第6章 交通安全と警察活動

 我が国の道路交通、とりわけ自動車交通は、社会経済の発展に大きな役割を果たしてきた。また、自動車は、通勤、買物、レジャー等の移動手段として広く普及しており、自動車を所有し、運転することは、もはや現代人のライフスタイルの一部を成すに至っている。その反面、自動車交通は、交通事故はもとより、交通渋滞による都市機能の麻痺、騒音、排気ガス等の公害の発生等の問題を引き起こしている。
 特に、都市部や住宅街にまん延する違法駐車車両は、交通渋滞の大きな原因となるほか、違法駐車車両への衝突等の交通事故を引き起こし、また、緊急自動車等の通行の妨げとなるなど、国民生活に深刻な影響を与えている。
 交通警察は、自動車交通がもたらす社会的効用を最大化し、かつ、その社会的費用を最小化するために、交通規制による交通流、交通量の最適化と歩行者等の安全の確保、交通管制センターその他の交通安全施設及び交通情報提供施設の整備による都市交通機能の確保と幹線道路の円滑化、体系的な交通安全教育の推進による運転者、歩行者等の交通モラルの向上、交通指導取締りによる交通秩序の確立等の対策を多面的に講ずるとともに、街づくりや地域の開発事業に対する交通管理面からの助言等の先行的対策に積極的に取り組み、安全で円滑な道路交通の確保に努めている。

1 交通情勢

(1) 道路交通の現況
ア 車両保有台数の伸び
 我が国の自動車保有台数は、増加傾向にあり、平成元年には5,793万6,593台となっている。車種別車両保有台数の推移は、図6-1のとおりである。

図6-1 車種別車両保有台数(昭和41~平成元年)

イ 運転免許保有者数の増加
 運転免許保有者数は、昭和45年に約2,600万人であったが、59年に5,000万人を超え、平成元年12月末には5,915万9,342人となった。運転免許を取得することができる16歳以上のいわゆる運転免許適齢人口に占める運転免許保有者数の割合は、男性では約1.28人に1人、女性では約2.30人に1人、全体では約1.66人に1人となっている。運転免許保有者数の推移は、図6-2のとおりで、昭和59年以降、毎年約3%強の伸び率を示している。

図6-2 運転免許保有者数の推移(昭和50~平成元年)

 高齢化社会の進展に伴い、運転免許保有者に占める高齢者(65歳以上)の割合は年々高くなっており、45年には0.8%(21万人)であったものが、平成元年には4.2%(249万人)となっており、この傾向は、今後更に顕著になっていくものと考えられる。
(2) 大都市地域における路上駐車の状況と駐車車両衝突事故の推移
 三大都市圏(東京区部、大阪市、名古屋市)での瞬間路上駐車台数、路外駐車場スペース及びパーキング・メーター、パーキング・チケットスペースの状況は、図6-3、表6-1のとおりであり、東京区部では約19万台、大阪市では約22万台、名古屋市では約9万台の瞬間路上駐車が確認されており、このうち東京区部では86.8%、 大阪市では86.6%、名古屋市では60.0%が違法駐車である。また、これらの違法駐車を受け入れるべき時間貸し路外駐車スペースは、東京区部で違法駐車台数の38.7%分、大阪市では12.2%分にすぎず、絶対量の不足が顕著である。

図6-3 三大都市圏の瞬間路上駐車台数と違法駐車

表6-1 三大都市圏での瞬間路上駐車台数、路外駐車場スペース及びパーキング・メーター、パーキング・チケットスペース状況

 このような事情から、違法駐車がまん延しており、最近では全国的に駐車車両に衝突する交通事故が著しく増加している。駐車車両衝突事故の推移は、図6-4のとおりで、昭和54年との比較では、死亡事故件数は約2.1倍、人身事故件数は約1.5倍であり、特に駐車車両衝突による死亡事故件数の増加が著しい。こうした路上駐車車両の増大に伴う道路上の危険を排除するために、違法駐車車両の抑止に向けた抜本的な対策を図る必要がある(注)。
(注) このような対策の一つとして、第118回国会において、「道路交通法の一部を改正する法律(平成2年法律第73号)」及び「自動車の保管場所の確保等に関する法律の一部を改正する法律(平成2年法律第74号)」が成立した(2年7月公布)。

図6-4 駐車車両衝突事故の推移(昭和54~平成元年)

(3) 平成元年の交通事故発生状況
ア 概況
 平成元年中に発生した交通事故は、発生件数が66万1,363件、死者数が1万1,086人、負傷者数が81万4,832人で、前年に比べ、発生件数は4万6,882件(7.6%)、死者数は742人(7.2%)、負傷者数は6万1,987人(8.2%)それぞれ増加した。死者数は、昭和49年以降15年ぶりに1万1,000人を突破した。過去15年間の交通事故件数の推移は、図6-5のとおりである。

図6-5 交通事故件数の推移(昭和50~平成元年)

イ 死亡事故の実態
(ア) 交通死亡事故の特徴
 平成元年の交通事故の特徴は、
[1] 若年者(16~24歳)、高齢者(65歳以上)の死者数が過半数を占めていること
[2] 自動車乗車中の死者数が増加したこと
特に、高齢者の自動車運転中の死者が著しく増加していること
[3] 高齢者を中心に自転車乗用中の死者数が増加したこと
[4] 週末と夜間の死亡事故が増加したこと
[5] シートベルト非着用死者が増加したこと
等が挙げられる。
(イ) 状態別、年齢層別にみた交通事故死者数
 元年の交通事故死者数を状態別にみると、自動二輪車乗車中の死者を除いて、前年に比べ、すべての状態で増加しているが、特に、自動車乗車中、自転車乗用中の死者数の増加が著しくなっている。自動車乗車中の死者数は、4,252人と全死者の38.4%を占めており、増加数も533人で元年の死者数の増加数742人の71.8%を占めている。自転車乗用中の死者数は、1,210人と全死者数の10.9%程度であるが、前年に比べ149人(14.0%)増加した。この増加数は、高齢者(90人)を中心とした増加となっている。元年の状態別交通事故死者数の状況は、図6-6のとおりである。

