第5章 生活の安全の確保と環境の浄化

 市民生活の安全を確保するためには、犯罪の取締りを行うとともに、事件、事故が発生する要因を社会から除去し、良好な社会生活環境の形成を図っていく必要がある。警察では、このような認識の下に、次のような活動を推進している。
 薬物乱用については、高水準で推移する覚せい剤事犯に加え、最近では、コカイン、ヘロイン及び大麻の押収量が急増するなど多様化の傾向にある上、薬物乱用に起因する事件、事故も跡を絶たないことから、供給の遮断と乱用の根絶を図るため、取締りの強化及び薬物乱用の危険性についての広報啓発を重点とする総合的な諸対策に努めるとともに、積極的な国際協力を推進している。
 風俗環境については、国民の良好な社会生活環境の形成を図るため、悪質な風俗関係事犯に重点を置いた指導、取締りを行うとともに、風俗営業の健全化のための施策を積極的に展開して、その浄化を進めている。
 銃器については、凶悪な犯罪に使用されるけん銃等の不法所持事犯、密輸入事犯の取締りを進めるとともに、都道府県公安委員会の所持許可を受けた猟銃等の適正な管理の確保に努めることにより、危害の発生の防止を図っている。
 火薬類等の危険物については、保管方法、運搬方法等についての取締りと指導により事故の発生の防止に努めている。
 悪質商法については、手口の巧妙化、複雑化により被害が潜在化しているとともに、法の網の目をくぐる新たな手口のものが続発していることから、積極的な取締りを推進するとともに、消費者の意識向上を図るための広報啓発活動を展開して、被害の未然防止、拡大防止に努めている。

1 薬物乱用の現状と対策

 麻薬、覚せい剤等の薬物乱用は、近年、世界的な広がりをみせており、特に、多くの国において、女性の乱用の増加や乱用の低年齢化が進むなど、悪化の一途をたどっている。
 我が国においても、覚せい剤事犯が依然として高水準で推移し、その乱用に起因する殺人、強盗等の凶悪な事件が増加しているほか、コカイン事犯の検挙人員及び押収量が急増し、ヘロイン、大麻の押収量も大幅に増加するなど、多様化の様相を呈している。
 また、薬物乱用が世界的に拡大し、その根絶を一層難しくしている大きな要因として、暴力団や国際麻薬犯罪組織が、その不正取引によって莫(ばく)大な利益を得る目的で、多国間にわたり根深く介入していることが挙げられる。このため、薬物問題を根本的に解決するためには、国際協力により国境を超えて暗躍する国際麻薬犯罪組織の中核を徹底して取り締まるとともに、不正収益を没収する必要のあることが各国共通の認識となっている。
 このような情勢を踏まえ、警察では、国際捜査協力等の積極的な国際協力に努めるとともに、国内的には、供給ルートの遮断と乱用の根絶を最重点として、総合的な諸対策を推進しているところである。
 今後は、国際捜査共助に的確に対応するための国際捜査体制と各種の装備資機材の整備を図ることが課題となっている。
(1) 世界の薬物情勢
 世界において乱用されている主要な薬物は、あへん、モルヒネ、ヘロイン等のあへん系麻薬、コカイン及び大麻等であり、その押収量は、いずれも増加傾向にある。国際連合の資料に基づく1987年のこれらの主要な薬物の押収量等は、次のとおりである。
○ あへん 約51.8トン(前年並)
 あへんの押収量の最も多い国はイラン(約36.8トン)で、全体の71.0%を占めている。
○ モルヒネ 約0.662トン(前年比13.0%増)
 モルヒネについては、近年減少傾向を示していたが、85年以来増加に転じている。最も押収量の多い国は、トルコの約0.350トン(世界全体の52.9%)となっている。
○ ヘロイン 約16.6トン(前年比7.7%増)
 ヘロインの押収量は、過去最高であった前年を上回り、史上最高を記録している。また、ヘロインの最も押収量の多かった地域は、中近東の約7.22トンで、世界の43.5%を占め、押収量の最も多かった国は、パキスタンの約5.48トンとなっている。これは中近東のパキスタン、アフガニスタン、イランの3国にまたがる地域が、いわゆる黄金の三日月地帯と称され、東南アジアのいわゆる黄金の三角地帯(タイ、ミャンマー、ラオス)と並ぶけしの最大の裁培地域であることを示している。
○ コカイン 約152トン(前年比18.7%増)
 コカインの押収量は、5年前(82年約12.1トン)に比べ約13倍と急増するとともに、過去最高であった前年(約128トン)を大幅に上回った。特に、米国では、世界の37.1%に当たるコカイン約56.4トンが押収されている。
 コカインの原料となるコカ葉は、南米のペルー、ボリビア、コロンビアの山岳地帯が最大の栽培地域となっている。
○ 大麻
・ 乾燥大麻 約4,064トン(前年比35.9%増)
・ 大麻草  約4万9,421トン(前年比229.3%増)
・ 大麻樹脂 約432トン(前年比1.6%減)
・ 液体大麻 約0.579トン(前年比82.0%増)
 大麻の押収量は膨大な量に上り、最も広く乱用されている薬物となっている。
 これらの薬物の中で、コカインの乱用は、近年、特に米国において激増し、米国における治安の悪化の原因となっているほか、コロンビアでは、要人の暗殺事件や「麻薬戦争」を引き起こすなど、最も深刻な薬物禍をもたらしている。
 また、多くの国において、女性の乱用の増加や乱用の低年齢化が進んでおり、深刻の度を増している。さらに、注射による薬物乱用は、エイズの感染や他の重大な疾病の拡散の大きな要因ともなっている。

