第2章 現代の地域社会と警察活動

 地域警察は、住民にとって最も身近なレベルの警察活動を担っており、すべての警察活動の基盤となる存在として、我が国の良好な治安を根底でささえている。
 派出所、駐在所、警ら用無線自動車(パトカー)等に勤務する地域警察官は、地域社会を活動の場として、直接住民と接しながら、昼夜にかかわりなく発生するすべての警察事象に即応する活動を行い、地域住民の日常生活の安全と平穏を守っている。このような地域警察官の活動を中心とする地域警察活動は、我が国独自のものであり、地域住民の安心感のよりどころとして信頼を集めるとともに、諸外国からも注目されてきた。
 しかし、近年における社会情勢の変化は、伝統的な地域社会(コミュニティー)を変貌(ぼう)させつつあり、これに伴い、地域警察自体の在り方や地域警察に対する地域住民の要望も大きく変化している。
 例えば、単独世帯の増加等居住形態の多様化や大都市圏以外にも広がりつつある都市化の進展は、住民の連帯感を希薄化させ、これまで地域社会がはぐくんできた自主防犯機能を弱体化させており、また、人口高齢化の進展や来日外国人の増加等は、地域共同体が従来有していた相互扶助機能を低下させ、独居高齢者等行政的な保護を要する者を増加させている。さらには、人や物の交流の活発化や情報通信手段の高度化等社会のボーダーレス化は、犯罪を広域化、複雑多様化させている。
 このような状況を背景として、現代の地域警察には、事件、事故に即応することはもとより、より地域に根ざした警察活動を推進し、地域住 民が安全で安心できる快適な住環境(アメニティー)づくりの一翼を担っていくことが求められている(注)。
 このため、警察では、派出所、駐在所を地域コミュニティーにおける生活安全センターとして機能させるべく、地域警察官を中心に、事件、事故の発生時における犯人の迅速な検挙、街頭におけるパトロール活動の強化だけでなく、各家庭、事業所への巡回連絡等を通じた犯罪の予防、困りごと相談等地域に溶け込んだ幅広い活動を今後一層積極的に展開することとしている。
(注) 平成4年6月、経済審議会の答申を受けて作成され、閣議決定された「生活大国5か年計画」(新経済計画)は、「生活大国実現のための具体的施策」の一つとして「安全で安心できる生活の確保」を挙げ、薬物乱用問題への対応等と並んで「地域における防犯体制の充実」により我が国の治安面での安全度の高さを今後とも維持していくこととしている。そして、同審議会の生活大国部会報告では、「我が国の治安面での安全度の高さを今後とも維持していくため、交番など身近な生活の安全のためのものも含め、地域における防犯体制の充実を図る」ことを提言している。

1 地域警察活動の概要と展望

 地域警察官は、地域住民の日常生活の安全と平穏を守るため、地域社会を活動の場として、直接地域住民と接しながら、昼夜を分かたぬ警戒体制を保持し、事件発生時における犯人の検挙、街頭でのパトロールや各家庭、事業所等への巡回連絡等を通じて、犯罪の予防、交通指導取締り、少年補導、迷い子や酔っ払いの保護、困りごと相談等地域住民の要望にこたえた幅広い活動を行っている。
(1) 派出所、駐在所の勤務員の活動
ア 派出所勤務員の活動
 派出所は、事件、事故等警察事象が比較的多い都市部の地域に設置されており、原則として1当務3人以上の交替制勤務の警察官によって運用され、一定の地域を受持ち区域(所管区)とし、その地域の第一次的な治安維持機関としての機能を果たしている。
 派出所の勤務員は、派出所を拠点として、24時間警戒体制を保持しながら、昼夜を問わず発生する各種の警察事象に迅速に対応してこれを処理し、また、事件、事故の発生を予防する絶え間ない活動を行っている。
 派出所勤務員の基本的な勤務は、立番、見張り(派出所の周辺を警戒したり、拾得届等の受理、地理案内等を行う活動)や警ら(パトロール)、巡回連絡(所管区内の家庭、事業所等を訪問し、地域住民の要望や意見を汲み取ったり、事件事故の防止等について必要な連絡を行う活動)から成り、また、突発的に発生する重大事件に際して実施される緊急配備活動等に従事している。
 さらに、派出所の勤務員は、地域住民の要望にこたえ、非番日や休日を利用するなどして、少年剣道教室の指導や公民館活動を積極的に行っている。
 警察では、派出所の勤務員の街頭活動の時間をできるだけ確保し、しかも地域住民が派出所を訪れたときに派出所が不在であることがないよう、人員配置や勤務時間割の見直しを行い、隣接派出所、パトカー等との連携を強化している。
イ 駐在所勤務員の活動
 主として町村部に設置されている駐在所においては、警察官が、勤務場所と同一の施設内に居住しながら、地域の治安の第一次的な責任者として常時警戒に当たるとともに、勤務時間内はもとより、それ以外の時 間においても突発的に発生する事件、事故、急訴、住民の要望等に素早く対応している。
 駐在所の勤務員は、所管区内で発生するあらゆる警察事象に対応し、パトロール、巡回連絡、交通指導取締り、急訴事案の処理等を行っているため、駐在所を不在にすることが多い。こうした勤務員の不在時には、その夫人が、本来勤務員が行うべき業務である地理案内、遺失、拾得届の受理、交通事故届、被害届の取扱い等を行い、勤務員を助けている。
 また、駐在所の勤務員は、警察官であると同時にその地域の構成員であり、地域のコミュニティー活動の推進者等として、これに積極的に参加している。
(2) 地域の実情に即した地域警察活動
ア 地域を守る派出所、駐在所
(ア) 派出所、駐在所制度の沿革
 地域社会における警察活動の拠点として発足した派出所、駐在所制度

