被害者対策要綱



第1  総則

1  要綱の目的
 この要綱は、警察が、被害者の置かれている現状を踏まえ、被害者の視点に立った各種の施策を総合的に推進するに当たっての当面の基本的指針を定めることを目的とする。
2  定義

 (1) 被害者

 この要綱において被害者とは、犯罪(刑事事件として立件されていない犯罪及び犯罪に類する行為を含む。以下同じ。)による被害を受けた者及びその遺族をいう。
 (2) 警察の被害者対策
 警察の被害者対策とは、警察の活動のうち、被害者の視点に立ち、被害者のニーズに対応する形で行われる被害者をめぐる活動をいう。
3  被害者対策の基本的考え方
 警察が被害者対策を推進するに当たっての基本的考え方は、次のとおりである。
 (1) 警察の設置目的の達成
 警察は、「個人の権利と自由を保護」することを目的に設置された機関である。したがって、犯罪によって個人の利益が侵害されることを防ぐとともに、侵害された状況を改善していくことは、自らの設置目的を達成するために当然に行うべき事柄である。被害者対策は、警察の本来の業務であり、警察は被害者を保護する立場にある。
 (2) 捜査活動への被害者の協力確保
 被害者の申告、供述等の協力を確保することは、事件の端緒の把握及び立証の上で不可欠なものであり、警察の捜査活動を進める上でなくてはならないものである。被害者の利益を守る活動を行い、捜査過程における被害者の第二次的被害(警察の捜査活動等によって、被害者に更なる精神的被害等の負担をかけることをいう。以下同じ。)を軽減することは、警察の捜査への被害者の協力を確保する上で、極めて重要な事柄である。
 (3) 捜査過程における被害者の人権の尊重
 犯罪捜査における個人の基本的人権の尊重については、被疑者の人権のみならず、被害者の人権に対する配意も当然に含むものである。警察は、被害者に敬意と同情をもって接し、被害者の尊厳を傷つけることのないよう留意することが求められている。
4  被害者対策推進上の基本的留意事項

 (1) 被害者のニーズへの対応

 被害者対策は、被害者の立場に立ち、被害者のニーズに合理的に対応する形で行い、被害者が何を望んでいるか、被害者に何が必要かを常に念頭に置いて推進する。
 (2) 総合的な施策の推進
 警察と被害者とのかかわりが広範なものであることに留意し、従来の施策の被害者の視点に立った見直しと新たな施策の推進とを、組織全体において総合的に推進する。
 (3) 重点的な施策の推進
 被害者対策の推進においては、犯罪による直接的被害とその後の第二次的被害の両面において大きな問題を抱えている身体犯の被害者、特に女性の性犯罪被害者並びに殺人及び傷害致死に係る遺族の抱える問題への対応に重点を置く。また、少年である被害者(以下「被害少年」という。)についても、その後の健全育成の観点から、被害者対策上の重要な対象とする。
 (4) 他機関、民間団体等との連携
 被害者のニーズは生活上の支援を始め極めて多岐にわたっており、警察においてそのすべてに対応することはできないことから、他機関、民間団体等との連携を進め、実効性のある対策の推進に努める。
 (5) 各都道府県警察における独自施策の推進
「第2 個別分野施策の推進」に掲げる施策は、全都道府県警察において当面推進し、又は将来的に実施を図るものであるが、各都道府県警察においては、これらのほか、それぞれの実情に応じた独自の被害者対策の推進を図る。



第2  個別分野施策の推進

 被害者が置かれている現下の状況に対処するため、次の諸施策を推進する。

1  被害者の救援
 

 (1) 被害者への情報の提供

 
ア 「被害者の手引」の作成配布
 被害者が必要とする情報を早期かつ包括的に教示し、あわせて捜査活動についての協力を依頼するため、当面、必要性の高い身体犯について、被害者への慰めの言葉、刑事手続の概要、被害者に役立つ関係機関・団体の連絡先等について記載したパンフレットを作成し、被害者に配布する。
 手引の内容については、警察庁において、モデルを作成し、別途通達する。
 被害者に役立つ関係機関・団体については、被害者の支援を目的とする民間団体のほか、各都道府県内における行政機関(福祉関係機関等)及び各種団体等(医療関係機関、弁護士会等を含む。)のうち、被害者に意味のあるサービスを提供し得るものをできる限り幅広く調査してパンフレットに記載するとともに、それらの機関、団体等との連携を図る措置を講じる。
イ  被害者連絡担当係の設置
 被害者に対する事件に関する情報の適切な連絡と被害者からの照会に対する確実な対応を確保するため、刑事庶務に関する業務を行っている者を被害者連絡担当係に指名し、事件担当捜査員による身体犯の被害者との連絡状況の把握、指導を行わせるとともに、被害者からの各種の照会に応じる窓口としての業務を行わせる。被害者連絡担当係の業務の指導は、本部の刑事総務担当課(指導係)において行う。
 なお、警察庁において、担当捜査員の事務の内容、教養等の実施についての要領等を策定し、別途示す。
ウ  被害者への訪問・連絡活動の推進
 地域部門による被害者への積極的な訪問等により、捜査状況、被害回復、被害拡大防止等に関する情報の提供及び被害者からの相談の受理を行い、もって被害者の当該事件の処理状況等を知りたいとするニーズにこたえるとともに、被害者が再び被害に遭うことを予防し、及びその不安感の解消に努める。地域部門によるこの活動のため、捜査部門等関係部門は、地域部門に対し被害者情報の提供等を行う。この活動の推進に当たっては、訪問活動が被害者の体面等を傷つけ、あるいは精神的な負担となることのないよう、事案の態様に応じた配慮を行う。
 なお、従来各都道府県警察において独自に行われていた被害者への訪問活動等の施策については、警察庁においてその効果について検証し、システム化を図る。
エ  ひき逃げ事件被害者に対する捜査状況の連絡のマニュアル化
 交通事故の中でも捜査状況に対して関心の高いひき逃げ事件につき、被害者に対する捜査状況連絡制度を設ける。実施方法については、警察庁において別途通達する。
 (2) 被害者の精神的被害の回復への支援

