特集~対北朝鮮措置に関連する取締りの現状及び北朝鮮による拉致容疑事案等~

1対北朝鮮措置に関連する取締りの現状

1 北朝鮮に対する措置に至る経緯

(1)1回目の核実験までの経緯

 昭和30年代以降、原子力発電所の開発に取り組んでいた北朝鮮は、60年12月、核兵器保有国の拡大防止の枠組みである核拡散防止条約(NPT)に署名した後、NPTに加盟した非核保有国に義務付けられた国際原子力機関(IAEA)との協定を結びましたが、核開発疑惑の解明に協力せず、平成5年3月、NPTからの脱退を表明しました。
 他方、国際社会では、北朝鮮の核開発をめぐり武力衝突に発展することが懸念されるようになり、北朝鮮の核問題は、15年8月、米朝に日韓露中を加えた六者会合で話し合われることとなりました。しかしながら、米国が対北朝鮮経済制裁のためマカオの銀行「バンコ・デルタ・アジア」(BDA)を北朝鮮の資金洗浄金融機関に指定し、マカオ当局が北朝鮮関連口座を凍結したことから、これに反発した北朝鮮は態度を硬化させ、六者会合はこう着状態に陥りました。

(2)弾道ミサイル発射・核実験実施

 こうした状況の下、18年7月5日、北朝鮮は、テポドン2号を含む7発の弾道ミサイルを発射しました。
 また、北朝鮮は、ミサイル開発の継続を表明するとともに、10月9日には地下核実験を初めて実施しました。
北朝鮮の核実験実施を伝えるテレビ(18年10月、ソウル市内)(時事)
北朝鮮の核実験実施を伝えるテレビ(18年10月、ソウル市内)(時事)

(3)アメリカのテロ支援国家指定解除

  19年3月にBDAの北朝鮮関連口座の凍結が解除されると、20年6月、北朝鮮は、内容は不十分ながらも、寧辺の核施設の無能力化と核計画の申告を実施しました。
 これを受け、20年10月、米国が北朝鮮のテロ支援国家指定を解除したにもかかわらず、無能力化作業の検証が行われなかったことから、日本国内からは指定解除について疑問の声が上がりました。
爆破された寧辺の核施設(冷却塔)(20年6月)(時事) 爆破された寧辺の核施設(冷却塔)(20年6月)(時事)
爆破された寧辺の核施設(冷却塔)(20年6月)(時事)

(4)再度の弾道ミサイル発射・核実験実施

 21年4月5日、北朝鮮は、人工衛星の打ち上げと称して弾道ミサイルを発射しました。
 さらに、北朝鮮は、六者会合離脱と核開発再開を表明し、5月25日には、2回目となる核実験を強行しました。
 その後、北朝鮮は、7月6日に弾道ミサイルを再び発射するなど挑発を繰り返したほか、六者会合は「永遠に終わった」としてこれに復帰する意思がないことを改めて表明しました。
「人工衛星打ち上げ成功」を伝える北朝鮮のテレビ(4月5日)(時事)
「人工衛星打ち上げ成功」を伝える北朝鮮のテレビ(4月5日)(時事)