は、地域社会の移り変わりとともに変遷を重ねて今日に至っている。
 派出所は、明治7年にパトロール中の警察官が交代して立番を行う場所である「交番所」として創設されたものであるが、その後、警察署から派出された複数の警察官が、パトロールや立番等の勤務を行う拠点として施設等の整備が行われ、今日に至っている。平成3年4月現在、派出所は、都市部を中心に、全国で約6,400箇所設置されている。
 駐在所は、明治21年、警察署から遠隔の地に、特定の警察官を常駐して勤務させ、地域の治安の維持に当たらせるため設置された。平成3年4月現在、町村部を中心に、全国で約8,800箇所の駐在所が設置されている。
(イ) 地域を守る派出所、駐在所
 派出所、駐在所は、地域警察活動の拠点であるとともに、警察の総合出先機関としての役割を果たしている。
 派出所、駐在所において住民と接する活動を行う地域警察官には、常に住民から様々な困りごと相談、要望等が寄せられている。警察では、これらの要望等を警察活動に反映させるとともに、地域に溶け込む活動を推進し、住民にとって不安感が強い犯罪、交通事故に直結するおそれのある悪質、危険な違反等に重点を置いて、検挙、取締り等の活動に当たっている。
 このように、派出所、駐在所は、住民にとって最も身近な警察機関としての役割を果たしており、そのシンボルである「赤い門灯」は、地域住民や行き交う人々の安心感、のよりどころとなっている。
イ 地域住民に安心感を与える活動
(ア) 身近な相談の機会、巡回連絡
 地域警察官が巡回連絡の際に地域住民から受けた困りごと、要望、意見を事項別にみると、駐車車両、放置自転車対策、暴走族取締りに関するもののほか、パトロールの強化、独居高齢者宅への立ち寄り等の日常 生活に係る身近な問題に関するものが多くを占めている。これらの要望、意見等の多くは、地域警察官の指導、助言により解決しており、地域警察官だけでは対応できないものについては、交通、防犯、少年、刑事等の担当係と連携し、また、警察だけでは対応できないものについては、他の関係機関との連携等によって解決を図っている。
 また、警察では、巡回連絡の際に、家族構成や非常の場合の連絡先等を尋ねており、災害や事故の発生時における緊急連絡や事故防止の指導連絡等に役立てている。また、最近は、共働き等による昼間不在家庭の増加や居住者の移動の激しいアパート、マンションの増加等により、警察から住民へ連絡をすることが次第に困難になってきているため、地域警察官は、休日や夕方に巡回連絡を実施するなどして、住民とのコミュニケーションの確保を図っている。

(イ) パトロール
 派出所、駐在所の地域警察官は、無線機を携帯して常に警察署やパトカーと連携を取りながら、不審者に対する職務質問を行うなどきめ細かなパトロールを行っている。また、全国の警察本部や警察署に配置された約2,600台のパトカー、駐在所等に配置された約1,100台のミニパトカーは、管内のパトロールや警戒活動を行い、住民の日常生活において発生が予想される種々の事案に備えるとともに、事件、事故の発生時には初動措置を迅速に行うなど、「動く交番」として活躍している。
〔事例〕 3年4月、大阪市内をパトカーで警ら中の地域警察官が、  駐車禁止場所に乗用車を駐車している暴力団員風の男に職務質問したところ、男の財布の中から乾燥大麻(約1グラム)を発見するとともに、乗用車のトランク内からビニール袋に入った覚せい剤(約730グラム)を発見した。この男は、山口組系暴力団員(39)であり、覚せい剤取締法違反の現行犯として逮捕した(大阪)。
ウ 地域住民と密着した諸活動
(ア) 地域に密着した「派出所、駐在所連絡協議会」
 警察では、派出所、駐在所を単位として、居住者の移動の激しいアパート、マンション等がある地域や事件、事故等が多発している歓楽街等を中心に、「派出所、駐在所連絡協議会」の設置を進めている。この協議会は、所管区内の自治会役員やアパート、マンションの管理人、商店街の役員等の地域の代表者から構成され、地域警察官が地域の問題や警察に対する要望、意見等を聴き、また、警察からも防犯、交通安全等に関する必要な助言、指導を行い、地域ぐるみで犯罪や事故のないまちづくりを進めていこうとするものである。3年末現在、協議会は全国で5,630箇所設置されている。
〔事例〕 茨城県取手警察署A派出所では、「少年が深夜たむろして困 る」という管内住民の苦情を受け、連絡協議会員とともに少年のたまり場や犯罪被害の対象となりやすい深夜スーパー、カラオケボックス、パチンコ店に対する防犯指導を実施し、少年のたむろ防止や防犯意識の高揚に努めた。
 また、警察では、協議会が設置されていない派出所、駐在所も含めて、その所管区ごとに、地域の抱える問題の中から重要なものを一つずつ順に取り上げ、地域の住民とともに解決を図っていく「一所管区一事案解決運動」を推進している。
(イ) 駐在所のコミュニティー業務
 駐在所勤務員は、祭礼、奉仕活動等の地域行事の開催準備やこれらの行事への参加、駐在所を訪れる地域住民との交際、スポーツ、趣味等を通じた住民との交流、地域住民が自主的に行う交通安全運動、防犯活動等への参加等地域コミュニティー業務を積極的に行っている。
 地域コミュニティー業務は、駐在所の業務の中でも特に重要な位置を占めるもので、駐在所の活動にとって必要不可欠のものである。駐在所がこうした地域コミュニティー業務をより効果的、かつ、きめ細かに推進していく上では、勤務員だけでなくその夫人がこれに協力し、家族ぐるみで各種行事に参加していることが大きなささえとなっている。
(ウ) 独居高齢者等に対する保護活動
 3年末現在、地域警察官が巡回連絡等を通じて把握している65歳以上の独居高齢者は約93万人で、このうち、事件、事故等の被害者になりやすいなどの理由で、地域警察官がパトロール等の機会を利用して努めて立ち寄ることとしている要保護独居高齢者は約14万人となっている。また、夫婦又は兄弟姉妹だけで暮らしており、近所に近親者が住んでいないなど、犯罪や事故等の被害に遭いやすいと考えられる65歳以上の二人暮らしの世帯は約6万世帯となっている。
 警察では、これらの高齢者が安心して暮らしていくためのささえとして、巡回連絡等の際に高齢者世帯を計画的に訪問し、必要に応じて、防犯指導、困りごと相談、緊急、時における連絡方法の指示、関係機関や親族への連絡等の活動や保護活動を推進しているほか、高齢者が困りごと等について気軽に相談できるように、担当警察官の氏名を知らせるなど、親しみの持てる応接に努めている(なお、長寿社会総合対策については2(2)参照)。
〔事例〕 宮城県泉警察署A駐在所のB巡査部長とC巡査長は、日ごろから積極的に管内の独居高齢者世帯に対する定期的な訪問を実施していたが、パトロール中に77歳の独居高齢者宅を訪問した際、玄関から声を掛けても返事がなかったので屋内に入ったところ、同人が寝室で倒れ、意識不明となっているのを発見した。直ちに救急車を手配するとともに、関係者に連絡等を行い、病院への入院手続に当たったため、同人は一命をとりとめることができた。
(エ) 祭礼、各種イベント等の雑踏警備活動
 警察では、祭礼等伝統行事だけでなく、最近のレジャー、スポーツブー