 
ア  被害者カウンセリング等連絡体制等の整備
 被害者が抱えている様々な問題の中でも、特に深刻な問題である精神的な被害に対応するため、被害者の支援を目的とする民間ボランティア団体等との連携、協力関係の確保を図り、カウンセリング等被害者の精神的被害の回復・軽減に向けた活動を行う機関、団体に関する情報を被害者に積極的に提供する。民間ボランティア団体等との連絡窓口については、各都道府県の実情及び当該団体等の支援等の内容に応じ適切と認められる部門に設置することとするが、当該部門以外の他部門においてもこれらの団体への積極的な協力を図る。
 あわせて、当面は、条件が整った都道府県警察において、警察本部等に被害者のカウンセリングを行う専門家を配置・育成する。
イ  被害少年への支援体制の確立
 被害少年の保護に関することを少年警察部門の事務として明確に位置付けた上で、犯罪の被害が少年に与える影響の緩和等を図るため、少年相談専門職員、婦人補導員等による継続的なカウンセリングの実施等によるフォローアップを行う。このため、婦人補導員等被害少年のフォローアップを担当する要員の充実と教養の強化を図る。
 なお、警察庁においては、少年課の所掌事務として、「犯罪その他少年の健全育成を阻害する行為による被害を受けた少年の保護に関すること」を明記し、少年警察活動要綱における少年被害者の保護に関する規定の整備、被害少年の実態等に関する調査を行うほか、被害少年の支援対策についての実施要領の策定等を行う。
 (3) 被害の補償・被害品の回復

 
ア  被害回復センターの設置
 被害品の発見を促進し、被害者の被害回復を図るため、盗品等に関する情報を、被害品の発見及び盗品等の流通の防止を行う民間団体に提供する。当面、民間団体と調整の上、自動二輪車及び原動機付自転車について実施することを目指す。
 なお、警察庁において、関係団体との調整を行った上で、国家公安委員会規則の制定等を行う。
イ  速やかな還付手続等の徹底
 犯罪捜査、地域警察活動等において、被害品の発見等に至った場合は、早期の還付(又は仮還付)手続による速やかな被害回復に努める。このため、証拠品の適正な保管・管理を行う。
ウ  犯罪被害者等給付金支給法の適切な運用
 犯罪被害者等給付金支給法の運用に関し、被害者のニーズを踏まえ、支給事務の迅速化、適正化を図る。
エ  暴力団被害者に対する援助措置等の充実
 暴力団員による暴力的要求行為の相手方に対する財産的被害の回復のための援助について、被害回復アドバイザーを活用しつつ、充実を図る。また、暴力団員による不当な行為の被害者への都道府県暴力追放運動推進センターによる民事訴訟の支援等の救援に対し、積極的な協力を行う。
2  捜査過程における被害者の第二次的被害の防止・軽減

 
ア  告訴・告発、被害届等の適切な受理
 告訴・告発、被害届等の受理については、従来行われてきた施策を適切に運用し、被害者の立場に立った対応に努める。なお、犯罪としての立件措置の可否の問題とは別に、当該事案に関し、捜査担当以外の部門や他の機関での対応が適切なものについては、紹介等の措置を行う。
イ  犯罪捜査における被害者への対応の組織的改善
 警察の犯罪捜査における被害者ヘの対応を組織的に適切に行うため、被害者への対応に関し、基本となるべき事項を明らかにした上で、捜査員等への教養を行う。あわせて、被害者への適切な対応を適正捜査の要素として位置付け、捜査指導部門において継続的に推進する。
 なお、警察庁においては、犯罪捜査規範及び少年警察活動要綱を改正し、被害者への対応、プライバシー保護に関する基本的事項を取り入れる。また、捜査官、地域警察官用の被害者対応マニュアルの整備を推進する。
ウ  性犯罪捜査における婦人警察官による事情聴取の拡大等
 強姦等の性犯罪の被害者が警察の事情聴取により受ける精神的被害を緩和する上で、被害者が希望する場合には同性による事情聴取が行われることが望ましいことから、同性による事情聴取を拡大するものとする。このため、捜査能力を有する婦人警察官を育成するとともに、各都道府県の実情に応じ、婦人警察官による事情聴取を行うことができるような配置・運用に努める。また、男子警察官が被害者の事情聴取を行う場合に、婦人警察官を事情聴取の際の補助者や、被害者との連絡業務担当者として活用することも、併せて推進する。
エ  性犯罪捜査指導官の設置
 性犯罪の被害者からの事情聴取を適切に行うことにより、被害の潜在化の防止と被害者の精神的負担の軽減を図るなど、性犯罪捜査を適正かつ強力に推進するため、各都道府県警察本部の捜査第一課に、各警察署での性犯罪捜査の指導等を担当する性犯罪捜査指導官(当面兼務も可)を設置する。
オ  犯罪被害者への旅費の支給
 被害者を参考人旅費の支給の対象としていない都道府県警察にあっては、これを支給の対象に含めるものとし、極めて遠距離にある被害者を呼び出す等、被害者に著しく大きな経済的負担を伴うような場合については、旅費の支給ができるよう努める。
3  被害者等の安全の確保

