第2章 犯罪情勢と捜査活動

1 刑法犯の状況

(1) 認知と検挙の状況
ア 認知状況
 昭和63年の刑法犯認知件数(注)は、164万1,310件で、前年に比べ6万3,356件(4.0%)増加して、戦後最高を記録した。21年から63年までの刑法犯認知件数と犯罪率の推移は、図2-1のとおりである。
(注) 罪種別認知件数は、資料編統計2-3参照

図2-1 刑法犯認知件数と犯罪率の推移(昭和21~63年)

 63年の刑法犯認知件数の包括罪種別構成比は、図2-2のとおりであり、窃盗犯が142万2,355件で、全体の86.7%を占め、次いで、知能犯、粗暴犯、風俗犯、凶悪犯の順となっている。

図2-2 刑法犯認知件数の包括罪種別構成比(昭和63年)


 過去20年間の刑法犯包括罪種別認知件数の推移を指数でみると、図2-3のとおりで、粗暴犯、風俗犯、凶悪犯が減少傾向にあるのに対し、窃盗犯は増加傾向にあることが分かる。

図2-3 刑法犯包括罪種別認知件数の推移(昭和44~63年)

イ 検挙状況
 63年の刑法犯検挙件数(注1)は98万2,165件、検挙人員(注2)は39万8,208人で、前年に比べ、検挙件数は2万9,911件(3.0%)、検挙人員は6,554人(1.6%)それぞれ減少した。 21年から63年までの刑法犯の検挙件数と検挙人員の推移は、図2-4のとおりである。
(注1) 罪種別検挙件数は、資料編統計2-4参照
(注2) 罪種別検挙人員は、資料編統計2-5参照
なお、検挙人員には、触法少年を含まない。
ウ 年齢層別犯罪者率
 過去20年間の年齢層別犯罪者率の推移は、図2-5のとおりで、14歳から19歳までの層の犯罪者率が著しく高い。

図2-4 刑法犯検挙件数、検挙人員の推移(昭和21~63年)

図2-5 刑法犯年齢層別犯罪者率の推移(昭和44~63年)

(2) 主な罪種の認知と検挙の状況
ア 凶悪犯
 昭和63年の凶悪犯認知件数は、6,582件で、前年に比べ513件(7.2%)減少した。過去10年間の凶悪犯罪種別認知件数の推移は、図2-6のとおりである。

図2-6 凶悪犯罪種別認知件数の推移(昭和54~63年)

 63年の凶悪犯検挙件数は5,724件、検挙人員は5,279人、検挙率は87.0%で、前年に比べ、検挙件数は475件(7.7%)、検挙人員は523人(9.0%)減少し、検挙率は0.4ポイント低下した。過去10年間の凶悪犯罪種別検挙率の推移は、図2-7のとおりである。

図2-7 刑法犯の主な罪種別検挙率の推移(昭和54~63年)

イ 粗暴犯  63年の粗暴犯認知件数は、4万4,814件で、前年に比べ735件(1.7%)増加した。過去10年間の粗暴犯罪種別認知件数の推移は、図2-8のとおりである。
 63年の粗暴犯検挙件数は3万9,969件、検挙人員は5万2,008人、検

図2-8 粗暴犯罪種別認知件数の推移(昭和54~63年)

挙率は89.2%で、前年に比べ、検挙件数は27件(0.1%)、検挙人員は747人(1.4%)それぞれ減少し、検挙率は1.5ポイント低下した。過去10年間の粗暴犯の主な罪種別検挙率の推移は、図2-7のとおりである。
ウ 窃盗犯
 63年の窃盗犯認知件数は、142万2,355件で、前年に比べ5万7,559件(4.2%)増加した。これを手口別にみると、侵入盗が1万9,170件(6.9%)減少したのに対し、乗物盗が 6万9,246件(13.9%)、非侵入盗が7,483件(1.3%)それぞれ増加しており、オートバイ盗と自転車盗を中心とする乗物盗の増加が、刑法犯全体の認知件数の増加を上回っている。過去10年間の窃盗犯手口別認知件数の推移は、図2-9のとおりである。

図2-9 窃盗犯手口別認知件数の推移(昭和54~63年)

 63年の窃盗犯検挙件数は、79万2,752件、検挙人員は25万3,608人、検挙率は55.7%で、前年に比べ、検挙件数は2万9,079件(3.5%)、検挙人員は8,326人(3.2%)それぞれ減少し、検挙率は4.5ポイント低下した。過去10年間の窃盗犯検挙率の推移は、図2-7のとおりである。
エ 知能犯
 63年の知能犯認知件数は、8万840件で、前年に比べ3,597件(4.3%)減少した。過去10年間の知能犯罪種別認知件数の推移は、図2-10のとおりである。
オ 風俗犯
 63年の風俗犯認知件数は、6,997件で、前年に比べ286件(4.3%)増

図2-10 知能犯罪種別認知件数の推移(昭和54~63年)

加した。過去10年間の風俗犯罪種別認知件数の推移は、図2-11のとおりである。

図2-11 風俗犯罪種別認知件数の推移(昭和54~63年)