ムに伴って頻繁に開催される各種スポーツ大会やイベント等に際し、多数の地域警察官を動員し、交通整理、小暴力事案の監視、迷い子や酔っ払いの保護、救護等の雑踏警備活動を行い、地域住民が安心してこれらの行事を楽しめるよう努めている(なお、雑踏警備活動については第7章2参照)。
(オ) 遺失物の取扱い
 遺失物を早期に発見し、これを速やかに返還するための遺失、拾得届の受理業務は、派出所、駐在所の警察官が行う重要な業務の一つである。
 3年に警察が取り扱った遺失届は約290万件で、このうち通貨は約534億円、物品は約631万点であり、また、拾得届は約409万件で、このうち通貨は約185億円、物品は約889万点であった。拾得届のあった金品のうち、通貨については約72%、物品については約26%がそれぞれ遺失者に返還されている。最近5年間における遺失物の取扱状況は、図2-1のとおりである。
 遺失、拾得届は年間約699万件に上るため、警察では、昭和60年から、

図2-1 遺失物の取扱状況(昭和62~平成3年)

遺失、拾得届の電算管理システムの導入を進めてきた。平成3年末現在、全国の26都道県警察において遺失、拾得届の電算管理システムが運用されており、その他の府県警察でも同様のシステムの開発を予定している。
 遺失、拾得届の処理が電算化された結果、新たになされた遺失、拾得の届出に対応する拾得遺失の届出の検索が容易になり、遺失物の迅速な回復が図られている。また、従来、手作業に依存していた遺失、拾得届の取扱いの省力化が進められることにより、業務のより一層の迅速、確実化、ひいては住民サービスの一段の向上を図ることが可能となった。
(力) 地域の身近な話題を伝える「交番新聞」
 全国の派出所、駐在所の約97%に当たる約1万4,700所で、それぞれ独自にミニ広報紙を発行している。これらの広報紙は、派出所、駐在所の警察官の手作りによるもので、管内の事件、事故等の発生状況とその防止策、善行児童の紹介、住民の声等身近な話題を伝える「交番新聞」として広く地域住民に親しまれており、単に警察と地域住民を結ぶものとしてだけではなく、地域住民相互の心のふれあいの場として大きな役割を果たしている。

(3) 地域警察活動と住民の意識
 (財)社会安全研究財団では、派出所、駐在所が地域住民にとってどのような在在であり、また、地域住民が派出所、駐在所に対しどのような要望、期待を持っているかを明らかにし、警察行政に必要な提言を行い、住民の意識に沿った派出所、駐在所の設置、運営に役立てるため、平成元年12月から2年12月にかけて、関東及び関西地区の住民1,782人(有効回答が得られた人数)を対象に意識調査を行い、その結果を3年3月にまとめた。
 調査結果は、次のとおりであった。
 住民が自宅の最寄りの派出所、駐在所をどのように認知しているかについては、表2-1から表2-3のとおりであり、住民にかなり知られているといえるが、「入り口の戸を締めている」等の理由から、気軽に利用できないと答えた者も16.0%存在している。

表2-1 自宅の最寄りの派出所、駐在所がどこにあるか知っているか

表2-2 派出所、駐在所を気軽に利用できるか

表2-3 派出所、駐在所を気軽に利用できる理由及び利用できない理由(複数回答で各2位まで)

 派出所、駐在所の利用経験やその時の状況等については、表2-4から表2-9のとおりであり、派出所、駐在所利用時の警察官の応対は、地域住民からある程度「良い」と受け取られている。しかし、問題点としては、派出所、駐在所を利用しようとした際に勤務員が不在だったことがあると答えた者が37.7%とかなり多いことが指摘される。また、駐在所の警察官の不在時には、夫人が積極的に対応していることがわかる。

表2-4 自宅の最寄りの派出所、駐在所を利用したことがあるか

表2-5 自宅の最寄りの派出所、駐在所を訪れた用件(複数回答で5位まで)

表2-6 派出所、駐在所利用時の勤務員の態度の評価

表2-7 派出所、駐在所を訪れたとき勤務員が不在だったことがあるか

表2-8 駐在所勤務員の夫人に応対を受けたことがあるか

表2-9 駐在所勤務員の夫人の応対の内容

 派出所、駐在所に対する住民の要望は、表2-10から表2-16のとおりである。これらをみると、「派出所、駐在所にできるだけ在所してほしい」というのが最も多く、特に在所を希望する時間帯としては、夜間ないし深夜を希望する者が多い。また、警察官の在所を希望する地域住民が多い一方で、夜間のパトロールを希望する者も少なくない。
 また、派出所と駐在所の比較では、派出所の方がよいと思う者の中で

表2-10 派出所、駐在所に対する要望(自由記述、上位10位まで)

は、理由として「いつも警察官がいる。複数で安心」を挙げるものが多く、また、駐在所の方がよいと思う者の中では、理由として「家族を含めいつも誰かがいる。常に同じ警察官で親しみやすい」を挙げるものが多くなっている。

表2-11 派出所、駐在所の役割(在所か、パトロール重視かの二者択一)

表2-12 警察官が交番にいてほしい時間帯

表2-13 警ら(パトロール)に対する要望

表2-14 派出所と駐在所のどちらがよいと思うか

表2-15 派出所の方がよいと思う理由(自由記述を分類)

表2-16 駐在所の方がよいと思う理由(自由記述を分類)