図6-6 状態別交通事故死者数(平成元年)

 元年の年齢層別死者数をみると、図6-7のとおりで、若年者、高齢

図6-7 交通事故死者数の構成率と人口構成率の比較(平成元年)

者の順に多く、死者数の構成率は、それぞれ人口構成率の2倍以上になっている。
 元年の年齢層別死者数と状態別死者数を組み合わせた状況は、図6-8のとおりである。その主な特徴は、次のとおりである。

図6-8 年齢層別、状態別死者数(平成元年)

a 元年の自動車乗車中の死者数は、前年に比べ、すべての年齢層で増加した。特に高齢者の自動車運転中の死者数は前年に比べ66人(58.9%)増加しており、増加が著しい。
 高齢者の状態別死者数の推移は、図6-9のとおりである。
b 元年の自動二輪車乗車中の死者数は、若年者のうち16歳以上19歳以下の年齢層が、前年に比べ38人(5.0%)減少した。しかしながら、若年者の死者数が全体の73.3%を占めており、その割合は、依然として高い。

図6-9 高齢者(65歳以上)の状態別死者数の推移(昭和54~平成元年)

c 元年の自転車乗用中死者数は、前年に引き続き高齢者を中心にして増加している。自転車乗用中の高齢者の死者数は、自転車乗用中の死者数全体の48.0%を占めている。
d 元年の歩行中死者数は、高齢者が依然として多く、歩行中死者数の44.8%を占めている。
(ウ) 曜日別にみた死亡事故の実態
 元年の死亡事故件数は、1万570件であり、1日当たりの平均発生件数に直すと約29.0件になる。
 曜日別の発生件数でみると、月曜から金曜までの平日は、1日当たりの平均発生件数が約27.4件であるのに対し、土、日曜の週末は、約32.9件となって5.5件の格差がでている。
(エ) 昼夜別にみた死亡事故の実態
 昼夜別の死亡事故をみると、元年も、前年に引き続き夜間事故が457件(8.3%)増加している。
 昼夜別の死亡事故の構成率は、昭和54年には昼間の事故が50.6%と昼間の発生が多かったが、翌年から逆転し、以後夜間の発生が増え、平成元年では56.5%となっている。
(オ) シートベルト着用別死者数
 自動車乗車中の死者数のシートベルト着用の有無をみると、非着用者の死者数の増加が著しく、2,948人で、全体の約7割を占めている。この結果は、一般道路におけるシートベルトの着用率が、運転者、助手席とも約80%であることから、交通事故時において、シートベルト非着用者は、着用者に比べて死亡する確率が非常に高いことを示している。
 元年のシートベルト着用別、昼夜別死者数の状況は、図6-10のとおりである。

図6-10 シートベルト着用別、昼夜別自動車乗車中死者数(昭和63、平成元年)

2 運転者政策

(1) 道路交通法令の改正と運転者教育の推進
ア 道路交通法令の改正
(ア) 改正のねらい
 急激な増加傾向にある交通死亡事故の減少を図るためには、運転者教育の一層の充実を図り、運転者の資質向上に努めていく必要がある。このため、平成元年12月、特に事故が多い、免許を受けてから1年未満の初心運転者と取消処分を受けて欠格期間経過後に免許を取得しようとする者の資質の向上を図ることなどを目的として、道路交通法の一部改正が行われ、2年9月1日から施行されることとなった。
(イ) 改正の概要
a 初心運転者期間制度の新設
 初心運転者が慎重に運転するよう誘導する一方、危険性の認められる者については、適切な教育を実施し、以後の事故防止を図ろうとするもので、制度の概要は、図6-11のとおりである。
(a) 普通免許、二輪免許又は原付免許について、免許の種類ごとに取得後の1年間を「初心運転者期間」とし、その間に道路交通法等に違反する行為を犯し、政令で定める基準に該当することとなる者について、都道府県公安委員会は、「初心運転者講習」を実施することとした。
(b) (a)の政令で定める基準に該当した者が、初心運転者講習を受講しない場合及び講習は受けたが、受講してから初心運転者期間が終了するまでの間に更に違反を犯し、政令で定める基準に該当することとなった場合は、初心運転者期間が終了した後に再試験を受けなければならないこととした。

