第7章 災害、事故と警察活動

 平成3年には.雲仙岳の噴火による災害のほか、台風、前線の停滞等による豪雨、降積雪による自然災害が発生した。警察では、これらの自然災害の発生に際して、各種の装備資機材を活用して、被害の未然防止と拡大防止に努め、被災者の救助に当たった。
 また、警察では、「防災の日」の総合防災訓練をはじめとする各種訓練を行ったほか、余暇、レジャー人口の増加に伴い、雑踏事故、水難、山岳遭難、レジャースポーツに伴う事故等が増加傾向にあることから、関係機関、団体と連携して事故防止の諸対策を推進した。

1 頻発した自然災害

(1) 主な自然災害と警察活動
 平成3年における主な自然災害は、降積雪による災害(1~3月)、雲仙岳噴火による災害(5~12月)、前線の停滞等による豪雨災害(6~11月)、台風による災害(7~10月)等であった。
 これらの災害の発生に際して、全国で警察官延べ約14万7,000人が出動し、関係機関と協力して、災害情報の収集、伝達、被災者の救出、救護、避難誘導、交通規制等の災害警備活動を行い、被害の未然防止と拡大防止に努め、約250人に上る被災者を救助した。3年における自然災害による被害状況は、表7-1のとおりである。

表7-1 自然災害による被害状況(平成3年)

ア 雲仙岳の火山災害
 2年11月17日、198年ぶりに噴火を始めた長崎県の雲仙岳では、3年5月24日から頻繁に火砕流が発生し、6月3日発生した規模の大きな火砕流は、死者、行方不明者43人を出す大災害を引き起こした。また、6月8日及び9月15日にも規模の大きな火砕流が、6月30日には大規模な土石流が発生し、多数の住宅が焼(流)失するなどの被害が出た。雲仙岳は、その後も溶岩ドームの成長と火砕流の発生を繰り返すなど活発な火山活動を続けており、警戒区域、避難勧告区域等に居住する住民は長期間の避難生活を余儀なくされている。
 この災害に際し、長崎県警察では災害対策本部を設置して、3年中に約8万8,000人の警察官を動員して警戒区域の監視等の災害警備活動に当たっているほか、警察庁及び九州管区警察局に災害警備対策室を設置して、部隊や装備資機材の応援派遣等の支援を行っている。
イ 台風、梅雨及び秋雨前線等による災害
 3年には、3個の台風(第14号、第17号及び第19号)が本土に上陸したほか、6個の台風(第9号、第12号、第13号、第15号、第18号及び第21号)が相次いで本土に接近し、停滞を続けていた前線を刺激して、集 中豪雨を発生させた。
 これらの台風や前線の停滞に伴う豪雨等により、各地で河川の氾(はん)濫道路の損壊、山崩れ、崖(がけ)崩れ等の災害が発生したが、これらの災害による死者、行方不明者は117人に上り、前年に比べ20人(20.6%)増加し、昭和60年以来6年ぶりに死者、行方不明者が100人を超えた。特に、9月27日に上陸した台風第19号は、非常に強い勢力で、洞爺丸台風(29年9月)と類似の経路をとり、最大瞬間風速58.9メートルを記録し、強風による転倒、飛来物の直撃等により63人の死者を出したほか、住宅、農作物、重要文化財等に多くの被害をもたらした。
 これらの災害に対し、関係都道府県警察では、気象情報に基づき早期に警戒体制を確立し、警察官延べ約6万人を動員するとともに、ヘリコプター、警察用船舶等を活用し、被災者の救出、救護、避難誘導、行方不明者の捜索、交通規制等の災害警備活動を実施したほか、関係機関と協力して被災者251人を救助した。
ウ 降積雪による災害
 平成3年は、ここ数年続く暖冬傾向の中で全般的に少雪であったが、1月から3月にかけては周期的な寒暖の変動が大きく、日本海側や中部山岳地帯を中心に大雪があったことから、降積雪による災害の被害は、全国で死者25人、負傷者は144人、建物被害は25棟に上り、前年に比べて、死者は1人減少したものの、負傷者は38人、建物被害は10棟それぞれ増加した。
 これらの災害の発生に際し、関係都道府県警察では、警察官が出動して被災者の救出、救護活動や雪崩等の発生のおそれがある危険箇所の点検、パトロール、交通の安全の確保等に努めるとともに、雪害防止対策として、独居高齢者家庭等に対する除雪支援活動、通学路における児童、徒の安全指導等雪害事故の防止のため幅広い施策を推進した。
(2) 災害警備対策の推進
 警察では、災害から国民を守るため、各種の災害対策を推進している。中でも、大規模地震対策は緊急かつ重要な課題であり、平成3年も、東海地震対策のほか、南関東地域をはじめ過去に大規模な地震が発生した地域を中心に、関係機関と協力して、防災に関する各種の訓練、行事を行い、国民の防災意識の高揚に努めた。
 9月1日の「防災の日」に行われた中央防災会議主催による東海地震、南関東地震を想定した総合防災訓練では、地震防災対策強化地域とその周辺の都県において、地域住民約270万人のほか、警察庁、関係管区警察局、関係都県警察から、警察官約9万人、ヘリコプター等27機、警察用船舶36隻が参加して、東海地震の判定会招集連絡報等の受理及び伝達、情報の収集、社会的混乱の防止、交通規制、緊急輸送、被災者の救出、救護等の各種訓練を行った。これらの訓練では、人命の保護に重点を置いて、「防災の日」が日曜日であったところから家族ぐるみでの訓練、高齢者、障害者等いわゆる災害弱者の避難誘導、救出、救護訓練、繁華街、