(3) 被害の状況
ア 生命、身体の被害
 昭和63年に認知した刑法犯により死亡し、又は負傷した被害者数は、死者1,631人、負傷者2万8,021人で、前年に比べ、死者は26人(1.6%)、負傷者は312人(1.1%)それぞれ増加した。最近5年間の死者と負傷者の数の推移は、表2-1のとおりである。死者数について罪種別にみると、殺人による死者が805人で死者総数の半数近くを占めており、次いで業務上(重)過失致死、傷害致死、放火、過失致死、強盗殺人(強盗致死を含む。)、失火の順となっている。

表2-1 刑法犯による死者と負傷者の数の推移(昭和59~63年)

イ 財産犯による被害
 63年に認知した刑法犯のうち、財産犯(強盗、恐喝、窃盗、詐欺、横領、占有離脱物横領をいう。)による財産の被害総額は、約1,980億円であり、このうち、現金の被害は約795億円で、前年に比べ、被害総額は約3億円(0.2%)、現金の被害は約60億円(7.0%)それぞれ減少した。最近5年間の財産犯による財産の被害額の推移は、表2-2のとおりである。財産犯による被害について罪種別にみると、事件数の多い窃盗の被害が約1,165億円で被害総額の6割近くを占めて最も多く、次いで詐欺、横領、恐喝、強盗、占有離脱物横領の順となっている。

表2-2 財産犯による財産の被害額の推移(昭和59~63年)

(4) 国際比較
 殺人、強盗、強姦(かん)について、昭和62年の犯罪率と検挙率を米国、英国、西独、フランスと比べると、図2-12のとおりである。

図2-12 殺人、強盗、強姦(かん)の犯罪率と検挙率の国際比較(昭和62年)

2 昭和63年の犯罪の特徴

(1) 警察庁指定第116号事件
 昭和63年3月12日、大手新聞社静岡支局駐車場において、時限装置付き爆発物が仕掛けられている事件が発覚した。また、8月10日、東京都港区の会社役員宅の玄関のドアに散弾銃が発砲されるという事件が発生した。両事件は、郵送された犯行声明文の用紙等の形状、紙質、犯行声明文の作成に使用したと思われるワープロの機種、犯行声明文の文書形式、表現、記載内容等から判断して「警察庁指定第116号事件」(注)と同一犯人による犯行である可能性が極めて強いことから、それぞれ同事件として追加指定して、全国規模での捜査を推進している。
 これらの事件をみると、犯行地が一段と広域化するとともに、襲撃対象が大手新聞社以外に拡大されたほか、無差別殺傷をねらった時限装置付き爆発物を犯行に使用するなど、その犯行はますます大胆になりかつ悪質化している。
(注) 「警察庁指定第116号事件」とは、62年5月発生の「大手新聞社阪神支局における散弾銃使用記者殺傷事件」(兵庫)等、当初大手新聞社を対象とした散弾銃発砲事件で、犯行後に「赤報隊」を名乗る者から「犯行声明」が出された一連の事件をいう。これらの事件は、広域にわたり発生している社会的反響の大きい特異重要な事件であるため、警察庁では、広域的な組織捜査を行う必要があると判断して警察庁指定事件としている。
(2) 悪質、巧妙化した凶悪事件
ア 幼児及び小学生被害の特異事件
 昭和63年には、日中、幼児及び小学生をいきなり刃物で刺す通り魔事件や、幼児及び小学生を誘拐直後に殺害するといった残忍な犯罪が社会の耳目を集めた。幼児及び小学生を対象とする通り魔事件及び誘拐殺人事件の被害者数の推移は、表2-3のとおりである。

表2-3 幼児及び小学生を対象とする通り魔事件及び誘拐殺人事件の被害者数の推移(昭和58~63年)

〔事例1〕 サラ金等の返済に窮した無職の男(39)は、身の代金欲しさから、10月6日に両親に連れられてパチンコ店に来ていた顔見知りの幼女(6)を誘拐し、殺害した上、マンホールに死体を遺棄した。10月8日逮捕(大阪)
〔事例2〕 12月9日午後4時30分ころ、埼玉県川越市に住む幼女(4)が友達の家を出た後行方不明となっていたが、12月15日に自宅から50キロ離れた山中において、遺体となって発見された。捜査中
イ 金融機関対象強盗事件
 過去10年間における金融機関対象強盗事件の認知、検挙状況は、図2-13のとおりであり、昭和60年、61年と連続して減少したが、62年から再び増加している。また、対象別認知、検挙状況は、表2-4のとおりであり、前年に比べ、銀行を対象にするものの増加が目立った。
 また、1件当たりの平均被害金額が高額になる傾向がみられるとともに、被害金額が現金1,000万円以上の多額強盗事件も、62年の1件から、63年には7件に増加した。

図2-13 金融機関対象強盗事件の認知、検挙状況(昭和54~63年)

表2-4 金融機関対象強盗事件の対象別認知、検挙状況(昭和59~63年)