図6-11 初心運転者期間制度の概要

(c) 再試験に合格しなかった者及び正当な理由がなく再試験を受けなかった者については、免許が取り消されることとした。
b 取消処分者講習制度の新設
 取消処分等を受けた者に対し、自重と自制を促し、各々の特性に応じた教育を施した上で道路交通の場に復帰させようとするもので、取消処分等を受けた者が、運転免許試験を再び受けようとするときは、欠格期間経過後も、なお、公安委員会が行う講習(取消処分者講習)を受講しなければ免許試験を受験することができないこととした。
c 指定講習機関制度の新設
 都道府県公安委員会は、一定の要件に該当する者を指定講習機関として指定し、初心運転者講習、取消処分者講習を代行させることができることとするとともに、これに対する監督規定を定めた。
d その他
 運転免許証の有効期間の末日(新規取得後又は更新後3回目の誕生日)が日曜日、祝日等行政機関の休日に当たるときは、その翌日を有効期間の末日とみなすこととした。
イ 国民のニーズに応じた教習の推進
(ア) 指定自動車教習所における教習の充実
 指定自動車教習所は、元年12月末現在、全国で1,533箇所ある。また、元年の指定自動車教習所の卒業者で運転免許試験に合格した者は、約260万人で、合格者全体の95.0%を占めており、指定自動車教習所は、初心運転者教育の中心的役割を果たしている。各都道府県公安委員会では、指定自動車教習所に対する指導監督を徹底し、教習、講習体制の充実強化に努めている。
a オートマチック車技能教習の充実、強化
 指定自動車教習所におけるオートマチック車の技能教習は、昭和62年から2時限実施してきたが、最近におけるオートマチック車の普及とこれを背景としたオートマチック車による技能教習の増加の要望を踏まえ、平成元年4月1日より2時限増やして計4時限実施している。
b 高速教習の充実
 高速道路(注)における運転に関する教習については、昭和53年から現行カリキュラム内の学科教習2時限のほか、任意の教習として、学科教習1時限、技能教習2時限の教習を実施している。特に、最近における厳しい交通情勢にかんがみ、63年12月より更に充実に努めた結果、平成元年中の任意の高速教習の受講者数は、31万2,950人と前年に比べ22万5,235人(257%)増加した。
(注) 高速道路とは、高速自動車国道法第4条第1項に規定する高速自動車国道及び道路交通法施行令第42条第1項に規定する自動車専用道路をいう
(イ) 指定外自動車教習所における教習水準の向上
 都道府県公安委員会の指定を受けていない指定外自動車教習所は、元年12月末現在、全国で232箇所(個人指導業、貸しコース業を除く。)ある。
 各都道府県公安委員会は、指定外自動車教習所の実態の把握とこれに対する指導に努めるとともに、指導員等に対する研修会の開催、資料の提供等を行い、その教習水準の向上を図っている。
(ウ) ペーパードライバーのための教習の実施
 いわゆるペーパードライバーに運転練習の機会を提供するため、自動車教習所におけるペーパードライバーのための教習コースの設置を推進しており、元年12月末現在、指定自動車教習所等全国875箇所で実施されている。
ウ 各種講習の充実
(ア) 二輪車運転者に対する講習の充実
a 原付免許取得者に対する安全技能講習の充実
 原動機付自転車による交通事故を防止するため、原付免許の新規取得者を対象に原付安全技能講習を行っている。元年の受講者は、約59万人で、原付免許取得者のほとんどがこの講習を受講している。
b 自動二輪車運転者に対する安全講習の充実
 若年の二輪免許新規取得者を対象に、交通機動隊員等自動二輪車の運転に関して専門的な知識を有する者を講師として、二輪免許取得時講習を行っている。元年には、約59万人がこの講習を受講した。
 また、二輪免許保有者を対象に学科講習と技能講習から成る自動二輪車安全運転講習を行っており、元年には、約2万2,000人が受講した。
(イ) 更新時講習の充実、改善
a 特別学級の編成と特別講習の推進
 更新時講習においては、若年者学級、二輪車学級、高齢者学級等の特別学級を編成して、運転者の態様に応じた効果的な講習を行っている。元年には、約104万人がこの特別学級による講習を受講した。
 また、運転免許証の更新時とは別の機会に、職種、生活環境等が共通である運転者を集めてその特性に応じた効果的な講習(特別講習)を行っており、受講者については、更新時講習を受講したものとみなすこととしている。元年には、約83万人がこの講習を受講した。
b 無事故無違反者に対する簡素な講習の実施
 運転者の特性に応じた講習の合理化を図り、運転者の利便に資するため、更新前3年間無事故、無違反の運転者に対する更新時講習は、ビデオ等の視聴覚教材の活用、資料の配布、パネル教材の展示等による簡素なものとしている。元年には、約983万人がこの講習を受講した。
(ウ) 初心運転者講習
 免許取得後1年以内の初心運転者を対象に、その運転経験等の不足を補うことを目的とする初心運転者講習を行っており、元年には、6万6,731人、全受講対象者の68.4%がこの講習を受講した。
(2) 各種の運転者対策
ア 高齢運転者対策
 更新時講習において、特別学級の一つとして高齢者学級を編成し、高齢運転者にみられる身体的機能の特性等を踏まえた交通安全教育を行っている。また、高齢運転者の希望に応じて、実際の走行や模擬運転装置による技能診断及び科学的検査機器を活用した運転適性診断を行っており、必要に応じて個別指導を行っている。さらに、昭和63年から、1台で7種類の運転適性診断ができるCRT型運転適性診断機器を開発、導入し、高齢運転者の安全運転指導に活用している。
イ 危険運転者対策
 自動車等を運転することが危険であると判断された運転者については、迅速かつ確実な行政処分を行い、道路交通の場から早期に排除することが必要である。最近5年間の運転免許の行政処分件数の推移は、表6-2のとおりである。

表6-2 運転免許の行政処分件数の推移(昭和60~平成元年)

 また、運転免許の効力の停止を受けた者等に対する改善教育として、その者の申出により処分者講習を行っている。この講習については、暴走族、二輪車運転者、再受講者等受講者の態様に応じた特別学級を設けるなど、その効果的な実施に努めている。平成元年には、行政処分を受けた者(運転免許を取り消された者を除く。)の89.0%に当たる約121万人がこの講習を受講した。
ウ その他の運転者対策
(ア) 優良運転者の優遇と賞揚
 長期間無事故、無違反の運転者に対しては、各種の賞揚制度を設けており、また、行政処分等について優遇措置等を採っている。自動車安全運転センターでは、無事故無違反証明書等を発行するほか、無事故、無違反の期間が1年以上の運転者に対しては、SDカード(Safe Driverカード)を交付している。元年の無事故無違反証明書等の発行件数は約363万件、SDカードの交付件数は約292万件であった。
(イ) 「安全運転中央研修所」の建設
 自動車安全運転センターでは、現在、自動車の運転に関する高度の技術及び知識を必要とする業務に従事する者に対する研修並びに青少年の運転者の資質の向上を図るための研修施設として「安全運転中央研修所」の建設を進めており、平成3年度に開設する予定である(図6-12参照)。
エ 運転免許の国際化への対応
 国外運転免許証の交付件数は、ここ数年大幅な増加を示しており、平成元年の交付件数は、過去最高の30万9,746件に上り、10年前の昭和54年に比べ、約2.8倍となっている。
 外国の行政庁の運転免許を有する者については、一定の条件の下に運転免許試験の一部(技能試験及び学科試験)免除が認められるが、この件数も、年々増加しており、元年中の試験の一部免除件数は、約2万7,285件であり、申請者の運転免許証を発行した外国行政庁の数も130に上っている。特に外国人による申請の増加が著しく、昭和54年に比べ約3.4倍となっている。
 このような状況から、電算化による国外運転免許証発行事務の迅速化等、運転免許の国際化に対応した事務の簡素、合理化を推進した。

