第8章 災害、事故と警察活動

 平成元年には、降積雪、台風による災害のほか、伊豆半島東方沖群発地震及び海底噴火等の自然災害が発生した。警察では、これらの災害に際して、各種の装備資機材を活用して、被害の未然防止と拡大防止に努め、被災者の救助に当たった。
 また、警察では、「防災の日」の総合防災訓練をはじめとする各種の訓練を行ったほか、雑踏事故、水難、山岳遭難、レジャースポーツに伴う事故等に対し、それぞれ関係機関、団体と連携して事故防止の諸対策を推進した。

1 頻発した自然災害

(1) 主な自然災害と警察活動
 平成元年における主な自然災害は、降積雪による災害(1~3月)、台風による災害(6~10月)、前線の停滞等による豪雨災害(7~9月)、伊豆半島東方沖群発地震及び海底噴火等であった。
 これらの災害に際して、全国で警察官延べ約7万8,000人が出動し、関係機関と協力して、災害情報の収集及び伝達、被災者の救出、救護及び避難誘導、交通規制等の災害警備活動を行い、被害の未然防止と拡大防止に努め、約340人に上る被災者を救助した。
 元年における自然災害による被害状況は、表8-1のとおりである。

表8-1 自然災害による被害状況(平成元年)

ア 降積雪による災害
 今冬(昭和63年12月~平成元年3月)が、全般的に暖冬少雪であったことなどから、降積雪に伴う災害は、全国で死者7人、負傷者14人、非住家損壊1棟であり、前年同期と比べて死者22人(75.9%)、負傷者146人(91.3%)、建物被害21棟(95.5%)と大幅に減少した。この災害に対し、関係道府県警察では、被災者の救出及び救護、危険箇所の点検、パトロール、交通安全の確保等の現場活動を行うとともに、独居高齢者や母子家庭に対する除雪支援活動、通学路における児童、生徒の安全指導等の幅広い雪害対策を推進した。
イ 台風、梅雨前線等による災害
 元年における台風の日本への上陸数は、5個(第6号、第11号、第13号、第17号、第22号)を数え、昭和41年以来の上陸数となった。
 これらの台風による死者、行方不明者は、63年の1人に比べて32人と激増した。さらに、前線の停滞に伴う豪雨等によって、各地で河川の氾(はん)濫、道路の損壊、崖(がけ)崩れ等による災害が発生した。これらの災害の特徴としては、崖(がけ)崩れにより車両ごと押しつぶされ15人が死亡した災害(平成元年7月、福井県)、台風による川の増水で橋が落ち、通り掛かった車両が転落し、11人が死亡、行方不明になった災害(8月、福島県)等、車両利用中の被災が目立った。
 これらの災害に対し、関係都道府県警察では、気象情報に基づき、早期に警戒体制を確立して、警察官延べ約4万1,000人を動員するとともに、ヘリコプター、警察用船舶、悪路を走行できるトライアル車等を最大限に活用し、被災者の救出、救護、避難誘導、行方不明者の捜索、交通規制等の災害警備活動を実施した。
ウ 伊豆半島東方沖の群発地震と海底噴火
 伊豆半島東方沖では、6月30日ごろから地震活動が始まり、7月4日から有感地震が多数観測されるようになり、7月9日に発生したマグニチュード5.5の地震では、建物の一部損壊や墓石の倒壊等が起こり、負傷者22人が出る被害が発生した。
 その後、それまでの群発地震とは異なる火山性微動が発生し、7月13日午後6時33分ごろ、伊東市の沖約4キロメートルで海底噴火が発生した。この海底噴火による直接の被害は発生しなかったが、住民の間では、大きな噴火に対する不安から自主避難をする者も出た。
 静岡県警察では、この海底噴火に対して、警察官約1万3,000人、トライアル部隊、ヘリコプター、パトカー、衛星通信車等を出動させて、被害の把握、情報収集、沿岸の警戒、監視、避難世帯に対する防犯パトロール、困りごと相談所の開設、広報活動等を実施して、治安の確保を図った。
(2) 災害警備対策の推進
 災害から国民を守るため、警察では、各種の災害対策を推進しているが、その中でも、大規模地震対策は、緊急かつ重要な課題である。
 平成元年も、東海地震対策のほか、南関東地域をはじめ過去に大規模な地震が発生した地域を中心に、関係機関と協力して、防災に関する各 種の行事を行い、国民の防災意識の高揚に努めた。
 9月1日の「防災の日」に、中央防災会議主催で行われた東海地震、南関東地震を想定した総合防災訓練には、地域住民約1,300万人のほか、警察庁、関係管区警察局、地震防災対策強化地域とその周辺の警察から、警察官約10万人、ヘリコプター等22機、警察用船舶25隻が参加して、東海地震の判定会招集連絡報等の受理及び伝達、情報の収集、社会的混乱の防止、交通規制、緊急輸送、被災者の救出及び救護等の各種の訓練を行った。特に、長寿社会総合対策の一環として、高齢者の避難、救出、救護訓練のほか視聴覚障害者、外国人等の情報が伝わりにくい人々を対象とした避難誘導訓練、広報訓練等を実施した。また警戒宣言が発せられた場合に混乱が予想される主要ターミナル駅等(大宮駅、吉祥寺駅等28箇所)でのパニック防止対策訓練、地震防災対策強化地域への車両の流入制限や緊急輸送路確保等の交通対策訓練に力点を置いて行った。
 その他の地域の道府県警察でも、関係機関と協力して、地震とそれに伴う津波等を想定した訓練を行い、警察官延べ約5万人、地域住民延べ約70万人が参加した。
 このほか、平成元年に、全国の都道府県警察では、風水害、火山噴火災害等の自然災害や地下街、石油コンビナート、原子力施設等における特殊災害を想定した訓練を行い、警察官延べ約4万人、地域住民延べ約20万人が参加した。
 また、警察では大深度地下利用における災害対策、南関東直下型地震対策について検討を行った。

