴いた警察官にけん銃を発砲し殺傷した後、幼児をら致し、車両を窃取して逃走した。さらに、逃走中車両を強奪するために主婦にけん銃を発砲し、翌日民家に立てこもった。同日逮捕(神奈川)
〔事例2〕 7月10日、タイル会社社長(48)は、工事の発注をめぐるトラブルから、工事打合せ中の被害者らに対してけん銃を発砲して殺傷し、その後も同様に2人を殺害した。同日逮捕(岡山)
〔事例3〕 9月15日、挙動不審な外国人2人に対し警察官2人が職務質問のため声を掛けたところ、そのうちの1人がけん銃を取り出して発砲し両警察官を負傷させた。同日逮捕(警視庁)
イ けん銃の押収状況
 最近5年間のけん銃押収数の推移は、表6-2のとおりである。

表6-2 けん銃押収数の推移(昭和63~平成4年)

 4年には、けん銃情勢の悪化に対処するため、警察庁及び各都道府県警察に「けん銃摘発班」を設置し、密輸入及び不法所持けん銃の摘発を進め、春秋2回にわたりかつてない規模の全国的なけん銃の一斉取締りを実施した結果、けん銃の押収丁数は1,450丁で、前年に比べ418丁(40.5%)増加した。そのうち暴力団勢力以外の者からの押収が378丁(26.1%)で、前年に比べ丁数が約5倍になっている。このことからも、暴力団勢力以外の者へのけん銃の拡散傾向がうかがわれる。
ウ けん銃の密輸入状況
 最近5年間のけん銃密輸入事犯の検挙状況は、表6-3のとおりである。

表6-3 けん銃密輸入事犯の検挙状況(昭和63~平成4年)

 また、押収したけん銃に占める真正けん銃の割合は図6-1のとおりであり、大半が真正けん銃となっている。このことは、我が国で不法に所持されているけん銃のほとんどが国外から密輸入されたものであることを示しており、国内へのけん銃の流入を阻止することが課題となっている。

図6-1 押収けん銃に占める真正けん銃の割合(昭和63~平成4年)

 4年には、ロシア船の入港が増えたことに伴い、ロシア人船員がけん銃を携帯して密輸入し、中古自動車と交換するといった事例も発生した。
〔事例〕 中古自動車と交換するために、けん銃、実包を密輸入したロシア人船員2人及びけん銃を譲り受けた中古自動車販売業者(34)の3人を逮捕(北海道)
(2) 関係省庁との連携によるけん銃対策の推進
 政府においては、平成4年7月、けん銃使用凶悪事件多発の事態に対応するため、内閣官房、警察庁、法務省、外務省、大蔵省、水産庁、通産省、運輸省、海上保安庁及び郵政省で構成される「けん銃取締り対策に関する関係省庁連絡会議」を開催し、関係省庁の連携による密輸摘発の強化等の総合的な取締り、広報啓発活動の推進と関係団体に対する要請等を通じた国民の理解と協力の確保、けん銃事犯に対する厳正な処分とけん銃に係る法整備の3本を柱とするけん銃諸対策の推進を申し合わせた。
 さらに、8月に警察庁、法務省、大蔵省及び海上保安庁が「けん銃取締り対策部会」を開催し、9月及び10月を「けん銃特別取締り期間」に設定し、4省庁合同による一斉取締りを実施した。また、地方レベルでの相互の連携を一層強化するため、全国を11のブロックに分け、各ブロックごとに4省庁の地方機関で構成される「けん銃取締り対策部会地方機関連絡協議会」を設置し、関係機関が協力してけん銃密輸入の水際摘発を推進している。
(3) 今後のけん銃事犯対策
 警察庁は、けん銃等の事件情報を一元管理することによってけん銃事犯捜査に役立てるため、「けん銃情報管理システム」を平成5年4月から導入した。また、同月、内外の銃器情報の収集及び分析、外国、関係機関との協力、銃器事犯捜査の指導等の銃器対策を推進するため、警察庁に銃器対策室を設置した。さらに、けん銃等の密輸入対策として情報交換及び事件捜査の国際協力を推進するため、5年中に関係国を招いて銃器対策国際会議を開催することとしている。
(注) 5年6月の銃砲刀剣類所持等取締法の改正により、新たにけん銃等の譲渡し、譲受けを禁じるとともに、けん銃等の不法所持罪と密輸入罪の法定刑を引き上げることとした。
(4) 銃砲の適正管理
 平成4年末における都道府県公安委員会の所持許可を受けた銃砲の数は51万3,199丁である。このうち、猟銃及び空気銃(以下「猟銃等」という。)は46万7,271丁で、全体の91.1%を占めているが、その数は14年連続して減少している。
 4年の猟銃等による事故の発生件数は57件、死傷者数は58人であった。また、猟銃等を使用した犯罪の検挙件数は17件で、このうち許可を受けた猟銃等を使用したものが10件であった。
 銃砲の所持許可は、銃砲を狩猟、標的射撃、産業、試験、研究等の社会的有用性のある用途に供する者に限って与えられているが、銃砲は人を殺傷する威力を有するものであるので、警察では、銃砲の所持許可を受けた者に対し適正な保管、取扱いについての指導等を行い、銃砲による危害の発生防止に努めている。

2 薬物乱用の現状と対策

 麻薬、覚せい剤等の薬物の乱用は、乱用者個人の生命や身体に危害を及ぼすばかりでなく、平和な家庭を破壊し、社会秩序を乱すなど、社会生活に計り知れない悪影響を与えている。
 平成4年は、覚せい剤、シンナーの乱用が依然として高い水準で推移したほか、コカイン、ヘロイン、大麻、向精神薬の乱用が増加するなど、薬物の多様化がますます顕著となっている。また、これら薬物の不正取引に絡む暴力団の動きも一層活発化しており、特に近年は、取締りを免れるため、密輸入や密売手口の一層の巧妙化を図るなどの組織防衛を強めている。さらに、南米のコカイン・カルテルの活動も目立っており、我が国の薬物情勢は、予断を許さない状況にある。
 警察では、このような厳しい情勢を踏まえ、供給ルートの遮断と乱用の根絶を重点に、総合的な対策を推進している。
(1) 我が国の薬物乱用の現況
ア 高水準で推移する覚せい剤事犯
 平成4年の覚せい剤事犯の検挙件数は2万853件、検挙人員は1万5,062人で、前年に比べ、件数は851件(3.9%)、人員は1,031人(6.4%)それぞれ減少したが、依然として高い水準で推移している。一方、押収量は163.7キログラムで、前年に比べ42.7キログラム(35.3%)大幅に増加しており、大量の覚せい剤が国内に持ち込まれている状況がうかがわれる。過去10年間の覚せい剤事犯の検挙状況は、図6-2のとおりである。

