第4章 生活の安全の確保と環境の浄化

 市民生活の安全を確保するためには、犯罪の取締りとともに、事件、事故の発生する要因を社会から除去し、良好な社会生活環境の形成を図る必要がある。そのため、警察では、次のような活動を推進している。
 薬物乱用については、コカイン等の乱用が増加し、青少年にも乱用が広がるなど拡大、多様化の傾向を強めており、また、暴力団の介入に加え、コロンビアのコカイン・カルテルが進出してきていることから、供給ルートの遮断と乱用の根絶を柱とした総合的な対策を進めている。
 風俗環境については、風俗営業の健全化のための施策を積極的に進めるとともに、悪質な事犯に重点を置いた取締りによる浄化に努めている。
 銃砲については、暴力団員のけん銃所持の常態化と暴力団以外へのけん銃の拡散に対処するため、銃刀法を改正してけん銃に対する規制を強化し、その取締りに努めている。また、猟銃、火薬類等の危険物等についても、指導と取締りを通じて事故発生の防止に努めている。
 悪質商法は、手口の巧妙化が目立ち、また、「ゆとり志向」に付け込んだ新たな商法が問題化していることから、積極的な取締りを行う一方、広報啓発活動を展開し、被害の未然防止、拡大防止に努めている。
 また、防犯システムの一環としての役割を担う警備業、質屋営業等の健全育成に努めており、調査業についても営業活動の健全化に向けて働き掛けている。
 外国人労働者問題については、外国人労働者の就労に介入するブローカーの取締り等を通じて、外国人労働者の保護、不法就労対策の推進等を行っている。

1 薬物乱用の現状と対策

 麻薬、覚せい剤等の薬物の乱用は、今日、地球規模の極めて深刻な問題となっており、世界各国の治安や経済に重大な影響をもたらしている。
 我が国も例外ではなく、これまで高原状態にあった覚せい剤の乱用が平成3年から再び増加基調に入るとともに、大麻、コカインの乱用も引き続き増加するなど、薬物の乱用は拡大、多様化の傾向を一段と強めており、これら薬物の不正取引に絡む暴力団の動きもますます活発化している。さらに、近年は、欧米のコカイン市場を席巻したコロンビアのコカイン・カルテルが販路の拡大を求めて我が国への進出、浸透に乗り出してきているところであり、他方、若年層を中心に薬物の危険性に関する認識の希薄化もみられることから、対策を速やかに講じていかなければ、早晩、欧米諸国のてつを踏むことになりかねない状況にある。
 警察では、このような厳しい情勢を踏まえ、供給ルートの遮断と乱用の根絶を重点に、総合的な対策を推進している。
(1) 世界の薬物情勢
 薬物乱用の問題は、国や民族により異なるものの、ヘロイン、コカイン及び大麻の乱用を中心に、ほとんどの国や地域で悪化の一途をたどっている。国際連合の資料に基づく、1990年中におけるこれらの薬物の世界全体の押収状況等は、次のとおりである。
○ ヘロイン約23.3トン(前年並)
 ヘロインの押収量は、89年の約23.4トンとほぼ同水準を記録した。押収量が最も多かったのは、地域別では、いわゆる黄金の三日月地帯を抱える中近東の約9.8トンで、世界全体の42.1%を占め、また、国別ではパキスタンの約6.5トン(全体の27.9%)となっている。
○ コカイン約285.7トン(前年比11.9%増)
 コカインの押収量は、5年前(85年、約54.1トン)の約5倍に急増するとともに、過去最高であった89年の約255.3トンを大幅に上回った。押収量が最も多かったのは、89年に引き続き米国で、約84.8トン(全体の29.7%)を記録しているが、全体に占める割合は減少しており、コカイン乱用の世界的な広がりを示している。
○ 大麻
 大麻については、乾燥大麻約1万9,108.6トン(前年比440.1%増)、大麻草約5,156.9トン(同85.6%増)、大麻樹脂約638.9トン(同40.8%増)が押収され、広く乱用されていることを示している。
○ あへん約36.6トン(前年比14.2%減)
 最も押収量の多かった国は、89年同様イラン(約20.3トン)で、全体の55.5%を占めている。
 これらの統計で注目されるのは、コカインの押収量の増加であるが、これは、近年、コカインの乱用が米国のみならず世界中で激増していることによるものである。特に、ヨーロッパでは、最近5年間でコカインの押収量が約16倍になっており、ヘロインの乱用も依然として高水準で推移していることから、米国と同様に、薬物乱用に起因する治安の悪化が深刻な問題となっている。
(2) 我が国の薬物乱用の現況
ア 増加に転じた覚せい剤事犯
 平成3年の覚せい剤事犯の検挙件数は2万1,704件、検挙人員は1万6,093人で、前年に比べ、件数は1,939件(9.8%)、人員は1,055人(7.0%)それぞれ増加し、昭和59年をピークに漸減傾向となって以来、7年ぶりに増勢に転じた。これは、覚せい剤の密売価格が安定していること、暴力団による密売の手口がますます巧妙化し、薬物事犯捜査の困難性が増 していることなどを考え合わせると、覚せい剤の乱用が高原状態から再び増加傾向に入ったことを示しているとみられる。一方、大量押収につながる事件が少なかったため、押収量は121.0キログラムと、前年に比べ154.9キログラム(56.2%)の減少となった。乱用者の年齢層別では、10歳代と20歳代の青少年層が中心で、合わせて全体の44.3%を占めている。過去10年間の覚せい剤事犯の検挙状況は、図4-1のとおりである。
 なお、少年の覚せい剤の乱用については、第3章1(3)参照。

図4-1 覚せい剤事犯の検挙状況(昭和57~平成3年)

(ア) 海外から密輸入される覚せい剤
 我が国で不正に流通している覚せい剤は、そのほとんどが海外から密輸入されたものであるが、その仕出地を平成3年の大量押収事例(1キ ログラム以上を一度に押収した事例をいう。)17件、104.2キログラム(総押収量の86.1%)からみると、台湾が7件、42.1キログラム(同34.8%)、香港が1件、42.0キログラム(同34.7%)、仕出地不明が9件、20.1キログラム(同16.6%)で、件数的には依然として台湾からのものが主流となっている。しかし、3年中最大の大量押収事例は香港を仕出地とするものであり、新たな仕出地の開拓が行われている状況もうかがわれる。かつての主要仕出国である韓国からの密輸入については、2年連続して摘発がなかった。
 密輸手口としては、航空貨物、商業貨物の中への隠匿のほか、航空機乗務員や船員を運び屋に抱き込んだり、薬物を飲み込み、あるいは靴の中に隠匿するなどの方法が用いられており、摘発を免れるため様々な工夫がなされている。

 〔事例〕 7月、香港から神戸港に入港した中国船籍の貨物船からボストンバッグに隠匿した覚せい剤を陸揚げした同船船員3人を検挙、覚せい剤42.0キログラムを押収した(警視庁)。
(イ) 暴利に群がる暴力団
 3年に覚せい剤事犯で検挙された暴力団員は6,886人で、覚せい剤事犯の総検挙人員の42.8%を占めた。これは、3年中の暴力団員の罪名別検挙人員の第一位(22.0%)となっているが、この状況は、昭和55年以降一貫しており、暴力団が覚せい剤の密売に深く関与していることを示している。
 密売の手口は、買受人に顔を見られないようにするため、メッセージ機能付ポケットベル、転送電話、宅配便等を利用して行うものが多く、また、一度に大量に押収されることを避けるため、覚せい剤を手元に置かずに複数の拠点に分散して隠匿するなど、摘発を免れるための様々な手段が講じられている。過去10年間の暴力団員による覚せい剤事犯の検挙状況は、図4-2のとおりである。

図4-2 暴力団員による覚せい剤事犯の検挙状況(昭和57~平成3年)

