第8章 犯罪情勢と捜査活動

 平成3年の刑法犯の認知件数は170万件を超え、戦後最高を記録したが、その特徴としては、来日外国人犯罪の急増、金融機関対象強盗事件の多発等が挙げられる。

(1) 平成3年の犯罪の特徴
ア 暴力団の武装化の進展~けん銃押収数が増加
 平成3年における暴力団犯罪の状況については、第1章第4節参照。
イ 来日外国人による犯罪の多発
 来日外国人による犯罪は、元年、2年と、従来の増加傾向に鈍化の兆しがみられたものの、3年に入って再び急増傾向を示し、検挙件数、人員とも過去最高を記録した(第1章第2節2(1)参照)。
ウ 重要凶悪事件等の多発
 3年には、警察庁指定第118号、同第119号事件をはじめとする広域にわたる重要事件のほか、金融機関等を対象とした強盗事件(表8-1)や誘拐事件(表8-2)が多発した。
エ 大型企業犯罪等の検挙
 平成3年中は、いわゆるバブル経済の崩壊を反映して、不動産や株式の購入資金を得るために行われた大規模な背任、詐欺等の事件が相次いで発覚した。
〔事例1〕 中堅商社の社長(67)、常務(46)らは、共謀の上、同常務が経営するゴルフ場開発会社等に対し、十分な担保を求めずに融資を行うなどして、同商社に対し約415億円相当の財産上の損害を与

表8-1 金融機関等対象強盗事件の対象別認知、検挙状況(昭和62~平成3年)

表8-2 誘拐事件の認知、検挙状況(昭和62~平成3年)

えた。8月検挙(大阪)
〔事例2〕 都市銀行支店の課長(38)らは、不動産や株式の購入資金を得るため、預金証書等を偽造し、これを担保として、ノンバンク等から合計約811億円をだまし取った。9月検挙(警視庁)
(2) 平成3年の犯罪の傾向
ア 刑法犯の認知、検挙の状況
(ア) 認知状況
 平成3年の刑法犯認知件数(注)は170万7,877件で、前年に比べ7万1,249件(4.4%)増加し、戦後最高を記録した(図8-1)。
(注) 罪種別認知件数は、資料編統計8-3参照

図8-1 刑法犯認知件数と犯罪率の推移(昭和21~平成3年)

 3年の刑法犯認知件数の包括罪種別構成比をみると、窃盗犯が150万4,257件で、全体の88.1%を占めている(図8-2)。
 過去20年間の刑法犯包括罪種別認知件数の推移をみると、粗暴犯、風俗犯、凶悪犯が減少傾向にあるのに対し、窃盗犯は増加傾向にある(図8-3)。

図8-2 刑法犯認知件数の包括罪種別構成比(平成3年)

図8-3 刑法犯包括罪種別認知件数の推移(昭和47~平成3年)

(イ) 検挙状況
 3年の刑法犯検挙件数(注1)は65万4,538件、検挙人員(注2)は29万6,158人で、前年に比べ、検挙件数は3万8,055件(5.5%)減少し、検挙人員は2,894人(1.0%)増加した(図8-4)。

図8-4 刑法犯検挙件数、検挙人員の推移(昭和21~平成3年)

(注1) 罪種別検挙件数は、資料編統計8-4参照
(注2) 罪種別検挙人員は、資料編統計8-5参照
なお、検挙人員には、触法少年を含まない。
 過去20年間の年齢層別犯罪者率の推移をみると、近年では、14歳から19歳までの層の犯罪者率が著しく高くなっている(図8-5)。
イ 被害の状況
(ア) 生命、身体の被害
 3年に認知した刑法犯により死亡し、又は負傷した被害者の数は、死者が1,386人、負傷者が2万4,706人で、前年に比べ、死者は67人(4.6%)

図8-5 刑法犯の年齢層別犯罪者率の推移(昭和47~平成3年)

減少し、負傷者は623人(2.5%)減少した(表8-3)。死者数を罪種別にみると、殺人によるものが639人で最も多く、全体の46.1%を占めている。

表8-3 刑法犯による死者と負傷者数の推移(昭和62~平成3年)

(イ) 財産犯による被害
 3年に認知した財産犯による財産の被害総額は約2,677億円で、前年に比べ約758億円(39.5%)増加した。また、このうち、現金の被害は約772億円で、前年に比べ約44億円(6.0%)増加した(表8-4)。

表8-4 財産犯による財産の被害額の推移(昭和62~平成3年)

ウ 第12回統一地方選挙の違反取締り
 3年には、4月7日と21日の2回に分けて、13都道府県知事選挙、44道府県議会議員選挙等合計2,534の選挙(第12回統一地方選挙)が行われた。投票日後90日までの検挙状況をみると、件数が5,931件、人員が8,895人で、前回(昭和62年)に比べ、件数は4,922件(45.4%)、人員は7,916人(47.1%)それぞれ減少した(表8-5)。これを罪種別にみると、買収の検挙件数、人員は、それぞれ5,211件、8,176人であり、件数で全体の87.9%、人員で91.9%を占めた。また、投票日後90日までの警告件数は3万2,143件で、前回に比べ198件(0.6%)増加した(表8-6)。