図6-2 覚せい剤事犯の検挙状況(昭和58~平成4年)

(ア) 密輸入に深くかかわる暴力団
 4年に覚せい剤事犯で検挙された暴力団勢力は6,627人で、覚せい剤事犯の総検挙人員の44.0%を占めており、前年に比べ1.2ポイント高くなっている。また、4年中の覚せい剤の大量押収事例(1キログラム以上を一度に押収した事例をいう。)11件、139.4キログラム(総押収量の85.2%)からみると、暴力団の関与したものが10件、132.4キログラム(同80.9%)で、依然として暴力団が覚せい剤の密輸入に深く関与している実態が顕著に表れている。
 密売の手口は、買受人に顔を見られないようにするため、メッセージ機能付きポケットベル、転送電話、宅配便等を利用して行う方式のものが多い。また、密売人に対して、逮捕されても犯行の否認や、あるいは完全黙秘することなどを指示して、組織に捜査が及ばない工作を図っている。
 なお、暴力団の覚せい剤事犯については、第1章第2節1(3)参照。
〔事例〕 6月、メッセージ機能付きポケットベルを利用して、客からの注文時に連絡先の電話番号を入力させ、折り返しの電話で取引時間、場所等を連絡する方法で密売を繰り返していた暴力団の組織的密売事犯を摘発、18人を検挙(香川)
(イ) 青少年、女性への浸透が顕著
 検挙人員が減少している中で、少年、女性の検挙人員がそれぞれ58人(6.2%)、6人(0.2%)増加している。
 4年10月及び11月に全国で検挙した覚せい剤の初犯末端乱用被疑者917人(同時期の全覚せい剤事犯検挙者の21.1%)について実態調査をしたところ、年代別では20歳代が429人(調査対象者の46.8%)で最も多く、これに10歳代142人(同15.5%)を加えると571人(同62.3%)に上り、また、男女別では女性が303人(同33.0%)で、全体に占める女性の割合が、4年中の覚せい剤事犯の女性被疑者2,842人、刑法犯の女性被疑者5万2,032人がそれぞれ全体に占める割合18.9%、18.3%に比べて著しく高くなっている。このように、青少年や女性へ乱用が広がりつつある状況がうかがわれる。
〔事例〕 7月、覚せい剤の使用罪で検挙したウエイトレス(15)を取り調べたところ、同せい中の男(26)から勧められ、その後、自分から進んで使用していたことを自供(三重)
(ウ) 使用方法の多様化
 覚せい剤の使用は静脈注射によるものが主流であるが、これに加えて、4年には鼻から吸ったり、ビール、ジュース等に溶かして飲むなど、身体に痕(こん)跡を残さないための使用方法の多様化が目立った。
〔事例〕 1月、覚せい剤を使用した建築業の男(21)を検挙し取り調べたところ、注射の跡を残さないようにするため、覚せい剤の粉末をスポーツドリンクに溶かして飲んでいたことを自供(警視庁)
(エ) 密輸入の状況
 我が国で不正に流通している覚せい剤は、そのすべてが海外から密輸入されたものであるが、その仕出地を4年の大量押収事例11件、139.4キログラム(総押収量の85.2%)からみると、台湾が2件、122.0キログラム(同74.5%)、仕出地不明が9件、17.4キログラム(同10.6%)で、依然として台湾からのものが主流となっている。また、最近は、中国大陸等で生産された覚せい剤が台湾、香港等を経由して我が国に密輸入されていることが確認されており、新たな仕出地対策を講じることが必要となっている。
 密輸手口については、航空貨物、商業貨物等の中への隠匿のほか、フルーツ缶詰内やコンテナ内部の二重壁の中への隠匿等、摘発を免れるため様々な工夫がなされている。

〔事例1〕 4月、缶詰の缶内にビニール袋に入れた覚せい剤を詰め、フルーツ缶詰に偽装して台湾から密輸入しようとした中国(台湾)人2人を検挙し、覚せい剤5.5キログラムを押収(兵庫)
〔事例2〕 8月、コンテナ内部の二重壁の中に覚せい剤を隠匿し、竹細工貨物に仮装して台湾から密輸入した中国(台湾)人ら3人を検挙、覚せい剤115.0キログラムを押収(警視庁)
イ 深刻化する麻薬等事犯
 4年の麻薬等事犯の検挙件数は531件、検挙人員は378人で、前年に比べ、件数は70件(15.2%)、人員は42人(12.5%)それぞれ増加したが、特に向精神薬事犯の検挙人員の増加が目立っている。過去10年間の麻薬等事犯の検挙状況及び最近5年間の麻薬等の種類別押収状況は、それぞれ図6-3、表6-4のとおりである。
(ア) コカイン事犯の検挙人員が過去最高を更新
 4年のコカイン事犯の検挙件数は162件、検挙人員は133人で、前年に比べ、件数は5件(3.2%)、人員は23人(20.9%)それぞれ増加し、人員は、6年連続して過去最高を更新した。一方、押収量は31.4キログラムで、前年に比べ8.9キログラム(39.6%)増加している。また、地域別

図6-3 麻薬等事犯の検挙状況(昭和58~平成4年)

表6-4 麻薬等の種類別押収状況(昭和63~平成4年)