〔事例〕 5月、山梨県内と都内に設置してある3台の電話を転送装置で結び、同県内の申込専用電話にかかってきた通話を順次転送して密売所の所在が容易にわからないようにした上、指定場所に覚せい剤をはり付けておく、いわゆるちょう付方式による密売を繰り返していた暴力団の組織的密売事犯を摘発、58人を検挙し、覚せい剤68.2グラムを押収した(山梨)。
(ウ) 高い再犯率
 平成3年の覚せい剤事犯の検挙人員1万6,093人のうち、再犯者は9,110人(56.6%)となっており、覚せい剤の依存性が極めて強いこと、密売組織との関係が絶ち難いことを示している。最近5年間の覚せい剤事犯の再犯者の状況は、表4-1のとおりである。

表4-1 覚せい剤事犯の再犯者の状況(昭和62~平成3年)

イ 深刻化する麻薬等事犯
 3年の麻薬等事犯(麻薬及び向精神薬取締法違反及びあへん法違反をいう。)の検挙件数は461件、検挙人員は336人で、前年に比べ、件数は103件(28.8%)、人員は59人(21.3%)それぞれ増加したが、中でも、コカイン事犯の検挙人員の増加が目立っている。最近5年間の麻薬等の種類別押収状況及び過去10年間の麻薬等事犯の検挙状況は、それぞれ表4-2、図4-3のとおりである。

表4-2 麻薬等の種類別押収状況(昭和62~平成3年)

図4-3 麻薬等事犯の検挙状況(昭和57~平成3年)

(ア) コカイン事犯の検挙人員が史上最高を更新
 3年のコカイン事犯の検挙件数は157件、検挙人員は110人で、前年に比べ、件数は17件(12.1%)、人員は17人(18.3%)それぞれ増加し、人員は5年連続で史上最高を更新した。一方、押収量は22.5キログラムで、過去最高であった前年に比べ46.3キログラム(67.3%)の減少となったが、史上第二位を記録している。押収の地域別では、2年は、東京、千葉、神奈川、兵庫に集中していたものが、3年は、これらの都県に加えて、大阪、京都、福岡においてもかなりの量の押収があり、汚染が全国に拡散、浸透する傾向がみられる。
〔事例〕 11月、携帯バッグにコカインを隠匿して我が国への密輸入を図ったブラジル人(34)を福岡空港で検挙、コカイン144.2グラムを 押収した(福岡)。
 年齢層別では、覚せい剤に比べ若年層の比率が高く、20歳代、30歳代を合わせると全体の71.8%(覚せい剤では62.1%)を占め、有職者の比率も59.1%(同47.5%)と高い。
〔事例〕 6月、無職の男(23)の居宅を捜索し、コカイン等を押収した。同人を取り調べた結果、サーファー仲間による乱用パーティーに使用していたことを自供した(大阪)。
 コカイン事犯で検挙された者のうち、暴力団員は28人で、全体の25.5%を占めている。また、暴力団の事務所や自宅から密売用に小分けされたコカインを押収した事例も相次いでおり、暴力団がコカインの密売に組織的な介入を深めていることがうかがわれる。元年に我が国への進出を開始したコロンビアのコカイン・カルテルは、徐々に国内への浸透の段階に移っているとみられることから、今後、これらカルテルと全国的に広がる覚せい剤の密売網を有する暴力団が結託すれば、急速にコカインの乱用が拡大するおそれがある。
〔事例〕 4月、暴力団員(42)の住居を捜索し、密売用に小分けされていたコカイン49.6グラムを発見、押収するとともに、3人を検挙した(千葉)。
(イ) 警戒を要するヘロイン事犯
 3年のヘロイン事犯の検挙件数は75件、検挙人員は60人であり、前年に比べ、件数は3件(4.2%)、人員は6人(11.1%)、それぞれ増加した。また、押収量は25.1キログラムで、前年に比べ15.7キログラム(167.7%)増加し、史上第二位を記録した。我が国におけるヘロイン事犯は、従来、東南アジアから我が国を中継地として欧米諸国へ密輸出しようとするものが大半を占めていたが、3年には、国内の暴力団に売りさばく目的でヘロイン18.9キログラムを密輸入した事案が検挙されており、少数なが ら乱用事犯も絶えないことから、今後、我が国でも汚染が広がる可能性がある。
〔事例〕 7月、ヘロイン18.9キログラムを布製バッグの中に隠匿して台湾から密輸入し、神奈川県内の暴力団に密売しようとしていた中国(台湾)人(32)ら3人を検挙した(神奈川)。
(ウ) 向精神薬事犯
 3年の向精神薬(注)事犯の検挙件数は38件、検挙人員は23人で、鎮静剤4,730錠、興奮剤17万1,008錠を押収した。薬物の乱用が多様化する中で、組織的な大量密売事件が続発したほか、病院や薬局における盗難事件も多発しており、危険性に関する国民の認識も必ずしも十分ではないことなどから、今後の乱用の拡大が危ぐされる。
(注) 向精神薬とは、睡眠薬、精神安定剤等中枢神経に作用して精神機能に沈静、興奮、幻覚等の影響を及ぼす物質の総称で、麻薬及び向精神薬取締法により73物質が指定されている。
〔事例〕 3月、雑貨品販売店経営者(44)が、海外から大量の向精神薬(フェンテルミン)を輸入し、やせ薬と称して主婦やホステスを対象に販売していた事犯を検挙、向精神薬17万609錠を押収した(沖縄)。
(エ) あへん事犯
 3年のあへん事犯の検挙件数は98件、検挙人員は105人で、けし(けしがら)6,035本、生あへん8.1キログラムを押収した。あへん事犯は、従来、観賞目的のけしの不法栽培が中心であったが、3年には、イラン人による生あへん密輸入事犯が続発し、7件、12人を検挙した。
〔事例〕 8月、シンガポールから生あへんをボストンバッグ等に隠匿して密輸入しようとしたイラン人3人を新東京国際空港で検挙、生あへん893.7グラムを押収した(千葉)。
ウ 増加傾向の続く大麻事犯
 3年の大麻事犯の検挙件数は1,897件、人員は1,386人で、過去最高であった前年に比べ、件数は75件(3.8%)、人員は126人(8.3%)それぞれ減少したが、いずれも史上第三位を記録した。検挙人員は、昭和53年に1,000人を突破して以来、若干の増減を繰り返しながらも、全体として増加傾向が続いている。押収量については、乾燥大麻が204.5キログラム、大麻樹脂が27.0キログラムで、前年に比べ、それぞれ64.9キログラム(46.5%)、12.9キログラム(91.0%)増加し、特に大麻樹脂は史上最高を記録した。過去10年間の大麻事犯の検挙状況は、図4-4のとおりである。

図4-4 大麻事犯の検挙状況(昭和57~平成3年)

(ア) 仕出地はタイ、フィリピンが中心
 平成3年の密輸入に係る大麻(乾燥大麻)の大量押収事例は18件、108.5キログラム(総押収量の53.1%)であった。これを仕出地別にみると、タイが8件、79.3キログラム(同38.8%)、フィリピンが4件、17.3キログラム(同8.5%)となっており、両国からの密輸入が中心となっている。
〔事例〕 1月、菓子缶の中に乾燥大麻を隠匿して、タイから我が国に密輸入した会社員(41)を検挙し、乾燥大麻6.7キログラムを押収した(千葉)。
(イ) 介入を一段と強める暴力団
 3年に大麻事犯で検挙された暴力団員は373人(前年比4人、1.1%増)で、全体に占める割合は26.9%と、前年に比べ2.5ポイント上昇した。特に、3年には、暴力団員が自ら栽培、乾燥した大量の乾燥大麻を密売していた事件をはじめ、組織的な大麻の密輸、密売事件が目立っており、暴力団が大麻の密売に介入を強めている状況が一層顕著となっている。
〔事例〕 8月、暴力団員(27)の自宅を捜索し、隠匿されていた乾燥大麻44.3キログラムを発見、押収した。その後の捜査により、暴力団が、組織的に青森県や秋田県内の山林で大麻草を栽培し、都内等に持ち込んで密売していたことを解明した(警視庁)。

