イスラム過激派による国際テロの脅威は依然として高く、中でもアル・カーイダは、米国に対するジハード(聖戦)の象徴的存在として、世界のイスラム過激派を惹き付けており、ジハード思想を介して緩やかなネットワークを形成しているとみられます。こうした中、平成22年中、世界各地でテロ事件が多発しました。

 アフガニスタンでは、米軍及び国際治安支援部隊(ISAF)が大幅に勢力を増しているものの、タリバンは引き続き勢力を維持しており、米軍及びISAFの死者数は過去最多を記録しました。パキスタン政府は、同国軍が連邦直轄部族地域の南ワジリスタン地区等において展開していた大規模な掃討作戦が6月に終了したことを発表しました。パキスタン・タリバン運動(TTP)は報復を宣言しており、TTPによるものとみられるテロが多発しています。

 米国では、5月、ニューヨークのタイムズスクエアにおける爆弾テロ未遂事件が発生し、パキスタン系米国人1人が逮捕されたほか、10月には英国及びアラブ首長国連邦において、イエメンから米国に向けて発送された航空貨物から爆発物が発見されました。
 また、欧州においても、9月にパキスタンを拠点とするイスラム武装組織が、英国、フランス及びドイツの3か国を狙った同時テロ攻撃を行う計画があったことが報道されました。

 
アフガニスタンの首都カブールにおけるテロの現場(時事)

 

 
英国において発見された爆発物(トナーカートリッジを擬したもの)(時事)

 

 
タイムズスクエアにおける爆弾テロ未遂事件のファイサル・シャザド容疑者(時事)

 


 我が国は、アル・カーイダを始めとするイスラム過激派から米国の同盟国として指摘されており、オサマ・ビンラディンのものとされる声明等において、これまでに度々テロの標的として名指しされています。

 また、我が国国内においては、イスラム過激派がテロの対象としてきた米国関係施設が多数存在しており、これらを標的としたテロの発生も懸念されます。
 我が国では、国際手配されていたアル・カーイダ関係者が不法に入出国を繰り返していた事実が15年12月のドイツにおける同人の逮捕を端緒として判明したほか、米国で拘束中のアル・カーイダ幹部のハリド・シェイク・モハメドが、在日米国大使館を破壊する計画等に関与したと供述していたことが19年3月に確認されました。

 また、我が国においても、イスラム過激派がイスラム諸国出身者のコミュニティを悪用したり、様々な機会を通じて若者等の過激化に関与することが懸念されます。

 さらに、海外においては、現実に邦人や我が国の権益がテロの標的となる事案や邦人がテロに巻き込まれる事案が発生しています。

 このように、我が国は、国内におけるテロや、海外における邦人や我が国の権益に対するテロの脅威に直面しています。

 
アル・カーイダ幹部らが作成したとされる映像ソフトで、米国人等殺害を呼び掛けるオサマ・ビンラディン(時事)

 





■ 情報収集と捜査

 国際テロ対策の要諦はその未然防止にあるため、幅広く情報を収集し、それを的確に分析して諸対策に活用することが不可欠です。また、テロは極めて秘匿性の高い行為であり、収集される関連情報のほとんどは断片的であることから、情報の蓄積と総合的な分析が求められます。

 そこで、警察では、外国治安情報機関等と緊密に連携してテロ関連情報の収集・分析を強化しているほか、その分析結果を重要施設の警戒警備等に活用しています。

 また、邦人や我が国の権益に関係する重大テロが国外で発生した場合等には、国際テロリズム緊急展開班(TRT-2)を派遣し、情報収集や現地当局に対する捜査支援を行っています。




■ 国際協力の推進

 国際テロ対策を推進するには、世界各国の連携・協力が必要であることから、G8や国連等の場において、政府首脳間、治安担当大臣間、警察機関相互間等で諸対策に関する活発な議論がなされています。警察庁も、これら国際会議に積極的に参加しています。

 また、警察庁では、例年、国際協力機構(JICA)との共催により国際テロ事件捜査セミナーを開催しており、世界各国から招へいしたテロ対策実務担当者に対し、テロ事件の捜査技術に関するノウハウの提供を行っています。

■ 情報保全の徹底

 平成22年10月、国際テロ対策に係るデータがインターネット上に掲出される事案が発生しました。警察では、本件に対する捜査及び調査に組織の総力を挙げて取り組み、事実を究明していくとともに、引き続き、個人情報が掲出された方々に対する保護等及び情報保全の徹底・強化を推進していくこととしています。



 最高幹部の重信房子は、7月、ハーグ事件等の裁判において最高裁判所への上告が棄却され、8月、懲役20年の刑が確定しました。

 日本赤軍は、12年に重信が逮捕された後、13年4月、同人による獄中からの日本赤軍「解散」宣言を受け、5月には、組織としても「解散」の決定を表明しましたが、その後もムーブメント連帯という名称で活動を継続しています。レバノンに亡命中の岡本公三を含む7人の構成員が依然として逃亡中であり、武装闘争路線を放棄していないことから、その危険性に変わりはありません。

 警察では、今後とも、逃亡メンバーの早期発見・逮捕に向け、関係機関と連携し情報収集を強化しています。





 
 昭和45年3月、田宮高磨(故人)ら9人が、東京発福岡行き日本航空351便、通称「よど号」をハイジャックし、北朝鮮に入国しました。この「よど号」犯人9人のうち、現在北朝鮮に残留しているのは、小西隆裕ら5人とみられています(うち岡本武は死亡説もあるが、真偽は不明)。

 また、「よど号」グループが日本人拉致に深く関与していたことが明らかとなっています。警察は、魚本(旧姓・安部)公博ほか2名について、それぞれ結婚目的誘拐容疑で逮捕状を取得し、国際手配を行っています。「よど号」グループは、政府に対し、拉致容疑事案の被疑者としての引渡し要求を撤回するとともに、帰国をめぐる話合いに応じるよう要求しています。