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 近年、経済のグローバル化が貧富の差の拡大や環境破壊といった社会問題を発生させているなどとする反グローバリズムの考え方が広まり、サミットやAPEC(アジア太平洋経済協力会議)、WTO(世界貿易機関)の国際会議等において、大規模な抗議集会やデモ等を行う反グローバリズム運動が展開されています。
 反グローバリズム運動には、労働組合、農業団体、環境保護団体、人権団体といった様々な性格の団体が参加しているほか、反資本主義としての立場から、過激派や無政府主義者(アナキスト)も、左翼諸勢力の結集、組織の拡大等を目指して、反グローバリズム運動に積極的に取り組んでいます。
我が国においても、反グローバリズムを掲げる海外団体の関連組織が結成されるなど、運動の浸透がみられています。近年、国内の反グローバリズム運動に取り組む団体は、海外での抗議行動に参加したり、国内における抗議行動に海外の団体と協力して取り組んだりするなど、国際的な連携を強めています。
 反グローバリズム運動が展開される過程では、次の例のように、大規模暴動事案や警察部隊との衝突事案が発生しています。
◆ 平成11年11月、米国・シアトルにおけるWTO閣僚会議の開催時に、「人間の鎖」により会場が包囲されたため開会式が中止されたほか、約五万人が参加したデモの最中、参加者の一部が暴徒化して、商店の破壊や警察部隊に対する攻撃が繰り返され、緊急事態宣言が出される事態となりました。この暴動の発生により、反グローバリズム運動が注目されるようになりました。


ジェノバ・サミット開催時の繁華街におけるデモ隊による暴動 (平成13年7月、イタリア)(時事)

◆ 13年7月、イタリアにおけるジェノバ・サミットの開催時に、最大約20万人規模のデモが行われ、デモ隊と警察部隊との衝突でデモの参加者一人が死亡しました。
 この事態を受け、14年のカナダにおけるカナナスキス・サミットから、リトリート方式(注)が定着しました。
◆ 17年12月、香港におけるWTO閣僚会議の開催時に、会場付近の警戒線を突破して警察部隊と衝突するなどした韓国の農民団体のメンバーを中心とした約900人が、香港警察に、身柄を拘束されました。拘束された中には日本人5人が含まれていました。このようにアジアにおいても、反グローバリズム運動における過激な取組みがみられます。
 反グローバリズム運動に取り組む団体の中には、集会やデモ等で自らの主張をアピールし、政府等に働き掛けることを目的とする団体のほか、会議の妨害を目的として暴力的な破壊活動や道路封鎖等に及ぶ団体もあります。全身に黒装束をまとった「ブラック・ブロック」と呼ばれるグループは、デモ等の抗議行動に際し、多国籍企業の店舗の破壊、警察部隊に対する石や火炎瓶の投てき、車両への放火等の暴力行為を行うことで知られています。

(注) セキュリティ面とリゾート性を考慮して、大都市圏以外の観光地等で国際会議等を開催する方式。


WTO閣僚会議の開催阻止を求めるデモ隊によって破壊された喫茶店
(平成11年11月、米国)(時事)

ジェノバ・サミット開催時のデモ参加者
(平成13年7月、イタリア)(時事)

WTO閣僚会議開催時に機動隊と衝突するデモ参加者
(平成17年12月、香港)(時事)

 反グローバリズムを掲げる団体は、「サミットは、経済のグローバル化を推進する先進国の首脳が一堂に会する場である」などとして、サミットを抗議の対象としています。近年は、サミットの開催に合わせて、会場周辺や付近の大都市で数万人規模のデモ等を行い、その過程で、参加者の一部が暴徒化し、地元の商店街の破壊や警察部隊への攻撃といった過激な違法行為を行っています。
 19年6月、ドイツで開催されたハイリゲンダム・サミットの際にも、ドイツ国内外の反グローバリズムを掲げる団体により、集会やデモ等様々な抗議行動が行われ、我が国の団体もこれに参加しました。このうち、会場の近郊都市ロストックにおいて実施された約8万人規模のデモにおいては、全身を黒装束でまとった暴徒らが、警察部隊に対して石や火炎瓶の投てき、車両への放火等を行い、警察官400人以上が負傷しました。
 また、各国代表団の利用する空港やホテルからサミット会場等へ通じる道路・鉄道が、抗議行動の参加者による座込み等によって封鎖され、通行不能となる事態が発生しました。この道路や鉄道の封鎖活動により、我が国の代表団の一部は、陸路利用の予定を変更して海路で会場入りしたほか、ロシア代表団の使用する車両が、道路を封鎖した過激な活動家によって窓ガラスを割られ、車体に「NO G8」とペンキで書かれるという被害を受けるなど、各国代表団も大きな影響を受けました。
 このほか、環境保護団体「グリーンピース」は、ボートや気球を利用してサミット会場への接近を図りましたが、警察に阻止されました。同団体は、12年の九州・沖縄サミットに際しても、ボートを利用して立入禁止区域に侵入し、4人が逮捕される事案を引き起こしています。
 北海道洞爺湖サミットにおいても、国内外の各種団体が、デモ等の抗議行動に取り組むことが予想されますが、その過程で暴動等が発生することも懸念されることから、警察では、違法事案を防止するための諸対策を徹底することとしています。


ハイリゲンダム・サミット開催時に警察部隊に投石する黒装束集団
(平成19年6月、ドイツ)(時事)


ハイリゲンダム・サミットの会場に通じる道路を封鎖する デモ隊(平成19年6月、ドイツ)(時事)