(2) 我が国の薬物乱用の現況
ア 高水準で推移する覚せい剤事犯
 平成元年の覚せい剤事犯の検挙件数は2万3,296件、検挙人員は1万6,613人で、前年に比べ、件数は6,481件(21.8%)、人員は3,786人(18.6%)それぞれ減少し、昭和56年以降8年連続2万人を超えていた検挙人員が9年ぶり2万人台を下回ったが、押収量は約218キログラムと再び増加(前年に比べ約3.4キログラム、1.6%増)に転じ、史上第4位を記録する量に上った。これは、大量の覚せい剤が依然として出回り、乱用されていることをうかがわせるものである。このほか、前年に引き続き、タイから「ヤーマ」、「キャピタゴン」と呼ばれる錠剤型の覚せい剤の密輸入事犯が発生した。過去10年間の覚せい剤事犯の検挙状況は、図5-1のとおりである。

図5-1 覚せい剤事犯の検挙状況(昭和55~平成元年)

(ア) 台湾、韓国ルートを中心とする密輸事犯
 平成元年の覚せい剤の大量押収事例(1キログラム以上を一度に押収した事例をいう。以下同じ。)は9件、大量押収に係る押収量は約200キログラムで、総押収量の91.7%に上った。これを仕出地別にみると、台湾が4件約168キログラムで、大量押収に係る押収量の84.0%を占め、前年に比べ約56キログラム(50.0%)増加した。次いで韓国が3件、約24キログラムで、12.0%となっており、この台湾、韓国からの密輸によるものが96.0%と圧倒的多数を占めている。
 また、4月、福岡県警察において一度の押収量としては史上第2位の洋上取引による覚せい剤約151キログラムを押収したが、大量の覚せい剤の密輸手口としては引き続き洋上取引が目立った。
(イ) 根深く介入する暴力団
 元年に覚せい剤事犯で検挙した暴力団員は、7,470人で、覚せい剤事犯の総検挙人員の45.0%を占め、また、これは、暴力団員の総検挙人員3万5,972人の検挙罪名別の第一位(20.8%)となっている。さらに、元年に暴力団員から押収した覚せい剤は、約205キログラムで、前年(約112キログラム)に比べ83.0%増加するとともに、総押収量の94.0%を占めている。このように、暴力団は、その資金源とするため、依然として覚せい剤事犯に根深く介入している。過去10年間の暴力団員による覚せい

図5-2 暴力団員による覚せい剤事犯の検挙状況(昭和55~平成元年)

剤事犯の検挙状況は、図5-2のとおりである。
(ウ) 更に増加する再犯者率
 元年の覚せい剤事犯の検挙人員1万6,613人のうち、再犯者は9,454人(56.9%)であり、前年の再犯者率(56.7%)を更に上回った。これは、一度使用すると習慣となってなかなかやめられない覚せい剤の恐ろしさを示すものである。最近5年間の覚せい剤事犯の再犯者の状況は、表5-1のとおりである。

表5-1 覚せい剤事犯の再犯者の状況(昭和60~平成元年)

(エ) 覚せい剤乱用者による凶悪事件の多発
 元年に発生した覚せい剤に係る殺人、放火、強盗、強姦(かん)等の凶悪事件は25件で、前年に比べ6件(31.6%)増加した。中でも、殺人は9件と、前年(4件)の2.3倍となっているのが目立っている。覚せい剤は、幻覚、妄想等の精神障害をもたらし、かつ、極めて強い精神的依存を生じさせる。また、使用をやめた後でも、少量の再使用や疲労等をきっかけに、乱用時同様の精神障害が突然現れること(フラッシュバック現象)がある。このため、覚せい剤乱用者は、凶悪な犯罪を引き起こしたり、購入資金欲しさから強窃盗等の犯罪に走ることも多い。このような自傷、他害のおそれのある覚せい剤乱用者に対する適切な入院治療と退院後のアフターケア体制の整備が必要となっている。元年の覚せい剤に係る事件の検挙人員は、表5-2のとおりである。

表5-2 覚せい剤に係る事件の検挙人員(昭和63、平成元年)

〔事例〕 6月、覚せい剤取締法違反前歴を有する建設会社経営者(40)は、覚せい剤を乱用し、その中毒作用から幻覚に陥り、「妻が覚せい剤を使用している」などと口走り、妻と口論の末、同女を殴り死亡させた(福島)。
イ 厳重な警戒を要する麻薬事犯
 元年の麻薬事犯(麻薬取締法及びあへん法違反をいう。以下同じ。)の検挙件数は447件、検挙人員は352人で、前年に比べ、件数は114件(34.2%)、人員は48人(15.8%)それぞれ増加した。特に、欧米等で乱用の著しいコカイン事犯の検挙人員、押収量及びヘロインの押収量が史上最高を記録するなど、厳重な警戒を要する。過去10年間の麻薬事犯の検挙状況及び最近5年間の主要な麻薬の種類別押収状況は、それぞれ、図5-3、表5-3のとおりである。

図5-3 麻薬事犯の検挙人員の推移(昭和55~平成元年)

表5-3 主要な麻薬の種類別押収状況(昭和60~平成元年)

(ア) コカイン事犯の検挙人員、押収量が史上最高を記録
 元年のコカイン事犯の検挙件数は138件、検挙人員は88人で、過去最高であった前年に比べ、件数は88件(176.0%)、人員は51人(137.8%)それぞれ大幅に増加し、史上最高を記録した。
 また、コカインの押収量は約13.7キログラムで、前年(約0.2キログラム)の約68倍、過去10年間の総押収量の約3.7倍の膨大な量に達した。これ

は、7月、兵庫県警察において、世界最大のコカイの供給地となっているコロンビアからコカインを密輸入しようとした事犯を水際で阻止し、コカイン約12キログラムを大量押収したことによるものである。
(イ) ヘロインの押収量が史上最高を記録
 元年のヘロインの押収量は、約27.7キログラムで、過去最高であった前年(約17.2キログラム)の約1.6倍となり、史上最高を記録した。これは、タイ、香港等からの我が国を中継地とする密輸事件が相次ぎ、水際で大量のヘロインを押収したことによるものである。これまで、中継国が乱用国に転化した例も多くみられる上、国内におけるヘロイン乱用の増加の兆候もあることから、厳重な警戒を要する。
〔事例〕 12月、香港人2人が、キャリーバック内に隠匿したヘロイン約21.5キログラムを日本を経由してサイパンまで密輸しようとした事犯を検挙するとともに、国際麻薬密輸ルートを解明した(千葉)。

