ロシア及び中国による対日有害活動等

1依然として情報活動を活発に展開するロシア

 ロシアでは、平成20年3月に大統領選挙が行われ、プーチン大統領(当時)から後継指名を受けていたメドヴェージェフ第一副首相(当時)が当選し、5月7日、第3代ロシア連邦大統領に就任しました。
 メドヴェージェフ大統領は、就任演説において「過去8年間で築かれた長期的な発展のための強力な土台をいかし、国民が自信を持って安全に暮らせる国を作る」と述べ、プーチン政権の路線を継承することを明言しました。なお、大統領退任後の去就が注目されていたプーチン前大統領は、退任と同時に与党「統一ロシア」の党首に就任し、メドヴェージェフ大統領からの首相候補指名を受け、下院の承認を経て、首相に就任しました。
  ロシア情報機関については、19年10月に、国家保安委員会(KGB)の対外諜報部門を継承した対外情報庁(SVR)の長官にフラトコフ前首相が就任したほか、治安機関向けの予算が増額されていることなどから、ロシア情報機関の活動が活発化することが懸念されています。
 我が国においても、在日ロシア情報機関員による活動は、冷戦終結後も活発であり、17年と18年には、在日ロシア情報機関員が、民間企業の技術者をターゲットとし、先端科学技術を違法に入手した事件を検挙しました。また、20年1月には、内閣情報調査室に勤務する内閣事務官が、ロシアの情報機関員とみられる在日ロシア連邦大使館二等書記官のそそのかしにより職務上知り得た秘密を同人に漏らしたほか、現金10万円の賄賂を受け取っていたとして、警視庁が、元内閣事務官を国家公務員法(秘密を守る義務)違反及び収賄罪で、元二等書記官を国家公務員法(秘密を守る義務違反のそそのかし)違反及び贈賄罪でそれぞれ検挙しました。ロシア情報機関員によるこうした違法な情報収集活動は、今後も我が国内において繰り広げられるとみられます。警察では、このような犯罪行為によって我が国の国益が損なわれることのないよう、違法行為に対しては、厳正な取締りを行っていくこととしています。
対独戦勝利軍事パレードを観閲するロシアのメドヴェージェフ大統領とプーチン首相(5月)(時事)
対独戦勝利軍事パレードを観閲する
ロシアのメドヴェージェフ大統領とプーチン首相(5月)(時事)

2軍事大国・科学立国を目指し情報収集を図る中国

1軍の現代化と産業構造の転換を図る中国

 胡錦濤総書記は、19年10月に開催された第17回中国共産党全国代表大会において行った政治報告の中で、軍事力の現代化・情報化及び武器装備の自主開発の方針を明らかにしました。この方針に基づき、20年9月、人民解放軍総装備部長の指揮の下、有人宇宙船「神舟7号」の打ち上げと中国初の船外活動を成功させたほか、原子力潜水艦、主力戦闘機等の主力武器装備について、外国からの購入から自主開発・生産に切り替え、順次配備しています。
 一方、急速な軍備拡大を支えてきた経済成長には陰りが見え始めています。中国は、環境対応技術や高付加価値製品を開発・生産する「創新型国家」への転換が不可欠であるとして、国家を挙げて産業構造の転換を推進していますが、基礎技術研究の蓄積不足に起因する開発力の不足等により十分には進展していません。
 中国は、自国の開発力不足を補うため、外国の企業や研究機関が既に保有する先端科学技術情報に着眼し、高度な環境技術等を有する外国企業に対して自国企業との合弁等による進出を誘致しています。
 また、中国は、新たな先端技術情報収集手段として、「ITセキュリティ製品の強制認証制度」の導入を検討しています。これが実現すれば、中国に進出又は製品を輸出する企業は、IT製品を制御するソフトウェアの設計図であるソースコードの中国政府への開示を強制されることとなり、知的財産の中国への流出等が懸念されています。

2我が国における情報収集活動の実態

 中国は、我が国においても、先端科学技術保有企業、防衛関連企業、研究機関等に技術者、研究者、留学生等を派遣するなどして、長期間にわたって、巧妙かつ多様な手段で情報収集活動を行っているとみられます。19年3月には、愛知県警察が、国内大手自動車部品メーカーに勤務する中国人技術者について、約13万件もの電子設計図データを不正にダウンロードした社有パソコンを持ち出したとして、横領容疑で逮捕し、中国人による違法な先端科学技術情報の収集実態を明らかにしました。
 中国は、今後とも国内外において様々な手段を用いて、積極的かつ幅広く先端科学技術の収集を続けていくとみられます。
 警察では、違法行為があれば、我が国の国益が損なわれることのないよう、厳正に対処していくこととしています。
有人宇宙船「神舟7号」の打ち上げ(時事) 北京オリンピック聖火リレー時における中国人留学生等の盛り上がり(4月、長野)
有人宇宙船「神舟7号」の打ち上げ(時事)   北京オリンピック聖火リレー時における
中国人留学生等の盛り上がり(4月、長野)

3大量破壊兵器関連物資等の不正輸出

1国際的な取組み

 北海道洞爺湖サミットにおいて採択された首脳宣言では、大量破壊兵器及びその運搬手段の拡散の危険を克服し、テロリストによる大量破壊兵器の取得を防止するためにあらゆる努力を行うこと、拡散を防止し、又はこれに対抗するには、すべての国が効果的な措置を実施することが必要であり、この目的に向た努力を一層強化することなどが盛り込まれました。
 また、国際社会の平和と安定に対する脅威である大量破壊兵器、ミサイル及びそれらの関連物資の拡散を阻止するために、国際法及び各国国内法の範囲内で、参加国が共同してとり得る移転及び輸送阻止のための措置を検討・実践する取組み(PSI)については、近年その活動が活発になっています。
 警察では、国際的な取組みにも積極的に参加しており、20年9月に、ニュージーランド・オークランドで実施されたPSI海上阻止訓練には、警視庁及び大阪府警察のNBCテロ対応専門部隊が参加し、税関職員と共同で、コンテナ内で発見された大量破壊兵器関連物資に対する検査・特定等を行うなどしました。
PSI海上阻止訓練での警視庁及び大阪府警察のNBCテロ対応専門部隊
(9月、ニュージーランド)
PSI海上阻止訓練での警視庁及び大阪府警察のNBCテロ対応専門部隊
(9月、ニュージーランド)

2警察の取組み

 警察は、大量破壊兵器の拡散が国際安全保障上の重大な関心事項になっていることを踏まえ、日本からの大量破壊兵器関連物資等の不正輸出の取締りを積極的に推進しており、20年中には、IAEAが、北朝鮮の核再処理施設における視察をした際、日本製の真空排気装置を発見したことを端緒に捜査を開始し、台湾経由による北朝鮮向け真空ポンプ等の不正輸出事件を検挙しました。
 また、警察がこれまで検挙した事案において、第三国を経由した迂回輸出の実態が確認されるなど、不正輸出の手口は悪質・巧妙化しています。警察では、国内外の諸情勢を的確に把握・分析し、関係機関との緊密な情報交換を行うことなどにより、大量破壊兵器関連物資等不正輸出事案の取締りを強化していくこととしています。
台湾経由による北朝鮮向け真空ポンプ等不正輸出事件
台湾経由による北朝鮮向け真空ポンプ等不正輸出事件
台湾経由による北朝鮮向け真空ポンプ等不正輸出事件