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第4章 支援等のための体制整備への取組

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1 相談及び情報の提供等(基本法第11条関係)

コラム15 性犯罪被害の実態と被害者への支援

~ 平成28年度犯罪被害者週間 中央イベント基調講演より ~

武蔵野大学人間科学部長・心理臨床センター長 小西 聖子 氏
武蔵野大学人間科学部長・心理臨床センター長 小西 聖子 氏

本日の講演では、4つのテーマに沿ってお話しします。

【1 性犯罪被害の実情】

性犯罪はどれくらい警察に届けられ、あるいは、性暴力はどれくらいの人が経験しているのでしょうか。性犯罪という言葉と性暴力という言葉を使いましたけれども、性暴力の方がより広い概念で、性犯罪は刑法上の犯罪に当たる性的な行為と思ってください。

平成27年版の犯罪白書によると、強姦の認知件数は、年間大体1,000件から1,500件の間ぐらいで推移しています。しかし、実は性暴力の被害ということで調査してみますと、それとはかなり違う実情が浮かび上がります。

内閣府男女共同参画局の調査では、成人女性の約15人に1人は、これまでに異性から無理やりに性交された経験があり、被害を受けた女性の約7割の人はどこにも相談しておらず、警察に連絡・相談した人は数%ぐらいとなっています。

また、日本において、性犯罪がどれくらい警察に通報されているかということを調べた調査を見ますと、極めて乱暴に言えば、大体10人に1人ぐらいしか届けていないというのが今の実情だと言えます。

【2 性犯罪被害が心身に与える影響】

性暴力被害は、被害者の心身に長期にわたり深刻な影響を与えます。

WHOが24年に出している報告書は、性暴力被害の影響を4つに分けて記載しています。

一つは「性と生殖に関する健康」の問題です。意図しない妊娠やエイズを含む性感染症等がここに入ります。うつ病やPTSD等の「精神健康」の問題もあります。性暴力被害者の特徴としてPTSDとの関連が高いことが挙げられます。なお、レイプ被害を受けた男性のPTSD発症率は、女性より高いというデータが国際的には複数あります。性暴力のことを考えるなら、女性だけでなく男性のことも考えなければいけません。

「行動上の影響」としては、無防備な性行為や若年期からの過剰な性行動等、リスクの高い行動が出てきます。特に若年者の場合、被害を受けたことが、性的に危険な行動につながりやすいことが知られています。

さらに、「生命に関わる転帰」としては、自殺とか危険な妊娠中絶、レイプによって生まれた子供の殺害等、実際に命に関わるような問題も起きています。

【3 性犯罪被害者に対して必要な支援】

性犯罪被害者に対して必要な支援とは何でしょうか。

警察とか弁護士等の司法に関わる支援、産婦人科や精神科等の医療の支援、さらに、心理的な支援も必要です。

それから、経済的な支援は重要です。お金がないと様々な困難が起きます。さらに、例えば、自分の家で被害に遭った人がそこで生活できないなど、生活を保つための実践的な支援も必要になってきます。

どれも欠けてはならず、一言でいえば多様な支援が必要です。

性暴力や性犯罪の被害者支援は、ここ数年でかなり進んできましたが、私は、もう一歩という印象を持っています。理由の一つに、性暴力をめぐる悪循環があると思っています。

性暴力被害の心身への影響が深刻であることについて、被害者の家族を始め周りの人や、被害者本人ですら理解していません。例えば、「もうちょっと抵抗できなかったの」というようなことが今でも言われます。被害者の行動や心身の状況が理解されていないので、偏見や誤解に基づいた被害者への対処が起こる。そして、いろいろな人から二次被害を受けることになる。そうなると、被害者は誰にも被害について話さなくなるので、性暴力被害の心身への影響が深刻であることが理解されないということになります。

このような状況がぐるぐる回っているのではないかと思います。

支援のポイントの一つは二次被害の防止です。性暴力被害に関する偏見をなくしていくこと、当事者の決定を尊重すること、それから、トラウマ反応について知っておくことが必要です。もう一つの大事なポイントは孤立を防ぐことです。被害者と一緒に考えてくれる人、支えてくれる人がいるだけで、人は全然違います。そして、ようやくつながった被害者の信頼を裏切らないということも大事なことだと思います。

【4 身近な人が性犯罪被害を受けたら…】

身近な人が性犯罪の被害を受けたらどうしたらいいのでしょうか。

「安全」は一番最初に考えるべきことです。言い換えると、まず危険への対処が必要です。まだ被害の危険があるかもしれませんし、何か身体的な怪我があるかもしれません。警察へ連絡する場合は、なるべく早い方がいいです。性感染症や妊娠への対処、証拠採取で救急や産婦人科の受診が必要になる場合もあります。

その次は、被害者のその後の日常生活がどうなるか考えることです。日常生活がどうなるかということを本人が考えるのは難しいことが多く、誰かが一緒に考える必要があります。

それから、どこに相談に行けばいいのか分からないという被害者もいますが、そういう意味ではどこでもいいです。どこかにつながることが重要です。そこからまた紹介してもらうこともできます。少なくともどこでもいいという言い方ができるように、支援をする側はならないといけないと思います。

被害者の心理的には、そばに誰かがいて、自分のために考えてくれるというのが一番のサポートだと思います。そういう形で誰かが支えてくれるというのが、最初の一歩であり、最後の一歩であるというのが、支援の本質です。

※本コラムは、基調講演を概要として取りまとめたもの。基調講演の全文及び資料については、警察庁ウェブサイト「犯罪被害者等施策」(http://www.npa.go.jp/hanzaihigai/kou-kei/houkoku_h28/chuou_gaiyou.html)を参照。

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