ウ 増加傾向にある大麻事犯
 元年の大麻事犯の検挙件数は1,685件、検挙人員は1,344人で、過去最高であった前年に比べ、件数は224件(11.7%)、人員は120人(8.2%)減少しているが、いずれも史上第2位となるなど、増加傾向が続いている。過去10年間の大麻事犯の検挙状況は、図5-4のとおりである。

図5-4 大麻事犯の検挙状況(昭和55~平成元年)

(ア) 乾燥大麻の押収量が史上最高を記録
 元年の乾燥大麻の押収量は約437キログラムで、前年の押収量(約159キログラム)の約2.7倍、過去最高であった昭和61年(約192キログラム)の約2.3倍と大幅に増加するとともに、史上最高を記録した。これは、平成元年12月、警視庁において、一度の押収量としては史上最高の約153キログラムを押収したのをはじめ、大型密輸事件や野生大麻の不正採取事件が相次いだことによるものである。
 元年の大量押収事例は30件、大量押収に係る押収量は約410キログラムで、これを仕出地別にみると、タイ約289キログラム(70.5%)、フィリピン約90キログラム(22.0%)となっており、この両国で大量押収に係る押収量の9割を占め、その密輸方法も、木彫りの応接セット内に隠匿したり、貨物船、国際宅配便等を利用するなど、一段と大型化、巧妙化している。

(イ) 組織的な介入を強める暴力団
 元年に大麻事犯で検挙した暴力団員の総検挙件数は490件、検挙人員は364人で、前年に比べ、件数で63件(14.8%)、人員で61人(20.1%)それぞれ増加し、大麻事犯の総検挙人員に占める割合も27.1%と前年(20.7%)を上回り、ここ数年増加傾向にある。これは、暴力団が、覚せい剤に次ぐ第2の薬物として、大麻の密輸、密売への介入を深めていることによるものとみられる。
〔事例〕 8月、暴力団員(32)が、大麻約49キログラムをタイから高級応接セット内に隠匿して密輸入した事犯を検挙した(大阪)。
エ 有機溶剤等習慣性薬物の乱用
 元年のシンナー等有機溶剤乱用者の検挙人員は、2万5,235人で、前年に比べ、2,585人(9.3%)減少したが、そのうち少年が2万1,552人と85.4%を占めており、依然として少年層がシンナー等の乱用の中心となっている。シンナー等の乱用は、成長期にある少年に害悪を及ぼすほか、錯乱、精神障害等から暴力犯罪、性犯罪、重大交通事故等を引き起こすなど、社会的危険性が極めて高い。また、より薬効の強い覚せい剤等の乱用への入口ともなっている。さらに、シンナー等の乱用により中毒死する事故も多発している。最近5年間のシンナー等有機溶剤乱用者の検挙人員の推移は、表5-4のとおりである。
 このほか、睡眠薬等の習慣性医薬品の密売、乱用事犯も依然として発生しており、また、睡眠薬を悪用しての昏睡強盗、婦女暴行事件の発生もみられた。

表5-4 シンナー等有機溶剤乱用者の検挙人員の推移(昭和60~平成元年)

〔事例〕 8月、少年男女3人が、シンナーと覚せい剤を併用して乱用し、2人は薬物中毒によりショック死し、1人はその中毒作用から幻覚に陥り、団地4階から飛び降りて死亡した(京都)。
(3) 総合的な薬物乱用防止対策の推進
 警察では、近年、薬物乱用が世界的な広がりをみせ、世界各国共通の深刻な問題となっていることにかんがみ、供給ルートの遮断、乱用の根絶を最重点として、総合的な諸対策を推進している。
ア 供給ルートの遮断
 麻薬、覚せい剤等の習慣性薬物のほとんどは、国際麻薬犯罪組織、暴力団等により、海、空のルートを通じて多種多様な方法で、台湾、韓国、タイ等の海外から密輸入されている。また、平成元年には、新たな動きとしてコロンビアから、大量のコカインの密輸入事犯が検挙された。そして、国内に流入した薬物は、暴力団を中心とする密売組織により、何段階もの密売人の手を経て全国の末端乱用者に供給されている。したがって、供給ルートを遮断するためには、密輸入事犯の水際検挙と密売組織の壊滅が必要である。警察では、こうした考えに立ち、全国的に捜査資機材を整備して、各都道府県警察相互間の情報連絡の緊密化を図り、全国警察が一体となった組織的、広域的な捜査を推進している。
イ 乱用の根絶
 薬物乱用問題の根本的解決のためには、供給ルートの遮断とともに、乱用の根絶が必要である。警察では、こうした考えに立ち、末端乱用者の徹底検挙と薬物乱用を拒絶する社会環境づくりを推進している。元年には、薬物乱用体験者の手記集「白い粉の恐怖」(10万部)、指導者用テキスト「心と身体と薬物」、「少年の環境と行動」等を作成し、全国の職場、学校等に配布したほか、報道機関等を通じて広報を実施するとともに、覚せい剤相談電話等により乱用者の家族等からの相談に応じ、その解決を図った。
ウ 関係機関、団体との連携の強化
 警察では、供給ルートの遮断と乱用の根絶を最重点として、諸対策を推進しているが、より大きな効果を上げるためには、他の取締関係機関や民間団体との協力が不可欠である。こうした考えに立ち、税関、入国管理局等と協力して、薬物事犯対象者等に対する出入国監視の強化と薬物の密輸入阻止に努めているほか、(財)全国防犯協会連合会、(財)麻薬・覚せい剤乱用防止センター等との連携による広報啓発活動に努めている。元年には、(財)全国防犯協会連合会と協力して、広報啓発資料として「別れ道」と題する映画、ビデオを作成し、全国に配布した。
(4) 国際協力の推進
ア 国際協力への動きの活発化
 麻薬、覚せい剤等の薬物犯罪は、今や、国際的な麻薬犯罪組織によって、多国間にわたり巧妙に行われる組織犯罪であり、薬物の不正取引により得た莫(ばく)大な収益が新たな活動資金となり、犯罪が繰り返されていることが指摘されている。このため、薬物犯罪の根絶を期すためには、国際協力の一層の強化により、国際麻薬犯罪組織の首謀者等の取締りとその不正資産の没収の徹底を図る必要のあることが国際社会における共通の認識となっている。このような情勢から、昭和63年12月、取締り強化規定を盛り込んだ「麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約」(いわゆる麻薬新条約)が採択(日本は平成元年12月署名)されたが、元年には、引き続き、薬物の不正取引に伴う資金洗浄(マネーローンダリング)を防止するための先進15箇国及び1機関による金融活動作業グループの会合や麻薬問題に関する日米専門家会合の開催等、国際協力の動きが活発化した。
イ 外国捜査機関との捜査協力
 警察では、麻薬、覚せい剤等薬物事犯の捜査を徹底するため、関係各国との捜査員の相互派遣を行うなど、国際捜査協力を推進するとともに、各種の国際会議に積極的に参加し、情報交換に努めている。元年には、フィリピン、台湾、米国へ逃亡していた被疑者をそれぞれ検挙することに成功した。
ウ 国際社会への寄与
 我が国も、薬物取締りにおいて、国際社会への貢献をするため、元年10月、15日間の日程で、警察庁と国際協力事業団(JICA)との共催による「第28回麻薬犯罪取締りセミナー」を開催した。同セミナーには、アジア、中南米等24箇国(オブザーバー8箇国を含む。)が参加して、薬物鑑定、国際捜査協力等について、活発な討論が行われた。
 さらに、警察庁は、政府開発援助(ODA)として、開発途上国に対する薬物対策技術の移転を図るため、インドネシア、マレーシア、シンガポール及びタイに対する事前の調査を実施した。

