組織の維持・拡大を図りながら、労働・大衆運動に取り組んだ過激派

1組織の求心力を維持しながら、労働・大衆運動に取り組んだ革マル派

 革マル派は、組織の求心力を維持しながら、労働運動や大衆運動に取り組み、活動家や活動資金の獲得を図りました。
 労働運動の面では、機関紙「解放」に「許すな!今日版貧窮化」と題する特集記事を11回にわたり掲載して、非正規雇用労働者の組織化への取組みを強調し、「同志黒田寛一逝去2周年」と題する植田琢磨議長及び政治組織局の連名論文において、その成果があったと誇示しました。また、主要な労働組合が主催する定期大会等に活動家を動員し、会場周辺でビラ配布等に取り組むなどして、同調者の獲得を図りました。
 大衆運動の面では、北海道洞爺湖サミットへの反対行動のほか、ロシアのグルジア侵攻をとらえ、平成20年8月21日、都内においてロシア大使館に向けたデモ等に、また、在日米海軍横須賀基地への原子力空母ジョージ・ワシントン配備をとらえ、9月25日、横須賀港内における海上デモ等に、それぞれ取り組みました。
 こうした中、神奈川県警察と警視庁は、2月8日、東京都、千葉県及び神奈川県内のマンション等に設定された革マル派の非公然アジト4箇所を一斉に摘発し、その一部アジトから押収した資料を分析した結果、同派が対立する組織・個人に対する調査活動を継続している実態の一部が明らかになりました。同派のこうした調査活動に要する経費には、活動家からのカンパ等労働運動や大衆運動への介入を通じて得られた資金が充てられており、同派は、財政基盤の確立も図っているものとみられます。
 また、革マル派が相当浸透しているとみられるJR総連・JR東労組は、本年を「反転、攻勢」の年と位置付け、組合員を大量に動員し、JR東労組の組合員らによる組合脱退及び退職強要事件やJR東海労役員による窃盗事件の被告人への支援活動に取り組み、11月1日には約4,300人を動員して都内でデモを実施しました。JR東労組は、自治体の議会が採択する「取調べの可視化の実現を求める意見書」に「強要事件は冤罪である」などと主張する文言を盛り込むことを企図して、JR東労組と関係を有する各級議会議員に働き掛けを行いました。
 革マル派は、今後、死亡した黒田寛一前議長の「遺志」の継承を訴えながら、大衆運動及び労働運動に取り組み、組織の維持・拡大を図るものとみられます。また、対立する組織・個人の動向を把握するために違法な調査活動を行ったり、JR総連、JR東労組等に浸透する過程において違法行為を引き起こすことが懸念されます。
捜索したマンション(2月、神奈川)
捜索したマンション(2月、神奈川)

2組織の分裂が労働・大衆運動に波及した中核派

 中核派(党中央)(以下「党中央」という。)は、労働運動を通じての組織拡大を重視する「階級的労働運動路線」を一層進めながら、各種闘争に取り組みました。また、19年11月に分裂した関西地方委員会(以下「関西反中央派」という。)は、党中央に対抗しながら、組織基盤の確立を図りました。
 党中央は、青年労働者の獲得を重点とする労働運動及び学生組織の強化に取り組み、組織内に「医療福祉労働者委員会」と「合同・一般労組委員会」を新設し、20年3月と9月に、全国各地で「WORKERS ACTION」と称する集会を開催しました。
 また、北海道洞爺湖サミットへの反対行動を20年上半期の最大闘争と位置付け、5月29日、法政大学構内に全国の学生活動家ら約50人を動員して集会、デモに取り組みましたが、警察は、活動家ら33人を建造物侵入罪等で逮捕しました。さらに、党中央は「渋谷で大暴動を起こそう」などと訴え、6月29日、都内に活動家ら約1,060人を動員して「全国労働者総決起集会」を開催し、集会後デモを行いました。警察は、活動家ら8人を東京都公安条例違反・公務執行妨害罪で逮捕しました。
 党中央は、「階級的労働運動路線」の「成果」と国際連帯をアピールすることをもくろんで、11月2日、東京・日比谷野外音楽堂に約2,550人を集めて「全国労働者総決起集会」を開催しましたが、関西反中央派との分裂の影響等から19年の動員(約2,750人)を下回りました。警察は、集会後のデモにおいて、活動家1人を公務執行妨害罪で逮捕しました。
 一方、関西反中央派は、創刊した機関紙・誌等で党中央の「打倒」を主張して、「革命的共産主義者同盟全国委員会の再建をめざす全国協議会」を結成し、7月には、独自の政治集会を開催しました。また、「既成セクトの枠を超えた統一戦線の構築」をもくろみ、他の過激派と共に北海道洞爺湖サミットや各閣僚会議への反対行動に取り組みました。
 中核派の組織分裂は、同派の影響下にあった労働団体や大衆団体に混乱をもたらしており、4月には、共闘関係にあった部落解放同盟全国連合会が同派との「断絶」を宣言しました。
 党中央は、今後、関西反中央派に対抗して組織の再編・引締めを図りながら、「階級的労働運動路線」の下、労働運動への取組みに一層力を入れ、勢力の維持・拡大を図るものとみられます。一方、関西反中央派は、全国組織の結成に向け、他のセクトとの共闘関係の形成を模索しながら、党中央内の不満分子を対象にした切り崩しを図るものとみられ、こうした過程で、両派による内ゲバ事件の発生が懸念されます。
「全国労働者総決起集会」開催時のデモ(6月、東京)
「全国労働者総決起集会」開催時のデモ(6月、東京)