2 国際社会の取組み

 国際社会は、こうした北朝鮮の核開発や弾道ミサイル開発について、国連を通じて、北朝鮮に思いとどまるよう繰り返し求めてきましたが、これが守られなかったことから、北朝鮮に対し制裁措置が講じられています。
① 国連安保理決議第825号
 北朝鮮が、5年3月にNPTから脱退するとの意思表明を行ったことを踏まえ、同年5月、北朝鮮に対し、NPTの履行及びIAEAとの間で交わされた保障措置協定の遵守を要請すること等を内容とする決議第825号が採択されました。
② 国連安保理決議第1695号
 北朝鮮が18年7月に弾道ミサイルを複数回発射したことを踏まえ、北朝鮮に対し、弾道ミサイル計画にかかわるすべての活動を停止すること、六者会合へ早期に無条件復帰すること、すべての核計画を放棄することを、すべての加盟国に対し、弾道ミサイルや核兵器等の大量破壊兵器に関連するあらゆる物資や技術及び資金の調達を防止すること等をそれぞれ要求する決議第1695号が採択されました。
③ 国連安保理決議第1718号
 北朝鮮が18年10月に核実験を実施したと発表したことを受け、国連憲章第7章に基づく「制裁」行動が盛り込まれた決議第1718号が採択されました。この決議では、北朝鮮に対し、いかなる核実験・ミサイル発射も実施しないこと、大量破壊兵器関連物資等の輸出を禁止することを、すべての加盟国に対し、北朝鮮に対する奢侈品の販売や移転を防止すること、北朝鮮の大量破壊兵器関連及び弾道ミサイル関連計画に関与等しているとして国連が指定する個人又は団体等の資産を凍結すること等をそれぞれ求めています。
④ 国連安保理決議第1874号
 北朝鮮が再び核兵器の実験を実施したと発表したことを受け、北朝鮮に対し、核実験又は弾道ミサイル技術を使用した発射をこれ以上実施しないこと、NPT脱退に関する発表を撤回することを求める決議第1874号が21年6月に採択されました。
 また、すべての加盟国に対し、海空港を含む自国の領土内で禁止物品(あらゆる武器等を含むものに拡大)の疑いのある貨物を検査すること、公海上において禁止物品の疑いのある貨物の検査のために旗国の同意を得て船舶を検査することが要請されました。あわせて、禁止物品を運搬している疑いのある北朝鮮船舶への燃料供給等を禁止すること等が盛り込まれました。
 さらに、加盟国の北朝鮮に対する措置の履行状況について確認し改善のための勧告を行うことのできる専門家グループが、新たに北朝鮮制裁委員会とは別に国連安保理の下に設置されることとなりました。
北朝鮮に対する決議第1874号を全会一致で採択した国連安全保障理事会(6月12日)(時事)
北朝鮮に対する決議第1874号を全会一致で採択した国連安全保障理事会(6月12日)(時事)

3 我が国の取組み

(1)北朝鮮に対する措置

 我が国は、北朝鮮の弾道ミサイルの射程範囲にあり、核開発等の北朝鮮による大量破壊兵器等の脅威が重大なものであることに加え、北朝鮮による拉致問題が依然として解決されていないことを踏まえ、北朝鮮に対し、国際社会の決定した措置に加え、我が国独自の措置を講じています。北朝鮮に対する措置の概要は次表のとおりです。

対北朝鮮措置の概要






国連に合わせた措置 21年7月24日から 北朝鮮の核関連、弾道ミサイル関連及びその他の大量破壊兵器関連の計画に関与すると認められる5個人の我が国への入国及び通過の防止
我が国独自の措置 18年7月5日から ①北朝鮮当局職員の原則入国禁止
②北朝鮮籍船舶の乗員等の上陸の原則禁止
③在日北朝鮮当局職員の北朝鮮を渡航先とした再入国の原則禁止
④我が国国家公務員の北朝鮮渡航の原則見合わせ
⑤我が国から北朝鮮への渡航自粛の要請
18年10月11日から ⑥北朝鮮籍を有する者の特別の事情のない限りの入国禁止
21年6月16日から ⑦北朝鮮に対する貿易・金融措置に違反し刑の確定した在日外国人の北朝鮮を渡航先とした再入国の原則禁止及びそのような刑の確定した外国人船員の原則上陸禁止






国連に合わせた措置 18年11月15日から ①北朝鮮に関するミサイル及び核兵器等の輸出禁止
②北朝鮮に向けた奢侈品(注)の輸出禁止
我が国独自の措置 18年7月5日から ①北朝鮮に関するミサイル及び核兵器等の輸出管理の厳格な実施
18年10月14日から ②北朝鮮からのすべての品目の輸入禁止
21年6月18日から ③北朝鮮に向けたすべての品目の輸出禁止