2 風俗環境の浄化

(1) 風俗環境の浄化活動の推進
 警察では、国民の良好な社会生活環境の形成を図るため、風俗事犯の取締りとともに、風俗環境の浄化のための指導に力を入れている。特に風俗営業については、国民に健全な娯楽の機会を与える営業であるとして、健全化に努めている。この結果、強引な客引き、料金等をめぐるトラブル、卑猥(わい)な看板等が減少して、風俗環境の浄化が進んできている。
 しかし、その一方で、無許可風俗営業事犯、年少者に客の接待等をさせる事犯、外国人女性が関与する風俗関係事犯、デートクラブやテレホンクラブ等を舞台とした売春事犯、ゲーム喫茶等における遊技機使用の賭博(とばく)事犯等が跡を絶たないほか、このような風俗事犯への暴力団の介入等、看過できない事案も依然として発生しており、警察では、引き続きこれらの悪質事犯に重点を置いた指導、取締りを行っている。
ア 風俗営業の健全化
(ア) 風俗営業の状況

表5-5 風俗営業(料飲関係営業等)の営業所数の推移(昭和60~平成元年)

 最近5年間の料飲関係営業等(風営適正化法第2条第1項第1号~第6号)の営業所数の推移は、表5-5のとおりである。
 平成元年の違反態様別検挙状況は、図5-5のとおりであり、風営適正化法が施行された昭和60年以降一貫して減少している。

図5-5 風俗営業(料飲関係営業等)の違反態様別検挙状況(平成元年)

 また、遊技場営業(風営適正化法第2条第1項第7号、第8号)の営業所数の推移は、表5-6のとおりで、ぱちんこ屋の営業所数は56年以降増加を続けてい

表5-6 風俗営業(遊技場営業)の営業所数の推移(昭和60~平成元年)

るが、まあじやん屋及びゲームセンター等の営業所数は減少傾向にある。
 平成元年の違反態様別検挙状況は、図5-6のとおりである。
 検挙事犯の中では、ゲーム機を使用した賭博(とばく)事犯が最も多い。これらの事犯については、暴力団が関与している事例がみられるほか、その手口が悪質、巧妙化していることから、引き続き取締りを強化することとしている。

図5-6 風俗営業(遊技場営業)の違反態様別検挙状況(平成元年)

〔事例〕 喫茶店経営者(37)らは、マンションの一室にポーカーゲーム機を設置し、同室入口に監視カメラや見張りを付けて、ゲーム機賭博(とばく)を行っていた。6月、同経営者ら6人を常習賭博(とばく)で、客5人を単純賭博(とばく)で検挙(鹿児島)
(イ) 風俗営業の健全化
 風俗営業は、適正な営業が行われれば、国民に健全な社交と憩いの場を与える営業であるので、警察としては、風俗営業者による自主的な健全化のための活動を支援するとともに、風俗営業の健全化のための施策を積極的に推進している。
 とりわけ、ぱちんこ屋営業については、多くのファンを有する大衆娯楽として近年急速に成長しているものの、その裏面では暴力団の関与等の健全化を阻害する要因が根強く残っているため、健全化のための諸施策を強力に推進している。例えば、業界の健全化に資するとの観点からぱちんこの玉貸しに使用する全国共通プリペイドカードの導入について、必要な指導を行っている。また、客に提供された賞品は、いわゆる景品買取所で換金されることが常態化しているが、一部の地域においては、暴力団がこの景品買取所に深く関与しており、また、暴力団が営業者からみかじめ料等の名目で金銭を徴収する例も少なくないことから、暴力団排除のための指導と取締りを強化している。
イ 風俗関連営業(風営適正化法第2条第4項第1号~第5号)の状況
 最近5年間の風俗関連営業の営業所数の推移は、表5-7のとおりで、昭和59年以降漸減傾向にある。その一方で、風俗関連営業とはされていないデートクラブ、テレホンクラブ等の性風俗に関する営業の営業所数は増加している。

表5-7 風俗関連営業の営業所数の推移(昭和60~平成元年)

 平成元年の風俗関連営業の違反態様別検挙状況は、図5-7のとおりである。

図5-7 風俗関連営業の違反態様別検挙状況(平成元年)