〔事例〕 62年12月29日、福岡市内の信用金庫支店において、現金529万円が強奪されるという金融機関対象強盗事件が発生したが、緊急配備を実施するなどして、即日犯人を逮捕した。この事件の犯行の手段、逃走方法等が、56年から9府県にわたって発生していた19件の金融機関対象強盗事件と酷似していたため、これらの事件との関連を追及したところ、同一人による犯行であることが判明し、一連の事件(被害総額4,690万4,000円)を全面解決するに至った(福岡)。
ウ 食品企業等に対する企業恐喝事件
 食品企業等に対する企業恐喝事件(注)の認知状況は、表2-5のとおりで、63年の認知、検挙件数は、それぞれ89件、27件となっており、認知件数において前年より23件(34.8%)の増加となっている。被害対象としては、食品製造、販売関係企業が多いが、近年、金融機関等の食品製造、販売関係以外の企業も増加する傾向がみられる。
(注) ここでいう食品企業等に対する企業恐喝事件とは、犯人は正体を現さず、脅迫文を郵送するなどして企業を畏(い)怖させ、現金等を要求し、現金受渡し場所や方法を電話、手紙等によって指示する新しい形態の企業恐喝事件のことをいい、警察庁指定第114号事件(グリコ・森永事件)以来多発している。

表2-5 食品企業等に対する企業恐喝事件の認知、検挙状況(昭和59~63年)

〔事例〕 63年4月4日、大阪市内の都市銀行支店に対し、現金2億円を要求する脅迫状とともに、ビニール袋入りの青酸カリ等が郵送されるという事件が発生した。その後犯人は、同行の東京、岡山、香川の各支店にも同様に脅迫状及び青酸カリを郵送し、事件は悪質な広域企業恐喝事件へと発展した。捜査中
(3) 社会情勢の変化と犯罪
ア 社会、経済情勢を反映した大型知能犯事件
 最近「金余り」といわれるように、我が国の社会各層に巨額の余剰資金が蓄積され、それとともに、有価証券市場が巨大化し、財テクブームが高まりをみせた。そのような社会、経済情勢を反映して、金融機関の貸出業務の困難化に伴う融資等をめぐる背任事件、長期にわたり組織を私物化してきた各種の団体の最高幹部等による巨額の横領又は背任事件、税制の仕組みを巧みに利用するなどして敢行された組織的な脱税事件等が目立った。
〔事例1〕 外資系銀行支店長(44)は、金融業、雑貨輸出入業等を営む会社社長のため、59年5月から62年10月までの間、同社が振り出した約束手形に対し、支店長名の支払い保証を行ったほか、限度額を超過した貸付けを行ったり、担保物件を過大評価するなどして、同行に総額69億円余の財産上の損害を与えた。5月11日逮捕(福岡)
〔事例2〕 石油販売業者(52)らは、熊本、鹿児島、長崎県内に次々と石油販売会社を設立して、60年11月から62年7月までの間、軽油引取税の対象となる軽油の販売を行っていたにもかかわらず、その大半を、軽油にトリクロロエチレンを混合した同税の課税の対象外である洗浄剤として販売したように虚偽の申請を行い、約9億円を脱税した。10月9日逮捕(熊本)
イ コンピュータ犯罪
 電子科学技術の飛躍的進歩に伴い、コンピュータは社会の様々な分野で必要不可欠なものとなっているが、他方、最近のコンピュータ・システムの特性を利用した新しいタイプの犯罪が問題となっている。コンピュータ犯罪(注1)の認知状況は、表2-6のとおりで、63年における認知件数は14件と、61年の18件をピークに件数は増加していないが、高度の専門的知識、技術を駆使した本格的な犯行が目立った。また、63年には、これまで米国等で問題となっていたコンピュータ・ウイルス(注2)が我が国においても初めて2件確認された。

表2-6 コンピュータ犯罪の認知状況(昭和46~63年)

 こうした犯罪や事故等からコンピュータ・システムを防護する必要性が高まっているため、警察庁では、部外の学識経験者を加えて「コンピュータ・システム安全対策研究会」を設置し、コンピュータ・システムに係る総合的な防護対策を調査、検討するとともに、事業者に対して、同研究会が発表した「情報システム安全対策指針」に基づき安全対策の指導を行うなど、総合的なコンピュータ・セキュリティの確保に取り組んでいる。
(注1) 警察庁では、コンピュータ犯罪を「コンピュータ・システムの機能を阻害し、又はこれを不正に使用する犯罪(過失、事故等を含む。)」と定義している。
(注2) コンピュータ・ウイルスとは、使用者の意図に反してコンピュータに侵入し、プログラムやデータを破壊したり、書き換えたりするプログラムのことをいう。
〔事例1〕 信用金庫女子職員(31)は、元暴力団員(41)と共謀の上、為替係オペレーターの権限を濫用して、信用金庫本部のコンピュータの端末機を操作し、60年6月から63年11月までの間、前後73回にわたり、合計9億7,000万円をだまし取った。女子職員は11月14日、元暴力団員は12月18日にそれぞれ逮捕(警視庁)
〔事例2〕 多額の借金返済に窮した電子計算機技術者(24)は、他人の利用明細書から口座番号等を解読し、その情報を印磁したキャッシュカードを作成し、63年6月22、28日の両日、台東区にある都市銀行支店ほか11箇所の現金自動支払機(ATMを含む。以下同じ。)で同キャッシュカードを使用して、現金約360万円を窃取した。8月15日逮捕(警視庁)
ウ カード犯罪
 キャッシュカード、クレジットカードの発行枚数及び現金自動支払機の設置台数は、図2-14のとおり著しく増加している。63年のカード犯罪(注)の認知件数は7,273件、検挙件数は7,094件、検挙人員は989人