国連に合わせた措置 18年9月19日から ①北朝鮮のミサイル及び大量破壊兵器計画に関連すると認められる15団体・1個人の資金移転防止
21年5月22日から ②北朝鮮の核関連、その他の大量破壊兵器関連及び弾道ミサイル関連計画に関与すると認められる3団体の資産凍結
21年7月7日から ③北朝鮮の核、弾道ミサイル又はその他の大量破壊兵器に関連する計画又は活動に貢献し得る活動に寄与する目的で行う資産の移転等を防止する措置
21年7月24日から ④北朝鮮の核関連、その他の大量破壊兵器関連及び弾道ミサイル関連計画に関与すると認められる5団体・5個人の資産凍結
我が国独自の措置 21年5月12日から 携帯輸出の届出を要する額を100万円超から30万円超へ引き下げる措置及び支払報告を要する額を3000万円超から1000万円超へ引き下げる措置





我が国独自の措置 18年7月5日から ①我が国と北朝鮮の間の航空チャーター便の我が国への乗り入れ禁止
18年7月5日から ②万景峰92号の入港禁止
18年10月14日から ③北朝鮮籍船舶の入港禁止
(注)奢侈品とは牛肉、酒類・たばこ、乗用車、宝石等のぜいたく品をいう。

(2)取締りの現状

 警察では、北朝鮮に対する措置が講じられた18年10月以降、北朝鮮に対する措置に関係する違法行為(大量破壊兵器等の拡散に関係する事件を除きます。)を7件検挙しており、今後も違法行為を看過することなく積極的な取締りを行うこととしています。
ア 検挙事例
① 北朝鮮を原産地とする貨物(アサリ)の無承認輸入に係る外為法違反事件
 山口県警察は、19年4月、魚貝類輸入販売業者役員らが、同社の従業員及び中国船籍貨物船の船長らと共謀して、北朝鮮を原産地又は船積地域とする貨物を日本に輸入するためには、経済産業大臣の承認を受けなければならないにもかかわらず、19年2月、北朝鮮を原産地とするアサリを北朝鮮海州港で中国船籍の貨物船に積み込み、同船を山口県下関港に入港させた後、原産地を中国とする虚偽の輸入申告手続を行い、経済産業大臣の承認を受けることなく北朝鮮から不正に輸入したとして、この魚貝類輸入販売業者役員らを外為法違反で通常逮捕しました。
北朝鮮を船積地とするアサリを積載した中国船籍の貨物船(4月、山口)(共同)
北朝鮮を船積地とするアサリを積載した中国船籍の貨物船(4月、山口)(共同)
② 北朝鮮を原産地とする貨物(ステンレス継手)の無承認輸入に係る外為法違反事件
 兵庫県警察は、日本から北朝鮮にステンレス継手原材料を輸出する一方、加工後の製品を北朝鮮から日本に輸入していた鉄管製造会社経営者らについて、19年6月、北朝鮮を原産地又は船積地域とする貨物を日本へ輸入するためには、経済産業大臣の承認を受けなければならないにもかかわらず、18年12月、北朝鮮を原産地とするステンレス継手を中国・大連を経由させることにより、その原産地を中国とする虚偽の輸入申告手続を行い、経済産業大臣の承認を受けることなく北朝鮮から不正に輸入したとして、この鉄管製造会社経営者らを外為法違反で書類送致しました。
③ 北朝鮮を原産地とする貨物(ウニ)の無承認輸入に係る外為法違反事件