 
ア  暴力団の被害者等の安全の確保
 暴力団からの被害を受けた者又は参考人等の安全を確保するため、緊急通報装置等必要な装備資機材の整備を更に積極的に推進するほか、保護対策の一層の充実を図る。なお、暴力団の被害者以外の被害者や参考人についても、脅迫や嫌がらせ等を受けるおそれがあると認められる場合には、これに準じ適切な措置を講ずるとともに、被害者等がその不安を訴えた場合には適切にこれに対応するものとする。
 また、暴力団員による不当な行為等に関し、被害者からの相談に的確に対応するとともに、都道府県暴力追放運動推進センターによる相談業務の円滑な運営に積極的に協力する。
イ  女性警察職員による被害相談体制の整備
 女性の被害であって警察に容易に相談しにくいものについて、警察への相談をしやすくすることにより、被害者の安全の確保、被害防止を図る。このため、各都道府県の実情に応じ、婦人警察官、婦人補導員等女性警察職員による相談所、相談電話の設置等、被害相談体制の整備に努める。
ウ  家出・行方不明者対策の強化
 家出・行方不明者のうち、犯罪被害等に遭うおそれの強い者の早期発見・保護、被害予防のため、「いのちの電話」等の民間相談機関との連携を図る等対策を強化する。
エ  生活安全情報の提供、相談の強化
 犯罪の被害者等が自ら犯罪の予防、拡大防止、被害回復の手段等を講じていくことができるようにするため、警察総合相談等を通じた相談の受理、必要な情報の提供等をさらに推進し、充実を図る。また、相談業務においては、声かけ事案等犯罪に至らない事案に関するものなどについても、地域住民の要望に応じた情報を積極的に提供していく。
4  被害者対策推進体制等の整備

 
ア  被害者対策推進体制の整備
 警察庁においては、被害者対策を総合的かつ継続的に推進するため、長官官房給与厚生課に、被害者対策の企画・調査・総合調整機能を持つ犯罪被害者対策室(仮称)を設置する。部外の被害者関係団体等との対応も同室で行う。併せて、警察庁に被害者対策推進委員会を設置し、各施策の実施・推進状況を把握して、必要な調整を行うこととする。
 都道府県警察においても、被害者対策に関し、各部門が実施する施策の総合調整を行い、かつ、部外の被害者関係団体等との対応窓口として活動する任務を持つ部門(被害者担当部門)を定め、各都道府県の実情に応じ、そのために必要な体制等を整備するものとし、被害者対策の全庁的な取組みの方針、施策を決定し推進するための委員会の設置等を行う。被害者担当部門においては、被害者対策の総合的な運営に関して、警察庁の犯罪被害者対策室(仮称)と緊密な連携をとるとともに、部外の被害者支援団体等の被害者対策にかかわる関係団体、機関との対応と、それら団体等の活動状況の把握に努める。
イ  被害者との対応に関する基本原則の組織全体への徹底と教養の実施
 被害者と接する第一線警察官に対し、被害者対策についての教養を行う。
 なお、警察庁においては、組織全体について「被害者の安全を守るとともに、警察官が被害者に敬意と同情をもって接し、被害者の尊厳を傷つけない」という警察の被害者との対応に関する基本原則を徹底するための措置を講じるとともに、あわせて警察官に対する被害者問題に係る教養の方法についての研究、教養の実施に必要なカリキュラム、資料等の整備を推進する。
ウ  犯罪被害救援基金等との連携の強化
 財団法人犯罪被害救援基金の活動について、奨学金支給対象者の選定に係る協力要請への対応を引き続き行うとともに、同基金の調査活動、被害者支援活動等に積極的に協力する。また、同基金の支援を受ける民間団体等の活動についても、協力を求められた場合には、これに応じるものとする。

資料編INDEX 犯罪捜査規範 国連宣言
被害者支援への理解を深めるためにひとりで悩まないで~被害に遭われた方へ
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