運転免許証の更新制度の効果等に関する調査結果について

                平成12年5月  警察庁交通局

 

 運転免許証の更新制度に関し、規制緩和推進3か年計画を受けて、その効果等についての調査を行ってきたが、以下のとおり、更新の前後で交通事故が5.8%減少していること、更新申請者の3.5%が不適格とされ、又は更新に際して新たな条件が付加されていること、定期的な視力検査について専門家のほとんどが5年以下を適当としていること、これまで更新制度のなかった国においても更新制度が導入される例が目立っていること等が判明した。

 

第1 更新制度と調査の経緯

1 更新制度の概要

運転免許を受けている者は、3年(更新時に70才未満の優良運転者は5年)ごとに免許証の更新を受けなければならないこととされている。

 この制度は、

(1) 定期的に安全教育(更新時講習)を行うことにより、安全な運転に必要な知識を補い、運転者の安全意識を高める

(2) 定期的に視力等の適性検査を行い、運転に必要な適性を失った者を排除し、あるいは眼鏡等の使用を義務付ける条件を付加することにより、是正する

(3) 定期的に免許証の写真を新たなものにすることにより、免許証所持人と免許証名義人との同一性の識別を確保する(他人の免許証で運転することを防ぐ)

ことを目的とするものであり、併せて、

(4) 優良運転者の有効期間を延長し、その免許証に優良運転者であることを表示することにより、優良運転者の自覚を促すとともに、その他の者について優良運転者を目標に安全運転に導く

(5) 行政処分の執行を免れている者に対する執行を確保するという機能を有している。

 年間の更新者数は、免許保有者(平成10年末で7273万人)の27.5%の約2000万人、うち優良運転者は47.6%である。

(注1)優良運転者は、5年以上免許を保有し5年間無事故無違反であったもの。

2 調査の経緯

更新を受ける者の負担を軽減するため、昭和57年以降、免許証の即日交付、日曜日窓口の開設、警察署等の更新窓口の拡大、優良運転者等に対する講習の短時間化などを行ってきており、また、平成6年5月からは、優良運転者の有効期間を延長する制度が導入されている。

運転免許証の有効期間に関しては、平成10年3月の閣議決定(規制緩和推進3か年計画)において、「自動車運転免許証の有効期間の延長及び更新手続の一層の簡素化について、交通安全の確保に配慮しつつ、調査の結果を踏まえ平成12年5月末に方向を明確化する」こととされ、昨年3月の同計画(改定)においても、調査・検討では諸外国の制度には様々なものがあることを踏まえ一定年齢まで更新なしで有効とする制度についても行うことを付加したほか、本年3月の同計画(再改定)でも昨年と同じ内容が決定されている。

これを受けて、警察庁においては、更新者の更新前後の事故の状況、更新申請者の適性検査の状況、更新時における処分未執行者の発見の状況等について調査を行うとともに、諸外国の制度について調査を行った。また、全日本交通安全協会等において、更新時講習の評価、優良免許保有者の意識、視力専門家の意見などに関する調査が行われている。

 

第2 調査結果

  更新と事故の関係

(1)更新後の事故の減少と更新時講習の評価

平成8年7月から12月までに更新を行った者(約1000万人)を対象に、更新前及び更新後各2年間の事故の発生状況を調査したところ、更新者全体では、交通事故が5.8%減少していることが判明した。このうち、優良運転者以外の者(経験5年以下のものを除く)では、減少率は37.4%であった。

この事故の減少率は、平成10年の数値で死者294人の減少に相当する。また、交通事故による死亡、後遺障害等の人身損失を経済的に評価することは困難であるが、仮に総務庁の調査に基づいて平成5年の数値で推計すると、事故の減少の経済効果は1404億円で、更新時講習を受ける者の経済的負担の推計604億円(免許証自体の更新手数料を加えると1044億円)を上回っている。

なお、この調査による更新後2年間の事故率は、優良運転者が0.82%であるのに対し、非優良運転者(初回更新者を除く)は2.07%、初回更新者は2.08%であった。

また、更新時講習については、全日本交通安全協会が平成11年7月1日から15日までに更新をした者約1万人を対象として行ったアンケート調査で、90.5%が「役立った」と回答している。その理由としては、「最近改正された法令の内容を知ることができた」、「以前習っていたが忘れていた知識を思い出させてくれた」などが主なものとなっている。 

(注2)交通事故の経済的な損失の総額は、平成5年で約4.4兆円と推計されている。

(注3)経済的負担の推計は、更新時講習手数料と更新に要する時間(往復時間を含む)を金額に換算したものとの合計額。

(2)経年別事故発生状況の推移

平成12年4月10日から6月9日までの間に有効期間が満了する優良運転者(約160万人)を対象に、前回更新後の事故の発生状況を調査したところ、2年目まではほぼ同数で推移するものの、3年目から増加に転じ、4年目には初年に比べ4.6%増加していることが判明した。