 警視庁は、20年1月、貿易会社役員らが19年4月中3回にわたり、北朝鮮を原産地とするウニ(塩水漬けのもの)を中国・大連の空港から日本の空港に輸送した後、その原産地を中国とする虚偽の輸入申告手続を行うことにより、これらを経済産業大臣の承認を受けることなく不正に輸入したとして、この貿易会社役員らを外為法違反で通常逮捕しました。
④ 貿易業者による奢侈品(ピアノ等)の無承認輸出に係る外為法違反事件
 兵庫県警察は、21年6月、貿易業者社長が20年10月に奢侈品に該当する中古ピアノを経済産業大臣の承認を受けることなく中国・大連経由で北朝鮮に不正に輸出するとともに、21年1月には、奢侈品に該当する中古自動車を経済産業大臣の承認を受けることなく中国・大連経由で北朝鮮に不正に輸出したとして、この貿易業者社長を外為法違反で通常逮捕しました。
北朝鮮に不正輸出された奢侈品であるピアノ(再現)(6月、兵庫)
北朝鮮に不正輸出された奢侈品であるピアノ(再現)(6月、兵庫)
⑤ 北朝鮮を原産地とする貨物(サルトリイバラ(注))の無承認輸入に係る外為法違反事件
 愛知県警察は、21年8月、食品販売会社社長が、19年12月に、北朝鮮を原産地とするサルトリイバラを中国・大連から名古屋港に輸送した後、その原産地を中国とする虚偽の輸入申告手続を行うことで、これらを経済産業大臣の承認を受けることなく、不正に輸入したとして、この食品販売会社社長を外為法違反で書類送致しました。
北朝鮮から不正輸入されたサルトリイバラ(8月、愛知)
北朝鮮から不正輸入されたサルトリイバラ(8月、愛知)
(注)サルトリイバラは、ユリ科の植物で、漢方薬として利用されるほか、西日本ではかしわの葉の代わりに使用されることがある。
⑥ 貿易業者による奢侈品(化粧品)等の無承認輸出に係る外為法違反事件
 兵庫県警察は、21年12月、貿易業経営者らが、20年10月に、奢侈品に該当する化粧品を含む貨物を経済産業大臣の承認を受けることなく中国・大連経由で北朝鮮に不正に輸出したことに加え、21年6月18日から、北朝鮮を仕向地としたすべての貨物を輸出するためには、経済産業大臣の承認を受けなければならないにもかかわらず、同年8月、衣料品、日用品等の貨物を経済産業大臣の承認を受けることなく中国・大連経由で北朝鮮に不正に輸出したとして、この貿易業経営者らを外為法違反で通常逮捕しました。
イ 取締りの効果
 北朝鮮に対する措置に違反したとして警察が検挙した7事件は、いずれも、社会的反響が大きく、海外との取引に携わる多くの関係者に対し警鐘を鳴らすこととなりました。
 警察では、違法行為があればこれを看過することなく厳格な取締りを行っていますが、北朝鮮に対する措置を徹底する上で担保となるものと考えられます。
ウ 今後の見通し
 検挙事例に見られるとおり、北朝鮮に対する措置に関係する違法行為は後を絶たず、検挙された事件は氷山の一角であると考えられます。また、検挙された事件は中国を迂回地とするなど巧妙化しています。
 我が国と北朝鮮との地理的状況等にかんがみると、北朝鮮に対する措置を講じる限り、関係する違法行為が行われるおそれは常にあると言え、措置の厳格化に伴いその手口はますます複雑・巧妙化することが予想されます。
 これに対し、警察は、税関等との連携をこれまで以上に強化するなどしながら、違法行為に対しては徹底した取締りに努め、法執行機関として、我が国が講じる北朝鮮に対する措置に資する効果的な取締りを推進することとしています。
図 図
図 図

