第10章 市民応接向上運動の推進

 以上の各章で、昭和63年を中心に警察活動の現況について述べてきたが、これらの活動の根底を成す理念は、いうまでもなく、国民のための警察ということである。そして、この理念を正しく実現していくためには、国民の立場に立った警察運営となるよう努めていく必要がある。
 まず、警察業務は、市民との直接の接触を伴うものが多く、警察職員の言葉遣い、態度といった応接の在り方いかんは大変重要なことである。さらに、不必要に煩わしい手続を課したり、庁舎の外に行列を作らせたりするなど、市民に不利益、不便を掛けることがないようにするとともに、仕事の進め方についても、社会に対する害悪、迷惑度の高い事案に取締りの重点を指向して、市民の要望に適切に応じていかなければならない。
 現在、全国警察を挙げて取り組んでいる市民応接向上運動(注)は、以上の考え方により、警察活動の改善を図っていこうとするものである。
(注) この市民応接向上運動を推進するため、62年11月以降、警察庁及び各都道府県警察に「市民応接向上推進委員会」が設置されている。
 ところで、我が国の治安の現状は、欧米先進諸国と比べ極めて良好な水準にあるといわれているが、これを今後も維持していくためには、国民の信頼の上に立って一層の努力をしていく必要がある。市民応接向上運動の推進は、この信頼の確保に貢献するものであり、我が国の治安維持に大きな意味を持つものであると考えられる。

1 国民の意見、要望を反映した警察運営

 国民の意識、感覚に合った警察活動を展開していくためには、国民の意見、要望の積極的な把握に努め、寄せられた意見、要望については、幹部が責任を持って対応し、警察業務への反映を図っていかなければならない。このため、警察では、「県民の声110番」等の専用電話を設置し、また、国民とのふれあいや語らいの場を求めて、公聴会、一日警察本部、各種の懇談会等を開催しているほか、アンケート調査の実施、市民応接モニター、暴力追放モニター、交通防犯モニター等各種のモニターの導入、警察本部(署)窓口への御意見箱の設置等を行っている。

 さらに、警察では、警察に対する評価調査等の結果(注)を真摯(し)に受け止め、施設や窓口環境等を整備し、国民の立場に立った適切な窓口業務の対応に努めている。
(注) 平成元年1月に発表された総務庁の「さわやか行政サービス改善評価調査」をみると、警察署窓口の印象について、前回の昭和61年度の調査に比べて、図10-1のとおり評価が上がっているとの結果が出ているが、印象が悪いとした者が30.7%おり、今後更に努力を要するものと考えられる。

図10-1 警察署窓口の印象(昭和61、63年度)

2 警察職員の応接態度の向上

 警察職員の職務は、警察署等における窓口業務をはじめ、被害届の受理、地理案内、少年補導、交通指導取締り、検問、職務質問、各種の捜査活動等にみられるように、その多くが国民との直接の接触を通じて行われるものである。したがって、警察職員一人一人が、ふれあいの大切さを念頭に置いて国民に接し、その心情を理解し、その立場に立った対応を行うことが重要である。そこで、警察では、全警察職員に対して人間教育を積極的に推進し、市民応接において必要とされる基本姿勢を身に付けさせることとしている。
 そして、警察学校はもとより職場においても、各種の執務マニュアルの作成、応接コンクールの開催、応接態度等の自己診断の実施等職員個々の資質や実態に応じた個別指導、教育を行うとともに、企業派遣研修による研修会や部外有識者等を講師に招いての講演会等を開催するなど、応接マナーの向上に努めている。

3 警察業務への理解を深めるための活動

 警察が地域に溶け込み、国民の身近な存在として活動するためには、警察業務の内容を国民に理解、納得してもらうことが必要である。
 このため、警察では、各種の案内パンフレット、ガイドブックを発行し、テレホンサービス、ビデオサービス等を実施するほか、従来から発行されている派出所、駐在所のミニ広報紙をより積極的に利用するとともに、各種の刊行物をも活用して、警察業務の内容を積極的に紹介している。

4 国民の利便を考慮した窓口業務

 警察の窓口での取扱業務は、運転免許、道路使用、風俗営業、銃砲刀剣類等に係る許認可や更新、自動車の保管場所、遺失物、渡航の証明等多岐にわたっている。警察では、地域社会における警察行政の重要な業務であるこれらの窓口業務について、従来に増して、利用する国民の立場に立ったより便利で分かりやすい業務の推進に努めていかなければならない。
 このため、警察では、案内表示や窓口表示を整備するとともに、待合