図2-14 キャッシュカード、クレジットカードの発行枚数及び現金自動支払機の設置台数の推移(昭和59~63年)

であり、認知件数と検挙件数は、前年に引き続き減少したが、検挙人員は増加した。最近5年間のカード犯罪の認知、検挙状況は、図2-15のとおりである。
(注) 警察庁では、カード犯罪を「キャッシュカード、クレジットカード及びサラ金カードのシステムを利用した犯罪で、コンピュータ犯罪以外のもの」と定義している。
 63年に検挙したカード犯罪を罪種別にみると、店員等にクレジットカードを提示して金品をだまし取るなどの詐欺が5,844件(82.4%)で最も多く、次いで現金自動支払機等を操作して現金を引き出す窃盗が1,093件(15.4%)となっている。
 次に、態様別にみると、窃取したカードを使用したものが3,062件(43.2%)と最も多く、次いで本人名義のカードを使用したものが1,018

図2-15 カード犯罪の認知、検挙状況(昭和59~63年)

件(14.4%)、拾得したカードを使用したものが974件(13.7%)の順となっている。
 カードを使って現金自動支払機から現金を引き出す場合には、あらかじめ暗証番号を知っていなければならないが、63年に検挙したカード使用の窃盗事件1,093件について犯人が暗証番号を知った方法をみると、表2-7のとおりで、「カードと暗証番号を同時に入手」したものと「面識があり以前から暗証番号を知っていた」ものを合わせて621件(56.8%)となっており、暗証番号の設定、管理に甘さがあることがうかがわれる。
 また、これらの窃盗事件のカードを入手してから使用するまでの期間をみると、カードを入手した当日に使用しているものが554件(50.7%)と最も多くなっている。

表2-7 カード使用の窃盗事件における暗証番号を知った方法別検挙状況(昭和63年)

〔事例〕 倒産した元建具商の男(45)は、負債の返済金及び生活費を得るため、妻と共謀の上、自己名義で発行を受けたクレジットカードを利用して、3月7日から13日までの間に、札幌、千歳、東京、横浜、大阪、福岡で合計50回にわたり、1,877万円相当の回数航空券等をだまし取り、札幌、東京等で換金した。8月23日逮捕(北海道)
(4) 贈収賄事件
 昭和63年の贈収賄事件の検挙状況は、検挙事件数が93事件、検挙人員が371人で、前年に比べ、事件数で16事件(14.7%)、検挙人員で107人(22.4%)減少した。過去10年間の贈収賄検挙事件数、検挙人員の推移は、図2-16のとおりである。
ア 収賄被疑者の状況
 63年に検挙した収賄被疑者128人の身分別状況は、地方公務員が109人(85.1%)と最も多く、次いで、みなす公務員、国家公務員、特別公務員の順となっている。最近5年間の収賄被疑者の身分別検挙人員の推移は、表2-8のとおりである。

図2-16 贈収賄検挙事件数、検挙人員の推移(昭和54~63年)

表2-8 収賄被疑者の身分別検挙人員の推移(昭和59~63年)

 63年には、公団理事を検挙したのをはじめ、県議会議員3人、県出納長1人を検挙したが、県議会議員の検挙は2年ぶり、県三役の検挙は12年ぶりであった。また、市町村の首長14人、助役4人を検挙するなど社会的地位の高い者の検挙が目立った。最近5年間の市町村の首長の検挙人員の推移は、表2-9のとおりである。

表2-9 市町村の首長の検挙人員の推移(昭和54~63年)

〔事例〕 日本道路公団理事(58)は、同公団発注の道路工事に関し、指名競争入札業者の指名選定等につき有利な取り計らいをした謝礼として、現金170万円を受け取った。2月10日逮捕(神奈川)
イ 態様別状況
 63年に検挙した贈収賄事件を態様別にみると、表2-10のとおりであ

表2-10 贈収賄事件の態様別検挙件数の推移(昭和59~63年)

り、各種の許認可を得るために行われた贈収賄事件が全体の20.4%を占めている。中でも、ゴルフ場、工業団地の建設等の開発ブームが続く中、開発に対する各種の規制をかいくぐり、開発許可を早期にしかも有利に得ようとしての贈収賄事件が目立った。
〔事例〕 愛知県藤岡町長(59)は、同町内に建設計画中の工場団地造成の事前協議に関し、意見書の作成、愛知県知事への進達等に有利な取り計らいをし、また、愛知県議会議員(48)は、同工場団地の早期許可のため議会質問するなど有利な取り計らいをした。その謝礼として、町長は現金300万円、議員は現金400万円を業者から受け取った。3月3日逮捕(愛知)

3 国際犯罪と国際捜査力の強化

(1) 国際犯罪の増加
 政治、経済、社会の各分野における国際化の進展に伴い、来日外国人(注)による犯罪、日本人の国外における犯罪、我が国において犯罪を犯した者が国外へ逃亡する事案等のいわゆる国際犯罪の増加が顕著になってきている。
(注) 来日外国人とは、我が国にいる外国人のうち、いわゆる定着居住者(永住権を有する者等)、在日米軍関係者及び在留資格不明の者以外の者をいう。
ア 来日外国人による犯罪
 過去10年間における来日外国人の刑法犯検挙状況は、図2-17のとおりで、昭和63年の検挙件数は3,906件、検挙人員は3,020人であり、前年に比べ、件数は1,339件(52.2%)、人員は1,149人(61.4%)それぞれ増加した。