(ウ) 青少年を中心とする乱用
 3年に大麻事犯で検挙された者のうち、10歳代は127人、20歳代は816人で、合わせて全体の68.0%を占めている。特に、3年には、学生等に よる乱用を目的とした自生大麻の不正採取事件が続発するなど、青少年が安易に大麻に手を出そうとする傾向が強まった。
〔事例〕 10月、雑誌で大麻の自生場所を知り、1年にわたって自生大麻を不正に採取し、乱用を続けていた大学院生(22)ら3人を検挙し、大麻草2.5キログラムを押収した(北海道)。
エ まん延するシンナー等有機溶剤の乱用
 3年のシンナー等有機溶剤乱用者の検挙人員は2万3,485人で、前年に比べ2,428人(9.4%)減少したが、引き続き2万人台の高水準で推移している。乱用の中心は少年であり、2万125人と全体の85.7%を占めている。また、暴力団による組織的な密売も依然として跡を絶たない。最近5年間のシンナー等有機溶剤乱用者の検挙人員の推移は、表4-3のとおりである。
 なお、少年のシンナー等の乱用については、第3章1(3)参照。

表4-3 シンナー専有機溶剤乱用者の検挙人員の推移(昭和62~平成3年)

オ 薬物乱用に起因する事件、事故
 覚せい剤、コカイン等の習慣性薬物は、幻覚、妄想等の精神障害をもたらすとともに、使用をやめた後も、少量の再使用や疲労をきっかけに、 乱用時と同様の精神障害を突然起こすことがあり(フラッシュバック現象)、悲惨な事件、事故を引き起こすことが多い。
 3年のこれら薬物乱用に起因する事件、事故は、殺人、放火、強盗及び強姦の凶悪犯罪が40件、購入代金欲しさ等による窃盗が255件、乱用による中毒死及び自殺が49人であり、前年に比べ、凶悪犯罪が19件、90.5%増加したことが注目される。3年の習慣性薬物に係る事件、事故の発生状況は、表4-4のとおりである。

表4-4 習慣性薬物に係る事件、事故の発生状況(平成3年)

〔事例〕 2月、覚せい剤の常用者である暴力団員(39)が、覚せい剤使用後、路上に停車中のハイヤーに乗り込み、持っていた包丁で運転手を刺した上、ハイヤーを強奪して乗り回し、別の場所に停車中のタクシー等の運転手を次々に包丁で刺して傷害を負わせた(警視庁)。
力 来日外国人による薬物事犯
 3年に薬物事犯で検挙された来日外国人は357件、303人で、前年に比べ、件数は52件(17.0%)、人員は9人(3.0%)それぞれ増加した。
 これを罪種別にみると、覚せい剤事犯が166件、142人、麻薬等事犯が91件、76人、大麻事犯が100件、85人となっており、いずれも年々増加する傾向にある。特に、麻薬等事犯については、コカイン事犯の増加等により、5年前の昭和61年に比べ、件数で約10倍、人員で約8倍となるなど、顕著な増加をみせている。
 国・地域別では、フィリピンが120件(33.6%、うち覚せい剤事犯が102件)、94人(31.0%)で最も多く、次いで米国68件(19.0%、うち麻薬等事犯及び大麻事犯がそれぞれ31件)、39人(12.9%)、台湾28件(7.8%)、22人(7.3%)、英国24件(6.7%)、17人(5.6%)の順になっている。
(3) 総合的な薬物乱用防止対策の推進
 警察では、日々深刻の度を増す薬物問題に的確に対処するため、薬物の供給ルートの遮断と乱用の根絶を主な柱に、総合的な対策を推進している。
ア 供給ルートの遮断
 我が国で乱用される薬物のほとんどは海外から密輸入されるものであることから、警察では、これを水際で阻止するため、税関、入国管理局等の関係機関と緊密に連携して、密輸入関係者の発見と動向監視に努めている。特に、近年の密輸入は極めて巧妙かつ組織的に行われていることから、捜査体制や装備資機材の整備を図るとともに、平成3年10月に薬物犯罪の取締りの強化を図るために制定された「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(平成3年法律第94号)」に規定するコントロールド・デリバリー等の効果的な捜査手法を積極的に活用 して、取締りの徹底を期することとしている。また、薬物の密売により得られるばく大な不法収益が、これらの犯罪の誘因となり、かつ、暴力団等の活動資金にもなっているという状況を踏まえ、同法の没収規定やマネーローンダリング処罰規定の適用等により、資金面からの取締りを徹底していくこととしている。
 また、6月には、国内外のコカインに関する情報の収集、分析等の事務を一元的に処理するため、「コカイン情報センター」を警察庁及び6都府県警察に設置した。
イ 乱用の根絶
 警察では、薬物乱用の根絶を図るため、末端乱用者の検挙を徹底するとともに、乱用がもたらす様々な害悪についての広報啓発活動を活発に展開し、薬物問題に関する国民の理解を高めることによる、薬物乱用を拒絶する社会環境づくりに努めている。このため、3年には、乱用体験者手記集「白い粉の恐怖」(13万部)、薬物乱用防止テキスト(中・高校

生用、3万部)を作成し、全国の職場、学校等に配布したほか、関係団体とも連携し、日米の有識者、実務家等によるシンポジウムを開催して乱用問題解決のための方策について公開討論を行うなどの活動を行った。
ウ 国際協力の推進
 薬物の不正取引は、国際的な薬物犯罪組織により国境を越えて行われており、一国のみでは解決することができないことから、警察では、各種国際会議への参加等による情報交換や関係国との捜査員の相互派遣等による国際捜査協力の推進に努めている。
 また、生産国等における薬物問題への取組みを支援することを目的として、3年10月には、国際協力事業団(JICA)との共催による「第30回麻薬犯罪取締りセミナー」を開催し、アジア、中南米等19箇国からの参加者に捜査技術の研修等を行ったほか、政府開発援助(ODA)の一環として、途上国に薬物の鑑定技術を移転するための事前調査をトルコ、フィジー、パキスタンについて実施した。

2 風俗営業の健全化と風俗環境の浄化

(1) 風俗営業の健全化
 警察では、良好な社会生活環境の形成を図るため、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営適正化法)等に基づき、善良の風俗と清浄な風俗環境の保持に力を入れている。特に、風俗営業は、国民に憩いと娯楽の機会を与える営業であることから、その健全化に努めている。
ア 風俗営業の状況
 最近5年間の料飲関係営業等(風営適正化法第2条第1項第1号~第 6号)の営業所数の推移は、表4-5のとおりである。

表4-5 風俗営業(料飲関係営業等)の営業所数の推移(昭和62~平成3年)

 また、遊技場営業(風営適正化法第2条第1項第7号、第8号)の営業所数の推移は、表4-6のとおりで、ぱちんこ屋の営業所数は昭和56年以降増加を続けているが、まあじゃん屋及びゲームセンター等の営業所数は減少傾向にある。

表4-6 風俗営業(遊技場営業)の営業所数の推移(昭和62~平成3年)

イ 風俗営業の健全化に向けた施策の推進
 風俗営業の営業所の管理者の業務を適正に実施させるために行う管理者講習の最近5年間の実施状況は、表4-7のとおりである。講習では、風営適正化法に規定する遵守事項等のほか、特に暴力団からみかじめ料等を要求された場合の対応要領等について指導している。

表4-7 管理者講習の実施状況(昭和62~平成3年)

