第2章 犯罪情勢と捜査活動

 平成元年の刑法犯の認知件数は167万件を超え、戦後最高を記録した前年を更に上回ったが、その特徴は、警察庁指定第117号事件をはじめとする幼児等対象の誘拐殺人事件が多発したこと、来日外国人による凶悪犯罪の増加が著しいこと、暴力団による銃器を用いた対立抗争事件が激増したことなどである。
 近年、犯罪は悪質、巧妙化、広域化、スピード化といった質的変化をみせており、他方で、都市化の進展や商品の大量生産、大量流通等の社会情勢の変化に伴い、有効な目撃情報を得ることや、犯罪現場等の遺留品から所有者を割り出すことなどの捜査活動がますます困難になってきている。
 このような情勢に対処するため、警察では、広域捜査力及び国際捜査力の強化、捜査活動の科学化、捜査技術の研さんと優れた捜査官の育成、国民協力確保といった諸施策を講ずるなど、積極的に「事件に強い警察」の確立を目指している。
 また、警察では、暴力団を壊滅し、暴力的不法行為を根絶するため、指定暴力団に重点を置いた取締りを徹底して暴力団員の大量反復検挙、資金源活動に対する取締り、銃器等の摘発を図るとともに、関係機関、団体等との緊密な連携の下に暴力団排除活動を強力に推進し、また、海外の捜査機関等との連携を密接にして暴力団の国際化に対処している。

1 犯罪の特徴と傾向

(1) 平成元年の犯罪の特徴
ア 幼児等対象の誘拐事件の多発
 平成元年は、幼児等(12歳以下をいう。以下同じ。)対象の誘拐事件が多発した(表2-1)。中でも、警察庁指定第117号事件(埼玉県、東京都における連続幼女誘拐殺人事件)は、昭和63年8月から平成元年6月の間に起きた同一犯人による連続4件の幼女誘拐殺人事件であり、また、その犯行が被害者を殺害した上、死体を切断し他県に遺棄するといった悪質、残虐な事件であったことから、社会的反響を呼んだ。また、小学生女児を誘拐した犯人が、現金持参場所を隣県に指定し、被害者を殺害するなど、広域にわたる幼児等対象の誘拐事件の発生もみられた。

表2-1 幼児等対象誘拐事件の認知、検挙状況(昭和60~平成元年)

〔事例〕 東京都五日市町居住の男(27)は昭和63年8月から平成元年6月にかけて、埼玉県及び東京都下において、4人の幼女を次々と誘拐、殺害した上、死体を切断するなどし、遺棄した(警察庁指定第117号事件)。元年8月11日検挙(警視庁、埼玉)
イ 来日外国人による凶悪事件の多発
 近年の我が国の国際化の進展に伴い、来日外国人による犯罪が増加傾 向にある(表1-10参照)。
 中でも、来日外国人による凶悪事件の増加が著しく、元年には、検挙件数98件、検挙人員94人と前年に比べ、検挙件数は50件、人員は16人それぞれ増加し、過去最高を記録した(図2-1)。凶悪事件を犯した来日外国人被疑者についてみると、その約9割(85人)がアジア地域の出身であり、観光名目で来日し、不法残留していた者や就学生として来日した者が目立っている(第1章第2節参照)。

図2-1 来日外国人凶悪事件検挙状況(昭和55~平成元年)

〔事例〕 中国人就学生(25)らは、埼玉、神奈川両県において同国人の就学生のアパートに凶器を持って押し入り、キャッシュカード、現金等を強取し、奪ったキャッシュカードを使って、現金を引き下ろしていた。元年8月21日までに3人を逮捕(埼玉、神奈川)
ウ 暴力団による銃器を用いた対立抗争事件の激増
 暴力団の対立抗争事件は、山口組と一和会とが大規模な対立抗争事件を引き起こした昭和60年をピークとして最近は減少する傾向にあった。しかし、平成元年中における対立抗争事件の発生回数(注1)は156回と、

図2-2 対立抗争事件、銃器発砲事件の発生状況(昭和55~平成元年)

前年に比べ28回(21.9%)増加しており、4年ぶりに増加に転じた(図2-2)。
 この背景としては、大規模暴力団が一層の勢力拡大を図っていることが挙げられる。特に、北海道及び東北において、指定暴力団(注2)である山口組、稲川会及び住吉連合会の3団体(以下「指定3団体」という。)の進出が顕著であり、この結果、地元暴力団との摩擦や指定3団体相互の主導権争いが激化している。元年における対立抗争事件の発生事件数(注1)は30事件であるが、そのうち指定3団体の関与するものは28事件に及び、関与率は93.3%と過去最高に達している。
(注1) 対立抗争事件においては、特定の団体間の特定の原因による一連の対立抗争の発生から終結までを「発生事件数」1事件として数え、対立抗争当事者間の攻撃回数の合計を「発生回数」としている。
(注2) 指定暴力団とは、警察庁が集中取締りの対象として指定した悪質かつ大規模な暴力団をいい、元年の指定暴力団には山口組、稲川会及び住吉連合会の3団体が指定されている。