図2-17 来日外国人の刑法犯検挙状況(昭和54~63年)

 63年の犯行の特徴としては、
○ アジア地域からの来日外国人による犯罪が著しく増加したこと
○ 国際的職業犯罪者グループによる犯行が大型化、広域化したこと
○ 罪種別には窃盗の増加が著しい一方で、外国人労働者絡みの殺人、強盗等の凶悪犯が目立ったこと
などが挙げられる。
〔事例1〕 香港の窃盗グループが波状的に来日し、深夜全国各地の貴 金属、カメラ、毛皮等の販売店に、油圧ジャッキ等で壁面を破壊して侵入し、陳列商品を根こそぎ窃取した上で、日本居住の台湾系贓(ぞう)物故買グループを通じて、台湾、香港等で処分するという事件が62年6月ころから連続して発生し、被害は15都道府県下33件、総額16億5千万円に達した。関係都道府県警察が共同捜査を実施した結果、63年7月までに1窃盗グループのリーダー格(29)を含む実行犯7人及び贓(ぞう)物犯4人の計11人を検挙し、実行犯3人及びぞうび贓(ぞう)物犯1人の計4人を国際手配したほか、9都道府県下25件、被害総額9億8千万円に上る犯行及びこれらのグループの構成員134人の解明に成功した(警視庁、北海道)。

〔事例2〕 63年5月2日から6日にかけて、パキスタン人4人が他のパキスタン人1人をら致、監禁し、現金106万円と預金通帳等を強取し、口座から260万円を窃取した。これに憤慨した被害者の仲間のパキスタン人約40人が共謀の上、5月8日、前事件のパキスタン人被疑者方へ凶器を携帯して乱入し、現金等を強取した上、逃げ遅れたパキスタン人3人に暴行、傷害を与え、うち2人をら致、監禁した。両事件の被疑者のうち10人を63年5月8日から6月15日までの間に逮捕した(警視庁)。
イ 日本人の国外における犯罪
 我が国の警察が国際刑事警察機構(ICPO)(注)、外務省等を通じて通報を受けた日本人の国外犯罪者数の推移は、表2-11のとおりで、63年は、前年に比べ54人(56.8%)増加している。内容的には、出入国管理関係事犯、薬物関係事犯、詐欺、偽造事犯が多い。また、犯罪地国は、米国、フィリピン、英国等が多い。
(注) ICPOについては、(4)ア(ア)参照

表2-11 日本人の国外犯罪者数の推移(昭和54~63年)

〔事例〕 56年11月18日午前11時ころ(現地時間)、米国・カリフォルニア州ロサンゼルス市内の路上において、日本人夫妻(当時夫34歳、妻28歳)が何者かに銃撃され、妻は57年11月30日に死亡した。米国捜査当局と協力の上、捜査を実施した結果、事件は被害者を装っていた夫及び同人の知人(当時26歳)の共謀による保険金詐取を目的とした計画的な殺人であったことが判明したため、63年10月20日、両人を殺人の容疑で逮捕した(警視庁)。
ウ 国外逃亡被疑者
 我が国で犯罪を犯し、国外に逃亡していると推定される者の数は、表2-12のとおりで、毎年増加の傾向にある。63年12月末現在の国外逃亡被疑者数は、273人で、このうち日本人は91人である。最近では、日本人被疑者が逃亡先国で商売をするなどして、現地に同化している事例が目立つ。

表2-12 国外逃亡中の被疑者数の推移(昭和54~63年)

(2) 国際捜査力の強化
 国際犯罪の捜査に当たっては、国際条約や内外の出入国管理、国際捜査共助、逃亡犯罪人引渡し、国外犯処罰、証拠能力等に関する法制、外国の国情、生活習慣、警察事情等を考慮する必要があり、出入国手配やICPO、外務省等を通じた外国捜査機関への協力要請等の手続を迅速に行わなければならないなど、国内の通常の犯罪捜査とは異なる特有の実務知識、捜査手法が必要とされる。そこで、警察では、警察大学校の附置機関である国際捜査研修所をはじめとして各都道府県警察においても捜査官の国際捜査実務能力を養うための研修等を行っている。
 また、アジア地域からの来日外国人による犯罪の増加に伴い、取調べ等において、英語のみならずタガログ語(フィリピンの主要言語)、タイ語、ウルドゥー語(パキスタンの主要言語)、ベンガル語(バングラデシュの主要言語)、広東語(香港の主要言語)等の言語を使用する必要性も高まっている。このため、警察庁では、これらの言語に対する研修に取り掛かり、昭和63年度から国際捜査研修所でタガログ語の研修を始めており、各都道府県警察においても、各種の言語の通訳可能者のリストを作成するなどの措置を講じている。
 また、組織、体制面の整備については、各都道府県警察において、国際犯罪捜査や国際捜査共助、協力の実施や指導において中核的役割を果たす国際犯罪捜査専従員を確保し、専門の組織を整備するなど、国際捜査体制の強化を図ることが緊急課題となっている。
〔事例〕 63年1月、警視庁では、国際犯罪の急増に対処するため、国際捜査課を設置した。
(3) 国際捜査協力の推進
ア 情報、資料の交換
 捜査に必要な情報、資料の交換を外国捜査機関と行うには、ICPOルート、外交ルート等があるが、過去10年間に警察庁が行った国際犯罪に関する情報の発信、受信の状況は、表2-13のとおりであり、その総数は、昭和63年には、54年の約1.5倍となっている。