では、福島で東北地方初の検挙事例があったほか、茨城、三重、愛媛、熊本、鹿児島において検挙があるなど、汚染が全国に拡散、浸透する傾向がみられる。
〔事例〕 6月、コカインを使用した会社役員(43)を検挙し、同人を取り調べたところ、暴力団員からコカインを譲り受けて乱用していたことを自供(福島)
 コカイン事犯で検挙された者のうち暴力団勢力は22人で、全体の16.5%を占めている。乱用薬物の多様化傾向の中で、暴力団勢力のコカイン所持事犯の検挙が相次いでおり、暴力団が覚せい剤、大麻に次ぐ資金源としてコカインの密売に組織的な介入を深めていることがうかがわれる。また、元年に我が国への進出を開始した南米のコカイン・カルテルは、販路の拡大を求めて国内での密売活動を活発化させており、これらの組織に関連する事件も検挙されている。
〔事例〕 7月、コロンビアから密輸入したコカインを所持していたコロンビア人2人を検挙し、コカイン1.0キログラムを押収した。同人らを取り調べたところ、コロンビアの密売組織カリ・カルテルのメンバーであることが判明(神奈川)
(イ) 警戒を要するヘロイン事犯
 4年のヘロイン事犯の検挙件数は134件、検挙人員は90人で、前年に比べ、件数は59件(78.7%)、人員は30人(50.0%)それぞれ増加した。一方、押収量は12.1キログラムで、前年に比べ13.0キログラム(51.8%)減少している。我が国におけるヘロイン事犯は、東南アジアから我が国を中継地として欧米諸国へ密輸しようとするものが大半を占めているが、4年には、国内での密売を目的とした密輸入事犯が目立った。
〔事例〕 10月、ヘロイン5.0キログラムをショルダーバッグの中に隠匿して所持していたタイ人(28)を検挙した。その後の取調べにおいて、日本人に密売しようとしていたことを自供(兵庫)
(ウ) 向精神薬事犯
 4年の向精神薬事犯の検挙件数は90件、検挙人員は49人で、前年に比べ、件数は52件(136.8%)、人員は26人(113.0%)それぞれ増加し、鎮静剤2万1,440錠(前年比1万6,710錠、353.3%増)、興奮剤3,737錠(同16万7,271錠、97.8%減)を押収した。向精神薬は、近年、医療分野で幅広く使用されており、その種類や量が年々増加し、国民が向精神薬に接する機会が増大している。このような状況の中で、4年は、海外で密造された向精神薬の組織的な密輸入事件が続発したほか、医師や医療関係者による不正横流し事件、病院や薬局における盗難事件が多発した。また、暴力団が介入する動きもみられることから、今後の乱用の拡大が危ぐされる。
〔事例〕 4月、勤務先の診療所や医薬品卸売会社から大量の向精神薬(ハルシオン、ベンザリン等)を密売人に横流しして、主婦や風俗営業関係者等に密売していた事件について、密売人(41)、医師(58)、

医薬品卸業者(49)ら10人を検挙し、ハルシオン、ペンザリン等2,945錠を押収(警視庁)
(エ) あへん事犯
 4年のあへん事犯の検挙件数は90件、検挙人員は80人で、けし(けしがら)4,832本(前年比1,203本、19.9%減)、生あへん14.4キログラム(同6.3キログラム、77.8%増)を押収した。4年も前年同様、イラン人による生あへんの密輸入事犯や乱用事犯が続発し、12人を検挙している。
〔事例〕 3月、生あへん1.0キログラムをアタッシュケース二重底内と靴底内に隠匿して、香港から密輸入しようとしたイラン人(32)を新東京国際空港で検挙(千葉)
ウ 増加する大麻事犯
 4年の大麻事犯の検挙件数は2,236件、人員は1,529人で、前年に比べ、件数は339件(17.9%)、人員は143人(10.3%)それぞれ増加し、検挙人

図6-4 大麻事犯の検挙状況(昭和58~平成4年)

員は過去最高を記録した。押収量は、乾燥大麻が232.1キログラム(前年比27.6キログラム、13.5%増)、大麻樹脂が11.0キログラム(同16.0キログラム、59.3%減)で、乾燥大麻の押収量については史上第2位を記録した。過去10年間の大麻事犯の検挙状況は、図6-4のとおりである。
(ア) 青少年を中心とする乱用
 4年に大麻事犯で検挙された者のうち、10歳代は211人、20歳代は860人で、この両者で全体の70.0%を占め、乱用の中心は依然として青少年であった。大麻は、覚せい剤、コカイン等に比べ、危険性に関する認識が希薄な傾向もみられ、青少年が安易に手を出す傾向がうかがわれる。
〔事例〕 1月、ロックバンド仲間による大掛かりな大麻乱用事件を摘発し、乾燥大麻約1.5キログラムを押収するとともに、無職の少年(19)ら9人を検挙した。同人らを取り調べたところ、2年前から自宅や付近の山林等で大麻を不正に栽培し、乱用していたことが判明(愛知)
(イ) 介入を一段と強める暴力団
 4年に大麻事犯で検挙された暴力団勢力は366人で、前年に比べ7人(1.9%)減少したものの、暴力団が関連した大規模な密売事犯が目立つなど、暴力団が大麻の密売に組織的な介入を強めていることがうかがわれる。
〔事例〕 6月、密売目的で乾燥大麻を所持していた暴力団員(19)を検挙し、乾燥大麻3.0キログラムを押収するとともに、その後の捜査により、暴力団事務所等から密売用の乾燥大麻57.0キログラムを押収(警視庁)
(ウ) 不正栽培事件が続発
 4年の密輸入に係る大麻(乾燥大麻)の大量押収事例は21件、205.4キログラム(総押収量の88.5%)であった。これを仕出地別にみると、フィリピンが5件、66.9キログラム(同28.8%)、タイが3件、20.2キログラム(同8.7%)、マレーシアが1件、22.7キログラム(同9.8%)となっており、東南アジアからの密輸入が主流となっている。また、自宅において大麻を栽培する事犯が発生するなど、国内での不正栽培事犯が続発し、29件、18人を検挙している。
〔事例〕 7月、知人のタイ人から譲り受けた大麻種子を自宅のベランダで鉢植えにして栽培し、その葉を乾燥させて乱用していた鉄工業者(35)を検挙し、乾燥大麻約0.1キログラム、大麻草92本を押収(愛知)

エ まん延するシンナー等有機溶剤の乱用
 4年のシンナー等有機溶剤事犯の検挙人員は2万1,083人で、前年に比べ5,862人(21.8%)減少したが、引き続き2万人台の高い水準で推移している。このうち乱用者(摂取又は使用目的の所持で検挙された者をいう。)の検挙人員は1万7,915人で、その中心は少年であり、1万4,695人と全体の82.0%を占めている。また、シンナーの乱用に起因する悲惨な事件、事故も相次いで発生しており、暴力団による組織的な密売も依然として跡を絶たない状況にある。過去5年間のシンナー等有機溶剤乱用者の検挙人員の推移は、表6-5のとおりである。
 なお、少年のシンナー等の乱用については、第5章1(2)参照。

表6-5 シンナー等有機溶剤乱用者の検挙人員の推移(昭和63~平成4年)

〔事例〕 5月、暴力団による組織的なトルエン密売事犯を摘発し、暴力団幹部(37)、塗料会社経営者(45)ら7人を検挙し、トルエン144.0リットルを押収(茨城)
オ 薬物乱用に起因する事件、事故
 覚せい剤、コカイン等の習慣性薬物は、幻覚、妄想等の精神障害をもたらすとともに、使用をやめた後も、少量の再使用や疲労をきっかけに乱用時と同様の精神障害を突然起こすことがあり(フラッシュバック現象)、悲惨な事件、事故を引き起こすことが多い。
 4年のこれら薬物乱用に起因する事件、事故は、殺人、放火、強盗及び強姦(かん)の凶悪犯罪が21件、購入代金欲しさ等による窃盗が136件、乱用による中毒死及び自殺が53人であり、前年に比べ、中毒死及び自殺が4人(8.2%)増加した。4年の習慣性薬物に係る事件、事故の発生状況は、表6-6のとおりである。