図6-12 安全運転中央研修所完成予想図

3 体系的な交通安全教育の推進

(1) きめ細かな交通安全教育の推進
ア 段階に応じた交通安全教育
 警察では、学区、団地等地域ごとに、交通事故の被害者となりやすい幼児、子供、高齢者等に重点を置いて、交通安全教室、交通安全講習会等を開催している。
 幼児、子供に対しては、年齢に応じた安全教育を推進しているほか、幼児交通安全クラブ、交通少年団等地域組織の育成に努めている。平成元年9月末現在、全国で約1万7,000の幼児交通安全クラブが組織され、幼児約161万人、保護者約149万人が加入し、また、約4,000の交通少年団が組織され、小学生約80万人、中学生約13万人が加入している。
 高等学校では、いわゆる「三ない運動」が実施されているところが多くみられるが、警察としては、車社会の一員となる者に対し、単に車の運転から遠ざけるのではなく、むしろ交通安全教育を積極的に推進していくことが望ましいと考えており、そのような観点から、学校当局の要望に応じ、法令講習や安全運転実技指導について、可能な限り実技指導員(白バイ隊員等)を派遣するとともに、資料提供を行っている。
 高齢者に対しては、高齢者同士の相互啓発により交通安全意識を高揚させるため、全国の老人クラブ、老人ホーム等に交通安全部会等の設置を促すとともに、高齢者を交通安全指導員に委嘱するなどして、高齢者の自主的な交通安全活動を推進している。
 身体障害者に対しては、点字の交通安全パンフレット等を作成、配布するなど、地域福祉活動の場を利用して、交通安全指導に努めている。
イ 地域交通安全活動のささえ
 地域における交通安全活動を推進するため、交通指導員等の民間有志や交通安全協会等の民間交通安全団体が活動している。交通安全協会は、各警察署単位の地区交通安全協会を中心に、警察と連携して、全国交通安全運動やシートベルト着用推進運動をはじめ、自転車、二輪車教室等各種講習会の開催、交通安全広報の実施、教育資料の作成、配布、優良運転者、交通安全功労者の表彰等幅広い活動を展開している。このほか、二輪車安全普及協会は二輪車運転者の安全教育を、指定自動車教習所協会は初心運転者教育を、交通安全母の会は母親を中心として家庭における安全教育を行うなど、それぞれの立場から交通安全活動を推進している。
 警察では、関係機関と協力して、交通安全指導者に対する研修会の開催や交通事故実態の資料の配布を行うなど、これらの活動が効果的に行われるよう必要な協力を行っている。
(2) 全国交通安全運動
 平成元年の全国交通安全運動は、4月6日から15日までの間と9月21日から30日までの間、子供と高齢者の交通事故防止、正しい方法によるシートベルト及びヘルメットの着用の徹底、歩行者及び自転車利用者の交通事故防止、若年運転者の無謀運転の防止等を重点として展開され、警察は、この運動の中心となって交通安全教育、街頭指導等の交通安全対策を実施した。
(3) 事業所等における交通安全活動の推進
 一定台数以上の自動車を使用する事業所等で選任されている安全運転管理者及び副安全運転管理者(平成元年3月末現在、約30万箇所の事業所に、安全運転管理者約30万人、副安全運転管理者約4万人)は、安全な運転の確保に留意した運行計画の作成、シートベルトの正しい着用の方法の指導等事業活動に伴う交通安全対策を推進している。
 警察では、これら安全運転管理者等に対して、交通事故防止対策が効果的に推進されるよう、安全運転管理に必要な知識等について講習を実施しており、元年度の実施回数は約1万3,000回、受講者数は約72万人であった。
 また、都道府県ごとに安全運転管理者等を会員とする安全運転管理者協議会が結成されており、交通安全運動、正しい方法によるシートベルト着用推進運動を積極的に推進するとともに、安全運転管理に関する各種講習会の開催、教育資料の作成等、地域、職域における交通安全思想の普及に努めている。
 さらに、安全運転管理者等と事業主が一体となって安全運転管理及び交通安全活動を推進するために、事業主会の組織化が進められ、元年12月末現在、3県で県組織が、18県で地区組織が結成され、活発な活動が行われている。
(4) 自転車安全整備制度の推進
 自転車安全整備制度は、整備不良の自転車を一掃するとともに、自転車の正しい乗り方を普及させるためのものであり、毎年1回、自転車安全整備技能検定が実施されている。平成元年12月末現在、自転車安全整備士は5万868人、自転車安全整備店は2万7,555店である。

4 良好な交通環境の実現

(1) 交通環境改善のための各種施策
 「交通安全施設等整備事業に関する緊急措置法」に基づき、交通安全施設等を整備拡充し、安全で円滑な道路交通を確保するため、昭和61年度を初年度とする第4次交通安全施設等整備事業五箇年計画(特定事業(国庫の補助を伴う事業)1,350億円(調整費200億円を含む。)、地方単独事業(国庫の補助を伴わない事業)3,680億円)が策定されており、その第4年度に当たる平成元年度においては、表6-3のとおり、特定事業約251億円、地方単独事業約794億円を実施した。

表6-3 交通安全施設等整備事業実施状況(平成元年度)

(2) 円滑化対策の推進
ア 交通管制センター等の整備
 交通管制センターは、コンピュータにより信号機や可変標識、中央線変移装置の制御を行うとともに、交通情報を運転者に提供して都市及びその周辺の交通流を安全で円滑なものに整序する施設であり、警察による交通管理の中枢を成すものである。平成元年度には、昭和40年代に設置された交通管制センターのうち7の交通管制センターについてコンピュータ等の中央装置を高性能化し、12都市に交通管制サブセンターを新設した。
 また、既設の信号機について、交通量の変化に応じて青信号の時間を自動的に変える地点感応化、同一路線上の複数の信号機を相互に連動させてコントロールする系統化、交通管制センターのコンピュータによって広域的にコントロールする地域制御化等を推進し、機能を高度化したほか、夜間等に交通量が減少する地域においては、閑散時半感応化、閑散時押ボタン化等を行い、合理的な信号制御の実現に努めた。昭和47年以降の信号機設置数の推移は、図6-13のとおりである。