ターミナル駅等不特定多数の者が集まる場所における混乱の防止及び都市型災害への対応訓練を行った。
 その他の地域の道府県警察でも、8月30日から9月5日までの防災週間中に、関係機関と協力して、地震及びこれに伴う津波等を想定した訓練を行い、警察官延べ約4万人、地域住民延べ約61万人が参加した。
 このほか、3年中に、警察では、風水害火山噴火災害等の自然災害や地下街、石油コンビナート、原子力施設等における特殊災害を想定した訓練を行い、警察官延べ約16万人、地域住民延べ約410万人が参加した。また、前年に引き続いて、大深度地下利用における災害対策、南関東直下型地震対策について検討を行った。

2 雑踏警備活動

(1) 一般雑踏警備活動
 平成3年に警察官が出動して雑踏警備に当たった行楽地や催物への人出は、延べ約7億1,580万人に上り、警察では、延べ約67万人の警察官を動員して、雑踏事故の防止に努めた。正月三が日の初詣の人出は、約7,742万人であり、前年に比べ約216万人(2.7%)減少した。一方、ゴールデンウィーク(3年は4月27日から5月6日までの10日間であった。)の人出は約6,981万人であった。最近5年間の雑踏警備実施状況は、表7-2のとおりである。

表7-2 雑踏警備実施状況(昭和62~平成3年)

 3年の雑踏事故は、9件発生し、死者4人、負傷者27人に上った。このうち、山車(だし)、神興(みこし)等の運行に伴うものが7件、死者4人、負傷者7人、また、ロックコンサート会場における将棋倒しの事故が1件、負傷者9人、カーニバル開催会場における照明塔の転倒事故が1件、負傷者11人であった。
 これら雑踏事故の多くは、行事の主催者等による自主警備の不徹底や安全に関する配慮の欠如が大きな原因となっており、警察では、行事の主催者、施設の管理者等と事前に密接な連絡を取り合うとともに、自主警備体制の強化、危険予防の措置、施設の改善等を要請しているほか、混雑する場所等に警察官を配置して、雑踏事故の未然防止に努めている。また、行事に際して発生するすり、小暴力事犯の取締りや迷い子、急病人の保護を行うなど、地域住民の安全の確保に努めている。
(2) 公営競技をめぐる紛争事案と警備活動
 平成3年における競輪場、競馬場等の公営競技場への総入場者数は、延べ約1億3,139万人であった。警察では、公営競技をめぐる紛争事案や雑踏事故防止のため、延べ約12万人の警察官を動員して警備に当たった。最近5年間の公営競技場の警備実施状況は、表7-3のとおりである。
 3年の公営競技をめぐる紛争事案は3件で、その内容はいずれも抗議形態のものであった。これら紛争事案の防止のため、警察では、競技の適正な運営を関係機関、団体に働き掛けるとともに、自主警備体制の確立、施設、設備の改善等を強く要請したほか、競技開催の都度、警察官を派遣して紛争事案の未然防止に努めている。

表7-3 公営競技場の事情実施状況(昭和62~平成3年)

3 各種事故と警察活動

(1) 水難
ア 水難の発生状況
 平成3年の水難の発生件数は2,369件、死者、行方不明者は1,431人、警察官等に救助された者の数は1,409人で、前年に比べ、発生件数は94件(3.8%)、死者、行方不明者は48人(3.2%)それぞれ減少した。最近5年間の水難の発生状況は、表7-4のとおりである。

表7-4 水難の発生状況(昭和62~平成3年)

表7-5 水難による死者、行方不明者の年齢層別状況(平成2、3年)

 水難による死者、行方不明者を年齢層別にみると、表7-5のとおりで、前年に比べ、高校生等の死者、行方不明者が増加している点が注目される。
 死者、行方不明者を発生場所別にみると、図7-1のとおりで、海が最も多く全体の45.6%を占めている。また、行為別にみると、図7-2のとおりで、魚とり、魚釣り中、通行中、水泳中の順に多くなっている。特に、川岸等からの転落や飲酒遊泳、無謀遊泳による事案が目立った。

図7-1 水難による死者、行方不明者の発生場所別構成比(平成3年)

図7-2 水難による死者、行方不明者の行為別構成比(平成3年)