2 適性検査の機能と視力の定期検査の必要性

  平成11年7月1日から15日までに免許証の更新を申請した約100万人について調べたところ、0.2%が適性検査により不適格とされ、3.3%が新たに条件を付加されていた。その合計率は、60才ころから急激に増加するが、最も率の低い年代(35~39歳)でも、2.1%であった。

 なお、同じ期間に更新をした者に対して全日本交通安全協会が実施した前記アンケート調査では、更新のために眼鏡やコンタクトレンズを新たに作り、又はより度の強いものに作り替えた者の割合は、12.1%であった。

  また、自動車安全運転センターが、自動車の安全な運転を確保する観点から適当と考えられる視力の定期検査の間隔について、医療専門家及び視力矯正専門家(計35名)に対して行ったアンケート調査では、7年以上を適当とするものは30歳代以下で1名だけにとどまり、他は5年以下を適当とする意見であった。

年代別に見ると、長い期間を選択した者が最も多い30歳代では、1年後3名、3年後9名、5年後20名、7年後0名、10年後1名(無回答2名)であり、65才~74歳では、1年後15名、3年後18名(無回答2名)とすべて3年以下であった。

3 その他の機能に関する調査結果

(1)優良免許についての意識

全日本交通安全協会の前記アンケート調査では、優良免許取得者の中で「優良免許になって嬉しい」と答えた者の割合は、81.6%であった。その理由としては、「有効期間が5年になる」が67.9%、「評価されて誇らしい」が45.7%、「各種メリットがある」が8.6%であった(複数回答)。優良運転者になっても期間が5年とはならない70歳以上の者においても、「優良免許になって嬉しい」と答えたものは80.1%にのぼっている。また、免許更新者中、「次回更新時に優良免許になるために、無事故・無違反に心掛けようと思う」と答えた者の割合は、87.3%であった。

日本自動車連盟が平成11年7月に約6000人の会員等に対して行ったアンケートでは、「優良免許で嬉しい」と答えた者の割合は66.5%、その理由として、「有効期間が5年になる」が83.1%、「評価されて誇らしい」が26.9%、「各種メリットがある」が9.1%であった(複数回答)。また、「次回更新時に優良免許になるために、無事故・無違反に心掛ける」と回答した者の割合は、78.5%であった。

(2)処分の執行確保 

平成11年7月1日から15日までの間に更新を申請した者のうち、更新を機会に行政処分(取消し及び停止)を受けたものは、616人であった。これから推計すると、更新を機会に行政処分を受ける者は年間約1万5000人であり、平成10年中の行政処分未執行件数の35.1%に当たる。

4 諸外国の制度

(1)各国の状況

各国の免許制度は様々であるが、我が国の普通免許で運転することの可能な車両は総重量8トン未満であることから、それと同様の車両を運転することのできる免許(高齢者を対象とするものを除く)について比較すると、以下のとおりである。

なお、*は3.5トン以下について更新がない国、△は3.5トン以下について10年の国である。また、州によって異なる国については、最も多くの州の制度を記載するほか、一部(複数)の州の制度を( )で表示した。

更新なし:オーストリア、デンマーク、フィンランド、スイス

10年 :オランダ、ニュージーランド、スウェーデン

イギリス、ノルウェー*、(オーストラリア)

6年  :(アメリカ)

5年  :オーストラリア、カナダ、イタリア△、スペイン△

ベルギー*、フランス*、ドイツ*(後記参照)

日本(優良)、(アメリカ)

4年  :アメリカ、(カナダ)

3年  :日本(優良を除く)、(カナダ)

1年  :(カナダ)

また、更新のない8か国(一定年齢、一定重量まで更新のないものを含む)における免許証所持者と免許証名義人の同一性の確認をする手段について調査したところ、3か国を除き、有効期間が10年の写真付きの公的身分証明書があり、それによって本人の同一性を確認していることが分かった。

(注4)平成10年に規制緩和委員会が行った「論点公開」で列記した国を記載。

(注5)同一免許について長期と短期のある場合は、日本を除き、長期を記載。

(2)近年の制度改正

イギリス及びニュージーランドでは、それまで免許証の写真がなく、一定年齢まで有効としていた制度を改め、写真付きの免許証にし、有効期間を10年とした(イギリスは98年7月、ニュージーランドは99年5月から施行)。その主たる理由は、免許証保持者と免許証の名義人の同一性の確認ができるようにし、他人の免許証の使用(無免許運転等)を防ぐことにある(両国とも公的身分証明書制度はない)。ニュージーランドの場合は、そのほかに、視力の定期検査をすることが交通安全上必要であることも理由となっている。

ドイツでは、これまで職業免許を除いて更新はなく、また普通(3級)免許で7.5トンまで運転可能であったが、99年1月から、普通(B級)の上限を3.5トンとし、それ以上については、5年の有効期間(ただし、3.5トンから7.5トンまでは、50歳以上に限定)を設け、定期的に再検査を受けなければならないこととした。

このほか、フランスでは、97年11月省庁間道路交通安全委員会で新交通安全対策を策定したが、交通安全教育の生涯化として、免許取得後10年ごとの研修制度を試験的に実施し、効果によってその義務化についても検討することとしている。