現在の社会経済情勢を好機ととらえ、労働運動等への介入を強めた過激派

1非正規労働者等の組織化に取り組むなど、労働運動に介入した革マル派

 革マル派は、平成21年中、完全失業率が悪化するなどの社会経済情勢を組織拡大の好機ととらえ、非正規労働者、青年労働者、労働組合未加入者等(以下「非正規労働者等」といいます。)の組織化に力を入れて取り組みました。
 警察は、21年3月、三重県四日市市のホテルに偽名で宿泊した革マル派の幹部活動家1人を有印私文書偽造・同行使罪で逮捕しました。20年11月には、大阪市内のホテルに偽名で宿泊するなどした革マル派活動家12人を同罪等で逮捕しましたが、これらの事件捜査等を通じ、革マル派が「労働者連帯ネットワーク」を立ち上げ、同派の活動であることを隠しながら、非正規労働者等の組織化を図っていることが判明しました。
 また、革マル派は、21年1月25日、京品ホテル(東京都港区所在)の元従業員らに建物の明渡しを求める仮処分が強制執行されたことに対し、多数の活動家を動員して「抗議」活動に取り組むとともに、機関紙「解放」で、同ホテルの「解雇撤回」闘争や、「年越し派遣村」を再三取り上げるなど、社会的耳目を集める労働争議等に積極的に介入する姿勢を見せました。
 さらに、機関紙「解放」(7月13日付け)において、植田琢磨議長及び政治組織局の連名で「〈同志黒田寛一逝去三周年〉にあたって」と題し、「労働者階級の団結と巨大な決起を促す武器こそが同志黒田が創造した〈反帝国主義・反スターリン主義〉戦略」などと訴えました。新政権成立後には、同紙で「連合指導部は、「笑顔のネオファシズム政党」である民主党を下支えしている」などと繰り返し批判し、活動家を動員して同内容のビラ配布に取り組みました。
 大衆運動では、海上自衛隊のソマリア沖・アデン湾周辺海域派遣、いわゆる船舶検査特措法案の採決、在日米海軍横須賀基地への原子力空母配備1周年、オバマ米国大統領の来日等に対し、それぞれ活動家を動員して「反対」の集会・デモ等に取り組みました。
 革マル派が相当浸透しているとみられるJR総連及びJR東労組は、組合員を大量動員し、JR東労組の組合員らによる組合脱退及び退職強要事件に対する支援活動に取り組みました。6月5日、一審有罪判決に対する被告人の控訴は棄却されましたが、これらの組合は、それ以降も「不当判決」などと訴える集会に取り組み、組織の引締めを図りました。
 革マル派は、引き続き、死亡した黒田寛一前議長の「遺志の継承」を訴えながら、現在の社会経済情勢をとらえて労働運動への介入を強化し、組織の拡大に取り組むものとみられます。
事件捜査等により判明した「労働者ネットワーク」の実態 事件捜査等により判明した「労働者ネットワーク」の実態
事件捜査等により判明した「労働者ネットワーク」の実態 事件捜査等により判明した「労働者ネットワーク」の実態