表6-6 習慣性薬物に係る事件、事故の発生状況(平成4年)

〔事例1〕 4月、覚せい剤常用者である無職の男(38)が、覚せい剤使用後、同人の家に出前の配達に来たそば店店主の胸や腹等を包丁で刺して死亡させた(埼玉)。
〔事例2〕 12月、マンション7階の踊り場においてシンナーを吸引していた中学3年の女子生徒5人は、突然「死のう」と声を掛け合い、同所から次々と飛び降りて集団自殺を図り、3人が死亡、2人が重傷を負った(茨城)。
(2) 世界の薬物情勢
 薬物乱用及びこれに関連する問題は、国や民族により異なるものの、世界のほとんどの国や地域で悪化の一途をたどっている。その中で最も注目すべきことは、コカインとへロインの乱用が依然として増加していることである。また、大麻や覚せい剤、向精神薬の乱用も、多くの国で高い水凖になっている。世界全体の主な薬物別の情勢は、次のとおりである。
ア コカイン
 コカイン乱用の問題は、アメリカ、ヨーロッパを中心に、世界の多くの国々で深刻さを増している。平成3年の国連資料によれば、米国では120.3トン(世界全体の37.6%)を押収しており、世界で最も押収量の多い国となっている。コカインは、その薬理作用が短時間で高い多幸感を生み出すことから使用が常習的となり、その結果、多くの事件、事故を引き起こすほか、コカインの取引に絡む殺人、誘拐等の犯罪の発生も目立つなど、深刻な問題を引き起こしている。
イ ヘロイン
 へロインは、北米、西欧、アジア、オセアニアの多くの国において乱用が深刻な問題になっている。「黄金の三角地帯」と呼ばれるタイ、ミャンマー、ラオスや、「黄金の三日月地帯」と呼ばれるアフガニスタン、パキスタン、イランの国境地帯には多くのへロインの密造所があり、麻薬犯罪組織が、高品質のへロインの密輸と密売を敢行している。
ウ 大麻
 大麻は、世界中で栽培されるとともに、広く自生しており、最も広範囲に乱用されている薬物である。
エ あへん
 あへんの三大生産、精製地域は、東南アジア、南西アジア及びメキシコであり、生あへんの乱用は、これらの生産、精製地域の生活風習、習慣等と密接に結び付いている。
(3) 総合的な薬物乱用防止対策の推進
 警察では、薬物対策を平穏な社会生活や治安の根幹にかかわる重要な課題ととらえ、薬物の供給ルートの遮断と乱用の根絶を主な柱に、総合的な対策を推進している。
ア 供給ルートの遮断
 我が国で乱用される薬物のほとんどは海外から密輸入されるものであることから、警察では、これを水際で阻止するため、税関、入国管理局等の関係機関と緊密に連携して、密輸入関係者の発見と動向監視に努めている。特に近年の密輸入は極めて巧妙かつ組織的に行われていることから、捜査体制や装備資機材の整備を図るとともに、密売組織に対する取締りを徹底して行っているほか、薬物の生産国や密輸入中継国の取締り当局等との連携を強化し、薬物の供給源や供給ルートの解明、壊滅に努めている。
 また、平成3年10月に薬物犯罪の取締りの強化を図るために制定された麻薬特例法が4年7月に施行されたことから、同法に規定するコントロールド・デリバリー等の効果的な捜査手法を積極的に活用した取締りに努めている。
 さらに、薬物の密売により得られるばく大な不法収益が、犯罪の誘因となり、かつ、暴力団等の主要な活動資金にもなっているという状況を踏まえ、麻薬特例法の積極的な適用等により、資金面からの取締りを徹底していくこととしている。
イ 乱用の根絶
 警察では、薬物乱用の根絶を図るため、末端乱用者の検挙を徹底するとともに、乱用がもたらす様々な害悪についての広報啓発活動を活発に展開し、薬物問題に関する国民の理解を高めるなど、薬物乱用を拒絶する社会環境づくりに努めている。このため、4年には、啓発用資料「ザ・ドラッグ」を17万部作成し、全国の職場、学校等に配布したほか、各都道府県警察に設置されている覚せい剤、コカイン等相談電話等により乱用者の家族等からの相談3,140件に応じた。
ウ 国際協力の推進
 薬物の不正取引は、国際的な薬物犯罪組織により国境を越えて敢行されており、一国のみでは解決することができないことから、警察では、各種国際会議等における情報交換や関係国との捜査員の相互派遣等の国際捜査協力の推進を図っている。また、生産国等における薬物問題への取組みを支援することを目的として、セミナーの開催、途上国への技術援助を行っている。
 なお、国際協力の推進については、第2章3(2)参照。

3 風俗営業の健全化と風俗環境の浄化

(1) 風俗営業の健全化
 警察では、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営適正化法)等に基づき、風俗営業に対して必要な規制を加えるとともに、風俗営業者の自主的な健全化のための活動を支援し、業務の適正化を図っている。
ア 風俗営業の状況
 最近5年間の料飲関係営業等(風営適正化法第2条第1項第1号~第6号)の営業所数の推移は、表6-7のとおりである。
 また、遊技場営業(風営適正化法第2条第1項第7号、第8号)の営業所数の推移は、表6-8のとおりである。まあじゃん屋及びゲームセンター等の営業所数が減少傾向にある一方で、ぱちんこ屋の営業所数は毎年500軒前後の増加を続け、平成4年の営業所数は、前年に比べ461軒(2.8%)増加し1万6,963軒となっている。

表6-7 風俗営業(料飲関係営業等)の営業所数の推移(昭和63~平成4年)

表6-8 風俗営業(遊技場営業)の営業所数の推移(昭和63~平成4年)

イ 風俗営業の健全化に向けた施策の推進
 風俗営業の営業所の管理者に対する講習の最近5年間の実施状況は、表6-9のとおりである。講習では、風営適正化法に規定する遵守事項等のほか、暴力団からみかじめ料等を要求された場合の対応要領等についても指導を行っている。
 また、風俗環境浄化協会によるポスター、パンフレットの配布等の啓発活動や少年指導委員による風俗環境の浄化のための諸活動を通じて風俗営業の健全化に努めている。