(4) 地域警察活動の充実
ア 派出所、駐在所の機能充実
(ア) 地域責任の明確化
 従来、派出所や駐在所の警察官が行う活動(地域警察活動)は、外勤警察活動(警察署外で主として制服警察官により行われる警察活動)と呼ばれてきた。しかし、最近の社会情勢の変化に伴い、住民の多様なニーズに必ずしも十分にこたえていない面があった。
 そこで、平成4年4月、警察庁では、外勤課を地域課に改め、新たに「地域警察運営規則」を制定し、派出所、駐在所が所管する各地域における治安維持責任(地域責任)を持つべきことを明確にすることによって、派出所、駐在所を地域コミュニティーにおける生活安全センターとして位置付けることとした。
 また、一部の派出所、駐在所では、その一角にコミュニティールームを設けるなどして、地域住民が気軽に派出所、駐在所を訪れることができるよう配意している。

(イ) 派出所長制度
 派出所は、交替制勤務であるため、「派出所に連絡、届出をしても、昨日と今日とで勤務する警察官が異なっていて不便である」といった声が少なくない。警察では、こうした苦情を解消し、地域住民に密着した警察活動を推進するため、交替制勤務員を統括する派出所長の配置を推進している。
 派出所長は、日勤制の勤務を行うことにより、派出所の勤務員全員を監督し、交替制勤務制から生じる事務引継ぎの不徹底等の問題を解消するとともに、みずからパトロール、巡回連絡等地域に溶け込んだ活動を行い、派出所の地域責任を果たしていこうとするものである。
 派出所長制度は、4年3月から、全国の16府県警察で実施されている。
(ウ) 派出所、駐在所の不在時対策
 住民が、事件、事故に関する急訴や困りごとについての相談のため派出所、駐在所を訪れても、派出所、駐在所の勤務員の数は必ずしも十分 なものではなく、また、パトロール等の所外活動を行っていることも多いことから、派出所、駐在所に勤務員が不在となることも多い。このため、警察では、勤務員の不在時対策の一つとして、通信装置やコンピュータ端末等を利用して、警察官の行う派出所、駐在所の業務を代行、支援させるハイテク交番の導入を進めている。
 これらハイテク交番には、テレビ電話を利用して警察署にいる警察官との応対を可能にするもの(大阪、香川)、ボタン操作により住所や目標を入力すれば地理検索ができる地理案内装置等を導入しているもの(大阪、大分)などがあり、警察官の不在時でも来訪者の要望にこたえられるよう配慮されている。
 ハイテク交番は、3年末現在、5府県警察の7派出所において導入されており、今後大幅に拡大することとしている。

(エ) 小型警ら車(ミニパト)の整備
 警察では、派出所、駐在所が広域化、スピード化する犯罪に対処して所管区内における犯罪に対する監視力、抑止力を高め、よりきめ細かな警察 活動を行うための機動力を強化する必要があることから、今後パトカー等の整備を進めていくこととしている。
 特に、駐在所は、警察署から遠隔の地にある上、管轄面積が広いことが多く、警察署との連絡や所管区内のパトロールには機動力を有する車両が不可欠である。このため、当面、警察署から遠隔地にある駐在所を中心にミニパトを配車することとし、3年度から5箇年計画で整備を推進している。
イ 国際的にも注目を集める派出所、駐在所
 派出所、駐在所を中心とした地域警察活動は、我が国の良好な治安をささえる大きな要素として、広く海外からも関心が寄せられており、中には、我が国に倣って新たに派出所制度を導入した国もある。このため、警察庁では、諸外国からの視察団等を受け入れ、我が国の地域警察の制度、活動状況等を紹介し、地域警察関係者の国際的な交流に努めている。3年には、13箇国からの視察団を受け入れた。
 特に、アジア諸国においては、我が国の派出所、駐在所制度に対する関心が強いことから、警察庁では、アジア諸国において地域警察その他の外勤警察活動に携わる警察幹部を対象とした「アジア地域外勤警察セミナー」を開催している。このセミナーでは、我が国の派出所、駐在所制度や最新の科学技術を活用した通信指令システム等を体系的に紹介し、我が国の地域警察活動の中で培われた情報、ノウハウを参加各国に提供するとともに、参加各国の警察事情についての認識を深め、アジア諸国の外勤警察関係者の交流を広げている。3年には、ASEAN諸国をはじめとする8箇国から16人を招請した(なお、第10章参照)。

2 地域に根ざした警察活動

(1) 国民の立場に立った相談業務の推進
 警察では、困りごと相談、少年相談、消費者被害相談、覚せい剤相談、民事介入暴力相談、交通相談等各種の相談業務を行っており、これらの相談に対しては、助言、指導等必要な措置を講じている。警察では、相談受理体制等の整備を進めるとともに、相談者の利便とプライバシーに配意した適切な相談業務の推進に努めている。
ア 総合相談室
 警察では、従来、相談の種類ごとに窓口を設置し、相談業務の充実を図ってきたが、その反面、窓口が多数になり、相談者にとってわかりにくいという問題が生じてきたため、窓口を一本化した総合相談室を警察本部に設置している。
 また、国民からの電話による各種の相談についても、これまでは「ヤング・テレホン・コーナー」、「悪質商法110番」、「困りごと110番」等、相談の種類ごとに各種の相談専用電話を設置して、これに応じてきていたが、相談者の利便を図るため、警察本部の総合相談室に全国統一番号の相談専用電話「#(シャープ)9110番」を設置した。これにより、プッシュホン電話で「#9110」を押せば、警察本部の総合相談室に相談ができるようになっている。
イ 困りごと相談
 平成3年における困りごと相談の受理件数は18万7,573件で、前年に比べ1,981件(1.1%)増加した。また、3年に受理した困りごと相談の内容は、表2-17のとおりで、防犯問題が最も多く全体の31.5%を占めている。また、前年に比べ民事問題は4,885件(16.6%)増加した。3年における困りごと相談の処理状況は、表2-18のとおりである。

表2-17 困りごと相談の内容(平成3年)

表2-18 困りごと相談の処理状況(平成3年)