2労働・学生運動への介入を軸として、国際連帯活動にも取り組んだ中核派

 中核派(党中央)(以下「党中央」といいます。)は、現在の社会経済情勢をとらえて「100年に1度の革命情勢」などと主張し、労働運動等に介入して組織の維持、拡大を図りました。
 党中央は、年初から、「生きさせろ!ゼネスト」をスローガンに、政府や日本経済団体連合会に対して「雇用確保」などを訴える集会、デモに取り組み、同派が雇用問題に力を入れていることをアピールしました。また、非正規労働者等の「解雇撤回」を求め、各地で労働争議に介入し、新たに労働組合を結成するなどの活動にも取り組みました。
 党中央は、「法政大学の再拠点化」を目的に「法大闘争」に力を入れて取り組み、同大学周辺で集会、デモ等を繰り返しました。その過程で、警察は、活動家ら延べ24人を建造物侵入罪等で逮捕し、うち8人が起訴されました。これに対し、党中央は、被告人の釈放を求めて署名活動を行ったり、都内で「6・14労働者総決起集会」(約1,150人参加)の翌日に「6・15反弾圧全国労学総決起集会」(約630人参加)を開催したりするなどして、同調者の獲得を図りました。
 さらに、米国・国際港湾倉庫労組(ILWU)等が主催する「国際労働者会議」(米国サンフランシスコで7月6日に開催)に代表者を参加させるなど、国際連帯活動にも取り組みました。
 党中央は、結成以来初めて「綱領草案」を作成し、機関紙「前進」(10月5日付け)で公表しました。同「草案」は、暴力革命の方針を明示するとともに、労働運動に対する介入、国際連帯活動等を重視する姿勢を強調しています。
 11月1日には、毎年恒例の年間最大の取組みとして、東京・日比谷野外大音楽堂で「全国労働者総決起集会」を開催しましたが、1万人の動員目標に対し、前年を250人下回る2,300人の参加にとどまりました。
 一方、19年11月に分裂した関西地方委員会(以下「関西反中央派」といいます。)は、失業者や非正規労働者等の獲得をねらって労働相談に取り組んだり、労働組合が主催した「派遣村」に参加したりするなどしました。関西反中央派は、機関紙の名称を「革共同通信」から「未来」に変更し、同紙に他セクトの取組みを掲載しました。また、超党派による「憲法第9条改定を許さない6・14全国集会」(都内で開催)に活動家多数を動員するなど、市民団体や他セクトが主催する集会、デモ等に積極的に参加し、「既成セクトの枠を超えた統一戦線の構築」を模索しました。
 党中央は、今後も、労働運動等への介入を強化し、組織の維持、拡大を目指すものとみられます。また、党中央、関西反中央派とも、APEC開催、憲法改正問題等をとらえ、反対闘争に積極的に取り組むものとみられます。
「6・14労働者総決起集会」開催時のデモ(6月、東京)
「6・14労働者総決起集会」開催時のデモ(6月、東京)

中核派(党中央)の「綱領草案」抜粋
・・・プロレタリア革命は本質的に暴力革命である。ブルジョア独裁の国家権力を打倒して労働者階級が打ち立てる新しい国家は、プロレタリアートの独裁である。・・・
・・・民族・国籍・国境を越えたプロレタリアートの団結こそ、帝国主義による侵略戦争・世界戦争を実力で阻止し、プロレタリア世界革命を現実にたぐりよせるものである。・・・

3日雇労働者、障がい者への働き掛けを続けた革労協

 革労協は、「被差別大衆の解放運動を推進し、党への結集を組織化する」として、日雇労働者の雇用問題、障がい者問題に取り組みました。
 主流派は、福岡・築港地区で「福岡・築港日雇労働組合」を運営し、日雇労働者に対して炊き出しを行うとともに、同派が取り組む成田闘争や「反戦」闘争にこれらの労働者を動員しました。こうした中、警察は、21年2月、革労協主流派活動家らによる組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反事件の公判を妨害した同派活動家及び日雇労働者11人を逮捕しました。これに対し、同派は、機関紙「解放」(3月1日付け)に「戦闘宣言」を掲載し、「組織弾圧に報復・反撃せよ」と主張しましたが、その後、同派の取組みへの動員は大幅に減少し、同派が主導する障がい者団体の活動も低調となりました。
 反主流派は、東京・山谷地区で「東京・山谷日雇労働組合」を、大阪・あいりん地区で「反戦・反失業を闘う釜ヶ崎労働者の会」を、福岡・築港地区で「福岡・築港日雇労働組合」を、沖縄・首里地区で「沖縄・首里日雇労働組合」をそれぞれ運営し、日雇労働者に対する炊き出しや「労働相談」を行うとともに、同派が取り組む「反戦」闘争や「障害者差別糾弾」闘争にこれらの労働者を動員しました。また、同派は、障がい者団体への介入、浸透を図るとともに、一部の大学内で、「医療問題研究会」等の名称を用いてサークル活動を装い、障がい者、学生への働き掛けに取り組みました。さらに、活動資金を得るために、介護事業所を経営するとともに、民間の介護事業所に活動家を勤務させるなどしました。
 また、21年10月には、同派によるとみられる「在日米空軍横田基地に向けた飛翔弾発射未遂事件」が、12月には、同じく「在日米海軍厚木基地に向けた飛翔弾発射未遂事件」がそれぞれ発生しました。
 革労協の両派は、今後も、日雇労働者、障がい者への働き掛けを続けながら、組織の維持を図るものとみられます。また、自派の存在を誇示するため、重点とする「成田」・「反戦」の闘争課題に関連した「テロ、ゲリラ」事件を引き起こす可能性があります。
「在日米空軍横田基地に向けた飛翔弾発射未遂事件」の飛翔弾(左)と発射装置(模型) 「在日米空軍横田基地に向けた飛翔弾発射未遂事件」の飛翔弾(左)と発射装置(模型)
「在日米空軍横田基地に向けた飛翔弾発射未遂事件」の飛翔弾(左)と発射装置(模型)