2北朝鮮による拉致容疑事案等

1 概要

   北朝鮮による拉致容疑事案は、昭和49年6月中旬に福井県の海岸付近で発生した姉弟拉致容疑事案、52年11月に新潟県の海岸付近で発生した少女拉致容疑事案、53年7月から8月にかけて福井、新潟、鹿児島各県の海岸付近で発生した一連のアベック拉致容疑事案及び母娘拉致容疑事案、55年から58年に発生した一連の欧州における日本人拉致容疑事案等、これまでに13件の発生が判明しており、これらの事案において北朝鮮に拉致された被害者は、19人に上っています。
 北朝鮮の金正日国防委員長は、平成14年9月に行われた日朝首脳会談において、日本人拉致問題に関し、「(北朝鮮の)特殊機関の一部の盲動主義者らが、英雄主義に走ってかかる行為を行ってきたと考えている」との認識を示して謝罪しました。
 日朝首脳会談に先立って行われた事務レベル協議で、北朝鮮側は、日本側に、8件11人の拉致被害者と欧州で失踪した2人の日本人に関する安否調査結果として、4人の生存と8人の死亡を伝えました。その他、日本側から調査を依頼していない日本人1人についても生存が伝えられ、10月には、5人の拉致被害者が24年振りに帰国しました。その後、小泉首相の16年5月の再訪朝により、同日、拉致被害者の地村夫妻、蓮池夫妻の家族5人が帰国し、7月には、曽我ひとみさんの家族も帰国・来日しました。
帰国する拉致被害者(時事)
帰国する拉致被害者(時事)

2 拉致の目的

 金正日国防委員長は、14年9月に行われた日朝首脳会談において、日本人拉致の目的について、「一つ目は、特殊機関で日本語の学習ができるようにするため、二つ目は、他人の身分を利用して南(韓国)に入るためである」と説明しました。また、「よど号」犯人の元妻は、金日成主席(故人)から「革命のためには、日本で指導的役割を果たす党を創建せよ。党の創建には、革命の中核となる日本人を発掘、獲得、育成しなければならない」との教示を受けた田宮高麿(故人)から、日本人獲得を指示された旨を証言しています。
 これらを含め、諸情報を分析すると、拉致の主要な目的は、北朝鮮工作員が日本人のごとく振る舞えるようにするための教育を行わせることや、北朝鮮工作員が日本に潜入して、拉致した者になりすまして活動できるようにすることのほか、金日成主義に基づく日本革命を行うための人材獲得にあるとみられます。
日本へ向かう政府専用機へ荷物を持って歩く拉致被害者の子どもたち(時事) 日本語教育を受けていた金賢姫元工作員(時事)
日本へ向かう政府専用機へ荷物を持って歩く
拉致被害者の子どもたち(時事)
  日本語教育を受けていた金賢姫元工作員(時事)

3 拉致容疑事案の捜査状況

 警察は、これまでに、日本人拉致容疑事案12件17人及び朝鮮籍の姉弟が日本国内から拉致された事案1件2人、計13件19人を北朝鮮による拉致容疑事案と判断するとともに、拉致の実行犯として、8件11人の逮捕状の発付を得て、国際手配を行いました。
 また、警察では、これら以外にも、北朝鮮による拉致の可能性を排除できない事案があるとの認識の下、告訴・告発や相談・届出に係る事案についても関係機関との連携の強化を図りつつ、警察の総力を挙げて徹底した捜査や調査を進めています。