ウ 深夜飲食店営業の状況
 最近5年間の深夜飲食店営業の営業所数の推移は、表5-8のとおりで、漸増傾向にある。

表5-8 深夜飲食店営業の営業所数の推移(昭和60~平成元年)

 元年の深夜飲食店営業の違反態様別検挙状況は、図5-8のとおりである。

図5-8 深夜飲食店営業の違反態様別検挙状況(平成元年)

(2) 売春事犯等の現況
 平成元年の売春防止法違反の検挙件数は、6,867件であり、最近5年間の検挙状況は、表5-9のとおりである。
 最近の売春事犯は、売春防止法制定当時多かった街娼(しょう)型、管理型からデートクラブに代表される派遣型が主流となり、総検挙件数の92.4%を占めるに至っている。これらの売春事犯においては、客との連絡に転送電話や携帯用無線電話を利用したり、男女交際相談所を偽装して売春をあっせんするなど、手口の巧妙化が目立ってきている。
 また、テレホンクラブは、元年12月末現在、全国で830軒が把握されており、次第に増加する傾向にある。元年には売春防止法違反、児童福祉

表5-9 売春防止法違反の検挙状況(昭和60~平成元年)

 法違反等で236件検挙しているが、この中には経営者が売春をあっせんしている事例や少女が性的被害者となっている事例等が見受けられる。
〔事例1〕 5月、「コンピューターで相性診断」というキャッチフレーズで週刊誌等に広告を出し、応募してきた男女会員約4,300人を対象に男女交際の仲介を偽装して売春をあっせんしていた法人組織の会員制売春クラブ3店を摘発、経営者(40)ら8人を売春防止法違反で検挙(警視庁)
〔事例2〕 テレホンクラブ経営者(41)は、テレホンクラブに電話してきた家出少女らを言葉巧みに誘い、アパートに居住させるなどして、テレホンクラブの客に売春をあっせんしていた。8月、同経営者を売春防止法違反等で、客5人を青少年健全育成条例違反で検挙するとともに、被害少女10人を保護した(宮崎)。
(3) 猥褻(わいせつ)事犯の現況
 平成元年の猥褻(わいせつ)事犯の検挙件数は、2,078件であり、最近5年間の検挙状況は、表5-10のとおりである。

表5-10 猥褻(わいせつ)事犯の検挙状況(昭和60~平成元年)

 最近は、ビデオ機器の普及等から、露骨な表現の猥褻(わいせつ)ビデオテープ等を販売する事犯が増加している。これらの猥褻(わいせつ)ビデオテープ等については、雑誌広告やダイレクトメール広告を利用した通信販売によるものが多く、販売元を隠すため営業所とは別の場所で郵便を受け付けるなどの事例も見受けられ、販売方法が巧妙化してきている。
〔事例〕 7月、渡米して仕入れた猥褻(わいせつ)ビデオテープを大量にダビングし、ビデオ雑誌等で広告宣伝したり、過去に取引のあった顧客約1,300人にダイレクトメールを発送するなどして、猥褻(わいせつ)ビデオテープを宅配便により通信販売していた猥褻(わいせつ)ビデオ販売業者(30)を猥褻(わいせつ)図画販売等で検挙、猥褻(わいせつ)ビデオテープ約1万巻を押収(警視庁)

(4) ノミ行為事犯の現況
 平成元年のノミ行為事犯の検挙件数は、886件であり、最近5年間の検挙状況は、表5-11のとおりである。

表5-11 ノミ行為事犯の検挙状況(昭和60~平成元年)

 最近は、警察と施行者の連携の下に、暴力団、ノミ屋等の公営競技場からの排除措置が効果的に推進され、公営競技場の浄化が進んでいる。しかし、その一方、ノミ行為の場がアパートの一室、喫茶店、まあじゃん屋等の場外に拡散しており、また、暴力団がその元締になって資金源としている場合が多いことから、警察では、今後とも、ノミ行為事犯の取締りを強力に推進することとしている。
〔事例〕 2月、僕のお父さんは競輪狂い、助けて」と訴えたノミ行為客の子供の声を端緒に、喫茶店等をノミ行為場所としてノミ行為を行っていた暴力団幹部(51)を含む胴元12人及び客45人を自転車競技法違反で検挙(愛知)

3 銃砲の取締りと適正管理

(1) けん銃等の取締り
 平成元年のけん銃使用犯罪の検挙件数は、157件(うち殺人68件)であり、そのうち暴力団関係者によるものが150件で、全体の95.5%を占めている。最近5年間におけるけん銃等の銃砲使用犯罪の検挙件数の推移は、表5-12のとおりである。

表5-12 けん銃等の銃砲使用犯罪の検挙件数の推移(昭和60~平成元年)

 けん銃は、殺人、強盗等の凶悪な犯罪に使われる極めて危険な武器であるので、警察では、けん銃の不法所持事犯の取締りに力を入れるとともに、海外からのけん銃の流入を防ぐため、税関等の関係機関、団体等との緊密な連携の下に、けん銃密輸入事犯の水際検挙と密輸入ルートの解明に努めている。しかし、けん銃の不法所持事犯及び密輸入事犯は、潜在性が強く、取り締まることが著しく困難であることから、これらの 犯罪の取締りに有効な新しい方策について検討を進める必要がある。
〔事例〕 暴力団幹部(45)らは、けん銃40丁、実包800個をガーデンテーブルに隠匿し、フィリピンから定期貨物船を利用して神戸港に密輸入した。8月検挙(大阪)
(2) 猟銃等の適正管理
 都道府県公安委員会の所持許可を受けた猟銃及び空気銃(以下「猟銃等」という。)の数は、11年連続して減少し、平成元年12月末現在49万3,373丁となっている。猟銃等による事故の発生件数、死傷者数も6年連続して減少し、元年の発生件数は72件、死傷者数は72人であった。また、猟銃等を使用した犯罪は、30件発生している。
 猟銃等は、狩猟、有害鳥獣駆除、標的射撃等の用途に供するための所持が許可されているが、人を殺傷する威力を有するものであるので、警察では、猟銃等の所持者に対し適正な保管、取扱いについての指導を行い、猟銃等による危害の発生の防止に努めている。