 風俗営業の中でもぱちんこ屋営業については、多くのファンを有する大衆娯楽として近年急速に成長しているものの、一方で暴力団の関与等の健全化を阻害する要因が根強く残っているため、警察では、健全化に向けた施策を強力に推進している。平成3年は、このような施策の一環として、ぱちんこの玉貸し等に使用する全国共通のプリペイドカードの導入が適切に行われるよう必要な指導を引き続き行った。一方、ぱちんこ屋営業において遊技の結果に応じて客に提供された物品が、いわゆる景品買取所で換金されることがほぼ常態化していることから、その減少を図るため、2年に国家公安委員会規則を改正し、ぱちんこ屋営業において提供することができる賞品の価格の最高限度を3,000円から1万円に引き上げるとともに、客が一般に日常生活の用に供すると考えられる物品のうちから、できる限り多くの種類のものを賞品として取りそろえておくことを営業者に義務付けたが、警察では、賞品に対する客の多様 な要望を満たすことができるよう、魅力的な賞品の取りそろえについての指導を強力に推進している。
 また、警察では、遊技に際し客の射幸心が著しくそそられることを防ぐ見地から、遊技機の検定制度等を実施しているが、3年は、回胴式遊技機(パチスロ)の製造業者が、検定を受けた型式に属さない回胴式遊技機を検定を受けた型式に属するものとして販売する事案が多発したため、型式の検定制度導入以来初めて検定の取消しを行うとともに、関係団体に対する指導を強化するなど、同種事案の再発防止に努めた。
〔事例〕 遊技機の製造業者が、いわゆる出玉率を変えるため、検定を受けたものと異なる部品を取り付けた回胴式遊技機を、検定を受けた型式に属する遊技機として全国に約6万台販売していた。11月、44都道府県公安委員会において当該遊技機の型式の検定を取り消した。
(2) 深夜飲食店営業の状況
 最近5年間の深夜飲食店営業の営業所数の推移は、表4-8のとおりで、届出の必要な深夜酒類提供飲食店については漸増傾向にある。

表4-8 深夜飲食店営業の営業所数の推移(昭和62~平成3年)

 警察では、深夜飲食店営業に対しても、善良な風俗と清浄な風俗環境の保持の観点から、風営適正化法に基づいて適切な指導を行っている。
(3) 風俗関連営業(風営適正化法第2条第4項第1号~第5号)の状況
 最近5年間の風俗関連営業の営業所数の推移は、表4-9のとおりで、昭和59年以降漸減傾向にある。その一方で、風俗関連営業とされていないデートクラブ、テレホンクラブ等の性風俗に関する営業の営業所数は増加している。

表4-9 風俗関連営業の営業所数の推移(昭和62~平成3年)

図4-5 風俗関連営業の違反態様別検挙状況(平成3年)

 平成3年の風俗関連営業の違反態様別検挙状況は、図4-5のとおりで、売春防止法違反が6割以上を占めている。
(4) 売春事犯等及び猥褻(わいせつ)事犯の現況
ア 巧妙化する売春事犯等
 平成3年の売春防止法違反の検挙件数は5,287件であり、最近5年間の検挙状況は、表4-10のとおりである。

表4-10 売春防止法違反の検挙状況(昭和62~平成3年)

 最近の売春事犯は、売春防止法制定当時多かった街娼型、管理型に代わってデートクラブに代表される派遣型が主流となっており、総検挙件数の87.9%を占めるに至っている。これらの売春事犯においては、客との連絡に転送電話や携帯用無線電話を利用するなど、手口の巧妙化が目立ってきている。
〔事例〕 デートクラブ経営者(34)らは、アパートの部屋にデートク ラブ2店のコードレス電話の主電話器を設置し、別の部屋で客の申込みを受け、デート嬢を派遣して売春をさせていた。2月、同人ら6人を売春防止法違反等で検挙、デート嬢10人を保護(大阪)
 また、最近5年間の警察の把握するテレホンクラブの営業所数の推移は、表4-11のとおりである。3年には、売春防止法違反、児童福祉法違反等で99件を検挙しているが、この中には、経営者が売春をあっせんしている事例、少女が性的被害者となっている事例等がみられる。

表4-11 テレホンクラブの営業所数の推移(昭和62~平成3年)

イ 多様化する猥褻(わいせつ)事犯
 3年の猥褻(わいせつ)事犯の検挙件数は1,654件であり、最近5年間の検挙状況は、表4-12のとおりである。

表4-12 猥褻(わいせつ)事犯の検挙状況(昭和62~平成3年)

 その内容をみると、猥褻(わいせつ)ビデオテープを販売する事犯が依然として主流を占めているが、3年には、ダイヤルQ2を利用して猥褻(わいせつ)な音声を流す番組や露骨な性描写を盛り込んだ少年少女向け漫画が現れるなど多様化 してきている。
〔事例1〕 政治団体代表者(34)らは、女性の猥褻(わいせつ)な独り言の音声を聴かせるダイヤルQ2の番組を流していた。1月、同人ら3人を電話回線を利用した事犯としては全国で初めて猥褻(わいせつ)物公然陳列で検挙(大阪)
〔事例2〕 性器等を露骨に描写したポルノコミックを販売していた事件で、2月、書店店主、製作関係者ら74人を猥褻(わいせつ)図画販売目的所持で検挙(警視庁)
〔事例3〕 パソコンソフト製作会社は、露骨な性描写のアニメーションのパソコンソフトを製作し、書店等で販売していた。2月、パソコンソフト製作会社代表取締役(35)、書店店主ら25人を猥褻(わいせつ)図画販売目的所持で検挙パソコンソフト約1,300本を押収(京都)
(5) その他の風俗関係事犯の現況
ア ゲーム機使用賭博(とばく)事犯
 平成3年のゲーム機を使用した賭博(とばく)事犯の検挙件数は657件で、最近5年間の検挙状況は、表4-13のとおりである。これらの事犯の中には、多数の喫茶店等に賭博(とばく)遊技機をリースして暴利を得る大掛かりな事例や

表4-13 ゲーム機使用による賭博(とばく)事犯の検挙状況(昭和62~平成3年)

暴力団が関与している事例がみられ、その手口が悪質、巧妙化していることから、警察では、引き続き強力な取締りを推進している。
〔事例〕 ゲーム機を使用した常習賭博(とばく)で執行猶予中の男(48)は、高給で雇った従業員を飲食店営業の許可名義人にするなどしてゲーム喫茶2店を経営させ、客にゲーム機賭博(とばく)を行わせていた。2月、実質的な経営者であるこの男ら8人を常習賭博(とばく)等で、客ら4人を単純賭博(とばく)で検挙、ゲーム機32台等を押収(兵庫)
イ ノミ行為事犯
 3年のノミ行為事犯の検挙件数は616件で、最近5年間の検挙状況は、表4-14のとおりである。

表4-14 ノミ行為事犯の検挙状況(昭和62~平成3年)

 警察では、公営競技の施行者と連携して、公営競技場からの暴力団、ノミ屋等の排除措置を推進しており、公営競技場の浄化が進んでいる。しかし、その一方で、ノミ行為の拠点がアパートの一室、喫茶店等の公営競技場の場外に拡散しており、また、暴力団がノミ行為を資金源としている場合も多いことから、警察では、今後とも、取締りを強力に推進することとしている。
(6) 風俗環境をめぐる新たな問題
 最近、カラオケボックスの営業所が急増しており、平成3年10月末現在、警察で把握している営業所数は、全国で7,521軒で、2年末に比べ2,482軒増加している。カラオケボックスは、国民に憩いの場を与えるも のであるが、営業者等が少年に酒類を提供するなどの事案も発生しているため、善良の風俗及び清浄な風俗環境の保持並びに少年の健全育成の観点から、営業の健全化に向けた必要な指導を行うこととしている。

3 銃砲の適正管理と危険物対策の推進

(1) 銃砲の取締り
 最近5年間における銃砲使用犯罪の検挙件数の推移は、表4-15のとおりである。

表4-15 銃砲使用犯罪の検挙件数の推移(昭和62~平成3年)