(2) 長寿社会総合対策の推進
 警察では、犯罪や事故からの「高齢者の保護」、防犯運動や交通安全運動等への「高齢者の社会参加」を二本柱とする「長寿社会総合対策要綱」により、地域の実情に応じた長寿社会対策を推進している。
 また、都道府県防犯協会、地区防犯協会等でも、高齢者部会を設けるなど、高齢者の保護と社会参加を高齢者自身の立場から推進するための活動を行っている。
ア 高齢者の保護
 警察では、高齢者を犯罪や事故から保護するため、巡回連絡等を通じて高齢者宅を訪問し、その実態を把握するとともに、防犯指導を行っている。また、シルバーデー、独居高齢者宅訪問日等を設定して、計画的、集中的に巡回訪問等の活動を行っているほか、各種パンフレットの配布、老人クラブや老人ホーム等における防犯教室、防犯講習会の開催等積極 的な活動を行っている。
イ 高齢者の社会参加の推進
 警察では、高齢者の生きがいを醸成し、地域の連帯感や相互扶助機能の強化を図るため、高齢者による地域に密着した自主防犯活動、環境浄化活動等の社会参加活動を促進しているほか、防犯協会の役職員、防犯連絡所責任者、少年補導員等の選任に当たっても高齢者への委嘱に配意している。
 また、警察では、世代間の交流を通じ、高齢者がその知識と経験を生かして青少年健全育成活動に当たるための様々な行事等を行っている。
ウ 長寿社会対策パイロット地区活動
 警察では、長寿社会対策の効果的な推進を図るため、昭和62年度から、高齢化が進んでいる地域90地区を「長寿社会対策パイロット地区」に指定している。これらの地区においては、関係機関、団体等と連携して、犯罪や事故の被害者となりやすい高齢者を対象とした防犯座談会、防犯教室等を開催し、犯罪や事故の防止について啓発を行うとともに、希望者を募り、防犯運動、交通安全運動等の地域に密着した活動への参加を促進している。
(3) 様々な保護活動
 警察では、個人の生命、身体を守るため、応急の救護を要する者等について、次のような保護活動を行っている。
ア 酔っ払い、迷い子、精神錯乱者等の保護
 最近5年間に酔っ払い、迷い子、精神錯乱者等を保護した状況は、表2-19のとおりである。
 平成3年の被保護者に対する措置の状況をみると、家族、知人等に引き渡した者が66.9%と最も多く、保護の必要がなくなって保護を解除した者が25.5%、医療機関、福祉施設等の関係機関に引き継いだ者が7.6%

表2-19 酔っ払い、迷い子、精神錯乱者等の保護の状況(昭和62~平成3年)

となっている。また、保護した精神錯乱者のうち、精神障害のために自身を傷つけ、又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めて知事に通報したものは3,574人、保護した酔っ払いのうち、アルコールの慢性中毒者又はその疑いのある者であると認めて保健所長へ通報したものは1,246人である。
イ 家出人の発見、保護
(ア) 減少した家出人捜索願の受理件数
 警察では、家出人の生命、身体の安全の確保を図り、家族等の期待にこたえるため、その早期発見、保護に努めている。3年における家出人捜索願の受理件数は8万8,584件で、前年に比べ1,924件(2.1%)減少した。最近5年間の家出人捜索願の受理件数の推移は、表2-20のとおりである。
 また、犯罪に巻き込まれ、又は自殺するおそれ等がある家出人については、これを特異家出人として受理し、特に迅速な発見、保護に努めているが、3年の件数は、全捜索願受理件数の14.5%を占めている。
(イ) 多い職務質問等による発見

表2-20 家出人捜索願の受理件数の推移(昭和62~平成3年)

表2-21 家出人の発見の端緒別状況(平成3年)

 3年の家出人の発見数(捜索願未受理の家出人を発見した場合を含む。)は9万521人で、前年に比べ2,378人(2.6%)減少した。このうち、特異家出人の発見数は1万2,411人であった。家出人の発見の端緒別状況は、表2-21のとおりで、自ら帰宅した者を除くと、例年同様、警察官の職務質問等によるものが19.9%と最も多い。
 なお、家出人の大部分は、無事に帰宅し、又は発見されている一方、家出中に自殺した者が1,625人(1.8%)、犯罪を犯した者が1,296人(1.4%)、犯罪の被害者となった者が157人(0.2%)となっている。
(4) 住民と警察を結ぶ音のかけ橋、警察音楽隊
 警察音楽隊は、皇宮警察と各都道府県警察に48隊が置かれており、隊員は約1,800人である。そのほとんどの隊が、婦人警察官、交通巡視員等の婦人警察職員から成るカラーガード隊を編成している。

 隊員の多くは、警察業務に従事するかたわら、勤務の合間や非番の日を利用して訓練を重ね、警察が主催する交通安全運動や防犯運動等の行事に出演しているほか、小、中学校等における音楽教室での演奏、福祉施設やへき地での慰問演奏、昼休み時間を利用したコンサート等地域住民に親しまれる演奏活動を行っている。平成3年には、全国各地で約5,000回の演奏活動を実施し、聴衆の数は延べ約2,200万人に達した。
 また、3年6月には、東京都において第36回全国警察音楽隊演奏会が行われ、全国から36隊、約1,600人が参加して、フロアードリルや合同演奏を行い、都民との交流を深めた。

3 事件、事故に即応する警察活動

(1) 国民に定着した110番
 警察では、事件、事故等が発生した際に、国民からの通報を迅速に受け付け、的確に対応するため、通信指令システムを設けているが、この中で 重要な役割を果たしており、国民の安心感のよりどころとなっているのが「110番」である。
ア 110番通報の現況
 平成3年に全国の警察で受理した110番の件数は約469万件で、前年に比べ約22万件(4.8%)増加した。これは、6.7秒に1回、国民26人に1人の割合で利用されたことになる。過去10年間の110番受理件数の推移は、表2-22のとおりである。

表2-22 110番受理件数の推移(昭和57~平成3年)