4 危険物対策の推進

(1) 火薬類対策の推進
 平成元年の猟銃用火薬類等(専ら猟銃、けん銃等に使用される実包、銃用雷管、無煙火薬等)の譲渡、譲受け等の許可件数は、9万7,781件であった。
 また、元年には、火薬類の盗難事件が12件、実包を除く火薬類(ダイナマイト、火薬等)を使用した犯罪が8件発生した。
 警察では、火薬類取締法に基づき、火薬類の製造所、販売所、火薬庫、消費場所等に対して積極的な立入検査を実施し、火薬類の保管方法等についての指導と取締りを行っている。
(2) 高圧ガス、消防危険物等による事故の防止
 平成元年には、事業所や一般家庭において、高圧ガス、消防危険物等による事故が757件発生し、253人の死者が出ている。
 警察では、高圧ガス、石油類等の事故を防止するため、関係機関との連携の下に取締りを行っているが、元年には、高圧ガス取締法、消防法等危険物関係法令違反により、630件、614人を検挙した。特に、11月には、輸送中の危険物の安全を確保するため、危険物運搬車両の全国一斉の集中指導取締りを行い、悪質な違反226件、226人を検挙した。
(3) 放射性物質の安全対策の推進
 平成元年に都道府県公安委員会が受理した放射性物質の運搬届出件数は、核燃料物質等が1,107件、放射性同位元素等が294件であった。
 核燃料物質等の運搬に際しては、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」により、都道府県公安委員会から運搬証明書の交付を受け、運搬中はこれを携帯し、かつ、これに記載された内容に従って運搬しなければらないこととなっている。
 警察では、核燃料物質等の使用者等に対し事前指導を行うなど、核燃料物質等の運搬の安全確保に努めている。

5 消費者被害防止対策の推進

(1) 悪質商法の現況と取締り
ア 巧妙化、潜在化を強める悪質商法
 個人貯蓄の増大、高齢化社会の進展等を背景に、国民の間には依然として財テクブームが続いている。このような社会経済情勢の下で、先物取引や証券取引といった投機的な取引に一般消費者を誘い込み、巧妙な手口によって多額の金銭をだまし取る事犯は、平成元年も跡を絶たなかった。また、生活水準の向上、健康や美容に対する関心の高まりといった社会の動向に付け込み、訪問販売等の方法により粗悪な商品を高額で売り付ける無店舗販売事犯は、元年も大きな被害を発生させた。
 元年に検挙した事例をみると、摘発前には被害申告がほとんどなかったにもかかわらず、捜査の結果、広域にわたり多数の被害者が存在することが判明したケースが目立った。これは、悪質業者が、犯行の発覚を防止するためにその手口をより巧妙化させるとともに、返金、解約等を強く求める被害者に対して和解金を交付するなどの対策を講じることなどによって、被害自体が潜在化していることを示すものである。
〔事例〕 青森県警察が検挙した証券取引をめぐる悪質商法では、その手口が極めて巧妙であったために、摘発前に警察等に寄せられた苦情、相談事案は全くなかったにもかかわらず、捜査の結果判明した被害状況は、被害者約100人、被害額約3億円に達していた。
イ 悪質商法の取締り
(ア) 証券取引をめぐる悪質商法
 元年の検挙状況は、検挙事件数15事件、検挙人員45人であり、被害状況は、被害者約2,000人、被害額約43億4,000万円に上った。
 元年は、証券業の免許のない悪質業者が、個人投資家を対象に、「二・八商法」、「株の分譲」といった手口を巧妙に組み合わせて多額の金銭をだまし取る事犯が目立った。「二・八商法」とは、「自己資金で2割を出せば、会社で残りの8割を融資する。わずかな資金で大きなもうけができる」などと言って、株式買い付け資金の融資担保金の名目で金銭をだまし取る手口であり、「株の分譲」とは、「会社が買い付けている優良株がある。これをあなただけに特別に買い付けたときの値段で分けてやる」などと言って金銭をだまし取る手口である。
 また、投資顧問業の登録を受けていない悪質業者が客から株式売買の一任を取り付けて多額の金銭をだまし取る事犯もみられた。
 警察では、こうした悪質業者に対して、詐欺罪のほか、証券取引法、「有価証券に係る投資顧問業の規制等に関する法律」を適用して取締りの徹底を図った。
〔事例1〕 会社社長(50)らは、「会社で持っている絶対にもうかる優良株を特別に安く売ってやる。会社で資金を融資するのでわずかな自己資金で更にもうけることができる」などと利殖をあおり、1都1道1府18県の一般投資家約200人から総額約6億円をだまし取っていた。11月22日までに、詐欺で社長ら4人を逮捕(福岡)
〔事例2〕 会社社長(64)らは、一般投資家を対象に、投資判断に関する助言に対する報酬を支払う旨の契約を結ぶなどして無登録で投資顧問業を営んだほか、自己の取引の損失を穴埋めするため、「投資資金がなければ頭金の5倍まで関連の金融会社が低利で融資する」と持ち掛け、総額約1億円の現金等をだまし取っていた。5月29日、詐欺で2人を逮捕(鳥取)
(イ) 先物取引をめぐる悪質商法
 元年の検挙状況は、検挙事件数5事件、検挙人員43人であり、被害状況は、被害者約5,000人、被害額約169億8,000万円に上った。
 検挙した事例をみると、海外先物取引業者が、海外先物取引より手数料が安く利益の大きい国内私設市場における先物取引に移行して詐欺事犯を敢行していたもの、自社で作ったダミーの客に利益を生じさせ、一般の客を安心させるという手口を用いていたものが目立った。
〔事例1〕 元海外先物取引業者(40)らは、「パラジウムを買えば、1箇月後には2割の利益が出ることを保証する」などと言って一般消費者を国内私設市場の先物取引に誘い込み、実際には、無断売買等によって顧客に損をさせ、被害者44人から総額約1億円をだまし取っていた。2月1日、詐欺で10人を逮捕(福岡)
〔事例2〕 海外先物取引業者(49)らは、「絶対にもうかる。こんなに利益の出ている客もいる」などと言ってダミー客の利益の状況を示して主婦等を先物取引に誘い込み、頻繁に無断売買を繰り返して客の損失を増やしたり、利益を得た客には更に投資額を増大させて返金を先延ばしするなどして、8都府県の被害者約900人から総額約18億9,000万円をだまし取っていた。5月30日、詐欺で7人を逮捕(愛知)
(ウ) 無店舗販売事犯
 元年の検挙状況は、検挙事件数157事件、検挙人員498人であり、被害状況は、被害者約9万4,000人、被害額約90億6,000万円に上った。
 検挙された無店舗販売事犯において販売等されていた商品等の種類別内訳は、表5-13のとおりであり、従来と同様に消火器、電話機等の商品の販売に関する事犯が大部分を占めた。