図6-13 信号機設置数の推移(昭和47~63年度)

イ 合理的な交通規制の推進
 人口3万人以上の都市を重点に、各種の交通規制を有機的に組み合わせて都市全体の交通流等を管理する都市総合交通規制を実施している。
 特に、大量公共輸送機関である路線バスの走行の定時性を確保し、マイカー利用者の路線バス利用への転換を図ることにより、都市における自動車交通総量を抑制し、交通の過密を緩和するために、バス感知式信号機の増設等バス優先対策を進めている。
 さらに、現実の駐車需要に応じた効果的な駐車対策を推進するため、週末等における駐車禁止規制の解除、終日駐車禁止規制から時間制限駐車規制への転換等きめ細かな対策を講じている。
 交通規制実施後においても、交通実態を把握し、住民、運転者等の意見を十分に勘案しつつ、きめ細かな点検を行っている。特に、幹線道路における最高速度については、道路交通環境の実態に見合ったものとなるように努めている。昭和62年以降に行った規制速度の引上げ、引下げの状況は、表6-4のとおりである。

表6-4 幹線道路における規制速度の引上げ、引下げの状況(昭和62~平成元年度)

 また、追越しのための右側部分はみ出し通行禁止規制が長距離にわたって連続する区間においては、道路管理者の協力を得て避譲帯の設置を促進するなどにより、交通の円滑化に努めている。
〔事例〕 栃木県警察では、信号サイクルの短縮等信号制御の改善、最高速度規制等各種交通規制の見直し、右折レーンの設置、道路標識の大型化、道路標示のワイド化等の諸施策を行ったほか、関係行政機関に対して避譲帯の設置を働き掛けるなどの総合的交通対策を実施した。この結果、主要交差点間における旅行時間約17%の短縮、交通事故の発生約57%の減少等の成果を挙げた。
ウ 交通ボトルネック解消対策
 道路幅が局地的に狭くなった地点、又は交通容量が他の区間に比べ比較的小さい交差点、橋梁(りよう)、踏切、トンネル等は交通ボトルネックと呼ばれているが、これらは、交通の円滑な流れを阻害し、渋滞発生の原因となっている。
 警察では、交差点については、信号機の適正な運用、交差点における出入りの制御、右折レーンの設置等の対策を進めるとともに、交差点の形状等に問題がある場合には、関係機関に対して、交差点の改良等所要の措置を講ずるよう強力に働き掛けている。また、橋梁(りよう)、踏切、トンネル等交差点以外で交通ボトルネックとなっている箇所については、その実態を正確に把握し、道路環境の改善を関係機関に働き掛けるほか、状況に応じて踏切信号機の設置等を進めている。
エ 行楽期等における円滑化対策
 行楽期等における大規模な交通渋滞については、その発生予測を行い、事前広報を行うとともに、臨時交通規制、交通情報の提供、警察官等による交通整理、道路における工事や作業の抑制等の対策を実施し、その予防、解消に努めている。
オ 先行的交通対策
 過密、混合化した大量交通社会においては、都市構造、道路網、駐車場、大量輸送機関、物流システム等が交通流、交通量に大きな影響を与えている。警察では、都市計画、土地区画整理事業等各種の開発事業、道路や駐車場の整備、大規模施設の建設等について、事前に各種の審議会等に参画し、交通管理面からの必要な指導、提言を行うことなどにより、交通管理上望ましい都市交通が形成されるよう働き掛けている。
カ 道路使用の適正化
 都市内の道路における工事等の道路使用行為は、増加の一途をたどっており、交通渋滞等都市内の交通機能の障害の要因となっていることも少なくない。警察では、工事方法の改善、工事の集中化等計画的な施行を指導するなどの事前の調整を行い、許可に当たっても必要な条件を付するなどして、交通渋滞等の交通障害の防止に努めている。
 また、道路交通法上、都道府県ごとに1つ指定されることとなっている都道府県道路使用適正化センターは、道路の使用等に関する事項について、照会、相談に応じ、あるいは広報啓発活動を行うとともに、警察署長の委託を受けて、道路使用許可条件の履行状況や原状回復状況等の調査を行っている。
(3) 交通事故防止及び生活環境保全のための施策
ア 交通事故多発箇所に対する施策
 交通事故多発箇所を重点に、信号機等の交通安全施設の整備を進めている。その事故抑止効果は、図6-14のとおりである。

図6-14 信号機新設による事故抑止効果(昭和63年中に設置された全信号機について、設置前後6箇月間の比較)

 右折時における衝突の多発している交差点については、信号機に右折矢の付加等を行う多現示化を進めているが、その事故抑止効果は、図6-15のとおりである。
 なお、信号機の系統化は、交通流、交通量を整序することによって、交通の円滑の確保を図

図6-15 多現示化による事故抑止効果(昭和63年中に設置された全信号機について、設置前後6箇月間の比較)

るものであるが、事故抑止についても有効である。その事故抑止効果は、図6-16のとおりである。

図6-16 系統化による事故抑止効果(昭和63年中に設置された全信号機について、設置前後6箇月間の比較)