 また、警察では、毎年1月10日を「110番の日」と定め、国民に対して、110番の一層有効かつ積極的な利用を呼び掛けている。
イ 通信指令システムの概要
 110番通報その他事件、事故の発生時における国民からの緊急通報を迅速かつ集中的に処理するため、警察では、都道府県警察ごとに通信指令室を設けている。
 3年4月1日現在、全国の警察署の84.4%に当たる1,055警察署の管轄区域内で、110番通報すると自動的に警察本部の通信指令室につながるようなシステムになっている(110番集中地域)。110番集中地域以外では、110番通報すると所轄の警察署につながるようになっている。
 通信指令室では、110番通報を受理すると、直ちにパトカーや派出所、駐在所の警察官を現場に急行させるとともに、必要に応じて緊急配備の発令、他の都道府県警察本部への通報等を行い、警察官を迅速かつ組織的に動員することにより、人命の救助、犯人の早期検挙等に努めている(図2-2)。

図2-2 通信指令システム

ウ リスポンス・タイム
 通信指令室が110番通報を受理してから警察官が目的地に到着するまでの所要時間をリスポンス・タイムというが、3年の110番集中地域におけるリスポンス・タイムの平均は5分49秒であった。刑法犯事件に関するリスポンス・タイムと現場における犯人検挙との関係をみると、表2-23のとおりで、リスポンス・タイムが短ければ短いほど、現場で犯人を検挙する確率が高くなっている。

表2-23 110番集中地域におけるリスポンス・タイムと現場における検挙状況(平成3年)

 しかし、交通事情の悪化、建物や住宅構造の複雑化等様々な要因により、リスポンス・タイムの短縮は年々困難となっている。こうしたことから警察では、パトカーの分散配置等を進めるとともに、通信指令室に最新の科学技術を活用した設備を導入することによって、リスポンス・タイムの短縮に努めている。
 各都道府県警察では、通信指令室に地図自動現示システム等を導入し、事案発生場所を早急に把握するとともに、コンピュータを導入することにより各種情報の処理、伝達の迅速化、県内ネットワークによる関係機関への円滑、迅速な指令体制の整備等高度な機能を持つ通信指令システムの構築に努めている。また、パトカーの活動状況が容易に把握できるシステム等警察の各活動単位を組織的に管理し、有効に活用できるシステ

図2-3 緊急通報機能付防犯電話システム

ムの導入も図っている。
 さらに、リスポンス・タイムの短縮を図るため、3年からは、(財)セキュリティシステム調査研究財団によって緊急、通報機能付防犯電話システム(電話器に内蔵されたボタンを押すだけで、警察本部と回線がつながり、警察本部の110番受理台に通報者の所在地等が自動的に表示される電話器)の運用が埼玉県において開始されており、110番システムの高度化への先駆けとして注目されている(図2-3)。
エ 110番誤通報等の実情
 110番通報の中には、電話番号のかけ間違いやいたずら電話等誤通報もかなり多く、事件、事故の発生時等緊急の場合における110番通報の障害となっているほか、正常な警察活動を阻害する一因ともなっている。
 3年7月に行った誤通報件数調査によると、7月の1箇月間に全国の警察本部で受理した110番通報67万5,473件中、36.4%に当たる24万6,101件が誤通報であった。調査期間中における誤通報の内訳は、表2-24のとおりである。

表2-24 110番通報中の誤通報の割合(平成3年7月)

 また、全国の金融機関等には、3年末現在6万1,324台の非常通報装置等が設置されており、非常事態発生時にボタンを押すことにより自動的に警察本部に通報されるなどの仕組みとなっている。3年中にこれら機器による非常通報として受理した1,554件のうち、押し間違いや不注意等による誤通報は1,071件で、全受理件数の68.9%に上っている。
 警察では、広報活動を行い、110番の正しい利用について広く国民に呼び掛けるとともに、非常通報装置を設置している金融機関等に対して誤通報防止のための指導を行っている。
(2) 水上警察活動
 近年、レジャー人口の増加とレジャースポーツの多様化が水上(海上及び内水面をいう。)にも広がり、水上オートバイ、モーターボート、スキューバダイビング等に伴う事故や釣り船の転覆事故等が増加している。また、海上からの覚せい剤、大麻等の密輸入事犯等海上犯罪の動向も楽観を許さない。
 警察では、水上における国民の生命、身体及び財産の保護、水上犯罪の予防、鎮圧及び捜査、水上における被疑者の逮捕、交通の取締りその他公共の安全と秩序の維持に当たるため、全国の水上警察署、臨港警察

表2-25 水上警察活動に伴う犯罪検挙、保護等の推移(昭和62~平成3年)

署をはじめ、主要な港湾、離島、河川、湖沼等を管轄する132警察署に警察用船舶203隻を配備し、パトカーや警察用航空機と連携して、パトロール等警戒、警備活動や各種事件、事故等の検挙、取締り等に当たるとともに、訪船等による安全指導を積極的に行っている。最近5年間の水上警察活動に伴う犯罪検挙、保護等の推移は、表2-25のとおりである。
 東京湾、大阪湾等においては、東京湾横断道路、関西国際空港等大規模なプロジェクトが計画又は実施されているが、これらのプロジェクトについては、海上交通関係法令の遵守等について関係者に周知、指導を行うとともに、警察用船舶による警戒活動を実施して、海上交通の安全確保に努めている。
 また、海、河川、湖沼等における水上交通の安全確保のため、現在、

東京都等一部の都道府県において制定されている「水上安全条例」についてその見直しや制定を促している。
 さらに、海上における広域事案に的確に対処するため、平成3年には、広島県及び香川県の海上(瀬戸内海)で警察用航空機との連携による警察用船舶の広域運用訓練を実施するなど、警察用船舶の広域運用のための基盤づくりに努めており、今後、警察用船舶の大型化、高速化及び装備資機材の高度化等を行い、海上における警戒力の強化を推進するなど水上警察体制を更に充実、強化することとしている。
(3) 鉄道警察隊
 近年における鉄道利用の通勤距離の増大、国民のレジャー志向の高まり等により、鉄道利用者は増加の一途をたどっており、それに伴い、駅、列車内等の鉄道施設内における犯罪も増加傾向にある。このようなことから、鉄道施設内における治安の維持に当たっている鉄道警察隊の任務はますます重要なものとなっている。
 鉄道警察隊は、鉄道沿線を管轄する警察署と連携を図りながら、駅構内においては、警ら、立番等を通じて、すり、置き引き等の犯罪の予防、検挙、少年補導、迷い子、家出人の保護、地理案内等の活動を行っている。また、列車内においては、主要な鉄道路線の犯罪発生状況の分析結果に基づき、新幹線や在来線の特急.寝台列車等を重点に警乗を行い、盗難、迷惑行為等の予防、検挙、少年補導、要保護者の保護等を行うとともに、旅客に対して犯罪や事故防止に必要な指導等に努めている。
 さらに、置き石等による列車妨害や踏切事故等の鉄道事故を未然に防止するため、鉄道沿線の警戒警備や踏切における交通指導取締りを実施しているほか、沿線住民に対する事故防止の指導、広報や幼稚園児、小学生等を対象とした交通安全教室の開催等の活動を行っている。
 鉄道施設内の治安を維持していくためには、鉄道事業者との連携、協力が不可欠であることから、警察では、鉄道事業者との連絡協議会を設置し、定期的に会議を開催するなどして、事件、事故発生時における迅