表5-13 無店舗販売事犯の商品等の種類別内訳(平成元年)

 警察では、これらの事犯に対し、あらゆる法令を多角的に適用して取締りの徹底を図るとともに、客の契約解除の申出に対して、威迫して困 惑させ解除を妨げていた事案に、昭和63年に一部改正された「訪問販売等に関する法律」(以下「訪問販売法」という。)を効果的に適用するなどして悪質業者の早期検挙を図った。
〔事例1〕 ステンドグラス製作装置の販売業者(48)らは、実際には、出来上がった製品は品質等にクレームを付けて引き取らないにもかかわらず、「6箇月間の買上げを保証する。その後も買上げ契約を更新する」などと言って主婦等をステンドグラス製作の内職に勧誘し、高額の製作装置や材料を売り付けるという手口で、24都県の被害者約1,200人から総額約9億円をだまし取っていた。平成元年7月12日までに、詐欺で10人を逮捕(富山、千葉)
〔事例2〕 カーポート等販売業者(47)らは、一般家庭を訪問して、「特別に安い値段でモデルカーポートを作らせてもらいたい」などと巧みなセールストークで契約を締結し、後日、契約解除を申し入れた被害者に対して「うちの損害をどうしてくれる。毎日、損害の請求をしてやる」などと威迫して契約の解除を妨げていた。4月30日、訪問販売法第5条の2違反で1人を逮捕(愛知)
(エ) 「原野商法」
 元年の検挙状況は、検挙事件数4事件、検挙人員52人であり、被害の状況は、被害者約2,000人、被害額約67億4,000万円に上った。
 検挙した事例をみると、不動産業者らが、「原野商法」の被害者がその保有する原野の処分に困っていることに目を付け、高額で転売することを口実に巧みに接近し、土地の測量代金、開発申請手数料等の名目で現金をだまし取る「第二次原野商法」の被害が全国的に続発したのをはじめ、最近の異常な地価高騰を背景に、従前の人里離れた原野から、大都市近郊の山林等に舞台を移して「原野商法」を敢行していた事犯も発生した。
〔事例〕 無免許の不動産業者(47)らは、大都市近郊の廉価な山林、原野を販売するに当たり、客に実態のない好条件の販売区画図面を見せ、宅地造成地のように思い込ませた上、「将来値上がり確実の土地だ。5年後に当社が必ず倍の値段で買い戻すか転売する」などと言って約830人から約51億円をだまし取っていた。5月24日までに、詐欺で3人を逮捕(大阪)
(オ) 新しい手口の悪質商法
 元年には、健康食品等の商品販売を装った会員制の金銭配当システムを構築し、ネズミ講の規制やマルチ商法の規制、預り金の規制その他の法の網を巧みに逃れ、一般消費者から組織的に金銭をだまし取るという新しい手口の悪質商法がみられた。
〔事例〕 会社社長(48)らは、中国茶等の販売を装った金銭配当システムを考案し、実際にはネズミ講同様ごく一部の顧客を除いて配当金をすべて受け取ることが不可能であるにもかかわらず、「74万円を支払って会員になれば、商品を送るとともに、その翌月から総額約384万円の配当金を30回にわたって配当する」などと利殖を強調して客を勧誘し、全国の被害者約5,000人から総額約79億円をだまし取っていた。7月4日までに、詐欺で12人を逮捕(高知)
(2) 消費者被害防止のための諸施策の推進
ア 「悪質商法110番」の活用
 平成元年に各都道府県警察の「悪質商法110番」に寄せられた苦情、相談件数は、1万1,119件であった。警察では、「悪質商法110番」に寄せられた苦情、相談を基に重点的な取締りを実施した結果、118事件を検挙した。
〔事例〕 「悪質商法110番」に寄せられた苦情、相談を通じて得た情報を基に、証券会社の免許を有しない業者を捜査した結果、会社社長 (60)らは、1都1道17県の一般消費者105人から総額約4億2,000万円をだまし取っていたことが判明した。11月14日、詐欺で3人を逮捕(千葉)
イ 消費者行政担当機関等との連携強化
 警察では、各地方自治体の消費者行政担当課、消費生活センター等と消費者被害の未然防止、拡大防止を図るための会議を開催するなどしてこれらの機関との連携強化を図った。
 警察では、こうした会議等を通じて得た情報を基に重点的な取締りを実施した結果、15事件を検挙した。
〔事例〕 青森県警察では、県県民生活課、県消費生活センターとの間で「悪質業者対策連絡協議会」を結成し、平素から活発な情報交換を実施しており、消費生活センターから寄せられた「原野商法」に関する情報を基に捜査を行った結果、悪質業者が34都府県の一般消費者約450人から総額約10億円をだまし取っていたことが判明した。 11月23日までに、詐欺で7人を逮捕
ウ 消費者被害防止のための広報啓発活動
 警察では、悪質商法による被害の未然防止、拡大防止を図るため、防犯協会、消費者行政担当機関等との連携の下に、一般消費者に対する広報啓発活動を積極的に実施した。一般消費者に配布したパンフレット等の広報啓発資料は、約730万部に達した。
〔事例〕 悪質商法のうちでも、特に無店舗販売事犯については、国民のだれもが被害者になる可能性を有しているとの認識の下に、「悪質商法(訪問販売取引関係)の被害に遭わないめに」と題するパンフレットを作成し、全国の防犯協会を通じて一般消費者に約6万5,000部配布した。

