第5章 生活の安全の確保と環境の浄化

1 薬物乱用の根絶を目指して

(1) 悪魔の薬との闘い
 薬物をめぐる情勢をみると、覚せい剤事犯の検挙人員が2万人を超えるなど、覚せい剤事犯が依然として高水準で推移し、覚せい剤乱用者による凶悪事件が発生する一方で、麻薬事犯(麻薬取締法、あへん法及び大麻取締法違反)においても、ヘロインの押収量が急増し、大麻事犯が大幅に増加するなど、多様化の様相を呈している。
 このような情勢を踏まえ、警察では、供給ルートの遮断、乱用の根絶を中心とした総合的な諸対策を推進しているところである。
 また、世界にまん延している薬物乱用を根絶するためには、世界各国が相互に協力していくことが必要である。警察では、こうした考えに立ち、国際捜査協力等の国際協力に努めている。

(2) 高水準で推移する覚せい剤事犯の現況
ア 2万人を超える検挙人員
 昭和63年の覚せい剤事犯の検挙件数は2万9,777件、検挙人員は2万399人、押収量は約214キログラムとなっている。56年以降8年連続して検挙人員は2万人を超えており、覚せい剤事犯は依然として高水準で推移している。過去10年間における覚せい剤事犯の検挙状況は、図5-1のとおりである。

図5-1 覚せい剤事犯の検挙状況(昭和54~63年)

イ 台湾、韓国ルートを中心とする密輸事犯
 63年の覚せい剤の大量押収事例(1キログラム以上を一度に押収した事例をいう。以下同じ。)は20件、大量押収事例に係る押収量は約185キログラムに上った。その押収量を仕出地別にみると、台湾が約112キログラム(10件)で総押収量の60.4%を占め、次いで韓国が約70キログラム(8件)で37.5%となっている。密輸方法は、冷凍すり身魚の中や民芸品の木彫りの象の置物の中に隠匿するなど、ますます巧妙化している。
 このほか、「キャッピー」、「ヤーマ」と呼ばれる新しいタイプの錠剤型の覚せい剤をタイから密輸入する事例が3件あり、注目される。

〔事例〕 1月、神奈川県警察は、東京都内で覚せい剤約30キログラムを所持していた台湾人3人を、覚せい剤が暴力団に密売される寸前に検挙し、その供述から更に名古屋市内で台湾人の共犯者1人を逮捕して、約20キログラムの覚せい剤を押収した。
 この台湾人グループは、民芸品の木彫りの象の背が皿状になっているのに目を付け、皿の部分をくり抜いて、内部に覚せい剤約50キログラムを隠匿し密輸入していた。

〔事例〕 1月、福岡県警察は、暴力団九州一会に係る覚せい剤密輸入事件を内偵捜査し、レストランの駐車場を利用した取引現場で、同暴力団幹部等4人を逮捕、覚せい剤約30キログラムを押収した。
 この事件では、密輸入をカムフラージュするために、すり身魚10キログラムの中に1キログラムの割合で覚せい剤を隠して冷凍し、正規の冷凍すり身魚とともに輸入しており、製造年月日により後日識別できるようにしていた。
ウ 根深く介入する暴力団
 63年に覚せい剤事犯で検挙した暴力団員は、9,221人で、覚せい剤事犯の総検挙人員の45.2%を占め、また、これは、暴力団員の総検挙人員4万401人の検挙罪名別第1位(22.8%)に当たっている。さらに、暴力団員から押収した覚せい剤は、約112キログラムで、総押収量(約214キログラム)の52.4%に当たっている。このように、暴力団は、その資金源活動として、覚せい剤事犯に根深く介入している。過去10年間における暴力団員による覚せい剤事犯の検挙状況は、図5-2のとおりである。

図5-2 暴力団員による覚せい剤事犯の検挙状況(昭和54~63年)

エ 高い再犯者率
 63年の覚せい剤事犯の検挙人員2万399人のうち、再犯者は1万1,568人(56.7%)となっている。これは、一度使用するとなかなかやめられない覚せい剤の恐ろしさを示すとともに、徹底的な検挙が必要であることを示唆している。
オ 覚せい剤乱用者による凶悪事件の多発
 覚せい剤は、幻覚、妄想等の精神障害をもたらし、かつ、極めて強い精神的依存を生じさせる。また、使用をやめた後でも、少量の再使用や疲労等をきっかけに、乱用時同様の精神障害が突然現れること(フラッシュバック現象)がある。このため、覚せい剤の乱用者は、凶悪な犯罪を引き起こしたり、購入資金欲しさから強窃盗等の犯罪に走ることも多い。 63年の覚せい剤に係る事件、事故の発生状況は、表5-1のとおりである。

表5-1 覚せい剤に係る事件、事故の発生状況(昭和63年)

〔事例〕 9月、覚せい剤取締法違反前歴6回を有する暴力団員(42)は、覚せい剤約10グラムを注射、嚥(えん)下したため、薬理作用によって精神錯乱状態となり、所携のけん銃をもって駐車車両、通行人等に乱射し、会社員等3人に重軽傷を負わせた上、110番通報によりパトカーで現場に急行した警察官を射殺した(埼玉)。
(3) 多様化し警戒を要する麻薬事犯
 昭和63年の麻薬事犯の検挙件数は2,242件、検挙人員は1,768人で、前年に比べ、件数は127件(6.0%)、人員は74人(4.4%)それぞれ増加した。過去10年間の麻薬事犯の検挙人員及び最近5年間の主要な麻薬の種類別押収状況は、それぞれ図5-3、表5-2のとおりであり、ヘロイン、大麻、コカインを中心とする麻薬事犯の増加、多様化が顕著である。

図5-3 麻薬事犯の検挙人員の推移(昭和54~63年)

ア 史上最高の押収量を記録したヘロイン事犯
 63年のヘロインの押収量は、約17.2キログラムで、前年に比べ、約4倍になるとともに、過去最高であった60年の約16.3キログラムを上回

表5-2 主要な麻薬の種類別押収状況(昭和59~63年)