 また、出会い頭事故、歩行者横断事故等の事故類型に応じて、速度規制、一時停止規制、横断歩道の設置等必要な規制を実施するとともに、関係機関に対し、交差点形状の改良、夜間照明の整備等を強力に働き掛けている。このほか、交通事故が発生しやすいカーブ等の地点については、いわゆる減速マークを表示し、また追越しのための右側部分はみ出し通行禁止規制を行うなど、重点的に事故防止対策を行っている。
イ 生活ゾーン規制の実施
 子供や高齢者等交通弱者を保護し、良好な生活環境を保全するため、住宅地域、学校周辺、高齢者が利用する施設の周辺等の地域を対象に区域を設定し、その区域ごとに歩行者用道路、車両通行止め、大型車通行止め、一方通行等の交通規制を総合的に組み合わせて、スクールゾーン規制、シルバーゾーン規制等の生活ゾーン規制を実施している。
 また、自転車交通の多い路線については、自転車利用者の通行の安全を図るために必要な交通規制を進めており、平成元年度末現在、自転車専用通行帯350区間(約339.1キロメートル)、自転車横断帯10万8,359本、普通自転車歩道通行可3万9,304区間(約4万6,977キロメートル)となっている。
ウ 交通公害防止対策
 大型車の夜間走行等による幹線道路沿いの騒音、振動等の交通公害の防止を図るため、発進、停止回数を減少させるための広域的な信号制御、大型車を中央寄りに走行させるための通行区分の指定等を実施している。
(4) 交通情報の堤供
ア 交通情報提供施設等の整備拡充
 交通状況の変化に応じて、交通流、交通量の配分、誘導を適切に行うため、交通情報を収集、分析して、運転者に提供することは、交通規制の実施、信号制御と並ぶ交通管理の重要な手法である。
 現在、交通情報の提供は、交通管制センター等の活動を通じて収集した情報を基にして、主要な地点に設置されている路側通信設備、フリーパターン式交通情報板等の交通情報提供施設によって行うほか、電話照会に対する回答やテレビ、ラジオ放送を通じても行っている。平成元年度に(財)日本道路交通情報センターが行った情報の提供状況は、テレビ放送によるものが約5,500回、ラジオ放送によるものが約25万6,500回、電話照会に対する回答が約664万件である。
 また、よりきめ細かな交通情報を広域的に提供するために、複数の交通管制センターのネットワーク化、車両感知器、路側通信設備等の交通情報収集、提供施設の整備充実、交通情報の編集、提供の自動化を促進しているほか、目的地までの所要時間を提供する予測旅行時間提供システム(図6-17参照)等ドライバーのニーズに応じた情報提供に努めている。さらに、FM音声多重放送による交通情報提供等の新たな情報提供手法の実用化を図っている。

図6-17 予測旅行時間提供システム構成図

イ 高速道路上における交通情報の収集と提供
 閉鎖性という特性を持つ高速道路では、いったん交通障害が発生するとしばしば大きな交通渋滞が発生することから、交通規制情報、交通障害情報及びう回情報等の交通情報の積極的提供は、特に重要である。
 そこで、高速道路上における機動警ら活動等により、高速道路及び周辺道路の交通情報を幅広く収集し、テレビ、ラジオ等による広報、白バイ、パトカーによる現場広報、可変情報板の活用等により必要な交通情報の提供を迅速、的確に行うとともに、交通障害発生時においては、一般道路との調整を図りつつ必要な交通規制と交通情報の提供を行い、適切なう回誘導に努めた。
ウ 駐車誘導システム整備の推進
 路外駐車場の利用を促進し、駐車場探しや空き待ちのための車両の滞留、違法な路上駐車を抑制するため、交通管制システムと連動して、路外駐車場の位置、満空状況、誘導経路、交通渋滞情報等の交通情報を交通情報板、路側通信設備、電話等を通じて運転者に提供し、空き駐車場への適切な案内、誘導を行う駐車誘導システムの整備を進めている(図6-18参照)。
〔事例〕 兵庫県警察では、姫路市及び神戸市において、それぞれ交通管制システムと駐車誘導システムとを一体化し、交通情報の迅速な収集と適正な信号制御により交通流、交通量の適正な配分、誘導を行うとともに、駐車場の満空情報をリアルタイムに提供し、交通管理上最適な経路による駐車誘導を行っている。また、道路使用適正化センターによる電話案内を通じて、個々の駐車場の満空状況の提供を行い、運転者のニーズに応じた情報の提供に努めている。

図6-18 駐車誘導システム構成図

エ AMTICS実用化の推進
 AMTICS(Advanded Mobile Traffic Information and Communication System、新自動車交通情報通信システム)は、自動車ロケーションシステムと交通情報提供システムを融合した最新システムで、交通流、交通量の適切な配分、誘導に大きな効果を上げることが期待されており、警察では、その実用化に向けて積極的に支援することとしている(注)。
(注) 平成2年4月、大阪で開催された「国際花と緑の博覧会」に際して、AMTICS関西実験が実施され、一般公開された。

5 交通秩序の確立

(1) 効果的な交通指導取締りの推進
ア 効果的な取締りの推進
 平成元年の道路交通法違反の取締りについては、無免許運転、飲酒運転、著しい速度超過、信号無視等悪質、危険な違反や幹線道路の交差点等における駐停車違反、暴走族の騒音運転等迷惑性の強い違反に最重点を置いて実施した。最近5年間の主な道路交通法違反の取締り状況は、表6-5のとおりである。
イ 街頭指導活動の強化
 警察官等による街頭交通監視活動及び白バイ、パトカー等による交通機動警ら活動を強化し、交通事故の多発する路線、場所を重点に、危険性、迷惑性の高い違反の未然防止を図った。また、歩行者、特に高齢者、子

表6-5 主な道路交通法違反の取締り状況(昭和60~平成元年)

(1) 違反別取締り件数


(2) 行政処分の基礎点数告知件数

供、身体障害者や自転車利用者に対し、安全な通行を促すための街頭指導活動を行った。
ウ 二輪車に対する街頭指導等の推進
 二輪車に対する街頭活動を強化し、悪質、危険な違反行為の取締りと併せて、通行方法及び乗車用ヘルメットの着用についての指導取締りを行った。
 元年の自動二輪車、原動機付自転車の取締り状況は、表6-6のとおりである。

表6-6 自動二輪車、原動機付自転車の取締り状況(昭和63、平成元年)

(1) 違反別取締り件数 


(2) 行政処分の基礎点数告知件数

エ 違法駐車車両の排除
 駐停車違反の取締りについては、交通流に障害を及ぼす幹線道路の交差点、横断歩道、バス停留所等における危険性、迷惑性の強い違反態様に最重点を置いて行った。元年の駐停車違反取締り件数は、1日平均6,164件となっている。
オ 企業ぐるみ違反に対する厳正な措置
 事業活動に関してなされた過積載、過労運転、無免許運転等の違反及びこれらに起因する事故事件等については、いわゆる企業ぐるみ違反であることを重視し、運転者の責任追及はもとより、自動車の使用者、荷主等の運行管理、労務管理に係る背後責任の追及を徹底するとともに、自動車の使用制限の処分を迅速かつ厳正に行った。使用者等の背後責任追及状況は、表6-7のとおりである。

