北朝鮮は、平成22年を「人民生活向上に全党的・全国家的な力を集中すべき総攻勢の年」と位置付け、21年11月のデノミネーション等により混乱した人民生活を立て直そうとしましたが、状況は依然厳しいとみられます。

 22年3月、韓国海軍哨戒艦が北朝鮮の魚雷攻撃で沈没する事案が発生し、情勢は一気に緊迫化しました。

 4月と10月には、黄長燁元朝鮮労働党書記を暗殺するため、脱北者に偽装して韓国に入国した偵察総局の北朝鮮工作員が、相次いで韓国当局に逮捕されるなど、依然として暴力的な工作を継続していることが明らかになりました。

 9月、北朝鮮は、金正日国防委員長の三男である金正恩氏に朝鮮人民軍大将の称号を授与し、党中央軍事委員会副委員長に選出するなど、体制の移行に向けた動きを表面化させました。

 10月の党創建65周年記念式典では、軍事パレードを実施し、弾道ミサイルとみられる兵器を登場させ、党の「先軍政治」を誇示するとともに、ひな壇で参観する金正恩氏の存在を内外のメディアを通じてアピールしました。

 11月、北朝鮮は、ウラン濃縮施設の稼働を自認したほか、23日、韓国・延坪島に対する砲撃事件を敢行し、朝鮮半島の情勢を更に緊迫させました。


引き上げられた韓国海軍哨戒艦の船首部分(時事)


ひな壇で敬礼する金正日国防委員長と金正恩氏(時事)


 
北朝鮮の砲撃を受け、延坪島から立ち上る煙(AP/アフロ)。民間人を含む複数の者が死傷しました。
 



 北朝鮮は、22年中、労働新聞等の北朝鮮公式メディアを通じ、日朝関係改善のためには、我が国の「過去の清算」の先行が必要である旨の主張を繰り返すなど、日朝関係が進展しない責任を我が国に転嫁することを企図した宣伝工作を展開しました。特に、日韓併合100年をとらえ、我が国に対して謝罪と補償を執拗に要求したほか、8月に発表された内閣総理大臣談話に対しては、韓国にのみ過去の反省や謝罪を表明したとして我が国を非難しました。

 また、6月、国際連合安全保障理事会決議第1874号等を踏まえ我が国が実施する貨物検査等に関する特別措置法の成立に際し、北朝鮮のウェブサイト「我が民族同士」(6月4日付け)において、「共和国の自主権と尊厳を甚だしく蹂躙した許し難い罪悪」と強い反発を示したほか、7月の同法の施行に際しては、「労働新聞」(7月13日付け)において、「日本が公海上で我が方の船舶を少しでも挑発するなら、即時、我が軍隊の無慈悲な報復打撃を免れない」と警告し、我が国の動きを強く牽制しました。

 日本国内では、朝鮮総聯の第22回全体大会(5月)において、許宗萬・朝鮮総聯中央責任副議長が「総聯活動家達の中で、活動家学習班と講習を通じて、敬愛する将軍の先軍思想と領導の偉大性と生活力を系統的に学習し、活動家隊伍の一心団結と組織の活動力を常に高めていきました」、「敬愛する将軍の領導の偉大性と不滅の業績に対する対外宣伝事業を展開して、日本各界の親朝人士達を固め、増やしました」と述べ、北朝鮮に対する従属性を改めて明らかにしたほか、対日諸工作の成果を誇示しました。

 また、朝鮮総聯は、民族教育を総聯の組織建設の出発点と位置付け、朝鮮総聯が設立・運営していると公表している朝鮮学校の学生を就学支援金の支給対象に含ませることを企図して、朝鮮学校の学生、保護者、支援者等と共に、街頭宣伝、集会等の抗議行動、中央省庁に対する要請行動を展開しました。


朝鮮総聯第22回全体大会(読売新聞)



 政府は、平成18年10月以降、北朝鮮に係る輸出入等に対し、各種措置を講じています。同月に北朝鮮を原産地又は船積地域とする全ての貨物の輸入が禁止されたほか、18年11月からは北朝鮮向けの奢侈品(ぜいたく品)の輸出が、21年6月からは北朝鮮向けの全ての貨物の輸出がそれぞれ禁止されています。

 こうした中で発生した韓国海軍哨戒艦沈没事件を受け、22年5月28日の閣議においては、第3国を経由した北朝鮮との迂回輸出入等を防ぐため、関係省庁間の連携を一層緊密にし、更に厳格な対応を求める旨の総理指示が伝えられました。

 警察では、22年中、これらの措置に係る違法行為(大量破壊兵器等の拡散に関係する事件を除く。)として、奢侈品に該当するピアノを中国・大連経由で北朝鮮に不正に輸出した事件等5件を検挙しており、今後とも、こうした違法行為に対して厳正な取締りを行うこととしています。


《主な検挙事例》

 貿易会社社長らが奢侈品に該当する化粧品中国・大連経由で北朝鮮に不正に輸出した外為法違反事件(6月、山口・兵庫)

 貿易会社経営者らが奢侈品に該当するピアノ中国経由で北朝鮮に不正に輸出した外為法違反事件(7月、鳥取)

 貿易会社社長が奢侈品に該当するピアノ中国経由で北朝鮮に不正に輸出した外為法違反事件(9月、広島・兵庫)

 元貿易会社社長らが布地等を中国経由で北朝鮮に不正に輸出した外為法違反事件12月、兵庫)


輸出に利用された貨物船(6月、山口・兵庫)



 北朝鮮の金正日国防委員長は、平成14年9月に行われた日朝首脳会談において、日本人拉致問題について、「特殊機関の一部の盲動主義者らが、英雄主義に走ってかかる行為を行ってきたと考えている」との認識を示して謝罪し、同年10月には、5人の拉致被害者が帰国しました。

 日本人拉致の目的について、金正日国防委員長は「1つ目は、特殊機関で日本語の学習ができるようにするため、2つ目は、他人の身分を利用して南(韓国)に入るためである」と説明しました。また、「よど号」犯人の元妻は、金日成主席(故人)から「革命のためには、日本で指導的役割を果たす党を創建せよ。党の創建には、革命の中核となる日本人を発掘、獲得、育成しなければならない」との教示を受けた田宮高麿(故人)から、日本人獲得を指示された旨を証言しています。

 諸情報を分析すると、拉致の主要な目的は、北朝鮮工作員の日本人化教育や、日本に潜入した北朝鮮工作員による日本人拉致被害者へのなりすましのほか、金日成主義に基づく日本革命のための人材獲得にあるとみられます。

 警察は、これまでに、13件19人を北朝鮮による拉致容疑事案と判断し、北朝鮮工作員等拉致に関与したとして8件に係る11人の逮捕状の発付を得て、国際手配を行いました。また、北朝鮮による拉致の可能性を排除できない事案があるとの認識の下、告訴・告発や相談・届出に係る事案についても警察の総力を挙げて徹底した捜査や調査を進めています。