り、史上最高を記録した。
 これは、我が国を中継地とした国際密輸組織による密輸事犯に係るヘロインを大量に水際で押収したためである。このことは、我が国もヘロインの大量流入の危険にさらされていることを示唆している。
〔事例〕 5月、警視庁は、香港人5人が、ヘロイン約4.25キログラムをタイから香港経由で日本に密輸入した後、大阪からアメリカに密輸出しようとしたところを検挙するとともに、国際麻薬密輸ルートを解明した。
 これまでに判明した我が国を中継地とするヘロインの密輸ルートは、図5-4のとおりである。
イ 史上最高を記録した大麻事犯の検挙件数、人員
 63年の大麻事犯の検挙件数は1,909件、検挙人員は1,464人で、史上最高であった前年に比べ、件数は297件(18.4%)、人員は188人(14.7%)いずれも大幅に増加し、史上最高記録を更新した。このうち、乾燥大麻に係る検挙件数は1,425件、検挙人員は1,080人であり、その押収量は、約159キログラムとなっている。乾燥大麻の大量押収事例は23件、大量押収事例に係る押収量は約158キログラムであり、これを仕出地別にみると、フィリピンが約74キログラム(12件)、次いでタイが約62キログラム(5件)となっており、これらのルートからの乾燥大麻が全押収量の85.1%に上っている。

図5-4 ヘロインの密輸ルート(検挙被疑者の供述による)

 大麻事犯における暴力団員の検挙件数は427件、検挙人員は303人で、前年に比べ、件数で107件(33.4%)、人員で105人(53.0%)増加しており、全検挙人員に占める比率は20.7%と、前年(15.5%)を上回った。また、暴力団員や暴力団に関係する運び屋からの大量押収が相次ぐなど、暴力団が、覚せい剤に次ぐ第2の薬物として、大麻の密売に関与し始めていることがうかがわれる。
ウ 厳重な警戒を要するコカイン事犯
 コカインは、薬理作用が覚せい剤と酷似した興奮剤であり、その乱用方法は、粉末を鼻から吸うのが一般的であるが、米国で流行している「クラック」(純度が高く、作用が強烈なコカイン)のように、たばこで吸う方法も広まっている。コカイン事犯については、営利目的の大量密輸入事犯も発生しており、今後、我が国への大量流入が懸念されることから、警察では、厳重な警戒を行っている。
〔事例〕 8月、インテリアデザイナーがコカイン0.145グラムを所持していたところを検挙し、その後の捜査により、広告デザイン会社の会社員等が1月に渡米し、米国の友人を介してコカイン10オンス(約283グラム)を1万2,000ドル(約156万円)で仕入れて密輸入し、それを約1,000万円で密売して暴利を得ていたことを解明した。なお、仲介した共犯者の米国人については、米国司法省麻薬取締局において捜査中である(香川)。
(4) 有機溶剤等習慣性薬物の乱用
 昭和63年のシンナー等有機溶剤乱用者の検挙人員は、2万7,820人で、少年が2万3,122人と83.1%を占めており、依然として少年層を中心にシンナー等がまん延している。特に、女子少年の検挙人員は、6,968人であり、前年に比べ、373人(24.5%)増加したことが目立った。シンナー等は、少年の成長に大きな害悪を及ぼすほか、乱用による錯乱、精神障害等から暴力犯罪等を引き起こすなど、社会的危険性が高く、また、より薬効の強い覚せい剤等の乱用への入口ともなっている。最近5年間のシンナー等有機溶剤乱用者の検挙人員の推移は、表5-3のとおりである。

表5-3 シンナー等有機溶剤乱用者の検挙人員の推移(昭和59~63年)

〔事例〕 3月、神戸市内で保育園児(5)が保育園に向かう途中、盗難車両に乗った男に車両内に連れ込まれた。男は、約2時間車両内でシンナーを吸っていたが、保育園児が泣き出したので、首を絞めた後、ライターで保育園児の背中に火を付け、6箇月の大やけどを負わせた。男は、22歳の無職で、中学校卒業直後から友人とシンナーの吸引を繰り返していた(兵庫)。
 このほか、63年は、習慣性のある睡眠薬の乱用、不法な販売取引事案等の発生が目立った。
〔事例〕 ろれつが回らなかったり、足元がふらついて歩けなくなっている青少年を補導したところ、青少年の間で「赤玉」と呼ばれる催眠鎮静剤が乱用されていることが明らかとなった。
 これを端緒にして、暴力団関係者が薬局開設者から催眠鎮静剤を入手し、ディスコ、ナイトクラブ等で市価の約10倍の価格で販売していることなどを把握し、2月から8月の間に、同暴力団関係者ら21人を薬事法違反等で検挙した(兵庫)。
(5) 総合的な薬物乱用防止対策の推進
 警察では、薬物乱用が国民の身体、精神に害悪をもたらし、社会に大きな脅威を与えていることにかんがみ、昭和63年4月、警察庁に薬物対策課を新設し、組織の強化を図った上で、62年制定の「薬物乱用防止対策要綱」に基づいた総合的な諸対策を推進している。
ア 供給ルートの遮断
 習慣性薬物のうち麻薬、覚せい剤のほとんどは、台湾、韓国等から、国際密輸組織、暴力団等により密輸入されたものである。そして、一度国内に流入した薬物は、暴力団を中心とする巨大な密売組織によって、巧妙な手口で素早く末端にまで売りさばかれる。したがって、薬物問題の根本的な解決のためには、密輸事犯の根絶と密売組織の壊滅が必要である。警察では、こうした考えに立ち、全国的に捜査資機材を整備し、各都道府県警察が一体となって組織的、広域的な捜査を推進するほか、海空港付近の警察署、派出所等を中心に連絡、手配体制を強化して、密輸事犯の水際検挙と密売組織の捜査の徹底に努め、供給の面からの薬物対策を推進している。
イ 乱用の根絶
 薬物問題の根本的解決のためには、供給ルートの遮断とともに、需要の根絶が必要である。警察では、こうした考えから、末端乱用者の徹底検挙を図るとともに、薬物乱用を拒絶する社会環境が作られるよう、広報啓発活動を行っている。63年には、薬物乱用体験者の手記集「白い粉の恐怖」を約7万部作成し、全国の職場、学校等に配布したほか、報道機関等を通じて積極的な広報を実施するとともに、各都道府県警察に設置されている覚せい剤相談電話等により、家族に薬物乱用者がおり苦しんでいる人たち等の相談に応じた。
ウ 関係機関、団体との連携の強化
 警察は、我が国の覚せい剤、麻薬事犯の検挙総数の約98パーセントを検挙しているが、薬物問題の根本的解決のためには、さらに、海空港における監視、他の取締機関や民間の薬物乱用防止団体等との協力が不可欠である。警察では、こうした考えに立ち、税関、入国管理局等と協力して、薬物事犯対象者等に対する出入国監視の強化と薬物の密輸入防止に努めるほか、(財)全国防犯協会連合会や、(財)麻薬・覚せい剤乱用防止センターと連携して、広報啓発活動を行っている。63年10月には、(財)全国防犯協会連合会と協力して、広報啓発用資料として、「輝いた瞳」と題する映画、ビデオを作成し、全国に配布した。
(6) 国際協力の推進
ア 薬物乱用根絶のための国際協力の高まり
 薬物乱用は、近年、世界的な広がりをみせ、悪化の一途をたどっている。その原因の一つとして、国際密輸組織が、麻薬等の薬物の密輸によって莫大な利潤を得る目的で、その不正取引に根深く介入していることが指摘されている。このような情勢に対し、63年12月、オーストリア・ウィーンにおいて、「麻薬及び向精神薬不正取引防止条約」(麻薬新条約)が採択されるなど、薬物乱用根絶のための国際協力の気運が高まっている。
 また、63年6月15日、東京で、薬物対策、国際テロリズム及び組織犯罪対策について話し合うため、「アジア・太平洋地域治安担当閣僚会議」が開催された。同会議では、これらの治安問題対策について、各国からアジア・太平洋地域における国際協力の重要性が強調され、全会一致で共同発表が採択され、相互の協力及び関係国際機関との協力を一層強化する決意が表明された。
イ 外国捜査機関との捜査協力
 習慣性薬物の密輸事犯の徹底的な捜査のためには、各国の捜査機関と密接な捜査協力を行うことが不可欠である。このため、警察では、ヘロインの密輸事犯において関係各国との捜査員の相互派遣を行うなど、国際捜査協力を推進するとともに、国外の各種の会議等に積極的に参加し、外国捜査機関との情報交換に努めている。
ウ 海外への技術協力
 我が国も、薬物取締りにおいて国際社会への貢献をするため、63年10月12日から15日間、警察庁と国際協力事業団(JICA)との共催で「第27回麻薬犯罪取締りセミナー」を開催した。同セミナーには、アジア、中

