ロシア及び中国による対日有害活動等

1依然として情報活動を活発に展開するロシア

 プーチン大統領は、平成17年12月、対外情報庁(以下「SVR」という。)創立85周年記念祝賀会において、「旧ソ連国家保安委員会(KGB)の流れをくむSVRは世界で最も有効に機能している機関であり、政策決定過程で諜報活動が重要である」と述べたほか、19年10月、SVR新長官に任命されたフラトコフ前首相を紹介するに当たって、「ロシア政府を3年以上率いたフラトコフがSVR長官に任命されたこと自体、諜報活動がロシア国家機関システムにおいて重要な地位を占めていることを示す」、「諜報機関の努力はロシアにおける潜在的な産業力及び国防力の強化に集中されなければならない」などと述べ、ロシア情報機関を国益拡大のための手足として重用していく姿勢を示しました。一方で、こうしたロシアの動向には、欧米諸国でも警戒感が強まりつつあります。同年9月、米下院司法委員会の公聴会において、米国マコーネル国家情報長官が「中国とロシアが米国内で冷戦時代と同レベルの情報活動を行っている」と警告するなど、ロシアが近年経済力を回復させたことに比例して、国外における情報収集活動も活発に行っていることに欧米諸国の情報機関は懸念を表明しています。
 また、経済の発展に伴い、ロシア情報機関を取り巻く諸事情も好転しており、19年の国家予算案では、治安機関向けの予算が増加配分(約3兆円:前年比23%増)され、国家の支援と人事等環境面の整備が整い、その活動がますます活発化する兆しが認められます。
 我が国においても、在日ロシア連邦通商代表部員に偽装したロシア情報機関員による違法な情報収集活動の摘発が、17年、18年と2年連続で続いており、こうした違法行為は、冷戦後も一向に止まる気配はありません。警察は、こうした犯罪により、我が国の国益が損なわれることのないよう、今後も、違法行為に対しては厳正な取締りを行うこととしています。
フラトコフ新SVR長官とプーチン大統領(時事)
フラトコフ新SVR長官とプーチン大統領(時事)

2軍事大国・科学立国を目指し先端科学技術獲得を図る中国

1先端軍事技術の獲得を図る中国

 中国は、19年3月に開催された全国人民代表大会において、19年の国防予算が、前年実績比約17.8%増の3,509億2,100万元(約5兆2,600億円)に達することを明らかにしました。中国の国防予算の2けたの伸びは、元年から19年連続であり、公表額において日本の防衛関連費を初めて上回りましたが、その内訳や部隊編成等については公表しておらず、その不透明性が指摘されています。また、公表された国防予算には、外国からの武器の購入費、研究開発費が計上されていないという見方もあり、これらを含めた実際の軍事費は、公表額の2、3倍に上るとの指摘があります。
 胡錦涛総書記は、同年10月に5年ぶりに開催された第17回中国共産党全国代表大会において行った政治報告の中で、「調和世界構築」「善隣友好」という外交政策を掲げ、周辺諸国との平和協調路線を強調したほか、「中国は軍備競争には加わらず、いかなる国にとっても軍事的脅威になることはない」として、いわゆる中国脅威論の打ち消しを図りました。一方、「情報化の軍隊を作り上げ、情報化の戦争で勝利を勝ち取る」と宣言し、装備のハイテク化、戦術の近代化による人民解放軍の強化方針を明確にしました。こうした方針に基づき、今後も、中国は、軍事分野における独自の技術開発を更に進めるため、軍事転用可能な先端科学技術を幅広く開発、収集するものとみられます。

2我が国における中国の情報収集活動

 中国は、外国に対して、研究者・技術者を積極的に派遣して先端科学技術の収集を図っているものとみられます。我が国に対しても、公館員、研究者、国費留学生等を派遣し、先端科学技術保有企業、防衛関連企業、研究機関の職員等に技術移転の働き掛けを行うなど、長期間にわたって、巧妙かつ多様な手段で情報収集活動を行っているものとみられます。
 19年3月には、国内大手自動車部品メーカーに勤務する在日中国人技術者が、会社から貸与されたノートパソコンに社内データベースから大量の電子図面データをダウンロードして自宅に持ち帰り、複数の外部記憶媒体にコピーしたとして、愛知県警察が、横領容疑で逮捕しました。本件検挙は、中国による不正な先端科学技術情報の収集実態の1端を明らかにしたほか、日本企業の情報管理の在り方にも警鐘を鳴らしました。警察としては、我が国の国益が損なわれることのないよう、中国の対日有害活動に対して、情報収集・分析に努めるとともに、違法行為に対しては厳正に対処していくこととしています。
中国の最新型戦闘機「殲(せん)10」(時事) 中国共産党第17回大会(時事)
中国の最新型戦闘機「殲(せん)10」(時事) 中国共産党第17回大会(時事)

3大量破壊兵器関連物資等の不正輸出

1国際的な取組み

 19年6月のハイリゲンダム・サミットでは、大量破壊兵器及びその運搬手段の拡散防止、並びに国際的なテロリズムとの闘いは、国際的な平和と安全にとって極めて重要であること、また、あらゆる不拡散の努力の基盤をなす多国間条約体制への各国の参加を再確認すること、さらに、拡散に対する安全保障構想(PSI)を含めた大量破壊兵器等の不法取引と闘うための効果的な措置の採用を強く求めることなどを内容とする声明が発表されました。
 PSIについては、横浜港等において同年10月13日から15日までの間に海上阻止訓練が実施されました。警察は、本訓練に積極的に参画し、神奈川県警察の職員が税関及び海上保安庁の職員とともに船舶に対する立入検査を行いました。また、神奈川県警察の職員及び警視庁のNBCテロ捜査隊員が、陸揚げされた大量破壊兵器関連物資に対する検知・特定の検査を行いました。

2自動二輪車等製造販売会社による中国向け無人航空機不正輸出事件の検挙

 17年4月、福岡県警察は、出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)違反事件(福岡県所在の風俗営業店において、興行の在留資格で入国した中国人女性らを専らホステスとして稼働させていた不法就労助長事件)の捜査において、関係者である中国人ブローカーの勤務先等に対する捜索を実施しました。
 押収した資料を精査した結果、静岡県内に所在する自動2輪車等製造販売会社製の無人ヘリコプターが、中国に輸出され軍事用途に用いられている嫌疑が認められたことから、同年11月、静岡及び福岡の両県警察で合同捜査本部を設置の上、全容解明に向けて捜査を実施しました。
 捜査の結果、同社の製造に係る無人航空機を、経済産業大臣の輸出の許可を得ることなく、中国人民解放軍と密接な関係を有すると推認される中国企業に不正輸出しようとした事実が判明しました。このため、19年2月、同社役員ほか2人を外為法違反(無許可輸出)で逮捕しました。同年3月、静岡地方検察庁は、同社を略式起訴(罰金100万円)し、被疑者3人については起訴猶予処分としました。
 これらの状況を踏まえ、警察は、国内外の諸情勢を的確に把握、分析するとともに、関係機関との活発な情報交換を通じた連携強化を図ることにより、大量破壊兵器関連物資等の不正輸出事案の取締りを積極的に推進していくこととしています。
自動2輪車等製造販売会社製の無人ヘリコプター(共同)
自動二輪車等製造販売会社製の無人ヘリコプター(共同)