表6-7 使用者等の背後責任の追及状況(昭和63、平成元年)

カ 運転代行事業の問題
 運転代行事業(対価を得て他人の自動車を運転する役務を提供する事業をいう。)は、飲酒運転、過労運転等の防止に資する反面、駐車違反をはじめ道路交通関係法令違反を行う業者や暴力団が経営に関与しているものもあるので、これらの運転代行事業に伴う違法行為の取締りに努めている。
(2) 交通捜査活動の推進
ア 交通事故事件
 平成元年の交通事故に係る業務上(重)過失致死傷事件の検挙件数は58万7,808件、検挙人員は62万1,202人で、前年に比べ、件数は2万1,738件(3.8%)、人員は3万626人(5.2%)それぞれ増加した。
イ ひき逃げ事件
 最近5年間の死亡ひき逃げ事件の発生、検挙状況は、表6-8のとおりで、元年は415件発生したが、うち381件(91.8%)を検挙した。

表6-8 死亡ひき逃げ事件の発生、検挙状況(昭和60~平成元年)

 逃走の動機としては、依然として飲酒運転、無免許運転等の悪質な交通違反の発覚をおそれたものが多く、全体の約4割を占めている。また、犯行後、車の完全修復を図ったり、アリバイ工作を行うなど証拠を隠滅しようとする悪質、巧妙なものが目立っている。
〔事例〕 4月18日、会社の車で帰宅途中の会社員(45)が、わき見運転により、盲目の母親を先導し横断歩道を通行中の5歳の幼児をはねて死亡させ、逃走した。現場に残された微小プラスチック片を手掛かりに、発生から36日目に被疑者を逮捕(警視庁)
ウ 交通特殊事件
 偽装交通事故による自動車保険金詐欺事件等のいわゆる交通特殊事件の検挙状況は、表6-9のとおりで、元年は2,074件、1,772人を検挙した。
〔事例〕 医師、病院事務長、示談屋、保険調査機関職員等が互いに共謀し、交通事故を偽装し、虚偽の診断書を作成するなどして、1億2,000万円余りの保険金や示談報酬を受け取っていた。1年2箇月に及ぶ長期捜査の末、4月から6月までの間に被疑者31人(うち18人を逮補)を詐欺、弁護士法違反で検挙(大阪)

表6-9 交通特殊事件の検挙状況(昭和63、平成元年)

(3) 高速道路における交通警察活動
ア 高速道路交通警察隊の活動概要
 高速道路交通警察隊は、高速道路における交通指導取締り、交通事故事件の処理、交通実態に即応した交通規制等を行うほか、犯罪の発生を未然に防止し、警察事象が発生した場合には、これを第一次的に処理することを任務としている。
イ 高速道路の交通実態
(ア) 高速道路の供用状況
 平成元年12月末現在、高速道路の全供用距離は、51路線5290.0キロメートルとなった。特に、元年には、大分県、山形県、鳥取県で初めて高速道路が供用され、これにより46都道府県において高速道路が開通したことになる。
(イ) 高速道路における交通事故発生状況
 元年の高速道路における交通事故については、発生件数が8,337件、死者数が439人、負傷者数が1万4,196人で、前年に比べ、発生件数は1,701件(25.6%)、死者数は104人(31.0%)、負傷者数は2,995人(26.7%)それぞれ増加した。また、高速自動車国道における1億走行台キロ当たりの交通事故発生件数は、一般道路の約11分の1であるにもかかわらず、死亡事故率(注)は、一般道路の約2.9倍で依然として高い。最近5年間の高速道路における交通事故等の推移は、表6-10のとおりである。

表6-10 高速道路における交通事故等の推移(昭和51、60~平成元年)

 なお、高速道路における物損事故は、重大事故の誘因となり、交通を著しく阻害するものであるが、高速自動車国道における発生件数は、2万7,564件であった。
(注) 死亡事故率とは、発生件数に占める死亡事故件数の割合をいう。
ウ 高速道路における安全で円滑な交通流の確保
(ア) 交通実態に即応した交通規制の実施と交通安全施設等の整備
 元年に新たに供用された高速道路について、既に供用されている高速道路の交通規制との整合性や一般道路との関連性等に配慮しつつ、交通実態、道路の線形、勾配等の道路構造及び気象条件等を総合的に判断し、可変式速度規制標識、信号機、その他の交通安全施設の整備に努めた。
 このほか、既に供用されている高速道路について、必要な交通規制の見直しを行った。
 また、地震、積雪、凍結、霧、降雨、強風等の交通事故につながるおそれの大きい自然現象の発生時や交通渋滞、交通事故等の交通障害発生時には、その状況に応じ、臨時交通規制を迅速、的確に実施し、交通事故や二次障害の発生防止に努めた。
(イ) 効果的な交通指導取締り
 元年の高速道路における交通違反取締り状況は、表6-11のとおりである。
(ウ) 交通渋滞の早期解消策の推進
 交通渋滞については、その緩和、解消対策を積極的に進めているが、大規模な渋滞が予想される行楽期等においては、渋滞情報の収集、提供、交通監視活動の強化、迷惑性の高い路肩走行等の取締りを積極的に推進するなど、渋滞の早期解消に努めた。
 また、道路補修工事等による大きな交通渋滞が発生していることから、工事方法、施工時期、期間等について関係機関とともに見直しを行い、

表6-11 高速道路における交通違反取締り状況(昭和63、平成元年)

集中工事や夜間工事の採用等により交通渋滞の緩和に努めた。
エ 高速道路交通安全団体の指導育成
 高速道路における自主的な交通安全活動を推進するため、高速道路を日常的に利用する運送業者等を中心とした高速道路交通安全協議会等の団体の組織化を促進しており、元年12月末現在、36都道府県において36団体が活動している。
 また、(財)全日本交通安全協会は、全国規模の交通情報等を提供し、高速道路交通安全団体相互の情報交換を促進することを目的として、月刊誌「セイフティ・エクスプレス」を発行している。