6 知的所有権保護対策の推進

(1) 知的所有権侵害事犯の取締り
 警察では、近年、国際的に知的所有権保護の必要性が高まっていることにかんがみ、知的所有権侵害事犯を取締り重点に掲げるとともに、国内における不正商品等の流通情報を総合的に収集している不正商品対策協議会(権利者団体8団体で構成する民間団体)等の関係団体との連携を図って悪質業者の早期検挙に努めている。
 平成元年の知的所有権関係法令違反の検挙状況は、検挙件数1,616件、検挙人員742人であり、最近5年間の法令別検挙状況は、表5-14のとおりである。

表5-14 知的所有権関係法令違反の法令別検挙状況(昭和60~平成元年)

ア 海賊版事犯
 元年の海賊版事犯については、権利者からの再三にわたる警告を無視し、海賊版ビデオを製造頒布していたもの、レンタルが認められていないコンピュータソフトを、販売を仮装してレンタルしていたものなどがあり、事犯の悪質、巧妙化の傾向がみられた。
 なお、警察では、昭和63年11月に施行された改正著作権法の頒布目的所持罪を効果的に適用し、24事件を検挙した。
〔事例〕 ビデオレンタル店の経営者(40)らは、権利者の再三にわたる警告にもかかわらず、これを無視し、海賊版ビテオのレンタルを続けていた。海賊版ビデオ約1万本、複製機31台を押収するとともに、平成元年7月11日までに、頒布目的所持罪による逮捕2人を含む5人を著作権法違反で検挙(山口)
イ 偽ブランド商品事犯
 元年は、わずかな費用で作れるシャツ、靴下、靴等にマークを付して販売する事犯の検挙が跡を絶たなかったが、製造に費用の掛かる鞄等を材料とする場合には、これらを海外から携帯輸入していたものも多くみられた。
〔事例〕 靴下販売業者(45)らは、有名ブランドのワンポイントマークを付した靴下約4万足を製造し、全国に販売して約1,000万円の利益を得ていた。1府8県の28箇所を捜索し、偽商品約2,000点を押収するとともに、9月5日までに、商標法及び不正競争防止法違反で逮捕1人を含む8法人17人を検挙(宮城)
(2) 知的所有権保護に関する広報啓発活動
 警察では、適時適切な事件広報のほか、不正商品対策協議会と協力して、知的所有権保護の重要性、不正商品排除の必要性について広報啓発活動を実施した。
〔事例〕 不正商品対策協議会は、警察庁と協力して、不正商品排除の必要性を訴えるため、「これは大丈夫かな?」のキャッチコピーを付した広報啓発ポスターを作成して、警察、消費者団体等へ配布したほか、不正商品防止フェアの実施や千葉県で開催された「まなびピア'89」への参加等、積極的、多角的な活動を展開した。

7 国際経済事犯の取締り

 平成元年の外国為替及び外国貿易管理法(以下「外為法」という。)違反の検挙状況は、検挙件数40件、検挙人員25人、関税法違反の検挙状況は、検挙件数87件、検挙人員41人であった。
 元年は、台湾産鯨肉を密輸入した事件、価格を低価に申告して高級外車を輸入して物品税を免れた事件のほか、メガネカイマン(ワニ)皮革を密輸入した事件をはじめ、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」(通称ワシントン条約)により、商業目的の輸入が規制されている希少動物を密輸入する事件が目立った。最近5年間の国際経済事犯の法令別検挙状況は、表5-15のとおりである。

表5-15 国際経済関係事犯の法令別検挙状況(昭和60~平成元年)

8 公害事犯の取締り

 警察では、国民の健康を保護するとともに生活環境の保全を図るため、悪質な産業廃棄物の不法処分事犯や水質汚濁事犯に重点を置いた取締り を行ってきた。最近5年間における公害事犯の法令別検挙状況は、表5-16のとおりである。

表5-16 公害事犯の法令別検挙状況(昭和60~平成元年)

(1) 廃棄物事犯
 平成元年の「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(以下「廃棄物処理法」という。)違反の検挙件数は、2,006件であり、これを態様別にみると、廃棄物をみだりに捨てる不法投棄事犯が依然として多く、全体の74.5%を占めている。
 不法投棄又は無許可で埋立処分等された産業廃棄物の総量は、約86万9,000トンであり、その種類別、場所別状況は、図5-9のとおりである。内容的には、大都市における建設工事、解体工事や大規模建設プラントに伴って生じた大量のコンクリート片等の建設廃材を隣接県の山林等において無許可処分していた事犯や化学工場等から排出された廃油等の産業廃棄物を不法投棄していた事犯が目立った。

図5-9 不法投棄等された産業廃棄物の種類別、場所別状況(平成元年)

〔事例〕 産業廃棄物の中間処理業者(51)は、自ら処理し切れない廃油等約1万キロリットルの処理を無許可処理業者(47)らに約1億5,000万円で再委託し、無許可処理業者らは、この廃油等を廃坑に流し込んで捨てていたほか、周辺の空き地数箇所に、廃油等が入ったドラム缶約7,500本を埋立処分していた。10月20日までに、廃棄物処理法違反で逮捕9人を含む3法人28人を検挙(福島)

(2) 水質汚濁事犯
 平成元年の水質汚濁事犯の検挙件数は、45件であった。このうち、工場等が水質汚濁防止法等に基づいて定められている排水等基準に違反して汚水を排出等する事犯の検挙件数は、30件であった。
〔事例〕 自動車部品等メッキ会社の取締役(41)は、汚水処理施設の処理能力が老朽化に伴って著しく低下し、行政機関から十数回にわたる改善命令等を受けていたにもかかわらず、これを無視し、基準の10倍以上の六価クロムを含有する褐色の汚水を垂れ流していた。4月5日、水質汚濁防止法違反で1法人1人を検挙(千葉)


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