イ 水難の防止活動
 警察では、水難を防止し、国民が安心して水に親しめるようにするため、水難の発生しやすい危険な場所の実態を調査し、その所有者、管理者や関係機関、団体に対し、危険区域を指摘するとともに、危険な施設の補修等を働き掛けている。特に、人出や水難の多い海水浴場では、臨時警察官派出所を設置して海浜パトロールを強化するとともに、警察用 船舶やヘリコプターによる監視を強化し、海水浴客に対する広報、遭難者の早期発見、救出、救護に努めている。また、関係機関、団体と協力して、保護者や児童を対象とした人工呼吸法の講習会、各種の救助訓練を実施している(なお、水上警察活動については第2章3(2)参照)。
(2) 山岳遭難
ア 山岳遭難の発生状況
 平成3年の山岳遭難の発生件数は608件、遭難者数は734人で、前年に比べ、発生件数は37件(6.5%)、遭難者数は5人(0.7%)それぞれ増加した。最近5年間の山岳遭難の発生状況は、表7-6のとおりである。

表7-6 山岳遭難の発生状況(昭和62~平成3年)

 近年は、幼児から高齢者に至る幅広い人々によって、本格的な登山から軽装のハイキングまで様々な形の登山が楽しまれるようになってきているが、これに伴い、知識や経験が乏しく、又は無謀な登山者も増加してきている。
 3年には、中高年登山者を中心とした登山技術の未熟や体力不足が原因と思われる転落、滑落等の死亡遭難事故が多発したほか、事前の準備不足による道迷いや無謀な登山による疲労、病気を原因とする遭難等、登山の基本的な心構えを欠いたことによる遭難が続発した。
イ 遭難者の捜索、救助活動
 警察では、山岳警備隊等を編成し、実践的な救助訓練や研修会を実施して救助技術の向上を図るとともに、救助用装備資機材の整備拡充を行うなど、救助体制の強化に努めている。
 3年に遭難者の救助活動に出動した警察官は延べ約7,500人、警察用ヘリコプターの出動回数は延べ232回で、民間救助隊員等との協力による活動を含め、遭難者577人を救助したほか、140遺体を収容した。
〔事例〕 3月、北アルプスに登った大学山岳部パーティーの8人中3人が、技術の未熟から、ザイルを組んだまま滑落し行方不明になった。富山県警察山岳警備隊では、猛吹雪の悪天候の中捜索活動に当たり、遭難者1人を発見、救助し、後日2遺体を収容した。
ウ 山岳遭難の防止活動
 近年、知識、経験が未熟な登山者や計画性のない無謀な登山者等による事故が増加しており、事故防止対策を講ずる必要がある。
 警察では、山岳遭難を防止するため、随時、遭難対策検討会を開催して具体的な検討を行っている。
 特に、主要山岳(系)を管轄する警察においては、登山シーズン前に関係機関、団体と協力して登山道などの実地踏査を行い、登山道標の点検、危険箇所の点検、表示等を行っているほか、登山口や最寄りのターミナル駅等に臨時警備派出所や登山指導センターを開設して、登山計画書の提出の奨励や安全登山のための山岳情報の提供、装備等の点検、指導を行っている。
 また、山岳遭難の防止のためには、登山者一人一人の心掛けが不可欠であることから、警察では、登山の留意事項や山岳情報を記録したパンフレットを登山シーズンに配布したり、山岳に向かう列車の主要出発駅において登山者に対する広報活動を行うとともに、山岳警備隊員等が山 岳パトロール等を通じて安全登山への指導を積極的に行い、さらに、報道機関や登山雑誌等を通じて安全登山を呼び掛けるなど、遭難の防止対策を強力に推進している。
(3) レジャースポーツに伴う事故
 近年、水上オートバイや超軽量動力機等の新型器具を使った新しいレジャースポーツが次々と登場し、水上、水中、空中、陸上を問わず、様々な形のレジャースポーツが行われるようになってきている。
 平成3年のレジャースポーツに伴う事故の発生件数は354件で、前年に比べ5件(1.4%)増加し、死傷者数は268人、無事救出者等の数は351人であった(表7-7)。

表7-7 レジャースポーツに伴う事故の発生状況(平成3年)

 事故の原因としては、無免許運転、無謀運転、操作技術の未熟等が多いことから、警察では、事故防止を呼び掛けるパンフレットの配布等の安全広報に努めるとともに、レジャースポーツ現場におけるパトロール等を通じての指導取締り、関係機関、団体に対する事故防止指導等を推 進し、レジャースポーツ事故の防止に努めている。特に、水上オートバイの事故が急増していることにかんがみ、事故に直結する悪質、危険な行為に重点を置いた取締りを実施している。
〔事例〕 7月、無免許であるにもかかわらず、水上オートバイの前座席に女性を乗せ、自らは後部座席から無理な姿勢でハンドルを操作していた自営業者(42)は、ハンドル操作を誤り、海中に振り落とされた。残された女性も無免許のため、夢中でハンドルを握ったことから、水上オートバイは海岸方向に暴走し、波打ち際で遊んでいた少年に激突して重傷を負わせた(宮崎)。


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