6 暴走族対策の推進

(1) 暴走族の動向
 平成元年に暴走族として把握されている者の総数は、3万5,472人であり、前年に比べ1,462人(4.0%)減少した。また、暴走族のい集走行状況をみると、昭和58年以降、い集走行に参加する者は10万人ないし12万人で推移してきたが、63年には約15万8,000人、平成元年も15万人に達するなど暴走族の動きが活発化してきている。
 これらの暴走族の内訳をみると、年齢別では、少年が75.3%、成人が24.3%であり、職業別では、有職者が58.7%、無職者が26.1%、学生が15.2%である。また、使用している車両別では、二輪車が57.5%、四輪車が42.5%となっている。
 最近の特徴としては、グループを組織しない暴走族の増加が挙げられる。元年では、全体の69.4%に当たる2万4,621人がグループに加入しない者となっている。こうしたことを背景として、深夜、少数でゲリラ的に住宅街等を暴走し、異常に大きな排気騒音により住民を悩ませる爆音暴走が近年多くなっている。このため、暴走族に関する110番通報が急増し、元年は、11万4,936件に達した。
 さらに、暴走族の凶悪化も進んでおり、元年には、22件の対立抗争事件を起こすなど、悪質な違法行為を敢行した。
 最近5年間のい集走行状況は、表6-12のとおりである。

表6-12 暴走族のい集走行状況(昭和60~平成元年)

(2) 暴走族対策の強化
 平成元年4月、一般市民が暴走族に集団暴行を受け死亡する事件が相次いで発生した。このため、暴走族の実態把握と個別指導、補導の強化、取締りの徹底、暴走行為を許さない社会環境づくり等の諸対策を強力に推進した。
ア 実態把握と個別指導、補導の強化
 警察各部門のあらゆる活動を通じて、暴走族に関する情報収集に努め、その実態を把握し、個別的な指導、補導を徹底し、グループの解体、暴走族からの離脱等の暴走行為をさせない対策を推進した。
イ 暴走族取締りの徹底
 暴走族の活動が最も活発化する8月に、全国一斉の「暴走族追放、取締り強化月間」を実施するなど、暴走族に対する取締りを徹底したが、特に、ゲリラ的な爆音暴走については、110番通報等の情報を分析検討して、暴走行為が行われそうな時間、場所、路線等を予測し、あらかじめ警察力を配備して行う「よう撃的取締り」等により対処した。
 元年中の暴走族事犯の取締り件数は10万3,628件となり、前年に比べ1万7,720件(20.6%)の増加となった。最近5年間の暴走族事犯の法令別検挙状況は、表6-13のとおりであり、騒音防止装置に係る整備不良車両の運転禁止違反が1万1,657件で前年に比べ65.1%、騒音運転等(急発

表6-13 暴走族事犯の法令別検挙状況(昭和60~平成元年)

進、急加速、空ぶかし)の禁止違反についても2,442件で19.9%、それぞれ増加しており、共同危険行為等の禁止違反は、検挙件数が232件、検挙人員が6,764人と依然として多数に上っている。
 不法改造車両については、6月に全国一斉の「整備不良車両等の取締り強化月間」を実施するなどして、取締りを強化し、車両の運転者のみならず、改造等を行った業者、車両の所有者等についても徹底した責任追及を行った。
 なお、暴走族に対する共同危険行為等の禁止違反等による運転免許の行政処分は、取消処分1,925件、停止処分1,827件であった。
ウ 暴走をさせない環境づくり
 暴走を「しない」、「させない」、「見に行かない」運動等地域ぐるみの暴走族追放運動を推進した。特に、暴走行為の多い16県、612市町村の議会で暴走族追放決議等が採択されたほか、暴走行為の多い地域を中心に各地で、民間ボランティアによる「暴走族追放モニター」制度、ガソリンスタンド、自動車部品販売店、深夜営業店等による「暴走族追放の店」制度、タクシー等による暴走行為民間通報制度等が多数発足した。
 さらに、警察では、暴走行為の頻発する地域、路線を中心に、交通規制をはじめ、道路管理者等の協力を得て暴走族が、い集、暴走できない環境づくりを推進した。

7 国際協力の推進

(1) 我が国の交通警察に対する関心の高まり
 現在、世界のいずれの国においても、交通事故の増加、交通渋滞の激化等の深刻な交通問題が発生しており、その防止対策は、経済、社会の発展を図る上で重要な課題となっている。こうした状況を背景として、国は、我が国が、過密、混合化の進行する厳しい交通環境の中で、どのような交通管制、交通規制の手法により交通の安全と円滑を確保しているのか、運転者管理や交通安全教育をどのように行っているのかなどの点について、大きな関心を示しているところである。
(2) 国際協力の実施状況
 外国からの要請により、警察職員等を外国に派遣して専門的な指導を実地に行ったり、外国の警察幹部を我が国に受け入れて研修を行うなどの国際協力は、近年ますます増加する傾向にある。内容的にも、従来は、交通管制等の技術面における協力が中心であったが、最近では、交通安全教育や運転者教育、運転免許制度等を含む交通警察行政全般についての協力も活発に行われるようになった。中でも、アジアの各国については、フィリピン、シンガポール、中国、タイ、インドネシア等の国々に対し、専門家を派遣するなどの協力を行っている。
 特に、中国に対しては、昭和63年から、「中国道路交通管理幹部訓練センター」プロジェクトに対し、専門家の派遣、機材供与及び研修員の受入れの技術協力を推進している。
 また、世界各国の警察幹部職員を対象とする交通警察行政セミナーは、我が国の交通事情、交通警察の組織、活動を紹介するほか、参加各国の交通警察に関する重要な諸問題について、情報の交換、施策の検討を行う場を提供し、各国の交通警察分野における知識と技術の向上に貢献することにより、各国の民生の安定向上と経済の発展に寄与することを目的として実施されているものである。
 このセミナーは、警察庁と国際協力事業団(JICA)が共催し、41年に開始されたものである。49年に開催された第3回セミナーからは、隔年ごとに実施されており、63年には第10回セミナーを開催した。第10回までに受け入れた研修員の数は、139人(44箇国)に達している。


目次