速な通報や採るべき措置等について連絡を密にするとともに、列車事故を想定した共同訓練を行うなど、鉄道事業者と一体となった諸対策を講じている。
〔事例〕 平成3年10月、JR駅構内のポイントに石を詰める悪質な鉄道妨害事案が連続して発生した。鉄道警察隊は、所轄警察署と協力して張り込み捜査を行い、石を線路上に積み重ねている男(31)を発見したため、電汽車往来危険罪の現行犯で逮捕した(埼玉)。
(4) 警察用航空機の活動
 平成3年末現在、警察用航空機は、各都道府県警察に計62機配置され、機動性、高速性、広視界性という利点を最大限に活用し、空からのパトロールを通じた交通情報の収集、公害事犯、密漁事犯の監視等を行っている。
 また、事件、事故等が発生した場合は、通信指令室からの指令に基づき、速やかに現場に出動し、パトカー等の警察官と連携して、空からの事件、事故等の状況把握、犯人の捜索、追跡等の捜査、被災者等の救難救助等、事件、事故に即応した活動を行っている。
 3年中における警察用航空機の警ら活動での出動回数は約9,450回であり、犯罪検挙等に大きな成果を挙げている。また、山岳遭難や水難等の救難救助活動では、約700回出動し、約200人を救助している。
〔事例〕 9月、台風による集中豪雨のため堤防が決壊し、濁流に流された女性(39)が道路標識につかまって救助を求めているとの110番通報があり、陸上からの救出が困難であったため、航空機が出動し、同女を機上からつり上げて救助した(愛知)。
 警察では、広域的な事件、事故等に対応し、より機動的な捜査活動、救難救助活動等を行うため、警察用航空機の増強配備や大型化、装備資機材の整備充実、パイロットを対象とした外国での実地訓練による高度

技術の取得等に努めるとともに、パトカー、警察用船舶との連携を強化した警察用航空機の効率的運用の強化を推進することとしている。

4 犯罪のない社会を作り上げるための施策

(1) 防犯運動の推進
ア 防犯広報、防犯診断、防犯指導
 警察では、テレビ、ラジオ等のマスメディアの利用、映画、ビデオの活用、パンフレット等の配布等により、防犯広報を積極的に実施しているほか、侵入盗等の多発が予想される地域の家庭、事業所等を訪問し、家屋等の窓、出入口等について防犯診断を行い、防犯上必要な改善を促すなどの防犯指導を実施している。
 また、(財)全国防犯協会連合会及び各都道府県防犯協会の協力を得て、最新の防犯機器、システムを搭載した防犯キャラバン車を活用し、効果 的な防犯指導を実施するとともに、地域における防犯意識の高揚を図っている。
イ 防犯協会、防犯連絡所の活動
 防犯協会は、地域における防犯活動の担い手であり、警察と協力して、地域における犯罪の予防、社会環境の浄化等犯罪のない安全なまちづくりのための活動を行っている。最近は、少年非行、覚せい剤等薬物の乱用が全国的な広がりをみせていることから、少年の非行防止と健全育成を目的とした活動、覚せい剤等薬物の乱用の防止を目的とした活動を積極的に展開している。
 また、防犯連絡所は、地域における民間の自主防犯活動の拠点として、平成3年末現在、全国で72万8,911箇所(56世帯に1箇所)設置されており、事件、事故の通報、防犯座談会の開催等の活動を行っているほか、警察や防犯協会が作成した資料を住民に配布するなど、警察と住民とのパイプ役を果たしている。
 警察では、地域における防犯活動の活性化を促進するとともに、警察の行う防犯対策と地域における防犯活動との有機的な連携を図るため、防犯協会及び防犯連絡所の体制の強化、犯罪情勢に応じた効果的な活動を行うための助言、指導等を行っている。
ウ 職域防犯団体の活動
 警察では、犯罪の被害を受けやすい業種、犯罪の場となり、又は犯罪のため利用されやすい業種、防犯活動や捜査活動に対して組織的な協力を行うことができる業種等について、それぞれ職域防犯団体の結成を呼び掛け、これらの組織による自主防犯活動の活性化を図っている。3年末における職域防犯団体の結成状況は、表2-26のとおりである。
 警察では、これらの団体に対し、研究会の開催、資料の配布等を通じて、業種に応じた防犯対策等についての助言や協力を行い、活動の促進 を図っている。

表2-26 職域防犯団体の結成状況(平成3年12月)