表8-5 統一地方選挙における違反検挙状況(第11回、第12回)

表8-6 統一地方選挙における違反警告状況(第11回、第12回)

エ 贈収賄事件
 3年中の贈収賄事件の検挙状況をみると、事件数が63事件、人員が225人で、前年に比べ、事件数は8件(11.3%)、人員は49人(17.9%)減少した(図8-6、表8-7、表8-8)。
 3年に検挙した検挙事件を態様別にみると、依然として公共工事をめぐるものが多く、次いで、リゾート開発、ゴルフ場開発等に関する各種許可等をめぐるものの順になっている(表8-9)。

図8-6 贈収賄検挙事件数、検挙人員の推移(昭和57~平成3年)

表8-7 収賄被疑者の身分別検挙人員の推移(昭和62~平成3年)

表8-8 市町村の首長の検挙人員の推移(昭和62~平成3年)

表8-9 贈収賄事件の態様別検挙件数の推移(昭和62~平成3年)

〔事例〕 町会議員(建設委員会会長)(62)らは、ゴルフ場開発計画事業に関し、リゾートゾーン指定変更に便宜を図った謝礼として、ゴルフ場開発業者(53)から現金1,000万円を受け取った。2月検挙(千葉)
オ カード犯罪
 キャッシュカード、クレジットカードの発行枚数及び現金自動支払機(ATMを含む。)の設置台数は、著しく増加している(図8-7)。3年のカード犯罪(注)の認知件数は7,740件、検挙件数は7,544件、検挙人員は1,228人であり、前年に比べ、認知件数は109件(1.4%)、検挙人員は298人(32.0%)、それぞれ増加し、検挙件数は107件(1.4%)減少した(図8-8)。
(注) カード犯罪とは、キャッシュカード、クレジットカード及びサラ金カードのシステムを利用した犯罪で、コンピュータ犯罪以外のものをいう。
 3年に検挙したカード犯罪を罪種別にみると、不正に店員等にクレジットカードを提示して金品をだまし取るなど詐欺が6,180件(81.9%)で最も多く、次いで不正に現金自動支払機を操作して現金を引き出す窃盗が1,364件(18.1%)となっている。
 態様別にみると、窃取したカードを使用したものが2,871件(38.1%)と最も多く、次いで他人名義で不正取得したカードを使用したものが1,711件(23.5%)、本人名義のカードを使用したものが902件(12.0%)

図8-7 キャッシュカード、クレジットカードの発行枚数及び現金自動支払機の設置台数の推移(昭和62~平成3年)

図8-8 カード犯罪の認知、検挙状況(昭和62~平成3年)

の順となっている。
 カードを使って現金自動支払機から現金を引き出すためには、あらかじめ暗証番号を知っていなければならないが、3年に検挙したカード使用の窃盗事件1,364件を犯人が暗証番号を知った方法別にみると、「カードと暗証番号を同時に入手」したものと「カードの所有者と面識があり、以前から暗証番号を知っていた」ものを合わせて571件(41.9%)となっており、暗証番号の設定、管理に甘さがあることがうかがわれる(図8-9)。

図8-9 カード使用の窃盗事件における暗証番号を知った方法別検挙状況(平成3年)

カ コンピュータ犯罪
 現在では、コンピュータは社会の様々な分野で必要不可欠なものとなっているが、他方、コンピュータ・システムの特性を利用した新しいタイプの犯罪が問題となっている。3年におけるコンピュータ犯罪(注1)の認知件数は62件であり(表8-10)、その特徴としては、コンピュータ端末機を操作して電磁的記録を不正に作出し、多額の現金を横領する事件、事情を知らない係官に電磁的記録である公正証書の原本に不実の記録をさせる事件等が多発していることが挙げられる。また、コンピュー夕・ウイルス(注2)による汚染等が社会的問題となった。
 こうした犯罪や事故等からコンピュータ・システムを防護する必要性が高まっていることから、警察庁では、部外の学識経験者を加えたコンピュータ・システム安全対策研究会が発表した「情報システム安全対策指針」、「コンピュータ・ウイルス等不正プログラム対策指針」に基づき

表8-10 コンピュータ犯罪の認知状況(平成3年)

安全対策の指導を行うなど、総合的なコンピュータ・セキュリティの確保に取り組んでいる。
(注1) コンピュータ犯罪とは、コンピュータ・システムの機能を阻害し、又はこれを不正に使用する犯罪(過失、事故等を含む。)をいう。
(注2) コンピュータ・ウイルスとは、使用者の意図に反してコンピュータに侵入し、プログラムやデータを破壊したり、書き換えたりするプログラムのことをいう。
〔事例〕 銀行の女子職員(32)は、オンライン端末を不正に操作して、顧客の定期預金預金証書を無断で総合口座の定期預金に種類改ざんの上、自動融資制度を悪用し、現金約5,000万円を流用した。6月、検挙(富山)


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