我が国の治安を脅かす不法入国・不法滞在事犯

1巧妙化・潜在化する不法入国・不法滞在事犯

 近年、警察及び海上保安庁が検挙した集団密航事件の件数は、平成9年以降、大幅な減少傾向にあります。他方、偽造旅券等を使用した不法入国事件の検挙件数は、依然として高い水準にあり、国際空港や港湾における水際対策が重要な課題となっています。
 こうした中、警察は、不法入国や不法残留の事実を隠ぺいして合法滞在を偽装しようとする不法滞在者に対し旅券や外国人登録証等の各種身分証明書を偽造・販売する偽造工場を摘発しています。また、NPO法人代表らが介在した集団密航事件や、犯罪収益等を不正送金する地下銀行事件等も検挙し、国内に拠点を置く外国人犯罪組織の拡大防止に努めています。
 国内外の犯罪組織が連携した不法入国・不法滞在事犯は、その形態や手口の巧妙化・多様化が進んでおり、更に潜在化、定着化することが懸念されることから、警察としては、今後とも厳正な取締りを徹底していくこととしています。

【事例】
 埼玉県警察では、特定のNPO法人を通じて査証を取得したフィリピン人女性が、我が国に上陸後、所在不明になるケースが相次いでいるとの通報を受け、所要の捜査を行ったところ、集団密航事件が明らかとなったため、19年4月までに密航者等18人を逮捕するとともに、海外に潜伏していた同NPO法人の代表については、国際刑事警察機構を通じて事件通報を行い、同年6月、フィリピンの入国管理局が身柄を拘束をしました。
 同NPO法人の代表は、フィリピン人女性の人権擁護名目でNPO法人を設立し、その立場を悪用して、虚偽の申請等により査証を取得させ、フィリピン人女性約300人を我が国に密入国させていました。フィリピン人女性は入国後、国内各地のフィリピンパブ等でホステスとして働いていました。
入管法違反検挙件数・人員の推移 入管法違反検挙件数・人員の推移
入管法違反検挙件数・人員の推移 入管法違反検挙件数・人員の推移

2不法滞在者に対する取締りの強化

 我が国の不法滞在者数は、約20万人と言われ、依然として高い数字で推移しています。こうした中で、15年12月、犯罪対策閣僚会議は、外国人犯罪の温床となる不法滞在者を20年末までに半減させるとの目標を定めました。警察では、この政府目標の達成のため、入管法第65条の活用拡大、入国管理局との合同摘発や集中取締りを積極的に実施し、19年中は、入管法違反は、7,752件6,771人を検挙し、そのほかに、入管法第65条の規定に基づき、6,211人を逮捕後に入国警備官に引き渡しました。これらを合わせると13,963件、12,982人となります。
 近年、首都圏及びその近郊に集中していた不法滞在者が、地方へ拡散し潜在化しているといった傾向が顕著になっており、治安悪化の大きな要因となっています。また、偽造旅券の売買や偽装結婚を図る外国人は後を絶たない状況にあることから、こうした不法滞在を助長する犯罪についても引き続き厳正な取締りを行うこととしています。
 警察としては、今後も、関係機関と緊密に連携し、悪質な事案に対する重点的な取締りや退去強制の効率化等の諸対策を推進し、良好な治安を確保するとともに、平穏かつ適法に滞在している外国人に対する無用の警戒感を払しょくすべく、不法入国・不法滞在者対策の的確な実施に努めることとしています。

【事例】
 神奈川県警察では、19年1月、中国人が偽物のパスポートを作って販売しているとの情報に基づき、所要の捜査を行ったところ、千葉県内のマンションに所在する偽造工場を突き止め、同年5月、同所等関連先を一斉摘発するとともに、同年7月までに、中国人4人を逮捕しました。
 逮捕された中国人らは、偽造していた旅券や外国人登録証明書をセットで1万3,000円から2万5,000円で販売していました。
 本件では、パソコン、プリンター、偽造旅券の表紙や外国人登録証明書等のほか、偽造の素材として用意された我が国の査証、運転免許証、各市町村の公印の印影等を記録した電磁的記録媒体が押収されています。
中国の最新型戦闘機「殲(せん)10」(時事) 中国の最新型戦闘機「殲(せん)10」(時事)
偽造工場摘発時における押収品(5月、神奈川)