 平成3年の銃砲使用犯罪の検挙件数は155件で、その85.2%に当たる132件にけん銃が使用されている。けん銃使用犯罪の87.9%は暴力団関係者によるものであり、市民生活に大きな脅威を与えているところであるが、これに加えて、最近では右翼団体関係者等によるけん銃使用犯罪の発生も目立っており、全体としてけん銃の拡散傾向がみられる。警察では、けん銃の取締りを強力に進め、3年には1,032丁を押収した。その大多数は外国製けん銃で、中でも旧ソ連や中国で製造されたものと同じ型のトカレフ型けん銃の押収が目立った。このような海外からのけん銃流入を防ぐためには、密輸入事犯の水際検挙と密輸入ルートの解明が重要であるが、最近では、けん銃を部品に分解したり、女性運び屋を雇うな ど密輸入手口が巧妙化、悪質化し、その取締りが困難化している。この対策として、銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)の改正を行い、けん銃に関し、輸入予備罪、輸入未遂罪及び輸入予備罪の国外犯処罰規定、輸入資金等提供罪、部品輸入罪等を新設するとともに、罰金額を引き上げた。
〔事例〕 暴力団員(43)らは、自宅横の畑にトカレフ型けん銃9丁、知人の倉庫に実包約1万5,000個等を隠し持っていた。3年4月以降4年1月までに、同人ら23人を銃刀法違反、火薬類取締法違反等で検挙、けん銃、実包等を押収(埼玉、千葉)
(2) 銃砲の適正管理
 平成3年末における都道府県公安委員会の所持許可を受けた銃砲の数は51万7,675丁である。このうち、猟銃及び空気銃(以下「猟銃等」という。)は47万4,252丁で、全体の91.6%を占めているが、その数は13年連続して減少している。
 3年の猟銃等による事故の発生件数は57件、死傷者数は57人であった。また、猟銃等を使用した犯罪の検挙件数は9件で、このうち許可を受けた猟銃等を使用したものが7件であった。
 銃砲の所持許可は、銃砲を狩猟、標的射撃、産業、試験、研究等の社会的有用性のある用途に供する者に限って与えられており、警察では、許可を受けた銃砲の所持者に対し適正な保管、取扱いについての指導等を行い、銃砲による危害の発生の防止に努めている。しかし、猟銃等の不注意な操作に起因する事故の発生が依然として跡を絶たないことから、銃刀法を改正し、猟銃の操作及び射撃技能の向上等に資するため練習射撃場の指定の制度を設けたほか、許可を受けた銃砲の所持者に対し、一定の場合に都道府県公安委員会が危害予防上必要な措置を執るよう指示できるようにするなど、銃砲による危害の発生を防止するための新たな措置を講じた。
(3) 火薬類対策の推進
 平成3年の猟銃用火薬類等(専ら猟銃、けん銃等に使用される実包、銃用雷管、無煙火薬等)の譲渡、譲受け等の許可件数は9万7,738件であった。
 また、3年の火薬類の盗難事件の発生件数は19件、実包を除く火薬類(ダイナマイト等)を使用した犯罪の発生件数は9件であった。
 警察では、火薬類取締法に基づき、火薬類の製造所、販売所、火薬庫、消費場所等に対して立入検査を実施し、火薬類の保管方法等についての指導、取締りを行っている。
(4) 高圧ガス、消防危険物等による事故の防止
 平成3年には、事業所や一般家庭において、高圧ガス、消防危険物等による事故が689件発生し、死傷者は610人に上った。
 警察では、高圧ガス、石油類等による事故を防止するため、関係機関との連携の下に取締りを行っているが、3年には、高圧ガス取締法、消防法等危険物関係法令違反により、369件、393人を検挙した。特に、11月には、輸送中の危険物の安全を確保するため、危険物運搬車両の全国一斉の集中指導取締りを行い、悪質な違反125件、113人を検挙した。
(5) 放射性物質の安全対策の推進
 平成3年に都道府県公安委員会が受理した放射性物質の運搬届出件数は、核燃料物質等に係るものが1,158件、放射性同位元素等に係るものが334件であった。
 核燃料物質等を運搬するためには、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律により、都道府県公安委員会から運搬証明書の交付を受け、運搬中はこれを携帯し、かつ、これに記載された内容に従って運搬しなければならないこととされている。
 警察では、核燃料物質等の使用者等に対し事前指導を行うなど、核燃 料物質等の運搬の安全確保に努めている。