4平行滑走路の供用開始等に強く反発して取り組まれた成田闘争

 成田国際空港株式会社は、21年7月29日、更なる機能拡充と安全性の向上に向け、平行滑走路と第2ターミナルとを結ぶ新誘導路の建設計画、西側誘導路の改良計画(「へ」の字に曲折した部分を緩やかな線形にするもの)等を公表するとともに、新たに東側に建設した誘導路を同月30日に、2,500メートルとなった平行滑走路を10月22日に、それぞれ本来計画より前倒しして供用を開始しました。
 三里塚芝山連合空港反対同盟北原グループとこれを支援する中核派、革労協主流派等の過激派は、こうした動きに対し、「三里塚闘争・反対同盟つぶしの攻撃」、「絶対許せない暴挙」と強く反発し、7月5日に三里塚現地闘争に取り組みました。また、10月11日の「全国総決起集会」には、11年以降では最大となる約1,140人を動員し、反対闘争の盛り上げを図りました。特に、革労協主流派は、同派の機関紙で平行滑走路の供用等に対する「爆砕」を主張し、強く反発しています。
 22年は、新誘導路の建設工事、西側誘導路の改良工事等の着工が予定されており、過激派は、これらをとらえて成田闘争の盛り上げを図り、その過程で、その「着工阻止」、「爆砕」を主張して、空港関係者、空港関連施設等に対する「テロ、ゲリラ」事件を引き起こすおそれがあります。
成田国際空港の平行滑走路とその誘導路 成田国際空港の平行滑走路とその誘導路 成田国際空港の平行滑走路とその誘導路
成田国際空港の平行滑走路とその誘導路 成田国際空港の平行滑走路とその誘導路 成田国際空港の平行滑走路とその誘導路
成田国際空港の平行滑走路とその誘導路

5過激派対策の推進

 警察では、21年中、過激派に対する事件捜査、非公然アジト発見に向けたマンション、アパート等に対するローラー等を継続して推進するとともに、ポスターを始めとする各種媒体を活用した積極的な広報活動を実施するなど、各種過激派対策を推進しました。
 その結果、9月には、関東運輸局東京運輸支局の自動車検査登録事務所で虚偽の名義により普通乗用自動車を新規登録した中核派活動家ら2人を電磁的公正証書原本不実記録・同供用罪で逮捕しました。
 また、4月には、東京都千代田区内で無届け集会を開催するなどした中核派系全学連活動家ら6人を逮捕するなど、21年中、過激派活動家ら計61人を検挙しました。
 警察では、引き続き、国民の理解と協力を得ながら、過激派に対する取締りを徹底することとしています。
指名手配
連続企業爆破事件犯人
過激派(東アジア反日武装戦線)
桐島聡
指名手配
連続企業爆破事件犯人
過激派(東アジア反日武装戦線)
桐島聡
指名手配
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桐島聡