組織問題を抱える中、労働・大衆運動に取り組んだ過激派

1前議長の権威に頼りながら、大衆運動や労働運動に取り組んだ革マル派

 革マル派は、黒田寛一前議長(以下「前議長」という。)の「遺志」の継承を訴えながら、大衆運動や労働運動に取り組み、組織の維持、拡大を図りました。平成19年7月16日付けの機関紙「解放」(第1977号)には、「同志黒田1周忌」と題する植田琢磨議長及び政治組織局の連名論文を掲載し、「同志黒田の遺志と営為を継承して」組織建設を推進することの重要性を強調しました。
 大衆運動の面では、国民投票法の制定や海上自衛隊によるインド洋での給油活動を実施するための新法案の国会審議等をとらえ、全国各地で抗議集会、デモに取り組みました。警察は、6月17日、デモ警備中の警察官に暴行を加えた全学連活動家2人を公務執行妨害罪で検挙し、革マル派の活動拠点である解放社や東京都町田市内のマンション等を捜索しました。
 労働運動の面では、主要な労働組合の定期大会等の会場周辺で、組合の執行部を批判するビラ配布等に取り組み、同調者の獲得に努めました。
 革マル派が相当浸透しているとみられるJR東労組では、14年以降、元顧問を絶対視する勢力と、元顧問の影響力を排除しようとする勢力との対立が継続しています。19年6月には、JR東労組から除名された組合員等が、「ジェイアール労働組合」を結成し、同年9月には、横浜、千葉、東京及び長野で地方本部を設立しました。
 また、JR東労組は、14年以降、JR東労組の組合員らによる組合脱退及び退職強要事件の摘発に対し、「組合弾圧」、「えん罪」等と主張し、組合員を大量動員して公判を傍聴するなど、被告人に対する支援活動に取り組みましたが、19年7月、東京地方裁判所は、被告人7人全員を有罪としました。東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)は、有罪判決を受けた被告人のうち社員の身分を有する6人を懲戒解雇処分としましたが、JR東労組は、これに対し、「不当処分を満腔の怒りをもって糾弾する」等と反発を強め、処分撤回を求める署名活動に取り組みました。
 革マル派は、前議長の死亡後、集団指導体制により組織が運営されているとみられ、今後も、前議長の権威に頼りながら大衆運動及び労働運動に取り組み、組織の維持、拡大を図るものとみられます。また、JRを始めとする基幹産業の労働組合等への浸透を図る過程で、対立する組織・個人の動向を把握するために住居侵入等を伴う違法な調査活動を行うほか、組合員に対する暴行・傷害事件等を引き起こすことが懸念されます。

警察が捜索した東京都町田市内のマンション(6月) 警察が捜索した東京都町田市内のマンション(6月)
警察が捜索した東京都町田市内のマンション(6月) 警察が捜索した東京都町田市内のマンション(6月)
警察が捜索した東京都町田市内のマンション(6月)

2組織の内紛に揺れる中、労働運動路線を強化した中核派

 中核派は、19年中、前年に発生した組織の内紛への事態収拾に当たりつつ、組織の維持、拡大を図るとともに、共産主義革命を目指すため、労働運動を強化するとの「階級的労働運動路線」(それまで「5月テーゼ」、「新指導路線」と呼称していた路線を19年に変更したもの。以下「現行路線」という。)の下、組織の建て直しを図りました。
 中核派内においては、18年中、関西地方委員会の最高幹部が独善的な組織運営等を理由に下部党員から糾弾され、解任に追い込まれた問題の処理をめぐって内部対立が発生し、活動家の大量離党、幹部多数の除名・解任といった事態に発展しました。同派は、19年中、活動家の動揺を抑えるため、機関紙「前進」に、政治局名の論文等を繰り返し掲載するなどして、現行路線を徹底することの重要性を強調しました。
 しかしながら、同年4月の統一地方選挙では、杉並区議選の候補者擁立をめぐり、現職の中核派議員2人が同派の方針に従わずに立候補し(当選1人、落選1人)、内部対立に拍車がかかりました。このため、同派は、同年夏に「革共同第23回全国委員会総会」を開催し、内紛の原因を作ったとして、政治局員2人及び立候補した前記の2人を除名処分とし、組織の引締めを図りましたが、同年11月には関西地方委員会が分裂しました。
 中核派は、組織の内紛への対応に追われる中、青年労働者の獲得を重点とする労働運動の取組み強化及び学生組織の拡大強化に力を注ぎ、「WORKERS ACTION」と銘打った集会を全国各地で開催しました。同派は、現行路線の成果と国際連帯をアピールする集会として、1万人の動員目標を掲げ、同年11月、都内・日比谷野外音楽堂で「全国労働者総決起集会」を開催しました。その結果、全国の活動家に加え、呼び掛けに応じた同調者、米国・韓国の労働団体代表等、約2,750人(前年比約50人増)が、集会、デモに取り組みました。警察は、デモ警備中の警察官に暴行を加えた中核派活動家等2人を公務執行妨害罪で逮捕しました。
 中核派は、今後も、現行路線の下で労働運動に対する取組みに力を入れ、組織の維持、拡大を図るものとみられます。大衆運動の面では、北海道洞爺湖サミットの開催、憲法改正問題等を闘争の中心に据え、反対闘争に活発に取り組むことが見込まれます。組織の内紛への対応として、引き続き党内の引締めを図るものとみられますが、組織の指導方針に反発する活動家や除名された活動家の動向によっては、内ゲバ事件が発生するおそれもあります。
「全国労働者総決起集会」開催時のデモ(11月、東京)
「全国労働者総決起集会」開催時のデモ(11月、東京)