4 消費者被害防止対策の推進と経済事犯の取締り

(1) 悪質商法の現況と取締り
 「ゆとり」に対する国民の関心が高まりつつある中、悪質商法事犯も、従来の投機的な取引に誘い込み金銭をだまし取る事犯、マルチ商法をめぐる事犯等に加え、国民の「ゆとり志向」に付け込んだ新たな悪質商法が問題化している。
ア 海外先物取引をめぐる事犯
 平成3年の海外先物取引をめぐる事犯の検挙状況は、事件数は4事件、人員は82人であり、被害者数は約4,500人、被害額は約171億円に上った。
 検挙した事例では、大口取引がねらえることや世間体を気にして被害申告を渋りがちなことに目を付けて、会社役員や金融機関職員等を顧客に選定していた事犯、会社名を転々と変更したり関連会社を次々と設立して被害者等の追及から逃れるための工作をしていた事犯等、巧妙、悪質なものが目立った。
〔事例1〕 海外先物取引業者(59)らは、先物取引の知識に乏しい主婦、高齢者等を対象に、「砂糖が上がり気味だからもうかる。3箇月で2割の利益になる。いつでも解約でき、元本と利益を一緒に返す」など有利な利殖であることを強調して先物取引に誘い込み、実際には、顧客の売買注文に対して自己の注文を対向させたり、追加保証金を要求したりして、22都道府県の被害者3,034人から総額約75億円をだまし取っていた。9月、詐欺で9人を逮捕(神奈川)
〔事例2〕 海外先物取引業者(45)らは、金融機関職員であっても先 物取引の知識を持つ者は少なく、また被害に遭っても世間体を気にして被害申告を渋りがちなことに目を付け、顧客を金融機関職員に絞って勧誘し、顧客が「結構です」と言って勧誘を断っても、「あなたが『結構です』と了承したのでもう注文を出した。いまさら取消しはできない」などと強引に先物取引に誘い込み、顧客の売買注文に対して海外に設置したダミー会社に反対の注文をさせるなどして委託保証金を取り込み、23都府県の顧客711人から総額約61億円をだまし取っていた。9月、詐欺で6人を逮捕(兵庫)
イ マルチ商法をめぐる事犯
 3年のマルチ商法をめぐる事犯の検挙状況は、事件数は4事件、人員は25人であり、被害者は約4,700人、被害額は約17億円に上った。
 検挙した事例では、商取引にうとい若者を対象に、「商品を買って会員になれば、友人、知人を紹介するだけでマージンが入り、高収入が得られる。海外旅行や好きな車もすぐに買うことができる」などと言って不必要な高額商品を購入させ、販売のあっせんをする者を勧誘する「あっせん方式」の事犯が目立った。
〔事例〕 ダイヤモンド製品の連鎖販売業を営む会社幹部(25)らは、20歳前後の若者を対象に、「今まで損をした者は誰もいない。ダイヤモンドを買って会員になれば、人を紹介するだけで1箇月に100万円以上の収入になる」などとだまして会員を勧誘し、17都道府県の約2,000人に総額約10億円のダイヤモンド製品を販売していた。2月までに、訪問販売等に関する法律違反で逮捕4人を含む10人を検挙(富山)
ウ 「ゆとり志向」に付け込む新たな悪質商法
 近年、レジャーや余暇に対する国民の関心が高まる中、国民の「ゆとり志向」に付け込んだ新たな悪質商法として「会員権商法」や「資格商 法」が問題化している。
 3年のこれらの悪質商法の検挙状況は、事件数は4事件、人員は39人であり、被害者は約2,200人、被害額は約49億円に上った。
 検挙した事例では、会員権商法では、「入会すればホテル等が格安料金で利用できるし、会員権も値上がりする」などと言って金銭をだまし取る手口、資格商法では、「講習を受ければ認定証がもらえる」などと言って手続料の名目で金銭をだまし取る手口を用いていた事犯が目立った。
〔事例〕 レジャー会員権販売業者(43)らは、主として高齢者、主婦を対象に、「入会すれば1泊2、3万円もする有名温泉地の豪華な旅館、ホテルが無料又は低額で利用できる。会員権は値上がりするし、退会時に入会預り金は全額返還する」などと言って、33都府県の被害者約1,500人から総額約48億円をだまし取っていた。2月までに、詐欺等で逮捕4人を含む35人を検挙(大阪)
エ その他の悪質商法
(ア) 証券取引をめぐる悪質商法
 3年の検挙状況をみると、事件数は4事件、人員は10人であり、被害者は約200人、被害額は約52億円に上った。
〔事例〕 無職の男(56)は、証券会社に長年勤務していた経験知識を利用して、証券会社の社長を自称し、「今、名古屋の証券会社に転換社債の枠があるが買わないか。満期になれば1割の配当が付き、絶対にもうかる」などと言って、2府1県の投資家23人から転換社債購入代金として約5億6,000万円をだまし取っていた。5月、詐欺で逮捕(長崎)
(イ) 原野商法
 3年の検挙状況をみると、事件数は3事件、人員は10人であり、被害者は約560人、被害額は約21億円に上った。
〔事例〕 原野商法の詐欺の逮捕歴を有する無職の男(41)らは、以前に原野商法により二束三文の土地を購入しその処分に窮している土地所有者を対象に、「高値で転売してやる。別の物件を一時的に買ったことにして等価交換の形をとれば税金を払わなくてすむので、仲介業者へ支払う費用を出してほしい」などと言って、16都道府県の被害者約200人から、総額約15億円をだまし取っていた。1月、詐欺で3人を逮捕(愛知)
(2) 消費者被害防止のための諸施策の推進
ア 消費者相談と啓発活動
 各都道府県警察の「悪質商法110番」等の消費者相談窓口に寄せられた悪質商法に関する苦情、相談は、平成3年も多数に上った。
 警察では、消費者相談を通じて得られた情報を基に重点的な取締りを実施して多数の事件を検挙した。
〔事例〕 悪質商法110番に寄せられた「自治会役員と称する45歳位の男から、『この町内では、消火器の設置が義務付けられている。消火器を置いていくから、その代わり登録料2万2,000円を預からせてもらう。この金は、引っ越しの際に消火器と引換えに全額返還する』と言われ現金を渡したが、その後、この男と連絡がまったく取れない。だまされたのではないか」という相談を端緒に捜査した結果、消火器のかたり商法詐欺の前科を有する男(47)が、自治会役員を装って消火器設置の登録料として、6府県の約460人から総額約1,000万円をだまし取っていたことが判明した。1月、詐欺で逮捕(奈良)
 また、警察では、悪質商法による被害の未然防止、拡大防止を図るため、防犯協会、消費者行政担当機関等と連携して、消費者に対する広報啓発活動を積極的に推進した。全国の警察で消費者に配布したパンフレット、チラシ等の広報啓発資料は約800万部に達した。
イ 関係機関、団体等との連携強化
 警察では、消費者被害の未然防止、拡大防止のため、各地方自治体の消費者行政担当課、消費生活センター等と悪質商法に係る連絡会議、研修会等を開催するなどして連携強化を図った。
 警察では、こうした関係機関との連携を通じて得た情報を基に積極的な取締りを実施して多数の事件を検挙した。
(3) 不動産取引をめぐる事犯
 平成3年の検挙状況をみると、件数は376件、人員は523人であり、法令別では、宅地建物取引業法違反、国土利用計画法違反、建築基準法違反、農地法違反の順であった。
 検挙した事例では、地価や土地利用目的に関する規制を免れるための無届事犯、無免許で長期にわたり多数の顧客と宅地建物取引を行っていた事犯が目立った。
〔事例〕 不動産ブローカー(72)らは、リゾート開発が活発な伊豆半島地域での土地転がしを企て、国土利用計画法に定める知事への届出をすることなく土地の転売を繰り返して、最初の土地取得から半年後に、仕入価格の約3倍で不動産業者に販売していた。6月までに、国土利用計画法違反等で逮捕2人を含む4法人24人を検挙(静岡)
(4) 国際経済関係事犯の取締り
 平成3年の外国為替及び外国貿易管理法(外為法)違反の検挙状況をみると、件数は32件、人員は36人、関税法違反の検挙状況をみると、件数は109件、人員は18人であった。
 検挙した事例では、暴力団関連会社社長らが、海外で不動産や株式等を取得するため、不正に資本投資をした事犯、貨物の輸出入代金の支払等に絡んだ自己あて小切手の密輸出入事犯が目立った。最近5年間の国 際経済関係事犯の法令別検挙状況は、表4-16のとおりである。

表4-16 国際経済関係事犯の法令別検挙状況(昭和62~平成3年)

〔事例〕 広域暴力団稲川会系の関連会社役員(44)らは、韓国内の不動産を取得する目的で、大蔵大臣の許可を受けることなく、元年5月、2回にわたり、円貨表示自己あて小切手合計100通(額面総額1億7,000万円)を携帯して出国した。また、同人らは、元年6月ごろ、米国の会社が募集した株式100万株を購入するに際し、所定の届出をせず、あるいは額面単価を偽った届出を行った。3年10月、外為法違反で2法人3人を検挙(兵庫)
(5) 金融関係事犯の取締り
 いわゆるサラ金をめぐる事犯については、警察の厳しい取締りと関係行政機関の指導、業界団体の自主努力等により沈静化の傾向にあるが、無登録営業、高金利事犯は依然として跡を絶たない。また、暴力団組織を背景としていわゆるトイチ(10日で1割の利息)等の超高金利を取り、取立行為に絡む違法行為がみられるなど極めて悪質な事犯が目立っている。
〔事例〕 「あいりん地区」において山口組系暴力団員らが不法に高金利貸付け及び労働者派遣事業を行っていた事件に関して、8月までに、出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律違反等で暴力団員20人を含む43人を検挙(大阪)

5 知的所有権保護対策の推進

(1) 知的所有権侵害事犯の取締り
 警察では、知的所有権保護の必要性が国際的に一段と高まっていることにかんがみ、知的所有権侵害事犯を取締り重点に掲げるとともに、国内における不正商品の流通情報を総合的に収集している不正商品対策協議会(権利者団体10団体で構成する民間団体)等の関係団体との連携を図り、悪質業者の早期検挙に努めている。
 平成3年の知的所有権関係法令違反の検挙状況をみると、件数は971件、人員は513人であり、最近5年間の法令別検挙状況は、表4-17のとおりである。

表4-17 知的所有権関係法令違反の法令別検挙状況(昭和62~平成3年)

ア 海賊版事犯
 3年の海賊版事犯としては、新作映画ビデオの発売と同時に真正品のビデオを仕入れてその海賊版を製造、販売していたもの、店舗の奥に隠 し部屋を設けて海賊版ビデオを製造、販売していたもの、海外で製造された海賊版ゲームソフトを輸入して販売していたものなどがあり、事犯の国際化、潜在化の傾向がみられた。
〔事例〕 ゲームソフト卸業者(45)らは、子供に人気のあるテレビゲームソフトの海賊版を東南アジアから航空便で輸入し、通常料金の半額で販売店を介して市販していた。12月までに、著作権法違反で逮捕1人を含む3法人4人を検挙、海賊版ゲームソフト約300本を押収(静岡)
イ 偽ブランド商品事犯
 3年は、偽洋酒、偽ブランド米、人気アニメ等のキャラクターをプリントした偽商品の販売等、事犯の多様化がみられた。また、有名ブランドのかばん、袋物等の偽商品を海外から輸入し、販売する事犯がほとんどを占める中で、偽原反を輸入し、国内で偽商品を製造販売していた事犯等組織的な事犯の検挙もみられた。
〔事例1〕 輸入代行業者(59)らは、「当社は、有名ブランドのバッグ等を個人輸入し、市価の半値以下で販売している」などと新聞折り込みチラシで大々的に宣伝して購入客を募り、海外で買い付けた偽ブランド商品を航空便等で購入客に発送して販売し、約5億5,000万円の売上げを得ていた。8月までに、商標法違反で逮捕9人を含む1法人16人を検挙、偽商品等約4,000点を押収(宮城)
〔事例2〕 衣類販売業者(27)らは、有名ブランドの偽原反を海外から密輸入するとともに、かばん職人も入国させて、国内の工場で大量の偽商品を製造し、全国に販売して約12億円の売上げを得ていた。8月までに、商標法違反で逮捕22人を含む27人を検挙、偽商品等約5万点を押収(兵庫、奈良)
(2) 知的所有権保護のための広報啓発活動
 警察では、検挙した事件の広報を行ったほか、テレビの政府広報番組で我が国における知的所有権侵害の実態、知的所有権保護の重要性を訴えた。また、不正商品対策協議会が札幌市(5月)、仙台市(11月)で実施した「不正商品防止フェア」に協力するなど、地域に密着した広報啓発活動を展開した。

