第3節 暴力団と一般市民

 暴力団の存在する要因の中には、我々の社会の中に暴力団を支える社会、経済的基盤と暴力団を容認するような意識等があると指摘されているが、平成元年、警察庁では、民間調査機関に委託して、その実態について、一般市民3,000人を対象とするアンケート調査を実施し、2,163人から回答を得た。

1 暴力団を支える基盤と意識

(1) 暴力団についての認識と付き合いの程度
 「暴力団とはどのようなものか知っているか。また、どのように知ったか」という質問に対する回答状況は、表1-11のとおりである。

表1-11 暴力団についての認識

「友人、知人などに暴力団員がおり、その者を通じて知っている」とする者が7.3%、「暴力団の被害に遭ったことがあり、この体験を通じて知っている」とする者が4.4%となっており、一般市民のうち1割以上の者が暴力団を直接的接触によって知っていることになる。さらに、「家の近くや盛り場などで暴力団員や暴力団事務所を見掛けたことがあり、これによって知っている」を合わせると、半数を超えており、暴力団が市民社会に浸透していることがうかがわれる。
 次に「暴力団員との付き合いがあるか」という質問に対する回答状況は、表1-12のとおりで、暴力団員と顔見知り以上の関係にある者は、11.3%に上っている。

表1-12 暴力団との付き合いの程度

(2) 暴力団及び暴力団員に対するイメージ
 暴力団及び暴力団員に対するイメージについて質問したところ、その結果は、表1-13表1-14のとおりである。
 暴力団のイメージについては、「虚勢を張っている」(65.8%)、「あくどいことばかりしている」(57.9%)と、また、暴力団員の人柄については、「凶暴である」(66.3%)と半数以上の回答者が感じており、暴力団

表1-13 暴力団のイメージ(2項目選択)

表1-14 暴力団員のイメージ(2項目選択)

の悪質性を多数の者が認識しているとみられる。しかし、一方、暴力団について「義理、人情を重んじる」及び「男らしくて格好が良い」という回答をした者が合計で5.7%あり、また、暴力団員のイメージについても、「気は優しい」という回答をした者が5.7%存在している。
(3) 暴力団の利用
ア 暴力団を利用した経験
 「交通事故の示談等の問題の解決に暴力団を利用したことがあるか」という質問に対しては、相手が暴力団を使ってきた、正規の法手続を踏んでいたのでは時間と費用が相当掛かるなどの理由により「暴力団を利用したことがある」と回答した者が1.4%存在している。しかし、暴力団を利用したと回答した者のうち50.0%の者が、そのために、かえって不当な要求を暴力団からなされたり、何の利益もなかったと回答しており、この調査結果は、暴力団を利用することの危険性を裏付けている。
イ 暴力団利用の可否
 暴力団を利用したことがないと回答した者に対し、「どんなときなら暴力団を利用してもよいか」と質問したところ、その結果は、表1-15のとおりであり、82.7%の者は暴力団の利用を絶対的に否定している一方、「相手が暴力団を使ってきたとき」や「正規の法手続を踏んでいたのでは時間や費用が掛かり過ぎたり、満足が得られないとき」などという条件を付して、4.9%の者が暴力団の利用を肯定している。

表1-15 暴力団利用の可否(複数選択)

(4) 暴力団の必要性
 「暴力団は社会的に必要か」という質問をしたところ、その結果は表1-16のとおりであり、暴力団は社会的に必要がないと思うと回答した者が81.6%に上るが、他方、社会的に必要又は必要悪だと思うと回答した者が7.9%に及んでいる。

表1-16 暴力団の必要性

(5) まとめ
 以上の結果からみると、大部分の国民は、暴力団とは付き合いがなく、暴力団の凶悪性等を十分認識しており、暴力団の必要性を認めないなど極めて健全な意識等を持っているが、しかし、国民の中には、暴力団の存在を容認し、また、それを利用し、若しくは利用を容認する者も存在し、このような者の存在が暴力団を支えていると考えられる。そのため、今後、あらゆる機会を通じて暴力団の凶悪性等に関する啓発活動を推進し、このような社会の一部に存在する暴力団を容認し、又は利用する者をなくしていくことが必要である。

2 警察捜査に対する協力

 「暴力団被害の経験と警察への届出、相談の有無」について質問したところ、その結果は表1-17のとおりである。「嫌がらせや被害に遭ったことはあるが、警察に届出も相談もしなかった」という者が5.9%に上っ

表1-17 暴力団被害の経験と警察への届出、相談の有無

ている。警察に届出も相談もしなかった理由は、「届け出たり、相談しても仕方がない」というあきらめや「被害額がわずかだったから」というものが多く、暴力団に対する消極的な姿勢が結果的に暴力団をはびこらせている原因にもなっていると考えられる。
 次に、警察の捜査に対する協力の意欲についてみると、その結果は、表1-18のとおりであり、「協力する」と回答した者が74.0%となっている一方、「協力しない」という者も7.9%存在している。
 「協力しない」と回答した者の半数以上は、その理由として、「暴力団からの嫌がらせや仕返しが恐いから」を挙げており、今後暴力団取締りを推進するに当たり、被害者、参考人等の保護活動を更に強化すること

表1-18 警察の捜査に対する協力の意欲

の必要性が現れている。

3 暴力団対策についての市民の考え方

(1) 暴力団がなくならない理由
 「暴力団はどうして存在すると思うか」と質問したところ、その結果は、表1-19のとおりである。まず、「暴力団に対する刑罰が軽いから」とする者が44.1%、「警察の取締りが甘いから」とする者が40.3%、「暴力団を禁止する法律がないから」とする者が39.9%などとなっており、一般市民の中には、暴力団がなくならない理由として、暴力団に対する刑罰の軽さ、警察の取締りの甘さ等を指摘する傾向が強くみられるが、それと並んで、暴力団を禁止する法律がないことを指摘する者も多い。

表1-19 暴力団がなくならない理由(3項目選択)

(2) 暴力団に対する規制、取締りについての考え方
 「暴力団が市街地で大規模な組葬を行ったり、暴力団事務所を作ること、さらに、暴力団を作ること自体をどう思うか」という質問に対する結果は、表1-20のとおりである。
 暴力団の諸活動に対する厳しい規制、取締りを望む者が多く、特に、暴力団を作ることに対する法規制を望む者が73.9%に上っている。

表1-20 暴力団に対する規制、取締りについての考え方


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