北朝鮮による拉致容疑事案
  発生時期 被害者 ※( )内は、当時の年齢 発生場所 国際手配被疑者
1 昭和49年6月 髙敬美さん(7)、髙剛さん(3) 福井県小浜市 洪寿惠こと木下陽子
2 昭和52年9月 久米 裕さん(52) 石川県鳳至郡(現 鳳珠郡) 金世鎬
3 昭和52年10月 松本 京子さん(29) 鳥取県米子市  
4 昭和52年11月 横田 めぐみさん(13) 新潟県新潟市  
5 昭和53年6月頃 田中 実さん(28) 兵庫県神戸市  
6 昭和53年6月頃 田口 八重子さん(22) 不明  
7 昭和53年7月 地村 保志さん(23)
地村(旧姓:濵本)富貴惠さん(23)
福井県小浜市 辛光洙
8 昭和53年7月 蓮池 薫さん(20)
蓮池(旧姓:奥土)祐木子さん(22)
新潟県柏崎市 通称チェ・スンチョル
通称ハン・クムニョン
通称キム・ナムジン
9 昭和53年8月 市川 修一さん(23)
増元 るみ子さん(24)
鹿児島県日置郡(現 日置市)  
10 昭和53年8月 曽我 ひとみさん(19)
曽我 ミヨシさん(46)
新潟県佐渡郡(現 佐渡市) 通称キム・ミョンスク
11 昭和55年5月頃 石岡 亨さん(22)
松木 薫さん(26)
欧州 森順子
若林(旧姓:黒田)佐喜子
12 昭和55年6月 原 敕晁さん(43) 宮崎県宮崎市 辛光洙 金吉旭
13 昭和58年7月頃 有本 恵子さん(23) 欧州 魚本(旧姓:安部)公博
(注)地村保志さん、地村(旧姓:濱本)富貴惠さん、蓮池薫さん、蓮池(旧姓:奥土)祐木子さん及び曽我ひとみさんの5人については、平成14年10月、24年振りに帰国した。

 

国際手配被疑者
魚本(旧姓:安部)公博 金世鎬 辛光洙 金吉旭 通称キム・ミョンスク 通称チェ・スンチョル
魚本(旧姓:安部)公博 金世鎬 辛光洙 金吉旭 通称キム・ミョンスク 通称チェ・スンチョル
通称ハン・クムニョン 通称キム・ナムジン 洪寿惠こと木下陽子 森順子 若林(旧姓:黒田)
佐喜子
通称ハン・クムニョン 通称キム・ナムジン 洪寿惠こと木下陽子 森順子 若林(旧姓:黒田)佐喜子

4 日朝実務者協議の動向

 20年6月、中国・北京で開催された日朝実務者協議において、北朝鮮側は、16年11月の日朝実務者協議以降主張してきた「拉致問題は解決済み」とする従来の立場を変更して、拉致問題解決に向けた具体的行動を今後とるための再調査を実施することを約束しました。また、同年8月には、中国・瀋陽で開催された日朝実務者協議において、日朝双方は、北朝鮮側が実施する拉致問題の調査の具体的態様や北朝鮮側が調査を開始すると同時に日本側がとる措置等について合意しました。

5 日朝実務者協議後の動向

 20年9月5日、外務省は、9月4日夜、北朝鮮から、中国・北京の「大使館」ルートを通じ、「日朝実務者協議の合意事項を履行するという立場ではあるが、突然政権交代が行われるようになった日本側の事情にかんがみて、新政権が、実務者協議の合意事項の履行についてどういう考えなのかを見極めるまで、調査委員会の立ち上げを差し控える」との連絡があったことを明らかにしました。これに対し日本側は、その後発足した麻生政権が、これまでの方針に何ら変更はないとの姿勢を表明しました。
 21年に行われた総選挙の結果を受け、9月10日には、北朝鮮ナンバー2の金永南最高人民会議常任委員長が共同通信と会見し、民主党政権に対し、14年の日朝平壌宣言を尊重し、「実りある関係」づくりを進めることを呼び掛ける一方、「関係改善の展望は、あくまで日本当局の態度にかかっている」と述べ、民主党政権の出方を注視する考えを示しました。鳩山首相は、9月24日の国連総会での一般討論演説で、「日朝平壌宣言に従い、拉致、核、ミサイルなどの問題を包括的に解決するとともに、不幸な過去を精算し、国交正常化を図る。拉致問題では、北朝鮮が20年の日朝実務者協議の合意に基づき全面調査を始めるなど、前向きかつ誠意ある行動があれば前向きに対応する」と述べましたが、北朝鮮は、国連人権理事会が12月7日に開催した北朝鮮の人権状況を審査する普遍的・定期的レビュー作業部会において、「拉致問題は解決済み」と主張しました。22年1月現在、調査委員会の立ち上げに関し、北朝鮮側からの反応はありません。