 また、すべての対立抗争事件についてその過程で銃器が使用されており、発生回数でみても銃器使用の割合は91.0%と過去最高となっている。
 さらに、暴力団による銃器発砲事件全体の発生回数も元年には268回と4年ぶりに増加した。その態様も一層凶悪化しており、繁華街、ホテルのロビー、病院等で発砲する事件が多発し、一般市民が巻き添えに遭った銃器発砲事件が元年には15件も発生するなど、市民社会に多大な危険と脅威を与えている。
〔事例〕 かねてより山口組系暴力団と稲川会系暴力団は、札幌市内の縄張をめぐり争っていたが、元年9月27日、交通上のトラブルから双方の組員が殴り合いになったことに端を発して、同日だけで相互に19回もの銃器発砲事件を敢行する対立抗争事件が発生した。10月11日までに24人を検挙、けん銃10丁を押収し鎮圧(北海道)
(2) 平成元年の犯罪の傾向
ア 刑法犯の認知と検挙の状況
(ア) 認知状況
 平成元年の刑法犯認知件数(注)は、167万3,268件で、前年に比べ3万1,958件(1.9%)増加して、戦後最高を記録した前年を更に上回った(図2-3)。これは、窃盗犯のうちのオートバイ盗、自転車盗等の乗物盗の増加が著しかったことによるものである。
(注) 罪種別認知件数は、資料編統計2-3参照
 元年の刑法犯認知件数の包括罪種別構成比をみると、窃盗犯が148万3,590件で、全体の88.7%を占めている(図2-4)。
 過去20年間の刑法犯包括罪種別認知件数の推移をみると、粗暴犯、風俗犯、凶悪犯が減少傾向にあるのに対し、窃盗犯は増加傾向にある(図2-5)。

図2-3 刑法犯認知件数と犯罪率の推移(昭和21~平成元年)

図2-4 刑法犯認知件数の包括罪種別構成比(平成元年)

図2-5 刑法犯包括罪種別認知件数の推移(昭和45~平成元年)

(イ) 検挙状況
 元年の刑法犯検挙件数(注1)は77万2,320件、検挙人員(注2)は31万2,992人で、前年に比べ、検挙件数は20万9,845件(21.4%)、検挙人員は8万5,216人(21.4%)それぞれ減少した(図2-6)。

図2-6 刑法犯検挙件数、検挙人員の推移(昭和21~平成元年)

(注1) 罪種別検挙件数は、資料編統計2-4参照
(注2) 罪種別検挙人員は、資料編統計2-5参照
なお、検挙人員には、触法少年を含まない。
 この減少の主な原因は、窃盗犯、特に自転車盗、万引き等の大幅な減少によるものであるが、これは、被害意識の希薄な事案の捜査等を合理化し、地域住民が不安を感じ、その解決を期待する犯罪の捜査に重点を置く方針を採ったことなどの理由によるものと認められる。
 過去20年間の年齢層別犯罪者率の推移をみると、近年では、14歳から19歳までの層の犯罪者率が著しく高くなっている(図2-7)。

図2-7 刑法犯年齢層別犯罪者率の推移(昭和45~平成元年)

(ウ) 国際比較
 殺人、強盗、強姦(かん)について、昭和63年の犯罪率と検挙率を米国、英国、西ドイツ、フランスと比べると、図2-8のとおりである。

図2-8 殺人、強盗、強姦(かん)の犯罪率と検挙率の国際比較(昭和63年)

イ 被害の状況
(ア) 生命、身体の被害
 平成元年に認知した刑法犯により死亡し、又は負傷した被害者数は、死者1,446人、負傷者2万6,127人で、前年に比べ、死者は185人(11.3%)、負傷者は1,894人(6.8%)それぞれ減少した(表2-2)。死者数について罪種別にみると、殺人による死者が754人で死者総数の半数を超えており、次いで業務上(重)過失致死、傷害致死、強盗殺人(強盗致死を含む。)、過失致死、放火、失火の順となっている。

表2-2 刑法犯による死者と負傷者数の推移(昭和60~平成元年)

(イ) 財産犯による被害
 元年に認知した刑法犯のうち、財産犯(強盗、恐喝、窃盗、詐欺、横領、占有離脱物横領をいう。)による財産の被害総額は、約1,856億円であり、このうち、現金の被害は約682億円で、前年に比べ、被害総額は約124億円(6.2%)、現金の被害は約114億円(14.3%)それぞれ減少した(表2-3)。財産犯による被害について罪種別にみると、事件数の多い窃盗の被害が約1,262億円で被害総額の68.0%を占めて最も多く、次いで詐 欺、横領、恐喝、強盗、占有離脱物横領の順となっている。

表2-3 財産犯による財産の被害額の推移(昭和60~平成元年)

ウ 第15回参議院議員通常選挙の違反取締り
 第15回参議院議員通常選挙(元年7月5日公示、23日施行)は、改選126議席に対し史上最高の670人が立候補した。
 検挙状況は、検挙件数が497件、検挙人員が1,385人で、前回(昭和61年)に比べ、件数は224件(82.1%)、人員は661人(91.3%)それぞれ増加した(表2-4)。これを罪種別にみると、買収の検挙件数、人員は、

表2-4 参議院議員通常選挙における違反検挙状況(第14回:昭和61年10月4日まで 第15回:平成元年10月21日まで)

それぞれ315件、1,013人であり、件数で全体の63.3%、人員で全体の73.1%を占めた。また、警告件数(投票日後90日まで)は1万1,373件で、前回に比べ、969件増加した(表2-5)。

表2-5 参議院議員通常選挙における違反警告状況(第14回:昭和61年10月4日まで 第15回:平成元年10月21日まで)

エ 贈収賄事件
 平成元年中の贈収賄事件の検挙状況は、検挙事件数が71事件、検挙人

図2-9 贈収賄検挙事件数、検挙人員の推移(昭和55~平成元年)

員が267人で、前年に比べ、事件数で22事件(23.7%)、検挙人員で104人(28.0%)それぞれ減少した(図2-9)。
 元年に検挙した収賄被疑者の身分別検挙状況をみると、道県庁の上級幹部、市町村の首長11人、日本たばこ産業(株)調査役を検挙したのをはじめ、県議会議員1人を贈賄で検挙するなど社会的地位の高い者の検挙が目立った(表2-6、表2-7)。