3組織の引締めを図りながら「テロ、ゲリラ」を指向した革労協

 革労協主流派は、19年中、成田国際空港の暫定平行滑走路の北側延伸工事(以下「北側延伸工事」という。)の進捗がみられたことや、三里塚芝山連合空港反対同盟北原グループ(以下「北原グループ」という。)の反対同盟員の耕作する農地について賃貸借契約の解約が千葉県知事から許可されたこと(注)に反発を強め、成田闘争に積極的に取り組みました。同年2月の「中央政治集会」に報告された「革命軍アピール」では、成田闘争に関して「ゲリラ戦に決起する」と主張したほか、同年8月の「全国反戦集会」に報告された「革命軍アピール」でも、「武装闘争の爆発」を呼び掛けました。警察は、同年3月及び同年5月、北側延伸工事に伴う交通誘導や警戒等に従事する警備員に脅迫や暴行を行った事件で、活動家2人を逮捕しました。同派は、これらの業務を請け負った警備会社を「第二警察」と位置付け、その周辺で抗議活動を行いました。
 革労協反主流派は、「唯一の武闘派」を自称し、自衛隊の海外派遣等をとらえた反戦闘争に取り組む中、同年2月、米軍座間基地に向けて、飛翔弾を発射する「テロ、ゲリラ」事件を引き起こしました。同派は、報道機関に送付した「革命軍軍報」の中で、同事件が、米国によるイラク駐留、在日米軍再編問題等をとらえて「新たに開発した新型迫撃弾」を使用したものであることを自認しました。また、同月に開催した「中央政治集会」で、同軍報及び「革命軍アピール」を読み上げ、組織の引締めを図りました。
 主流派及び反主流派は、今後も、組織の求心力を維持するためにも「革命軍」を温存し、アピール効果の高い時機を選び、それぞれ重点とする闘争課題と関連した「テロ、ゲリラ」事件を引き起こすおそれがあります。

 (注)農地を所有する成田国際空港株式会社(以下「空港会社」という。)は、この農地が暫定平行滑走路の西側誘導路が曲折する原因となっているため、反対同盟員に賃貸借契約の解約を申し入れましたが、拒否されたため、18年7月、農地法に基づき解約を求める手続きをとり、18年9月、千葉県知事はこれを許可しました。

「2.12米軍座間基地に向けた飛翔弾発射事件」の発射装置(2月、神奈川) 「2.12米軍座間基地に向けた飛翔弾発射事件」の発射装置(2月、神奈川)
「2.12米軍座間基地に向けた飛翔弾発射事件」の発射装置(2月、神奈川) 「2.12米軍座間基地に向けた飛翔弾発射事件」の発射装置(2月、神奈川)
「2.12米軍座間基地に向けた飛翔弾発射事件」の発射装置(2月、神奈川)

4北側延伸工事に強い反対姿勢を見せた成田闘争

 19年、空港会社は、18年9月に着手した北側延伸工事を本格化し、延伸区域内の国道51号線の付替え工事や、新誘導路の建設に伴う東峰地区内の樹林の伐採工事等を行いました。
 北原グループ及びこれを支援する中核派、革労協主流派等の過激派は、北側延伸工事に強い反対姿勢を見せ、特に、樹林の伐採工事に対しては、「地元住民を無視した暴挙を強く弾劾する」、「反対同盟は、政府・NAA(空港会社)の犯罪を許さない」などと反発し、伐採前の囲繞工事が開始されると、活動家等を動員して抗議行動に活発に取り組みました。
 さらに、前記耕作農地の賃貸借契約の解約許可に対しては、「国家権力と空港会社による農地強奪を許すな」などと反発を強め、耕作農地を賃借していた北原グループの反対同盟員は、19年7月、許可の取消しを求める訴訟(以下「取消訴訟」という。)を千葉地方裁判所に提起しました。北原グループ及びこれを支援する過激派は、同年10月に開催された「全国総決起集会」を、この反対同盟員の耕作農地を守る決起集会と位置付け、全国から活動家等を動員して闘争の盛上げを図りました。
 過激派は、今後も、千葉県、空港会社、工事業者等に対する抗議行動や、現地闘争に取り組むものとみられ、北側延伸工事や取消訴訟の進捗状況によっては、「テロ、ゲリラ」事件を引き起こすことも懸念されます。

5過激派対策の推進

 警察では、過激派に対する事件捜査、アジト発見に向けたマンション、アパート等に対するローラー等を継続して推進するとともに、ポスターを始めとする各種広報媒体を活用した広報活動を実施しました。
 これらの諸対策を推進した結果、19年2月には、伊丹公共職業安定所等において、失業等求職者給付基本手当金を不正に受給した中核派活動家及びその同調者計4人を、同年3月には、九州大学において、学生から徴収して保管中の学友会活動経費を横領し、活動拠点の家賃の支払いに充てた中核派活動家4人を、同年6月には、大阪府高槻市長の許可を受けずに、同市所在の病院から排出された感染性廃棄物相当数を収集するなどした中核派活動家及びその同調者計2人を、それぞれ逮捕するなど、過激派による違法行為に対する捜査を推進しました。このほか、同年6月には、デモ参加中における公務執行妨害罪で革マル派活動家2人を逮捕するなど、19年中、過激派活動家及びその同調者計33人を検挙しました。
 警察では、引き続き、国民の理解と協力を得ながら、過激派に対する取締りを徹底することとしています。
(年齢は平成19年9月現在)
(年齢は平成19年9月現在)
(年齢は平成19年9月現在)
(年齢は平成18年9月現在)