(3) 災害と国際協力
 警察においては、海外の発展途上国における大規模自然災害の発生に際し、迅速かつ効果的な救助活動を行うため、国際警察緊急援助隊の充実に努め、携行資機材の整備、救助訓練、ヨーロッパ等海外の災害対策の現状調査等を行った。

2 雑踏警備活動

(1) 一般雑踏警備活動  平成元年に警察官が出動して雑踏整理に当たった行楽地や催物への人出は、延べ約7億6,454万人に上り、警察では、延べ約86万人の警察官を動員して、雑踏事故の防止に努めた。正月三が日の初詣の人出は、約7,544万人であり、大晦日から元旦にかけて雨に見舞われた所が多かったことなどから、前年に比べ約393万人(5.0%)下回った。また、ゴールデンウィークの人出は、約5,408万人であり、比較的好天に恵まれたことや博覧会等新規行事が各地で開催されたことなどから、前年を約606万人(12.6%)上回った。最近5年間の雑踏警備実施状況は、表8-2のとおりである。

表8-2 雑踏警備実施状況(昭和60~平成元年)

 元年の雑踏事故は16件発生し、死者5人、負傷者68人を数えた。そのうち、山車(だし)、神興(みこし)等の運行に伴うものが14件、死者5人で、また、エスカレーター事故が2件、負傷者52人(いずれも児童)であった。
 警察では、雑踏事故の防止を図るため、行事の主催者、施設の管理者等に対して、事前連絡の徹底、自主警備体制の強化、危険予防措置、施設の改善等について具体的に要請するとともに、混雑する場所等に警察官を配置して、雑踏事故の未然防止に努めたほか、すりや小暴力事犯の取締り、迷い子や急病人の保護等に当たった。
(2) 公営競技をめぐる紛争事案と警備活動
 競輪場、競馬場等の公営競技場は、全国に116箇所あり、平成元年の総入場者数は、延べ約1億1,517万人であった。警察では、公営競技をめぐる紛争事案や雑踏事故防止のため、延べ約14万6,000人の警察官を動員して警備に当たった。最近5年間の公営競技場の警備実施状況は、表8-3

表8-3 公営競技場警備実施状況(昭和60~平成元年)

のとおりである。
 元年の公営競技をめぐる紛争事案は、前年と同じ2件であり、その原因は、いずれも選手のミスに対する不満であった。警察では、競技の適正な運営を関係機関、団体に働き掛けるとともに、自主警備体制の確立、施設、設備の改善等を要請したほか、競技開催の都度、警察官を派遣して紛争事案の未然防止に努めた。

3 各種事故と警察活動

(1) 水難
ア 水難の発生状況
 平成元年の水難の発生件数は2,594件、死者、行方不明者数は1,555人、警察官等に救助された者の数は1,443人で、前年に比べ、発生件数は9件(0.3%)、死者、行方不明者数は14人(0.9%)それぞれ減少した。最近5年間の水難発生状況は、表8-4のとおりである。

表8-4 水難発生状況(昭和60~平成元年)

 水難による死者、行方不明者を年齢層別にみると、表8-5のとおりで、幼児、小学生の死者、行方不明者が減少しているのに対し、65歳以上の高齢者の死者、行方不明者が増加している点が注目される。

表8-5 水難による死者、行方不明者の年齢別状況(昭和63、平成元年)

 死者、行方不明者を発生場所別にみると、図8-1のとおりで、海と河川で全体の約7割を占めている。また、行為別にみると、図8-2のとおりで、魚とり、魚釣り中、通行中、水泳中が多い。特に、海岸等での魚釣り中あるいは散策中に高波にさらわれたり、飲酒遊泳や無謀遊泳による事案が目立った。

図8-1 水難による死者、行方不明者の発生場所別構成比(平成元年)

図8-2 水難による死者、行方不明者の行為別構成比(平成元年)