6 公害事犯の取締り

 警察では、国民の健康を保護するとともに生活環境の保全を図るため、悪質な産業廃棄物の不法処分事犯や水質汚濁事犯に重点を置いた取締りを行っている。最近5年間における公害事犯の法令別検挙状況は、表4-18のとおりである。

表4-18 公害事犯の法令別検挙状況(昭和62~平成3年)

(1) 廃棄物事犯
 平成3年の廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反の検挙件数は1,955件であり、これを態様別にみると、廃棄物をみだりに捨てる不法投棄事犯が依然として多く、全体の68.9%を占めている。
 検挙した事例では、建築工事等に伴って生じた大量の廃材等を隣接する県まで運んで不法処分していた事犯が増加した。
 また、検挙した産業廃棄物事犯に係る不法処分された産業廃棄物の総量は約209万7,900トンに上るものと推定され、その種類別、場所別状況は、図4-6のとおりである。

図4-6 不法処分された産業廃棄物の種類別、場所別状況(平成3年)

〔事例〕 産業廃棄物処理業者(55)らは、関西、中国地方等の1府9県の化学工場等から排出された、カドミウム、鉛等の有害物質を含有する廃油、汚でい等の産業廃棄物約3万5,500トンを瀬戸内海国立公園内に所在する香川県豊島で不法に処分していた。8月までに、逮捕9人を含む78法人101人を検挙した。本件によって不法に処分された産業廃棄物の総量は、約71万トンに上るものと推定される(兵庫)。
(2) 水質汚濁事犯
 平成3年の水質汚濁事犯の検挙件数は51件であった。このうち、工場等が水質汚濁防止法等に基づいて定められている基準に違反して汚水を排出等する事犯の検挙件数は32件であった。
〔事例〕 建設資材等のメソキ会社の工場長(41)らは、その排水を処理施設まで導水する旨の虚偽の届出を行った上、基準の4倍から67倍を超える亜鉛を含有する汚水を未処理のまま直接公共用水域に垂れ流していた。7月、水質汚濁防止法違反で1法人3人を検挙(千葉)

7 警備業等の健全育成

(1) 警備業の健全育成
ア 警備業の現況
 警備業の業務は、原子力発電所、空港等から一般家庭に至るまでの様々な施設における施設警備、工事現場等での交通誘導警備、祭礼等の場での雑踏警備、現金、核燃料物質等の輸送警備、ボディーガード等幅広い分野に及んでおり、国民の自主防犯防災活動をささえる「安全産業」として、社会に定着している。特に、最近は、ホーム・セキュリティ・システム等、一般家庭や事務所等に侵入感知機等のセンサーを設置して、基地局において犯罪や事故の発生を警戒し、防止する機械警備業が順調な発展を遂げており、国民の多種多様な需要にこたえている。
 平成3年末現在、警備業者数は6,045業者、警備員数は27万41人で、前年に比べ、412業者、2万3,071人それぞれ増加した。最近5年間の警備業者数、警備員数の推移は、表4-19のとおりで、増加傾向にある。

表4-19 警備業者数、警備員数の推移(昭和62~平成3年)



イ 警備業の安全への貢献
 警備業は、盗難等の犯罪や事故の発生を警戒し、防止することをその業務としており、その業務を通じ、社会の安全に寄与している。
 3年の警備業者又は警備員の届出による刑法犯認知件数は、全刑法犯 認知件数の0.6%に当たる1万197件であり、また、3年の民間協力等による主たる被疑者特定の端緒別刑法犯検挙状況は、表4-20のとおりで、「警備業者又は警備員の協力」によるものは8,014件を占めており、「第三者の協力」によるものを上回っている。

表4-20 民間協力等による主たる被疑者特定の端緒別刑法犯検挙状況(平成3年)

ウ 警備業者等に対する指導、監督
 警察では、警備業が民間における防犯システムの一環として地域防犯活動、職域防犯活動と並んで重要な役割を果たしていることから、警備業務の実施の適正を確保するため、警備業法に基づき警備業者に対する指導、監督を行うとともに、警備業協会等を通じた指導を行うことにより、警備業の健全育成を図っている。
エ 警備員等に対する検定の実施
 警備員等に対する検定制度は、警備業法に基づき、都道府県公安委員会が警備員又は警備員になろうとする者について試験を行い、合格した警備員等が一定水準以上の知識及び能力を有することを公的に認める制度であるが、この制度が社会に定着することによって、警備業者が警備員の効果的な教育に努めるとともに、警備員等が自主的にその知識及び能力の向上に努めることが期待されている。
 検定の種別は、現在、空港保安警備、交通誘導警備、核燃料物質等運搬警備、貴重品運搬警備の4種別で、それぞれが1級と2級に区分されている。検定は、都道府県公安委員会が行う学科試験及び実技試験によ り判定されるが、国家公安委員会が指定した講習の課程を修了した者については試験が免除されることとされており、現在、(社)全国警備業協会が行う講習と(財)空港保安事業センターが行う研修が、それぞれ指定講習として指定されている。
 3年末までに検定に合格した者の数は2万337人で、検定に合格した者は、その旨を証する標章(QGマーク)を用いることができることとされている。
(2) 質屋、古物営業の健全育成
 質屋営業法、古物営業法により都道府県公安委員会から許可を受けている質屋、古物商等の数の推移は、表4-21のとおりで、質屋は漸減し、古物商は漸増している。

表4-21 許可を受けている質屋、古物商等の数の推移(昭和62~平成3年)

 平成3年に質屋、古物商等が盗品等を発見することなどにより、被害者に被害品を返還できた件数は、質屋が4,575件、古物商が1,181件であり、これらの業者の協力によって犯人を検挙した事例も数多くみられた。質屋、古物商は、業務を通じて盗品等を発見する機会が多く、民間における防犯システムの一環として重要な役割を果たしていることから、警察では、全国質屋防犯協力会連合会、全国古物商組合防犯協力会連合会等の関係団体と緊密な連携を保ちつつ、その指導、健全育成に努めてい る。
(3) 調査業の健全化
 探偵社、興信所等の調査業については、違法な方法による調査を常習とする業者、暴力団が経営に関与している業者、料金トラブルを多発させる業者等の悪質な業者による不適正な営業活動が跡を絶たない。警察では、悪質な調査業者の取締りに努めるとともに、営業活動の健全化に向けた自主的な活動を推進するよう働き掛けている。これを受けて、(社)日本調査業協会では、秘密の保持等を定めた業務倫理綱領を制定して協会加盟員に対しその徹底を図るとともに、顧客からの苦情処理等営業活動の適正化に向けた各種の活動を行っている。

8 外国人労働者問題への対応

(1) 外国人労働者問題~社会問題化した不法就労者問題
 我が国と近隣諸国との経済格差等を反映して、我が国で就労する外国人の増加傾向は一層顕著となっており、大都市のみならず地方都市においても、建設業、製造業、サービス業等の分野で単純労働に従事する外国人労働者と接する機会は急速に多くなっている。その結果、これら外国人労働者の一部が公園等に多数集まって周辺住民が不安感を訴えるなど、外国人犯罪の急増とあいまって、大きな社会問題が生じている。
ア 不法就労者の急増
 観光等の名目で上陸申請をして在留資格を付与されたにもかかわらず就労していたり、在留期間の経過後に不法に残留しながら就労する、いわゆる不法就労者は、近年急速に増加している。入国管理局が過去6年間に摘発した不法就労事犯の数の推移は、表4-22のとおりである。