南米等17箇国(地域)から17人が参加し、薬物の鑑定、国際捜査共助等について活発な討論が行われた。
 また、警察庁は、政府開発援助(ODA)として、開発途上国に対する薬物対策技術の移転を図るため、フィリピン及び韓国に対する事前の調査を行った。

2 風俗環境の浄化

(1) 風俗営業等の現況
 風営適正化法が昭和60年2月に施行されてから、4年が経過したが、この間、警察では、善良の風俗及び清浄な風俗環境の保持並びに少年の健全育成という同法の基本理念に基づき、指導、取締りを積極的に推進してきた。特に風俗営業については、国民に社交と憩いの場を提供し、健全な娯楽の機会を与える営業であるとして、健全化に努めてきている。この結果、強引な客引き、料金等をめぐるトラブル、卑猥(わい)な看板等が減少して、風俗環境の浄化が進んでいる。
 しかし、その一方で、無許可風俗営業事犯、年少者に客の接待等をさせる事犯、外国人女性が関与する風俗関係事犯、デートクラブやテレホンクラブ等を舞台とした売春事犯、ゲーム喫茶等における遊技機使用の賭博(とばく)事犯等が跡を絶たないほか、このような風俗事犯への暴力団の介入等、看過できない事案も依然として発生しており、警察では、引き続きこれらの悪質事犯に重点を置いた指導、取締りを行っている。
ア 風俗営業の状況
(ア) 料飲関係営業等(風営適正化法第2条第1項第1号~第6号)
 最近5年間の料飲関係営業等の営業所数の推移は、表5-4のとおりで、漸減傾向にあり、63年12月末現在、8万3,917軒となっている。

表5-4 風俗営業(料飲関係営業等)の営業所数の推移(昭和59~63年)

 63年の違反態様別検挙状況は、図5-5のとおりで、1,692件を検挙したが、この件数は、風営適正化法が施行された60年以降、一貫して減少している。また、63年には指示953件、営業停止352件、許可の取消し112件の行政処分を行った。

図5-5 風俗営業(料飲関係営業等)の違反態様別検挙状況(昭和63年)

(イ) 遊技場営業(風営適正化法第2条第1項第7号、第8号)
 最近5年間の遊技場営業の営業所数の推移は、表5-5のとおりである。63年12月末には、ぱちんこ屋の営業所数が1万4,864軒、ぱちんこ遊技機等の設置台数が361万7,466台と、56年以降増加を続けてこれまでの最高数を示した。

表5-5 風俗営業(遊技場営業)の営業所数の推移(昭和59~63年)

 このようなぱちんこ屋の営業所数の急増に対応して、警察では、ぱちんこ屋営業の健全化を図るために、様々な形で介入してくる暴力団の排除その他各種の指導に努めている。
 一方、まあじゃん屋の営業所数は、54年以降減少を続け、63年12月末現在、2万6,543軒となり、ゲームセンター等の営業所数も、63年12月末現在、4万2,352軒と前年に比べ若干減少した。
 63年の違反態様別検挙状況は、図5-6のとおりで、1,540件を検挙した。また、63年には、指示973件、営業停止81件、許可の取消し26件の行政処分を行った。
 検挙事犯の中では、ゲーム機を使用した賭博(とばく)事犯が最も多い。これらの事犯については、暴力団が関与している事例がみられるほか、その手口が悪質、巧妙化していることから、引き続き取締りを強化することとしている。

図5-6 風俗営業(遊技場営業)の違反態様別検挙状況(昭和63年)

〔事例〕 7月、「私のお父さんがゲームの機械でたくさんお金を取られ、お母さんが泣いています。助けて下さい」との一少女からの投書を端緒として、ゲーム喫茶経営者(46)ら39人を常習賭博(とばく)で検挙した(愛知)。
イ 風俗関連営業(風営適正化法第2条第4項第1号~第5号)の状況
 最近5年間の風俗関連営業の営業所数の推移は、表5-6のとおりで、

表5-6 風俗関連営業の営業所数の推移(昭和59~63年)

59年以降漸減傾向にあり、63年12月末現在、1万4,684軒となっている。
 63年の違反態様別検挙状況は、図5-7のとおりで、767件を検挙した。また、63年には、指示153件、営業停止116件、営業の廃止7件の行政処分を行った。

図5-7 風俗関連営業の違反態様別検挙状況(昭和63年)

ウ 深夜飲食店営業の状況
 63年12月末現在、深夜飲食店営業の営業所数は34万3,565軒であり、このうち深夜酒類提供飲食店営業の営業所数は26万1,388軒であった。最近5年間の深夜飲食店営業の営業所数の推移は、表5-7のとおりで、漸増傾向にある。

表5-7 深夜飲食店営業の営業所数の推移(昭和59~63年)