表2-6 収賄被疑者の身分別検挙人員の推移(昭和55~平成元年)

表2-7 市町村の首長の検挙人員の推移(昭和55~平成元年)

〔事例〕 新利根村長(69)は、同村発注の公共工事に関し、指名選定、予定価格教示等に有利な取り計らいをした謝礼として、茨城県議及び建設業者等から現金約1,500万円を受け取った。2月10日逮捕(茨城)
 元年に検挙した贈収賄事件を態様別にみると、依然として公共工事をめぐるものが多いが(表2-8)、行政プロジェクト策定のためのシンクタンクへの調査業務委託をめぐるもの、資金運用のための株式取引をめぐるもの、広告宣伝用のイベントの企画をめぐるものなど社会経済情勢の変化を反映した新たな利権構造に絡む贈収賄事件の検挙が目立った。

表2-8 贈収賄事件の態様別検挙件数の推移(昭和60~平成元年)

〔事例〕 北海道開発調整部元参事(41)らは、同部発注の新長期総合計画に係る21世紀技術開発プロジェクト調査業務委託に関し、指名選定、予定価格教示等に有利な取り計らいをした謝礼として、調査、企画、立案等を業とする業者から現金約4,000万円を受け取った。6月16日逮捕(北海道)
オ カード犯罪
 キャッシュカード、クレジットカードの発行枚数及び現金自動支払機(ATMを含む。以下同じ。)の設置台数は著しく増加している(図2-10)。元年のカード犯罪(注)の認知件数は6,658件、検挙件数は6,337件、検挙人員は903人であり、前年に比べ、ともに減少しているが(図2-11)、この減少の一因には、CAT(信用照会端末機)等の普及が挙げられる。
(注) カード犯罪とは、キャッシュカード、クレジットカード及びサラ金カードのシステムを利用した犯罪で、コンピュータ犯罪以外のものをいう。

図2-10 キャッシュカード、クレジットカードの発行枚数及び現金自動支払機の設置台数の推移(昭和60~平成元年)

図2-11 カード犯罪の認知、検挙状況(昭和60~平成元年)

 元年に検挙したカード犯罪を罪種別にみると、店員等にクレジットカードを提示して金品をだまし取るなどの詐欺が5,517件(87.1%)で最も多く、次いで現金自動支払機を操作して現金を引き出す窃盗が808件(12.8%)となっている。
 次に、態様別にみると、窃取したカードを使用したものが1,762件(27.8%)と最も多く、次いで他人名義で不正取得したカードを使用したものが1,531件(24.2%)、本人名義のカードを使用したものが1,497件(23.6%)の順となっている。
 カードを使って現金自動支払機から現金を引き出す場合には、あらかじめ暗証番号を知っていなければならないが、元年に検挙したカード使用の窃盗事件808件について犯人が暗証番号を知った方法をみると、 「カードと暗証番号を同時に入手」したものと「面識があり以前から暗証番号を知っていた」ものを合わせて513件(63.5%)となっており、暗証番号の設定、管理に甘さがあることがうかがわれる(表2-9)。

表2-9 カード使用の窃盗事件における暗証番号を知った方法別検挙状況(平成元年)

カ コンピュータ犯罪
 近時、コンピュータは社会の様々な分野で必要不可欠なものとなっているが、他方、最近のコンピュータ・システムの特性を利用した新しいタイプの犯罪が問題となっている。元年におけるコンピュータ犯罪(注1)の認知件数は17件であり(表2-10)、その特徴としては、コンピュータ端末機を操作して、電磁的記録を不正に作出し、多額の現金を横領する事件、情を知らない係官をして電磁的記録である公正証書の原本に不実の記載をさせる事件、テレホンカードの大量変造事件等が多発している。また、コンピュータ・ウイルス(注2)についても、国立大学の研究所等が被害に遭うなどし、社会的問題となった。
 こうした犯罪や事故等からコンピュータ・システムを防護する必要性が高まっていることから、警察庁では、部外の学識経験者を加えた「コンピュータ・システム安全対策研究会」において、コンピュータ・システムに係る総合的な防護対策を調査、検討するとともに、事業者に対し

表2-10 コンピュータ犯罪の認知状況(昭和46~平成元年)

て、同研究会が発表した「情報システム安全対策指針」に基づき安全対策の指導を行うなど、総合的なコンピュータ・セキュリティの確保に取り組んでいる。特に、昭和63年以降コンピュータ・ウィルスによる被害が問題となったことから、同研究会は、平成元年11月に「コンピュータ・ウィルス等不正プログラム対策指針」を発表した。
(注1) コンピュータ犯罪とは、コンピュータ・システムの機能を阻害し、又はこれを不正に使用する犯罪(過失、事故等を含む。)という。
(注2) コンピュータ・ウイルスとは、使用者の意図に反してコンピュータに侵入し、プログラムやデータを破壊したり、書き換えたりするプログラムのことをいう。
〔事例〕 労働金庫預金係(32)は、顧客から預かった現金を入金せず、 コンピュータを操作して偽りの預金証書を作成し、顧客に交付して現金を横領したほか、コンピュータの端末機を操作して顧客の定期預金から自己の仮名口座へ勝手に振替入金するなど、2年余りの間に36回にわたり総額約1億円をだまし取った。2月9日逮捕(山形)
キ 国際犯罪
(ア) 日本人の国外における犯罪
 警察が国際刑事警察機構(ICPO)(注)、外務省等を通じて通報を受けた日本人の国外犯罪者数の推移は、表2-11のとおりである。

表2-11 日本人の国外犯罪者数の推移(昭和55~平成元年)

