官民一体となったテロ対策
1 国際テロ情勢
ISIL(注)は、従前より、イラク及びシリアにおける軍事介入に対する報復として、「対ISIL有志連合」参加国、ロシア、イラン等に対してテロを実行することや、その際に爆発物や銃器が入手できない場合には刃物、車両等を用いてテロを実行することを呼び掛けています。令和元年(2019年)中も、ISIL等の過激思想に影響を受けたとみられる者によるテロ事件が発生しました。ISILは、インターネットを活用してこうしたテロ事件を称賛するなど、更なるテロの実行を呼び掛けました。
イラク及びシリアにおいてISILが支配地域を失ったことにより、両国における多くの外国人戦闘員(FTF)(注2)及びその家族が現地を離れており、今後、外国人戦闘員が、母国又は第三国でテロを行うことなどが懸念されます。
また、AQ及びその関連組織は、指導者アイマン・アル・ザワヒリが、反米テロ等を呼び掛けています。中東、アフリカ、南西アジア等において活動するAQ(注3)関連組織が、政府機関等を狙ったテロを行っているほか、オンライン機関誌等を通じて欧米諸国におけるテロの実行を呼び掛けるなど、AQ及びその関連組織の脅威は継続しています。
(注1):Islamic State of Iraq and the Levantの頭字語
(注2):Foreign Terrorist Fightersの略
(注3):Al-Qaeda(アル・カーイダ)の略
2 我が国に対するテロの脅威
平成25年(2013年)1月の在アルジェリア邦人に対するテロ事件、平成31年(2019年)4月のスリランカにおけるテロ事件等、邦人や我が国の権益がテロの標的となる事案が現実に発生していることから、今後も、邦人がテロや誘拐の被害に遭うことが懸念されます。
実際にシリアにおける邦人殺害テロ事件では、ISILによって配信された動画において、日本政府がテロの標的として名指しされ、今後も邦人をテロの標的とすることが示唆されました。その後も、ISILはオンライン機関誌「ダービク」において、我が国や邦人をテロの標的として繰り返し名指ししました。
AQについても、平成24年(2012年)5月に米国が公開したオサマ・ビンラディン殺害時の押収資料によれば、「韓国のような非イスラム国の米国権益に対する攻撃に力を注ぐべき」と同人が指摘していたことが明らかとなっているほか、米国で拘束中のAQ幹部ハリド・シェイク・モハメドの供述によれば、同人が、我が国に所在する米国大使館を破壊する計画等に関与したことなども明らかになっています。こうした資料や供述は、米軍基地等の米国権益が多数存在する我が国にとってイスラム過激派によるテロの脅威の一端を明らかにしたものといえます。
欧米では、非イスラム諸国で生まれ又は育った者が、ISILやAQ等によるインターネット上のプロパガンダに影響されて過激化し、自らが居住する国やイスラム過激派が標的とする諸国の権益を狙ってテロを実行する、ホームグローン・テロリストによる事件が数多く発生しています。我が国においても、ISIL関係者と連絡を取っていると称する者や、インターネット上でISILへの支持を表明する者が国内に存在しており、ISILやAQ関連組織等の過激思想に影響を受けた者によるテロが日本国内で発生する可能性は否定できません。
これらの事情に鑑みれば、我が国に対するテロの脅威は継続しているといえます。
3 警察の取組
我が国における国際テロの脅威が現実のものとなっている中、警察庁では、平成27年2月、改めて我が国に対するテロの未然防止及びテロへの対処体制の強化に取り組むための諸対策を検討・推進することを任務とする警察庁国際テロ対策推進本部(注)を設置しました。その後、警察庁では同推進本部を中心に諸対策の検討を行い、同年6月、東京大会の開催までのおおむね5年程度を目途として推進していくべき施策を、「警察庁国際テロ対策強化要綱」として取りまとめ、決定・公表しました。
「警察庁国際テロ対策強化要綱」の概要 |
警察では、同要綱に基づき、情報収集・分析、水際対策や警戒警備、事態対処、官民連携といったテロ対策を強力に推進しているところ、同年11月のフランス・パリにおける同時多発テロ事件の発生を受け、爆発物の原料となり得る化学物質等への対策、ソフトターゲット対策等、各種テロ対策を強化・加速化しています。
(注):警察庁警備局長を本部長として設置されたが、27年6月の警察庁国際テロ対策強化要綱の策定と合わせて、次長を本部長とする体制に発展的に改組した。
→【リンク】 警察庁国際テロ対策強化要綱
→【リンク】 首相官邸(国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部)ホームページ
「2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会等を見据えた
テロ対策推進要綱」(平成29年12月11日)
「ソフトターゲットにおけるテロ対策のベストプラクティス」(平成29年1月27日)
4 官民一体となったテロ対策の推進
テロ対策は、警察による取組のみでは十分ではなく、関係機関、民間事業者、地域住民等と緊密に連携して推進することが望まれます。このため、警察では、テロ対策に関する様々な官民連携の枠組みに参画しています。
また、不特定多数の者が集まる施設、イベント等において、制服を着用した警察官による巡回の実施やパトカーの活動等により、「見せる警戒」を実施するとともに、施設管理者等に対して職員や警備員による自主警備を強化するよう働き掛けるなどして、テロへの警戒を強化しています。
また、テロリストが武器を入手できないようにするための取組も官民の連携によって推進されており、警察では、銃砲刀剣類や火薬等を取り扱う個人や事業者に対し、銃刀法や火薬類取締法に基づく規制や指導を行っているほか、爆発物の原料となり得る化学物質を販売する事業者に対し、関係省庁と協力して、販売時の本人確認を徹底するよう指導したり、不審な購入者への対処要領を教示したりしています。さらに、旅館、インターネットカフェ、レンタカー、賃貸マンション、住宅宿泊事業等の事業を営む者に対しても顧客に対する本人確認の徹底等の働き掛けを行い、社会情勢の変化を踏まえながら、テロリストによる悪用の防止を図っています。
テロの未然防止に向けた警察の取組への御理解と御協力をお願いします。
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