イ 水難の防止活動
 警察では、水難を防止するため、市町村、教育委員会等と連携して、水難の発生しやすい危険な場所の実態を調査し、その所有者、管理者や関係機関、団体に対し、危険区域の設定、標識の設置、安全施設の補修、整備等を促進するよう働き掛けている。特に、人出や水難の多い海水浴場では、臨時警察官派出所を設置して海浜パトロールを強化したほか、警察用船舶やヘリコプターによる監視を強化し、海水浴客に対する広報、遭難者の早期発見、救出、救護に努めている。また、関係機関、団体と協力して、保護者や児童を対象とした人工呼吸法の講習会、各種の救助訓練を実施している。
(2) 山岳遭難
ア 山岳遭難の発生状況
 平成元年の山岳遭難の発生件数は602件、遭難者数は794人で、前年に比べ、発生件数は16件(2.6%)減少したが、遭難者数は38人(5.0%)増加した。最近5年間の山岳遭難の発生状況は、表8-6のとおりである。

表8-6 山岳遭難の発生状況(昭和60~平成元年)

 近年は、登山の大衆化に伴い、幼児から中・高年齢者に至るまで幅広い年齢層の人々により、本格的な登山から山菜採り、山草観賞等を目的とした軽装のハイキングに至るまでの様々な形の登山が行われるようになった。また、登山人口が増えるに従い、登山の知識や経験に乏しい登山者も増加してきている。
 元年は、年少者や40歳以上の中・高年齢者の遭難が多発したほか、技術の未熟による転落、滑落事故や事前の準備不足による道迷い、行方不明事案等、登山に対する基本的な心構えを欠いたことによる遭難が目立った。
 また、元年に遭難した602パーティーについて、山岳会への加入状況と登山計画書の提出状況をみると、山岳会に加入していないパーティーの数は516(85.7%)、登山計画書を提出していないパーティーの数は501(83.2%)に上っている。
イ 遭難者の捜索、救助活動
 警察では、山岳警備隊等を編成し、実践的な救助訓練や研修会を実施して救助技術等の向上を図るとともに、救助用装備資機材の整備拡充を行うなど、救助体制の強化に努めている。
 元年に遭難者の救助活動に出動した警察官は、延べ約7,800人で、民間救助隊員等との協力による活動を含め、遭難者616人を救助したほか、162遺体を収容した。
〔事例〕 9月10日午後0時ころ、岩手山(裏岩手)で沢登り中の登山パーティー5人のうち、1人が高さ約8メートルの岩場から滑落し、重傷を負った。残った4人では救助が不可能であったことから、付添いの1人を残して他の3人が下山し、翌11日、警察に届出をした。届出を受けた警察では、同日10時に救助隊を編成し救助に向かったものの、折からの降雨と深い渓谷のため救出活動が難行し、同夜は 現場に露営した。翌12日現場から約200メートル下流の平坦地まで遭難者を搬出した。同日も荒天に見舞われたが、曇の晴れ間を待って救出活動を再開し、ヘリコプターの応援を得て遭難者をつり上げて救助し、病院に収容した。
 捜索、救助活動を行った警察官、民間救助隊員等は、延べ128人に及んだ。
ウ 山岳遭難の防止活動
 警察では、山岳遭難を防止するため、随時、遭難対策検討会を開催して具体的な検討を行っている。また、山岳情報、登山上の留意事項を記載したパンフレット等を登山者や関係機関、団体に配布し、注意を喚起するとともに、新聞、テレビ、ラジオ、山岳雑誌等を通じて広く国民に安全な登山を呼び掛けている。
 特に、主要山岳(系)を管轄する警察においては、登山シーズン前に関係機関、団体と協力して登山ルートの実地踏査を行い、登山道標等の点検、危険箇所の表示等を行っている。また、登山者が集中する時期には、山岳方面に向かう列車の主要出発駅において登山者に対する広報活動を行っているほか、登山口や最寄りのターミナル駅等に臨時警備派出所や指導センターを開設して、登山計画書の提出を奨励し、安全な登山のための山岳情報の提供や装備等の点検、指導を行い、さらに、山岳パトロール等の現場活動を通じて安全指導を積極的に行うなど、遭難の防止対策を強力に推進している。
(3) レジャースポーツに伴う事故
 平成元年のレジャースポーツに伴う事故の発生件数は338件、死傷者数は224人、無事救出者等の数は352人で、前年に比べ、発生件数は49件(17.0%)、死傷者数は46人(25.8%)それぞれ増加した。その発生状況は、表8-7のとおりである。

表8-7 レジャースポーツに伴う事故の発生状況(平成元年)

 警察では、このような事故の発生を防止するため、関係機関、団体に対する事故防止の呼び掛けを行うとともに、現場における指導取締りの強化を図っている。元年における事故現場への警察官の出動人員は、約2,700人であった。

 なお、元年における警察が取り扱った航空機事故、船舶事故、火災、爆発事故の発生状況については資料編 3統計資料統計8-2、統計8-3、統計8-4、統計8-5参照。


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