外国人労働者の流入に伴い、第1節から第3節までにみたように、居住外国人と地域住民との間のトラブル、来日外国人による犯罪の増加、外国人労働者を食い物にする犯罪の多発といった問題が生じており、警察としても、これらの問題への対応を迫られている。このような状況にかんがみ、警察においては、総合的な外国人労働者問題対策の推進を図るため、平成2年6月、警察庁に外国人労働者問題対策官を設置したほか、当面、外国人労働者の増加に対処し、次のような施策を講じていくこととしている。
外国人労働者をめぐっては、第1節3でみたように、外国人労働者と周辺の日本人住民との摩擦等の問題が生じていることから、警察が外国人労働者問題に的確に対応していくためには、このような問題の発生状況等の地域の実情を把握し、その実情に応じたきめ細かい地域対策を講じていくことが必要である。
外国人労働者は、特定の地域に集中して居住する傾向があることから、これらの地域では、特に、居住外国人と警察との良好な関係の形成に努めていく必要がある。このため、警察では、これらの地域における居住外国人の警察に対する要望の把握に努めるとともに、警察活動に対する理解を求めるため、居住外国人と警察との懇談会を開催するなどの活動を推進していくこととしている。また、将来的には、居住外国人と警察との相互の間における意思の疎通を図るための連絡担当官(Liaison Officer)の配置や地域防犯組織への居住外国人の参加の促進についても検討する必要があると考えられる。
また、外国人労働者の増加に伴い、彼らが犯罪の被害者となったり事故に遭うことも目立ってきている。外国人が被害者となった場合には、言葉の問題があったり、警察への届出の方法がわからないため、届出が遅れたり、また、被害者が不法就労者である場合には、不法就労の発覚をおそれることから、被害の届出がされない場合も多いと思われる。警察では、外国人労働者等の外国人が犯罪や事故の被害に遭うことを防止し、また、犯罪や事故が発生した場合には、速やかに届出が行われるよう、外国人に対する防犯指導等を進めている。また、犯罪や事故に至らない段階においても、外国人からの相談等に対応できるような体制の整備に努めていくこととしている。
我が国では、従来から、いわゆる単純労働に従事する外国人の受入れは行わないこととしてきている。しかし、第1節1でみたように、近年、不法就労者が急増しており、このことが、公正な出入国管理を損なったり、国内労働市場に悪影響を与えたりするなどの問題を生じさせるおそれがあるほか、不法就労者であるがゆえに外国人労働者の実態が非常に把握しにくいという問題がある。こうした状況にかんがみ、平成2年6月から、不法就労を助長する行為に対する罰則を新設するなどの不法就労対策のための関係規定の整備を一つの柱とした「入管法の一部改正法」が施行された。警察としても、外国人労働者の就労に介入するブローカー等の行為は、不法就労を助長しているほか、外国人労働者の保護という点からも問題があるので、外国人労働者の就労に関与して暴利を得ているなどの悪質な事案に重点を置いた取締りを強力に推進していくこととしており、そのために必要な体制の整備等を図ることとしているが、不法就労問題に有効に対処するためには、今後、関係する機関が緊密に連携して不法就労対策を講じていく必要があると考えられる。
外国人労働者等の来日外国人の増加に対応するためには、通訳体制の整備が不可欠である。アジア地域から来日する外国人労働者が被疑者や被害者として犯罪にかかわったり、事故に遭うなどして、警察と接する機会も増加しており、タガログ語(フィリピン)、タイ語、ウルドゥー語(パキスタン)等のアジア地域の言語による通訳の必要性が高まっている。警察では、従来から、警察職員に対する英語、中国語、韓国語等の教養を実施してきたが、昭和63年よりタガログ語、平成元年からはこれに加えて順次タイ語、ウルドゥー語等についても部外に委託して警察職員への語学教養を推進している。また、通訳等を専門とする職員の採用、配置にも努めているが、警察庁及び都道府県警察の通訳等専門職員の体制は未だ不十分であり、今後とも、民間通訳の委託等を含め、通訳需要に十分対応できる体制の整備を図っていくこととしている。また、警視庁等では、「通訳センター」を設置して、部内の通訳の総合運用を図り、日本語のできない外国人が警察のサービスを利用しやすい体制の整備に努めている。
〔事例〕 警視庁では、平成元年4月、英語、中国語、韓国語、タガログ語等の通訳能力のある職員を集めた「通訳センター」を設置し、外国人からの相談への対応、外国人に係る犯罪の捜査への通訳の応援派遣等を行っている。また、外国語による110番があった場合には、「通訳センター」でこれに応対し、事件、事故に即応することができるようにしている。
第2節でみたように、来日外国人による犯罪が急増しており、また、その捜査に当たっては、様々な困難性が伴うことから、警察では、次のような対策を講じていくこととしている。
(1) 国際捜査官の養成、組織体制の整備
国際犯罪捜査に当たっては、言語、慣習を異にする外国人の取扱い、外国捜査機関との協力等において、特有の知識、手法が要求されることから、警察庁では、現在、国際捜査研修所等において、国際捜査実務能力を備えた捜査官を養成するため、各種の実務研修を行っている。
また、都道府県警察においては、来日外国人による犯罪の急増に適切に対処するため、国際捜査課、室等の専門組織の設置、拡充を図るとともに、国際捜査官の増強等の体制の整備を進めている。
(2) 国際協力の推進
国際犯罪の増加に伴い、個々の事件捜査において各種照会や証拠資料の収集の依頼等の外国捜査機関との国際協力を行うことが一層重要になっている。警察は、今後も、外国捜査機関との積極的な情報交換、捜査資料の収集を行っていくこととしている。
また、警察庁では、研修員の受入れ等の海外技術協力を推進し、近隣アジア諸国との良好な関係の維持、発展に努めている。平成元年には、国際捜査研修所において、初めて、アジア各国の警察幹部を対象とした外国上級警察幹部研修を実施したほか、国際捜査セミナー、アジア地域組織犯罪対策セミナー、フィリピン捜査幹部セミナー等を開催した。