表6-9 管理者講習の実施状況(昭和63~平成4年)

ウ ぱちんこ営業の健全化
(ア) プリペイドカード・システム導入の指導
 ぱちんこ営業は、国民に身近な娯楽として急速に成長しているが、一方で暴力団の関与等の健全化を阻害する要因が残っているため、警察では、その健全化を図るため、ぱちんこの玉貸しに使用する全国共通のプリペイドカードの導入が適切に行われるよう引き続き指導を行っている。
(イ) 景品買取り対策
 ぱちんこ営業においては、客に提供された物品が、いわゆる景品買取り所で換金されることがほぼ常態化していることから、その減少を図るため、警察では、魅力的な賞品の取りそろえについての指導を行っている。
(ウ) 遊技機等の不正防止対策の推進
 警察では、遊技に際し客の射幸心が著しくそそられることを防ぐため、遊技機の検定制度等を実施しており、遊技機の違法な改造等を行う事案については、検定の取消しを行うなど厳正に対処するとともに、同種事案の再発防止のため関係団体に対する指導を強化している。
(2) 深夜飲食店営業の状況
 最近5年間の深夜飲食店営業の営業所数の推移は、表6-10のとおりである。

表6-10 深夜飲食店営業の営業所数の推移(昭和63~平成4年)

(3) 風俗関連営業の状況
 最近5年間の風俗関連営業の営業所数の推移は表6-11のとおりで、昭和59年以降漸減傾向にある。平成4年の風俗関連営業の違反態様別検挙状況は図6-5のとおりで、風俗関連営業の検挙総数587件の66.1%を売春防止法違反が占めている。

表6-11 風俗関連営業の営業所数の推移(昭和63~平成4年)

図6-5 風俗関連営業の違反態様別検挙状況(平成4年)

 また、風俗関連営業とされていないデートクラブ、テレホンクラブ等の性風俗に関する営業の営業所数は、全体としてはやや減少傾向にあるが、テレホンクラブは前年に比べ152軒(20.5%)増加しており、地方への拡散傾向がみられる。警察の把握する最近5年間のテレホンクラブの営業所数の推移は、表6-12のとおりである。

表6-12 テレホンクラブの営業所数の推移(昭和63~平成4年)

(4) 売春事犯等及ぴ猥褻(わいせつ)事犯の現況
ア 売春事犯等
 平成4年の売春防止法違反の検挙件数は6,315件で、前年に比べ1,028件(19.4%)増加した。最近5年間の検挙状況は、表6-13のとおりである。最近の売春事犯は、公衆電話ボックス等にビラをはり付け、客との連絡に転送電話や携帯電話等を利用して売春をあっせんするなどのいわゆる派遣型が主流となっているが、悪質な飲食店経営者等が外国人女性に売春を強要する事犯も目立ってきている。

表6-13 売春防止法違反の検挙状況(昭和63~平成4年)

 また、これらの売春事犯の総検挙人員に占める暴力団勢力の割合は16.1%(354人)であり、売春事犯が暴力団の資金源となっていることがうかがわれる。
〔事例〕 暴力団親交者(39)は、人材派遣業を仮装して会員制売春クラブを開設し、コンパニオン女性を会員又は会員の紹介した客のみに派遣して酒席で接待させた後、ホテル等で売春をさせ、約7年間に5億円余りの不法利益を得ていた。暴力団親交者、旅行会社の添乗員等19人を検挙(福岡)
イ 猥褻(わいせつ)事犯
 4年の猥褻(わいせつ)事犯の検挙件数は1,566件であり、猥褻(わいせつ)ビデオテープを販売する事犯がその主流となっている。最近5年間の検挙状况は、表6-14のとおりである。

表6-14 猥褻(わいせつ)事犯の検挙状況(昭和63~平成4年)

〔事例〕 宅配便を利用して猥褻(わいせつ)ビデオテープを販売していた2人を検挙し、さらに、卸元である大阪市内のダビング工場等を摘発し、猥褻(わいせつ)ビデオテープ約2万3,000巻を押収するとともに卸元の販売業者2人を検挙(警視庁)
(5) その他の風俗関係事犯の現況
ア ゲーム機使用賭博(とばく)事犯
 平成4年のゲーム機を使用した賭博(とばく)事犯の検挙件数は396件、検挙人員は2,461人、検挙営業所数は332軒であり、ゲーム機の押収台数は3,157台、押収賭(かけ)金は約2億2,400万円に上っている。最近5年間の検挙状況は、表6-15のとおりである。これらの事犯の中には、暴力団が関与してその活動資金としている事例もみられることから、警察では、引き続き強力な取締りを推進している。

表6-15 ゲーム機使用による賭博(とばく)事犯の検挙状況(昭和63~平成4年)

〔事例〕 暴力団凖構成員(39)が、捜査の目から逃れるため、従業員(32)を飲食店営業の許可名義人として経営者に仕立て上げ、レストラン営業を仮装するなど巧妙な偽装工作をしていた悪質なゲーム機使用賭博(とばく)事犯で、被疑者13人を検挙し、ゲーム機等10台及び賭(かけ)金約530万円を押収(兵庫)
イ ノミ行為事犯
 競輪、競馬等の公営競技をめぐるノミ行為事犯の最近15年間の検挙状況は、表6-16のとおりである。総検挙件数の9割以上に暴力団が関与しており、暴力団の有力な資金源となっていることがうかがわれる。
〔事例〕 暴力団が活動資金を得るため喫茶店、飲食店等にノミ受け拠

表6-16 ノミ行為事犯の検挙状況(昭和63~平成4年)

点を設け、組織的にノミ行為を敢行していた事犯で、組長等の暴力団員6人を含む胴元27人、ノミ客208人を自転車競技法違反等で検挙し、昭和60年から検挙されるまでの間に約5億円の不法利益を上げていた事犯を解明(愛知)