3組織の引締めを図りながら「テロ、ゲリラ」を実行した革労協

 革労協主流派は、成田闘争に積極的に取り組んでいますが、成田国際空港の暫定平行滑走路の北側延伸工事が進展していることや、反対同盟員が成田国際空港株式会社から賃借している耕作農地の明渡しを求められていることに強く反発し、20年3月1日、「北側延伸工事強行の実力阻止」を訴え、同空港に向けて飛翔弾を発射する「テロ、ゲリラ」事件を引き起こしました。同派による「テロ、ゲリラ」事件の発生は、11年5月の同派と反主流派の分裂以降初めてでした。
 また、20年5月、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反で、同派の活動家7人が逮捕されたことに対し、「戦後新左翼に対する最初の組対法適用攻撃」などとして、その「爆砕」を主張しました。この第1回公判では、全国から活動家を動員してデモ行進や公判傍聴に取り組むとともに、「組対法攻撃と闘う会」を結成し、活動家の逮捕に動揺する組織の引締めを図りました。
 革労協反主流派は、在日米軍の再編問題、自衛隊の海外派遣等をとらえて反戦闘争に取り組み、9月12日、「原子力空母「ジョージ・ワシントン」の横須賀配備(母港化)阻止」を訴え、在日米海軍横須賀基地に向けて飛翔弾を発射する「テロ、ゲリラ」事件を引き起こしました。飛翔弾は発見されていませんが、同派は、革命軍「軍報」で「在日米軍中枢機能を徹底破壊-壊滅的打撃を強制」などと主張しました。
 また、同派は、東京・山谷地区、大阪・あいりん地区、福岡・築港地区等の日雇労働者を対象にした労働相談や炊き出しを行ってオルグ(注)に取り組んでいますが、反戦闘争の盛り上げを図るため、集会、デモ等にこれらの労働者を動員しました。
 両派は、今後、自派の優位性を誇示して組織の引締めを図るためにも、それぞれ、重点とする闘争課題に関連した「テロ、ゲリラ」事件を引き起こすおそれがあります。
(注)オルグ=大衆の間に派遣されて、組合や政党を組織したり、加入を促進したりする活動。
「成田国際空港に向けた飛翔弾発射事件」の発射装置(3月、千葉)
「成田国際空港に向けた飛翔弾発射事件」の発射装置(3月、千葉)

4北側延伸工事の進展に危機感を強める中で取り組まれた成田闘争

 成田国際空港の暫定平行滑走路北側延伸については、東峰地区の新誘導路の整備が進み、また、国道51号の付替え工事が完成するなど、22年3月の供用開始に向けて工事が着実に進捗しています。
 さらに、暫定平行滑走路の西側誘導路が曲折する原因となって、航空機の運航に影響を与えている耕作農地に係る土地明渡しの訴訟が新たに提起されたほか、天神峰現地闘争本部の土地明渡しをめぐる裁判の審理が進んでいます。
 三里塚芝山連合空港反対同盟北原グループ及びこれを支援する中核派、革労協主流派等の過激派は、こうした動きに危機感を募らせ、20年10月5日開催の「全国総決起集会」では、耕作農地を所有する空港会社が示した賃貸借の解除期限(10月13日)を間近に控えていたこともあり、12年以降では最大となる約910人を動員して、盛り上げを図りました。
 また、革労協主流派は、3月1日、成田国際空港に向けて飛翔弾を発射する「テロ、ゲリラ」事件を引き起こし、その犯行を自認する革命軍「軍報」で、「「三・一戦闘」に続き、武装闘争に連続的に決起する」などと主張しました。
 過激派は、今後、北側延伸工事の進展や耕作農地等の明渡しをとらえ、千葉県、成田国際空港株式会社、工事業者等への抗議行動に取り組むものとみられ、その過程で「テロ、ゲリラ」事件を引き起こすことが懸念されます。
成田国際空港暫定平行滑走路北側延伸工事(4月)
成田国際空港暫定平行滑走路北側延伸工事(4月)

5過激派対策の推進

 警察では、20年中、過激派に対する事件捜査、アジト発見に向けたマンション、アパートに対するローラー等を継続して推進するとともに、ポスターを始めとする各種広報媒体を活用した広報活動を実施するなど、各種の過激派対策を推進しました。
 その結果、2月、東京都、千葉県及び神奈川県に所在する革マル派の非公然アジト4箇所を一斉に摘発しました。
 また、5月、福岡県太宰府市役所から組織的に他人介護料を不正に受給した革労協主流派の活動家7人を組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反で、11月には大阪府等の複数のホテルにおいて、秘密会議を行うため偽名でホテルへ宿泊するなどした革マル派の活動家12人を有印私文書偽造・同行使罪等でそれぞれ逮捕するなど、過激派による潜在的な違法行為に対する捜査を推進しました。
 さらに、4月には、富山大学構内に侵入した中核派活動家1人を、また、5月から7月までの間、法政大学構内への立入りをめぐり、警察官や警備員に暴行を加えるなどした中核派系全学連活動家ら42人を、それぞれ逮捕するなど、20年中、過激派活動家ら109人を検挙しました。
 警察では、引き続き、国民の理解と協力を得ながら、過激派に対する取締りを徹底することとしています。
指名手配 中核派 過激派(テロ・ゲリラ)はあなたの近くに潜んでいる。
指名手配 中核派 過激派(テロ・ゲリラ)はあなたの近くに潜んでいる。
指名手配 中核派 過激派(テロ・ゲリラ)はあなたの近くに潜んでいる。
指名手配 中核派 過激派(テロ・ゲリラ)はあなたの近くに潜んでいる。