表2-13 国際犯罪に関する情報の発信、受信状況(昭和54~63年)

イ 被疑者の国外逃亡対策
(ア) 国外逃亡被疑者の身柄引取り
 被疑者が逮捕を免れるため国外に逃亡した場合に、その身柄を引き取る方法としては、外交ルートによる逃亡犯罪人引渡請求を行う方法のほか、所在地国当局と協議の上、その国の出入国管理に関する法令に基づき、被疑者を国外退去処分にしてもらうなどの方法がある。
〔事例〕 63年5月14日、警察官を銃撃して負傷させた者を隠避した上、逃亡していた男(51)が、フィリピン国内に潜伏していることが判明したため、ICPOルートによりフィリピン当局に捜査の協力を要請したところ、同人は退去強制に付されたので、7月13日、帰国途上の同人を公海上において逮捕した(兵庫)。
(イ) ICPO国際手配
 国外逃亡被疑者については、必要に応じてICPO事務総局に依頼し、国際手配書(注)の発行を求めている。従来は、被疑者の所在確認のための情報照会手配書(青手配書)の発行を求めてきたが、一定の重大な犯罪の被疑者については、逃亡犯罪人引渡請求の前段階の措置として、逮捕手配書(赤手配書)を発行してもらう方法も採用することとし、平成元年1月に、国外逃亡中の日本赤軍メンバーについて、我が国としては初の赤手配書の発行請求を行った。
(注) 国際手配書とは、各国の国家中央事務局からの要請に基づき、ICPO事務総局において作成され、すべての国家中央事務局に送付される手配書のことである。これらのうち、情報照会手配書は、犯罪者の所在、身元、犯罪経歴等に関する情報を求めるものであり、逮捕手配書は、身柄の引渡請求を前提として、逃亡被疑者の身柄拘束を求めるものである。この種別を明確にするために、それぞれの手配書の右上隅に固有の色が付けられている。「赤手配書」、「青手配書」は、これに由来する略称である。
ウ 外国捜査機関との協力
 外国の刑事事件に関し、国際捜査共助法に基づく協力要請を受けて、警察が調査を実施した件数は、表2-14のとおりで、63年は、外交ルートによるものが8件、ICPOルートによるものが366件であった。
 また、外国において犯罪を犯した者が我が国へ逃亡してくるといった事案が発生した場合には、警察は、逃亡被疑者の所在確認等の必要な協力を行っている。
 なお、我が国の警察と外国捜査機関の捜査権が競合する事件については、ICPOルート等を通じた密接な相互協力を推進することにより、その解決を図っている。

表2-14 外国からの依頼に基づき捜査共助を実施した件数(昭和56~63年)

〔事例1〕 米国内においてバイオリン「ストラディバリウス」を盗んだ米国人(31)が、これを日本国内において売却しようとして来日しているという情報を入手して捜査した結果、同人に出入国管理及び難民認定法違反の容疑が認められたので、1月、逮捕の上、米国当局からの外交ルートを通じての共助要請に基づき、同バイオリンを証拠品として押収した(警視庁)。
〔事例2〕 62年6月、京都市内のマンションで主婦(31)から金品を強奪し殺害した事件で、我が国に働きに来ていた韓国籍の男(28)が被疑者として浮かんだが、その男は事件後韓国に帰国していたことが判明した。そこで、ICPO ルートを通じ韓国捜査当局と協議を重ねた結果、我が国警察において韓国捜査当局に捜査資料を送付するなどの協力を行うこととした。この結果、63年11月、同人は韓国捜査当局により逮捕され、12月に起訴された。
(4) 刑事警察に関する国際協力の推進
ア 国際機関への参加
 警察では、各国の犯罪情勢等について情報を交換し、国際的な対応を必要とする警察事象について対策等を討議し、また、人的交流を通じて外国警察機関との協力関係を強化するため、次のような国際機関に参加している。
(ア) 国際刑事警察機構(ICPO)
 ICPOは、国際犯罪捜査に関する情報交換、犯人の逮捕と引渡しに関する円滑な協力の確保等国際的な捜査協力を迅速、的確に行うための国際機関であり、構成員は各国の警察機関である。昭和63年12月末現在、ICPOの加盟国(領域を含む。)は147となっている。我が国は、27年に加盟した後、警察庁を国家中央事務局として、国際的な捜査協力を積極的に実施している。
(イ) 国際警察長協会(IACP)
 IACPは、明治26年に米国の各警察組織の代表者により設立された団体であるが、その後、各国警察の研修、装備等に関する援助、セミナー等の実施による意見交換、管理者研修の実施、各種の刊行物の発行等の活動を行う国際的な機関に発展し、昭和49年には、国際連合の公式の諮問機関として認められるに至っている。 63年12月末現在、加盟者数は、69箇国・地域約1万4,500人に上っており、我が国からも、警察庁長官等が加入している。
イ 各種会議、セミナー等の開催
 63年6月15日、東京において「アジア・太平洋地域治安担当閣僚会議」が開催されたが、同会議において参加国の間で、国際犯罪に対処するための国際捜査体制の強化、国際捜査協力の緊密化、技術協力の推進等の重要性が確認された(注)。
 また、11月25日から12月12日までの18日間、東京において、国際協力事業団(JICA)との共催で、10箇国から12名の上級警察官を招いて第9回「国際捜査セミナー」を開催し、我が国の刑事手続、犯罪捜査手法等の紹介、警視庁等の見学を行った。
(注) 同会議を受けて、平成元年1月には、東京において、「アジア地域組織犯罪対策セミナー」が開催された。