4 危険物対策の推進

(1) 火薬類対策の推進
 平成4年の猟銃用火薬類等(専ら猟銃、けん銃等に使用される実包、銃用雷管、無煙火薬等)の譲渡、譲受け等の許可件数は9万7,471件であった。また、4年の火薬類の盗難事件の発生件数は21件、実包を除く火薬類(ダイナマイト等)を使用した犯罪の発生件数は23件であった。
 警察では、火薬類取締法に基づき、火薬類の製造所、販売所、火薬庫、消費場所等に対して立入検査を実施し、火薬類の保管方法等についての指導取締りを行っている。
(2) 高圧ガス、消防危険物等による事故の防止
 平成4年には、事業所や一般家庭において、高圧ガス、消防危険物等による事故が514件発生し、死傷者は515人に上った。
 警察では、高圧ガス、石油類等による事故を防止するため、関係機関との連携の下に取締りを行っており、4年には、高圧ガス取締法、消防法等危険物関係法令違反により、264件、286人を検挙した。
(3) 放射性物質の安全対策の推進
 平成4年に都道府県公安委員会が受理した放射性物質の運搬届出件数は、核燃料物質等に係るものが1,192件、放射性同位元素等に係るものが381件であった。核燃料物質等を運搬するためには、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律により、都道府県公安委員会から運搬証明書の交付を受け、運搬中はこれを携帯し、かつ、これに記載された内容に従って運搬しなければならなぃこととされている。
 警察では、核燃料物質等の使用者等に対し事前指導を行うなど、核燃料物質等の運搬の安全確保に努めている。

5 消費者被害防止対策の推進と経済事犯の取締り

(1) 悪質商法の現況と取締り
 従来からの訪問販売等による各種悪質商法事犯に加え、国民の「ゆとり志向」に付け込んだ会員権商法やマルチ商法等をめぐる悪質商法事犯が全国各地で多発するなど、新たな手口、特異な形態による悪質商法が問題化している。
ア 海外先物取引をめぐる事犯
 平成4年の海外先物取引をめぐる事犯の検挙状況は、事件数は5事件、人員は93人であり、被害者数は約3,800人、被害額は約168億円に上った。
 検挙した事例では、先物取引の知識に乏しい主婦や高齢者等をねらったものや、被害申告を渋りがちな20歳代前半の男性勤労者にサラ金を紹介して強引に取引に誘い込んだり、暴力団員を高額で顧問に雇い、顧客からの解約申出、返還請求の交渉に当たらせ、威迫等によりこれを断念させたものなど悪質な事犯が目立った。
〔事例〕 海外先物取引会社の社長(45)らは、先物取引の知識に乏しい主婦、高齢者を対象に、「短期間に必ずもうかります。損はさせません」などと言葉巧みに取引に誘い込み、実際には、顧客の売買注文に対して自己の注文を対向させたり、相場の変動を利用して追加保証金を要求したりして、35都道府県の被害者2,636人から総額約126億円をだまし取っていた。7月までに、詐欺で逮捕5人を含む21人を検挙するとともに、会社顧問として顧客の解約申出に対する示談交渉に当たっていた暴力団幹部2人を逮捕監禁罪で逮捕(大阪)
イ マルチ商法をめぐる事犯
 新規の販売員を架空のもうけ話をえさに次々と増やしていくマルチ商法事犯は、商取引に不慣れな若者をターゲットとしており、多数の苦情や相談が寄せられている。
 4年のマルチ商法をめぐる事犯の検挙状況は、事件数は8事件、人員は52人、被害者数は約3万人、被害額は約71億円に上った。検挙した事例では、商取引に疎い若者等を対象に、「商品を買って会員になれば、友人、知人を会に紹介するだけでマージンが入り、高収入が得られる。海外旅行に行くことも、好きな車をすぐに買うこともできる」などと言って不必要な高額商品を購入させ、販売のあっせんをする者を勧誘する「あっせん方式」の事犯が大半を占めたが、昭和63年の訪問販売等に関する法律(訪問販売法)の改正以降姿を消していた、商品を買い受けてそれを更に販売する者を勧誘する「再販売方式」の事犯を2事件検挙した。
〔事例〕 栄養補助食品の連鎖販売業を営む会社社長(30)らは、20歳前後の若者を対象に、「連れて来るだけで勧誘してやる。20日くらいで元は取り戻せる。月100万円の収入は確実である」などとだまして会員を勧誘したほか、契約の解除に関する事項等が記載されていない書面を交付し、19都府県の約3,000人に総額約7億6,000万円の栄養補助食品を販売していた。5月までに、訪問販売法違反で逮捕4人を含む13人を検挙(福岡、島根)
ウ 会員権商法をめぐる事犯
 近年、レジャーや余暇に対する国民の関心が高まる中、生活水凖の向上と労働時間短縮傾向を背景とする国民の「ゆとり志向」に付け込んでゴルフ会員権等の販売を口実に金銭をだまし取る、いわゆる会員権商法が社会問題化している。
 4年の会員権商法の検挙状況は、事件数は3事件、人員は80人であり、被害者数は約5万1,000人、被害額は約1,212億4,000万円に上った。検挙した事例では、「会員権を限定販売するため、施設が優先的に利用でき、将来値上がりすることから利殖にもなります」などと言って金銭をだまし取る詐欺事犯が目立った。
〔事例〕 ゴルフクラブのオーナー(58)らは、ホームコースを持ちたいという全国各地の会社員等約5万人から総額約1,200億円をだまし取っていた。7月までに、詐欺で逮捕8人を含む67人を検挙(警視庁)
エ 原野商法
 4年の原野商法の検挙状況は、事件数は3事件、人員は33人であり、被害者数は約2,000人、被害額は約41億5,000万円に上った。
〔事例〕 原野商法詐欺事件で摘発された会社に勤務しその詐欺手口を熟知した無職の男(45)らは、以前に原野商法により二束三文の土地を購入しその処分に窮している土地所有者を対象に、「あなたの土地を良い条件で転売してあげますが、まず測量をしなければ転売はできません」などと言って、26都府県の被害者約1,600人から、総額約28億5,000万円をだまし取っていた。1月、詐欺で逮捕6人を含む25人を検挙(三重)
(2) 消費者被害防止のための諸施策の推進
ア 消費者相談と啓発活動
 各都道府県警察の「悪質商法110番」等の消費者相談窓口に寄せられた悪質商法に関する苦情、相談は、平成4年も多数に上った。
 警察では、消費者相談を基に国民が困っている事案、迷惑している事案に対する重点的な取締りを実施して多数の事件を検挙した。
〔事例〕 警察署に寄せられた「必ず値上がりすると言うので、リゾート会員権を購入するクレジット契約を結んだが、解約を申し入れても応じてくれない」という相談を端緒に捜査した結果、リゾート会員権販売業者(43)らが、「この会員権は限定販売で、すぐにも転売できてもうかります」などと虚偽の事実を告げて、1都19県の約530人に対し総額約13億4,000万円相当の会員権を販売していたことが判明した。11月、訪問販売法違反で逮捕5人を含む9人を検挙(静岡)
 また、警察では、悪質商法による被害の未然防止、拡大防止を図るため、防犯協会、消費者行政担当機関等と連携して、消費者に対する広報啓発活動を積極的に推進した。全国の警察で消費者に配布したパンフレット、チラシ等の広報啓発資料は約735万部に達した。
イ 関係機関、団体等との連携強化
 警察では、消費者被害の未然防止、拡大防止のため、各地方公共団体の消費者行政担当課、消費生活センター等と悪質商法に係る連絡会議、研修会等を開催するなど連携の強化を図った。
 警察では、こうした関係機関、団体等との連携を通じて得た情報を基に積極的な取締りを推進して多数の事件を検挙した。
(3) 不動産取引をめぐる事犯
 平成4年の不動産取引をめぐる事犯の検挙件数は269件、検挙人員は411人であり、主な検挙法令は、建築基凖法違反、宅地建物取引業法違反、国土利用計画法違反であった。検挙した事例では、無免許で長期にわたり多数の顧客と宅地建物取引を行っていた事犯、行政当局の建築中止命令を無視して建築していた事犯等悪質な事犯が目立った。
〔事例〕 山口組の傘下組織の組長(47)らは、鉄骨造り3階建ての車庫併用住宅を建築すると称して建築基凖法に定める建築主事の建築確認を受けたが、確認申請と異なった鉄骨及びプレハブ造り4階建ての暴力団事務所を建築した。7月、建築基凖法違反で逮捕1人を含む2人を検挙(大阪)
(4) 国際経済関係事犯の取締り
 平成4年の外国為替及び外国貿易管理法(外為法)違反の検挙件数は17件、検挙人員は13人、関税法違反の検挙件数は63件、検挙人員は9人であった。検挙した事例では、暴力団の海外進出に絡む外為法違反事件や大手食肉業者らによる差額関税制度を悪用した大型関税ほ脱事件等、特異な事件の検挙が目立った。最近5年間の国際経済関係事犯の法令別検挙状況は、表6-17のとおりである。