室、待合コーナーを設け、いす、筆記台、筆記具、書類記載例を備えるなどして、利用者にとって分かりやすく、便利となるように配意している。また、受付、窓口等には、ネームプレートを置くことなどにより窓口担当職員名を表示するとともに、待ち時間や交付の日時を明らかにして、利用者の利便を図っている。

 また、遺失者、拾得者等の利便を図り、その権利を保護するため、遺失物の取扱いに関する規程等を見直して、遺失届、拾得届の受付(受理)を警察署、派出所及び駐在所ばかりでなく、鉄道警察隊の分駐所等でも行えるようにするなど、遺失者、拾得者等のニーズにこたえる業務の推進を図っているほか、各種の手続の改善に努めている。
 このほか、従来、手続のほとんどを人手で処理していた警察署における各種の許認可や遺失物、拾得物の照会等については、その処理手続の迅速化を図るため、パソコンやコンピュータの導入による遺失物、拾得物管理システム、自動車保管場所管理システム等の検討を開始している。

5 相談者の期待にこたえる活動

 警察では、国民の日常生活等における困りごとや悩みごとの相談にこたえるため、困りごと相談、防犯相談、少年相談、消費者被害相談、覚せい剤相談、民事介入暴力相談、交通相談、告訴・告発相談、身元不明者相談等の相談業務を行っているが、その取扱件数は、年々増加しており、警察に対する期待感が高まっているとみられる。
 このため、警察では、これらの相談に誠実に対応し、必要な助言等を行うとともに、警察のみでは対応できないものについては、他の適当な行政機関を紹介するなど、相談受理体制等の整備を図り、相談者の利便とプライバシーに配慮した適切な相談業務の推進に努めている。
(1) 相談室、相談コーナー等の施設の整備等
 警察本部では、従来、部門ごとに設置していた相談窓口を相談者の立

場に立って見直し、一元的な相談受理ができるような体制の整備等を進めている。また、警察署においては、可能な限り相談室や相談コーナーを設置するとともに、新設の駐在所には、「ほっとルーム」等の名称の住民のための応接室を設けるなど、相談者が安心して、気軽に相談に来訪できる施設や体制作りに努めている。
(2) 相談専用電話の設置
 国民からの電話による各種の相談に対しては、これまで、「110番」のほか、社会及び犯罪情勢の変化に伴う国民の要望にこたえるため、「ヤング・テレホン・コーナー」、「悪質商法110番」、「困りごと110番」等、相談内容ごとに各種の相談専用電話を設置して、これに応じてきているが、相談者の利便を考慮し、平成元年度からこれらの電話の一元化を図るため、全国同一の番号による警察相談電話の開設について検討を進めている。

6 国民の期待にこたえる業務の重点等

 警察業務における仕事の重点、進め方等に関する施策については、今後とも、長期的に実施していくべきものであるが、その主なものは次のとおりである。
(1) 外勤警察における推進状況
 外勤警察の分野においては、交番制度の原点である地域に溶け込み、地域に密着した活動を積極的に推進することにより、真に国民の要望にこたえた活動が展開されるよう、その運営の在り方について、抜本的な見直しを行っている。具体的には、外勤警察官の勤務評価を見直し、件数に現れない目立たない地道な活動についても、総合的な評価を行うこととするとともに、検挙しやすい軽微な犯罪よりも、住民にとって不安感の強い犯罪に重点を指向した犯罪の予防検挙活動を行うこととするほか、外勤警察官に地域を担当する自覚と責任を持たせ、地域住民の親近感を醸成していくことなどについて、具体的な施策を進めていくこととしている。
(2) 交通警察における推進状況
 国民の理解と共感に支えられた交通警察活動を推進するという観点から、悪質、危険な違反態様や迷惑性の強い違反態様に最重点をおいた取締りを実施するとともに、深夜、小人数によるゲリラ的な暴走行為を行い、国民に多大な迷惑を与えている暴走族等に対して強力な取締りを実施するなど、国民の要望にこたえる積極的な交通警察活動を展開している。また、各種の交通規制についても、地域住民の要望や交通実態等を踏まえ、全国的にきめ細かな点検、見直しを進めている。
(3) 刑事警察における推進状況
 国民の期待と信頼にこたえるため、特に、国民が強く解決を望む犯罪、国民の被害意識の強い犯罪、国民の不安をあおる犯罪等に重点を指向した積極的な刑事警察活動を展開することとしている。また、国民の理解と協力に支えられた強力な捜査活動を展開するため、従来以上にポスター、チラシ、報道機関等を積極的に活用して、捜査活動に対する国民の理解と協力を呼び掛けるとともに、被害者、参考人等に対して、その心情や利便に配意し、相手の立場に立ったきめ細かな対応に努めている。


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