 内容的には、関税・外国為替関係事犯、薬物関係事犯が多く、犯罪地国は、米国、韓国、フィリピンが多い。
(注) 国際刑事警察機構(ICPO)は国際犯罪捜査に関する情報交換、犯人の逮捕と引渡し等に関する国際的な捜査協力を迅速、的確に行うための国際機関であり、2年1月現在、150箇国(領域を含む。)が加盟している。
(イ) 被疑者の国外逃亡事案
 我が国で犯罪を犯し、国外に逃亡したと推定される者の数は、年々増加傾向にあり(表2-12)、元年12月末現在の国外逃亡被疑者数は290人で、このうち日本人は95人である。これらの者の推定逃亡先国としては、フィリピン、韓国が多い。また、内容的には、薬物事犯、知能犯の順になっている。

表2-12 国外逃亡中の被疑者数の推移(昭和55~平成元年)

 元年12月末現在の国外逃亡被疑者のうち、出国年月日の判明している者171人について、その犯行から出国までの期間をみると、犯行当日が26人(15.2%)、翌日が22人(12.9%)で、10日以内に99人(57.9%)が出国しており、犯行後短期間のうちに出国する計画的な事案が多い。
 警察は、国外逃亡のおそれのある被疑者については、海空港手配等により出国前の検挙に努め、被疑者が出国した場合も、外国捜査機関の協力等を得ながら、被疑者の身柄確保に努めている。
 なお、元年1月には、ICPO事務総局に対し、国外逃亡中の日本赤軍メンバーについて、それまで差し控えていた逮捕手配書(赤手配書)(注)の発行請求を行った。
(注) ICPO事務総局は、加盟国の依頼に応じて国際手配書を発行しているが、その種類には、身柄の引渡しを前提として、被手配者の身柄の確保を求める「逮捕手配書(赤手配書)」、被手配者の所在等に関する情報を求める「情報照会手配書(青手配書)」等がある。
〔事例〕 覚せい剤2キログラムの密輸容疑で指名手配されていた男は、昭和62年10月台湾に逃亡したが、平成元年5月2日、フィリピンにおいて、不法滞在容疑で現地入国管理当局に身柄を確保され、同4日国外退去処分になったところを、派遣捜査員により公海上において逮捕された(福岡)。
(ウ) 国際捜査協力の推進
 国際犯罪の増加に伴い、個々の事件捜査に関し、各種照会や証拠資料の収集の依頼等において外国捜査機関との国際協力を行うことが一層重 要になっている。捜査に必要な情報、資料の交換を外国捜査機関と行うためには、ICPOルート、外交ルート等があるが、ICPOルートは外国捜査機関との国際捜査協力において、簡便、迅速な手段として重要な役割を果たしている。
 過去10年間に警察庁が行った国際犯罪に関する情報の発信、受信の総数は、10年間で約1.4倍となっている(表2-13)。

表2-13 国際犯罪に関する情報の発信、受信状況(昭和55~平成元年)

 また、国際捜査共助法に基づき、外国からの協力要請に対し、警察が調査を実施した件数は、元年にはICPOルートによるものが350件、外交ルートによるものが9件あった(表2-14)。

表2-14 外国からの依頼に基づき捜査共助を実施した件数(昭和56~平成元年)

 このほか、警察庁では、国際協力事業団(JICA)との共催又は単独で、外国捜査機関の幹部を招き、各種セミナーを開催している。元年1月には、第1回アジア地域組織犯罪対策セミナーが、11月には、東南アジア諸国を主として11箇国から12名の警察幹部を招いて第10回国際捜査セミナーが開催された。
 (来日外国人の犯罪については第1章第2節及び第2章1(1)イに記述。)

2 「事件に強い警察」確立のための方策

 近年の情報化の進展や交通手段、科学技術の発達等の社会情勢の変化に伴い、報道機関を意識又は利用した国民に広く不安を与える犯罪や犯行の動機を計り難い犯罪等、従来の経験からは予測し難い新しい形態の犯罪が発生するとともに、犯行の悪質、巧妙化、広域化、スピード化が一層進むなど、犯罪は質的な変化をみせている。金融機関対象強盗をはじめとする各種の犯罪において、機動性に優れて、しかも警察による事後捜査を困難にする盗難車両利用の犯罪が多発しており、平成元年に検挙された刑法犯のうち12.0%(9万2,559件)を占めるに至っている。
 また、人が多く目撃者も多いと思われる都会等における犯行が、実際には、都会の死角ともいうべき場所や時間帯に敢行されることが多いため、有効な目撃情報を得にくいことや、直接自分に関わりのないことには無関心、非協力的な態度を取る者も少なくないことなどから、聞き込み捜査等の「人からの捜査」が困難になってきている。また、遺留品等の事件と関係のある物が、大量生産、大量流通に係る物である場合が多く、物から被疑者を割り出す「物からの捜査」も難しくなるなど、捜査活動はますます困難になってきている。
 さらに、業務上過失事故事件等の捜査においては、事故原因の解明や刑事責任の追及に高度の知識、技術を要するようになり、捜査期間も長期化する傾向にある(図2-12)。

図2-12 刑法犯発生から検挙までの期間別検挙状況(昭和55~平成元年)

