インターネットは、その利用者数が、世界全体で20億人を超え5年前と比べて約2倍に膨らんでおり、今や社会生活に欠かせないものとなっています。しかし、高い利便性の反面、国境の別なく匿名性の高いサイバー空間で行われる無秩序で過激な行動は、世界各国の治安に重大な影響を与える新たな脅威となっています。
 イスラム過激派組織によるリクルート活動に代表されるように、様々な組織がウェブ上で主義主張を訴えて勢力拡大の手段としているほか、テロと何の関わりもなかった個人が爆弾の製造方法等の過激な情報に触発され、爆弾の製造やテロ事件を引き起こしています。
 また、サイバー空間では、政府機関等の重要インフラ事業者を標的とするサイバーテロや機密情報を窃取するサイバーインテリジェンスの脅威が現実のものとなっています。
 警察では、テロ等の未然防止のため、これらの実態解明を進めるとともに、各種対策を推進しています。


■ インターネットを活用したテロの煽動・実行

 アル・カーイダ等のイスラム過激派組織は、インターネットを効果的に活用して、ジハード(聖戦)思想を発信するとともに、リクルート活動を進めているとみられます。

 また、テロの計画や準備に関する相互連絡、爆発物の製造方法等のテロの実行に資する情報の配信、支持者からの活動資金の調達のように、テロの実行に向けた様々な準備のためにインターネットが利用されているとみられます。

 ジハード思想を介して緩やかなネットワークを形成するイスラム過激派にとって、インターネットはテロを煽動して実行するための重要な手段となっています。



 
9月15日、インターネット上に掲出されたアル・カーイダNo.2のアイマン・アル・ザワヒリの声明(時事)。
平成22年中、オサマ・ビンラディンやザワヒリのものとみられる声明は各6回にわたりインターネット上に掲出されました。
 

■ インターネットを通じた過激化の脅威

 イスラム過激派組織等がインターネットを活用していることは、テロと何の関わりもなかった個人が過激化してテロを引き起こす現象にも影響を与えています。中でも、英語のウェブサイトが増加するなど、英語を用いたインターネットの利用が拡大しており、英語圏を含む世界全体で過激化に大きな影響を及ぼすことが懸念されます。

 この点、平成22年6月に、アル・カーイダ関係組織によるものとしては初めてとみられる英語によるオンライン雑誌「Inspire」が、アラビア半島のアル・カーイダ(AQAP)により創刊されたことが注目されます。この雑誌は、イエメンから米国に向けて発送された航空貨物から爆発物が発見された事案(AQAPが犯行声明を発出)に関し、簡易かつ巧妙な方法で爆発物が作成・隠匿されたことを紹介するなどしており、過激化への影響が懸念されます。

 また、過激な主張を英語で巧みに展開する者の存在が危惧されており、AQAPと強いつながりを有するアンワル・アウラキは、米国政府等により特に危険視されています。アウラキはイエメン人を両親に持ちますが、本人は米国生まれ米国育ちであり、その英語能力と説教師としての立場を利用したプロパガンダに長けています。

 例えば、米国テキサス州フォートフッド陸軍基地における銃乱射事件(21年11月)に関して、アウラキは、首都ワシントンに所在するモスクにおいて、本事件の容疑者であるイエメン系米国人の陸軍少佐と出会い、その後、電子メールにより連絡を取り合っていた旨をインタビューの中で述べています。このほかにも、米国旅客機に対するテロ未遂事件(21年12月)を始め、複数のテロ事件の容疑者の過激化に影響を与えたと言われています。



雑誌「Inspire」の表紙


 
米国の国際テロ組織研究所が公開したアンワル・アウラキの画像(時事)
 


 
フォートフッド陸軍基地で営まれた追悼式の様子(時事)