 63年の深夜飲食店営業の違反態様別検挙状況は、図5-8のとおりで、2,748件を検挙した。また、63年には、指示1,274件、営業停止438件の行政処分を行った。

図5-8 深夜飲食店営業の違反態様別検挙状況(昭和63年)

(2) 売春事犯等の現況
 昭和63年の売春防止法違反の検挙件数は1万37件、検挙人員は2,921人で、件数は59年以降連続して1万件を超えた。最近5年間の検挙状況は、表5-8のとおりで、最近では、売春防止法制定当時多かった街娼(しょう)型、管理型からデートクラブに代表される派遣型が主流となり、総検挙件数の93.2%を占めるに至っている。このような売春事犯の形態の変化に伴い、その手口も、チラシ、ビラ等を利用し客を求めるケースが目立っている。
 また、テレホンクラブは、63年12月末現在、全国で551軒が把握されており、増加する傾向にあり、63年には売春防止法違反等で65件検挙されているが、この中には経営者が売春をあっせんしている事例や少女が性的被害者となっている事例等が見受けられる。
〔事例1〕 2月、大分県警察は、公衆電話ボックスにチラシを多量に貼(は)り付け売春の誘引を行い、少女らに売春させていたデートクラブ経営者(43)ら7人を売春防止法違反で検挙した。

表5-8 売春防止法違反の検挙状況(昭和59~63年)

〔事例2〕 テレホンクラブ経営者(33)は、暴力団幹部らと結託して、テレホンクラブに電話をしてきた少女らに「小遣いを稼がないか」などと言葉巧みに売春をするように誘い込み、客に売春をあっせんしていた。10月、同経営者ら15人を売春防止法違反等で検挙(香川)

(3) 巧妙化する猥褻(わいせつ)事犯
 昭和63年の猥褻(わいせつ)事犯の検挙件数は2,155件、検挙人員は1,968人である。最近は、ビデオ機器の普及等から露骨な表現の猥褻(わいせつ)ビデオテープ等が広く一般家庭に出回り、これらの販売方法も、雑誌広告やダイレクトメール広告を利用した通信販売によるものが多く、また、販売元を隠すため郵送受付窓口として私書箱を利用するなどの事例も見受けられ、販売方法が巧妙化してきている。63年の猥褻(わいせつ)ビデオテープに係る検挙件数は、907件と猥褻(わいせつ)事犯の42.1%を占めており、押収した猥褻(わいせつ)ビデオテープは、8万3,165種類、24万5,828巻で、前年に比べ、3万383種類(57.6%)、5,619巻(2.3%)それぞれ増加した。
 最近5年間の猥褻(わいせつ)事犯の検挙状況は、表5-9のとおりである。

表5-9 猥褻(わいせつ)事犯の検挙状況(昭和59~63年)

〔事例1〕 3月、スポーツ新聞や週刊誌により広告宣伝し、全国のアダルトショップ経営者らに猥褻(わいせつ)ビデオテープを通信販売していた猥褻(わいせつ)ビデオ製造販売業者(37)及び広告代理店経営者(32)ら6人を猥褻(わいせつ)図画販売等で検挙した(徳島)。
〔事例2〕 11月、全国の高額所得者等約10万人に、「有名芸能人出演の秘密ビデオを通信販売します」と偽って購入申込書付案内書を送付し、芸能人と全く関係のない猥褻(わいせつ)ビデオテープを高額で通信販売していた猥褻(わいせつ)ビデオ販売業者(35)を猥褻(わいせつ)図画販売で検挙した(警視庁)。
(4) ノミ行為事犯の現況
 昭和63年の公営競技に係るノミ行為事犯の検挙件数は866件、検挙人員は3,552人で、前年に比べ、件数で193件(28.7%)、人員で914人(34.6%)それぞれ増加した。最近5年間のノミ行為事犯の検挙状況は、表5-10のとおりである。

表5-10 ノミ行為事犯の検挙状況(昭和59~63年)

 最近は、警察と施行者の連携の下に、暴力団、ノミ屋等の公営競技場からの排除措置が効果的に推進され、公営競技場の浄化が進んでいる。しかし、その一方、ノミ行為の場が場外に拡散しており、また、転送電話等を利用するなど手口が悪質、巧妙化していることから、警察では、今後とも、各施行者の協力の下に場内外におけるノミ行為事犯の取締りを強力に推進することとしている。
〔事例〕 暴力団組長(39)は、高層マンションの一室をノミ受け拠点として名古屋市内の喫茶店、飲食店等において経営者らを胴元に置き、組織的にノミ行為を行っていた。1月、同組長ら428人をモーターボート競走法違反等で検挙(愛知)

3 銃砲の取締りと適正管理

(1) けん銃等の取締り
ア けん銃使用犯罪の状況
 昭和63年のけん銃使用犯罪の検挙件数は、155件で、罪種別では、殺人76件、強盗9件と凶悪犯罪が多数を占めている。また、けん銃使用犯罪のうち暴力団関係者によるものは、145件で、全体の93.5%を占めている。過去10年間におけるけん銃等の銃砲使用犯罪の検挙件数の推移は、図5-9のとおりである。

図5-9 けん銃等の銃砲使用犯罪の検挙件数の推移(昭和54~63年)

イ けん銃の押収状況
 63年のけん銃の押収数は、1,264丁で、前年に比べ328丁(20.6%)減少した。最近5年間のけん銃押収数の推移は、表5-11のとおりである。

表5-11 けん銃押収数の推移(昭和59~63年)

ウ けん銃密輸入事犯の状況
 63年のけん銃密輸入事犯の検挙件数は17件、検挙人員は29人、けん銃の押収数は173丁で、いずれも前年に比べ減少した。最近5年間のけん銃密輸入事犯の検挙状況は、表5-12のとおりである。

表5-12 けん銃密輸入事犯の検挙状況(昭和59~63年)

 警察では、税関等の関係機関、団体との緊密な連携の下に、けん銃密輸入事犯の水際検挙と密輸入ルートの解明に努めている。
〔事例〕 書店経営者(30)は、暴力団幹部ら3人と共謀し、けん銃25丁、実包2,319個をビリヤード台に隠匿して、フィリピンから定期貨物船を利用して神戸港に密輸入した。5月検挙(兵庫)
(2) 猟銃等の適正管理
ア 猟銃等の所持許可数の減少
 最近5年間に所持許可を受けた猟銃及び空気銃(以下「猟銃等」という。)の数の推移は、表5-13のとおりで、昭和63年12月末現在、50万6,199丁(うち、猟銃46万9,373丁、空気銃3万6,826丁)となっており、10年連続して減少した。