 このような情勢にかんがみ、警察庁では元年11月7日に行われた全国警察本部長会議において、重要凶悪事件等への的確な対応、捜査力の向上と適切な配分、国民の理解と協力の確保を柱とした「事件に強い警察確立のための指針」を示すとともに、警察では次のような施策を推進している。
(1) 広域捜査力の強化
 数都道府県にまたがる広域事件においては、広域的な視点に立った上で、有機的な連携を保った効率的な捜査を行うことが困難であることなどの様々な問題がある。そこで、こうした問題を解決するために、平成元年5月に警察庁に広域捜査指導官室を設置し、広域重要事件が発生した際には、警察庁から広域捜査指導官を派遣し、現地に駐留させ、事件捜査の指導、調整を行わせることとした。また、各都道府県警察においては、高度な捜査技術と機動力を備えた広域捜査の中核となる広域機動捜査班が元年4月に発足した。
 さらに、広域重要事件においては、警察庁及び関係都道府県警察間で緊密な連絡を取り合って捜査情報を共有することが不可欠であることから、広域重要事件における捜査の過程で収集された膨大な捜査情報等を警察庁で一元的に管理するとともに、関係都道府県警察間に必要な情報を伝達することを目的とする「捜査情報総合伝達システム」の整備に努めている。
(2) 捜査活動の科学化の推進
ア コンピュータの活用
 警察庁では、都道府県警察で行う犯罪捜査を支援するため、コンピュータを用いて、次のようなシステムの運用を行っている。
(ア) 自動車ナンバー自動読取システム
 自動車利用犯罪については、緊急配備による検問を実施する場合でも、実際に検問が開始されるまでに時間を要すること、徹底した検問を行えば交通渋滞を引き起こすおそれがあることなどの問題がある。
 警察庁では、これらの問題を解決するため、走行中の自動車のナンバーを自動的に読み取り、手配車両のナンバーと照合する自動車ナンバー自動読取システムを開発し、整備充実に努めている。
(イ) 指紋自動識別システム
 指紋には、「万人不同」、「終生不変」という特性があり、個人識別の絶対的な決め手となることから、犯罪捜査上極めて大きな役割を果たしている。
 警察庁では、コンピュータによる精度の高いパターン認識の技術を応用した指紋自動識別システムを開発し、犯罪現場に遺留された指紋から犯人の特定を行う遺留指紋照合業務等に活用している。
 このシステムは、大量の指紋資料をコンピュータによって迅速に自動処理し、これまで照合できなかった不鮮明又は部分的な指紋からも、該当者を短時間のうちに割り出す機能を備えたもので、これを運用することにより被疑者等の確認件数が飛躍的に増大するなど、犯罪捜査に大きく貢献している。
イ 現場鑑識活動の強化
 聞き込み捜査等の「人からの捜査」が困難になっていることから、犯罪現場等において、各種の鑑識資機材を有効に活用して綿密かつ徹底的な鑑識活動を行い、犯人が遺留した物的資料や痕跡等から科学的、合理的な捜査を推進していくことが重要になってきている。
 このため、警察では、科学技術の発展に即応した鑑識資機材の研究開発やその整備充実を進めるとともに、現場鑑識活動の中核として機能している機動鑑識隊(班)及び現場科学検査班の充実強化を図っている。さらに、犯人が無意識のうちに遺留する微量、微細な資料も残さず発見、採取して、捜査に効果的に活用する「ミクロの鑑識活動」を積極的に推進している。
ウ 鑑識資料センターの運用
 微物、足跡、指紋等物的資料も、自然現象や新建材の普及により、時間の経過とともに散逸、消滅するおそれが大きくなっていることなどから、資料の分析を迅速かつ合理的に行う必要性がますます強まっている。
 このため、警察庁では、鑑識資料センターを設置して、あらかじめ犯罪捜査の対象となる繊維、土砂、ガラス等の各種鑑識資料を収集、分析し、製造メーカー等の付加情報を加えたデータベースを作り、各都道府県警察が犯罪現場等から採取した微量、微細な資料の分析データと比較照合することによって、その物の性質、製造メーカー等を迅速に割り出し、捜査に役立てている。
エ 鑑定の高度化
 現場鑑識活動によって採取した資料の分析、鑑定結果は、捜査の手掛 かりや証拠として活用されることが多いが、血液、毛髪、覚せい剤等の法医学、理化学関係の鑑定件数は、年々増加するとともに、その内容も複雑多岐にわたっており、高度の専門的知識、技術を必要とするものが多くなってきている。
 このような情勢に対処し、各種の鑑定を一段と信頼性の高いものにするためには、鑑定資機材及び鑑定検査技術の高度化を図る必要がある。
 このため、警察庁の科学警察研究所や都道府県警察の科学捜査研究所(室)に新鋭の鑑定資機材を計画的に整備するとともに、全国の鑑定技術職員に対し、科学警察研究所に附置された法科学研修所において、法医学、化学、工学、指紋、足痕(こん)跡、写真等の各専門分野に関する組織的、体系的な技術研修を実施している。