3北朝鮮による主なテロ事件

 北朝鮮は、朝鮮戦争以降、南北軍事境界線を挟んで韓国と軍事的に対峙しており、これまで、韓国に対するテロ活動の一環として、工作員等によるテロ事件を世界各地で引き起こしています。中でも、昭和62年に発生した大韓航空機爆破事件は、日本人を装った工作員により敢行されました。

(1)韓国大統領官邸襲撃未遂事件

 昭和43年1月、韓国軍人に偽装して同国に潜入した北朝鮮の武装ゲリラ31人が、朴正煕韓国大統領等の暗殺を企図し、韓国大統領官邸(青瓦台)付近の路上で韓国当局と銃撃戦を行い、民間人等を死傷させました。

(2)ビルマ・ラングーン事件

 58年10月、ビルマ(現ミャンマー)に潜入した北朝鮮ゲリラ3人が、同国を訪問中の全斗煥韓国大統領等の暗殺を企図し、訪問先であるアウンサン廟において爆弾テロを引き起こし、韓国外務部長官等を死傷させました。

(3)大韓航空機爆破事件

 62年11月、日本人名義の偽造旅券を所持した北朝鮮工作員の金勝一と金賢姫が、北朝鮮において指令を受け、バクダット発ソウル行きの大韓航空858便に時限爆弾を仕掛け、ビルマ南方アンダマン海域上空で爆破させ、乗員乗客全員を死亡させました。
韓国・金浦空港に移送された金賢姫工作員(時事)
韓国・金浦空港に移送された金賢姫工作員(時事)

4北朝鮮による対日諸工作

1 一般情勢

 北朝鮮内部では、故金日成主席の生誕100周年に当たる平成24年を「強盛大国の大門を開く年」と定め、21年を「強盛大国建設において分水嶺をなす偉大な変革の年」と位置付けた上で、北朝鮮全土で、人民を動員した「150日戦闘」、「100日戦闘」と称した運動等を展開したほか、11月末には新旧通貨の交換に上限額を設けたデノミネーションを実施するなど、経済統制の強化等を推進しています。
 金正日国防委員長の健康問題については、20年8月に脳関係の疾患により倒れたなどとする健康悪化説が一般的となっており、21年1月以降、各種メディアにおいて、同人の後継者をめぐる情報が取り沙汰されました。一方、同人は、4月9日に開催された「最高人民会議第12期第1回会議」に出席し、歩いてひな壇に着席し、拍手したりする場面が動画で公開されるなど、起立や着席等の動作を特段の問題なくこなしている模様が明らかにされました。さらに、8月にクリントン元米国大統領と、10月に中国の温家宝国務院総理とそれぞれ長時間にわたる会談に自ら臨むなど、健在振りを示しています。
「100日戦闘」のポスター(時事)
「100日戦闘」のポスター(時事)

2 北朝鮮による対日諸工作

 核実験実施を受け、21年6月、我が国が北朝鮮に向けたすべての品目の輸出を禁止することを含む対北朝鮮措置の追加を決定すると、北朝鮮は、「6月18日から、対朝鮮追加制裁措置の一環として、総聯各級機関の在日同胞、親朝鮮団体が我が国に送る郵便物をすべて遮断するという妄動を働いている」(7月22日付け労働新聞)などと主張し、さらに、国内においては、「日本政府の制裁措置は看過できない重大な人権蹂躙、朝鮮に対する日本独自の制裁は、朝・日平壌宣言に明らかに反するもの」(8月11日付け朝鮮新報等)などと非難しました。また、朝鮮総聯は、総聯中央委員会第21期第3次会議において、「千万不当な制裁措置を撤回させるため、闘争を頑強に繰り広げる」(9月12日付け朝鮮新報(電子版))と決意を表明しており、我が国の対北朝鮮措置撤回に向けた取組みを強化する姿勢を見せています。
 その一方で、朝鮮総聯は、「金正日将軍生誕記念日(2月16日)」、「朝鮮民主主義人民共和国創建記念日(9月9日)」における朝鮮総聯主催の慶祝行事に、著名人等を招待するなどの諸工作を展開しています。
最高人民会議に出席する金正日国防委員長(4月9日)(時事)
最高人民会議に出席する金正日国防委員長(4月9日)(時事)