表5-13 所持許可を受けた猟銃等の数の推移(昭和59~63年)

イ 猟銃等による事故の減少
 最近5年間の猟銃等による事故の発生状況は、表5-14のとおりで、

表5-14 猟銃等による事故の発生状況(昭和59~63年)

63年の発生件数は73件、死傷者数は78人であり、前年に比べ、それぞれ14件(16.1%)、11人(12.4%)減少した。
 63年に盗難に遭った猟銃等は、17丁であり、62年に比べ5丁減少した。その被害状況については、所持者側に保管義務違反があるものが減少している。
 また、63年の猟銃等を使用した犯罪の検挙件数は13件で、このうち所持許可を受けた猟銃等を使用したものは、7件であった。最近5年間の猟銃等使用犯罪の罪種別検挙状況は、表5-15のとおりである。

表5-15 猟銃等使用犯罪の罪種別検挙状況(昭和59~63年)

4 危険物対策の推進

(1) 火薬類対策の推進
 昭和63年の猟銃用火薬類等(専ら猟銃、けん銃等に使用される実包、銃用雷管、無煙火薬等)の譲渡、譲受け等の許可件数は、9万6,699件であった。
 また、63年には、火薬類の盗難事件が22件、実包を除く火薬類(ダイナマイト、無煙火薬等)を使用した犯罪が21件発生した。
 警察では、火薬類取締法に基づき、火薬類の製造所、販売所、火薬庫、消費場所等に対して積極的な立入検査を実施し、火薬類の保管方法等についての指導と取締りを行っている。
(2) 高圧ガス、消防危険物等による事故の防止
 昭和63年には、事業所や一般家庭において、高圧ガス、消防危険物等による事故が871件発生し、339人の死者が出ている。
 警察では、高圧ガス、石油類等の事故を防止するため、関係機関との連携の下に取締りを行っているが、63年には、高圧ガス取締法、消防法等危険物関係法令違反により、899件、950人を検挙した。特に、11月には、輸送中の危険物の安全を確保するため、危険物運搬車両の全国一斉の集中指導取締りを行い、悪質な違反309件、256人を検挙した。
(3) 放射性物質の安全対策の推進
 昭和63年に都道府県公安委員会が受理した放射性物質の運搬届出件数は、核燃料物質等が1,172件、放射性同位元素等が310件であった。
 核燃料物質等の運搬に際しては、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」により、都道府県公安委員会から運搬証明書の交付を受け、運搬中はこれを携帯し、かつ、これに記載された内容に従って運搬しなければならないこととなっている。
 警察では、核燃料物質等の使用者等に対し事前指導を行うなど、核燃料物質等の運搬の安全確保に努めている(なお、核物質防護体制の整備について、第7章5(3)を参照)。

5 消費者被害防止対策の推進

(1) 悪質商法の動向と警察の対応
 先物取引、証券取引等資産形成を目的とした取引を装って行われる事犯や訪問販売、通信販売等店舗以外の場所での取引形態を利用して行われる無店舗販売事犯等の悪質商法は、昭和63年も多発した。
 資産形成を目的とした取引を装って行われる事犯は、余剰資金の増大、マル優制度の廃止、長引く低金利傾向等を原因とする財テクブームの継続といった社会情勢を背景に、63年も跡を絶たなかった。特に、元本が保証されていないことを隠して、取引に関する知識や経験の乏しい一般消費者を投機的な取引に誘い込み、多額の金銭をだまし取るなどの先物取引をめぐる事犯や、国民の株式投資熱に付け込んで客に投資資金を融資すると称して取引に誘い込み、多額の金銭をだまし取るなどの証券取引をめぐる事犯が目立った。これらのほかにも、63年は、財産的価値のほとんどない原野を購入させられ、その処分に困っている「原野商法」の被害者をねらい、口実を設けて新たに別の原野を売り付けるなどの「第二次原野商法」や、国債等を利用した脱法ネズミ講を作り上げ、会員から出資金の名目で金銭をだまし取るといった事犯がみられた。
 一方、無店舗販売事犯は、生活水凖の向上、健康や美容に対する関心の高まりといった社会の動向を反映して多様化し、巧みなセールストークで一般消費者の購入意欲をかき立てて粗悪な商品等を高額で売り付けるなどの手口で、63年も、若者から老人まで広く一般消費者に大きな被害を発生させた。
 警察では、苦情の多い事犯のほか潜在化した事犯にも重点を置き、先制的な取締りを実施するとともに、消費者に対し、悪質商法に関する広報啓発活動を展開するなど、悪質商法による消費者被害の未然防止と拡大防止に積極的に取り組んできた。
(2) 悪質商法の取締り
ア 先物取引をめぐる悪質商法
 昭和63年の検挙状況は、検挙事件数16事件、検挙人員5法人130人であり、被害状況は、被害者約6,100人、被害額約151億3,000万円に上った。
 警察では、苦情が多く取締りの要望が強い外国の先物取引市場において行われる先物取引(いわゆる海外先物取引)をめぐる悪質商法に対し、昨年に引き続き重点的な取締りを実施した。63年に検挙した業者が詐欺的な取引の舞台としていた外国の先物取引市場の内訳は、表5-16のとおりであるが、これらの業者の中には、取引していた市場が法規制の対象となると、まだ規制を受けていない別市場での取引に変更して法規制を免れようとするなど悪質なものがあった。

表5-16 検挙した業者が取引していた外国の先物取引市場の内訳(昭和63年)