4 犯罪情勢の変化に対応する捜査活動の推進

(1) 捜査活動の困難化
 近年の情報化の進展や交通手段、科学技術の発達等の社会情勢の変化に伴い、報道機関を意識又は利用した国民に広く不安を与える犯罪、犯行の動機を計り難い犯罪等、従来の経験からは予測し難い新しい形態の犯罪が発生するとともに、犯行の悪質、巧妙化、広域化、スピード化が一層進むなど、犯罪は質的な変化をみせている。図2-18は、犯行直後に盗難自動車を利用して逃走した刑法犯の検挙件数の推移を示したものであるが、金融機関対象強盗をはじめとする各種の犯罪において、機動性に優れて、しかも警察による事後捜査を困難にする盗難自動車の犯罪利用件数が、昭和63年には、54年の約1.7倍となっている。
 また、人が多く目撃者も多いと思われる都会等における犯行が、実際

図2-18 犯行直後に盗難自動車を利用して逃走した刑法犯の検挙件数の推移(昭和54~63年)

には、都会の死角ともいうべき場所や時間帯に敢行されることが多いため、有効な目撃情報を得にくいことや、直接自分に関わりのないことには無関心、非協力的な態度を取る者も少なくないことなどから、聞き込み捜査等の「人からの捜査」が困難になってきている。また、遺留品等の事件と関係のある物が、大量生産、大量流通に係る物である場合が多く、物から被疑者を割り出す「物からの捜査」も難しくなるなど、捜査活動はますます困難になってきている。
 さらに、業務上過失事故事件等の捜査においては、事故原因の解明や刑事責任の追及に高度の知識、技術を要するようになり、捜査期間も長期化する傾向にある。
〔事例〕 60年8月12日、群馬県の山中に、日航機ボーイング747が墜落し、乗員乗客524人中520人が死亡した事故事件について、事故発生以来、特別捜査本部を設置し、3年3箇月余の長期にわたる捜査を実施してきた群馬県警察は、63年12月1日、国内における捜査を終了した。捜査の結果、同機が墜落したのは、53年6月の大阪空港における尻部接触事故の修理の過程における後部圧力隔壁の修理ミス等に起因することが明らかとなったため、これら修理ミス等に関与したボーイング社、日本航空、運輸省航空局の関係被疑者20人を業務上過失致死傷罪で送致した。
 図2-19は、過去10年間の刑法犯の発生から検挙までの期間別検挙状況についてみたものであるが、54年と63年を比較すると、10日未満で検挙したものが30.8%から22.5%に減少しているのに対し、30日以上を要したものが56.2%から67.2%に増加しており、検挙に要する期間の長期化を示している。

図2-19 刑法犯発生から検挙までの期間別検挙状況(昭和54~63年)