表6-17 国際経済関係事犯の法令別検挙状況(昭和63~平成4年)

〔事例〕 大手食肉業者らが、台湾から大量の豚肉を輸入するに当たり、現地業者らと結託して差額関税制度を悪用し、約3年間に200億円余りに上る関税をほ脱し、さらに、この不正貿易により生じた実際の輸入価格との差額金を、台湾の地下銀行組織を介して日本へ還流させていた。6月までに、関税法違反等で逮捕5人を含む2法人10人を検挙(愛知)
(5) 金融関係事犯の取締り
 いわゆるサラ金をめぐる事犯については、最近5年間沈静化していたが、暴力団の資金獲得活動に伴う金融業界への著しい進出を背景として、平成4年は、暴力団の介在する事件の検挙件数が前年に比べ約2倍に急増し、全検挙件数の約4割を占めるに至った。違反形態としては、暴力団幹部や関係者が無登録あるいは他人名義で貸金業を営み、組織の威力を背景に高金利の貸付け、暴力的取立てを行っていた事犯が目立った。
〔事例〕 キャバレー経営者(48)が住吉会の傘下組織の幹部(44)と結託し、約9億円を法定利息の最高44倍で貸し付け、返済できない客に対しては、その家族を自己の経営するキャバレーで稼働させるなどしていた。5月、同幹部ら2人の逮捕を含む7人を出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律違反で検挙(宮城)

6 知的所有権保護対策の推進

(1) 知的所有権侵害事犯の取締り
 警察では、知的所有権保護の必要性が国際的に一段と高まっていることにかんがみ、知的所有権侵害事犯を取締り重点に掲げるとともに、国内における不正商品の流通情報を総合的に収集している不正商品対策協

表6-18 知的所有権関係法令違反の法令別検挙状況(昭和63~平成4年)

議会(権利者団体10団体で構成する民間団体)等の関係団体との連携を図り、悪質業者の早期検挙に努めている。
 平成4年の知的所有権関係法令違反の検挙件数は1,051件、検挙人員は464人であり、最近5年間の法令別検挙状況は、表6-18のとおりである。
ア 海賊版事犯
 海賊版事犯としては、テレビ番組等を複製した海賊版ビデオを漁船員に訪問販売していたもの、海賊版コンピュータ・ソフトをパソコンクラブの会員に通信販売していたものなどがあり、事犯の巧妙化、潜在化の傾向がみられた。
〔事例1〕 パソコンクラブの主宰者(62)は、自宅で複製したパーソナル・コンピュータの海賊版ソフトをクラブ会員らに通信販売し、約600万円の利益を得ていた。9月までに、著作権法違反で1人を逮捕、海賊版ソフト約2万枚を押収(愛知)
〔事例2〕 力メラ販売店主(55)らは、航海中の漁船員がビデオを楽しみにしていることに目を付け、テレビ番組や映画ビデオを違法に複製した海賊版ビデオを漁港周辺で大量に販売していた。7月までに、著作権法違反で3人を逮捕、海賊版ビデオ約3,700本を押収(静岡)
イ 偽ブランド商品事犯
 偽ブランド商品事犯としては、有名ブランドのかばん、袋物等の偽商品を海外から輸入し販売する事犯がほとんどを占めている。その中で、有名版画家の偽版画、人気アニメのキャラクターを盗用したぬいぐるみ、住宅地図のコピ-品等の侵害事犯がみられた。
 また、外国人が東京、大阪等の繁華街で露店を出して販売する事犯や衣類の偽ブランド品を観光地、展示会場等で販売する事犯の検挙がみられた。
〔事例1〕 雑貨類の輸出入販売会社を経営するイスラエル人(48)らは、かばん等の偽ブランド商品を仕入れて、短期滞在ビザで入国した同国人らを使用して上野駅等の繁華街で露店を出し、通行人らに販売していた。12月までに、商標法違反で逮捕5人を含む6人を検挙、偽商品等約2万5,000点を押収(警視庁)
〔事例2〕 衣料品販売業者(58)らは、軽井沢に夏季出張店を設け、観光客らに有名ブランドのトレーナー、Tシャツ等の偽物を販売して約3,600万円の売上げを得ていた。8月までに、商標法違反で逮捕3人を含む12人を検挙、偽商品等約3,900点を押収(長野)
(2) 知的所有権保護のための広報啓発活動
 警察では、検挙した事件の適時適切な広報等により、我が国における知的所有権侵害の実態、知的所有権保護の重要性を訴えた。また、不正商品対策協議会と協力して「不正商品防止フェア」を神戸まつり会場(5月)、神戸市三宮地下街(6月)、仙台市生涯学習フェステバル「まなびピア'92」会場(10~11月)で実施するなど、広報啓発活動を積極的に展開した。