(3) 捜査技術の研さんと優れた捜査官の育成
 犯罪の質的変化、捜査環境の悪化等に適切に対応し、国民の信頼にこ たえるち密な捜査を推進するためには、常に捜査技術の研さんに努めるとともに、各種の専門的知識を備えた優れた捜査官を育成しなければならない。このため、警察大学校等において、国際犯罪捜査、広域特殊事件捜査等に関する研究や研修を行うとともに、各都道府県警察において、若手の捜査官に対し、ベテランの捜査官がマンツーマンで実践的な教育訓練を行うなど、新しい捜査手法、技術の研究、開発や、長期的視野に立った新任捜査官の育成と捜査幹部の指揮能力の向上に努めている。
(4) 国際捜査力の強化
 急増する来日外国人犯罪等の国際犯罪に対応するため、警察では、通訳体制の強化、組織体制の整備、国際捜査官の養成及び外国捜査機関等との積極的な連携を図っている(第1章第5節3、4参照)。
(5) 国民協力確保方策の推進
 犯罪情勢の変化に対応するためには、警察が最大限の努力をすることはもとより、捜査活動に対する国民の深い理解と積極的な協力を得ることが必要不可欠である。
 このため、警察では、国民に協力を呼び掛ける方法の一つとして公開捜査を行っており、新聞、テレビ、ラジオ等の報道機関に協力を要請するとともに、人の出入りの多い場所でポスター、チラシ等を掲示、配布するなどの方策を講じている。
 平成元年11月には、全国の都道府県警察において、「捜査活動に対する国民の理解と協力の確保月間及び指名手配被疑者捜査強化月間」を実施し、ポスター、チラシ等を掲示、配布したほか、都道府県警察の捜査担当課長等がテレビ出演するなどして、事件発生の際の早期通報、聞き込み捜査に対する協力、事件に対する情報の提供等を呼び掛けた。また、同時に警察庁指定被疑者10人、都道府県警察指定被疑者38人について公開捜査を行うなどして、国民の協力を得て、警察庁及び都道府県警察指定被疑者150人をはじめ、2,463人の指名手配被疑者を検挙した。
 さらに、国民の立場に立った刑事警察の運営を推進するために、広く国民と捜査活動等について語り合う「刑事警察について語る会」等の会合が、警察庁及び多くの都道府県警察において開催されている。
 このほか、犯罪の被害者の関心にこたえるとともに、不安感の解消を図ることを目的として、捜査の経過や結果等を通知する被害者連絡制度を積極的に推進しているほか、告訴、告発の受理、民事介入暴力事案の相談等を通じ、国民の要望にこたえる捜査活動の推進に努めている。

3 暴力団対策

(1) 暴力団の現況と動向
ア 激動する暴力団情勢
(ア) 暴力団の寡占化の進展
 暴力団の勢力は、昭和38年をピークとして長く漸減傾向にあったが、その後、この減少傾向に歯止めが掛かり、62年以降は微増に転じている。平成元年12月末現在では、その勢力は、3,155団体、8万7,260人となっている。
 特に、山口組、稲川会及び住吉連合会の指定3団体の勢力は著しく伸長し、元年12月末現在で1,459団体(全団体数の46.2%)、3万7,669人(総人員の43.2%)となっている。これは前年同期に比べて62団体(4.4%)、3,177人(9.2%)の増加であり、指定3団体による寡占化が一層進展していることがわかる。
(イ)  山口組の勢力拡大
 山口組は、暴力団全体の約4分の1の勢力を有する我が国最大の暴力団である。
 昭和59年6月、山口組は、四代目組長継承をめぐる争いから分裂し、その際に離脱した一派が結成した一和会と激しく対立してきたが、平成元年3月に一和会は解散するに至り、長期にわたる対立に終止符が打たれた。山口組組長の座は、昭和60年1月に四代目組長が一和会系暴力団員に射殺されて以来、4年間余り空席であったが、平成元年5月、山口組若頭が五代目組長を襲名し、その後、新組長の下で盛んに勢力拡大が図られている。
 山口組の勢力は、元年12月末現在、過去最大の801団体、2万2,306人 を数え、前年同期と比べて64団体(8.7%)、1,480人(7.1%)大幅に増加している。特に、元年9月には、北海道に地盤を持ち約450人の勢力を有する全日本寄居(よりい)連合会系関保(せきほ)連合を傘下に収めており、また、旧一和会系勢力に対しても吸収を続けている。さらに、五代目組長に反発して同組を脱退した竹中組等4団体に対しては、銃器発砲事件を32回(元年12月末現在)も敢行してこれらをほぼ壊滅状態に至らせ、その勢力の大部分を再吸収するに至っている。
 山口組は、このように勢力拡大のため、頻繁に対立抗争事件、銃器発砲事件を引き起こしているが、その一方では、友誼(ぎ)団体との抗争を厳禁して、勢力の安定を図っている。特に、稲川会とは三代目組長当時から友誼(ぎ)関係にあり、同会総裁が山ロ組四代目組長及び五代目組長の継承式において後見人を務めるなど、強いつながりを持っている。
 しかし、末端組織においては、山口組と稲川会とが対立抗争事件を起こす例もみられており、全国の暴力団情勢は、勢力拡大を進める山口組を中心として、極めて不安定な状況にあるといえる。
イ 多様化、巧妙化の進む資金源活動
 暴力団の資金源活動は、社会、経済の変化に応じて、また、取締りを免れるために、ますます多様化、巧妙化を進めている。覚せい剤の密売、賭博(とばく)、ノミ行為等の伝統的な資金源活動は、依然として活発であるが、近年、暴力団は、一般市民を対象とした民事介入暴力、企業対象暴力等の新しい形態の資金源活動を活発に行うことで資金の獲得を図っており、今や、すべての人が暴力団の被害者になりかねない状況になっている。
(ア) 民事介入暴力
 民事介入暴力とは、一般市民の日常生活や経済取引に民事上の権利者や関係者の形で介入、関与して、違法、不当な利益の獲得を図るものである。交通事故の示談、不動産の賃貸借に伴うトラブル、債権取立て等の当事者のうちには、自己に有利に交渉を進めるため暴力団を利用しようとする者も存在するため、暴力団の民事介入暴力が一層助長されているが、これらの暴力団の利用者も、結局は、暴力団の被害を受ける結果になるということが多い。
 民事介入暴力は、大都市を中心とする地価の高騰を背景に横行した「地上げ」にみられるように極めて大規模化しており、暴力団は、大量の資金を動かして、より巨額な不正利益の獲得を図っている。
 これに対して、警察は、相談活動を行うなど積極的に対応しているが、昭和55年には8,873件であった相談受理件数が、平成元年には2万806件