表4-22 不法就労事犯により摘発された外国人の状況(昭和61~平成3年)

 なお、入国管理局の統計によると、平成3年11月1日現在における不法残留者総数は約21万6,000人と、6箇月前の5月1日に比べ約5万7,000人増となり、そのほとんどが就労しているとみられることから、潜在化した不法就労者は著しく増加しているものと考えられる。
イ 外国人労働者と社会との関係
 海外では、ドイツやフランスのように、過去において外国人労働者を短期間の出稼ぎ労働者として積極的に受け入れてきた国が存在するが、外国人労働者をめぐっては、失業、教育、犯罪等多くの問題が生じており、受入れ制限、帰国奨励等への政策転換後にあっても、その解決は容易ではないことが指摘されている。
 我が国でも、不法就労者を含む外国人労働者の増加に伴い、就労あっせんに伴う金銭問題等不法就労者相互間のトラブルが原因となった凶悪犯罪が目立つなど、彼らが犯罪を犯したり、犯罪の被害者となる事例等が目立ってきている。また、外国人が公園等に多数集まったり、集団居住することで、生活習慣の違い等から周辺住民との間にあつれきが生じるなどの例も出てきており、外国人労働者が社会に与える影響については、今後、慎重に見定めていく必要があるとともに、外国人に関する問題について早急に総合的な対策を講ずることが必要となってきている。
(2) 外国人労働者に係る雇用関係事犯の取締り
ア 就労に介入するブローカー等の取締り
 我が国に来日していわゆる単純労働に従事する外国人が急増した背景には、外国人労働者の就労に介入して不当な利益を得ている就労あっせんブローカー等の存在がある。そのため、警察では、職業安定法、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(労働者派遣法)、労働基準法等の雇用関係法令や出入国管理及び難民認定法(入管法)の不法就労助長罪の規定を適用して、これらブローカーや悪質な事業主の取締りを推進し、過酷な労働条件での労働を強いられるなど、彼らに食い物にされている外国人労働者の保護を図っている。最近3年間の雇用関係事犯の検挙状況は、表4-23のとおりで、検挙件数、人員とも前年に比べ2倍以上の増加となっている。
〔事例〕 日本人ブローカー(45)は、多数のマレーシア人をプラスチック加工会社ほか6社に派遣して単純労働に従事させ、その給料の一部を着服するなどして暴利を得ていた。8月、不法就労助長罪及び労働者派遣法違反で逮捕(山形)

表4-23 外国人労働者に係る雇用関係事犯の法令別検挙状況(平成元~3年)

イ 暴力団関与事犯の取締り
 暴力団は、以前から外国人女性を売春婦等としてあっせんするブローカーとして暗躍していたが、最近では、外国人男性を工場、建設現場等へ単純労働者としてあっせんするなど、外国人男性に係る雇用関係事犯にも関与している。これは、暴力団が、企業等における人手不足感の広がりに目を付け、これら業種への外国人男性のあっせん等を新たな資金源の一つとしていることを示すものとみられる。
〔事例〕 暴力団員(55)は、短期滞在の在留資格で我が国に入国したタイ人男性を鉄筋工として鉄筋工事会社に紹介し、就労のあっせんを行っていた。11月、不法就労助長罪及び職業安定法違反で逮捕(福井)
(3) 外国人労働者に係る風俗関係事犯等の取締り
ア 外国人女性に係る風俗関係事犯
 近年、短期滞在、興行等の在留資格で入国し、風俗関係事犯に関与する外国人女性が増加している。これらの事犯においては、ブローカーや悪質な事業主が外国人女性に売春を強要する例もあり、外国人女性に係る風俗関係事犯の取締りを推進し、外国人女性の保護を図ることが重要な課題となっている。
 最近5年間における風俗関係事犯に関与した外国人女性の国・地域別の状況は、表4-24のとおりで、タイの占める割合が大きくなっている。

表4-24 風俗関係事犯に関与した外国人女性の国・地域別状況(昭和62~平成3年)

〔事例〕 タイ人女性ブローカー(26)らは、東京都内に拠点を置き、タイ人女性100人余を関東一円のスナック等にあっせんし、スナック等の経営者らはこれらのタイ人女性を売春等に従事させていた。5月、ブローカーら3人を職業安定法違反で、スナック経営者ら3人を売春防止法違反等で検挙(埼玉)
イ 外国人労働者に係る偽装結婚事犯
 我が国に長期間滞在し、就労するため、外国人が日本人と偽装結婚を 行う例がみられる。これは、例えば、興行の在留資格では原則として3箇月までしか在留が認められないのに対して、日本人の配偶者としての在留資格では最高3年間の在留が認められる上、国内で自由に就労することができるためである。
 このような偽装結婚事犯にはブローカーが介在していることが多く、偽装結婚を望む外国人から多額の仲介料を取り、その一部を相手方となる日本人に報酬として渡し、残りを自らが受け取り利益を得ているのが通常であるが、中には相手方の日本人の同意を得ずに婚姻届を偽造するといったより悪質なケースもみられる。
〔事例〕 偽装結婚ブローカー(52)は、韓国人ブローカーや暴力団員らと結託し、日本国内で長期間就労することを望んでいる韓国人を日本人と偽装結婚させて、日本人の配偶者としての在留資格を取得させるため、150万円の「戸籍使用料」を日本人に払って韓国人と偽装結婚させ、韓国人からは250万円の仲介料を得ていた。約6年間にわたって約300組の偽装結婚のあっせんを行い、約3億円の不当な利益を得ていたものとみられる。10月、公正証書原本不実記載、同行使で逮捕(大阪)
(4) 外国人の保護のための地域防犯対策
ア 外国人との防犯懇談会の実施等
 警察では、我が国に在留する外国人が犯罪の被害や事故に遭うのを防ぐとともに、非常時に警察への通報等の措置を的確に行えるよう、外国語によるパンフレットを作成するなどの防犯対策を行っている。また、ブラジル等から来日したいわゆる日系人をはじめとする外国人が増加している地域においては、彼らが言葉や生活習慣の違いから犯罪の被害に遭ったり生活に不都合を生じたりするのを防止するため、警察署と外国人との防犯懇談会を実施するなどして、外国人との意見交換を図ると ともに、防犯相談や防犯指導を実施している。
 また、地域防犯対策を効果的に実施するため、外国人に防犯連絡所責任者を委嘱するなどの試みも行っている。
イ 外国人集合地域における困りごと相談等の実施
 我が国に在留する外国人労働者の増加に伴い、公園や駅といった公共の場所に多数の外国人が集まり、中には野宿する者が現れるなどの現象が生じ、社会問題化している。
 これらの外国人の中には、宿泊場所を見つけられない者、自国に帰りたいのに旅費を持っていない者、病気や怪我で困っている者等も相当数いるとみられるため、警察では、関係機関と連携を取りつつ、これらの外国人集合地域においてアンケート調査、困りごと相談等を実施し、外国人の保護を図っている。

(5) 今後の対応
 現在、我が国では、いわゆる単純労働に従事する外国人の受入れや外国人を対象とする研修制度の在り方等をめぐって、各界で活発な議論が行われている。その際、留意すべき点は、外国人労働者の受入れとは単なる労働力の受入れではなく、生身の人間の受入れであるという前提に立ち、前述のように外国人労働者が我が国社会に与える影響を十分に勘案しつつ、不法残留等の防止対策を含め、関係機関の連携をより密にした適正な出入国、在留管理が求められていくということである。
 警察としては、外国人労働者に係る雇用関係事犯をはじめとする不法就労にかかわる犯罪について、ブローカーの介在する事案や組織的背景のある事案、身分偽装のための文書偽造事犯等、悪質性の高い事案に重点を置いた適切な取締りに努めるとともに、外国人の保護、通訳の確保、育成等諸対策の推進も併せ、外国人に関する問題について、総合的な対策を講じていくこととしている。
 なお、第1章第2節2参照。


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