7 環境事犯の取締り

 警察では、国民の健康を保護するとともに生活環境の保全を図るため、

表6-19 環境事犯の法令別検挙状況(昭和63~平成4年)

悪質な産業廃棄物の不法処分事犯や水質汚濁事犯に重点を置いた取締りを行っている。最近5年間における環境事犯の法令別検挙状況は、表6-19のとおりである。
(1) 廃棄物事犯
 平成4年の廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反の検挙件数は1,777件であり、これを態様別にみると、廃棄物をみだりに捨てる不法投棄事犯が依然として多く、全体の67.2%を占めている。検挙した事例では、建築工事等に伴って生じた大量の廃材等を隣接する県まで運んで不法処分していた事犯が目立った。
 また、検挙した産業廃棄物事犯に係る不法処分された産業廃棄物の総量は約137万トンに上るものと推定され、その種類別、場所別状況は、

図6-6 不法処分された産業廃棄物の種類別、場所別状況(平成4年)

6-6のとおりである。
〔事例〕 廃棄物処理許可業者(54)は、自社の最終処分場の延命を図るため、一般廃棄物及び産業廃棄物の混合廃棄物約6万6,000トンを暴力団が設置した無許可処分場等に不法処分していた。6月までに、逮捕5人を含む2法人11人を検挙(熊本)
(2) 水質汚濁事犯
 平成4年の水質汚濁事犯の検挙件数は34件であった。このうち、工場等が水質汚濁防止法等に基づいて定められている基準に違反して汚水等を排出する事犯の検挙件数は23件であった。
〔事例〕 食品加工会社社長(50)は、排水処理経費節減のため、再三にわたる行政指導を受けながらこれを無視して操業し、基準の173倍の生物化学的酸素要求量(BOD)等を含有する汚水を未処理のまま公共用水路にたれ流していた。6月、水質汚濁防止法違反で1人を逮捕、1法人を検挙(神奈川)

8 警備業等の健全育成

(1) 警備業の健全育成
ア 警備業の現況
 警備業の業務は、原子力発電所、空港等から一般家庭に至るまでの様々な施設における施設警備、工事現場等における交通誘導警備、各種イべント等の場での雑踏警備、現金等の輸送警備、ボディーガード等幅広い分野に及んでおり、国民の自主防犯防災活動をささえる「安全産業」として社会に定着している。特に最近は、ホーム・セキュリティ・システム等、一般家庭や事務所等に侵入感知機等のセンサーを設置して、基地局において犯罪や事故の発生を警戒し、防止する機械警備業が順調な発展を遂げており、国民の多種多様な需要にこたえている。
 平成4年末現在、警備業者数は6,578業者、警備員数は29万1,320人で、

前年に比べ533業者、2万1,279人それぞれ増加した。最近5年間の警備業者数、警備員数、機械警備業務対象施設数の推移は表6-20のとおりで、それぞれ増加傾向にある。

表6-20 警備業者数、警備員数、機械警備業務対象施設数の推移(昭和63~平成4年)

イ 警備業の安全への貢献
 警備業は、盗難、交通事故等の犯罪や事故の発生を警戒し、防止することをその業務としており、その業務を通じ社会の安全に大きく寄与している。
 4年の警備業者又は警備員の届出による刑法犯認知件数は、全刑法犯認知件数の0.6%に当たる2万9,776件であり、また、4年の民間協力等による主たる被疑者特定の端緒別刑法犯検挙状況は表6-21のとおりで、「警備業者又は警備員の協力」によるものと「第三者の協力」によるものがほぼ同数となっている。

表6-21 民間協力等による主たる被疑者特定の瑞緒別刑法犯検挙状況(平成4年)

ウ 警備業者等に対する指導、監督
 警察では、警備業が民間における防犯システムの一環として地域防犯活動、職域防犯活動と並んで重要な役割を果たしていることから、警備業務の実施の適正を確保するため、警備業者に対する指導、監督を行うとともに、警備業協会等を通じた指導を行うことにより、警備業の健全育成を図っている。
エ 警備員等に対する検定の実施
 警備員等に対する検定制度は、警備業法に基づき、都道府県公安委員会が警備員又は警備員になろうとする者について試験を行い、合格した警備員等が一定水準以上の知識及び能力を有することを公的に認める制度であるが、この制度が社会に定着することによって、警備業者が警備員の効果的な教育に努めるとともに、警備員等が自主的にその知識及び能力の向上に努めることが期待されている。
 検定は、現在、空港保安警備、交通誘導警備、核燃料物質等運搬警備及び貴重品運搬警備の4種別で、それぞれが1級と2級に区分されている。検定は、都道府県公安委員会が行う学科試験及び実技試験により行われるが、国家公安委員会が指定した講習の課程を修了した者については試験が免除されることとされており、現在、(社)全国警備業協会が行う講習と(財)空港保安事業センタ-が行う研修が、それぞれ指定講習として指定されている。
 4年末までに検定に合格した者の数は2万3,464人で、検定に合格した者は、その旨を証する標章(QGマーク)を用いることができることとされている(図6-7)。

図6-7 QGマーク

(2) 質屋、古物営業の健全育成
 質屋営業法、古物営業法により都道府県公安委員会から許可を受けている質屋、古物商等の数の推移は表6-22のとおりで、質屋は漸減し、古物商は漸増している。
 平成4年に質屋、古物商等が盗品等を発見することなどにより、被害

表6-22 許可を受けている質屋、古物商等の数の推移(昭和63~平成4年)

者に被害品を返還できた件数は、質屋が3,684件、古物商が1,277件であり、これらの業者の協力によって犯人を検挙した事例も数多くみられた。質屋、古物商等は、業務を通じて盗品等を発見する機会が多く、民間における防犯システムの一環として重要な役割を果たしていることから、警察では、全国質屋防犯協力会連合会、全国古物商組合防犯協力会連合会等の関係団体と緊密な連携を保ちつつ、その指導、健全育成に努めている。
(3) 調査業の健全化
 探偵社、興信所等の調査業については、違法な方法による調査を常習とする業者、暴力団が経営に関与している業者、料金トラブルを多発させる業者等の悪質な業者による不適正な営業活動が跡を絶たない。警察では、悪質な調査業者の取締りに努めるとともに、関係団体に対して、営業活動の健全化に向けた自主的な活動を推進するよう働き掛けている。これを受けて、(社)日本調査業協会では、秘密の保持等を定めた業務倫理綱領を制定して、協会加盟員に対しその徹底を図るとともに、顧客からの苦情処理等営業活動の適正化に向けた各種の活動を行っている。


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