エ 全国防犯運動の実施
 3年の全国防犯運動は、暴力団が平穏な市民生活や健全な経済活動を脅かしていること、低年齢層の少年による非行や、万引き、オートバイ盗等の初発型非行が多発し、依然として高水準で推移していることやオートバイ盗、自転車盗が近年増加の一途をたどり、刑法犯の認知件数を増加させる一因となっていることなどにかんがみ、暴力追放(暴力団の排除)、少年の非行防止及びオートバイ盗、自転車盗の防止を全国統一重点として、10月11日から20日までの10日間実施された。運動期間中、全国各地で暴力団排除活動、暴力追放宣言の決議、少年補導、有害環境浄化活動、オートバイ、自転車の防犯診断、自転車防犯登録の促進等が積極的に展開され、地域、職域における防犯意識の高揚に大きな役割を果たした(なお、暴力団排除活動については第1章第5節2参照)。
(2) 防犯技術の研究、活用
ア 優良な防犯機器の普及、推奨
 侵入盗等に対する自主防犯体制の整備、充実のためには、優良な防犯機器の普及が重要であるが、近年広く利用されている防犯警報機やホー ム・セキュリティ・システムは、誤報が多いなどの問題点もある。
 警察では、防犯機器の性能の向上と普及に資するため、優良な機器の研究、開発を関係業界等に働き掛けているほか、(社)日本防犯設備協会等と連携して、その性能に関する自主基準づくりや、防犯機器の設置を行う者の技能向上を促進している(注)。
(注) 平成4年1月、「防犯設備の設置及び管理に関する知識及び技能の審査・証明事業認定規程」に基づき、(財)日本防犯設備協会が行う「防犯設備士制度事業」を奨励すべきものとして認定した。
 また、(財)全国防犯協会連合会では、優良な防犯機器の普及を図るため、優良住宅用開き扉錠の型式認定制度を実施し、優良な住宅用開き扉錠を広く一般に推奨している。
イ 安全なまちづくり
 警察では、(財)都市防犯研究センター等の研究機関と協力して、犯罪が行われにくいまちづくりのため、環境設計による防犯対策に関する調査研究等の活動を進めており、その成果を基に、地域開発等の場において防犯的な視点からの提言を行っている。
〔事例〕 警察で作成した「犯罪のない街づくりのための提言」のうち、効果的に設置された防犯灯、合わせガラスや二重ロック等を用いた窓や扉、敷地内の死角を減らす生け垣又は透視可能な低いフェンス、侵入の足場とならない車庫、物置等の配置等を戸建て住宅地の開発に取り入れた防犯モデル団地づくりを指導している(福島)。
(3) 最近の犯罪発生状況に対応した防犯対策
ア 侵入盗等の防止対策
 警察では、住民に強い不安感を与える侵入盗の発生を防止するため、侵入盗の発生が多い地域を中心に、昭和52年から「盗犯防止重点地区」を指定しており、平成3年は、全国で386地区(警察庁指定85地区、都道 府県警察指定301地区)を指定した。これらの地区においては、地区住民の代表、民間防犯団体の役員、警察署の幹部等で構成される推進協議会が設置され、地域住民と警察とが一体となった盗犯防止のための活動が進められている。
イ 自動車盗の防止対策
 近年、盗難自動車が極左暴力集団のテロ、ゲリラ事件、金融機関対象強盗事件等の凶悪な事件に使用される傾向にあることから、警察では、その防止対策として、自動車のユーザーに対する「キー抜取り、ドアロック」の励行等についての広報啓発活動、自動車関係業界、駐車場管理者等に対する防犯指導等を推進している。また、(社)日本防犯設備協会と協力して盗難防止システムの研究を行っている。
ウ オートバイ盗、自転車盗の防止対策
 近年、刑法犯認知件数が増加傾向にあるが、オートバイ盗、自転車盗の増加がその大きな要因となっている。これらの犯罪は初発型非行として少年によって単純な動機で安易に行われることも多いため、警察では、その防止対策を重視し、自転車防犯登録の促進、駐輪場の整備拡大に関する関係機関への働き掛け等の諸対策を推進している。また、(社)日本防犯設備協会と協力して、ハンドルロックの強化等オートバイの盗難防止対策について検討を行っている。
エ 金融機関等における防犯対策
 3年における金融機関対象強盗事件の発生件数は116件で、前年に比べ23件(24.7%)増加した。このような事件は、模倣性が強く、続発するおそれがあるだけでなく、社会的影響も大きいことから、警察では、金融機関との連絡会議を開催しているほか、金融機関の営業所に対する防犯診断や防犯パトロール等の際に、「金融機関の防犯基準」に基づき防犯指導を行っている。また、(財)日本防災通信協会等と協力して、管理体 制、防犯設備の充実を促進している。
 金融機関の防犯設備の設置状況は、表2-27、表2-28のとおりであり、年々設置率が高くなっている。しかしながら、金融機関によっては、依然として設置率が低いところもあり、警察では、更に防犯設備の

表2-27 金融機関の防犯設備の設置状況(平成3年10月)

表2-28 CDコーナー等の防犯設備の設置状況(平成3年10月)

設置の促進を図っていくこととしている。
 また、最近、金融機関等に設置されている現金自動支払機等内の現金をねらった盗難事件が多発していることから、警察では、これらの施設に対するパトロールを強化するとともに、現金自動支払機等の設置者、 管理者、製造会社のほか、警備業者等を交えた関係団体との連絡会議を積極的に開催し、事件の未然防止に努めている。
 なお、現金自動支払機等を対象とした盗難事件では、容易に機械が破壊されているところから、警察庁では、3年6月、「現金自動支払機(CD)等の防犯基準」を作成し、関係機関、団体に対して、これに基づいた防犯対策の強化を要請している。
オ 深夜スーパーマーケット対象強盗事件対策
 深夜スーパーマーケット対象強盗事件(午後10時から翌日午前7時までの間に営業中の店舗の売上金等をねらって敢行された強盗事件で、予備及び事後強盗を除く。)の認知件数は、元年29件、2年61件、3年93件と急激に増加している。
 地域的には、東京都、埼玉県、千葉県等の首都圏を中心に発生しているが、地方への波及傾向も認められるため、各店舗の構造、営業時間、勤務体制、防犯設備等を再点検して、業界全体の防犯意識を高めさせ、防犯体制の強化と防犯設備の充実について指導している。
力 幼児等を対象とする誘拐事件対策
 3年中は、幼児等(13歳未満)を対象とする誘拐事件の認知件数が63件と前年に比べて14件(28.6%)増加する一方、首都圏において単独で下校途中の児童に声を掛ける連れ去り前兆事案が多発するなど、地域住民に不安感を与えている。警察では、不審者を発見した際には直ちに警察へ通報するよう呼び掛ける一方、(財)全国防犯協会連合会及び各都道府県防犯協会の協力を得て、視聴覚機材を活用した巡回指導、学校、幼稚園等における指導の徹底等防犯指導の強化を図っている。


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