 なお、63年には、各行政機関に寄せられた苦情、相談内容等を踏まえ、新たに5先物市場での取引を規制対象とするなどの「海外商品市場における先物取引の受託等に関する法律施行令」の一部改正が行われた。
〔事例〕 海外先物取引業者(42)らは、60年ころから法規制の及んでいなかったニューヨークの銅やカカオ豆市場での取引を行っていたが、62年にこれらが法規制を受けることとなったため、取引を当時未規制であったロンドンのポテト市場に変更し、主として老人や主婦を対象に「絶対にもうかる」などと言って取引に勧誘し、相場の変動を利用するなどして、1府22県の約500人から委託保証金の名目で約19億4,000万円をだまし取っていた。10月27日までに、詐欺で6人を逮捕(兵庫)
 また、悪質業者は、国内で行われている私設市場における先物取引でも一般消費者から金銭をだまし取っており、海外先物取引をめぐる悪質商法と同様、取締りの徹底を図った。
イ 証券取引をめぐる悪質商法
 63年の検挙状況は、検挙事件数8事件、検挙人員32人であり、被害状況は、被害者約870人、被害額約32億4,800万円に上った。
 63年の証券取引をめぐる悪質商法の特徴的な手口としては、「二・八商法」あるいは「株の分譲」によるものだった。「二・八商法」とは、「自己資金で2割を出せば、会社で残り8割を融資する。わずかな資金で大きなもうけができる」などと言って、株式買い付け資金の融資担保金の名目で金銭をだまし取るものであり、「株の分譲」とは、実際には保有していない優良株について「会社が買い付けている優良株があり、現在株価が上がっている。これをあなただけに特別に買い付けたときの値段で売ってやる」などと言って金銭をだまし取るものである。
 警察では、悪質業者に対し、詐欺罪のほか証券取引法、「有価証券に係る投資顧問業の規制等に関する法律」を適用して取締りの徹底を図った。
〔事例〕 会社社長(44)らは、詐欺会社4社を設立し、一般投資家に「現金か株券を担保として預けてもらえれば、その5倍の資金を融資して優良株を買い付ける。少ない資金で高額の利益が出せる。ひともうけしてみないか」などと言って勧誘し、36都道府県の約310人から総額約13億円をだまし取った。5月14日までに詐欺で5人を逮捕(宮崎)
ウ 無店舗販売事犯
 63年の検挙状況は、検挙事件数155事件、検挙人員401人であり、被害状況は、被害者約11万8,700人、被害額約131億7,800万円に上った。
 無店舗販売事犯で販売等されていた商品、権利及び役務の種類別内訳は、表5-17のとおりである。消火器、電話機、健康食品等の商品の販売に関する事犯が引き続き多発したが、一方、国家資格の取得や内職の指導、塗装工事等の役務の提供に関する悪質な事犯の増加も目立った。

表5-17 無店舗販売事犯の商品等の種類別内訳(昭和63年)

 警察では、無店舗販売事犯については、一般消費者のすべてが被害に遭う可能性を有しているという認識の下に、詐欺や恐喝をはじめ、「訪問販売等に関する法律」違反等あらゆる違法行為をとらえて取締りの徹底を図った。
 なお、63年には、従来規制を受けていなかった権利の販売や役務の提供に関する悪質な事犯が多発したことから、これらを新たに規制対象とするなどの「訪問販売等に関する法律」の一部改正が行われた。
〔事例1〕 豊田商事の元社員(49)らは、製作された物品を買い取る意思がないのに、「製品は売れに売れている。最低でも月に40万円から50万円の収入になる」などと言って人工大理石の製造研磨の内職の希望者を募り、高額の機械を売り付け、被害者14人から約3,500万円をだまし取っていた。10月6日までに、詐欺で3人を逮捕(長野)
〔事例2〕 塗装業経営者(49)らは、独居高齢者等をねらい、トタン屋根の塗装工事を安価でしてやると持ち掛け、粗雑な工事を行った上、実際には行っていないサビ止め塗装をしたかのように装って高額な代金を請求し、抗議する被害者に対しては、語気荒く迫るなどして、被害者約400人から約1億1,500万円をだまし取り又は脅し取っていた。6月29日までに、詐欺と恐喝で9人を逮捕(徳島)
エ その他の悪質商法
(ア) 「原野商法」
 63年の検挙状況は、検挙事件数6事件、検挙人員11法人73人であり、被害の状況は、被害者約2,100人、被害額約59億円に上った。
 その内容をみると、63年は、悪質不動産業者らが「原野商法」の被害者に近づき、原野の転売のための測量を口実にして測量代金の名目で金銭をだまし取ったり、近隣の原野との抱き合わせを条件とした転売のあっせんを口実に、新たに別の原野を購入させるなどの「第二次原野商法」が増加した。
〔事例〕 不動産会社社長(46)らは、北海道の「原野商法」の被害者を対象に「あなたの土地をいい値段で売ってやる。そのためには土地の測量が必要」などと言って測量代金の名目で約1,400人から約5億2,000万円をだまし取った。6月29日までに、詐欺で7人を逮捕(北海道)
(イ) ネズミ講関係事犯
 いわゆるネズミ講は、「無限連鎖講の防止に関する法律」が54年に施行されて以来年々減少し、その大部分が姿を消したが、同法の規制対象とされていなかった国債や商品券等の物品を使った悪質なネズミ講が62年初めころから63年にかけて全国的な広がりをみせ、大きな社会問題となった。
 警察では、こうした脱法ネズミ講の会員勧誘活動等に関して、詐欺で3事件、6人を検挙したほか、一般消費者に対して広報啓発活動を実施するなどして被害の拡大防止を図った。
 なお、63年には、このような情勢を背景にして、物品の配当組織を新たに規制対象とする「無限連鎖講の防止に関する法律」の一部改正が行われた。
〔事例〕 国債を使った脱法ネズミ講である「国利民福の会」の開設者(54)らは、実際には加入者に約束どおりの配当が行われないようなシステムを構築しておきながらこれを隠し、先順位の会員に配当する国債の購入代金として入会者32人から合計約700万円の現金等を送付させ、これをだまし取った。10月21日までに詐欺で3人を逮捕(大阪)
(3) 消費者被害防止のための諸施策の推進
 警察では、悪質商法による消費者被害を防止するため、各種の施策を実施した。
ア 広報啓発活動
 警察では、悪質商法による被害の未然防止を図るため、一般消費者に対する広報啓発活動を実施した。一般消費者に配布したパンフレット等の広報啓発資料は、約150万部に達した。
〔事例〕 悪質商法による被害の未然防止のため、警察に検挙された悪質業者の告白を基に、「自己診断!あなたは悪質業者から好かれるタイプ?それとも…悪質商法被害者度チェック」と題するパンフレットを作成し、全国の防犯協会を通じて一般消費者に約10万部頒布した。