3 対日諸工作の今後の見通し

 今後、北朝鮮は、我が国の対北朝鮮措置の撤廃や我が国からの食糧支援等の新たな譲歩を引き出すため、自らに有利な世論の醸成を企図して、直接又は朝鮮総聯を介しての硬軟織り交ぜた諸工作を活発に展開するものとみられます。警察は、これら諸工作に対する情報収集活動を強化するとともに、伏在する違法行為に対して徹底した取締りに努めることとしています。

5北朝鮮による大量破壊 兵器関連物資等の調達動向

1 情勢

 北朝鮮は、ミサイル等の開発・製造を行うとともに、ミサイルやその関連技術を輸出しているとみられます。こうした北朝鮮の動向は、国際社会の平和と安全に深刻な問題を引き起こしており、また、北朝鮮は、それを巧妙に外交の駆け引き材料としています。
 一方、大量破壊兵器の拡散は安全保障上の深刻な問題となっており、警察ではこれまでも、大量破壊兵器関連物資等の不正輸出事案に対して、積極的な取締りを行っています。中でも北朝鮮については、我が国から持ち出された物資や技術が、核開発や大量破壊兵器の開発等に悪用される可能性があることから、このような物資や技術等の流出に対する監視を徹底するとともに、違法な事案が把握された場合には、厳正に対処しています。

2 主な検挙事例

 警察では、過去、北朝鮮関係の大量破壊兵器関連物資等の不正輸出事件を9件検挙しており、これらの事件を通じて、濃縮ウランの製造に転用可能な直流安定化電源及び周波数変換器(インバーター)、生物兵器の製造に転用可能な凍結乾燥機等が北朝鮮に不正に輸出され、又は輸出が企てられていたことが明らかになっています。
 具体的な検挙事例は次のとおりです。
① 凍結乾燥機不正輸出事件
 山口・島根県警察は、18年8月、対北朝鮮貿易商社の元代表取締役が、核兵器等の開発等のために用いられるおそれがあることを知りながら、凍結乾燥機1台を、経済産業大臣の許可を受けないで、14年9月、横浜港から台湾経由で北朝鮮向けに不正輸出した事件を検挙しました。
凍結乾燥機不正輸出のルート
② 真空ポンプ不正輸出事件
 神奈川県警察は、20年7月、対北朝鮮貿易商社の代表取締役が、核兵器等の開発等に用いられるおそれがあることを知りながら、真空ポンプ等を、経済産業大臣の許可を受けないで、15年7月ころ、成田空港から台湾経由で北朝鮮向けに不正輸出した事件を検挙しました。
台湾経由による北朝鮮向け真空ポンプ等不正輸出事件
③ タンクローリー不正輸出事件
 兵庫県警察は、21年5月、対北朝鮮貿易商社の代表取締役が、核兵器等の開発等のために用いられるおそれがあるものとして、経済産業大臣により外為法に基づき輸出許可を要するとの通知を受けていた中古タンクローリー2台を、20年1月、同大臣の許可が不要な韓国を経由させ北朝鮮に輸出する目的で、韓国向けに不正輸出した事件を検挙しました。  警察では、国内外の諸情勢を的確に把握・分析し、関係機関との緊密な情報交換を行うことなどにより、大量破壊兵器関連物資等不正輸出事案の取締りを強化していくこととしています。
北朝鮮への不正輸出目的で韓国に輸出された中古タンクローリー(5月、兵庫)
北朝鮮への不正輸出目的で韓国に輸出された中古タンクローリー(5月、兵庫)