(2) 広域捜査力の強化
 数都道府県にまたがる広域事件においては、広域的な視点に立った上で、有機的な連携を保った効率的な捜査を行うことが困難であることなどの様々な問題がある。そこで、こうした問題を解決するために、広域重要事件が発生した際に、警察庁から広域捜査指導官を派遣し、現地に駐留させ、事件捜査の指導、調整を行わせることとした(注1)。また、各都道府県警察においては、高度な捜査技術と機動力を備えた広域捜査の中核となる専門部隊を設置することとしている(注2)。
(注1) 平成元年5月29日、警察庁に広域捜査指導官室を設置した。
(注2) 平成元年4月、全国の都道府県警察において広域機動捜査班が発足した。
 さらに、広域重要事件においては、警察庁及び関係都道府県警察間で緊密な連絡を取り合って捜査情報を共有することが不可欠であることから、広域重要事件における捜査の過程で収集された膨大な捜査情報等を警察庁で一元的に管理するとともに、関係都道府県警察間に必要な情報を伝達することを目的とする「捜査情報総合伝達システム」を整備することとしている。
(3) 捜査活動の科学化の推進
ア コンピュータの活用
 警察庁では、都道府県警察で行う犯罪捜査を支援するため、コンピュータを用いて、次のようなシステムの運用を行っている。
(ア) 自動車ナンバー自動読取システム
 自動車利用犯罪については、緊急配備による検問を実施する場合でも、実際に検問が開始されるまでに時間を要すること、徹底した検問を行えば、交通渋滞を引き起こすおそれがあることなどの問題がある。
 警察庁では、これらの問題を解決するため、走行中の自動車のナンバ ーを自動的に読み取り、手配車両のナンバーと照合する自動車ナンバー自動読取システムを開発し、整備充実に努めている。
(イ) 指紋自動識別システム
 指紋には、「万人不同」、「終生不変」という特性があり、個人識別の絶対的な決め手となることから、犯罪捜査上極めて大きな役割を果たしている。
 警察庁では、コンピュータによる精度の高いパターン認識の技術を応用した指紋自動識別システムの開発に成功し、現在、犯罪現場に遺留された指紋から犯人の特定を行う遺留指紋照合業務等に活用している。
 このシステムは、大量の指紋資料をコンピュータによって迅速に自動処理し、これまで照合できなかった不鮮明又は部分的な指紋からも、該当者を短時間のうちに割り出す機能を備えたもので、これを運用することにより被疑者等の確認件数が飛躍的に増大するなど、犯罪捜査に大きく貢献している。
イ 現場鑑識活動の強化
 近年、聞き込み捜査等の「人からの捜査」が困難になっていることなどから、犯罪現場等において、各種の鑑識資機材を有効に活用して綿密かつ徹底した鑑識活動を行い、犯人が遺留した物的資料や痕(こん)跡等から科学的、合理的な捜査を推進していくことが重要になってきている。このため、警察では、現場鑑識活動の中核として機能している機動鑑識隊(班)を充実強化するとともに、特に、犯人が無意識のうちに遺留する微量、微細な資料をも残さず発見、採取して、捜査に効果的に活用する「ミクロの鑑識活動」を積極的に推進している。
ウ 鑑識資料センターの運用
 犯行手口の悪質、巧妙化に伴い、指紋や遺留品等の物的資料が、犯罪現場等に明白な形で残されることが少なくなってきているため、犯人による証拠隠滅が困難な微量、微細な資料を活用して、科学的、合理的な捜査を行う必要性がますます強まっている。
 このため、警察庁においては、あらかじめ犯罪捜査の対象となる繊維、土砂、ガラス等の各種の鑑識資料を収集、分析し、製造メーカー等の付加情報を加えてデータベース化を図り、このデータと各都道府県警察が犯罪現場等から採取した微量、微細な資料の分析データを相互に比較照合することによって、その物の性質、製造メーカー等を解明することを主な業務とする鑑識資料センターを設置し、運用している。
エ 鑑定の高度化
 現場鑑識活動によって採取した資料の分析、鑑定結果は、捜査の手掛かりや証拠として活用されることが多いが、血液、毛髪、覚せい剤等の法医学、理化学関係の鑑定件数は、年々増加するとともに、その内容も複雑多岐にわたっており、高度の専門的知識、技術を必要とするものが多くなってきている。
 このような情勢に対処し、各種の鑑定を一段と信頼性の高いものにするためには、鑑定資機材及び鑑定検査技術の高度化を図る必要がある。このため、警察庁の科学警察研究所や都道府県警察の科学捜査研究所(室)に新鋭の鑑定資機材を計画的に整備するとともに、全国の鑑定技術職員に対し、科学警察研究所に附置された法科学研修所において、法医学、化学、工学、指紋、足痕(こん)跡、写真等の各専門分野に関する組織的、体系的な技術研修を実施している。
(4) 捜査技術の研さんと優れた捜査官の育成
 犯罪の質的変化、捜査環境の悪化等に適切に対応し、国民の信頼にこたえるち密な捜査を推進するためには、常に捜査技術の研さんに努めるとともに、各種の専門的知識を備えた優れた捜査官を育成しなければならない。このため、警察大学校等において、国際犯罪捜査、広域特殊事件捜査等に関する研究や研修を行うとともに、各都道府県警察において、若手の捜査官に対し、ベテランの警察官がマンツーマンで実践的な教育訓練を行うなど、新しい捜査手法、技術の研究、開発や、長期的視野に立った新任捜査官の育成と捜査幹部の指揮能力の向上に努めている。
(5) 国民協力確保方策の推進
 犯罪情勢の変化に対応するためには、警察が最大限の努力をすることはもとより、捜査活動に対する国民の深い理解と積極的な協力を得ることが必要不可欠である。
 このため、警察では、国民に協力を呼び掛ける方法の一つとして公開捜査を行っており、新聞、テレビ、ラジオ等の報道機関に協力を要請するとともに、ポスター、チラシ等を人の出入りの多い場所に掲示、配布するなどの方策を講じている。

 昭和63年5月には、全国の都道府県警察において、「捜査活動に対する国民の理解と協力の確保月間」を実施し、ポスター、チラシ等を掲示、配布したほか、都道府県警察の捜査担当課長等がテレビ出演するなどして、事件発生の際の早期通報、聞き込み捜査に対する協力、事件に対する情報の提供等を呼び掛けた。
 また、11月に実施した「指名手配被疑者捜査強化月間」においては、警察庁指定被疑者10人、都道府県警察指定被疑者37人について公開捜査を行い、国民の協力を得て、都道府県警察指定被疑者2人をはじめ、3,074人の指名手配被疑者を検挙した。
 さらに、国民の立場に立った刑事警察の運営を推進するために、広く国民と捜査活動等について語り合う「刑事警察について語る会」等の名称の会合が、警察庁及び多くの都道府県警察において開催されている。
 このほか、犯罪の被害者の関心にこたえるとともに、不安感の解消を図ることを目的として、捜査の経過や結果等を通知する被害者連絡制度を積極的に推進しているほか、告訴、告発の受理、民事介入暴力事案の相談等を通じ、国民の要望にこたえる捜査活動の推進に努めている。


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