イ 「悪質商法110番」の活用
 63年の都道府県警察における「悪質商法110番」の受理件数は、1万1,273件であった。警察では、これらの苦情、相談を通じて得た情報を基に重点的な取締りを行った結果、71事件を検挙した。
〔事例〕 「悪質商法110番」に寄せられた苦情、相談を通じて得た情報を基に証券取引会社を調査したところ、その社長(55)らは、「資金が足りないときは低金利で融資する。自己資金が30万円もあれば簡単にもうけることができる」などと言って顧客を勧誘し、全国の一般消費者約300人から約10億円をだまし取っていたことが判明した。11月8日までに、詐欺で3人を逮捕(佐賀)
ウ 消費者行政担当機関等との連携強化
 警察庁と経済企画庁が共同で策定した「消費者保護施策推進要綱」に基づき、各都道府県警察は、各地方自治体の消費者行政担当課、消費生活センター等と消費者被害の防止についての協力体制を強化するための会議等を開催し、これらの機関との連携強化を図った。
 警察では、こうした会議等を通じて得た情報を基に重点的な取締りを実施した結果、63年には、24事件を検挙した。
〔事例〕 広島県警察では、62年4月、県消費者行政担当課、県生活センター等との間で消費者保護推進連絡会議を結成し、会議を通じて得た情報を基に捜査を行ったところ、悪質建設業者グループが新聞の折り込みチラシ等で広く顧客を募り、着工金等を受領した後、工事を遅延させたり放棄するなどして顧客に工事の完成を断念させ、さらに、解約やクレームを申し出た顧客からは、高額の違約金等を脅し取っていたことが判明した。63年5月、逮捕12人を含む27人を暴力行為、恐喝等で検挙

6 知的所有権保護対策の推進

(1) 知的所有権侵害事犯の取締り
 昭和63年の検挙状況は、検挙件数910件、検挙人員726人であり、最近5年間の知的所有権関係法令違反の法令別検挙状況は、表5-18のとおりである。その内容をみると、ビデオソフト等のソフトウェアに対する国民の需要の増大や複製機器の発達に伴い、63年は、これらのソフトウェアの海賊版を製造販売するといった形態で敢行された著作権法違反事件の検挙が増加した。一方、有名ブランド商品を偽造販売する商標法違反事件の検挙件数は、従来からの重点的な取締り、関係業界(団体)との連携による広報啓発活動の強化等により減少の傾向にあるものの、大手自動車メーカーのブレーキシューやコンタクトポイントの偽部品を製造販売していた事犯や名産地の商品であることを表示した箱と類似したものを使用してみかんやわかめを出荷していた事犯等が発生するなど、偽造の対象となる物品の種類が拡大した。

表5-18 知的所有権関係法令違反の法令別検挙状況(昭和59~63年)

ア 海賊版事犯
 63年中の海賊版事犯としては、国内未発売の洋画ビデオを国外から持ち込んだ者から購入し、これをマスターテープとして海賊版を製造頒布していたもの、画質が劣化しないレーザーディスクから海賊版を製造頒布していたもの、ビデオレンタル店から真正品を借り受け、それをマスターテープとして海賊版を製造頒布し、ビデオレンタル店には海賊版を返却していたものなどがあり、事犯の悪質、巧妙化の傾向がみられた。
 なお、従来、頒布の目的を持っていても海賊版ビデオ等を所持しているだけの行為は処罰の対象にならなかったため、海賊版を譲渡又は貸与したことを個々具体的に立証する必要があり、その取締りには困難が伴った。こうした取締り上の問題や関係業界等からの要望を踏まえ、海賊版ビデオ等を頒布の目的で所持する行為を処罰することなどを内容とする著作権法の一部改正が行われた。
〔事例〕 ビデオレンタル店の経営者(34)らは、62年2月ころから複製機12台を購入してマンションの1室に密造工場を造り、いわゆるかばん屋から購入した海外の人気映画ビデオテープの海賊版約9,000本を製造して販売、レンタルし、約6,900万円の暴利を得ていた。4月9日までに、逮捕3人を含む1法人15人を検挙し、海賊版ビデオ1,749本、複製機器12台を押収(茨城)
イ 偽ブランド商品事犯
 偽ブランド商品事犯は、従来、国内で偽造して販売するものがほとんどであったが、63年は、海外から偽ブランド商品を携帯輸入するなどしてディスカウントショップ、喫茶店、路上等で販売する事犯や、海外から安価な部品や半製品を輸入し、これを国内で偽ブランド商品に加工して販売するなどの事犯が総検挙事犯の3分の2を占め、事犯の国際化の傾向がみられた。
〔事例〕 衣料品卸売販売会社社長(44)らは、60年5月ころから40数回韓国へ渡航し、フランス製Tシャツ、トレーナー等の偽造品合計約2万点(販売価格約8,800万円相当)を仕入れ、手荷物として持ち帰り又は小包で送るという方法で不正に輸入し、ブティック等に販売し、約4,000万円の利益を得ていた。10月4日までに、商標法違反で逮捕2人を含む12人を検挙し、偽商品1,088点を押収(長野)
(2) 知的所有権保護に関する広報啓発活動
 警察では、適時適切な事件広報、報道機関を通じた広報啓発活動を推進したほか、不正商品対策協議会と協力して、知的所有権保護の重要性、不正商品排除の必要性について広報啓発活動を実施した。
〔事例〕 不正商品対策協議会は、警察庁と協力して、知的所有権とは何か、なぜ保護しなければならないのかということについて若い世代の理解を得ることを目的として、少年学習雑誌に「ニセモノやコピー商品を許すな!鍵のない宝石箱」と題する漫画を掲載し、また、この漫画を別冊小冊子として2万部作成し、報道機関、消費者団体、関係省庁等に配布して広報啓発活動に努めた。
 なお、同じ雑誌で、不正商品追放キャンペーンの標語を募集し、採用された標語を各種の広報活動で使用することとしている。

7 国際経済事犯の取締り

 昭和63年の外国為替及び外国貿易管理法(以下「外為法」という。)違反の検挙状況は、検挙件数170件、検挙人員61人、関税法違反の検挙状況は、検挙件数141件、検挙人員68人であった。
 63年も、半導体を無承認で輸出した事件、台湾産の鮭、鯨肉を密輸入した事件等のほか、輸出入貨物の価格を低価に虚偽申告して差額を自己宛小切手により不正決済する事件等、貿易取引に絡む悪質な事件が目立った。最近5年間の国際経済事犯の法令別検挙状況は、表5-19のとおりである。

表5-19 国際経済関係事犯の法令別検挙状況(昭和59~63年)

8 公害事犯の取締り

(1) 公害事犯の取締り状況
 警察は、国民の健康を保護するとともに生活環境の保全を図るため、悪質な水質汚濁事犯や産業廃棄物の不法処分事犯等に重点を置いた取締りを行っている。最近5年間における公害事犯の法令別検挙状況は、表5-20のとおりである。

表5-20 公害事犯の法令別検挙状況(昭和59~63年)