図2-13 民事介入暴力相談の類型別受理状況(昭和60~平成元年)

に達しており、民事介入暴力の広がりがうかがわれる。内容としては、交通事故の示談等に絡むもの、金銭貸借に絡むもの、不動産問題に絡むものが特に多い(図2-13)。
(イ) 企業対象暴力
 暴力団は、個人を対象とする犯罪によっても莫大な資金を獲得しているが、それにとどまらずに、総会屋等(総会屋、新聞ゴロ、会社ゴロ等)や社会運動等標ぼうゴロ(社会運動標ぼうゴロ又は政治活動標ぼうゴロ)との結び付きを強めて、企業をターゲットとした犯罪も敢行している。その手口は、取締りを免れるために一層巧妙化しており、暴力団等は、株主権の行使に名を借りたり、社会運動や政治活動を仮装、標ぼうするなど、合法的な行為を装いつつ、企業を揺さぶって、融資の名目で金を引き出したり、機関紙(誌)を高額で購入させたりして、より膨大な利益を獲得している。
 暴力団による企業対象暴力は、その相当部分が潜在化しているものとみられ、暴力団と企業とのこのような関係が社会の一部として根付く傾向がうかがわれる。
〔事例〕 会社ゴロ(47)らは、大手都市銀行が暴力団組長らに約3億円の融資をしていたことを聞き付けて、同行に対してそれを表ざたにすると脅迫し、同人らが役員を務める会社に融資させる名目で5億円を脅し取った。12月4日までに4人を逮捕(警視庁)
(ウ) 合法的な資金源活動
 暴力団は、貸金業、建設業、不動産業等の様々な事業分野において、合法的な企業を経営して資金獲得を図っている。
 しかし、合法的な企業経営の形を取っていても、もともとは犯罪によって獲得した「黒い金」を投資したものであり、しかも、不動産投資、証券投資等によって増やされた不正利益は、新たな犯罪のための資金にもなっているとみられる。また、「合法的」な企業とはいえ、その経営の過程において、組織の威力を背景とした強引な活動を行うことが多く、実態は暴力団そのものと変わらないことが少なくない。
ウ 暴力団犯罪の国際化
 暴力団は、近年、海外における活動を活発化させているが、その主な目的は、銃器、覚せい剤等の禁制品の入手、海外を舞台とした賭博(とばく)ツアー等の資金源活動、逃亡先としての拠点作り等とみられる。
 特に、暴力団は、銃器を密輸入するために米国、フィリピン等へ頻繁に渡航して武装化を進めており、これが、銃器発砲事件の激増した一因となっている。また、銃器の調達先は、米国、フィリピンばかりではなく、元年には我が国で従来ほとんどみられなかった中国製けん銃を63丁も押収するなど、多様化していることがうかがわれる。
 さらに、暴力団は、外国人の不法就労に関与して労賃をピンハネしたり、「じゃぱゆきさん」と呼ばれる外国人女性等に売春させるなどして、多額の資金を獲得しており、国際的な問題にもなっている。
 このように、暴力団は、頻繁に海外に進出して違法、不当な行為を繰り返しているが、最近は、暴力団が、海外の犯罪組織と連携を強めて擬制的血縁関係を結ぶ例もみられ、今後、暴力団の国際化の進展とともに、海外の犯罪組織が我が国へ本格的に進出してくることも懸念される。
(2) 暴力団取締りの推進
 暴力団対策の基本は、暴力団取締りと暴力団排除活動との有機的連動による総合対策の推進によって、暴力団の壊滅と暴力的不法行為の根絶を図ることである。特に、取締りについては、「暴力団員の大量反復検挙」、「資金源活動に対する取締りの徹底」、「銃器等の摘発の徹底」の3本の柱を中心にして、強力に推進している。
ア 暴力団員の大量反復検挙
 警察は、首領、幹部をはじめとする暴力団員の大量反復検挙を徹底し、社会からの長期隔離に努めている。特に、指定3団体に対しては、各都道府県警察が連携しての集中取締りを実施しており、平成元年には、指定3団体による犯罪を3万551件(暴力団犯罪総検挙件数の55.1%)、2万877人(暴力団犯罪総検挙人員の58.0%)検挙している。さらに、山口組直轄組長については、13件、13人検挙しており、前年の4件、4人を大幅に上回っている。
 しかし、最近5年間の暴力団員の検挙件数、検挙人員の推移をみると、減少傾向にあり、元年における検挙件数は5万5,466件、検挙人員は3万5,972人と、前年に比べ1万3,476件(19.5%)、4,429人(11.0%)それぞれ減少している(図2-14)。

図2-14 暴力団員の検挙件数、検挙人員の推移(昭和55~平成元年)

イ 資金源活動に対する取締り
 警察は、暴力団の存立基盤である資金源活動に対して、取締りを一層強化するなど積極的な取組を行い、暴力団の資金の涸(こ)渇化を図っている。
 特に、暴力団の主要な資金源である覚せい剤事犯、恐喝、賭博(とばく)及び公営競技4法違反(ノミ行為等)によって、元年には、1万5,842件、1万6,796人を検挙した。
 また、民事介入暴力に対しては、弁護士会等関係団体と連携して、市民保護の徹底と潜在事案の発掘、検挙を図るため、相談活動等を積極的に実施している。元年に、警察は、2万806件の相談を受理し、これを端緒とするなどして3,128件の民事介入暴力事案を検挙しており、検挙に至らない事案についても、相談者への助言、指導、関係暴力団への警告等により解決を図っている。
 さらに、企業対象暴力に対しても、取締りを徹底しており、元年には、商法第497条違反、恐喝等により総会屋等を72件、98人検挙し、また、恐喝、傷害等により社会運動等標ぼうゴロを585件、829人検挙した。
 なお、暴力団の資金源対策のためには、その膨大な収入に対して厳正な課税措置を採ることが極めて重要である。そこで、税務当局との連携、連絡体制の強化に努めており、捜査の過程等において暴力団員の不正所得について認知した場合には、その内容を通報することとしている。元年には、約380件、約51億円の課税通報を行った。
〔事例〕 山口組直轄団体である足立会に対して特別集中取締りを実施し、競輪ノミ行為、強姦(かん)等で同会会長(58)を3度にわたって連続逮捕するなど同会構成員を大量に検挙した結果、5月15日、同会を解散に追い込んだ。また、同会の重要な資金源であった競輪ノミ行為によって同会会長が得ていた約8億5,000万円の収益について、税務当局に課税通報した(岐阜)。
ウ 銃器等の摘発
 暴力団は、銃器等によって武装化を進めており、頻繁に対立抗争事件、銃器発砲事件を敢行している。この状況から、暴力団組織の末端にまで銃器が広がっていることが推察され、市民の被る危険と脅威は甚大なものになっている。
 そこで、警察では、組織的、効果的な捜査活動により銃器等の摘発に

図2-15 暴力団関係者からのけん銃押収数の推移(昭和55~平成元年)

努めるとともに、税関や海外の捜査機関等と連携して水際検挙の徹底を図っている。
 過去10年間の暴力団関係者からのけん銃押収数をみると、昭和60年をピークに減少を続けている(図2-15)。平成元年における押収数は、1,003丁で、前年に比べ252丁(20.1%)大幅に減少した。この減少は、けん銃等の密輸手段や隠匿方法が極めて巧妙化していることも一因となっているといえる(第5章3(1)参照)。
(3)  暴力団排除活動の推進
 暴力団対策を効果的に推進するためには、取締りの徹底とともに、暴力団を社会的に孤立させるための暴力団排除活動が極めて重要である。そこで、警察は、関係機関、団体等と密接に連携して、暴力団排除活動に強力に取り組んでいる。
ア 暴力団事務所撤去活動の推進
 暴力団事務所は、暴力団活動の拠点であり、多数の暴力団員が出入りするため、その存在自体が地域住民に大きな不安を与えている。さらに、対立抗争時には攻撃目標になるため、付近の民家がけん銃で誤射されることも少なくなく、現実に多大な危険をもたらしている。
 このため、近年、警察は、地域住民と連携して、暴力団事務所撤去活動を強力に推進しており、平成元年には、指定3団体傘下の暴力団事務所139箇所や九州に大きな勢力を有する道仁会本部をはじめとして、全国で217箇所の暴力団事務所を撤去した。
イ 都道府県レベルの暴力団排除組織の結成
 都道府県レベルの暴力団排除組織は、元年12月末現在、23都道府県において結成されており、官民一体となった暴力団排除活動を展開している。特に、元年には、「(財)埼玉県暴力追放・薬物乱用防止センター」及び「(財)千葉県暴力団追放県民会議」の2つの財団形式の暴力団排除組織が設立され、広報啓発活動、暴力相談活動、被害者救済活動等を積極的に行っている。
ウ 企業防衛組織の拡充、強化
 近年、暴力団は、企業対象暴力によって巨額の利益を獲得しているとみられる。これに対して、警察は、取締りを強化するとともに、企業対象暴力の予防、排除を図っており、昭和50年代以降、都道府県レベルの企業防衛組織の結成を推進してきた。平成元年5月には、これら全国の企業防衛組織が団結して「全国企業対象暴力対策連絡協議会」を結成するに至り、相互の情報交換を活発化することなどにより、企業対象暴力の効果的な排除に努めている。
エ 建設業、不動産業における暴力団排除活動の推進
 暴力団は、従来から、建設業、不動産業に関与して不法事犯を多発させ、莫大な資金を獲得している状況にあった。これに対して、各業界を挙げての暴力団排除の自主努力がなされるとともに、建設業では昭和61年12月以来、不動産業では62年12月以来、警察と関係機関とが連携して、暴力団構成員が経営し又は経営に関与する業者に対しては営業の許可や免許を与えないなどの施策を強力に推進して、暴力団排除に努めている。
オ 公営競技場からの暴力団排除活動
 暴力団の資金源封圧及び公営競技場内における市民保護のため、60年11月以来、警察と公営競技施行者とが連携して、全国の公営競技場からの暴力団員、ノミ屋等の排除活動を強力に推進している。
 平成元年には、暴力団員3,213人、ノミ屋等1,526人を公営競技場から締め出すとともに、ノミ行為等により19件、85人を検挙した(第5章2(4)参照)。
(4) 海外の捜査機関との連携
 近年、暴力団の活動は、国内だけにとどまらず、海外にまで拡大して おり、暴力団対策のためには、その活動実態の解明に努め、適切な対策を採ることが不可欠である。そこで、昭和62年に警察庁に設置した「暴力団海外情報センター」を中心として、国際会議、セミナー等を頻繁に開催するなど、海外の捜査機関との協力関係を強化し、緊密な情報交換に努めている。
 平成元年1月には、ASEAN6箇国、韓国及び香港の代表並びにオブザーバーとして米国、オーストラリア及びカナダの代表を東京に招いて、「第1回アジア地域組織犯罪対策セミナー」を開催した。
 また、米国の捜査機関とは、元年12月に「第6回日米暴力団対策会議」を東京で開催し、銃器対策、薬物対策、国際捜査協力等に関して各種の情報交換を行った。

(暴力団による対立抗争事件については1(1)ウに記述。)


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