(2) 水質汚濁事犯の取締り
 昭和63年における河川等を汚染する水質汚濁事犯の検挙件数は150件であった。このうち、工場等が水質汚濁防止法、下水道法、鉱山保安法又は公害防止条例に定められた排水(排除)基準に違反して汚水を排出(排除)する事犯の検挙件数は72件であった。排水(排除)基準違反の内容をみると、取締りから逃れるため、隠し排水口を設けて汚水を排出していたものや行政機関からの再三の行政指導を無視して違反行為を継続していたものなど悪質かつ巧妙な事犯が目立った。
〔事例〕 養豚業者(67)らは、行政機関の再三にわたる指導を無視し、基準値を大幅に超える汚水を、環境庁告示で水鳥の生息地として指定された湿地である伊豆沼に、隠し排水口を通じて未処理のまま排出していた。9月9日、水質汚濁防止法違反で2人を検挙(宮城)
(3) 廃棄物事犯の取締り
 昭和63年における「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(以下「廃棄物処理法」という。)違反の検挙件数は、3,168件であり、これを態様別にみると、表5-21のとおりで、廃棄物をみだりに捨てる不法投棄事犯が依然として多く、全体の71.2%を占めている。

表5-21 廃棄物処理法違反の態様別検挙状況(昭和63年)

 不法投棄等又は無許可で埋立処分等された産業廃棄物の総量は、約71万4,000トンであり、その種類別、場所別状況は、図5-10のとおりである。内容的には、大都市圏を中心として、建設工事及び解体工事に伴って生じた建設廃材や木くず等の産業廃棄物の大規模な不法処分事犯が目立った。

図5-10 不法投棄等された産業廃棄物の種類別、場所別状況(昭和63年)

〔事例〕 砂利販売業者(56)らは、行政機関から再三にわたる指導や措置命令を受けていたにもかかわらず、砂利採取跡地を利用して、大阪、京都等の約130の建設業者から約11万2,000トンの建設廃材等の処理を請け負い、無許可で埋立処分を行い、約1億5,000万円の利益を得ていた。8月8日、廃棄物処理法違反で10法人42人を検挙(兵庫)

9 外国人労働者問題

(1) 外国人労働者問題
 近年、アジア諸国から我が国に出稼ぎに来て、風俗に関する営業で稼働したり、建設業や製造業の分野でいわゆる単純労働に従事する労働者の急増が社会問題となっている。
 昭和63年に、出入国管理及び難民認定法の規定に基づき、資格外活動又は不法残留により退去強制を受けた外国人の数は、1万6,103人で、5年前に比べ1万2,502人(347.2%)増加している。また、63年に、資格外活動又は不法残留により退去強制を受けた者を国籍別にみると、フィリピン人が5,869人(36.4%)、バングラデシュ人が3,111人(19.3%)、パキスタン人が2,651人(16.5%)となっており、最近はバングラデシュ人、パキスタン人の増加が顕著である。出稼ぎ外国人が急増している原因としては、我が国とアジア諸国との経済格差や近年の円高傾向等が挙げられている。
 従来から外国人労働者の受入れを行ってきた西独やフランスでは、外国人労働者の失業その他の問題が大きな社会問題となっていることが指摘されているが、我が国でも、出稼ぎ外国人の増加に伴い、彼らが犯罪を犯したり、犯罪の被害者となる事例も目立ってきており、今後、外国人労働者の増加がもたらす様々な社会問題が、これまで他の先進国に比較して良好であるといわれてきた我が国の治安に与える影響が懸念されるところである。
(注) 数字は、出入国管理統計年報(法務省入国管理局)による。
(2) 悪質な職業あっせん業者の介入
 我が国に出稼ぎに来る外国人の多くは、いわゆる単純労働に従事する者であるが、現在、我が国は、原則としていわゆる単純労働に従事するための在留資格の付与を認めていないので、彼らは、真の入国目的を秘し、観光、興行、就学等を表向きの目的として、そのための在留資格を付与されて入国し、不法に就労することとなる。このため、外国人労働者を劣悪な労働条件に置いて暴利を得る悪質なあっせん業者が跡を絶たず、このような業者の中には、海外に赴いて直接女性を募ったり、現地のプロダクションと結託するなど組織的に外国人の不法就労に介入しているものが多く、職業あっせんから得た不当な利益が暴力団の資金源となっている事例も見受けられる。警察では、職業安定法や「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」(以下「労働者派遣事業法」という。)を適用して、外国人労働者の就労に介入して暴利を得ている職業あっせん業者の摘発に努めている。
〔事例〕 芸能プロダクション経営者(49)は、在フィリピンのプロダクションと結託し、現地でオーディションを行った上、約140人のフィリピン人女性を興業ビザで入国させ、ホステスとして4都県内のスナック等に派遣していた。11月、労働者派遣事業法違反で逮捕(茨城)
(3) 風俗に関係する営業に携わる外国人女性
 近年、「じゃぱゆきさん」と称される外国人女性が、観光ビザ等で入国し風俗に関係する営業で稼働したり、売春等の風俗関係事犯に関与する事案が増加しており、風俗環境に少なからぬ影響を及ぼしている。最近5年間の風俗関係事犯関与外国人女性数の推移は、表5-22のとおりで、昭和61年をピークにほぼ横ばい状態であるが、依然高水準にある。63年における風俗関係事犯関与外国人女性の状況は、表5-23のとおりで、売春事犯936人(59.4%)、猥褻(わいせつ)事犯80人(5.1%)、風営適正化法違反558人(35.5%)となっており、これらの外国人女性のうち874人(全体の55.5%)を検挙し、また、745人(同47.3%)を入国管理局に引き渡した。63年における風俗関係事犯関与外国人女性の国・地域別状況については、フィリピン人が588人(37.4%)と最も多く、次いで台湾人421人(26.7%)、タイ人397人(25.2%)の順となっているが、タイ人の増加が著しい。

表5-22 風俗関係事犯関与外国人女性数の推移(昭和59~63年)

表5-23 風俗関係事犯関与外国人女性の状況(昭和63年)

 また、最近は、ダンサー等の名目で興業ビザで入国し、ホステス等として稼働する例が目立つほか、外国人女性の不法就労に関して、暴力団等による職業あっせん事犯や偽装結婚事犯、不正の手段による在留資格変更事犯等悪質、巧妙な事犯も見受けられる。
〔事例〕 日本語学校経営者(45)らは、ホステスとして働くため観光ビザで入国していた台湾人女性の在留資格を、より在留期間の長い就学のための在留資格に変更することを企て、在留資格変更の申請時に提出が義務付けられている現地の高等学校の卒業証明書を偽造し、入国管理局に対し、約400人の在留資格変更の代理申請をしていた。1月、有印私文書偽造、同行使で逮捕(大阪)


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